三章ー九.五節【幕間:愚者の驕り= 惨劇】
今回はかなり短めです。
リリス・ドーム内の避難通路に、四人の少年少女の姿があった。
避難通路から程近い通路の角から、リーダー格の少年が様子を窺う。
「見張りはいないな・・・。よし、いくぞ!」
少年はそう言うと、仲間について来いと仕草をして、出口に向かって一目散に走っていく。
もう一人の少年と二人の少女も、遅れない様についていく。
そして非常口から外へ出ると、リーダー格の少年・【ライド・G・ブエル】は金髪をかき揚げながら、一息ついた。
「ふう・・・やっと外に出られたぜ。コソコソすんのは俺様の性に合わないが、見つかると面倒だからな」
「ねえ、まずいよ・・・。避難命令が出てるのに、こんな事して・・・もし軍の人に見つかったら・・・」
グシオン一族のオリーブグリーンの髪の少女がそう言い、シトリーの一族の水色の髪の少女と不安そうに顔を見合わした。
不安そうな二人に対し、ゼパル一族の赤髪の少年が言う。
「そんなの気にする必要ねぇよ。こんな美味しい状況、手柄を挙げるチャンスじゃねぇか。相手はテロリスト。殺しまくれば、俺らは魔界の英雄だ。なぁ、ライド?」
ゼパルの少年は、手に魔力を滾らせて獲物を品定めしていたライドに言った。
聞かれたらライドは、ゼパルの少年の方には顔を向けずに、目を血眼にして“簡単”そうな敵を探しながら答える。
「ああ、その通りだ。この俺様に実戦は無理だなんて言いやがった連中に見せつけてやんだよ。テロリストを簡単に全滅させられる、この【無敵皇帝】の真の実力をな・・・‼︎」
「その通りだぜ、ライド!俺らは英雄になるんだ!」
「「・・・・・・」」
少年二人が盛り上がっているが、少女達は変わらず不安そうだった。
各所で戦闘音が鳴り響く中、避難口付近で武器を手に四人が獲物を物色しているとーー
「君達、何をしているんだ⁉︎」
背後から四人に声がかけられた。
四人が振り向くと、“龍”の紋章を左胸に刺繍された軍服を身につけた青年がこちらに向かって来ていた。
青年はアンダーレールに剣を装着したアサルトライフル型の魔導銃を携え、軍服の至る所に戦闘の汚れが見て取れた。
「君達、学生だな?ここで何をしているんだ?避難命令が出ているんだぞ!ここは危険だ!シェルターまで送るから、離れず着いてくるんだ!」
「「は、はい!」」
少女二人は即座に返事したが、少年二人は何故か怪訝そうに青年を見つめていた。
青年は周囲を油断無く警戒しながら、返事のない少年二人に言う。
青年は気づいていなかった。
少年二人の怪訝そうな視線が、徐々に殺意へと変貌している事にーー
英雄と持て囃されたいが為に、手柄を欲するが為に、彼等にテロリストの一味だと決めつけられた事にーー
周囲の索敵を行なっていた青年が、四人に着いて来いと手で合図しながらシェルターへ先導を始める。
それが、惨劇の幕開けになった。
自分の真後ろに着いてくる少女二人に対し、少年二人が追従して来ない事を気配で察知した青年は、どうしたのかと振り向こうとした。
「何をしてるんだ?早く君達もーー・・・ッ‼︎」
振り向いた青年が目撃したのは、狂気の満ちた様な表情で自分を見る少年二人と、眼前に迫る二つの凶刃だった。
ーーザシュン‼︎
「がぁ・・・⁉︎」
まさか護衛しようとした学生に攻撃されるなど予想もしていなかった青年は、まともにその斬撃を受けてしまった。
胸部から鮮血を噴き出しながら、青年は地面に仰向けで倒れた。
その拍子に銃は手を離れ、地面に転がった。
「な・・・何を・・・ッ⁉︎」
青年は、獲物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべる少年二人を、痛みに顔をしかめながら信じられないといった表情で見つめる。
「はッ!テロリスト風情が!俺様を騙そうとしたって、そうはいかねぇぞ?」
「そうそう。味方の振りしてんが、バレバレだっての!」
ライドとゼパルの少年は、満足気な笑みを浮かべて青年に武器を突き付けながら言った。
確実にトドメを刺そうとゆっくりと迫る二人から逃れようと、青年は傷に治癒術をかけながら地面を這って後退する。
「テロリスト・・・⁉︎何を、言っている・・・⁉︎私は、ベリアーー」
「ごちゃごちゃ抜かすんじゃねぇよ、テロリストがッ‼︎」
自分の所属を言おうとした青年の言葉を遮る様に、ゼパルの少年が斬りかかった。
ーーザシュ‼︎
「ぐぁぁ・・・⁉︎・・く・・・ぐぅ・・・!」
右脚の太ももに剣の切っ先を突き立てられ、青年は痛みにもがく。
「んぐぅ・・・や・・・めろ・・・ッ‼︎ぐ・・・ぁぁぁぁぁ‼︎」
更にゼパルの少年は太ももを突き刺したまま、剣をぐりぐりと押し込む様に回した。
「逃げられねぇ様に機動力を奪う。戦術の基本だろ、テロリストさんよぉ〜?」
嘲る様にそう言いながら、ゼパルの少年は傷を開く様に剣で掻き回し続ける。
「が・・・ぁあ・・・ぐぅ・・・ッ」
勝ち誇った笑みを浮かべ、痛ぶる様に剣を回すゼパルの少年にライドが言う。
「おい、こんな雑魚と遊んでる時間は無いぞ!さっさとトドメを刺して次にいかねぇと、俺様達の獲物が無くなっちまう」
ライドが少し不機嫌そうにそう言うと、ゼパルの少年は青年の脚から剣を抜く。
「それもそうだな。・・・よっと」
「ぐぁ・・・」
まるで拷問の様な事をされた青年は、既に意識を失う寸前だった。
そして、ライドとゼパルの少年は青年を囲む様に並び立ち、剣を振り上げる。
「や・・・めろ・・・ッ!」
ライドはニィと笑みを浮かべて言う。
「喜べよ、テロリスト。俺様の手柄のひとつになれるんだからなぁッ‼︎」
その言葉を皮切りに、ライドとゼパルの少年が同時に剣を振り下ろした。
ーーザシュン、ザシュン、ザシュン、ザシュン‼︎
「う・・・ぁ・・・」
何度も何度も振り上げては振り下ろしを繰り返しては斬りつけーー
ーーザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ‼︎
横たわる青年の全身を滅多刺しにする。
「ハハハハハハハハハ!死ね、死ね、テロリストォ‼︎」
「俺らの糧になりやがれ‼︎」
ライドとゼパルの少年は、敵に抵抗もさせずに自分達が圧倒している事に酔っているのか、恍惚とした笑い声を上げながら剣を振り回す。
剣で斬りつけるたび、剣で突き刺すたびに青年の体から鮮血が舞い、辺り一面を汚す。
高らかに笑いながら剣を振るい、相手を殺そうとする。
そんな狂気に満ちた光景に、二人の少女達は抱き合い恐怖に震えながらへたり込んでいた。
地面に水溜りを作って余りある程の失血量から、青年の命は風前の灯だった。
多量の返り血で汚れたライドとゼパルの少年が、最後の一撃を加えようと同時に剣を振り上げた。
その時ーー
「何をしている‼︎愚か者がッ‼︎」
ーードゴォォ‼︎
「「グハァ・・・ッ⁉︎」」
女性の声が響くと同時に、横薙ぎの衝撃が二人を襲った。
二人は会場の外壁を大きく凹ませる程に叩きつけられ、その衝撃によって二人の意識は一瞬で失われた。
「その愚か者二人は拘束しておけ‼︎他は保護しろ‼︎」
血の海に沈む青年を滅多刺しにしていた二人を叩きのめしたその軍服の女性は、服が血で汚れる事も構わずに素早く指示を出しながら青年の側に駆け寄り、一族特性である”超回復“によって治療を開始した。
その長い金髪の女性の迅速な治療により、風前の灯だった青年の呼吸は正常に回復していく。
「危なかった・・・後一歩遅ければ、間に合わなかった。それにしてもーー」
治療を続けながら女性は、横目で”親戚”の少年とゼパルの少年を睨む。
その眼光は鋭く、見据えられた者は慄くであろう程だが、意識を失った二人が感じる事は無い。
それでも彼女は、怒り・非難・呆れと言った感情を込めた視線を向けながら言う。
「ここまで愚かに成り果てるとな・・・。・・・”強行衛生兵“たる我等ブエルにあるまじき行為だ」
そう吐き捨てる様に言った女性は、視線を青年に戻して治療に集中した。
辺りから戦闘音が鳴り響く中で部下達に守られながら、青年が意識を取り戻すまで“ブエル”の女性は治療を続けた。
ーー・・・三章ー九.五節【幕間:愚者の驕り= 惨劇】・終
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