三章-十五節【鎮圧の刻】
三章-十五節【鎮圧の刻】
「馬鹿な、ネームド・ナンバーがやられただと⁉︎それに撤退命令なーー」
リリス・ドームの直上から、白銀の一閃が煌めく。
ーーシィィンッ‼︎
白銀の軌跡が空間を左に薙ぎ、XIVがやられた事に驚愕した艦長が乗るレメゲトンの艦船等及び直衛に展開する戦闘ドローン・敵兵等を諸共に両断した。
ーーカチン
リリス・ドーム直上の高度200メートル付近の”空中に立つ“美女ーー【凰月冬華】は、抜き放った刃を美しい鞘に納めた。
そして自身の眼前で野太刀型の天羽々斬【氷皇】を、身体と縦に平行にして鞘から抜く直前の様に構え、静かに眼を閉じた。
そして間髪入れずに冬華は、魔力と剣気を鋭く高め始める。
ーーゴォウウ‼︎
冬華より魔力と剣気が完全に融合した次元違いの力が溢れ、天を貫き渦を巻く。
渦巻く力は鋭く研ぎ澄まされ、うねり狂う先端はまるで刃の様であり、余波だけで周囲の空間を凍結させた。
黒銀のロングポニーテールを靡かせる冬華を中心に、絶対不可侵領域たるの白銀の【龍域】がスフィア状に展開され、全周囲100キロ圏内の環境を瞬時に氷界へと変貌させていく。
ーーバシュン‼︎
間もなく冬華の龍域から波動が放たれ、リリス・ドーム周辺超広範囲に波及する。
「な、何だ⁉︎何がおきーー」
波動は、冬華が龍眼で捉えた敵対者とそれに類するもののみを凍てつかせていく。
ーー絶対零度。
それを具現する波動が冬華の龍域より鼓動の様なリズムで放たれ、防御力も耐性も全てを無視して凍てつかせ、“総ての力を封じる”。
超高速で波及する波動が掠めるだけで、戦艦も【魔導顕鎧】を纏う兵士も戦闘ドローンも敵対者は例外無く瞬時に凍っていき、彼等レメゲトンが展開するリリス・ドーム周囲の環境は、大気すらも凍てつく絶対零度の世界へと変貌を遂げていた。
「あらら・・・冬華まで皇の太刀を使うとはね。これで此度は終止符かな?」
今しがた頭頂部から漆黒の大太刀を突き立てて戦闘不能にした巨人型戦闘ドローンの頭部を足場にしながら、澪凰はそう言った。
「ーー終を謳おう」
静かに眼を開いた冬華が、誰に言うでも無くそう告げた。
冬華の龍眼が、戦場全体に桁違いのプレッシャーを放つ。
だがその威圧に恐怖出来る者は一人もいなかった。
何故ならリリスドーム周辺に展開していたレメゲトンの残存戦力は、全て凍りついているのだから。
冬華が刀身を見せる様に僅かに大太刀を抜き、その隙間に渦巻く力が入り込んでいき、刀身に集束・圧縮・凝縮が極限に行われていく。
「流転と永久すらも凍てつかせ、静止させる絶氷。我が太刀は静寂の具現・・・」
蒼白銀の刀身が白銀へと染まっていき、それと同時に龍域より放たれる絶対零度の波動が、空間を何度も平す様に乱舞し波及する。
「顕現するは終の一太刀」
冬華が流麗な動作で、居合いの構えへ変える。
ーー四度謳われるは、皇の一撃。
ーー終止符を打つ、一刀絶殺の一閃。
極限まで凍てついた空間は白銀に染まり、リリス・ドーム周辺超広範囲を静寂と氷が支配しーー“時は静止する”。
静寂ーー否、時が静止した世界の中で、白銀の皇が終わりを告げる。
「皇の太刀ーー」
天羽々斬【氷皇】が“自ら”鞘走り、主の剣戟をサポートする。
静止した世界の森羅万象を裂断せし、皇の一撃が放たれる。
「ーー静刻」
僅か0コンマにも満たない刹那、時間が完全に凍結する。
凍結した世界を砕く様に白銀の一閃が、”前方空間を裂断しながら“全てを斬り捨てる。
どれだけ距離が離れていようが、どれだけ耐性が優れていようが、どれだけ防御が強固であろうが、どれだけ数が多かろうが、その全てが冬華には関係無い。
【氷皇】の刃は、たとえ地上にいようが空中にいようが座標が違っていようが空間を超えて同時に届き、森羅万象の全てを空間ごと断ち斬った。
時間ごと凍らされて力の全てを封じられ、神速を遥か超えた速度で放たれる剣閃が為、認識・知覚・防御共に不能であり、冬華の龍域の影響下に陥れば回避不能、仮に影響下にあらずとも回避困難ーーそれが冬華の皇の太刀【静刻】である。
ーーバリィン‼︎
白銀の世界が砕けて時間凍結が解除され、レメゲトンの残存戦力全てが同時に両断され、両断された空間に刻まれた狭間に呑み込まれ、消失していった。
この冬華の剣戟によってレメゲトンは全滅し、彼等の襲撃は失敗に終わった。
氷獄の世界とも言うべき環境に変貌していたリリス・ドーム周辺は、レメゲトン全滅と同時に氷が砕ける様に解除され、パウダースノウが舞う幻想的な風景が顕現していた。
ーー
ーー魔界首都サタナエル・郊外
「ハァ、ハア・・・‼︎急げ、受け渡し場所はこの先だ‼︎」
小脇に大事そうに何かを抱える軽薄そうな茶髪の男が、率いるチーム・メンバーを急かしながら、息を切らせて夜の森林を走っていた。
「ち、ちょっと待ってよ・・・‼︎どうせ誰も気付いていないんだから、急ぐ必要ないじゃない!」
「そうだそうだ。今頃レメゲトンの連中で手一杯で、俺らなんか気にする余裕なんてねぇよ」
「馬鹿やろう、力が手に入るんだぞ‼︎これが急がずにいられるかっての!」
茶髪の男が率いるチーム人数は、男女5人ずつの計10人。
彼等は目的地を目指し、走り続けた。
そして森林を抜け、合流地点である郊外の“無人”の軍用補給基地に到着した。
そこには小型戦艦が停船しており、貨物を詰め込んでいた。
「やっと来たか」
どの72柱のものでは無い軍服を来た艦長と思しき男が、両側にケースを持った小銃装備の護衛を引き連れて歩み寄ってきた。
「これでも・・・急いで来た方だぜ・・・。それにアンタらの指示通り、乗り物や転移は使わなかったんだからな・・・」
リーダーの茶髪の男は両膝には手を突き、息絶え絶えに答えた。
その答えに艦長の男は、小馬鹿にする様に鼻を鳴らした。
「フン・・・当然だ。陽動を行なっているとはいえ、これは隠密作戦だ。ならば容易に探知が可能な移動方法を避けるのは、基本中の基本だ。それよりーー持ってきたのだろうな?」
「あ、ああもちろんだ。これだろ?」
茶髪の男は、小脇に抱えていた拳大程のジュラルミン・ケースを艦長の男に手渡す。
「ふむ・・・開けろ」
受け取った艦長の男は右の護衛に渡し、そう命じた。
ガチャっと音を立てて、中身が露わになる。
中には、縁に紋章が刻まれた灰色の指輪が二つ保管されていた。
艦長の男は覗き込むように指輪を眺め、感嘆の声を上げる。
「素晴らしい、実に素晴らしい・・・‼︎これがオリジナル・・・‼︎」
少しして、茶髪の男がおずおずと尋ねる。
「ま、満足したか・・・?満足したなら、約束の物を貰いたいんだが・・・」
艦長の男はジュラルミンケースを閉じ、溜息混じりに言う。
「やれやれ・・・無粋な奴め。そら、受け取れ」
艦長の男がもう一人の護衛に顎で指示し、左の護衛が通常サイズのジュラルミン・ケースを茶髪の男に渡す。
「・・っ‼︎」
茶髪の男はひったくる様に受け取り、1秒たりとも我慢出来ないといった様に地面にケースを置き、開く。
その中身には、金色の指輪が10個と腕輪が2個納められていた。
「報酬は指輪10個の約束だったが・・・我々の指示通りに遂行した働きに免じて、色を付けてやった。その腕輪は我々の新たな装備だ。指輪の10倍以上の魔力ブーストが得られる代物だ。受け取るがいい」
「へへ・・・これで俺らも更に上のランクに登れるぜ・・・‼︎」
茶髪の男が下卑た笑みを浮かべていると、艦長の男が艦に向けて踵を返して歩き出しながら言う。
「ではこれで取引終了だ。何かあれば、こちらから連絡する」
「お、おう、期待してるぜ!ーーよし!戻るぞ、お前ら!」
茶髪の男はそう言いながらケースを閉め、仲間を伴って来た道を戻っていった。
ーー30分後
リリス・ドームでの戦闘が終結に向かっていた頃、レメゲトンの隠密作戦の指揮を取る艦長の男は、部下達を急かしていた。
「急ぎ痕跡を消せ!5分後に撤収する‼︎」
艦長の男から10メートル程離れた場所にいるある兵士が、後部ハッチから物資を運び込もうと一歩踏み出した瞬間ーー
ーービュオオ‼︎
運び込もうとしていた物資が、“両前腕ごと消えた“。
「ぐ・・・⁉︎ーーぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
兵士は切断面から血を吹き出しながら、地面に倒れてのたうち回る。
「て、敵襲か⁉︎」
「ど、何処からの攻撃だ‼︎」
全くの前触れ無く放たれた攻撃に、レメゲトンの兵士達は動揺しながら警戒態勢に移行する。
艦長の男は、兵士を怒鳴りつけながら指示をだす。
「この程度で、狼狽えるな‼︎各自、クラフティを起動しーー」
「ーーそれには及ばん」
艦長の男の声を遮り、森林方面から女性の声が響いた。
『っ‼︎』
そこには白い軍服を纏った金髪の美女ーー【レクリエーナ・k・バエル】が現れていた。
「ば、馬鹿な‼︎我等の探知を潜り抜けただと⁉︎いやそれどころかーー何故、バエル筆頭たる貴様自らが動く⁉︎」
艦長の男は心底驚愕しながらも彼女に武器を向けると、一拍遅れで周りの兵士達が武器や魔法を向ける。
そして先に艦に乗り込んでいた兵士達も降りて来て、レクリエーナを半円で囲む様に展開する。
艦長の男も含めた総数は60人ーーその人数分の武器や魔法がレクリエーナに向けられた。
「・・・・・・」
レクリエーナは、自分に向けられた武器や魔法など意にも介さず、豊満な胸の下で腕を組んで静かに眺めていた。
「これだけの数の精鋭に囲まれても動揺せんとはな・・・噂に違わぬ強者か、もしくは戦力差も理解出来ぬ愚か者か・・・。どちらにしろバエル筆頭たる貴様を始末すれば、我等の理想は実現に近づく。総員、攻撃開始‼︎バエルを始末しろ‼︎」
無数の銃弾、さまざまな属性魔法がレクリエーナに襲いかかる。
「・・・容易いな」
そうレクリエーナが呟いた瞬間ーー
ーーゴォウウ‼︎
不可視の暴風が吹き荒れ、レクリエーナに迫っていた攻撃の全てを微塵と残さず消失させた。
「な⁉︎ば、馬鹿な・・⁉︎」
艦長の男や兵士達が驚愕する中、レクリエーナが口を開く。
「お前は最初に聞いたな?何故私が動くのかと。“イレギュラーを排除する”、万全を期すならば私が手を下すのが確実だからな」
「イレギュラーだと・・?」
「貴様がまるで、自らの物の様に抱えているそれだよ」
レクリエーナは、艦長の男が武器を構えた右手と逆の手に持つ小型ジュラルミン・ケースに視線を向けた。
艦長の男はジュラルミン・ケースを守る様に強く抱え、レクリエーナは続けて言う。
「今回の大会襲撃はあくまで陽動・・・。目的はリリス・ドーム宝物庫に保管されていたそのケースの中身ーー“ソロモンの遺産”の一つで、貴様等が作り出した指輪のオリジナル」
「・・・っ」
艦長の男や兵士達は、言い当てられた事に動揺しつつも、彼女の一挙手一動を見逃すまいと警戒を強める。
「返して貰うぞ。最も、貴様等に抗う隙など与えんがな」
そう言ったレクリエーナに危険を感じ、艦長の男が指示を出そうとするがーー
「遅い・・・」
再び暴風が吹き荒れその場にいたレメゲトン構成員全てを塵に還し、遺産が納められたケースは自分の元に引き寄せた。
彼等は死んだと認識出来ぬまま、一瞬にして全滅した。
レクリエーナは“バアルの瞳”でケースの中を確認すると、背後にステルス迷彩を解除して姿を現した集団に指示を出す。
「貨物とデータを回収して、艦を爆破しておけ」
『ハッ』
レクリエーナの指示に答えたその集団は、純白のタクティカルアーマーとフルフェイスに装備したバエル軍の隠密部隊だ。
彼等は手際良くかつスピーディーに、レクリエーナの指示を実行していった。
「レクリエーナ様」
バエルの隠密部隊を率いる隊長の女性が、レクリエーナに報告する。
「レメゲトンと取引した者達を、【忘却騎士団】が捉えました。すぐに“処理”を実行するとの事です」
レクリエーナは後ろ手に聞きながら、答える。
「分かった。処理は“記憶”だけに留める様に伝えてくれ、そいつ等は一応泳がせる。もう今後取引をしない様であれば、放置して構わん。私は遺産を宝物庫に戻しに行く」
「了解しました」
軽く首を垂れて答えた隊長の女性が頭を上げた時には、すでにレクリエーナの姿は無かった。
ーー・・・魔界首都サタナエル・入口
「く、くそっ・・・!」
「な、何よ・・・コイツ等・・・」
首都の近くまで戻って来ていた茶髪の男とその仲間達は、首都への出入り口の一つである【七門】のと呼ばれる、その内の一つである【強欲門】手前で集団に囲まれていた。
彼等を囲んでいるのは、騎士型の全身鎧を纏った数十人の男女。
その全身鎧は顕鎧であり、全て“並の【起源】に匹敵、あるいは凌駕する性能を有する【魔導】“である。
装甲は重装甲も軽装甲の2種を基本とし、剣や長物等それぞれの得意武器を携えていた。
「・・・くそっ・・・‼︎ステルスってやつを心掛けたのに、なんでバレたんだ・・・?」
茶髪の男は騎士達に睨み、いつでも戦闘態勢に移行出来るように身構えていた。
ーーザザッ・・・
「ねぇ。コイツ等に囲まれてから、なんか眼が変なんだけど・・・」
「ああ、俺もだ。霞んで・・・いや、なんつーかーーテレビが映んねぇ時の砂嵐みたいなのがチラついて、すっげぇ鬱陶しい・・・!」
自分の右腕とも言うべき副リーダーの女性と左腕とも言うべき青年のそんな会話を後ろ手に聞きながら、リーダーである茶髪の男は心内で悪態をつく。
(くそっ!何だってんだよ、コレは‼︎まじで、あいつ等の仕業なのか?)
茶髪の男を含めた10人の男女は、時折襲う“ノイズ”に耐えながらも自分達を囲む集団への警戒を強めていた。
だがーー
ーーザーーーーーーーーーーーー‼︎
一際大きいノイズが、彼等を襲った。
「・・・っ!な、何だ・・・?」
茶髪の男が、ノイズに導かれる様に視線を正面に向ける。
そこには、蒼黒い軍服にロングケープを纏い左腰に剣を差し、足元まで伸ばした透き通った水を思わせる蒼い髪を靡かせる美女がいた。
茶髪の男は、一瞬ノイズを忘れて絶世とも言える美貌を誇るその女性に見惚れるがーー
ーーズゥン・・・‼︎
突如、“深海”にいるのではないかと思われる程の重圧が彼等を襲った。
その重圧の発生元はーー蒼髪の美女だ。
「ハァ・・・ハァ・・・ッ!・・・あ、あの紋章は・・・!」
茶髪の男は強制的に跪かせる程の重圧に喘ぎながら、蒼髪の美女が纏うロングケープの隙間から垣間見えた軍服の左胸に刻まれた紋章で、相手の正体を悟った。
「・・・ッ・・・ハルファス・・・!」
「う、嘘でしょ・・・?ハルファスって・・・」
「・・・“粛正軍“・・・!」
副リーダーの女性と左腕の男性が、呻き慄く様に言った。
「や、やべぇ・・・まじでやべえぞ・・・」
茶髪の男が圧倒的力の差を感じ取り、背筋に冷たいものを感じ戦慄する。
そんな桁違いの威圧感の中、蒼髪の美女が腰に差した剣をゆっくりと抜いた。
その剣は、幅広い剣身を誇る灰色の長剣であった。
『・・・っ‼︎』
茶髪の男達が重圧に耐えながら警戒を更に強める中、蒼髪の美女は灰色の長剣の切っ先を上に向け、両手で持ちながら祈る様に構えた。
そして凛々しい声が、言葉を紡ぐ。
「“忘却執行”」
その短い言葉は、【魔導顕鎧】の起動詠唱であった。
ーーゴォウウ‼︎
蒼髪の美女が唱えた瞬間に灰色の長剣から灰色の魔力が膨れ上がり、彼女を包み込んで魔力の暴風となる。
そして間もおかずに魔力の暴風が斬り裂かれ、“忘却騎士”となった彼女が姿を現す。
流線形の装甲を持つ軽装の騎士型が、彼女の身体にフィットする様に構成されている灰色の【魔導顕鎧】。
ーーザザッ・・・ザーーーーーーーーー‼︎
彼女が顕鎧を纏った瞬間、激しいノイズが彼等の”感覚“全てに奔った。
「く、くそっ・・・‼︎やられてたまるかよ‼︎」
茶髪の男は、重圧とノイズを振り切る様に頭を振りながら叫び、指輪と腕輪を起動した。
茶髪の男は、取引場所からここに至る道中で装備していたのだ。
指輪と腕輪が共鳴反応を起こし、指輪だけの魔力増幅よりも更なる増幅を引き起こす。
ーードォウッ‼︎
“初めて“使用した為か魔力は暴風となり、地割れを引き起こして塵を巻き上げた。
「すげぇ!すげぇ‼︎コレが指輪と腕輪の力か‼︎これさえあれば、俺は無敵だ‼︎」
「す、すごい・・・‼︎私達もこんな魔力を得られるのね!」
「良いねえ‼︎粛正軍とかイキリ腐ってやがるコイツ等を蹴散らしてやろうぜ!」
茶髪の男は歓喜のあまりに高笑いを響かせ、副リーダーの女性と左腕の青年は膨大なまでに増幅された魔力に眼を輝かせて興奮している。
その他のチームメンバーも歓喜や興奮など、“全能感に近い感覚に昂っていた”。
一応これ以上正体を悟られぬ様に顕鎧を纏った後、彼女は威圧を解いてはいたのだが、その威圧感と眼の前で相対しているのが圧倒的強者だと言う事も、忘れたかの様な振る舞いだった。
狂喜乱舞する彼等の様子を静かに眺めていた蒼髪の美女だったが、少しして呆れる様に息を吐いた。
「・・・・・・愚かな」
その言葉に耳聡く反応した茶髪の男は、見下す様な笑みを浮かべる。
「ああ、何つったテメェ・・・?今の俺はなぁ、もうお前等雑魚どもなんて相手にならねぇんだよ。くたばりーーは・・・?」
ーーザン‼︎
茶髪の男が最後まで言い終える前に、蒼髪の美女は一瞬で距離を詰め、茶髪の男を横一閃に薙いでいた。
「借り物の力など、自らの力では無い」
蒼髪の美女は、ゆっくり膝から崩れ落ちていく茶髪の男に淡々とそう言った。
彼女の剣は、茶髪の男を確か斬り裂いた。
だが彼女が斬り捨てたのはーー
「あ・・・?ああああああああぁ⁉︎・・・っ・・・」
茶髪の男は絶叫を響かせ、地面に倒れ伏した。
彼女がーーいや、忘却の騎士達が執行時に斬り捨てるのは“記憶”だった。
「は・・・?嘘・・・でしょ・・・?」
「剣筋が見えなかーー」
”隊長“である彼女が、茶髪の男を斬り捨てた事を皮切りに他の騎士達が動き、残った対象者達を斬り捨てていく。
その動きは洗練されており、一切の無駄が無かった。
僅か10秒にも満たない間に、茶髪の男が率いるチームは全滅した。
表向きは”粛正軍“と言う通称で、魔界内外の不穏分子に対して独自の判断で攻撃可能な独立遊撃軍だが、その本来の名称はーーーー【忘却騎士団】。
ハルファス一族が率いる隠密部隊であり、本来の目的は”皇“や”▪️▪️▪️兵装“に関する情報が、不穏分子に漏洩・悪用を防ぐ“記憶の処刑人”。
その団員は人・天・魔と三界の各地のあらゆる組織や一族に存在し、新たな騎士も増え続けているので、その総規模は計り知れない。
「“執行完了”」
蒼髪の美女がそう呟くと共に、忘却騎士の顕鎧が解除された。
ちなみに彼女以外は、一帯広範囲の”ジャミング“の為、忘却騎士の顕鎧は解除していない。
「隊長」
女性騎士が、蒼髪の美女に指示を仰ぐ。
「指輪と腕輪を回収し、周辺一帯の痕跡を消せ。この者達には“偽装記憶”を植え付けた後、適当な所に解放してやれ。5分後に撤収するぞ」
『はっ‼︎』
即座に騎士達は、迅速に指示を遂行していく。
茶髪の男を含む10人の執行対象者達から“模造品”を回収し、転移させながら偽の記憶を植え付け、戦闘の痕跡を魔術で元に戻す。
騎士達の仕事を感知しながら、蒼髪の美女は携帯端末に送られてきた情報を確認していた。
「レメゲトン隠密部隊は全滅。ソロモンの遺産を無事確保・・・流石はレクリエーナ様だ」
読み終えて端末を懐にしまうと、部下が声をかけてくる。
「隊長、撤収準備完了です」
「よし。総員速やかに撤収せよ‼︎」
『はっ‼︎』
蒼髪とロングケープを翻し彼女は、部下達と共にこの場から転移した。
彼女の名はーー【レヴィア・C・ハルファス】。
【忘却騎士団】・第“零”師団の団長であり、同騎士団総長の娘でありーー
ーー来たる未来において、零牙に仕える事となる臣下である。
ーー・・・とある位相空間・深夜
満天の星が瞬く寂れた荒野を、一隻の戦艦が航行していた。
「くそっ‼︎作戦は完璧だった筈、にも関わらずに撤退だと⁉︎何処で間違えたと言うのだ・・・‼︎」
戦艦の艦橋で、艦長の男は肘置きに俯き加減で怒りをぶつけながら憤慨していた。
彼にとっては何十年と待ちに待った時であり、この日で魔界を純血の手に取り戻せる確信していた。
それが目的を何一つ達成出来ず、混血と見下していた者達に遅れをとった挙句に全滅寸前に追い込まれた事は、純血至上主義の尊ぶ男にとって屈辱以外のなにものでも無かった。
彼が艦長を務めるレメゲトンの戦艦は撃沈こそ免れたものの、武装の大半は破壊されて、船体は傷だらけだった。
彼等はレメゲトン上層部からの指示を受け、この位相空間内に作られた補給基地に向かっていた。
「間もなく、集結地点です」
クルーの報告を受けて艦長の男は、怒りを鎮める様に息を吐いた。
「まあいい。奴等がどう足掻こうとも、勝つのは我々なのだ。ただひと時、奴等の滅びがーー」
「か、艦長・・・‼︎」
艦長の男の言葉を遮り、クルーが震えるながら報告する。
「何だ?」
「此度の作戦の残存戦力がーー壊滅しています・・・」
「何だと⁉︎」
艦長の男が手元のコンソールで確認すると、集結指示を受領した時に確認されていた戦艦10隻と艦載戦力一万はーー戦艦一隻を除いて全滅していた。
そして健在を示す光点と発せられていた救援要請が、たった今消えた。
「・・・・・・」
「全滅しました・・・」
沈んだ声で報告したクルーに、艦長の男は焦った口調で聞く。
「て、敵は⁉︎敵の総数は⁉︎」
クルーは手元を操作し、索敵する。
「敵は・・・・・。・・・っ⁉︎ひ、一人です‼︎」
「何だと⁉︎」
「モニターに出します・・・‼︎」
空中ディスプレイが投影され、レメゲトン補給基地の様子が映し出された。
そこに映っていたのはーー
「こ、コイツは・・・‼︎」
戦艦の残骸が散らばり、建物はほぼ原形を留めないほどに破壊され、幾つもクレーターが穿たれ、多数のレメゲトンの構成員達が骸を晒し、各所に炎が燃え盛っていた。
そして破壊し尽くされた基地の中央部には、たった今撃沈したてであろう戦艦が残骸と成り果てており、その甲板上に、残存戦力を全滅させた張本人が立っていた。
艦長の男は、その人物に見覚えがあった
「ば、馬鹿な・・・あり得ない・・・‼︎な、何故、何故奴がここに・・・⁉︎」
その人物は、漆黒と金が入り混じった長い髪をポニーテールにしており、抜群過ぎる程の豊満かつ引き締まった身体をラインがくっきりと丸わかりな専用ボディスーツに身を包み、両腕に巨大なトンファーの様な発振器付きのガントレット、両脚には同じくふくらはぎにトンファーの様な発振器付き脚甲を装備したーー凛々しい美女。
「”零の獅子“ーー【レーヴェ・ヴィクトリア】・・・‼︎」
艦長の男の声は、その美女の名を唖然と呟いた。
同時に、戦艦の接近に気づいていた彼女ーーレーヴェがこちらに視線を向け、獲物を見つけたと言わんばかりにニィっと淡い笑みを浮かべた。
次の瞬間ーー
ーードォォォォォォォン‼︎
足場にしていた戦艦の残骸を蹴り込んだ衝撃で粉々に消し飛ばし、こちらに向けて超高速で向かってきた。
「げ、迎撃しろ‼︎」
残り少ない3門の艦砲から魔力圧縮ビームが放たれ、高速で迫る敵を狙うも一切命中も掠りもせず、それどころかーー
「ば、馬鹿な‼︎ビームを素手で逸らしただと⁉︎」
およそ常人では出来ない神業を目の当たりにし、艦橋は驚愕に包まれる。
迎撃に出た兵士達は、両腕のトンファー型粒子刃によってすれ違いざまに斬り捨てられ、1秒たりとも足止めにすらならなかった。
そして更なる驚愕が彼等を襲う。
「か、艦長!敵に局所的空間干渉を検知しました‼︎」
「な、何っ⁉︎」
「堕ちる寸前とは言え、この程度かよ」
黒金の長いポニーテールを靡かせて空を駆けるレーヴェ・ヴィクトリアは、悪あがきにしかならないビームの小雨を“真っ直ぐと突き抜ける”様に回避しながら、吐き捨てた。
「艦には近づけさせん!」
「墜ちろ、混血め‼︎」
一対の角を持った騎士型の【魔導顕鎧】を纏ったレメゲトン構成員が、レーヴェの行く手を遮る様に向かってくる。
だがーー
「くらーー」
ーーザシュン!
「遅い」
腕部に装備したガントレットと一体になったトンファー型の粒子刃で、エルボーを繰り出す様に斬り捨てた。
「貴様ーー」
エルボーを繰り出した勢いを利用し、そのまま一回転し裏拳を繰り出す様に斬り払う。
立ち塞がった敵の二人は一瞬の間に斬り捨てられ、足止めにすらならなかった。
そこへーー
ーードシュゥゥゥ!
ようやくレーヴェの動きに照準が合わせられたのか、ビームが迫り来る。
レーヴェにとっては容易く回避できたが、彼女はあえて回避せずに不敵な笑みを浮かべて更に加速し、真正面から突っ込んだ。
レーヴェは眼前に迫ったビームをーー
ーー指2本だけで、その軌道を逸らした。
巡洋艦クラスの戦艦の艦砲から放たれる圧縮魔力のビームは性能にもよるが、それでも街の半分に壊滅的被害をもたらす攻撃力を有している。
逸らされたビームの奔流が、レーヴェと紙一重にすれ違っていく。
「これで終わりだ」
そう言った直後にレーヴェと戦艦の間の空間が歪み、“短縮された“。
詰める距離が短ければ短い程、早く肉薄出来る。の能力によってまだ10キロ以上はあったレーヴェと戦艦の間の距離は、強制的に“ゼロ”にされた。
ーーシュウゥゥ・・・・‼︎
艦橋の眼前に躍り出たレーヴェは、中にいる者達に艦橋越しに”龍眼“による威圧を浴びせ、弓弾く様にググッと左腕を後ろに下げ、粒子刃を出力しているトンファー型発振器の拳方面の先端に、粒子を急速圧縮する。
発振器の先端がガチャガチャと音を立てて、内蔵されていた”杭”の先端部が姿を見せた。
圧縮された粒子はパイルに集束しており、“煌黒“の輝きを放っていた。
周囲の光を奪いながら、粒子が更に紫電を迸らせながら螺旋状に集束しーー
「消えろ。ーーバリオン・バンカー」
艦橋に向かって、左腕を突き出した。
ーーゴォウウ‼︎
トンファー型発振器に内蔵された杭が打ち出されると共に圧縮粒子が解放され、荷電粒子状の巨大な杭が放たれた。
粒子に電圧をかけて亜光速にまで加速させるプロセスを、“この世界で最も優れる鋼を、極めて純度の高いもので成形して製作された杭“を射出する際にも利用する。
それ単体で【▪️▪️▪️兵装】と言える杭と纏った圧縮粒子と共に加速を二重に重ね掛けする事で、威力を何十倍にも増幅させる機構が採用されたーー短射程荷電粒子砲。
レーヴェのトンファー型粒子刃に内蔵された物は、通常のよりも短射程である代わりに絶大な威力を誇る近接特化の荷電粒子砲。
艦橋に詰めていた者達は、悲鳴をあげる間も無く荷電粒子で構成されたエネルギー杭に呑み込まれていった。
カオス・コンバット学園交流戦を襲撃したレメゲトンは、その目的を一つも達成する事無く、ここに全滅した。
ーー・・・三章-十四節【鎮圧の刻】・終




