一部 −四章[白と黒の騎士王ーー“黒“と”量子“】 四章-プロローグ
今年、初の更新です。
楽しみにして頂いている方は少ないとは思いますが、お待たせ致しました。
拙い文でも楽しんで頂けたら幸いです。
翌日0時から、1話ずつを6日分投稿します。
ーー英国のとあるバー・夜
店内は広く三階建、個室も多くあり、ムーディの雰囲気を醸し出すバー。
しかしそこは、バーと言う名称が持つ一般的な静かなイメージと違い、大衆酒場の様な騒音を放っていた。
屈強な男、露出の多い服を纏う妖艶な女、如何にもインテリといった雰囲気の優男、手に入れた最新装備を声高に自慢する中年の男等、多種多様な者達が酒や食事を楽しみ、会話を弾ませていた。
ここに集う者達に共通するのは、全員が武装している事だ。
それもそのはず、ここは傭兵や賞金稼ぎ等の“裏”ーー“本当”の世界に通じる者達が集まる、ギルドと呼ばれる場所だ。
ギルドでは世界各地から依頼が集まり、その内容は護衛・討伐・新兵器テスト等の多岐に渡る。
数多くの名うての傭兵と繋がりが持てるギルドを、企業や軍の関係者も非公式に利用しており、一応そうとは悟られぬ様にカモフラージュして訪れている。
事実、個室や店の隅のボックス席では企業や軍関係者が、依頼の打ち合わせを行なっていた。
「・・・・」
そしてとあるボックス席には、ただならぬ気配を放つ者がいた。
外套を纏い、目深に被ったフードで素顔を隠すその人物は、分かる者であれば一眼でその強さを察する事が出来る程の強者の余裕を纏っていた。
外套で身を覆っている為、ぱっと見では性別のを見分けるのは難しい。
だがよく見れば、隠し切れぬ程に胸部が膨らんでいたり、フードから時折り垣間見える美貌と美しい金髪によって、その人物は女性である事がすぐに分かった。
その為、チャラついた軟派な者や調子に乗った愚か者が、眼ざとく彼女が美女であると分かった途端に口説いて来るのだ。
そして今日もまた、彼女に近づく愚か者達がいた。
「よお、姉ちゃん!」
如何にも軟派そうな軽装のタクティカルベストを着た青年2人組の内の1人の呼び掛けに対し、彼女は無視を決め込み少々の殺気も当てるがーー
「おいおい、聞こえてんだろ?見たところ1人みたいだし?俺らと飲まねぇかって聞いてんだよ」
「そうそう、奢るからさ。おい、バーテン。酒を三つ頼む!」
鈍感なのか、全く気にする様子も無かった。
「申し訳ありませんが、そちら様への干渉はご遠慮下さい」
ギルド職員は彼女の事を知っている為、近くにいた制服姿の警備員が丁寧に注意する。
「ああ?警備員はお呼びじゃねえんだよ!酒持って来い、酒を!ったく、空気読めよ!」
「いえ、ですから・・・」
「ああ、分かった!俺らがこのミステリアス美女を落とせるのが、羨ましいんだな?ま、警備員如きじゃ無理だもんなぁ!」
「・・・・」
馬鹿にした様な調子に、警備員の男の口角がひくつく。
「ハハハハハハハハハ‼︎分かったらとっとと消えな。さて、姉ちゃんよ。そんな暑苦しいもん着てねぇで、面を拝ませろよ」
そう言って軟派な青年が、馴れ馴れしくフードに手を伸ばした瞬間ーー
「かは・・・ぁ⁉︎」
右手で首を鷲掴みにされ、持ち上げられていた。
彼等を注意した警備員も、遠巻きに様子を窺っていた多数の従業員達も、「やったなアイツ」といった様子で呆れていた。
誰も反応出来ない速さで彼女は動いた為、遅れてフードがハラリと脱げてしまった。
その瞬間に顕になったのは、流れる様な美しい癖っ毛の長い金髪と、不機嫌に歪められていながらも誰もが見惚れる勝ち気な雰囲気を醸し出す美貌。
切れ長の眼は絡んできた相手に対しての鬱陶しさで彩られ、締め上げた相手に殺気を向けていた。
「鬱陶しいんだよ・・・この軟派野郎どもが・・・!」
「か・・・はっ・・・⁉︎」
軟派な青年の顔色が、青くなっていく。
「く、クソアマ!その手を離しやがーー」
ーードス‼︎
打撃音が聞こえると共に連れを助けようと動いたもう1人が吹き飛び、10メートル離れた店の壁に叩きつけられる。
「ぐっ・・・は・・・!」
横薙ぎに蹴りをくらい吹っ飛ばされたもう1人は、地面にへたり込む。
金髪の彼女に絡んだ2人組は傭兵であり、ランクはBといういわゆる中堅クラスだ。
一応それなりに場数を踏んだ者達ではあるが、他者を見下したり女性にちょっかいかけるなど評判は良くは無く、実力も中堅の域を出ないものだった。
「く・・・離・・・せ・・・この・・・!」
金髪の彼女に首を締め上げられた青年が、苦しげにもがく。
もはや意識を失う寸前だった。
「くそが・・・こっちが紳士的に誘ってやってるのに、調子に乗りやがって・・・。このクソアマがぁ‼︎」
壁に叩きつけられた青年が、魔力で刃を形成する武器ーー懐から光刃を取り出し刃を出力し、中段に構える。
あれの何処が紳士的だと見ている者達はツッコミたかったが、流石に止めなければと動き出す。
「分からせてから、テメェの身ぐるみ剥いでやるよ‼︎」
青年が光刃を振りかぶりながら、突撃する。
「チ・・・ッ」
ーーバチチ・・・
金髪の彼女は面倒くさそうに眼を細め、空いている左手に“黒雷”を迸らせる。
黒い雷が、向かってくる青年に放たれる前にギルド警備員達が青年を取り押さえた。
取り押さえた警備員の1人が素早く武器を取り上げ、遠くに投げ捨てる。
「離せ、この雑魚ども‼︎ぶっ殺されてぇのか‼︎」
暴れる青年を押さえる傍ら、警備員の1人が金髪の彼女に近づき頭を下げる。
「申し訳ありません、“レベリア”様。どうもこの者達は、貴女様が何者か知らずに声をかけた様です。今後、貴女様の御手を煩わせぬ様に周知徹底をしておきます。ですので、雷を治めていただけないでしょうか?」
警備員は丁寧かつ敬意を込めてお願いしているが、内心冷や汗ものだった。
何故なら彼女の手に迸る黒い雷は小さいものではあるがその実、恐ろしい程の魔力を内包しており、放たれれば数キロ圏内は軽く消し飛ぶのではないかと予感させるものだった。
「撃つつもりは無かったから、心配すんな」
そう言って金髪の彼女ーーレベリアは、締め上げていた青年を無造作に放り投げた。
「・・・ッハァ、ハァ・・・ゲホ、ゲホッ!」
必死に息を整える青年は、すぐさま警備員達が取り押さえた。
「ふ、ふざけんな・・・!こっちが殺されかけたつうのに、なんで捕まらなきゃなんねぇんだ・・・‼︎」
「黙れ。警告も聞かずにその方に絡むからだ。だいたい、貴様も傭兵の端くれであるなら“最上位ランク”に連なる顔は覚えておけ」
「最上位ランクだぁ⁉︎」
青年は警備員の言葉に驚愕しながら、レベリアをみる。
「この方は傭兵ランク“EX”。レベリア殿だ」
「い、EXだとっ⁉︎」
傭兵ランクEXーー現在登録されている全傭兵の中で、10人しか到達していない最高位の称号。
EXランクの傭兵は任務達成率・戦闘能力の両面でずば抜けており、その中でも”傭兵王“ジーナ・ファシネイトを含む四大傭兵達は、更に頭一つ抜けた強者達である。
また“EX”の傭兵は人格者である事も重視される為、このランクに認定される者は少なく、それ故に正真正銘の本物の強者や英雄の証なのだ。
「別にランクなんかどうでもいい。つーか、ランクでビビんなら絡んでくんな」
レベリアは絡んできた軟派2人組の、今更ながらの畏怖の眼差しに鬱陶しそうに手をひらひらさせた。
「・・・・・・次は殺すからな」
「「・・・ッ‼︎」」
ギルド内の全員がゾッとする程の殺気とと共に2人組に警告し、レベリアは席に戻った。
とそこへーー
「やれやれ・・・またですか、レベリア?」
人を落ち着かせる様な穏やかな声が、レベリアにかけられた。
「あ?ったく・・・遅せぇよ、ーー“ベティ”」
レベリアが声の方に不機嫌そうに視線を向けると、灰色の長い髪の後ろ髪を一つにまとめたパンツスーツとジャケット姿のスレンダーな美女がこちらに向かって来ていた。
ベティと呼ばれた女性の優雅で余裕さを感じさせるその歩き姿に、ギルド内の誰もが見惚れていた。
「お、おい・・・!あの方は・・・‼︎」
「あ、ああ・・・EXランクの・・・‼︎」
「何でこんな所に・・・?」
「馬鹿野郎、知らないのか?あのお二人は組んでるんだよ」
レベリアに絡んでいた軟派2人組が連行されていくのを横目で見ながら、ベティは彼女の対面に座って息を吐く。
「どうぞ。いつものです」
ベティが座った瞬間に待機していたボーイが、彼女がいつも頼むドリンクをさっと置いた。
「ありがとうございます」
「い、いえ・・・!」
本人は自覚がないが、魅惑的な笑みでベティがボーイにお礼を言うと、彼は赤くなりつつ去っていった。
「ったく、相変わらずのたらしっぷりだな」
「ハハ・・・普通にしているのですが・・・」
困った表情でそう答えるベティは、出る所は出ているスタイルをジャケットとパンツスーツでビシッときめ、キャリアウーマンといった雰囲気を醸し出しているいかにも出来る女といった感じだった。
本当に分からないといった様子で笑うベティに呆れながら、レベリアは本題を聞く。
「・・・まあいい。それより、情報は?」
ベティは表情を引き締め、懐から記録端末を差し出しながら答える。
「ええ、裏付けが取れました」
レベリアは端末を起動し、投影された立体映像に碧眼を走らせる。
寂れた教会の様な廃墟とその周囲を、武装した集団が防備を固めている様子が映し出された。
「こんな所にあったとはな・・・」
「敵の数は25。内、多脚型戦闘ドローンが5。アサルトライフル装備が18。残り2人は、ミニガン装備とグレネード・ランチャー装備の重装歩兵。所属は不明」
ベティが敵戦力の概要をレベリアに伝えると、彼女は呆れる様に息を吐く。
「所属不明・・・ね。どうせレメゲトン(奴等)だろうに」
そう言うとレベリアは、ドリンクの残りを飲み干す。
「ええ、十中八九そうでしょうね。この多脚型は先の大会襲撃時、奴等が実戦投入した【アラクネ】に酷似しています。恐らくダウンサイジングした安価な量産型でしょう」
レベリアはコップを静かに置き、立ち上がる。
「まあ、どれだけいようが関係ない。斬り伏せるだけだ。いくぞ、ベティ」
「了解です」
レベリアに続いてベティも立ち上がり、2人はギルドの出口に向かう。
ギルドから出る直前、レベリアは自分の携帯端末から受け付けの端末にデータを送った。
「迷惑料だ。ギルド長によろしく言っておいてくれ」
受け付けの女性は、端末の画面を見て驚愕した。
「こ、こんな大金受け取れませんよ!むしろレベリア様が絡まれたのに・・・」
「気にすんな、いつもよくしてくれてる礼だ。じゃ、また来る」
そう言ってレベリアは軽く手を振りながら、ベティと共にギルドを後にした。
ちなみレベリアが迷惑料として支払った金額は、1000万だった。
レベリアとベティはフードを目深に被り、人の波を縫うように進んでいく。
空はすっかり暗くなり、星が瞬く。
街は現在行われている祭りの装飾とイルミネーションで彩られ、そこら中に騎士の仮装をした人々が出店を楽しんでいた。
レベリアとベティは人混みを避けるように裏路地に入り、フードを取った。
「・・・チッ」
先程から不機嫌なレベリアは、ため息混じりに舌打ちした。
ベティはやれやれといった感じながらも、どこか子供を見守る様な穏やかな眼差しでレベリアを見つめる。
「やはり・・・気に入りませんか?レベリア」
2人は目的地に向かいながら会話する。
「当たり前だろ・・・毎年この日が来るたびに思い出す。あの日を、あの光景を・・・お前だってそうだろ?」
「・・・・・・そうですね。この日はどうしても憂鬱になります・・・。何故”斬らなかったのか、何故”同僚達を楽にしてあげられなかったのか“・・・。そんな後悔ばかりが押し寄せますよ・・・」
苦虫を噛み潰したような表情でそう言うレベリアに、ベティも沈痛の面持ちで答えた。
2人は、同じ光景を思い出していた。
小高い丘を包囲する様に埋め尽くし、正気ではない様にフラつきながら進軍する無数の騎士達。
遥かに遠くに望む巨城の玉座から、嘲る様な高笑いを響かせるーー“裏切り者”。
迫り来る騎士達を前に葛藤するーーレベリアとベティを含めた“6人の女性”。
そして更に過去ーー民の歓声が響く中、建国を宣言する“双子の王”。
そして現在ーー今宵は“騎士王祭”。
かつて国を襲った災厄を退けし王と、かの王が治めし国の建国を讃え祝う記念日。
国を挙げてのお祭りムード。
しかし、“当時を知る”レベリアとベティの心は晴れない。
彼女達が抱くのは“屈辱と後悔”ーーそして“怒り”。
今日という日はそんな思いを常に抱えながら、彼女達は暗い路地裏を進む。
目的地は寂れた教会ーー散逸した宝物の一つを取り戻さんが為に。
ーー四章-プロローグ
面白い・続きが気になると思って頂けたら、評価とブックマークの程をお願いします。




