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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
30/49

三章ー七節【漆黒と煌蒼の円舞曲・後編】

お待たせしました。7節後編です。


ーーゴォウウ‼︎

蒼い粒子エネルギーの巨大な奔流が、防衛側の拠点である城に向けて飛行中であった零牙達に迫る。

「全員、散開‼︎各自で相手拠点に攻め込め‼︎」

『了解‼︎』

零牙が少し早口で指示を出すと、アルファのメンバーは即応し、全員が瞬時に回避機動をとった。

今回のこの“天空”は、点在する浮島以外は足場の少ないフィールドである為、フェンリルと自身の“起源”が未だ不明で顕鎧を纏えないアンジェ以外は既に【起源顕鎧(オリジン・メイル)】を纏っていた。

因みにアンジェは、自身の周囲に【龍剣の円舞(ドラゴニック・サークル)】によって円環状に展開した魔力剣から魔力を放出する事によって飛行していた。

フェンリルは足元に瞬時に氷を生成しながら、それを足場にして空を駆けている。

零牙は皆に指示を出した後、迫り来る荷電粒子ビームをに対して迎撃態勢をとった。

「零牙ッ⁉︎」

「零牙様⁉︎」

アイナスとフェンリルが驚愕した。

零牙は漆黒の光翼を極大出力し、自分を覆う様にして全面に展開した。

「防がなければ、こちらの負けだ!」

「負け?・・・そうか、この射線は!」

アイナスは、この砲撃を防がなければいけない理由を直ぐに察した。

「この射線状には、我々の拠点とアリシア様達。それに即座に気付くとは流石です、零牙様!・・・しかし、お一人では・・・!」

「大丈夫だ。お前達は先に行け!」

零牙の口調には、有無を言わせぬ程の“高揚”が見え隠れしていた。

「・・・分かりました。ご武運を!」

そう言うと、フェンリルは空を駆けていった。

零牙の言葉を聞いた他の者も心配そうな目を向けるが、指示に従い、フェンリルに続いて各々侵攻していった。

「先手を打たれるとはな・・・。しかもこの射線上にはこちらの拠点がある。クラウンを持っているにせよ持っていないにせよ、守らなければ拠点にはないと言う事を向こうは確認出来る」

迫り来る荷電粒子ビームを見据えながら、零牙は分析する。

(ああ。どちらにせよ、こちらの選択肢は守るしか無いからな。実に効果的な先制攻撃だ。あれ程の攻撃であれば、たとえ倒す事が出来なくても消耗させる事が出来る)

とサイファスが言った。

「そして防御しなければ拠点を失い、こちらのメンバーが幾人か戦闘不能になるかもしれん・・・か」

軸線上のオブジェクトと周辺を破壊し尽くしながら、蒼い荷電粒子ビームが目前まで迫っていた。

「何にせよ、防ぐぞ!サイファス‼︎」

(了解だ)

極大出力した光の翼と更に【天羽々(アメノハバキリ)(スメラギ)】を中段に構えた。

ーーバシュゥゥゥゥゥゥゥ

シリウスの魔力と粒子そして零牙の魔力、莫大なエネルギー同士が干渉し、凄まじい蒼と黒銀の紫電を発生させながら、零牙は荷電粒子ビームを受けとめた。

「・・・っ!なんて密度の粒子と魔力だ・・・!これほどの威力とは・・・‼︎」

防御したは良いがその威力と勢いを殺せず、零牙はジリジリと後ろに押されていく。

(・・・今の俺では真っ向から斬り伏せるには不足か・・・。【黒の咆哮(グラビトン・ハウリング)】を使うか?ーーいや、今回の相手は先の試合の相手とは違う。開幕に大技を使うのは避けた方がいい。やはりここは・・・!)

「サイファス‼︎」

(任せろ)

零牙は右手を左脇から後ろに翳し、周囲の重力を集束して背後に重力レンズを生成した。

そしてレンズの完成と同時に、荷電粒子ビームを防御する事をやめて横に回避した。

再び進み始めた荷電粒子ビームの先端が重力レンズを通過した瞬間ーー

ーーグニャ!

荷電粒子ビームの先端の向きが斜め45度下に曲がり、進行方向を強制的に変えられた。

下方に進行方向を変えた荷電粒子ビームの勢いは止まらずーー

ーードゴォォォォォォォォォォン‼︎

遥か下方の遺跡跡が残る巨大な浮島に着弾し、球状の極大爆発を引き起こし消滅させた。

「開幕からこれ程の攻撃を放つか・・・この規模の荷電粒子ビームであれば相当な魔力と生成粒子を消費する筈だが・・・」

放たれた蒼い奔流が一本の線となって消えていく様を見ながら、零牙は少し高度を上げていた。

超長距離砲撃を相手が行える為、一応2回目の砲撃を警戒し、射線をずらして砲撃を拠点に向けない為に“無意識”に上昇していた。

零牙は【龍眼】を発現させ、粒子ビームが放たれた方角に眼を凝らす。

意識を集中し、【龍眼】による極大化した空間把握の感覚を広げていき、遥か遠方のシリウスを捉えた。

「・・・!」

シリウスは砲口を正確に零牙に向け、既にチャージを開始していた。

「ニ射目は撃たせん!」

ーーブォォォォォォ‼︎

零牙は魔力を高めて漆黒の光翼を極大出力でウイングスラスターから出力し、その場から一気に残像を撒き散らしながら超加速した。

その超機動力で20キロ以上の距離を瞬時に詰めた零牙は、シリウスを1キロ圏内に捉えた。

「来たか・・・。だがこの距離だ。我が荷電粒子の砲火を避け切れるか?」

シリウスは一瞬で距離を詰めてきた零牙に対して動揺する事なく、冷静に大剣の砲口を向ける。

砲口では既にチャージ完了間近だった。

「迎え撃つまでだ。ーー来い、【レガリア】‼︎」

零牙は右手を引き金に指をかける形にし、シリウスに向けると同時に武器の名を呼んだ。

零牙の右手に、大型ハンドガンの様な銃身を持つ漆黒のソード・オフ・ショットガンが呼び出された。

ーーシュウゥゥゥゥゥゥゥ・・・

通常よりも大口径である縦に連なった二つの銃口の間に、凄まじい勢いで魔力が真球状に集束・圧縮していく。

(早い・・・‼︎私のグラムによるチャージ速度を上回っている・・・‼︎だがーー)

シリウスは内心で驚愕しながら、挑発する様に言う。

「だが、威力はどうだ?我がグラムの砲火を上回ってみるがいい‼︎」

ーーゴォウウ‼︎

ーーダァウン‼︎

シリウスの合体大剣からは照射ビーム、零牙のソード・オフ・ショットガンからは超密度の十三発の散弾として、互いの砲火が同時に放たれた。

ーードォォォォォォォン‼︎

圧縮された膨大な力の塊同士のぶつかり合いによって、二人の間に球状の巨大な爆発が巻き起こった。

荷電粒子ビームと激突しなかった散弾の一部が、放たれた軸線上の浮島や岩に大穴を穿った。

「ふふ・・・成る程、弾丸状でありながら私の粒子ビームを相殺する程の威力とはな。それにーー」

ーーチャキ・・・

シリウスは、自分に向けられる漆黒の銃口を見据えながら言う。

先程の爆発の余波で相対距離が少し離れた零牙とシリウスは、互いに得物の切っ先や銃口を向ける様に構えをとっていた。

シリウスは【ベリアルの瞳】で、漆黒のソード・オフ・ショットガンの内部に渦巻き、圧縮されていく魔力を見透していた。

「どうやらその銃は弾込め方式ではなく、魔力圧縮炉を備えたタイプのようだな」

シリウスはいつでも戦闘を再開出来る態勢を整えながら言った。

「ああ。弾込め方式では、威力は使用する弾丸に依存する。だが圧縮炉なら、自分の魔力を調節して供給するだけいい。それに魔力が尽きない限り通常のリロードも不要だからな。さてーー」

ーーチャキン。シュゥゥ・・・

「始めよう、シリウス・・・」

零牙はショットガンの銃口に魔力を集束し始めながら、シリウスに照準を定める。

それに応じる様にシリウスは合体させていた剣を分割し、左手に持つ短剣の柄を銃のグリップの様に変形させる。

ーーシュウゥゥ・・・

彼女も零牙のショットガンと鏡合わせの様に短剣の刀身に格納されていた砲口を向け、その砲口に粒子と魔力を集束し始めた。


そしてーー



ーーダァウン‼︎

ーーダダダダ‼︎

黒き龍と煌蒼の魔龍、両者は同時に引き金を引いた。





ーー・・・防衛側・天空城より100キロ地点


天空城に奇襲を仕掛ける為、刹那、アイナス、朧、織火、アンジェの五人は、大小様々な浮島の間を縫う様に隠密飛行中であった。

「始めたわね・・・」

「そうだね・・・」

先頭を飛行するのは刹那とアイナス。

“零牙との繋がり”と遥か後方から聞こえてくる戦闘音と魔力を感じ取った二人は、五人を代表する様にそう言った。

「・・・!刹那‼︎アイナス‼︎」

突如、最後尾を飛行していた織火が鋭い声で二人に警告した。

「「織火?ーーッ‼︎」」

二人は一瞬振り返るが、すぐに警告の正体を感知して後方に回避機動をとった。

二人がその場から回避した直後ーー

ーーゴォウウ‼︎

煌めく様な紅い極大粒子ビームの照射が周囲の浮島を穿ち削りながら、二人が寸前まで飛行していた場所を薙いだ。

「この粒子ビームは・・・!確か、あたし達の前の試合で見た・・・」

そう言った刹那やアイナス達が上方を見上げると、そこにはーー

「よお・・・私らの相手をして貰おうか」

ーー紅い魔龍の【起源顕鎧(オリジン・メイル)】を纏ったアルタイル・K・ベリアルがいた。

そしてその隣にはもう一人ーー煌めく様な深緑色の顕鎧を纏った者の姿もあった。



ーー・・・天空城より100キロ地点

ーージャララララ‼︎

「・・・ッ!」

零牙達と別れて間もなく、氷で足場を作って空を駆けるフェンリルを阻む様に“一本の鎖”が眼前を遮った。

フェンリルは即座に反応し、近くの浮島の神殿跡のボロボロの柱に降り立った。

「この鎖は・・・」

自分の侵攻を妨げた“見覚えのある”鎖をフェンリルが訝しげに見ていると、鎖が引き戻されていく。

そして引き戻された先の浮島に、長い黒髪のポニーテールを風で靡かせる少女がフェンリルを見下ろしていた。

「よお、私の相手をしてくれないか?大狼様?」

「君は確か・・・アムドゥスキアスの・・・」

ブライアは両眼を瞑目する様に閉じながら答える。

「ブライア・D・アムドゥスキアス・・・以後見知りおきを。さてーー」 

ーージャララララ

ブライアは先端に猛禽類の爪の様な形の矛が備わった4本の黒い鎖を位相空間より召喚し、その矛先をフェンリルに向けて自身の周囲に配置した。

閉じていた眼をカッと見開いて言う。

ブライアの瞳は淡く輝いていた。

「始めようかッ‼︎」

そう言うとブライアは、4本の鎖と共にフェンリルに向けて突撃した。


ーー・・・天空城より50キロ地点。

「ハァァァッ‼︎」

ーーギィン‼︎

猛禽類の様な爪で仕掛けた刹那の攻撃を、アルタイルは大剣で受け止めた。

その余波で衝撃波が発生し、周囲の浮島の岩壁やデブリに爪痕を刻み込むか又は細切れにした。

「なんで別チームの貴女が?前の試合に出ていたでしょう?」

「ああ言いたい事は分かる。私もこうなるなんて思わなかったさ。だが運営からの要望では仕方ないだろう?」

刹那とアルタイルは鍔迫り合いながら話していた。

「運営が?」

「ああ。なにせうちの末妹が遅れて到着したもんでなッ!」

ーーギィン‼︎・・・ギィン‼︎

刹那とアルタイルは一度お互いを弾く様に爪と刃を払い合い、再度切り結んだ。

「妹・・・?」

「チームをこれ以上増やす事は出来んから、いっそのことベリアルを一つに統合するかって話になった訳さ」

「刹那‼︎」

アルタイルがそう言った瞬間、織火がマグマ色の焔を纏いながら鍔迫り合う刹那の右側に庇う様に現れた。

ーーゴォウウ‼︎

織火がマグマの様な刀身を持つ【天羽々斬・焔皇】を振るった際の軌跡が爆ぜ、生じた爆焔によって刹那に放たれていた粒子ビームを相殺した。

「織火⁉︎粒子ビーム、何処から・・・⁉︎」

「ま、不意打ちは効かねぇよなッ!」

「・・・‼︎」

ーーギィン‼︎

アルタイルによって弾かれた刹那は距離を取り、その周囲に織火・朧・アイナス・アンジェが密集陣形をとった。

「織火、さっきの粒子ビームは・・・」

「ええ、寸前まで“反応が無かった”」

刹那の問いに織火は答えながら、周囲を油断無く【龍眼】で索敵している。

「撃たれた方角は?」

「刹那の右斜め前方から発生した様に感じたが・・・?」

朧とアンジェがそう言うと、五人の【龍眼】がその空域に向けられた。

「魔力も確認出来ないな。それすらも完全に欺瞞出来る程、高性能なステルス技術を使っているのか?」

アイナスは灰色の龍眼を凝らしながら言った。

「彼女は仕掛けて来ないな。常に警戒しているとはいえ、まだ視認されていないスナイパーの支援というアドバンテージを活かす気は無いのか?それとも・・・」

朧は陣形を取った時から、常にアルタイルから眼を離さなかった。

「・・・・」

朧が常に自分を警戒している為か、アルタイルは大剣を肩に担いで五人の様子見を決め込んでいた。

「私達の手の内を見極めるつもりか・・・。どうする、刹那?」

朧はアルタイルを警戒しながら、刹那に背中合わせになる様に移動しながら聞いた。

「狙撃手が私達の龍眼による空間把握から逃れる為に身動きも取らずに隠れるというのならーー炙り出すまでよ。頼める?アイナス、織火?」

「了解!」

「任せて」

アイナスは右腕、織火は両腕から砲口を展開して陣形の真上に上昇し、背中合わせになりながら前方に狙いを済ます。

その下の刹那・朧・アンジェの3人は、一ヶ所に集まって両翼で互いを覆い合う防御態勢を整えていた。

「さあ、出ておいで!」

アイナスのその言葉を皮切りに、二人は照射ビームと弾丸を出鱈目に乱射し始めた。

ーーバシュウゥゥゥゥゥゥゥ‼︎

ーードドドドドドドドドドドド‼︎

アイナスは銀色の照射ビームで浮島群を薙ぎ払い、織火は滅焔の弾丸を凄まじい連射速度で両腕の砲口より放ち、あらゆる物体を焼き尽くしながら風穴を穿っていく。

「チッ、やるな・・・‼︎アイツを炙り出す為だけじゃ無く、こっちにも牽制してきやがる・・・‼︎」

アルタイルは全身を覆う球形の粒子障壁を展開し、横槍は許さないという様な二人の牽制を凌いでいた。

「しかも滅焔の影響で、障壁を焼き尽くされる前に再展開しなきゃならねぇから攻撃に回す粒子が足らねぇ・・・!この私が完全に抑えられるとはな・・・!」

滅焔はありとあらゆる物を焼く焔であり、一度燃えれば放った者が鎮火するか対象を灰燼に帰すまで消える事は無い。

たとえ火属性に完全な耐性があろうとも、その耐性すらも焼き尽くしていく滅びの業火。

故にその特性を知っていたアルタイルは、障壁貼り直すと言った防御に徹しなければならなかった。

「“メギドの炎”も厄介だが、こっちは更にやばいな・・・。これで火属性で二番目ってんだから、タチが悪い・・・!ーーッ‼︎」

「ハァァァッ‼︎」

防御に徹するアルタイルが障壁を展開し直す僅かな隙を狙い、刹那が左手の鉤爪を貫手にして仕掛けてきた。

ーーギィン‼︎

「チィ・・・・‼︎」

「流石の反応ね。隙を狙ったつもりだったけど?」

アルタイルは障壁展開を中止して、刹那の貫手による突撃を大剣の腹で防いでいた。

「はっ!こっちもそれなりに死線は潜り抜けてるからな。お前らとの戦い、楽しませて貰うぜッ‼︎」

ーーギィン‼︎

アルタイルは大剣で斬り払うように刹那を弾いた。

「そうね。でも・・・“彼女”の事も紹介してくれるかしら?」

刹那は不敵な笑みを浮かべてそう言うと、アルタイルも応じるように笑みを返す。

「もう、炙り出されたか」

刹那は距離をとって他4人の元に後退する。

二人が会話を交わしている間に、アイナスと織火の砲撃は止んでいた。

破壊された浮島の残骸の影から飛び立った女性が、アルタイルの側にゆっくりと降りて来た。

「紹介する。我等三姉妹の末妹ーー」

「ヴェガ・K・ベリアル・・・ベリアル第三師団の師団長だ」

緑がかった黒い魔龍の全身鎧を纏った少女、【ヴェガ・K・ベリアル】が静かな声音で言った。

彼女らが纏うベリアルの【起源顕鎧(オリジン・メイル)】は、最適化による細部の違いはあれど、シリウスの纏う鎧に酷似していた。

「師団長・・・。学生じゃ無いのね」

刹那はいつでも突撃出来る様に、態勢を整えながら言った。

「学生でもあるが・・・主に一族の軍を任されている。日本式に言えば、二足の草鞋状態だ」

粗暴な印象と口調のアルタイルや非常にしっかりとしていながらも強者を求めるシリウスの二人と違って、ヴェガはまさしく冷静な軍人と言った印象だった。

アルタイルが何気無い動き天に向けて大剣の切っ先を向けながら言う。

その動きに対峙する五人は身構える。

「ヴェガ。“仕込み”は出来てんだろ?」

「ああ・・・既に終わっている」

二人の会話に、アイナスは疑問を呟く。

「仕込み?私たちの攻撃を避けながら?でもーー」

アイナスは周囲を【龍眼】で探る。

「なぁに、別に周りには何もしてねぇよ。私らベリアル三姉妹の攻撃は“宙”から来るのさ・・・」

「宙?ーーまさか⁉︎」

五人は弾かれる様に“宙”を見上げる。

見上げた漆黒の空のその遥か上の“宙”ーー位相空間内に即ち擬似的に再現された衛星軌道上に、巨大な魔法陣と無数の光が瞬いていた。

「さて、末妹の紹介も済んだ事だし・・・本格的に戦りあうとしようぜ」

アルタイルが楽しそうにそう宣言すると同時に、一度左手で宙を指差して振り下ろしながら、ヴェガが静かに呟く。

「この術は、我が一族の秘奥では無い一歩手前の術だが・・・それでも国一つを焦土と化して余りある。ーー【メテオ・レイン】・・・」

その瞬間ーー衛星軌道上の光の全てが大気圏に突入していく。

『ーーッ‼︎』

空気摩擦による轟音を響かせ、超高速で空を切り裂きながら、刹那・アイナス・朧・織火・アンジェの五人に向けて流星の雨が降り注ごうとしていた。



ーー・・・フィールド・中央空域

ーードシュウ‼︎

ーーダゥン‼︎

煌めく蒼い一条の照射ビームと漆黒の散弾が夜空で交差し、その地点で複数の散弾が爆ぜる。

零牙は残像を撒き散らし、シリウスはジェット加速の様な轟音を轟かせる超高速機動戦闘を繰り広げていた。

二人の“龍”はダンスを踊っているかの様な対峙しながらの旋回機動で撃ち合い、高速でぶつかり合って斬り結ぶ。

縦横無尽に斬り結ぶ毎に機動する毎に互いから放たれる衝撃波が乱舞し、中央空域の浮島をデブリへと変えていく。

ーーギィン‼︎

何十合と撃ち合い斬り結びあった二人は、ほぼデブリ帯と化した中央空域で鍔迫り合う。

その際にも凄まじい衝撃波が発せられ、デブリ帯に大きく穴を開けた。

「流石だ、零牙!私にここまでついて来れるとは!ではーーこれはどうだ?」

「ーーッ!」

シリウスは左手に持つ短剣に展開した銃口を零牙の顔に向け、銃口に粒子をチャージする。

短剣のグラムは大剣と違い、連射性能を重視された設計の為チャージは即座に完了し、シリウスは引き金を引いた。

粒子ビームが放たれる寸前ーー

ーーガキン‼︎

零牙は右手のショットガンでシリウスの短剣を殴り付け、射線をずらした。

それと同時にシリウスの短剣から粒子ビームが連射された。

「これに反応するか!流石だ、零牙‼︎」

シリウスは零牙から距離を取り、大剣の砲門を展開して零牙に向けた。

大剣でも出力を下げれば多少の連射は可能である為、シリウスは大剣より照射ビームを三連バーストで放った。

零牙は三連バーストで放たれた照射ビームを身を捩り、マントを翻す様に右の光翼で弾いて相殺した。

その際、シリウスに一瞬背中を向ける体勢になるが、零牙はその体勢で、ショットガンの銃口を左脇から覗かせて射撃した。

ーーダゥン‼︎

「くッ・・・⁉︎」

シリウスは即座に反応して大剣と短剣で防御するが、流石に予想外の攻撃であった為、散弾のうち数発に被弾した。

「やるな!だがこの程度・・・!ーーッ!」

シリウスが得物での防御を解いて反撃に移ろうとした瞬間ーー

後ろ向きから繰り出された、白銀の刃が迫っていた。

反撃の為に距離を詰めていたシリウスは、咄嗟に急制動をかける。

【天羽々(アメハバキリ)(スメラギ)】の刃は、シリウスの顕鎧のヘルムの眼前を薙いだ。

零牙の斬撃をギリギリで躱したシリウスは、距離を取る為に一気に急上昇した。

シリウスは零牙を遥か上空から見下ろしながら、大剣を天に向ける。

「このまま戦い続けるのも楽しくてしょうがないが・・・これはクラウン・ブレイク。決着が付かぬままクラウン破壊で唐突に終わるなど、私の本意では無い。故にここからは大技のオンパレードといかせて貰う」

ーーバシュウ‼︎

シリウスは大剣より展開した砲口より、莫大な魔力を一条の細いビームとして天に放った。

そのビームは擬似成層圏を突破し、”宙“に到達すると同時に全長100キロにも及ぶ巨大な魔法陣を展開した。

その魔法陣には無数の光が瞬いており、その一つひとつに魔力が圧縮されていく。

「我等ベリアル一族の魔力特性は“超圧縮“。いかな魔術式や魔法を用いようとも、一定の魔力量で自動圧縮する。その様子はまるでーー輝く星と称された」

零牙はシリウスが大剣を掲げた遥か天を見上げる。

「その特性を持って我等ベリアル一族は星を呼び、星を見、星を繰り、星を生む。故に我等はこう呼ばれたーー【スターゲイザー】、と」

シリウスが左手の短剣を大剣へと合体させ、両手で構えて切っ先を零牙に向ける。

合体したシリウスの【帝剣グラム・オリジン】の、展開された砲門に膨大な魔力と粒子が収束していく。

大剣と短剣に散りばめられた全ての粒子生成宝玉が、強い輝きを放っていた。

「全力か・・・」

「そうだ。故にこの一撃を凌がれれば私の魔力は底が尽きる。さっきも言ったが、クラウン破壊による決着を私は望まない。これが最後の一撃だ。零牙、君の全力を見せてくれ」

「・・・・」

(凄まじい魔力だ。それにーー)

零牙は先に行った婚約者達五人が戦闘中の空域に視線を向ける。

シリウスが言う。

「気づいたか、零牙?」

視線の先にはシリウスが展開した魔法陣て同じ物が、“二つ”展開されていた。

「同じ魔法陣か・・・」

「そうだ。どうやら私の妹達も同じ事を考えていた様だ。ーー行くぞ、零牙‼︎我が全力の一撃、凌いで見せろ‼︎」

衛星軌道上に展開された魔法陣で収束する光が強く輝き、漆黒の夜空を真昼間では無いかと錯覚する程に照らし出す。

「【ロスト・ステラ】」

ーーゴォウウ‼︎

シリウスから放たれる粒子と魔力の奔流と共に、魔法陣で隕石を核として生成された流星雨が降り注ぐ。



ーー・・・・天空城より100キロ地点

「ハァァァ‼︎」

「フン‼︎」

ーーギィン‼︎

漆黒のポニーテールの“獣人”と蒼銀の大狼の爪と、お互いの鎖が交差する。

すれ違い、そして二人同時に振り向きながらお互いに鎖を鋭く放つ。

ーージャララララ‼︎

4本ずつのお互いの鎖が、複雑な軌道を描きながら再び交差した。

二人は戦いの余波で砕かれた、最早浮島とは呼べない別々のデブリの上に降り立つ。

「やるな!まさかここまで俺について来れるとは・・・感服したよ」

「ああ。アンタと戦うために鍛錬と実戦を重ねたからな。流石に“転生”込みで神話から生き続けるアンタとは経験と実力の差で隔絶してるだろうが・・・まだ食らいつかせて貰うさ」

「成る程・・・俺の事情を知っているのだな」

「【神々の黄昏(ラグナロク)】の真実も、な」

「通りでーーその鎖を持っている訳だ」

狼の耳と尻尾を生やした“獣人”形態になっているブライアの周囲に漂う漆黒の鎖にフェンリルは視線を向け、次にブライアに視線を向けた。

「【グレイプニル・オリジン】の初期バージョン・・・そして、我が父方の一族の血が混じっているな」

「ああ。我等アムドゥスキアス一族の先祖は、アンタの先祖と同じだ。つまり、アンタと私は遠い親戚って事だ」

「フェンリス・ヴォルフ・・・」

「「ーーッ‼︎」」

膨大な魔力を感じたブライアとフェンリルは、同時に天を見上げた。

「この魔法陣は・・・」

「どうやら、うちの大将が決めにかかったみたいだな。ならーー」

ブライアが獣が飛び掛かる前の様な、猟犬の如き低い姿勢で構えた。

周囲の漆黒のグレイプニルも同調する様に、ゆらゆらと低い位置で揺らめく。

「流石にアンタを倒せるとは思ってないが、倒すつもりでもう少し挑ませてもらおうか‼︎」

ブライアは踏み込みで足場を粉砕しつつ、フェンリルに猛然と突撃した。

フェンリルは悠然と迎え撃つ。

「良いだろう我が親類よ。挑んで来るが良い、このフェンリルに‼︎」

何十合も、高速で互いの爪牙と鎖が交差した。






ーー・・・スタジアム外周屋上

「何だあのガキども・・・全員化け物じゃないか」

透明なスコープ越しにこの試合を観戦しつつ、絶好のタイミングを待っていた北側の屋上に居るスナイパーの男が、思わず呟いてしまう。

そんな呟きをインカムが広い、その反対側の屋上で狙撃姿勢の男が注意する。

「おい、作戦中だぞ?気取られたらどうするつもりだ!」

「ハハハ、良いじゃないか。どうせ、混血共にはこの迷彩を見破る事など出来るわけ無いからな」

「違いねぇ」

スタジアム屋上の東西南北にスナイパー達は配置されていた。

四人の装備全てがステルス迷彩仕様で、その姿は目の錯覚と思う程に周囲の景色に同化していた。

このスナイパー小隊の隊長の男が言う。

「よし。ベリアルの娘の先の言葉を聞く限り、まもなく試合は終わる。標的はーーベータがアルタイル、ガンマがヴェガ、デルタがシリウス。そして俺が凰月零牙と言う奴だ。 奴ら顕鎧を解除したら、同時に殺る」

「「「了解」」」

隊員の返事を聞いた隊長は思う。

(しかし・・・ベリアルの小娘共は分かるが、なぜあの小僧も標的なのだ?確かに将来的に我等の障害となりそうではあるが、この会場には優先的に排除するべき奴がいるだろうに・・・。まあ、出る杭は打たれるとーー)



「やあ。狙撃は順調かい?」

揶揄う様な凛とした声が唐突に響いた。


「ーーッ‼︎」

隊長の男が背後からかけられた声に、反応する間もなく。

(は・・・・⁉︎)

男の視界がコロンと半回転した。

男は何が起こったのかも理解する間もなく、首を斬って落とされて絶命した。

ーーシュリン!

遅れて鞘走りの音が鳴る。

声をかけた澪凰は、音を置き去りにし認識すらさせない斬撃で男を斬り捨てた。

澪凰は得物の大太刀である【天羽々斬・極皇(きょくおう)】を払い、外周反対側の南に居るスナイパーに視線を向ける。

「ひ・・・ッ⁉︎」

隊長の生体反応が突如消えた事に気づいた南のスナイパーは、スコープ越しに澪凰と目が合ってしまった瞬間ーー

ーーザシュン

首を両断された。

距離にして10キロ以上はある外周の反対側から、瞬時に距離詰めた澪凰に、南のスナイパーは死んだ事も認識出来ずに絶命した。

ちなみに澪凰の姿がスコープから消えた事も気付いていない。

「これで二人。あとはーー」

極皇の刀身には汚れひとつ無かった。

「おい、応答しろ!何があった⁉︎」

今し方斬り捨てた二人目のスナイパーの頭部から、別のスナイパーの焦り声が聞こえる。

澪凰は屋上に感覚を広げて気配を探りーー次のスナイパーを見つけた。

このスナイパー達のステルス迷彩は、姿の欺瞞は勿論の事、気配や魔力まで欺瞞する高性能な代物だ。

しかし、彼女の感知を欺く事は出来なかった。

というより、澪凰にそんな物は関係なかった。

「ああ・・・見つけた」

その言葉と共に、何の前触れも無く澪凰の姿が無音で消えた。

まるで最初からいなかったかの様にーー

澪凰は東側の屋上に無音で現れると同時に、その場の地面を薙ぐ様に斬り払う。

そこに居たスナイパーを斬り捨てた。

「さてーー最後」


「クソッ‼︎何なんだあの女は⁉︎一瞬で3人もやられた‼︎だがもう好きにさせねぇーー死ね‼︎」

既に澪凰を射線上に捉えていた最後のスナイパーは、悪態を吐きながらも瞬時に照準を合わせて、引き金を引いた。

この小隊の面々は、全員スナイパーとして一流の腕を持っていた。

その為、最後に残ったスナイパーは引き金を引いた瞬間に、無意識に相手の絶命を確信した。

だがーー相手は澪凰だ。

狙った相手が並であったならば、スナイパーとしての仕事は果たせただろう。

故にーー

「なっ・・・⁉︎」

スナイパーの男は、スコープ越しに衝撃を受けた。

引き金を引いた後のほんの数瞬まで、確かに姿があった。

しかしその刹那の時間で、澪凰の姿は消えていた。

「クソッ、何処に⁉︎」

男は立ち上がって、消えた敵を探そうとしたがーー

ーーザシュン‼︎

立ちあがろうとした男は、再び地面に伏せた。

いや、強制的に伏せさせられた。

「グァ・・・⁉︎な、何・・・⁉︎」

男は信じられないと言った表情で顔を横に向け、横目で自分の背中に刺さった刃を見、それから刀身を伝ってその刃の持ち主を見上げる。

「馬鹿・・・な・・・⁉︎完全に姿も・・・気配も、絶っていた・・・筈だ」

男は心臓を貫かれ、その命は風前の灯火だった。

「ああ、君達のステルス迷彩かい?そんなもの、私には意味がないと言うだけだよ。それに、今から死ぬ君に言う必要無い」

ーーザシュン‼︎

「ーーが・・・ッ!」

澪凰は男の背中から大太刀で心臓を突き刺したまま、斬り上げてトドメを刺した。

「やれやれーー」

澪凰は天羽々斬を振り払い、刀身についた血を落とす。

「これからクライマックスだと言うのに、無粋な真似をしてくれる」

静かな声音には、若干の怒りが滲み出ていた。

「・・・ジャッカルとライノかい?」

唐突に澪凰が、前方に声をかけた。

「「は」」

澪凰の前に片膝をついた状態で、コードネームの生物を模したフルフェイスの仮面を被った女と男が、音も無く現れた。

ライノとジャッカルは、それぞれに言う。

「先に対応に出た我等よりも速いスナイパーの排除・・・流石です、澪凰様」

「未だ我等が到達し得ない【無識】の一端を拝見し、このジャッカル、感激致しました」

二人は称賛の念を、心の底から言葉に込めていた。

二人も【無識】を学んでいる最中であるが、一騎当千を誇る実力を有する【亡霊の(ファントム・トゥース)】の面々でさえ、零牙の婚約者たるファントム以外はその領域に至れていなかった。

「ファントムの指示?」

「は。先程、隊長からスナイパーの排除の任を言い渡されました。ですが臣下である我等の索敵が遅れ・・・澪凰様のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

ジャッカルとライノは深々と頭を垂れる。

「気にしなくて良いさ。零牙の試合に横槍を入れて欲しく無かったから動いたまでだよ。それよりーー」

澪凰はスナイパーの死体に目を向ける。

「コイツらが何処の連中か、分かるかい?」

「恐らく、例の不穏分子共の組織かと」

ライノがそう言うと、澪凰は鞘に大太刀を納めながら言う。

「ああ、レメゲトンだっけ?そこの賊が此処にいると言う事は・・・きな臭いね。ふむ・・・」

澪凰は顎に手をやり、少し考え込む。

「まあ今は“まだ”不穏な気配は感じないし、連中の目的が何であれ、事が起きるのを待つしか無いか・・・」

そう言って澪凰は天羽々斬を位相空間に戻す。

「じゃあ二人共、後始末は任せて良いかい?」

「「は!」」

ジャッカルとライノの返事を聞いてから、澪凰はクラス・アルファの控え室に戻る為に歩き出す。

「さてーー久しぶりに“アレ”が見られるかな」

歩きながらフィールドの零牙を期待の目で見ながら、澪凰の姿はかき消えた。






ーー・・・中央空域

ーーゴォォォォォォォ‼︎

空気摩擦による轟音と音速を超えた事によるソニックブームを散らしながら、無数の隕石状の圧縮魔力が降り注ぐ。

更に流星雨にプラスして、シリウスの【帝剣グラム・オリジン】から放たれた極大の粒子ビームの奔流も迫り来る。

「これがシリウスの全力・・・‼︎」

零牙が降り注ぎくる流星雨に驚愕しながら見上げていると、更に驚くべきことが起こった。

ーーババババババババババ‼︎

「ーーな⁉︎」

一本の極大粒子ビームが、無数粒子ビームに拡散したのだ。

「数で逃げ場を無くすつもりか・・・!」

(どうする、零牙?)

零牙の内に宿るサイファスが聞いた。

「どうもこうも無い。今の俺では、この数を無傷で突破するのは無理だ。回避しながら捌くしかない」

零牙は、最早隕石と合わせて数が多すぎて面の様にも見えるシリウスの攻撃を見上げて言った。

言っている間にも、零牙は【龍眼】で睨む様に攻撃の隙間を探り、最適な対処法を無意識下で考えては却下を繰り返している。

「行くぞ!」

ーーダゥン‼︎

零牙はまずソードオフショットガンを撃った。

放たれた一発一発が強力な散弾は、それぞれ粒子ビームや魔力隕石を相殺する。

零牙は何発か連射を繰り返すが、その数は一向に減らない。

厳密には減っているが、何せ面に見える程に攻撃密度が桁違いである為、氷山の一角を削った程度だった。

「無意味か・・・!魔力を無駄には出来ない。やはり被弾覚悟で行くしか無い!」

零牙は豪雨に逆らう様に急加速し、上昇する。

無数の粒子ビームと魔力隕石を躱し、長刀で斬り消し、成層圏でこちらを見下ろすシリウスに向け音速で上がり続ける。

「ッ・・・!」

そうして上昇し続けている内に、粒子ビームの一条が左翼を掠めた。

「この程度で・・・!」

零牙は躱し、斬り、受け流して1秒たりとも止まらずに、チラリと被弾箇所を【龍眼】により極大化された空間把握で確認する。

しかし零牙は、被弾箇所に違和感を感じた。

(微かにシリウスの魔力が残留している・・・)

そう思った次の瞬間ーー

「ーーッ‼︎」

零牙は急制動をかけ、左側から向かってきた魔力隕石を斬り落とした。

(どう言う事だ・・・⁉︎急に角度が変わった?いや、明らかに向かって来ていた。まるで誘導されたーー!まさか翼に残るこの残留魔力は‼︎)

(零牙‼︎)

サイファスの声に、弾かれる様に見上げるとーー

ーーゴォォォォォォォ‼︎

零牙よりも高空とその周囲の魔力隕石と粒子ビームが、追尾し始めていた。

追尾ミサイルの様に襲いかかって来た粒子ビームと魔力隕石群を避ける為、零牙は左側に大きく滑る様に回避機動をとった。

十分に引きつけてから急加速をかけて回避した為、追尾した攻撃はそのままやり過ごせると思った零牙だったがーーそれら粒子ビームや魔力隕石は零牙のいる高度に到達すると同時に追いかける様に”直角“に追尾した。

「真横にまで追尾するのか⁉︎」

追って来た攻撃をソードオフショットガンを連射して相殺しながら、自身の直上に視線を向ける。

「やはり、また誘導するのか。やはりこの翼の残留魔力はーーマーキング‼︎」


ーー成層圏付近

シリウスは遥か下方の零牙を、【ベリアルの瞳】で期待を込めて眺めていた。

「マーキングに気づいた所で、我が流星雨をどうにかしない限りは君に勝ち目は無い。機動性は最早防いだも同然だ。攻めるにしてもその強力なショットガンとて、流石に此処までは届くまい。どうする、零牙?」



ーー成層圏より下方

黒い光の大翼で身体を包む龍に、無数の攻撃が殺到し続けていた。

ーードドドドドドドドドドドド‼︎

「くぅッ・・・・‼︎」

マーキングに気づいた後、あり得ない程の誘導性を獲得した粒子ビームと魔力隕石を再度躱して急降下したが、何度も追尾して追ってくる攻撃群に防御を選択した。

追尾した魔力隕石は着弾すると同時に爆発し、凄まじい衝撃が零牙を襲う。

ひとつ爆発する事に衝撃波が起こり、それが連続する事によって周囲の大気は振動し続けていた。

そして粒子ビームは着弾すると同時にマーキングを施し、更に魔力隕石を誘う。

今は翼で防御出来ていてダメージは少ないが、着実に蓄積して来ていた。

「流石にマズいな・・・このままではいつ翼を破壊されてもおかしくない。かと言って振り切って上昇しても、今度は背後から追尾して来た攻撃にやられかねない・・・・」

零牙は両翼で無数の攻撃を防御しながら、思考を巡らせる。

(【(スメラギ)】の空間切断で飛ぶか?いやだめだ。マーキングが付いている以上、開いた狭間にまで攻撃は追ってくる。ならばいっそのこと【終の特異点(エンド・オブ・シンギュラリティ)】か【黒の咆哮(グラビトン・ハウリング)】で一気に・・・いや、此処までの戦闘で消耗している。チャージする前に“魔力切れ”だ。どうする・・・?)

零牙がそう考えを巡らせていると、不意にサイファスが言う。

(いや、ひとつある。この状況を打開して勝つ方法が)

(・・・?)

零牙はサイファスの言葉に疑問を浮かべる。

(お前は“それ”を一度使っている。使った事は覚えていなくとも、お前の身体と“龍の本能”は覚えている筈だ。思い出せ、我等の“深淵”を)

(“深淵”・・・俺の【深淵能力(アビス・エフェクト)】・・・)

零牙は、無数の魔力隕石と粒子ビームを翼で受けながら、魔力を研ぎ澄ませ始める。

流石に皇を冠する龍の顕鎧も、一発一発がキロトン級の攻撃を間断なく受け続けてヒビが入って来ているが、零牙はそれを無視して目を閉じて集中していた。

零牙が漆黒のオーラを纏い始める。

「この感じは・・・⁉︎」

シリウスも零牙の変化を感じ、直感で危険と感じて身構える。

(俺達の力は重力制御・・・重力制御の極致・・・超重力の行き着く先は、全てを呑み込む漆黒の嵐ーー【ブラック・ホール】)

(そうだ。だが此度はそこまで行く必要は無い。その手前・・・“事象の地平”の応用にして、我等の“龍域”を広げるんだ)

(事象の地平・・・)

その言葉を聞いた零牙は、2年前の事件の時に我を忘れて発した“波動”を思い出していた。

だが放った波動の感覚は思い出したが、その当時に自分が纏った顕鎧に付いては、記憶に霞がかったままだった。

しかしその感覚に身を委ねた零牙は、静かに言葉を紡ぐ。

「境界へと至る時、我等は悟る・・・」

零牙の周囲の重力全てが集束し始め、不可視の力が集束する事により、周辺空間は零牙に向かって引き延ばされた様な状態となる。

「汝の時は刹那に・・・我が時は永遠に」

重力の集束が完了し、零牙の輪郭は光すら呑み込む漆黒を纏った。

「黒き静寂が訪れる時、時は我へと跪く」




一瞬の静寂の後、黒き皇は威を放つ。



クラス・アルファ控え室にいる澪凰と龍姫、そして司令室にいる冬華が、黒き皇たる零牙と同時にその力の名を告げる。

彼女達は知っている。

かつて零牙が“亡我の刻”を迎えた際に至った力の極致ーーこれはその一端だと言う事を。

愛する男が極致へと一歩近づいた事への歓喜を込め、同時に告げるのだ。










「「「「【ステイシス】」」」」





零牙から静寂と共に、白銀で縁取られた漆黒の波動が放たれる。

波動は空間全てを呑み込んでいき、零牙に殺到していた魔力隕石や粒子ビームといった攻撃、フィールドに存在するオブジェクトや空間内に存在する神羅万象の全てをその支配下に置いていく。

波動は遥か成層圏で滞空する、シリウスにまでほんの瞬く間に届いた。

「ッ・・・これは・・・⁉︎」

シリウスは波動に呑み込まれる寸前に身構えていた為、大剣と短剣をクロスさせての防御が間に合っていた。

更に波動は衛星軌道上に展開されたシリウスの魔法陣にまで届き、呑み込んでいった。

シリウスは防御の隙間から状況を確認し、驚愕する。

「攻撃が、止まっている・・・?」

シリウスが寸前まで放ち続けていた粒子ビームと魔力隕石がーー”静止“していた。


そして波動はフィールド全てに波及し、相手チームの全員や繰り出した攻撃全てを影響を及ぼす。



ーー・・・天空城より100キロ地点

「う、動、けん・・・⁉︎」

顕鎧を纏わずにフェンリルと戦闘をしていたブライアは、零牙の波動の影響下に置かれていた。

口は辛うじて動くものの、それ以外の動作を抑え込まれていた。

(この、感じ・・・まるで全身をありとあらゆる方向から押さえ込まれている様だ・・・!)

「ステイシス・・・。無理に動こうとはするな。お前は今ーー“極大重力”の影響にある」

「な、に・・・⁉︎」



ーー・・・天空城より50キロ地点

「くっ、そ・・・どうなってやがる・・・⁉︎」

「・・・ッ・・・!」

アルタイルとヴェガ自身はもちろん、彼女達が展開していた【ロスト・ステラ】による攻撃の全てが止まっていた。

強制的に静止させられた二人の元へ、刹那、アイナス、朧、織火、アンジェの5人が舞い降りる。

「無理に動かない方がいいよ」

アイナスが長刀を突き付けながら言った。

他の四人もそれぞれの得物の突きつけるが、絶好のチャンスではあるが攻撃する気は無かった。

「しばし、待っていろ」

と朧が言った。

「零牙が決めるまで、ね」

と刹那は言って、零牙が戦闘中の方角に視線を向けた。



ーー・・・会場・実況席

目まぐるしい超高速機動戦からの、ベリアル三姉妹によるベリアルの奥義とも言える術ーー【ロスト・ステラ】による流星雨。

そしてその流星雨と粒子ビームを防ぎながら、逆転の一手を放った零牙。

トッププロに匹敵する試合を展開する二チームに、観察は興奮の坩堝と化し、歓客のボルテージは上がり続けていた。

「な、なんと言う事でしょう!突如、凰月選手より放たれた黒い波動により、チーム・ベリアルは選手自身と彼女達の放った攻撃全てが止まってしまった様です!レクリエーナ様、あれは一体・・・?」

興奮冷めやらぬといった様子で、実況のモイラが言った。

大興奮のモイラと比べ、隣の席のレクリエーナは落ち着いていた。

まるでこの結果を予測していたかの様にーー

レクリエーナが顎に右手をやり、フィールドを観察する様に視線をやりながら口を開く。

「あれは、彼の【起源顕鎧(オリジン・メイル)】の能力である重力制御を応用したものだ。本来なら上から作用する重力を、あらゆる方向から作用させる事によって相手を拘束するものだ」

「それはつまり・・・ワールド・ランキングAランク第一位が使う“ステイシス”と同じ、という事でしょうか?」

「ああ、そうだ」

レクリエーナが短くそう答えると、モイラは興奮した様子で“Aランク・トップランカーが使う最強とも名高いーー”と言い始めた。

それを横で聴きながらレクリエーナは思う。

(まあ、同じでは無いがな・・・Aランク第一位が使うステイシスはーー“ステイシスを模倣”したものだ。完全なステイシスでは無い。だが彼のステイシスは、“事象の地平に近づく事で発生する相対時間静止という現象”そのものを現出させるーー完全なる空間制御・・・“時空間と因果律”そのもの静止させる”龍域“による究極支配)

レクリエーナはフィールド全体に拡がった、“事象の地平”を見ながら思う。

(もっとも今回のものは、ゼロコンマ秒で影響下の全てを静止に近い停滞状態にし、更に“因果律”を止められていない極めて不完全な代物だ。ーーだが、行幸だ)

表情は厳格なままに、心内でレクリエーナは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

(この段階で完全では無いとは言え、ステイシスが使用可能になった事は喜ばしい。覚醒が予定より速くなるかもしれん)

心内の期待しながら、レクリエーナは試合を観戦し続けていた。





ーー・・・フィールド中央空域・成層圏

「私の攻撃の全てを止めた・・・のか・・・⁉︎」

シリウスは“自分以外”の全て静止した成層圏で、驚愕の声を上げて周囲を見渡していた。

「私以外の全てを静止させる程の空間干渉・・・いや、もはや干渉などと言うレベルでは無いな。空間制御、といったところか・・・」

シリウスは大剣を軽く持ち上げたり、翼を閉じたりして全身を確認する。

「私が動けるのは、咄嗟に全力で防御したからか?空間制御であれば、こちらに干渉する術が無ければ抵抗は無意味だと聞いたが・・・。理由はどうあれ、動けるのであればまだやれるーー?」

シリウスは遥か下方から、膨大な魔力の高まりを感じ取った。

「この魔力・・・零牙か。フィールド全域を呑み込む波動を放ったばかりだと言うのにか?私の見立てでは、零牙の魔力はさっきので枯渇してもおかしくはーー」

そう言いながら、シリウスは【ベリアルの瞳】で零牙を捉える。

「な、に・・・⁉︎魔力が、増大している?」

シリウスが瞳で見たのは、戦闘中ずっと確認していた零牙の魔力が爆発的に膨れ上がっていた。

(何故だ?確かに魔力密度は尋常では無かった。だがそれでも、絶対的な魔力総量自体はかなり少なかった筈だ。一体何処からこれだけの魔力を・・・?)

そう考えながら零牙の奥底の魔力を探っているとーー

「何だあれは?鎖の球体・・・?いや球体ではなく・・・何か拘束している、のか?そしてその隙間から魔力が供給されている・・・?」

シリウスが瞳で見透したのは、何十本もの鎖を束ねて球体状に拘束された“魔力”だった。

「魔力が封印されているのか・・・?だが何のために?いやそれよりもーー」

零牙が遥か下方で魔力をショットガンの銃口に集束していた。

その魔力を感じ、シリウスは言う。

「あの魔力・・・今までの零牙の魔力とは質が次元違いだ」

シリウスはその異質さに戦慄を覚えながらも、歓喜に声を震わせる。

「ふふ・・・面白い。何処から湧いて来たのかなど後で考えればいい。今はーー」

ーージャキン‼︎

シリウスは大剣と短剣を合体させて、零牙に向ける。

「攻撃を中断させられた分の魔力は残っている。

その全てをこの一撃に込め、君のその一撃を迎え撃とう!この一合で本当の決着だ、零牙‼︎」

シリウスも自身の全魔力をチャージし始めた。





ーー・・・フィールド中央空域

零牙は仰向けに滞空した姿勢で、ソードオフショットガンを構えていた。

その銃口には、恐ろしい程に超密度の魔力が集束し続けていた。

あれほど使える魔力が乏しいと言い、常に魔力切れに気を付けながら戦っていたのにも関わらず、一体自分の深奥の何処にこれほど莫大な魔力があったのかと疑問に思う事無く、零牙は最後の一撃を準備していた。

まるでその魔力に付いては、“認識阻害”されている様にーー

零牙は静かな声音で、最後の一撃を謳う。

「星の終末、静寂の”刻“」

銃口に集束している魔力に、極大重力が集束していく。

「時空は歪み、万象は崩壊し」

純粋な魔力と極大重力が融合・圧縮していき、光を一片も反射しない漆黒の真球が形成されていく。

「光は呑み込まれ、因果を押し潰す」

漆黒の真球が完全に完成した瞬間、膨大な空間干渉によって周囲の空間に亀裂が入る。

零牙の眼前には魔力隕石や粒子ビームが殺到した状態で静止させられ、それらが障害物となって成層圏のシリウスの姿は見えない。

しかし零牙は静止させた攻撃越しに、遥か成層圏のシリウスに照準を合わせーー





「【黒の咆哮(グラビトン・ハウリング)】」





ーーゴォウウ‼︎

真球状に圧縮された力が解放され、銀色が混じった漆黒の奔流が放たれる。

漆黒の奔流が、眼前で静止していたシリウスの攻撃群を呑み込んでいき、軸線上周囲の空を漆黒に染めていく。

空を漆黒に染めながら極大重力の奔流が、対する様に放たれた煌蒼色の粒子ビームと向かい合う。

破壊を圧縮したエネルギーの極大奔流同士が成層圏でぶつかり合い、その衝撃と余波はフィールド全域に波及し、オゾン層を消し飛ばした。

「・・・ッ・・・くぅ・・・‼︎」

シリウスは【帝剣グラム・オリジン】の出力を最大かつ自身の全魔力を総動員し、粒子ビームを継続していた。

しかし、恒星級の粒子出力を誇るグラム・オリジンとシリウスの残存魔力の全てを注ぎ込んでも、零牙の漆黒のビームに僅かに拮抗するだけで精一杯であった。

「全く・・・恐れ入るよ。私が全力を出して、抑え込むので限界とはね・・・」

シリウスが零牙の攻撃に拮抗出来たのは、30秒も持たなかった。

「ふふ・・・魔力切れだ・・・」

シリウスの魔力が枯渇した事で供給が途絶えた事により、粒子ビームがほんの少し弱まった瞬間ーー

ーーゴォォォォォゥ‼︎

漆黒の奔流は、鍔迫り合っていた粒子ビームごとシリウスを呑み込んでいき、更に衛星軌道上展開されていた【ロスト・ステラ】の魔法陣をも貫き、粉々に打ち砕いた。

やがて漆黒の奔流が徐々に消えていき、シリウスは成層圏から地上へと落下していく。

「ああ全く・・・何が魔力が乏しいだ・・・ほぼ無尽蔵じゃ無いか。初めて全力を出し切ってこの結果か・・・。完敗だよ零牙・・・。ーー私の初めての敗北だ・・・」

シリウスの顕鎧は、全身にヒビが入り破壊寸前だった。

「これが敗北か・・・ましてや、君が私にもたらしたものだと思うと・・・悪くないな・・・零牙」

満足気にそう呟きながら落下するシリウスに魔法陣が展開され、魔法陣がシリウスの身体を通ると共に彼女は転移させられていった。







ーー「シリウス・K・ベリアル、戦闘不能‼︎リーダー戦闘不能により、勝者チーム・クラスアルファ‼︎」

その瞬間、地を揺るがし天を震わせる程の大歓声が会場から轟いた。



ーー三章ー七節【漆黒と煌蒼の円舞曲・後編】・終

































































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