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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
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三章-十四節【始原と終局を齎す皇の太刀】

「・・・・」

零牙は音も無くクレーターの直上から、つい先程まで地面であった地点まで高度を下げ、アスタロトに正対しながら、レラジェを見下ろす。

「流石だな零牙。もう終わっているとは・・・」

アスタロトが立っているクレーター外縁部の反対側にいるレリウスは、クレーター中心部に倒れているレラジェを覗きながら声をかけた。

背後から声をかけられた零牙は、振り向く事もせずに返事する。

「いや、仕留め損なった。奴はもうほぼ死に体だが、初代レラジェの顕鎧(オリジン)の保護が働いてな。だがーー」

ーーチャキ・・・

零牙はクレーターの中心部で倒れ伏すレラジェに、冷酷な眼差しで左手のショットガンの銃口を向ける。

「これで終わりだ」

「テ、テメェ・・・ッ‼︎」

アスタロトが右腕を構え、ガントレット内蔵のパイルランチャーで仲間にトドメを刺そうとする零牙を阻止しようとする。

更に背後では、零牙の邪魔はさせまいとレリウスがアスタロトに突撃しようと身構える。

「・・・・」

零牙は気にも留めず、確実にトドメを刺すべく引き金を弾いていきーー

「・・・?」

零牙の視線の先でレラジェが身じろぎし、そしてーー




「・・・!」

ーーゴォウウ‼︎

突如膨大な“無色”の魔力が天に向かって立ち昇った。

零牙は咄嗟にウイングスラスターより発振されている漆黒の光の翼を自身の前面を覆う様に展開し、防御態勢をとった。

翼で自身を包む様に防御する零牙を、無色の魔力の柱が呑み込んだ。

「零牙‼︎ーーこれは・・・レラジェを纏った奴の魔力か」

レリウスは零牙を救おうと柱に向かって飛び出しながら、柱の元=クレーターの中心部を確認する。

「あの野郎・・・“アレ”を使いやがったか」

この魔力の柱を目の当たりにしたアスタロトは、心当たりがあった。

「零牙‼︎」

レリウスは魔力の柱に近づき、中に飲み込まれたであろう零牙に声をかけた。

「問題無い」

ーーバシュン‼︎

零牙は翼を羽ばたかせ、魔力の柱を容易く霧散させた。

零牙は全く動じておらず、魔力を垂れ流すレラジェを見下ろしていた。

「君にあれ程やられて、まだこれだけの魔力が残っていたとはな・・・。だがこの魔力は・・・」

「レリウスも気づいたか。お前の“眼”であれば、視えているだろう?」

「ああ・・・この魔力にはーー“中身”が無い」

零牙とレリウスが横並びに滞空し、共にクレーターの中心部を見下ろす視線の先で、ハリボテの魔力を垂れ流し続けるレラジェが、ゆっくりと起き上がる。

「クククククク・・・・ハハハハハハハハハ‼︎」

レラジェは修復したフルヘルムの顔面を右手で覆いながら、狂った高笑いをあげた。

レラジェの顔面を覆う右手の五指には、金色の指輪が5つはめられており、禍々しい金色の光を放っていた。

「全く・・・全くもって想定外ですよ・・・!」

そう言ってレラジェは顔面を覆う右手をゆっくりと下ろしながら、自身を直上で見下ろす零牙とレリウスを見上げる。

そのフルヘルムの両眼は、血走った様に赤く爛爛と輝いていた。

レラジェの魔力は更に膨れ上がっていき、それと比例する様に5つの指輪の光は増していく。

本来、この様な天に向けて柱を立てる程の膨大な魔力であれば、周囲への影響を少なからず与える筈だが、一切影響を及ぼす事は無かった。

「チッ‼︎あの野郎・・・奥の手を簡単に使いやがって・・・‼︎」

アスタロトがレラジェへの不満を口にしているとーー

「アスタロト・・・!」

背後から女性の声が掛けられた。

「・・・お前らか。ーーチッ、テメェらもやられたのかよ・・・!」

“豹”の頭部を模した軽装型と”蛇“の頭部を模した軽装型の顕鎧(オリジン)を纏った女性二人が、アスタロトの背後に満身創痍といった様子で立っていた。

「あんたに言われたく無いわよ!相手してた小娘達に、ちょっと不意を突かれただけよ‼︎」

「・・・・」

豹の顕鎧(オリジン)を纏った女性が、気の強そうな憤慨した口調で言い、蛇の顕鎧(オリジン)を纏った女性が納得いかないと言った様子で無言で同意した。

「ハッ、どうだかな!テメェらが弱ぇだけじゃねぇのか?」

「「何ですって⁉︎」」

レメゲトンの女性二人は、異口同音で反応した。

「それよりもーー見ろよ」

「たくっ・・・ーーこれって」

アスタロトに促され、二人はクレーターを覗き込む。

「「レラジェ⁉︎」」

二人はまたも同時に反応し、それに対してアスタロトは答える。

「ああ。あの野郎・・・まだ禁止されてる奥の手を使いやがった・・・!」

「ちょっと、それってヤバいんじゃ・・・?」

「・・・!」

豹の顕鎧(オリジン)の女性が焦り、蛇の顕鎧(オリジン)の女性が息を呑む。

「「「・・・・‼︎」」」

そこでレメゲトンの3人は、圧倒的な覇気・重圧・殺気・剣気等の全てを内包する“龍威”を放つ視線を感じた。

クレーターの中心部直上の空中に並び立つ“龍”と“魔”の二人。

その内の“魔”である白き騎士は膨大な魔力を垂れ流し続けるレラジェを警戒し、クレーターの底を見下ろしている。

そしてその内の“龍”である黒き皇はーー










ーー3人をジッと見据えていた。

「「「・・・・・・あ・・・っ・・・!」」」

龍の頭部を模したフルヘルム越しで、生の眼ではなく光学的である様な眼の色だけを反映したツインアイではあるが、その瞳はまるでーー3人の深淵まで見透かす様であった。

「「「・・・ぐっ・・・!」」」

桁違いの重圧が、3人にのしかかっていた。

本来の【龍眼】の影響下では敵対者は等しく、心臓を巨龍の爪で鷲掴みにされているかの様な重圧をもたらされる。

だが今は、零牙がアスタロト達3人を注視している為、龍眼による常に視られている感覚と重圧が何倍にも増幅している。

そのあまりの重圧と直近で“枷”が砕け力が増した影響故に、本来なら龍騎士あるいは龍戦士といった様に見える零牙の顕鎧(オリジン)姿がーー



「・・・嘘・・・でしょ・・・?」

「・・・・冗談じゃねぇよ・・・・・・」

「・・・・・龍・・・・?」

全長20メートル以上にも見える、巨大な漆黒の西洋龍の姿を幻視してしまった。

巨大な漆黒の龍=黒き皇が、巨大な五指の鉤爪で3人を掴もうと左手を伸ばす。

ーーガシ・・・‼︎

「ぐっ・・・⁉︎」

「・・・あ・・・あ・・・!」

「・・・・・・‼︎」

3人は本能的に抱いた恐怖のあまり、ただ呆然と抵抗も出来ずに巨大な龍に鷲掴みにされた。

「・・・ァ・・・・・・・か・・・!」

「・・・くそ・・・がっ・・・‼︎」

「・・・・・は・・・・」

3人はまるで握り潰されている様に過呼吸に陥り、全身の骨が軋む。

3人が見上げる同じ視線の先では、自分達を握り潰さんとする漆黒の龍の眼が爛爛と輝き、真っ直ぐに3人を見据えていた。

「「「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・‼︎」」」

3人の呼吸が更に速くなり、そのまま心停止にまで陥りそうなったその時ーー

「零牙!」

「レリウス!」

「「「・・・‼︎」」」

凛々しい少女達の声が響くと同時に、3人を握り潰さんとする漆黒の龍が消失した。

「・・・ハァ・・・ハァ・・・何だよ、今のは・・・?」

「ゴホッ、ゴホッ・・・し、死ぬかと・・・思った・・・」

「実際・・・死にかけた・・・」

3人はその場に膝をつき、窒息しかけた息を激しく整える。

3人が見た巨龍は、龍眼による強力な影響に紐付いた錯覚だ。

しかし龍眼が実際に強力な影響を及ぼす為、実際に握り潰されそうになっている幻を“感じて“しまった。

だがそれは幻と言えど、幻術とは比べる事すら烏滸がましい程の龍の“威”。

戦わずに平伏させて心を折り、果てはその命を掻き消す事による真の“抑止”。


眼で殺すーー龍眼を持ちかつ極まりし者は、それが容易く可能なのだ。


「だが・・・何が・・・」

そう言ってアスタロトが、前方を見る。

前方ーークレーター中心部直上の空中には、黒き皇=零牙と白き騎士=レリウスの他に二人の少女が合流していた。

「まさか・・・あの黒い顕鎧(オリジン)のガキがこっちを見てたから、あんなイメージをしちまったってのか・・・?」

アスタロトは、何故あんな幻視や幻痛を錯覚したのかを解りかけていた。

(アイツがあのままこっちを見ていたら、俺らは確実に死んでいた・・・‼︎奴の能力ーーいや、違う・・・本能だ、本能が奴をあんな巨龍の姿にイメージさせる程に命の危険を感じていた・・・‼︎あり得ねぇ・・・・と思いたいところだが、流石にあんなの見て余裕をぶっこく程には自惚れちゃいねぇ・・・)

アスタロトは焦る様に考え、こちらから視線を外して黒緋の龍の顕鎧(オリジン)を纏う少女と話す零牙を見る。

(俺はとんだ間抜けだった訳だ・・・!奴は・・・いや奴こそ、バエルのガキ以上に警戒すべきーー“化け物”だ・・・‼︎)

零牙としては何の意味も無い魔力を垂れ流すレラジェより、まだ自由に動けるアスタロト達を警戒し、ただ視線を向けていただけだ。

だがそれにより、アスタロトがようやく零牙を危険だと認識し最大限に警戒を向ける中、零牙は刹那達と会話していた。

「怪我は無いか、刹那?」

零牙は敵対者に向ける冷徹な声音を軟化させ、刹那に聞いた。

「ええ、大丈夫よ。零牙も無事で何よりよ。それよりーー」

「ああ」

零牙と刹那は短く互いを気遣う言葉を交わし、クレーター中心部を見下ろす。

「まずいな・・・」

「ええ。何か・・・嫌な感じがする」

先に二人で見下ろしていたレリウスとジークリンデが、同じ“魔”に属する顕鎧(オリジン)を有する為か何かを感じ取っている様だった。

「どうした?何か感じたか?」

零牙はレリウス達に聞いた。

「ああ、どうにも嫌な予感がする。それに我が半身がさっきから警告している。すぐにでもレラジェを始末しないと不味い事になると・・・」

レリウスに同意する様に彼等の前へと一歩進む様に飛翔しーー

ーーチャキ・・・

「同感だ。俺がやろう」

零牙はそう言いながら、改めて右手に持つ漆黒のソードオフショットガンをクレーター底のレラジェに向けた。

「ーーーーーはい・・・了解しました」

だがそこにアスタロトの殊勝な声が聞こえ、零牙はそちらに横目で視線を向けた。

何やら通信をしていたらしく、それを終えるとアスタロトと二人の女性は転移魔法陣を展開し、撤退しようとしていた。

だが易々と撤退を見逃す零牙では無い。

「何処にいくつもりだ?」

「「「・・・ッ‼︎」」」

零牙に再び“視”られた為か、あるいはショットガンの銃口を向けられた為か、アスタロト達はビクッと身体を震わせた。

だが零牙がレリウスの予感を受けてレラジェをにトドメを刺す事を重視している為か、巨龍を幻視しさせる様なあの桁違いの重圧は無かった。

だがそれでも龍眼による強力な重圧は、3人を絶え間無く襲っていた。

「わ、悪いが撤退させて貰うぜ・・・!・・・上からの指示だからな」

「テロリストたるお前達を、逃がすと思うか?」

零牙から冷徹な殺気や重圧が、アスタロトに集中する。

アスタロトは内心冷や汗をかきながら、精一杯動揺を悟られぬように零牙に答える。

「ま、まあ待てよ・・・!俺らよりもレラジェの方が優先にすべきなんじゃ無いか・・・?」

「お前達を始末してからでも、遅くは無いだろう?」

零牙は冷徹な声音で淡々と言う。

「い、いや・・・お前らはあの状態が何なのか知らねぇだろう?あれはな、上から使用禁止にされてた状態でな。ーー【亡我】と言うらしいぜ」

「【亡我】だと⁉︎」

レリウスが驚愕の声をあげた。

顕鎧(オリジン)の暴走状態・・・」

ジークリンデが、無色の輝きを放つレラジェを見下ろしながら神妙に呟いた。

「・・・・・」

黒緋の顕鎧(オリジン)を纏う刹那は、零牙を見つめていた。

「婆さんから聞いた事があるが、確か正式名称はーーーー【亡我(ぼうが)(とき)】だったか?】

零牙がアスタロト達へ向けていた銃口を下ろしながら、そう言った。

(・・・・・)

零牙の内で、“その状態に零牙がなった事を知っている”サイファスが息を吐いた。

「そ、そうだ・・・!何でもまだ制御出来ねぇらしくてな。一度【亡我】を発動しちまうと、高揚感に支配されて敵味方区別が出来なくなり、魔力が自分の制御出来る総量を遥かに超えて増幅され、最終的には半径500キロ以上に及ぶ爆発を起こして消滅するって話しだ・・・!」

「成る程、道理で・・・」

零牙は龍眼で、レラジェの深淵を把握する。

レラジェの内では、垂れ流されている魔力とは別に魔力が歪に圧縮と凝縮を重ね、無理矢理に抑え込んでいる様であった。

「ハハハハハハハハハ‼︎凄い、コレが【亡我】・・・‼︎魔力が際限無く溢れ、全身に力が満ち溢れていく‼︎もはや私はーー無敵だ・・・‼︎ハハハハハハハハハ‼︎」

レラジェは血走った眼で高笑いをし、極度の全能感に溺れていた。

「零牙。アイツの内側の魔力・・・あれはやっぱり・・・」

この場で同じく龍眼を持つ刹那も、レラジェの内側で今にも暴発しそうな魔力を把握していた。

「レリウス、レメゲトンが!」

ジークリンデのその声に促され、零牙・レリウス・刹那の3人は、アスタロトがいるクレーターが外縁部を向いた。

既にアスタロト達3人の姿は無く、転移魔法陣が霧散した後だった。

「くっ・・・逃がすとは・・・!」

歯噛みするレリウスに、零牙は興味を失った様に言う。

「放っておけ。どの道奴等には、撤退する以外無かっただろう。それよりーー癪だが・・・奴が言った様にコイツをどうにかする方が今は最優先だ」

「確かにそうだな・・・。だがどうする?取り敢えず奴に仕掛けてみるか?」

レリウスがそう言った瞬間、レラジェが狂った様な声で言う。

「ククククク・・・!ああそうだ・・・この私に勝ったなどと思っている、思い上がった混血共を始末しなくては、ねっ‼︎」

「「「「・・・‼︎」」」」

ーーガガガガガガガガガガガガガガガ‼︎

レラジェが両腕を零牙達4人に向け、クロスボウから魔力の矢を乱射する。

【亡我】により極限まで増大した能力と魔力の影響か、【亡我】になる前のレラジェとは比べ物にならない程の高密度と質量を誇る魔力の矢が、糸一本すらも通さぬ程の密度の奔流となって4人に襲いかかった。

ーーダゥン‼︎ダゥン‼︎

零牙は即座にショットガンを撃ち、レラジェの攻撃を迎撃する。

「ぐっ・・・うぅ︎・・・⁉︎ハハハハハハハハハ、無駄ですよ‼︎幾らあなたの攻撃が私に届きダメージを与えたとしても、この無尽の魔力が即座に私と顕鎧(オリジン)を修復するのです‼︎」

零牙のショットガンより放たれた散弾は、矢の奔流を食い破りながらレラジェを貫いたが、砕かれた鎧は生身の肉体に穿たれた風穴と共に瞬時に再生を果たした。

「・・・・」

ーーダゥン‼︎ダゥン‼︎ダゥン‼︎ダゥン‼︎

零牙は無言でショットガンを連射する。

その都度矢の奔流は食い破られ途絶え、4人に到達するのを遅れさせられているが、レラジェが膨大な魔力による再生を頼りにダメージを受けても構わずに矢を乱射する為は直ぐに奔流は復活し、4人に向かう。

「無駄無駄無駄ぁ‼︎確かにあなたの攻撃は威力が高く、私の矢を消せる。だがその連射速度では、私の尽きることのない矢の奔流の前に、激流に呑み込まれる塵でしか無い‼︎さあ、我が矢の暴威に呑まれるがいい‼︎」

レラジェが嘲笑する様に言うと同時に、矢の奔流が4人に到達する。

「「・・・・」」

「「・・・ッ」」

零牙と刹那は光の翼の片翼を前面に持って来て防御し、レリウスは双剣をクロスし、ジークリンデは巨大な騎士槍である【魔槍バルムンク・オリジン】で防御した。

ーーボボボボボボボボボボボボン‼︎

レラジェの矢は着弾すると同時に炸裂し小規模ではあるが、絶え間無い爆発が4人を包む。

「ハハハハハハハハハ、どうだ見たか‼︎強化された我が矢は榴弾の如く炸裂し、破壊を撒き散らす‼︎これで終わりですよぉ‼︎ハッハッハッハッハ‼︎」





「さてーーどうするか・・・」

零牙達は絶え間無い爆発に晒されながらも4人全員が無傷であり、爆発の中でレラジェをどう屠るかを話し合っていた。

「俺は無理だな。カラドボルグを極大化させたとしても、結局は”斬撃“だ。下手に刺激を与えず、欠片すら残さずに一撃で屠るとなると・・・”まだ“無理だ」

「ジークリンデは?」

刹那が聞くと、ジークリンデはレラジェの矢を防御しながら俯き加減に答える。

「ふむ・・・私も”まだ“無理だな。範囲攻撃は出来るが、一撃で消滅させるのは自信が無い。ーー刹那はどうだ?」

「そうね・・・あたしは主に零距離戦闘が得意だけど・・・。あんな全身爆弾みたいになってる奴に魔力無効化能力を持ってるあたしが近付けば、欠片でもあいつの魔力を無効化しただけで刺激になりかねないわ。あたし達4人はあの程度無事でしょうけど・・・あの不安定な圧縮魔力なら、この位相空間を破壊して外に爆発が及びかねないわね・・・」

矢の奔流でレラジェを視認出来なくとも視認する必要が無い龍眼により、刹那はレラジェの深淵で歪に圧縮する魔力を把握しながら言った。

「そうか・・零牙、君はどうだ?」

「・・・・」

レリウスの問いに、零牙は沈黙で返した。

零牙は考え込んでいた。

自分が“現在(いま)“出来る中で、確実にレラジェを屠る方法をーー



零牙は己の内の“半身”たる【黒皇龍サイファス】と会話していた。

(やはり”エンド“もダメか・・・)

”エンド“とは、零牙の能力たる重力制御の極致であり【深淵】たる御業ーーブラックホールを生成し、引き摺り込んだ森羅万象を無に帰す【エンド・オブ・シンギュラリティ】の事だ。

(ああ、シュバルツシルト半径によって捕らえる以前の問題だ。“現段階では”生成の余波だけで爆発させかねんだろう)

そう、ブラックホールといえども引き摺り込むまでに幾許か猶予が存在する。

暴走したレラジェの不安定な圧縮魔力は、その桁違いの吸引に耐える事は出来ないだろう。

それ以前に零牙の超密度・高純度の魔力に当てられば、その瞬間に爆発しかねない状況だった。

(ーー(おう)の太刀しか無いな)

零牙は左手の天羽々斬【(スメラギ)】の柄を握り直す。

(ああ。“現段階”のお前の(すべ)の中で確実に奴を消滅させられるのは、皇の太刀だけだ)

(だが出来るのか?皇の太刀には膨大な魔力が必要だ。魔力が制限された状態の今の俺では、本来の10分の1の威力も出せるか分からないが・・・)

若干自信無さげに言う零牙に、サイファスは強く頷き答える。

(いや十分だ。それにお前の皇の太刀であれば齎す“具現”だけで、防げる者など皆無に等しい。魔力の方は心配無い、存分に放て)

(了解だ)




零牙は閉じていた眼を開き、3人に告げる。

「皇の太刀を使う」

「零牙・・・」

「皇の太刀・・・?」

「確か・・・エキシビション・マッチで、【凰照澪凰(おうしょうみお)】殿が使おうとした剣閃か?」

「ああ、そうだ」

「「・・・‼︎」」

未遂に終わったが、澪凰が放とうとした皇の太刀をレリウスとジークリンデは思い返した。

(次元違いの魔力・剣気・権能・・・同質では無いそれぞれを反発も相殺もさせる事なく完全に一つの力として収束させる・・・並大抵の制御技術と魔力量ではなし得ないが・・・。やはり君はそれが可能だと言うのか、零牙・・・)

(世界でもトップクラスと言える強者達をも戦慄させる程の剣閃・・・彼も使えるのか・・・⁉︎)

“あの背筋が凍り付く程の剣閃を使えるのか?”と、レリウスとジークリンデが零牙を見つめていると、刹那が心配そうに尋ねる。

「零牙。本当に大丈夫?なんだったらあたしがーー」

その先の言葉を言わせない様、零牙は遮る。

「大丈夫だ、それに刹那。いくら魔力無効化出来るからと言って、俺は絶対にそのやり方をさせるつもりは絶対に無い」

「零牙・・・!」

キッパリと断言する零牙の言葉に戦場であるにも関わらず、刹那はドクンと胸が高鳴った。

零牙は刹那が言おうとしていた事を予測出来ていた。

魔力無効化能力を持つ刹那は、自身の身を呈して爆発を抑え込もうかと零牙に提案しようとしていたのだ。

だが零牙には、幾ら少しでも魔力を含むものは一切効かないと言っても、そんな自爆染みた方法を取らせる気は絶対に無かった。

「だから俺のフォローを頼む」

「分かった・・・アイツの攻撃を防げばいいのね?」

「ああ。今の俺の能力では、皇の太刀を放つまで少し時間がかかる。それまでの間でいい」

「分かったわ、零牙」

刹那は矢の奔流を無効化しながら零牙の前方に移動し、両腕と両翼をクロスさせて防御態勢を取り、零牙を背後に庇う様に陣取った。

「零牙にはもう一発も被弾させない」

「・・・・・・助かる、刹那」

零牙としては魔力無効化で大丈夫だと理解していても、守るべき大切な存在を矢面に立たせるなど若干複雑な気持ちだが、刹那の気持ちを汲んで素直に感謝を述べた。

「俺たちはどうすれば良い?」

レリウスとジークリンデが、矢の奔流を防ぎながら零牙に視線を向ける。

「二人は刹那の側面をカバーしてくれ」

「「了解」」

レリウスとジークリンデは、刹那の両側へと移動し防御態勢を取った。

刹那を先頭にした鏃型の陣形を、4人は形成した。

「ハハハハハハハハハ‼︎」

レラジェは両腕のクロスボウから無尽の魔力矢を乱射し、血走った様なツインアイで狂ったように高笑いをし続けていた。

既にレラジェは極限の全能感によって複雑な思考をする事が出来ず、暴走する魔力の赴くままにただ力を出力し続ける装置に成り果てていた。

(零牙、もう猶予は無いぞ!)

零牙を通して内側から外界を視ているサイファスは、レラジェの深淵で歪に圧縮する魔力が激しく振動し始めた事を把握していた。

「分かった、始めるぞ」

そう言うと零牙は右手のショットガンを自身の位相空間へと納め、左手の天羽々斬【(スメラギ)】の切っ先を天空に向けて静かに掲げた。

矢の奔流による轟音すらも、醸し出す”気配“のみで掻き消す様な静寂を生み出すその流麗な動作は、まるで嵐の前の静けさだった。

一拍の後、零牙の魔力と剣気が次元違いに高まっていく。

「ーー終を謳おう」

零牙の魔力と剣気を完全に融合した力は更に膨れ上がり天空へと渦を巻き、その余波だけで周囲に満ちるレラジェの矢を掻き消し、零牙の権能が自身を中心とした絶対不可侵領域を形成していく。

「「・・・‼︎」」

レリウスとジークリンデは、背後で一瞬で膨れ上がった力に驚愕した。

(・・・っ‼︎俺との試合も含めてここまで連戦だと言うのに、まだこれ程の魔力を残していたのか・・・‼︎)

(何という膨大な魔力だ・・・‼︎私やレリウス以上のーーいや、もはや魔王クラスかそれ以上の・・・‼︎)

「ハハハハハハハハハ⁉︎」

自分が放つ奔流の中でいきなり出現した力の暴威に気付いたレラジェが、狂った高笑いで驚愕しながら更に魔力を注ぎ込み、奔流を構成する矢を強化した。

矢が強化された事に気付いた刹那が、淡々と断言する。

「無駄よ。この領域の前ではその程度の攻撃など意味は無いわ。たとえ通ったとしても・・・あたしがいる限り、零牙の邪魔はさせない」

零牙は自分を守る刹那に頼もしさと安心感を感じながら、更に魔力を高めていく。






ーーギチ・・・ギチギチ・・・

鎖(枷)が震える。

(・・・・)

零牙の内に存在するサイファスは魔力制御をフォローしながら、零牙の“深淵”から響くその音を聴いていた。

魔力感知に長けた者であれば、限界まで引き延ばされながら抵抗する鎖の音が聞こえるだろう。

先のチーム・ワームウッドとの試合と同じくこんな限界までーーましてや零牙が“現段階”以上の魔力を総動員している状態であれば鎖(枷)が砕けちるのは、大いに予測出来た。

だが今回は違うーー

ーージャララララ・・・・

限界まで引き延ばされ砕け散るかと思われた鎖(枷)は、その拘束を“全て”緩めた。

ーーゴォウウ‼︎

その瞬間ーー鎖(枷)の内側から食い破らんとしていた魔力が、緩まった拘束の隙間から一気に溢れ出す。

零牙の“深淵”より溢れる魔力は、“現段階”で使える魔力よりもーー質・密度・総量・純度・圧縮率等、全ての面で何千何万何億と計り知れない程に”進化“していた。

しかもその魔力量は際限が無く、”必要量“を供給する為に緩まった鎖(枷)で制御されているにも関わらず無尽蔵に溢れ出し、零牙の内を満たしていく。

(フ・・・これなら俺のフォローを不要かな?)

零牙の次元違いの魔力の中で【黒皇龍サイファス】は、細かい魔力制御を続けながら呟いた。




ーーゴォウウ‼︎

天に向かって渦巻く魔力と剣気の暴威が、更に出力を増して荒れ狂う。

零牙の魔力に呼応して周囲の空間が歪み始め、空間そのものが震え始め、遥か下方の大地が隆起し砕け散る。

猛り狂う龍の尻尾の様に暴れうねる零牙の魔力の末端が、爪で引き裂いた様な裂傷を空間に残す。

そして渦巻く莫大な魔力は、零牙を中心として形成されている絶対不可侵領域たる不可視の極高重力力場を可視化出来る程に漆黒に染め上げ、瞬時にスフィア状に拡大展開していく。

スフィア状に拡がった漆黒の領域は、刹那・レリウス・ジークリンデの3人を包み込むと同時に展開を完了し、垂れ流される様に継続されていたレラジェの攻撃を完全にシャットアウトした。

「ハハハハハハハハハ⁉︎ーーハハハハハハハハハ‼︎」

自分の攻撃が無意味なものされた事に気付いたレラジェが更に矢の奔流を苛烈にするが、悉く零牙の“龍域”によって無意味と化していく。


そして零牙は、謳う様に終わりを紡ぐ。


「始まりにして終わり、終極にして始原。我が太刀は創滅の具現・・・」

展開されたスフィア状の龍域も、天を貫き渦巻く嵐の様な魔力と剣気も、零牙から溢れ出した無尽なる力のその総てが、左手に持つ天羽々斬【(スメラギ)】の刀身に極密度に収束・圧縮・凝縮し、漆黒を白銀で縁取った力が刀身を黒銀に染め上げた。

そして周囲も突如、色彩を無くしたかの様に黒銀に染まる。






「顕現するは(つい)の一太刀」

その言葉を零牙が紡ぐと、刹那・レリウス・ジークリンデが射線を開ける様に後ろに退く。

周囲が静寂に包まれ、“世界はその時に備える”。

敵対者を不可視の極高重力が襲い、首を垂れる様に強制的に跪かせる。







ーー謳われたのは皇の一撃。

ーー神の一撃など比べる事すら烏滸がましい、一刀絶殺の一閃。

静寂が更なる静寂を引き寄せ、無音の世界が訪れる。

そして世界は、“皇”の宣告のみを響かせる。

『零牙・・・!』

側にいる刹那以外の婚約者達も離れた場所で戦闘を行いつつも、零牙との深淵での”繋がり“によって状況を把握し、久方ぶりに感じる次元違いのその力に胸が高鳴る。

ーー黒き皇が終わりを告げる。




















「皇の太刀ーー【(ぜろ)】」

天羽々斬【(スメラギ)】が、真っ直ぐと振り下ろされた。

白銀に輝く刀身を黒銀に染め上げた力が、極めて美しい縦一文字の極大の斬撃波となって放たれた。


攻撃に伴う音は無い、禍々しくも神々しい黒銀の斬撃波は瞬く隙も無く“森羅万象を薙いだ“。

だが確かに斬撃波は、レラジェを縦に両断する様に身体を通り抜けている。

だがレラジェは、いや零牙以外の3人にも”零の剣戟”を認識出来ていない。

認識も、知覚も、思考も、感知も、防御も、回避も不能だった。


ーー“もう終わっているのだから”。




黒銀の世界が、色彩と音を取り戻す。

だが音の方は、まだ極めて静寂に近い。

いち早く状況を察した刹那が呟く。

「終わりね・・・」

「・・・・一体・・・?」

「・・・何、が・・・?」

レリウスとジークリンデは、イマイチ状況を飲み込めずにいた。




「・・・・・・・・は・・・・・・?」

レラジェが間抜けな声を絞り出す。

レラジェは未だ健在だった。

「何が・・・どう、なって・・・」

自身の身体を確認する様に見ると、程なくレラジェは違和感を感じる。

「亡我の力が消えている・・・?」

あれほど無駄に垂れ流す程に溢れていた無尽の魔力が、綺麗さっぱり無くなっていた。

それどころか身に纏うレラジェの顕鎧も、どういう訳か翠色だった色が真っ白になっていた。

「・・・・ッ!」

遥か上空より自分を見下ろす存在の視線にレラジェは気付き、茫然と見上げる。

レラジェが見上げた視線の先で、黒き皇は告げる。









「ーー零に還れ」

その瞬間ーー

ーードゴォォォォォォンッ‼︎

レラジェはもちろん、レラジェの立っていた軸線上の“背景”の全てが、文字通り“消滅”した。

大地は一部分が斬り取られた様に端から端まで裂断され、真っ直ぐと歪み無く縦一文字の極大の刀傷が刻まれた。

戦闘フィールドという位相空間の終端である壁にも、大地から続く極大の刀傷が刻み込まれており、その傷痕からは、無数の星が瞬く様な景色が特徴的な“次元の狭間”が覗いていた。

レラジェはまるで、書いた文字を消す様に消えた。

零牙の剣戟によって因果・運命・宿命・時間・座標・起源等、その存在の森羅万象は完全に抹消され、”零“に還った。







「終わったのか・・・?」

「ああ。奴は消えた」

レリウスの呟きに、零牙は淡々と答えた。

零牙達四人が空間に刻まれた刀傷を見下ろしていると、システムアナウンスが響く。




ーー空間耐久値が限界に達しました。安全措置により、選手のフィールド外への転移を開始します。


フィールドに穿たれた深いクレーター上空に滞空する四人の足元に魔法陣が展開され、程なく魔法陣が身体を上昇する様に通過していくと共に、零牙達はリリスドームの会場内に転移させられていった。







ーー・・・三章-十三節【始原と終局を齎す皇の太刀】・終






















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