一章ー三節[月の凰]
俺達はアリシアさん達4人を連れて、家に戻って来ていた。
その道すがら、後の二人も紹介してくれた。
橙色の眼で少し跳ねた金髪のロングストレートの女性の名が【クレア・ガウェイン】、という事は白銀の長剣は【聖剣・ガラティーン】という事になる。
紺色の髪と紫の瞳の女性の名が<エレイン・ランスロット>、驚いた事にあの漆黒の長剣は【聖剣・アロンダイト】だという、今はともかく、この街に潜伏しているというヴォーティガンについて聞くのが先決だ。
ー・・・・
家のリビングで俺たちは話を聞く為にテーブルについた・・・・・が、一人ついていない人がいた。
アリシアさんがバツが悪そうに立っていた。
「アリシア、そんな所に立ってないで早く座りなさい」
「・・・いえ、その・・・」
まだ、勘違いで襲った事を気にしているんだな。
「アリシアさん、さっきもいいましたけど、気にしてませんから。間違える事の一つや二つぐらい誰でも有りますから」
俺がアリシアさんに言うと
「そう言ってくださるのはありがたいのですが、よりによって、凰月の方に刃を向けるなどあってはならない事です」
「・・・さっきから気になっていたんですけど、アリシアさん達は俺の一族と関係があるんですか?」
アリシアさんの言葉を聞き、さっきから疑問に思っていたことを俺は聞いた。
「ええ、そうだけど?知らなかった?」
モルガンさんが答えてくれたが、俺は聞いた事がなかったので
「姉さんは、知ってた?」
姉さんが知っているかと思い、俺は聞いた。
「いや、初耳だ。それにペンドラゴン家なんて有名な一族と関係があるなど、聞いていたら、忘れようもないが・・・。・・・・・・・いや、まさかな」
何かに気づいたように呟いた、姉さんに聞こうと口を開いたーーその時
ピピッピピッと電子音が響き、通信が入った。
魔導ドローンが飛んできて、空中で静止して、ディスプレイを投影する。
投影されたディスプレイには、凰月の紋章が表示されていた。
俺が通信に応えるより先に、通信の相手が映し出される。ーーまあ、この凰月の専用回線からして相手は想像できた。
「顔合わせは済んだかしら?」
映し出されたのは、俺や姉さんと同じ黒銀色した長い髪と銀灰色の瞳、整った顔、スタイルの良い体を着物の様な戦闘服に身を包み、上から銀に黒のラインと凰月の紋章が刺繍された陣羽織を羽織り、本人が言うに外見年齢は、20代半ばの美女。
【凰月ツクヨミ】
凰月一族・当主にして、俺と姉さんの祖母である。
「・・・婆さん」
婆さんの姿が映されると、俺と姉さん以外の全員が礼を取った。
「無事に到着したようで何より。・・・・あら?アリシアちゃんはなんだか落ち込んでるようだけど?」
婆さんがアリシアさんの様子を見て問うがアリシアさんが答えるより先に悟ったようで
「なるほどね、零牙達と間違えて戦ったから、落ち込んでいるのね。そんな事、気にする必要は無いわよ」
「・・・零牙様と同じ事をおっしゃってくださるのですね」
「剣は言葉よりも雄弁に語る。手合わせしたのなら、零牙達の実力は貴女達と共闘するのに問題ないでしょう?」
「ええ、強かったです。それに、見事な剣筋でした」
「なら、よし!・・・さて、アリシアさん。気持ちを切り替えて、零牙も気にしてないのだから」
「ええ、ありがとうございます」
ようやく、アリシアさんも立ち直ったようだ。
「・・・それはそうと、婆さん。私達が戦った事を知っていたのか?」
俺も疑問に思っていた事を姉さんが聞いた。
「愚問よ冬華。この都市は、私の庭よ?ちょっと感覚を広げれば、大抵の事は感知できるわ」
まぁ、そうだろうな婆さんなら、その程度は余裕だろう。
「はぁ・・・全く、ペンドラゴン家の者たちが関係者というのも初耳だぞ。それに訪ねて来るなら、連絡をくれれば良かっただろう」
溜め息をつきながら姉さんが言う。
「連絡が遅れたのは謝るわ。ちょっと情報を整理していたの」
「それで、全員が家に揃ったタイミングで連絡してきたという事は、邪竜についての情報か?」
「ええ、その通りよ。ちょうど彼女達から説明してもらうのでしょう?アリシアさん達の話と並行して話そうと思ってたのよ。アリシアさん、モルガンさん、説明を」
婆さんは、二人を促すとアリシアさんが話し出す。
「まずは私から説明を、一カ月前、旧キャメロット城の地下洞窟内に封印されていたヴォーティガンが、復活しました」
「・・・封印?伝説では、アーサー王が、倒したはずでは?」
俺の記憶では、確か倒したと記されていた筈だ。
「いいえ、倒せても、滅ぼせてはいなかったのです。その為、封印する事しか出来なかったようです」
(何故だ?アーサー王は、聖剣と聖槍を所有していただろう?この二つは天羽々斬と同ランクの物だ。どちらか一方でも、邪竜如き、滅ぼせないわけはないだろう?)
サイファスが、魔力で小さいドラゴンを形どった姿で俺の側に現れて問いかける。
「当時、アーサー王は、聖槍の真名を知らなかったらしいわ。それ故に聖槍の真の力を引き出すことが出来ずにいたの」
それには、モルガンさんが答えた。
(それで、滅ぼし切れなかったのか・・・。だが、それでも奴は聖槍に貫かれたのだろう?奴の力は相当削がれた筈だ)
「ええ、その通りです。現に奴は、ツクヨミ様によると。我々が来る三日前にこの都市に入ったようですが。動きが無いそうです」
「奴を感知してから、探っているのだけど。まだ行動を起こす気は無いようね。・・・だけど、此処に来た目的は見当がつくわ」
「龍脈か・・・」
姉さんが呟いた。
「はい、私たちもツクヨミ様から事前に、ヴォーティガンがこの地に来た理由についての推察を聞いていたのですが。ここに来て確信しました。目的は、恐らく、この都市の強大な龍脈の力を得ることでしょう。龍脈については、私たちよりも貴女方の方が詳しいでしょう」
龍脈ーー大地の中を走る「気」のエネルギーラインの中で最も大きなものを龍脈と言う。そして、龍脈に流れる力は、あらゆる生物にとって恵みをもたらし、その力を浴びれば、簡単に傷を癒す事が出来る。もちろんその力を己に取り込めば、力を得ることができる。
膨大な力を受け止め切れればの話だが・・・。
そしてこの龍凰市は、龍脈のエネルギーが噴き上がる特大の龍穴の上に位置している。
その為、龍凰市は特大のエネルギーが渦巻いている。
そして、この地の龍脈が特異なのは、特にドラゴンとの相性が良い事だ。したがって、ドラゴンやドラゴンに類する者にとっては、力を高められる絶好のパワースポットになっている。
「この地の龍穴の情報もツクヨミ様より頂いたので、私たちが推測したヴォーティガンの目的は・・・。
アーサー王との戦いで負った傷の回復と、この地の龍脈のエネルギーをその身に取り込み、全盛期を超える力を得ること、そして・・・。ペンドラゴン、・・・私の一族への復讐だと思います」
少し沈黙が流れる。
そして、婆さんの声が響く。
「さて、私から依頼するわね。目的は、アリシアさん達と協力してここに居る全員でのヴォーティガンの完全討滅。いいわね?」
「ああ、断る理由はないよ。みんなもいいか?」
俺は依頼を了承して、皆に聞いた。
「お前がやるんだ。私たちに異存はない」
姉さんのその言葉に他の皆も頷いた。
「感謝します・・・。零牙様」
「所で、アリシアさん。さっきから言おうと思っていたのだけど、貴女とモルガンさんは、零牙に敬称をつけなくていいのよ?」
『・・・は?・・・』
全員が疑問に思った。と言うか・・・。
「・・・婆さん。今・・・何と?」
「ん?・・・だから、アリシアさんとモルガンさんは零牙に敬称を付けなくていいのよ」
そう言った婆さんは、不思議そうな表情で疑問を浮かべた俺たちを見渡した。
俺に対して敬称を付けなくていい。俺も自分で言うのもなんだが、凰月の関係者、特に一族に忠誠を誓っている者達は、必ず凰月の名を持つ者に対して敬称を付けて呼ぶ。だだし、俺に関しては例外が有る。俺に対して敬称を付けなくていい括りが二つあり、一つは家族、姉、両親、祖父母、これはまあ例外というより普通の事だ。もう一つは、婚約者達だ。俺の婚約者になった者は、敬称を付けなくていいとされている。つまり、身内ではない、アリシアさんとモルガンさんが敬称を付けなくていいという事は、理由は一つしかない。二人は俺の婚約者だという事、だが、それには疑問が残る。婚約者達には、ある共通点がある。
それは、俺の婚約者と婆さんに認められた者は、一族共々、姓に月を冠する事を許される。しかし、アリシアさんとモルガンさんは月を入れた性は、名乗っていなかったが・・・さすがに今、婆さんが認めた訳じゃないだろうが、どういう事だ?
「ああ、なるほど。零牙達の様子から察するに、二人共、ちゃんと名乗っていなかったのね」
婆さんがそう言うと、アリシアさんが赤くなりながら
「い、いえ、そのぉ、機を逸したと言いますか・・・。自分のタイミングでと言いますか・・・」
アリシアさんの様子を見てモルガンさんがフォローした。
「申し訳ございません。ツクヨミ様。アリシアの言う通り、言いそびれてしまいした。・・・では、改めまして。アリシア」
モルガンさんはアリシアさんを促して共に俺達に向かい立ち並んだ。
「申し遅れました。私のフルネームは、モルガン・聖月・ペンドラゴンです」
「私は、アリシア・聖月・ペンドラゴンです」
「零牙さんの婚約者としては新米ですが、妹共々宜しくお願いします」
「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
モルガンさんは笑みを浮かべているが冷静に淑女と言った感じで言い。アリシアさん顔を赤くしながら告げた。
「・・・あ、えっと、はい・・・」
俺はまだ、整理出来ていなかったが、返事をしなければならないと思い、そんな返事しか出来なかった。
他の皆も言葉を発せず、啞然としていた。
婆さんは、画面の向こうで微笑みを浮かべて俺達の反応を見ていた。
ともあれ、俺が確実に分かったのは
「これって・・・、つまり」
「一気に二人も増えたという事ですね・・・」
この日、俺の婚約者が一気に二人も増えた事実だった。
ー・・三節・終