三章-十節【亡霊とマルコシアスと生ける伝説】
今回のカオス・コンバット学生大会において、試合数の多さ故にリリス・ドームの他にも会場が使用されていた。
と言うのも、リリス・ドームを中心とした六芒星型に他のドームが建造されており、それぞれ“筆頭”を除いた“七大罪”の名を冠されていた。
その一つ、“色欲”を冠する【ラスト・ドーム】では防衛戦が起こっていた。
ーー・・・ラスト・ドーム内
試合時には、位相空間の戦闘フィールドが展開される会場の中央部だが、通常時は障害物が何も無い闘技場の様な作りとなっている。
これはリリスも含めた他の会場も同じ作りであり、用途に合わせてた位相空間を即座に展開する事に特化した仕様となっている。
現在、その通常フィールドとも言うべき会場中央部で、双子の姉妹とそのチーム・メンバー達が大部隊相手に奮戦していた。
ーーダァン‼︎ダァン‼︎ダァン‼︎
規則正しい銃声を響かせ、ボルトアクション式の魔導銃が火を噴いた。
放たれた“氷”の魔力弾は、リーダー格の少女に目掛けて突撃してきたレメゲトン近接兵を正確に貫き、内側から外側に向けて生成された小型の氷柱で串刺しにしてその命を刈り取った。
氷の弾丸を放ったのは、紅く縁取られた蒼い長髪の厳格そうな美少女である【ルーヴ・K・マルコシアス】。
彼女は、会場中央に展開中である多数の民間人を保護しているドーム状の魔術結界を守る様に陣取り、正確かつ確実に致命傷を与える射撃で敵を迎撃している。
ーーダダダダダダダダダダダ‼︎
その双子の妹であり、蒼く縁取られた紅い長髪の美少女である【ルーネ・k・マルコシアス】。
彼女は両手に持ったサブマシンガン型の魔導銃を敵群に向けて乱射し、彼女の銃からは焔の魔力弾が放たれていた。
出鱈目に売っている様に見えるが、彼女は左手のサブマシンガンで敵を薙ぐ様に撃ち、右手のサブマシンガンで敵の侵攻方向の地面を撃っていた。
彼女が放つ焔の魔力弾は、着弾時に極めて小規模な爆発を起こすもので、敵を貫けば内側から破壊し、地面に放たれたものは小さな火柱を上げて侵攻を妨げる。
二人のそれぞれの専属メイドは、魔力を付与したナイフを投擲して主の死角をカバーする様に立ち回り、ほ他のメンバーも結界の周囲に展開し、銃火器でレメゲトンに応戦している。
「恐れるな‼︎混血共を皆殺しにしーーぐぁっ⁉︎」
そう怒号の様に叫んだレメゲトンの近接兵を、ルーヴが撃ち抜いた。
しかし味方が目の前で撃ち抜かれても、他のレメゲトン兵はその事に怯む事なく攻撃を続行した。
その様子を見たメンバーの少年が、少したじろいだ。
「こ、コイツら・・・味方がやられても構わないのか⁉︎」
少年に言葉に、側で戦う少女が同意する。
「ええ、死ぬ事を恐れていない様に捨て身だわ・・・」
レメゲトン兵は、“混血を排除し、魔界を有るべき姿に”ーーその使命感の元に行動しており、決起の時とも言うべき今回の作戦に奮い立っており、戦意や殺気は鬼気迫るものがあった。
「気を強く保て!臆した所からつけ入れられるぞ‼︎今は敵を倒す事だけ考えろ‼︎」
「「り、了解・・・!」」
ルーヴは射撃してはコッキング、射撃してはコッキングの動作を一秒にも満たない速度で行い、多数のレメゲトン兵を撃ち倒していく。
(とは言え、無理もないか・・・。コイツらはそこらのごろつき共とは訳が違う。テロリストではあるが訓練された戦士だ。我がチーム・メンバーの中には、こうした実戦の経験が無い者達も多い。気圧されて当然だ。それにこの数・・・さっきから敵の増援は止む事が無い。これ以上の戦闘は、我等の様な雛鳥だけでは厳しいな・・・」
チーム・マルコシアスのリーダー・副リーダーであるルーヴとルーネ、チームの中で特に実戦経験豊富かつ相応以上の戦闘能力を有する二人が中心となって迎撃している。
マルコシアス姉妹が200人以上と敵を倒していても、レメゲトンは倒した数を上回る人数で増援を送り込み続け、ラスト・ドームにはチーム・マルコシアスを遥かに上回る人数のレメゲトン兵が展開していた。
「姉様」
攻撃を仕掛けてくるレメゲトン兵を、一切の集中を切らさずに近づく者から撃ち抜いていくルーヴの元へ、同じく両手のサブマシンガンが撃ち続けて敵を倒しているルーネが側に近付き、ルーヴとルーネは背中合わせになった。
二人は背中合わせで銃を撃ち、変わらず敵を倒しながら話し合う。
「姉様、このままではジリ貧です・・・!数で劣る我等にこれ以上の消耗戦は不利です・・・!」
ルーネが両手のサブマシンガンを扇状に薙ぐ様に射撃し、多数の敵を仕留める。
「分かっている。だが、民間人を保護している結界が動かせない以上、我等が倒れる訳にはいかない・・・‼︎」
ルーヴのボルトアクション式の魔導銃が火を吹き、大技を放つために詠唱していた魔術士の頭を正確に貫いて即死させた。
「・・・姉上がいてくれたら」
「・・・・・・そうだな」
ルーネが寂しそうにポツリとそう呟くと、一瞬の間をおいてルーヴも寂しそうに同意した。
ルーヴは右手、ルーネは左手にはめている、元は一つだった指輪。
その指輪が、彼女達の寂しさに呼応する様に小さく銃火を反射した。
彼女達には姉がいた。
【グライフ・k・マルコシアス】ーーマルコシアスの長女であり、一族史上最強と謳われたガンスリンガー。
マルコシアス一族は銃火器での戦闘を得手としており、弾丸にマルコシアス一族の特性である“焔と氷”を用いる事で、およそ“通常規格”の魔導銃が出せない火力を発揮する事が出来る。
統一期と呼ばれる群雄割拠の時代においてマルコシアスは、ルシフェル最初の配下である”10氏族“として名を連ね、その類稀なる中遠距離攻撃能力で重用された一族である。
その中でもグライフは、一族史上初の”深淵能力を通常特性として発現した初の存在だった。
しかし4年前ーー任務で向かった地で襲撃に遭い、“十数人の従者”共々行方不明となった。
二人はこの戦闘の最中、ずっと心の底で思っていたーー“姉上ならばこの程度の敵など、防衛するまでも無く終わらせていた”と。
敵を食い止めながらではあるが、そんな事を考えていたせいか、遠距離から迫る危険に気付けなかった。
「お嬢様ッ‼︎」
ルーヴの専属メイドである栗色の髪の美少女が、鋭く警告の声を上げた。
「「ッ⁉︎」」
その声にようやく二人は自分達に迫る危険を察知し、そちらに弾かれる様に顔を向ける。
二人の視線先には、既に着弾まで十メートル以内に迫ったロケット弾が二人を捉えており、着弾まで数秒も無かった。
専属メイドの二人も、別の敵に対応しながらもナイフをロケット弾に向けて投擲していたが、間に合わない。
迫る危険に感覚は引き伸ばされ、その感覚の中で二人は撃ち落とそうと同時に銃を向ける為、腕を動かす。
(クソッ・・・間に合わない・・・ッ‼︎)
(たとえ私か姉様が間に合ったとしても、爆風は避けられない・・・・っ‼︎)
銃口をロケット弾に向けている刹那、二人は自分達の被弾を覚悟した。
((・・・姉上ッ・・・‼︎))
ロケット弾が二人から2メートル以内にまで迫った、その時だった。
ーーダゥン‼︎
ーーバシュン‼︎
地の底から響く様な重い銃声が鳴り響くと共に、ロケット弾が直上から放たれた弾丸に貫かれ、“ロケット弾の爆発では無い“極めて小規模な爆発を起こし、”跡形も無く消滅“した。
二人が呆気に取られていると、二人の直上からくぐもった凛々しい声が響く。
「よく耐えた、雛鳥達よ」
『ーー⁉︎』
マルコシアスの面々が空を見上げると、藍色のロングコートをマントの様に靡かせながら仮面の人物が降って来た。
龍の頭部を模した仮面をつけた戦闘スーツの女性は、ドーム状の結界の頂点に降り立った。
程なくして、結界の周囲に展開したマルコシアスの面々の前に、豹・サイ・タカ・羊・鴉・ジャッカルを模した仮面をつけ、漆黒の戦闘スーツを着用した6人の男女が降り立った。
突然の乱入に、チーム・マルコシアスもレメゲトンの双方の攻撃が止んだ。
「な、何だ・・・⁉︎敵の増援か・・・⁉︎」
「この気・・・!尋常では無いぞ・・・⁉︎」
今回は隠密行動は必要ない為、静かな殺気を放つ7人。
放たれる殺気をレメゲトンの兵達は感じ取り、その圧倒的な強者の気配に気圧された。
「あ、貴女方は・・・?」
ルーネがおずおずと最初に降り立った龍の仮面の女性に聞いた。
「安心しろ、我等は味方だ」
仮面の女性は、そちらに顔を向ける事無く短く答えた。
マルコシアスの面々は、その言葉に安堵した。
(何だか・・・)
(この人なら大丈夫だという確信がある・・・。何故?気配だけで分かってしまう程の強者だから・・・?)
龍の仮面の女性と言葉を交わしたルーネとその側で会話を聞いていたルーヴは、何処か懐かしさを感じていた。
二人がそう感じている事も露知らず、龍の仮面の女性ーー【ファントム】は、大型ハンドガンの銃身を胸の前でクロスする様に構えながら部下達に命じる。
「【亡霊の牙】総員に命じる・・・・。レメゲトンを殲滅せよ」
ファントムの仮面型タクティカル・バイザーの眼が鋭く光る。
『イエス・マム‼︎』
隊長の命令に6人の隊員達は即応し、それと同時にファントムと同様に仮面の眼が光った。
次の瞬間、6人の亡霊達が一斉に攻撃を開始した。
まずはタカの仮面のホークーー彼女は瞬時に“顕鎧の翼を部分顕現しながら500メートル程跳躍し、そこから狙撃を開始した。
ーーダン‼︎ダン‼︎ダン‼︎ダダダダダン‼︎
「馬鹿な・・⁉︎あの一瞬であそこまで・・・⁉︎」
「装備から予想していたが、やはりスナイパーだったか!動き続けろ‼︎動き続けて狙いを・・・グァッ⁉︎」
そう言ったレメゲトン兵は、回避行動をとった瞬間に撃ち抜かれた。
「クソッ・・・やられた⁉︎ならば障壁をーー」
回避を困難だと悟ったレメゲトン兵は、防御障壁を展開した。
ーーダダダダダダダン‼︎
ーーバリン
「馬鹿・・・な・・・⁉︎」
しかし防御障壁は容易く撃ち砕かれ、5連射で放たれていた弾丸がレメゲトン兵を蜂の巣にした。
ホークのスナイパーライフルは単射・連射と切り替えられる特注品であり、彼女の卓越した狙撃技術と高速空中機動により、スナイパーの枠に囚われない高機動砲狙撃戦を繰り広げる事が出来る。
ホークは“タカ”の様に鋭い機動を描きながら、上空から敵を狙い撃っていく。
レメゲトン兵もホークを攻撃しようとするが、地上の敵を警戒しながら、高速飛行している彼女を捉えるのは困難だった。
ーーブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
結界の東側で、高速回転する6連装の銃身が唸りを上げていた。
そこから毎分1200発という凄まじいレートで放たれる魔力弾が、レメゲトン兵を薙ぎ払っていく。
本来、戦闘機にでも搭載されているものではないかと思う程のガトリング砲で超密度の弾幕を張るのは、サイの仮面の大柄な男ーーライノだ。
ライノは、グリップ付近の両側に中心で真っ二つに割ったかの様な大型の盾を備え、身の丈を越すほどの全長を有するガトリング砲を軽々と扱っていた。
盾付きガトリング砲を盾部分の下方先端部をアンカーの様に地面に突き立てながら構え、民間人を保護する結界とマルコシアスの面々を守る様に立ち塞がり、ガトリング砲を撃ち続ける。
更に言えば、ライノのガトリング砲から放たれるのは本来は“榴弾”が基本ではあるが弾種の選択が可能であり、防衛対象への被害を考慮して今回は通常の魔力弾を選択していた。
レメゲトン兵もライノに向けて魔導銃や魔術などの遠距離攻撃で集中砲火を浴びせるがーー
「馬鹿な!!無傷だと⁉︎」
「100人以上の一斉砲火にビクともしない・・・⁉︎奴の魔力障壁の出力は、我々の想像を超えているとでも言うのか⁉︎」
「攻撃し続けろ‼︎いくら出力が高かろうが、無限ではーー」
レメゲトン兵の言葉を魔力弾の豪雨が掻き消していく。
「ぐぁぁっ⁉︎」
「クソッ!!ちょこまかと‼︎ーーッ‼︎がは・・・っ‼︎」
「コイツら、なんて動きをっ‼︎ーーぐぁぁぁぁぁ‼︎」
ライノの反対側で、レメゲトン兵が阿吽叫喚の声を上げていた。
その理由は、彼等の間を縦横無尽に駆け巡る二人の女性にあった。
パンサーは、ダブルバレルの銃身をサブマシンガンの物にしたドラムマガジン付きのソードオフショットガンを両手に装備している。
更に銃身のアンダーレールには、爪を模したコンバットナイフを備えている。
パンサーは会場内に展開するレメゲトン兵の間を高速移動しながら、散弾の雨を降らせすれ違いざまに急所を斬りつけながら、既に多数の敵を仕留めていた。
ジャッカルは、両手のサブマシンガンの弾種を徹甲弾・散弾・スラグ弾・榴弾と随時切り替えながら高速射撃戦闘を行っていた。
「ハハッ、遅ぇよ‼︎その程度の実力で精鋭部隊とか、笑わせるぜ‼︎」
レメゲトン兵の攻撃を一発も被弾する事無く仕留め続けるジャッカルが、男勝りの粗暴な口調で吐き捨てる。
「余計な事を言っていないで、もっと殲滅速度を上げろジャッカル」
通信越しのその言葉に、同じく被弾せずに高速で駆け巡り、ジャッカルよりも早い速度で多数の敵を仕留め続けるパンサーが嗜める様に言った。
「分かってるよ、姉さん!今回は隠密じゃないから、はしゃいじまっただけだって!ーーじゃ・・・ギアを上げるか・・・‼︎」
ジャッカルの動きが更に加速する。
それまでも軌跡を残す様な速度だったのが、軌跡すら残さずに所々に残像を残す機動へと変化した。
ジャッカルが残像を残した場所は、多数の敵が次々に倒れていく。
ジャッカルに呼応する様に、パンサーも殲滅速度を加速させる。
しなやかで流麗な身のこなしで、瞬間移動したのかと錯覚させる程の低い姿勢での残像機動で、散弾の雨を降らしすれ違いざまに斬り伏せる。
レメゲトン兵も二人に攻撃を仕掛けるが、どれも明後日の方向か味方に向かい、残像に意味のない攻撃を加える。
かろうじて捉えられていた二人の姿を捉えられず、一人また一人もしくは十数人規模で、反撃もままならぬままに蹂躙されていった。
「クソッ・・・!何が・・・どうなっている!」
結界の南側のレメゲトン兵達は、恐怖に呑まれていた。
彼等前に立ち塞がっているのは、マルコシアスの面々数人だった。
数分前、仮面をつけた者がこちら側にはいなかったため、一気に攻め込んだ。
しかしーー
ーーザシュン‼︎
一番最前にいた五人の者達が突撃しようと一歩踏み出す、または攻撃動作を取ろうとした瞬間に静かな斬撃音が響き、五人全員が首から血飛沫を撒き散らしながら絶命したのだ。
初めは何が起こったのか分からず、構わずに攻撃を続けようとした。
だがそれ以降、少しでも攻撃の動作を見せた者から殺され、時には十数人規模で同時にその命を刈り取られた。
それが何回も繰り返されて被害が知らぬ間に100人を越えた頃、ようやくレメゲトン兵達は正体不明の攻撃を警戒し始める。
「何処から攻撃してきている⁉︎」
「あのガキ共じゃ無いとなると・・・増援に来た敵の仕業か!」
レメゲトン兵達は周囲を発狂気味に索敵する。
「お互いの背後を警戒しろ‼︎背中合わせでーー・・・ァ」
攻撃の殆どが死角からであると気づいたレメゲトン兵が注意を促すも、その言葉を最後まで発せられなかった。
そのレメゲトン兵が倒れた直後、結界の前で陣形を取るマルコシアスの面々を庇う様に、ようやくその正体を表した。
鴉を模した仮面にぴっちりとした戦闘スーツ、その上からは翼の様な全身を覆うケープを纏った女性ーー【レイヴン】は、周囲の戦闘音を感じさせない静寂を纏い、レメゲトン兵達を見据えていた。
彼女は仮面の瞳を爛々と輝かせ、無気質な仮面の奥から濃密な殺気を垂れ流す。
その静かな威圧に、相対するレメゲトン兵達は戦慄したじろいだ。
「・・・・・」
ーーチャキ・・・
自身が放つ威圧感に動けずにいるレメゲトン兵を見て小さく鼻で笑うと、レイヴンは右手に逆手に持った巨コンバットナイフ型の長剣を身体の前でゆっくりと構える。
バサァとケープが翼を広げるかの様に靡くと、魔力で形成された小型ナイフが羽が散らばる様に無数に宙を舞った。
レメゲトン兵達が呆気に取られて展開されたナイフ群に一斉に視線を向けた。
ヒラヒラと羽の様に舞うナイフ群は、レメゲトン兵達が視線を向けた直後にその場でピタリと滞空し、その鋭い切先を彼等に向けた。
「く・・・!」
「・・・・‼︎」
レメゲトン兵達は威圧感に呑まれながらも流石に危険を察し、ナイフ群を襲撃を迎え撃つ為に構える。
結界の南側に、レイヴンと彼女が相対するレメゲトン兵達の間に一瞬の静寂が訪れる。
静寂の後、予備動作も無くレイヴンが微かな残像を残して敵群に突撃した。
それと同時に、レイヴンが宙に展開した無数のナイフが横殴りの豪雨となってレメゲトン兵達に降り注いでいく。
「く、来るぞ・・・!」
「た、たかがナイフ如きなど、お、恐れる事は無い・・・‼︎」
「そんなこけおどしの攻撃など、我々レメゲトンには通用しない・・・‼︎」
一部の兵は強気な言葉を吐き、恐怖に呑まれまいとする。
しかし彼女と相対するレメゲトン兵の多くは、いつ自分が訳もわからずに殺されるのか、慄いていた。
程なく、ナイフの雨が降り注いでレメゲトン兵達はズタズタに引き裂かれていく。
『ぐあぁぁぁぁぁぁぁッ⁉︎』
ナイフの豪雨の中、レメゲトン兵達の断末魔が響き渡り、続々と地に倒れ伏していく。
辛うじてナイフの雨を凌げていた者は、レイヴンによる背後からの急所への凶刃によって、その命を刈り取られていった。
ラスト・ドームにレメゲトンが送り込み続ける援軍を、【亡霊の牙】によって斃された数が上回り始めた時ーー
ーードォォォォォォォン‼︎
突如、ラスト・ドーム近くの上空で布陣していたレメゲトンの戦艦の一隻が内側から爆発した。
戦艦は各所から爆発を起こしながら、やがて大爆発を引き起こして跡形も無く轟沈した。
「自爆・・・?馬鹿な・・・そんな事は有り得んだろう!」
近くの上空に布陣していた別の巡洋艦の艦橋では、まるで自ら“自爆”したか様に報告されていた。
「しかし、動力部の暴走が確認されています・・・」
クルーのその言葉を聞いて、艦長の男は唸る。
「ぬぅ・・・・・ハッキングの可能性は?」
「いえ、そう言った痕跡は確認出来ていません・・・」
「ならば、一体何故ーーん?」
艦長の男は言葉を途中で切り、ブリッジから見える甲板上に視線を向けた。
「おい、まだ命令は出していないぞ?誰が主砲を展開した!」
レメゲトンの数多ある基地から前線への正確な転移の為の座標・中継点としての役割を、この艦は担っていた。
その為、最初の奇襲によってこの空域の制空権を制した後は、中継拠点としての役割に専念する為に全砲門は収納もしくは停止させた状態だった。
しかし今ーー停止させたはずの火器が動いていた。
「わ、分かりません・・・‼︎勝手に動いて・・・!」
「誤作動だとでも言うのか?この記念すべき蜂起の日に?いいから止めろ‼︎」
そう言っている間にも全ての砲門が展開していき、魔力を供給し初めて射撃準備を開始する。
「だ、ダメです‼︎こちらから操作を一切受け付けません‼︎」
「何だと⁉︎」
ピピッという電子音が響き、ターゲットのロックが完了した事を知らせた。
火器管制を担当するクルーの男が、驚愕の声を上げる。
「そ、そんな・・・こんな事が・・・⁉︎」
「どうした、何を狙っている⁉︎」
火器管制クルーは、狼狽しながら報告する。
「み・・・味方艦隊です・・・」
「な・・・っ⁉︎」
「艦長、味方艦隊より通信要請です‼︎」
艦長の男は、通信の相手が誰なのかを容易に予想できた。
「我が艦隊が貴殿の艦からロックされているが、これはどういう事だ‼︎」
艦長席に座る男の前に空中ディスプレイが浮かび、艦がターゲットした艦隊の艦隊司令の男が映し出された。
「こちらも戸惑っているのだ!突然艦がこちらの操作を受け付けなくなったのだ!恐らく、何らかのハッキングを受けーー」
ーードシュゥゥゥ‼︎
その瞬間、男の艦からターゲットした艦隊に向けて全砲門を一斉射した。
多数の高出力ビームと夥しい数のミサイル群が、通信している艦隊司令の指揮する艦隊に襲いかかっていった。
まさか味方から撃たれるなど夢にも思っていなかった司令の艦隊は、何の防御・迎撃手段も展開しておらず、ハッキングにより味方を撃つ形になった巡洋艦の比較的火力が高めであった事から、全砲門斉射の火力により瞬く間に艦隊を沈めていった。
「き、貴様、何をっ⁉︎うぁぁぁぁぁぁっーー」
画面の向こう側で艦隊司令が炎に呑まれていき、通信がブツっと途切れた。
「ば・・・馬鹿な・・・こんな事が・・・⁉︎」
味方を裏切った形になった艦長の男は、今度は別の艦隊に向けて自艦が砲火を放つ様を、ただ茫然と見つめ続けた。
やがて動力部の異常を知らせる警告音が、艦橋に鳴り響く。
しかし、志を共にした味方を撃ったという事実に打ちのめされた艦長の男がその警告に気付いたのはーー自艦が大爆発を起こし、その炎に呑まれる寸前だった。
「6隻目っと・・・さて次は・・・」
凄まじい爆発を起こしながら轟沈する巡洋艦を見ながら、シープは次のターゲットを選定する。
「おっと・・・スナイパーの援軍かぁ。本来ならホークに任せる所だけど・・・」
新たに援軍として、会場内に30人のスナイパー部隊が高所に展開した。
既に会場内外の状況の変化を詳細に把握できる様に“網”を広げていたシープは、いち早く(ファントム除く)その事を感知し、機動狙撃戦を繰り広げるホークの様子をチラリと確認しながら呟いた。
「ホークは忙しいだろうしーー」
そこで言葉を切り、ドーム状の結界の頂点から”一歩も動かず“に敵を狩り続けるファントムに視線を送り、一応の指示を仰ぐ。
【龍眼】によって研ぎ澄まされた空間把握により、シープよりも先に増援を感知していたファントムは、シープのその視線に小さい頷きを持って返答した。
「よし・・・!とっとと退場して貰いますかぁ・・・‼︎」
シープは、グローブに包まれた両手に魔力を迸らせる。
通信越しでもそうでなくても、長年仕えてきたが故に分かる、ファントムの”頼む“と言った信頼の返答にシープは気合いを入れた。
援軍のレメゲトンスナイパー部隊が狙撃準備を整え30もの狙撃銃の銃口が、【亡霊の牙】とマルコシアスの面々に照準を合わせる。
「一発も撃たせないよ。【マギウス・ハック】‼︎」
シープは両腕を斬り払う様に振るい、誘導レーザーの様な魔力弾を真上に放った。
シープから放たれた魔力弾は適度に上昇した後、30の子弾に分裂し、正確にレメゲトンのスナイパー部隊の全員に高速で向かっていく。
ちなみにその魔力弾は、極めて不可視に近いものだった。
「貰った・・・!」
スナイパー部隊の一人が、伏せ撃ちの格好でライフルのスコープを覗き込みながら、確信を持って言った。
そのスコープで狙っていたのはーー蒼に縁取られた紅い髪の美少女の【ルーヴ・K・マルコシアス】だった。
ルーヴは下がれと言われたにも関わらず、頼ってばかりではいられないと敵を迎撃し続けていた。
夢中で眼前のレメゲトン兵を狙い撃つルーヴは、遠くから狙われている事に気付いていなかった。
そのスナイパーは確実に仕留める為、ルーヴの頭に照準し引き金を弾いた。
しかしーー
ーードォオンッ‼︎
「グァッ⁉︎!」
圧縮された高威力の魔力弾が放たれるはずが、代わりにライフルそのものを粉々に破壊する程の爆発を起こした。
ライフルをしっかりと構えていたスナイパーは、その爆発を間近で食らい、上半身に重傷を負った。
他の29人のレメゲトンのスナイパーも同じであり、部隊は一発も撃たないままに無力化された。
ーーダゥン‼︎ダゥン‼︎ダゥン‼︎ダゥン‼︎ダゥン‼︎
ドーム状の結界の頂点に立つファントムが、両手に持った大型ハンドガンから重い銃声を響かせるたび、多数のレメゲトン兵が斃れていく。
そのキルペースは、榴弾を放つガトリングガンにより、圧倒的弾幕による制圧戦を得意なライノでさえも超える尋常ではないものだった。
しかもその射撃精度は正確無比、かつ一撃絶殺。
ファントムは【龍眼】による空間把握により、瞬時にターゲットを選定かつ防御の脆弱な箇所を見抜いて撃ち抜く。
更にファントムの大型ハンドガンから放たれる魔力弾は、彼女の魔力特性により極めて防御不可に近い状態の超高威力となっており、並大抵の防御手段では防ぐ事は叶わない。
そして極めつけはーー“跳弾”だ。
本来跳弾というのは、命中しなかったもしくは意図的に壁などに当たり跳ねる現象であり、その威力は反射によって減少してしまうものだ。
ファントムの場合は意図的であり、会場中央という壁などが無く、跳弾が頻繁には発生しないであろう環境にも関わらず、彼女は跳弾を駆使していた。
ファントムは自分の能力を応用し、空中で極小の爆発を引き起こし、その衝撃によって強引に跳弾させていた。
更に極小とは言えその爆発は、跳弾させたい方向への指向性のものかつ高威力であり、
その反動によって魔力弾は更に加速する。
ファントムはこの跳弾を超速の射撃の中で随時使用し、後方や重装兵の後ろなどで守られた魔術士などの遠距離攻撃兵を仕留めていた。
そして自分に飛んでくる攻撃をファントムは即座に撃ち抜いて相殺し、戦闘開始から擦り傷の一つも負っていなかった。
「・・・凄い・・・!」
「ええ・・・次元が違うわね・・・」
自分達が防衛するだけで精一杯だった敵を、いとも容易く圧倒し殲滅していく【亡霊の牙】の面々の戦闘能力を目の当たりにし、マルコシアスの姉妹は感嘆の声を漏らしていた。
(それにしても・・・)
そう思いながら、リーヴはファントムに視線を向ける。
(相手の防御を無視する程の高威力魔力弾に、両手の大型銃・・・。“亡霊”と言うだけあって阻害されているのか気配を読み取る事が難しいけどーー似ている・・・姉上の戦闘スタイルに・・・)
初対面であるはずなのに、何とも言えない懐かしい感覚は妹のルーネも同じであり、彼女は期待を含ませた眼差しでファントムをチラチラと見ていた。
そうして【亡霊の牙】はマルコシアスの面々の援護も受けながら敵を殲滅していき、敵の援軍を送り込む速度を殲滅速度が上回った時ーー
「隊長。3時方向上空に、敵大型戦闘ドローンの投入を確認・・・‼︎」
上空から狙撃戦を行っていたホークが、ラスト・ドーム付近に出現した大型ドローンに対して既に攻撃を仕掛けながら報告した。
「アレは・・・シープ、数は分かるか?」
「敵殲滅にリソースを割いてますので半径15キロ圏内程度しか探知出来ませんでしたが、およそ150機です!」
ファントムの問いに、既に索敵ドローンを飛ばしていたシープは敵に魔力干渉を続けながら言った。
「成る程、あのガラクタを量産したのか・・・」
ファントムは敵を仕留め続けながら【龍眼】の空間把握を広げ、上空から次々と降下しつつある大型戦闘ドローンを確認した。
新たに投入されたのは、つい数日前に【亡霊の牙】が任務で破壊したレメゲトンの多脚無人兵器・アラクネだった。
アラクネは戦車の車体上部の様なコアユニットに無限軌道を備えた六本脚、右腕がグレネードランチャーと左腕に6連装ガトリング砲を備え、高い防御力を誇る対魔導装甲に覆われたレメゲトンの試作兵器だ。
「ガラクタとは言え、我等や龍凰学園の者達の以外には未知の敵と言えます。我等の何人かで迎撃すべきでは?」
榴弾を放つガトリングを掃射しながら、ファントムにライノが言った。
隊長であるファントムは、性能を一応確かめる為に手加減しながら交戦し、その果てに容易く破壊している。
しかし強者からすれば容易くとも、20メートル級の大型兵器は、一般兵や戦い慣れぬ者にとっては大きな脅威となる。
(まあ、腐っても奴等の新型兵器だ。過小評価し過ぎるのはいかんな・・)
そう思ったファントムが言う。
「・・・・そうだな。私が行こう、ここは任せーー・・・・・・いや、どうやらその必要はない様だ」
自分が向かうと言ったファントムが何かに気付き、直ぐに言い直した。
「隊長、どうされました?」
一旦攻撃を中断したパンサーが、ファントムの側に降り立って言った。
ファントムは顔を3時方向の上空に向け、何かを見上げながら言う。
「あちらには生ける伝説が“二人”もいる。援護の必要は無いだろう」
それを聞いたパンサーはハッと息を飲み、ファントムの視線の先を見上げる。
見上げた先の空には、一筋の紅い閃光が流星の様に奔っていた。
「まさか・・・あのお二人ですか?」
「そうだ、あのガラクタ共は直ぐにスクラップに変わる。我等は引き続き、この場の敵を殲滅するぞ」
「ハッ」
そうファントムとパンサーは話し、再びラスト・ドームの敵の掃討の戻っていった。
ーー・・・ラスト・ドームより東に5キロ地点
「チッ、まさか・・・こんなピンポイントで“蜘蛛”共を投入してくるとはな・・・」
50機以上もの大型戦闘ドローン・アラクネを見据え、“傭兵王”と称される女性傭兵・【ジーナ・ファシネイト】は悪態をついた。
彼女は襲撃時、いち早く会場を離れて観客の避難誘導と護衛を始め、今もベリアル傘下の正規軍の一個大隊と共に、敵の迎撃と逃げ遅れた民間人の救助に当たっていた。
「よ、傭兵王殿、この数は・・・‼︎」
共闘している大隊の隊長の青年が、不安そうな声をあげた。
青年は若くして、若い年齢の者達で構成された大隊を率いる立場に抜擢される程に優秀ではあったが、こういう状況を経験した事がないのか、及び腰となっていた。
「・・・・」
ジーナは側にいる隊長の青年や、二人の後ろに陣形をとっている大隊の面々を、少し振り返りながら横目で見渡した。
20メートル級の大型戦闘ドローン群に怖気付いた様子を見せる青年を始め、その部下である大隊の面々は青年のと同様に怖気付き、武器を構えながらも少し後退気味であった。
(成る程・・・大隊にしては若い者だけで構成されているとは思ったが・・・。恐らくはまだ軍に入りたての雛鳥だろうな・・・)
ジーナはそう思い、彼等のここに至るまでの動きを思い返す。
(レメゲトンの雑兵相手には数の不利をものともしない程、対応・連携・個々人の能力も優秀だった。しかしこの様子から察するに・・・どうやら格上の相手や大型兵器との戦闘経験は無い様だな)
事実、青年を始めとした大隊の面々は武器を構えてはいるものの、大型兵器群を前にどう戦えばいいのか戸惑っていた。
(まあ・・・大昔は私も似た様なものだったからな、気持ちは分かる。であれば先達として、背中を見せるか)
ジーナは既に顕現させていた、穂が一対の解放型バレルに刃を備える特殊な槍型の魔導兵装【ブリューナク・オリジン】の切っ先を、アラクネの群勢に片手で向ける。
ーーチャキ・・・ガチャン!
ブリューナクの閉じられていたバレルが縦に展開し、粒子を急速チャージを開始する。
煌めく粒子と魔力の融合エネルギーが穂先の砲口に真球状に集束し、辺りを淡く照らす。
「穿て」
ーードシュゥゥゥゥ‼︎
ジーナは集束が完了すると同時に即座に解放し、ブリューナクの穂先より極大の荷電粒子ビームを放った。
荷電粒子ビームは一直線に向かっていき、高い防御力を誇る対魔導装甲を容易くぶち抜き、50機以上ものアラクネの大群を分断する風穴を開けた。
前方から迫り来る大群に怖気付いていた隊長の青年は、たった一撃で20メートル級の大型兵器を数十機屠ったジーナの力を目の当たりにし、感嘆の声を漏らす。
「こ、これが・・・傭兵王の力・・・‼︎」
他の隊員もジーナに尊敬の眼差しを向けながら、荷電粒子ビームの奔流が薙ぎ払った後を惚けた様に見ていた。
そんな大隊の面々に、ジーナは力強くも静かな口調で言う。
「臆するな、敵は無敵では無い!私が実践した様に、“容易く”破壊できるガラクタ共だ!」
その言葉に大隊の面々は、まさかと困惑気味に顔を見合わす。
ジーナは、言葉を続ける。
「言っておくがこれは、貴様ら達の実力を考慮して“容易く”と言ったのだ!お前たちはまだまだ雛鳥に過ぎん。だが、それ相応の実力を備えているという事は、この私が保証してやろう!」
ジーナはあえて、鬼教官の様な言葉で叱咤する。
自分達の力を評価された彼等の表情に、徐々に戦意が戻り始めていた。
「武器を構え、陣形を整え、私の指揮を従え。貴様らにーー“ジャイアント・キリング”というものを体験させてやろう!」
そう言ってジーナはブリューナクを掲げながら、彼等に告げた。
軍属に身を置くものであれば誰もが憧れを抱く強者の一人、傭兵王に評価されその指揮の下で戦える。
その事は、若い大隊の面々を奮い立たせるのに充分過ぎる程だった。
「よ、よし・・・やってやる!」
「ええ、そうよ!この程度、乗り越えてみせる!」
「傭兵王殿に続けぇ‼︎」
各々が気合いを入れる様子に、ジーナはフッと笑みを浮かべて言う。
「その意気だ。テロリスト共に後悔させてやれ!新兵同然のお前たちに、経験の機会を与えた事を‼︎」
『おおぉぉぉっ‼︎』
大隊の面々は雄叫びを上げた。
その表情には、つい先ほどまで怖気付いていたとは思えない程に戦意が漲っていた。
雄叫びの後、彼等は表情をキッと一段と引き締めてしっかりと武器を構え、再び侵攻を開始したアラクネの大群を睨む様に見据える。
ジーナの一撃で分断されていた隊列は既に整えられており、履帯の駆動音をギュルルと響かせながら、任務遂行の障害となるジーナと大隊に向け、水牛の群れの如く猛然と速度を上げて迫る。
その侵攻方向にあるものは、出店だろうが乗り物だろうが全て粉砕していく。
ジーナを先頭に大隊の面々は鏃型に陣形を組んで迎撃態勢を整え、アラクネの大群は全機一斉に武器を彼女達に照準した。
接敵まで、もう間も無くと言った所でーー
ーードドドドドドドドゥンッ‼︎
天空から重い砲声と共に紅い光条が降り注ぎ、瞬く間にアラクネの大群を“全滅”させた。
『え・・・?』
さあ戦闘開始だと身構えていたが、突如として全滅した光景に大隊の面々は戦意を削がれた様に呆気に取られた。
「この荷電粒子は・・・」
しかし先頭のジーナだけは、見覚えのある攻撃に少し驚きを含めて呟いた。
「随分と懐かしい事をしてるじゃ無いか」
アラクネ大群だったものが大量の鉄屑へと姿を変えた光景が広がる中、天空から気さくな女性の声が響いた。
紅い閃光を淡く纏ったその女性はジーナの前方に速度を殺しながら降り立つと、腰に左手を当て、身の丈を超える長大な銃身の大型ライフルを肩に担ぎ、紅蓮色の長い髪を靡かせながら振り返る。
「なあ、ジーナ?」
絶世の美女とも言える整った顔、更に豊満でいてスラリとした抜群のスタイル。
その身体を際立たせる様に、胸元を大きく開けたピッチリとしたライダーススーツの様な黒い戦闘服を身につけ、その上から紅黒いのコートを纏っている。
そしてその瞳は、紅蓮に輝く【龍眼】だった。
紅髪の美女は余裕のある表情を浮かべ、ジーナに歩み寄る。
そしてジーナも歩み寄りーー
「元気してたかよ?」
「フ・・・お前もな、“ハウ”」
二人はがっしりと左手で握手を交わし、再会の喜びに笑みをこぼす。
突如現れた美女を、大隊の面々は穴が空く程に見つめてから口々に言う。
「あの紅蓮の髪に超大型ライフル・・・まさか・・・!」
「ええ、間違いないわ」
「傭兵王殿と並ぶ三大傭兵の一人。”紅蓮の閃光”・・・【フォーマルハウト・マーシャニティ】」
隊長の男が信じられないと言った声で紅蓮の髪の美女の名を言うと、当てられた張本人はニヤリと笑みを浮かべて大隊の面々に言う。
「おっと・・・自己紹介の前に言い当てられちまったか」
「ま、お前も有名だからな」
フォーマルハウトは大隊の前に大胆に露出した胸を張る様に背筋を伸ばし、軽くでありながらビシッと決まる敬礼を左手しながら、気さくな口調で言う。
「あたしは【フォーマルハウト・マーシャニティ】。ま、ファーストネームは長いから、気軽に【ハウ】って呼んでくれ」
絶世の美女であり、軍人ならば知らぬ者はいない有名人の様になる敬礼に、大隊の面々は暫し見惚れて言葉を失った。
「‼︎け、敬礼・・・‼︎」
いち早く回復した隊長の青年がハッとし、慌てて号令をかけながら敬礼を返した。
青年の号令に隊員達も慌てて姿勢を正し、一斉に敬礼を返した。
フォーマルハウトーーハウが先に下ろし、大隊の面々が一拍置いて下ろした。
挨拶が終わるまで静かに見ていたジーナが聞く。
「それで何故ここに?“境界”で遊撃として動いていると聞いていたが?」
「んー?そりゃあ、大会を観戦しに来たに決まってんだろ?」
「“奴等“は?」
「一掃したぜ。ま、逃げ帰った連中もいるが当分は大丈夫だろ」
「だといいがな。数だけはこちらを遥かに上回る。近いうちにまた攻めて来るだろう」
「・・・だな。ーーそれに・・・ゆっくりする暇は無いみたいだぜ」
「ああ、そうだな」
ジーナとハウが会話している最中、上空に再び転移魔法陣が展開され、またも大型戦闘ドローン【アラクネ】が投下されていく。
その数ーーおよそ500機。
「おーおー、随分と大盤振る舞いじゃないか」
「フ・・・所詮は古い設計に基づいて作られたガラクタだ。直ぐにバラしてやるさ」
軽い感じでそう話しながら、ジーナとハウは投下されたアラクネの大群に向かって歩き出す。
ハウは歩きながら振り返り、大隊の面々に言う。
「ほらいくぞ!あたしとジーナが先陣を切って、囮になってやる。お前らは、あたしらが撃ち漏らした奴等を全員で壊せ」
「し、しかし、敵は先ほど倍以上です・・・‼︎我々はお二人の足手纏いに・・・‼︎」
隊長の青年の不安そうなその言葉をフッと笑い飛ばし、ジーナが言う。
「心配するな。言っただろう?ジャイアント・キリングを体験させてやると。貴様らの経験値をわざと残す事など容易いものだ。関節部を狙え、あのガラクタの弱点はそこだ」
「あたしが言うのもなんだが気合い入れろよ?あの程度の奴等にビビってたんじゃ、この先やっていけねぇからな」
「は、はい・・・」
ワザと自分達の為に撃ち漏らすーーそんな事が可能なのか?
幾ら名高い二人の言葉であっても半身半疑だったが、隊長の青年は頷いた。
それを見届けて、ジーナとハウはアラクネの大群をあらためて見据える。
「じゃ、始めるか?」
「ああ」
二人の雰囲気が瞬時に変わり、他を圧倒する闘気を身に纏った。
次の瞬間にはその場に残光を残し、蒼と紅の閃光となって突撃した。
2色の閃光が大群の只中に飛び込むと同時に、数十のアラクネが粒子ビームによって薙ぎ払われ、コア部分を寸断された。
一拍を置いて数十の爆発が起き、その爆風を貫いて再び閃光が現れる。
二つの閃光は天地を縦横無尽に翔けまわり、稲妻の如き鋭角の軌道を描きながら攻撃を仕掛けていく。
ジーナがアラクネの大群の多脚の間を縫う様に高速で地上を駆け、すれ違いざまにブリューナクで瞬く間にアラクネの機動力ーー無限軌道を備えた脚部を斬り落とす。
機動力を失ったアラクネは上半身を支える事が出来なくなり、重い地響きを立て体勢を崩しながら地面に伏せていく。
しかし、機動力を失っていても上半身の火器は全て生きている。
アラクネ群は辛うじてレーダーで捉えられているジーナに向け、ゆっくりとした動作で照準を合わせて射撃を行おうとするがーー
ーードドドドドドゥン‼︎
そこへ天を翔るハウの放った紅い荷電粒子ビームが豪雨の如く降り注ぎ、機動力を失ったアラクネ群のコアを正確無比に貫いた。
ハウの武器はブリューナクと粒子生成宝玉を備えている同等クラスの代物であり、大型スナイパーライフル型兵装だ。
その基本威力は大型戦闘艦の主砲に匹敵し、更には“ガトリングの如き連射”を行う事すら可能なのだーー威力を下げる事無く。
ーードドドドドドゥン‼︎
重い銃声が連続で響き、再びアラクネの大群に荷電粒子ビームの雨が降り注ぎ、動力部を正確に貫かれた数十機のアラクネ群は爆散していく。
「ハッ!その程度の性能じゃ脆すぎんだよ!」
そう言ってハウは紅い魔力を纏いながら、桁違いの機動力で機動射撃戦を繰り広げる。
地を駆けるジーナも、先のファーストアタックの際の機動力を奪う事はせず、既に動力部狙いへと切り替えていた。
ジーナもハウと同等の機動力で、すれ違い様にブリューナクを振るう。
その攻撃は極めて正確であり、アラクネの胴体を動力部ごと斬り裂き、穿ち、一撃で屠っていく。
二人の圧倒的な戦闘能力に翻弄され、搭載されたAIの判断を狂わされたアラクネ群は、ろくな反撃すら出来ぬままに破壊されていく。
そんな様子を、青年は大隊の部下達と共にアラクネ群に向かって戦闘態勢で走りながら見ていた。
「凄すぎる・・・これが本物の強者を戦いか・・・」
「前方より敵!“蜘蛛”よ‼︎」
漏らす様に出た青年の言葉をかき消す様に、すぐ側を走る副隊長の女性が警告を発した。
「‼︎ーー迎撃準備‼︎」
青年は直ぐに警告に反応し、ハンドサインで陣形の指示をしながら号令をかけた。
前方から一機のアラクネが、高速で疾走しながらこちらに向かってきていた。
隊員達は素早く散開し、逆扇形に展開する。
(よし・・・いくぞ!)
隊長の青年は心の中で気合いを入れ、猛然と迫り来るアラクネをキッと見据える。
アラクネが両腕の武器を前方の青年に照準を合わせた瞬間ーー
「戦闘開始‼︎奴をスクラップにしてやれ‼︎」
『イエス・サー‼︎』
ジーナの様な物言いで号令をかけた青年と隊員達は、アラクネと戦闘を開始した。
レメゲトンはその後もアラクネを投入し続けるが、その大半は、ジーナとハウによって全滅させられた。
青年が率いる大隊は、アドバイス通りに関節部を集中攻撃する戦法でアラクネを見事に撃破し、ジーナとハウによって“ワザと撃ち漏らされた”個体との戦闘を繰り返していった。
ーー・・・三章ー十節【亡霊とマルコシアスと生ける伝説】・終
面白い・続きが読みたいと思って頂けたら、評価の程をお願いします。




