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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
3/49

一章ー二節[天羽々斬と聖剣]

放課後、仕事を片付けている姉さんを待っていた。

その間、訓練場で待っていた為に再び修也に挑まれて相手をしつつも、時間が過ぎて今日の仕事を終えた姉さんが来た。

「待たせたな、皆」

「今日はいつもより遅かったね」

「学期始めで色々あるからな。では帰るか」


ー・・・・


帰り道、アンジェが

「帰ったら、晩ご飯の準備をしないといけませんね」

「そうだね、零牙、リクエストはある?」

アイナスがそう俺に聞いてくる。

「みんなが作ってくれる物なら、なんでもいいよ」

俺がそう答えると刹那が

「それでも、零牙の食べたい物を聞きたいのよ」

織火が

「ええ、婚約者の醍醐味よ」

朧が

「私も含め、零牙のリクエストに答えるのが、嬉しい

んだ」

そう続けて皆に続けざまに言われて

「そうなのか?・・・じゃあ、肉料理かな」

「肉料理ね、わかったわ」

「帰るまでに、ある程度決めておきましょう」

「二人も食べていくでしょ?」

刹那が影刃と龍護に聞き、俺も

「そうだな、いつものように食べていけ」

「分かりました」

「では、お言葉に甘えて」

「なら、私も腕を振るおうか」

今まで静観していた姉さんが宣言する。

「冬華様。冬華様は今日はお疲れでは?」

「影刃・・・私が、その程度で疲れるヤワな女だと思うか?」

「しっ失礼しました!冬華様!決して冬華様を軽んじた訳ではなく!」

狼狽しながら影刃が姉さんに弁明する

「フッ・・・冗談だ。分かっている・・・ーーッ!!零牙!!」

姉さんが鋭い声を上げ警戒態勢に入る。

俺も含めた全員が即座に反応して警戒する。

「・・・これは、いつの間に・・・?」

「人の気配もないわね・・・」

ここは広い大通りとはいえ、この時間はまだ人通りも多い場所で車も通る。

しかし、今は周囲に人の気配は無く、異様に静かだった。

「完全に結界に引き込まれましたね」

アンジェの言う通り俺たちは結界に引きずり込まれた。

俺たちは皆、戦闘訓練を幼少期から受けているし、実戦経験もこの歳では、かなり豊富で、たとえ話しに夢中になっていたとしてもそういう気配や気には、敏感になる。

俺たちの常時張り巡らせている魔力探査に探知されずに術を仕掛けてきた、相手はかなり高位の魔術師だ。

俺たちが周囲を警戒していると、不意に前方に複数の気配を感じた。数は、四人と俺たちの半分以下の人数だが、油断はしない。数的有利が必ずしも有利とは限らない。

襲撃者達は全員が全身を覆うマントとフードで顔を隠していた。

「何が目的だ?」

俺が襲撃者達に聞くと中央の人物が

「・・・見つけましたよ黒龍。・・・いえ邪竜よ」

凛とした声が俺に向かって言い、その声からして女性だろうか?

「・・・邪竜?・・・確かに俺は龍を宿しているが、邪竜じゃない」

「では、名を言いましょう。邪竜ヴォーティガン‼︎」

「・・・なっ!?」

どうやら、俺はヴォーティガンと間違えられたようだ。

[やれやれ・・・とんだ龍違いだな。あんな奴の間違えられるとは!]

俺の中にいる黒皇龍・サイファスが心底嫌そうに呟く。

「とにかく、俺はヴォーティガンじゃない」

「・・・ならば、証明してもらいましょう。あなたが、かの邪竜か否か。・・・・この剣でもって!」

そう言うと、女性と思わしき人物は、自身の亜空間から、一本の長剣を取り出す。

その剣は、幾重にも刀身が鋭い装甲で覆われていたが、おそらく相当高ランクの剣なのだろう、覆れていても、魔力が滲み出ている。あの装甲は、擬装であり魔力を抑える拘束具の役目もあるのだろう。

そして、装甲の側面が開き、側面の刃だけ露出したが、抑えられていた魔力が少し解放されて、周囲を小規模な衝撃波が襲う。

そしてーー

「・・・行きます」

そう言うと、大きな衝撃波を放ちながら、俺に向かって突進して来た。

「・・・ッ!」

俺は咄嗟に魔力による防壁を展開して突進と共に放たれた、右切り上げを受け止めた。ーーだが

「・・・なッ!」

とんでもない速度から放たれた攻撃は、受け止めた零牙をそのまま連れ去った。


ーー零牙は襲撃者の一人の攻撃を受け止め、そのまま連れ去られた。

大通りで、残った襲撃者と対峙しながら、私、凰月冬華は、状況を分析していた。

(・・・さて、すぐに戦闘になるな・・・相手は、三人、能力は未知数となると・・・)

「龍護、影刃、アンジェ、織火、お前たちは朧を守れ」

『はっ!』

「了解です」

「ええ」

指示を出すと、すぐさま朧を守る陣形になる。

「・・・冬華姉さん・・・」

「心配するな、全員に言えることだが、何かあれば零牙に申し訳がない」

申し訳ないように自分の名を呼んだ朧に冬華は優しく諭すように言った。

「刹那、アイナス」

呼ばれた二人と共に冬華は前に出て、襲撃者に向き直った。

「さて・・・始めるか?」

「あら、数的優位を捨てるの?」

奥にいた襲撃者が冬華に問う。

「なに、こちらには事情があってな、気にするな。・・・それに、簡単に私達を抜けると思うなよ?」

冬華は鋭く相手を見据えながら、答えた。

既に冬華は、静かに、周囲の空気を震わせる程の鋭い剣気を纏っていた。

両脇にいる二人は、冬華の剣気に身構えるが、中央の人物は、全く動じていなかった。

「・・・ふふ、では、始めましょうか。・・・二人とも」

両脇の二人がそう言われて、亜空間から得物を取り出した。

左の襲撃者は鍔に装甲が施された白銀の長剣。

右の襲撃者は全体に黒い鎖が巻き付いた漆黒の長剣。

そして、指示を出した、中央の人物が取り出したのは、大型の柄と刃の設置部に、黒い宝玉が埋め込まれた大鎌。いわゆるデスサイズと呼ばれる死神が持つ武器として知られているが、禍々しさはなく、かすかに龍の魔力を宿しているように思えた。

(リーダー格の得物は、サイズか・・・ならば)

「刹那、お前は右を、アイナス、お前は左だ」

冬華が指示を出すと二人は頷き、それぞれの相手に相対する。

「アイナス、油断は禁物よ」

「刹那こそね」

冬華がリーダー格と相対すると

「・・・私の相手は貴女が務めてくれるのね」

「ああ、相性が良さそうに思えたんでな。・・・さて、今度は私の得物を見せようか」

冬華は右手を前に出す。

「・・・来たれ、天羽々斬【氷皇】」

上空に亜空間が開き、そこから氷柱が落ちてくる。氷柱は冬華の眼前で滞空し、氷柱が砕けて、冬華の周囲に氷のカケラが一旦滞空し、冬華の右手に集束し、一振りの太刀に形を成す。現出したのは、冬華の背丈とほぼ同等の長さを持つ白銀の鞘に納められ鍔は龍の翼のような氷晶の形をした蒼白銀の野太刀。冬華の天羽々斬、銘は【氷皇】。

冬華は、左手を前にした半身で抜刀の構えをとった。

そして、両脇の二人も自身の得物を召喚する。

「・・・来なさい、天羽々斬【絶皇』」

言葉と共に刹那の頭上に亜空間が開く。

亜空間から赤黒い魔力が現れ、刹那の周り周回する。

刹那が右手をかざすと一気に収束し、一振りの刀に形を成す。内側の色が黒く縁を緋色に彩られた普通の忍刀よりも刀身が長く、棟には爪の様な鋭い返しがある忍刀、刹那の天羽々斬、銘は【絶皇】。

刹那は、逆手で右側を前にした半身で構えた。

「・・・おいで、天羽々斬【冥皇】」

アイナスの左側の地面に亜空間が開き、そこから、青黒い魔力が滝のように上方向に溢れ出す。

アイナスは、溢れ出した魔力の奔流に左手を突っ込み、中の物を掴むと、魔力の奔流が徐々に止まり、

アイナスの天羽々斬があらわになる。

全体な意匠は、龍の翼をそのまま刀に加工したようで刀身は淡い蒼に輝き鍔から手の甲を守るガードが付いた長刀、アイナスの天羽々斬、銘は【冥皇】。

左手で握って一度左に振り抜き、そのまま流れる様に右側を前にした半身で構える。

冬華達と襲撃者達の間で沈黙が流れる。

先に仕掛けたのは、冬華だった。

冬華の姿が一瞬ブレて、瞬時に距離を詰めて、襲撃者のすぐ全方に現れる。

冬華は横薙ぎに加減して、抜刀を放つ、そこまで僅か1秒。

冬華の剣閃は、中央の相手を狙って放たれたものだが、【氷皇】の長さにより、真一文字に放たれた為、攻撃範囲は三人まとめて薙ぎ払う程の範囲を誇る。

「ッ‼︎」

「くッ!」

「姫様‼︎」

両脇の二人が中央の人物を守るように前にでて、二人で冬華の斬撃を防ぐ。それでも反応が遅れ、かろうじて防御した衝撃で、大きく後ろに後退する。

その際、アイナスと刹那は見守っていた。長年の経験から、冬華が先に動く事を知っていた為だ。

「・・・なっ⁉︎」

「・・・私の剣を凍らせる程とは!」

白銀の長剣と漆黒の長剣は攻撃を防いだ部分が凍結していた。

二つの剣の装甲がガチャガチャと展開して魔力が高まるーーだが。

「能力が発動しない⁈」

「いや、これは発動を封じられている!」

魔術師が凍結した部分を見て、

(・・・なるほど、攻撃が当たった箇所を凍結させて能力自体を凍らせて封じる。それが、あの刀の能力なのね。・・・でもそれだけじゃなく、【氷皇】と名がついてる以上、あの刀は氷を操る事ができるはず。・・・そして彼女はおそらく)

「この氷が原因か!・・・ならば!」

白銀の長剣の鍔の装甲がさらに開き先程よりも魔力が高まり、装甲が開いたことで少し見えていた宝玉が輝き、刀身を宝玉から発生した炎が覆い、氷を溶かそうとするが、装甲で力を制限されている状態では軽く凍らせた程度の氷でも溶ける気配がなかった。

「・・・くっ!制限されていなければ!」

そう言うと、集中して刀身を覆う炎を凍っている部分に集中させると、その様子を見ていた冬華が

「・・・推測通りだな」

そう言うと氷を自ら解除した。

「・・・やはり、こちらの能力を確かめる為に手を抜い凍らせたのね」

「相手の手の内を探るのは戦いの基本だろう?お前に関してはまだだが、そこの二人は、だいたい分かった。なあ?騎士の末裔達」

「・・・なっ⁉︎」

「能力をごく僅か見ただけで、我々の素性に気づくのか⁈」

「二人共、驚く事はないわよ。彼女達は恐らく、あの子の剣を見た時から、推測していたでしょう。そして・・・彼も」

驚く二人に対して、リーダー格の人物は冷静だった。

「・・・さて、探りはひとまず充分だ。制圧してから邪竜について聞かせてもらおうか。まだ私達相手に力を抑えるようなら、怪我では済まんぞ?」

今まで、冬華の探りを邪魔しない様に様子を見ていた二人と共に、魔力を滾らせながら制圧に掛かろうとした、その時

ードォォォォン‼︎

と遠くから轟音が聞こえてきた。

「・・・今のは?」

「零牙が連れ去られた方向ね」

アイナスと刹那は音がした方向見ながら言い、冬華は依然相手を見据えながら

「・・・どうやら、向こうも始めた様だな」

「その様ね、あの子ったらまた派手に・・・」

リーダー格の人物が少し呆れながら言った。

「・・・では、こちらも」

「ああ、始めるか」

その言葉に六人は構え直し、ひと時の沈黙ののち、辺りに刃がぶつかり合う音が響いた。


ー・・・五分前

襲撃者の一人の攻撃を受け止め、そのまま連れ去られた俺は、皆がいる大通りから学園に戻って来た。

防御している間に見えた、広い場所がここしか無かった。そして今しがた、着地した俺への追撃の刃を距離を取って躱した直後で、着地した所は追撃で小規模のクレーターが出来ていた。立ちこめる煙を切り裂き、女性と思わしき襲撃者が姿を現わす。

「・・・・」

「・・・なるほど、学校ですか。この場所ならば、気兼ねなく戦えるというわけですね?」

「ああ、そう言う事になるな」

「・・・・どうしても、戦う必要があるのか?」

戦う前に俺は、最後の確認をする。

「無論です。貴方が邪竜ではないと言うなら、それを証明してください」

[どうする?零牙?]

「もう、戦うしかないだろう。それで証明できるのなら安い物だ。それに彼女は俺を試そうとしてるんじゃないか?」

[剣は己の全てを写す鏡か]

「ああ、刃を交える事で分かる事もある。今、彼女は俺の剣から確証を得ようとしているんだろう。ならば、俺も応えるさ」

[・・・では、行くか?]

「ああ」

俺はサイファスに答え、彼女を見据える。

「決まった様ですね」

「お互い剣士だ。貴女と剣で語り合うことで、誤解が解けるなら、俺も剣で証明しよう」

そう言って俺は左手を前にかざす。

「来たれ。其は始原の一振り」

左手をかざした地面に空間が斬り裂かれた様に開き、一振りの刀がゆっくりと現れる。零牙の身の丈程ある白銀の長刀、刀身は鍔の根元から刀身が伸びて柄と並行していて、ナックルガードの様になっており、柄は純白、鍔の四方に翼の装飾が施された零牙の刀。銘はーー

「抜刀・・・天羽々斬【皇】‼︎」

俺は刀を握り、左に振り抜いて構え、戦闘態勢に入った。

彼女は俺の刀を見て

「それが、かの天羽々斬・・・確か、日本の神話に記された、神剣でしたね。神話には、ヤマタノオロチとの戦いで折れたと記されていましたが?」

「・・・さすがに現状、敵か味方かもわからない相手に語れないが、少し教えるなら。史実は違うと言っておこう」

「そうですか、・・・では、確かめさせてもらいましょう」

両者の間に静寂が流れる。

次の瞬間、お互いに同時に動き、刃同士がぶつかり合い迫り合う。数瞬の迫り合い後、お互い少し距離を取って、同時に、刺突を繰り出しながら突撃する。

お互いの刺突が重なる直前、零牙は刺突をやめ刀の切っ先を横にして、相手の剣の上で刀身の側面を滑らせる横薙ぎに攻撃を変更した。

滑らせる事により摩擦で火花が散り、攻撃の軌道の目眩しになり、両者の突撃の勢いもあって、零牙の刀はすでに、数センチもない所にある。

しかし、彼女の反応も速く、寸前で姿勢を低くして攻撃をやり過ごす。

刀はフードを掠めた。

彼女は躱すと、体勢を整えて、振り向きながら、斬撃を放つ。躱された、零牙も既にその勢いのまま斬撃を放つ。

ほぼ同時に放たれた斬撃は、交差してぶつかり合い、周囲に衝撃波が走り、その場で斬撃の応酬が始まる。

一太刀切り結ぶごとに周囲の地面に傷がつき、お互いの得物がぶつかり合う音が鳴り響く。

(やはり、相当な手練れだ。・・・一撃に重きを置く騎士剣術と見ていたが、斬り返しも早く、その場にあった対応もしてくる)

零牙は相手と切り結びながら考えていた。

しかし、その眼は常に油断なく相手を観察して、変化を見逃さないようにしている。

(・・・やはり『皇』と切り結べる程のこの剣は同格の物か)

それにサイファスが答えた。

[ああ、推測通りだ。・・・邪竜ヴォーティガン、騎士剣術、そしてあの剣、これだけ情報があれば、答えは一つしかないだろう]

(・・・そうだな、皆も心配だ。そろそろ戻るか)

そう思うと零牙は切り結ぶのをやめ、後方に跳躍して距離を取った。

「容易に距離は取らせません‼︎・・・?!」

距離を取った零牙を即座に追いかけようとした所で、零牙の刀に、魔力が集束している事に彼女は気づいた。

「・・・これは!・・・やはり黒龍の魔力!」

零牙の魔力の色は黒、これはその身に黒龍を宿している証明だった。

零牙の魔力が【皇】の刀身に集まっていき、白銀の刀身が漆黒に染まる。

そして、技を放つ準備を整えた零牙が彼女に言う。

「・・・そろそろ、その剣の答え合わせをさせてもらう!」

「・・・・なるほど、私の正体をある程度確信しているのですね」

「ああ、だから今から放つ技は、力を抑えていては受け止める事は出来ない」

「・・・・確かに貴方の言う通りです」

彼女は濃密な魔力を見ながら答えた。

「・・・行くぞ。・・・【皇龍爪牙】‼︎」

零牙は右から薙いで技を放つ。

【皇龍爪牙】ーー刀身に凝縮・圧縮した魔力を斬撃として飛ばす凰月の奥義の一つで、弧を描いた斬撃は、直撃した場所で圧縮された魔力が爆発的に解放されて、凄まじい破壊を生み出す。

漆黒の斬撃が地面を抉りながら彼女に迫る。

「ハァァァッーーーー‼︎」

彼女は上段から振り下ろし、真正面から受け止めた。

漆黒の斬撃と彼女は迫り合う。

「ぐぅ!・・・確かに凄まじい斬撃です。しかし!この程度なら、受け止め切れぬわけではない‼︎」

零牙の斬撃を彼女は一刀のもと両断した。

ドォォォォン‼︎

両断された斬撃は後ろに直撃、爆発して二つのクレーターを作る。

「・・・・」

零牙の攻撃は受け止められたが、それもそのはずだ。

その奥義を零牙は、刀身に凝縮した魔力の三分の一で放ったのだから。

「・・・なッ!?」

受け止められる事を想定していた零牙は、既に眼前に迫っていた。

零牙は二撃目の斬り上げを放つ。

「くッ!」

彼女は反応して防御したが、受け止めた衝撃で彼女の身体は浮き上がる。

彼女は受け止めながら、未だ漆黒に染まる刀身を見て悟った。

(・・・最初の一撃は囮、彼の本命の攻撃はここから・・・!!)

彼女が見たのは、零牙の弧を描いた剣筋から放たれるゼロ距離の【皇龍爪牙】

「・・・二撃目だと!!」

ゼロ距離から放たれた、漆黒の斬撃は彼女を空中に連れ去った。

零牙は跳躍して彼女を追う。

空中に移動させられた彼女は、空中で一回転して斬撃を受け流し、追ってくるであろう、零牙を迎えうつ体勢を整え、下を見据えた。

「空中戦に持ち込もうと言うのか・・!」

すかさず、彼女は斬撃を零牙がいるであろう地上に向けて飛ばす。

彼女は零牙の姿を探すが、下から追ってくるはずの零牙の姿は何処にも無く。

「・・・彼は、いったい何処に⁉︎」

彼女は自由落下しながら、零牙の居場所を探知していると、不意に前方に気配を感じ、前を向いた彼女が見たものは、前方から突撃してくる零牙の姿だった。

「そんな‼︎あり得ない!いったいどうやって⁈」

(・・・どうやってか、確かに、実際に移動した方法を見なければ分からないだろうな」

彼女に突撃しながら俺は思った。

どうして、下にいたはずの俺が、彼女の真正面に出られたか、それは、俺の天羽々斬【皇】の能力を応用したからだ。

彼女は防御態勢を取った。

そこに、三撃目のゼロ距離の【皇龍爪牙】による斬撃が入り、ぶつかった衝撃で空気が震える。

しかし、突撃の勢いもあって、ぶつかり合ったまま移動していく。

「今度は、俺が貴女を連れ去ろう!」

「まさか!最初から合流する為に⁈」

今度は反対に零牙が連れ去る形で、二人は大通りに戻っていく。



ーーー龍凰市・大通り


冬華達の戦闘も続いていた。

周囲一帯は【氷皇】の能力によって凍り付き、あたりには無数の刀傷や剣閃の跡があり、激しい戦闘を物語っていた。

ギィン‼︎

冬華の太刀と術師の大鎌がすれ違いざまに切り結び、お互いに離れる。

刹那とアイナスも冬華の側に来て、お互いに最初の位置関係に仕切り直した。

「・・・全く、加減しているとはいえ、魔術師がこうも、私の剣閃を受け止められるとはな」

「ふふ、今の時代、魔術師でも自衛ぐらいは出来ないと」

「そうか?自衛と言いながら魔力障壁ではなく、その大鎌で私の刀を受け止めていたじゃないか。

それに、術をこの結界以外にあまり行使せずに、近接戦闘で私と戦える。これでは、魔術師というよりも魔導戦士ではないか?」

「これでも一応魔術師で通っているのだけれど、ええ、貴女の言う通り私の戦い方は魔導戦士の方が近いわね。魔術を使わないのは、待っているからよ、そろそろの筈だから」

「待っている・・・?」

「零牙を連れ去った人の事を?」

刹那とアイナスが疑問に思って口にした。

「いいえ、二人共よ」

それに魔術師が答える。

「・・・さっき、そろそろだと言ったな?どう言う事だ?」

今度は冬華が問う。

魔術師は微笑しながら答える。

「ふふ、本当にもうすぐのことよ。こうして話している間にも、二人共こっちに戻って来ているわ」

「なんだと・・・?」

冬華が口にした、その時ー

ドォォーン‼︎

凄まじい轟音を立てて、上空から何か、ものすごい勢いで地面に激突して煙が立ち込めた。

皆がそこに注目する。

煙の中から、切り結ぶ音が聞こえる。

ひときわ大きな音が響くのと同時に、衝撃で煙が吹き飛び、そこに見えたのは、鍔迫り合い中の二人の姿だった。

二人は同時に斬り払って離れる。

「零牙!、無事で良かった!」

「ああ、俺は大丈夫だが、皆は?」

「見ての通りだ。心配するな」

「冬華姉さんの言う通りよ。・・・若干膠着状態ではあるけれど・・・」

「そうみたいだな・・・」

零牙達は会話しつつも、警戒を解いていなかった。

零牙と戦った剣士は、辺りを見渡して

「戻って来ましたか・・・。お互いに決着をつけられていないようですね・・・」

「申し訳ございません。私達の力が足りず」

白銀の長剣を持った剣士が弁明した。

「いえ、詫びる必要はありません。私も同じですから」

漆黒の長剣を持った剣士が、ある事に気付いて驚愕した。

「なッ⁉︎・・・拘束装甲にヒビが‼︎」

零牙と戦った剣士の剣の刀身を覆う装甲には、いくつもヒビが入っていた。

「ええ、私も驚きました」

ヒビの入った装甲を見て、魔術師も驚いていた。

(・・・刀の能力を使わずに鞘と同じ材質で出来た装甲にヒビを入れるなんて。これは、想定以上ね)

彼女は、剣を中段に構えた。

「・・・・・・流石に、加減をして勝てる相手ではないですね。・・・・・・ここからは、本気です」

その言葉と共に、ガチャンという刀身を覆う装甲のロックが外れていく。

一つ外れる毎に彼女の魔力も一段階、また一段階と膨れ上がっていく。

装甲が外れる所を見ていた冬華が

「なるほど、剣の力だけでなく所有者の魔力も抑えていたのか・・・」

(ようやく、お披露目だな零牙。予想通り、やはりあれは聖剣だ)

「ああ、それも聖剣の中でも最上位に位置する聖剣・・・・・・【聖剣・エクスカリバー】」

【エクスカリバー】

誰でも一度くらいは耳にした事はあると思う。

ブリテンの王・アーサー・ペンドラゴンが振るった伝説の聖剣、やはりと言うべきかあの装甲は、あまりに有名すぎる聖剣を隠す為のものだった。

恐らく、他の二本の剣も同じなのだろう。

白銀の長剣は何となく予想出来るが、漆黒の長剣の方は見当がつかなかった。

そして、装甲が最大限に展開して、拘束が完全に解かれようとしたその時、

「ハイ!ストップ!そこまで‼︎」

突如、魔術師が制止する。

膨れ上がっていた膨大な魔力が、ピタリと収まる。

「姉上?何事です?」

「いいから、剣を収めなさい」

姉と呼んだ魔術師にそう言われて彼女は、剣の装甲を元に戻した。

俺たちが疑問に思っていると魔術師がこちらを向き

「ごめんなさいね。あなた達も分かっていたと思うけど、妹の勘違いなのよ」

それを聞いた、【エクスカリバー】の剣士が表情は見えないが、少しキョトンとしている様だった。

「・・・・・・姉上、まさか私が勘違いしている事を知っていて、黙っていたのですか?」

「ええ、もちろん。それにあなたも剣を交えて感じていたのでしょう?人違いだと」

「そ、それは・・・、確かに感じていましたが・・・し、しかし!、彼からは確かに黒龍の気配を感じました。

その証拠に彼の魔力は黒い色をしていました!」

彼女は慌てた様子で、俺を示しながらそう言った。

「それはそうよ。彼は確かに黒龍を宿しているけど、龍違いよ。・・・彼が宿しているのは、【黒皇龍・サイファス】、13皇龍の一人よ」

「・・・黒皇龍・・・それは、つまり・・・彼は」

魔術師は、俺の方を見て彼女に告げる。

「ええ、そう、彼は凰月零牙、私達が邪竜を追う上で協力を得る予定の人で、私たちにとってとても大切な人物よ」

「・・・・・・えぇーーーー!?」

彼女は驚きの声を上げた。

驚いて脱力した彼女を尻目に、魔術師は大鎌をしまい、近づいて来た。

「さて、改めて名乗らせてもらうわね」

魔術師は、フードを取った。

あらわになったのは、整った顔立ち、長いロングストレートの銀灰色の髪と碧眼の美女。

「私は、モルガン・ペンドラゴン、はじめまして皆さん」

彼女は胸に手を当てて自分の名を告げた。

「なッ⁈」

「モルガンだと・・・⁉︎」

名を聞いた俺たちは驚愕した。

モルガンーーアーサー王物語に出て来るアーサー王の異父姉で黒魔術を使う魔女、アーサー王の最大の宿敵と言われていた。ケルトではケルト神話の神、モリガンと同一視されている有名な女性だ。

「ふふ、驚くのも無理も無いわね。両親が伝説にあやかって名付けた名前だから」

気付けば、他の二人もフードを取っていた。

金髪のロングストレートと橙色の瞳の美少女と紺色のストレートの髪と紫色の瞳をした美少女で、どちらも何となく、影刃と龍護に雰囲気が似ていた。

恐らく、影刃と龍護と同じように従者の立場なのだろう。

そして、モルガンさんは後ろを振り返り

「ほら、いつまでも落ち込んで無いで、自己紹介なさい」

「・・・そうですね。姉上」

女性は、モルガンさんの隣に立ち、フードを取った。

あらわになったのは、モルガンさんに似た端正な顔、碧眼、長い金髪をポニーテールに結んだ美少女。

「はじめまして、モルガンの妹で、アリシア・ペンドラゴンと申します。以後お見知り置きを・・・」

これが、俺たちとペンドラゴン姉妹達との出会いだった。

ー・・二節・終







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