三章ー六節【朱雀と九頭龍。闘神と軍神】
待っている方はいないかもしれませんが、お待たせ致しました。今回は修也の試合です。
チーム・アルファ対チーム・ワームウッドの試合から30分後ーー
「ハハ・・・やっぱスゲェな、零牙達」
未だ観客の歓声が上がっている会場の様子を見て、修也は感嘆の声を上げた。
誰彼構わずに見下して最悪の試合を展開したセトを、全く足元にも及ばさずに遥かに凌駕する実力で、一方的に下した零牙達の試合を目の当たりにした観客達は、エキシビション・マッチ後の熱気と盛り上がりを取り戻していた。
「ええ。やっぱり、龍凰学園最強は伊達じゃ無いわね」
スラリとした黒髪ポニーテールの雲蘭がそう言った直後に、控え室に通信ウインドウが展開される。
「5分後に試合が始まります。チーム・イオタの皆様は、準備をお願いします」
「分かりました。ーーよし・・・‼︎」
通信が切れた後、修也は自身の頬をパンと両手で叩いて気合いを入れた。
「ハハハ、修兄ィ緊張しすぎ!もっと気楽に行こうよ〜!」
そう気の抜ける様な明るい声で言ったのはーー薄い赤髪をサイドテールに纏め、雲蘭の様にチャイナドレスの様に仕立てた制服にスラリとしたスタイルを包んだ快活そうな少女【張飛華】。
「そりゃ緊張するだろうが・・・。零牙達の後だからな、情け無い戦いは見せられねぇよ」
修也は溜息混じりにそう言うが、飛華はそれを笑い飛ばす。
「あはは!だから、それが気にし過ぎなんだって。人それぞれなんだから、一生懸命にやれば良いんだよ!修兄は修兄のペースがあるんだから。それにこの大会はそうやって、互いに切磋琢磨する場でしょう?命を取るか取られるかの戦場じゃ無いんだから。もっと気楽に戦いを楽しもうよ!」
(本当お気楽な様に見えて、的をいた物言いをするんだよなぁ飛華は・・・)
「確かにそうだな・・・。じゃ、“現役傭兵”のアドバイスしたがって気楽に真剣に戦うか!」
「そうそう、その意気だよ!ね、姉者?」
飛華が雲蘭に聞いた。
「ええ、そうね。ーーありがとうね、飛華。修也は本当に考えこみ過ぎるから・・・」
最後の方は修也に聞こえない様に、雲蘭は飛華に言った。
「良いんだよ。戦場じゃ考えこみ過ぎるのは良く無いからさ・・・」
そう言った飛華の表情が若干曇った様に見えたが、雲蘭はそれに言及しなかった。
飛華はつい最近まで傭兵として活動していたので、その時に何かあったのだろうが、過去を無闇に詮索するのは雲蘭は気が引けたので逸らす様に言う。
「さあ修也、皆、そろそろ時間よ!」
雲蘭がそう言って、全員を転移陣へと促す。
「よし、行くか!」
『応‼︎』
そうして修也率いるクラス・イオタは、フィールドに転送されていった。
ーーフィールド・峡谷地帯
今回の試合で選ばれたフィールドは、左右を断崖絶壁で挟まれた荒れた谷底。
この一直線の道にも見える谷底で結ぶ形で、強固かつ巨大な門に守られる中華風の城と、その反対側に今回の前線基地は設営されていた。
「さあ皆様お待たせしました。先の試合の興奮冷めやらぬ中、同学園対決です!ーーチーム・イオタ対チーム・イータの試合を開始します‼︎」
実況のモイラがそう宣言した内容に、既にフィールドの前線基地にいたチーム・イオタの面々は驚愕した。
「チーム・イータ⁉︎まだ結成されて無かった筈じゃ・・・⁉︎」
と修也が言った。
「ええ。そう聞いているし、会場に来る時も皆見知った学園の面々だったわ」
と雲蘭が言った。
「ん〜、さっき結成されたとか?もしくはサプライズって事かな?」
と飛華が言った。
そうしてイオタの面々が驚愕している所に、イータのリーダーからの魔導通信によるウインドウが空中に開いた。
「初めましてーーいや、久しぶりと言うべきだろうな。イオタの皆よ」
映し出された蒼い長髪に紅い目をした大人びた美少女が、威厳を感じさせるような低めの声でそう言った。
イオタの面々は、その少女に見覚えがあった。
「お前は・・・まさか蒼姫⁉︎【曹蒼姫】か⁉︎」
「傭兵として活動していた筈じゃ・・・⁉︎」
修也と雲蘭がそう言うと、蒼姫は頷きながら答える。
「ああ、その通りだ。だが、親世代から言われてな。この度我が傭兵団共々、龍凰学園に転入する事となった」
蒼姫は、自分と同年代の者達で立ち上げた傭兵団【鳳翼】を率いて、傭兵稼業において世界で活躍している若き団長だ。
傭兵にもランクがあり、F〜EXまでのランクが設定されている。
EXが最高ランクであり、ランクが上がるにつれて契約金は高くなるが、それ相応の実力と信頼が有ると言う証拠でもあるのだ。
「傭兵稼業は学園に通う間は休業だ。たまたま転入の時期にこの大会が開催される事になっていたからな。サプライズ的な意味で、試合が組まれたと言う訳だ」
「そうだったのか」
肩をすくめながら言った蒼姫に修也が成る程と頷いた。
「まあ私自身もーー」
「おい蒼姫、アタシにも挨拶させてよ」
粗暴そうな少女の声が、蒼姫の言葉を遮って割り込んだ。
「ああそうだった。私とした事が失念していた。紹介しよう、彼女は最近スカウトした者だ。では挨拶をーー」
蒼姫に促され、紅いメッシュが前髪の一部に入り所々はねた長い黒髪と、金色の目をした鋭い眼光のスタイルの良い長身の美少女が画面に映り込んだ。
「【呂布奉玲】よ。傭兵ランクはEX。まあ肩書きなんてどうでもいいけど、管理組織が名乗れって煩いから一応言っておくわ。よろしくね」
奉玲がそう言った後、イオタメンバーを金色の目を細めながら見渡して言う。
「ふぅん・・・成る程、ね。中々期待出来そうじゃない。アタシの相手に不足は無いわね」
奉玲が、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
その様子を見てイオタの面々は同じ事を思った。
(((ああ・・・戦闘狂だ)))
「楽しみしているわよ?最近は私の名前を聞くだけで、慄いて戦いにならない事が多いから・・・遠慮なく向かって来てくれる事を願うわ」
奉玲がそう言って手を振りながら画面外に消えると、入れ替わりに蒼姫が画面内に入り込む。
「と言う訳で、昔話に花を咲かせたいが・・・私もお前たちがどれほど強くなったか楽しみだからな。積もる話は、刃を交えてからにしよう」
「ああ、そうだな。俺も今の自分のスタイルがお前にどこまで通用するか試したいしな」
「・・・ふむ・・・」
そう言った修也を、どこか憂いに満ちた目で蒼姫はしばし見つめた。
「・・・ん、どうした蒼姫?」
「いや、気にするな。では、フィールドでな」
そう言って、蒼姫は回線を閉じた。
「何だったんだ?まあ良いか。蒼姫と手合わせは久しぶりだな。幼馴染みの中で最強だったあいつに、今の俺がどこまで通用するか、だな。気を引き締めるか!」
「「・・・・・」」
蒼姫の一瞬見せた表情に疑問を抱きながらも、そう言って自分の頬をパンと両手で叩いて気合いを入れる修也を、雲蘭と飛華は蒼姫のような憂いに満ちた瞳で見つめていた。
ーー・・・フィールド
フィールドでは両チームの準備が整い、試合開始の合図を待つばかりであった。
襲撃側のイオタは地形から蒼姫が、道を塞ぐ様に防衛線を構築してくると判断して、修也を先頭にメンバーがその両脇をや鋒矢形に固め、その後ろを大量の兵士型ミニオンで侵攻する一点突破の陣形を構築していた。
対する蒼姫は、修也達の予測通りの防衛線を構築して徹底的に迎え撃つ構えであった。
「両チームの準備が整った様です。それでは、龍凰学園所属ーー九尾修也選手率いるチーム・イオタ対、同学園所属ーー曹蒼姫選手率いるチーム・イータ。ーー試合開始‼︎」
「よし、行くぞ!ーー総員突撃‼︎」
開始の宣言と共に修也がメンバーとミニオン軍団を率いて、蒼姫が引いた第一防衛ラインに突撃した。
ーー・・・実況席
「やはり最初に動くのは襲撃側のチーム・イオタ!」
モイラがそう言うと、隣のレクリエーナが顎に手をやりながら言う。
「ふむ・・・小細工無しの真正面からの突撃か。確かに一点突破の陣形たる鋒矢型ならば、壁の様に防衛ラインを引くイータの陣形を打ち破れるだろうな。だが諸刃の剣だ。各々の攻撃能力の総合力こそが陣形の突破力に繋がる。しかも先頭には、相手の迎撃に耐え得る防御力も必要になってくる。そして一番危険な先頭をリーダーが務める以上、瞬時に試合が決するリスクもある。果たしてそれらにどう対応するのか、見ものだな」
実の所、この試合の組み合わせは“ある者”からの要請だった。
そしてレクリエーナは知っていた、この試合が何を目的としているものなのか。
レクリエーナは陣形の先頭の修也を見ながら思う。
(さて・・・“真なる者の一人“よ。見せて貰おうか、お前の現段階での輝きを。そしてーーお前はこの試合で何を得る?)
ーー・・・峡谷フィールド
「おぉぉぉぉぉッ‼︎」
雄叫びを上げながら、修也はメンバーとミニオン軍団と共に第一防衛ラインに突っ込んだ。
修也は、前方に迫った兵士型ミニオンの集団に漢剣を高速で突き出し、気と魔力を混合した衝撃波を刺突で繰り出す。
「【発勁閃・穿】‼︎」
強力な鋭い衝撃は、前方のミニオンの胴体を大きく穿ちながら貫通し、そのミニオンの背後の数十のミニオンが胴体に風穴を空けられ、上半身と下半身が半ばから分断された。
その右隣では、雲蘭が薙刀をブーメランの様に投擲し、数十以上のミニオンを広範囲に渡って両断し反対側の左隣では、飛華が身の丈を越える蛇矛を振るって穂先に集束し圧縮した気と魔力の刃を生成して、それを鞭の様にしならせ、リーチを更に伸ばした穂先で数十以上のミニオン集団を扇形に薙ぎ払った。
両側を往く他の8名のメンバーも、各々の攻撃を駆使してミニオン集団を蹴散らしていく。
チーム・イータの第一防衛ラインのミニオンは瞬く間に蹴散らされ、残るは防衛に当たるイータのメンバー三人だけだった。
「リーダー、行ってください‼︎」
「ここは私達にお任せを‼︎」
「背中は追わせません‼︎」
メンバーである短髪の少年・桃色の髪の少女・長い茶髪の少女が言った。
三人はそれぞれ防衛に当たっていた同数の相手メンバーに攻撃を仕掛けて、一対一に持ち込んでいた。
「ああ、頼んだ‼︎」
修也は振り返りながらそう言うと、ミニオンに指示を出して集団の一部を残して次の防衛ラインに向かった。
ーー・・・防衛側・城壁
身体のラインが分かる蒼を基調とした専用のタクティカルスーツを身に纏う蒼姫は、峡谷を一直線に一望出来、状況把握も容易である巨大な門に併設された城壁上で第一ラインの突破を確認していた。
「・・・成る程。一点突破しつつ順次メンバーに足止めさせ、私が対応の一手を打つ前に一気に辿り着くつもりか。この勢いを削ぐ策は容易く打てるが、今回は無しだからな」
修也の様子を遠目に眺めながら言うと、不意に声をかけられる。
「中々効果的な戦術をとって来たわね、彼。でもーー背後からの挟撃は考えてない様ね」
同じ様な黒のタクティカルスーツを身に纏った奉玲が、いつ間にか腕を組んで城壁に寄りかかりながら言った。
「挟撃の暇は与えない、と言う戦術なのだろう。私かクラウンの破壊で勝負を決めるつもりだ。ーーまあ、こちらとしては好都合だ」
蒼姫は遠目に第二防衛ラインが突破された事を確認しながら言った。
「へえ、やるじゃ無い。じゃアタシは最終ラインで楽しんで来るわ」
そう言って奉玲は、城壁から飛び出そうと縁に片脚を上げる。
「奉玲、分かっているな?」
蒼姫は今まさに飛び出そうとしていた奉玲に確認する。
「はいはい、大丈夫よ。ちゃんと“彼”は通すわ」
ひらひらと左手を振った後、奉玲は踏み込んで最終ラインまで跳躍していった。
「さて・・・私も待つとしよう」
程なく奉玲が最終ラインの防衛につくのを確認してから、蒼姫は城の中へと戻っていった。
ーー・・・フィールド・最終防衛ライン
「どう言う事だ、これは・・・?」
防衛側の拠点である城を間近に敷かれた最終防衛ラインの戦力を見て、修也・雲蘭・飛華の三人は唖然としていた。
ちなみに他のメンバーは第二防衛ラインで相手チームの足止めに残っている。
相手が対応策を講じる前に相手リーダーもしくはクラウンの破壊と言う一点突破の電撃作戦ーーそれが修也の自分なりの最善策だった。
第一第二と、防衛に当たる相手メンバーとミニオンが順に多くなっていたので、最終ラインはチームの中でも特に実力者を何名も配置し、ミニオンの数も相応に多いと修也達は予測していた。
しかし実際の最終防衛ラインの戦力はーーたった“一人”だった。
「ようやく来たわね。少し待ちくたびれたわ」
地面に突き立てた長物の武器である“戟”の柄に、腕を組んでもたれ掛かりながら、不敵な笑みで持ち主の少女は言った。
「呂布奉玲・・・まさかここで出てくるとはな・・・‼︎」
修也が漢剣の切っ先を向け、戦闘態勢を取りながら言った。
「あら、意外だったかしら?」
奉玲は向けられた切っ先に対して余裕の表情で眺めながら、そのまま武器にもたれ掛かりながら言った。
その姿には、強者の余裕が滲み出ていた。
「「「・・・・・」」」
三人はそれぞれの得物を向けながら、奉玲の一挙一動を見逃すまいと、警戒を最大限にしていた。
「ふふ、来ないの?私はまだ得物を抜いていない・・・仕留めるチャンスだと思うけど?」
首を傾げてそう言った奉玲に対し、張り詰めた気持ちを解く様に息を吐いて飛華が言う。
「ふぅ・・・よく言うよ。何度か戦場で戦ったから分かる。“隙なんて一度も見せてない”癖に。その気になれば、その体勢からでも得物を抜いて即座に私達三人を倒せるよね?」
「ふふ・・・流石に何度もやり合った飛華は飛び込んで来ないと思ったけど・・・まさか二人も同じだとは正直思わなかったわ」
修也と雲蘭に、視線を向けながら奉玲がそう言った。
「まあ流石に無策で飛び込んだらまずいなんて事は、なんとなく分かるさ。失礼だが、あんた以上の強者と手合わせして貰った事があるからな」
「ええ。そんな余裕な態度を見せていても、一切油断していない。不用意に仕掛ければ、致命的なカウンターが来るでしょう?」
「流石に一撃では終わらせないわよ。私も戦いを楽しみたいから」
それぞれそう言った二人に対して、奉玲は肩をすくめて言った。
「しかし成る程・・・凰照澪凰殿に手合わせして貰っていれば、その警戒心は頷けるというものね」
そう言って奉玲は腕組みを解き、武器に寄りかかるのをやめた。
「・・・!策を切ったのね、蒼姫」
すると、奉玲が何かに気付いた様に修也達の後方を見据えた。
「「ーー⁉︎」」
「ーーッ‼︎しまった、やられた‼︎」
奉玲が呟いた言葉の意味を、直ぐには理解出来なかった修也と雲蘭だったが、傭兵として戦場を渡り歩いて来た飛華はその意味に気付き、弾かれる様に後方に振り向いた。
飛華に続いて修也と雲蘭が背後を振り返るとーー
ーーザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
ーー第二防衛ラインからの道を塞ぐ様にして、地を埋め尽くすほどの兵士型ミニオンが召喚されており、足音を規則正しく鳴らしながら修也達に向けて進軍しつつあった。
「退路をふせがれた⁉︎・・・いや、どの道退却は考えてなかったが・・・」
「ええ。しかも今から彼女を相手にするとなると、この場面での挟撃はキツイわね・・・。流石は蒼姫と言ったところね・・・!」
修也と雲蘭がそう言うと、飛華が背後から迫るミニオン軍団に向けて走り出した。
「飛華⁉︎」
「おい、一人で行くつもりか⁉︎」
その行動に修也と雲蘭は、思わず声を上げた。
飛華は軍団に向かいながら、顔だけ少し振り向いて答える。
「アイツらはアタシが抑えるよ‼︎修兄と姉者は、前だけ気にして‼︎」
そう言って速度を上げ、飛華はミニオン軍団に斬り込んで行った。
「・・・飛華の奴、無茶しやがって・・・‼︎」
「飛華なら大丈夫よ。あの子も傭兵として戦場を渡り歩いて来たんだから。飛華の言う通り、私達は彼女に集中しましょう」
「ああ、そうだな・・・‼︎」
そう言って修也と雲蘭は、奉玲に向き直った。
「じゃ、始めましょうか?」
待っていた様に不敵な笑みで、二人に問いかけた。
「ええ・・・望む所‼︎」
「最強の闘神の末裔にしてEXランクの傭兵・・・。どこまで通じるか、試させて貰うぜ‼︎」
修也と雲蘭はそう言って、それぞれ漢剣と薙刀を構えた。
「意気やよし」
それを見た奉玲は嬉しそうにニヤッとしながら、地面から戟を引き抜き、右手だけで保持して下段に構えた。
「さあ、来なさい」
「行くぜ・・・‼︎」
「参る・・・‼︎」
修也と雲蘭は同時に地面を蹴って、奉玲に突撃した。
奉玲に攻撃が届くまでの間合いに距離を詰めた時、修也は上段からの斬撃を、雲蘭は斜め下から斬りあげて仕掛けた。
ーーギィン‼︎
「「ぐぅ・・・‼︎」」
しかし別方向から同時に仕掛けられた斬撃は、奉玲の無造作な薙ぎ払いによって一振りで弾かれた。
強烈な一撃で後方へと後退った二人は直ぐに体勢を立て直し、再び奉玲へと突撃する。
修也が奉玲の左側、雲蘭が右側へと周り込み、刃で奉玲の前後を挟み込む様に同時に斬撃を放つ。
「いい仕掛け方ね。でもーー甘い‼︎」
ーーギィン‼︎ギィン‼︎
奉玲はその場で回転斬りを放って、二人の斬撃を再び弾いた。
「・・・ッ!」
「クソ・・・!」
「ハッ‼︎」
ーーギィン!ギィン!
弾かれた二人が一瞬宙に浮いた瞬間に、奉玲はそれぞれが“防御出来る速度と威力の“斬撃を放ち、自身の前方へと吹っ飛ばした。
二人は再び空中で体勢を立て直し、飛ばされた先で着地して追撃に備えて身構える。
だが奉玲から追撃は来なかった。
奉玲は戟を肩に担ぎ、修也を見据えていた。
「成る程・・・ね。確かに“技”が違うわね」
「・・・?」
「・・・・」
何かに納得した様に呟いて、修也の深奥を探る様に見据える奉玲の様子に修也は疑問に思い、雲蘭は複雑な表情をしていた。
「あんたは通っていいわよ」
奉玲は道を開ける様にサッと脇に退いて、修也に言った。
「・・・どう言うつもりだ?」
修也はその行動の意味を問いながら、警戒して身構える。
「元々あんたは通す様に、って蒼姫に言われてたのよ。今の一合は、ちょっと確認したい事があったから合わせただけよ。で、確認出来たから通っていいって訳」
「何だよ、確認したい事って・・・?」
肩をすくめ何事も無かったかの様に得物を肩に担いだままそう奉玲に、修也は問うた。
「それはあんた自身で“思い出しなさい”。どうせ蒼姫の所に行けば分かるわよ。嫌でも、ね・・・」
「思い、出す・・・?何を言って・・・?」
本当に意味の分からない修也は、怪訝そうに呟いた。
「・・・・・」
その反応を見ていて雲蘭が、一歩前に出て修也に言う。
「ーー修也。此処は私に任せて、あなたは先に行って」
「おい、雲蘭⁉︎だがーー」
驚く声を上げた修也の言葉を遮る様に、雲蘭は薙刀を構えて言う。
「大丈夫よ。いいから先に行って」
「・・・・・・分かった、任せる!」
躊躇した修也だったが、少し語気を強めに言われて了承して城へと向かった。
修也が城の中へと入ったのを確認した雲蘭は、奉玲に問う。
「・・・やはり蒼姫の目的は、修也の”本当の得物“を思い出させる事なのね?」
雲蘭のその問いに、奉玲は少し驚いた様子で答える。
「へえ、気付いていたのね?蒼姫の目的に」
「ええ。そもそも蒼姫が本気で戦術を組み立てたのなら、多分私達は第一防衛ラインすら突破出来なかった筈・・・。加えて最高戦力である貴女を第一に配置していなかった時点で、蒼姫に別の思惑がある事は感じていた。確信したのは貴女が最終ラインに一人で配置されているのを見た時よ」
雲蘭は、確信を持った口調で言った。
「感心したわ、そこまで見抜くなんて。流石は”軍神の末裔“にして幼馴染にして“婚約者”と言った所かしら?だから今まで本当の得物で戦って無かったのね?彼が”思い出して“しまうから」
「ええ。ーー勝利したにも関わらず、敗北として記憶されてしまったあの戦いを・・・」
そう少し悲しげに言った雲蘭に対して、奉玲はフッと笑いながら自身の得物を脇に投げ捨てるように仕舞った。
「なら、もうその必要は無いわよね?この試合で、嫌でも彼には思い出させる。故にあんたも、もう自分に枷をかける必要は無い。さあ出しなさい、関羽雲蘭。あんたの本当の得物をーーそしてあんたの力、このあたしに示してみなさい!」
「・・・・・・・・・・・」
雲蘭は少し逡巡した後、右腕を真横に平行に伸ばして手を翳す。
「ええ、そうね・・・修也を支えると誓っていながら、私はあの戦いを思い出させるのを恐れていた。確かにこの試合で思い出すと言うのなら、私も覚悟を決めないとね。お望み通り見せてあげるわ・・・闘神の末裔・呂布奉玲!私の本当の得物を‼︎」
ーーブォォォォゥ‼︎
そう言った直後、雲蘭から膨大な魔力が溢れ、雲蘭を中心に可視化する程の碧い暴風となって吹き荒れ、雲蘭の服と長い髪を靡かせる。
「来たれ、蒼帝の龍牙よ!」
雲蘭の右手に碧い暴風が圧縮していき鋭い円盤状に集束していく。
「碧き暴風を御し、仇なす界敵を薙ぎ裂け‼︎」
雲蘭は舞う様にその円盤を自分の身体の周囲で一周回転させ、自分の目の前に来た時に雲蘭はその円盤を掴んだ。
その円盤は雲蘭に掴まれた瞬間に、雲蘭を中心に荒れ狂っていた碧い暴風を集束し、一本の長物を形成する。
「ーー舞臨せよ、青龍偃月刀・始原‼︎」
ーー【青龍偃月刀・始原】
雲蘭は掴んだ自身の【顕現装具】を右に一振りして片手で構えて顕現を完了した。
大きく顎を開けた東洋龍の頭部を模した鍔から、湾曲した幅広のクリスタル状の刃が伸びており、そして東洋龍の頭部を模した鍔からは、髭の様に先端にクリスタル状刃を備えた長い鎖が波打ち、刃と反対側の石突きにもクリスタル状刃を備えた全長3メートルの碧色を基調とした美しい大刀。
そして東洋龍の頭部を模した鍔には、内部で膨大な粒子が渦巻く碧色の宝玉が輝きを放っていた。
「ハハ!青龍偃月刀‼︎ようやくお目に掛かれたわね!待ち侘びたわ!」
奉玲は心底嬉しそうな表情で、雲蘭と【青龍偃月刀・始原】を見つめる。
「しかし・・・何とも感慨深いものよね。このフィールド状には“四神”の内の三つが揃っているなんて。じゃあ・・・あたしの番ね」
そう言って奉玲は右手を地面に翳す。
ーーゴゴゴゴゴゴゴ‼︎
その瞬間、局所的な地震が発生し、周辺に所々地割れが発生した。
「来なさい、玄天上帝の顎よ!」
奉玲が右手を翳した地面を突き破り、鋭利な巨槌の様な石突きを備えた長い柄が右手まで競り上がり、奉玲の周囲の地割れより、黒い水流が細い柱の様に四つ天高く噴き上がる。
水柱はやがて、蛇の如く鎌首をもたげる様に先端の向きを“発生元”へとくねらせる。
「黒き濁流と割断を御し、仇なす界敵を踏み潰せ‼︎」
黒い水柱は競り上がった発生元たる武器も柄に絡みつき集束していく。
「震臨せよ、玄天画戟・始原‼︎」
そう言った瞬間、奉玲は一気に武器を掴んで引き抜いて右側に振り抜いた。
集束した黒い水流が残りの部分を形成していき、奉玲の得物が完全にその全貌を顕現させた。
ーー【玄天画戟・始原】
暗い黒緑迷彩を基調とし、石突きは鋭利な槌を備えてそこから伸びる柄は2メートルを越える長さを誇り、こちらも鍔の大きく顎を開けた玄武と尻尾の大蛇を模したものから牙の様なハルバードに酷似した刃を持つが、その刃は直径2メートル弱はあろうかと言うほどの巨大な刃だった。
柄は通常サイズなのだがそれ以外の全てが巨大な戟、それが奉天画戟という武器の”始まり“たる【玄天画戟・始原】だった。
そしてその鍔には、黒い粒子が渦巻く宝玉が輝きを放っていた。
「さて、と・・・」
おおよそ並の者が持つ事にすら苦労するであろう巨大な得物を、奉玲は軽々と右手だけで持ち上げて肩に担いだ。
「【玄天画戟・始原】・・・奉天画戟のオリジナル」
「そう・・・歴史上で語られ、出回って使用されていた物は全てレプリカ・・・この子の性能を模した簡易化された模造品に過ぎない物・・・」
奉玲は肩に担いだ自身の得物に視線を送りながら言った。
「伝え聞く話では、我が先祖・奉先もこの子を通常の戦では使わずにレプリカである奉天画戟を使っていたとか。故に四神の武器たるこの子を使ったのは、”例の敗北者“達との戦いでしか使った事が無いそうよ。まあレプリカでも、一応この子の”性能の一端“は模倣出来ていた様だから無双していたそうね」
「【取り残されし者達】・・・」
雲蘭は何かを思い出す様に、そう呟いた。
「”例の事件“の際、あんたも奴等と対峙しているのでしょう?なら条件はクリアして・・・既に【青龍偃月刀・始原】は”覚醒“済み、でしょう?」
奉玲は、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「ええ。と言う事は、貴女もなのね?」
「五年前くらいだったかしら?仕事先で襲撃されてね。その時に“覚醒”したわ。ソイツ、下等な原住民だの我等の大義だとかごちゃごちゃ煩かっただけで、実力は大した事無かったわね。御託を並べてる途中で斬り捨ててやったわ。ーーまあ、そんな事はどうでもいいのよ。今はーー」
「・・・!」
奉玲は好戦的な笑みを浮かべて、【玄天画戟・始原】の穂先を雲蘭に向ける。
雲蘭も次に起こる事を予測して、【青龍偃月刀・始原】を構える。
「“覚醒”させた者同士・・・存分に愉しみましょうか‼︎」
ーードゴォォ
その瞬間ーー奉玲が地面を踏み込み、寸前まで彼女が立っていた地面が遅れて捲り上がった。
「ーーハァッ‼︎」
奉玲は瞬時に雲蘭との距離を詰め、雲蘭も即座に彼女の肉薄に反応し迎え撃つ。
お互いに得物は長物、奉玲が自身の間合いに雲蘭を入れると同時に彼女も雲蘭の間合いに入った。
互いの得物が粒子を刃へと瞬時に供給し、所有者の望む威力へと高めながら空を斬り、そしてーー
ーーギィン‼︎
青龍と玄武の武器同士が交わり、その衝撃でその場に小規模なクレーターが形成された。
「さあ!最高の戦いを味わせて頂戴‼︎」
軍神と闘神ーー互いの末裔の戦いが始まった
ーー・・・峡谷フィールド・城内
ーーダッダッダッダ!
城主の間へと続く階段を、一段二段と何段も飛ばしながら修也は進む。
「本来なら警戒して進まないと行けないが・・・。何だ、この感じは・・・?」
修也が呟いた通り、本来なら罠や伏兵を警戒しないといけないが、修也は何かに焦り急かされるように蒼姫の元に急ぐ。
「ーーッ⁉︎」
そして、城主の間へと続く大扉の前まで来た修也は突如感じた頭痛に頭を咄嗟に右手で押さえた。
ーー「下等な原住民風情が、我等の敵では無い!死ね、小僧‼︎」
その言葉と共に、巨大な大剣が振り下ろされる。
頭痛と共に脳裏にその光景がフラッシュバックした。
「くっ・・・!何だ、今の・・・?俺の・・・記憶か?いやそんな事よりーー」
修也は頭を振って脳裏に浮かんだ光景を忘れる様に消すと、大扉に両手をつき押し込んで開いていく。
ーーギギギ・・・!
修也が城主の間に足を踏み入れて見たのは、玉座に脚を組み優雅に座り、しかし一切の油断無くこちらを見据える蒼姫の姿だった。
「来たか、修也。待っていたぞ」
蒼姫はそう言いながら玉座よりゆっくりと立ち上がる。
「蒼姫・・・。やっぱりここまで罠や伏兵が無かったのは、最初から俺と一対一で戦うつもりだったからか?」
「それもあるが、学生になるなら丁度いいと言う事であるお方から依頼を受けた」
蒼姫は、修也が右手に持つ漢剣にチラリと視線を向けながら言った。
「依頼?誰から?」
「嫌でも分かる。始めるぞ修也・・・お前の本当の戦闘スタイルを思い出してもらうぞ」
そう言って蒼姫は、右手を天に向けて翳した。
「・・・ッ⁉︎」
「来い、炎帝の刃翼よ」
蒼姫は右手から発した“発勁”による衝撃波で、天井を破壊して吹き飛ばした。
天井が破壊されて上空が見える様になると、上空では厚い雲が蒼姫の直上にて渦を巻いていた。
「七色の業火を御し、仇なす界敵を焼き尽くせ!」
そう言った直後に渦の中心より、一条蒼い火球が放たれ、瞬時に蒼姫の翳した右手まで到達した。
蒼い炎が渦巻き圧縮された火球は、更に集束・圧縮し一振りの長剣へと形を変えた。
蒼姫は、蒼い炎のシルエット状の長剣の柄を掴んで言う。
「天臨せよ、【七星鳳剣・始原】‼︎」
蒼姫は掴んだ長剣を斬り払う様に一振りし、武器を覆う蒼い炎を散らしてその姿を完全に顕現させた。
ーー【七星鳳剣・始原】
紅を基調とした大剣の如き長剣であり、鍔が大きく広げた左右対称の翼を模したものになっている。
剣身も同じ様に鋭く広げた翼を模し、その刃は片刃となっており、剣身の峰の部分に羽根を模した刃が七本反対に切っ先を向けて備わっている。
そして最大の特徴は、特殊粒子生成機関である宝玉が鍔に一つ剣身に六つと、それぞれ色の違う宝玉が合計”七つ“埋め込まれていた。
その七つの宝玉によって、極めて高出力を誇るであろう事が容易に予測出来る長剣である。
「・・・くぅっ!」
“この兵装群”特有の顕現の際に放たれる所有者との共鳴反応による波動に対し、修也は防御の姿勢を取って踏ん張った。
(凄まじい共鳴波だな。“覚醒”に至り、全性能が解放されているな・・・・朱雀の剣は特に覚醒条件が厳しいと聞くが・・・)
(覚醒・・・?それはーー)
(集中しろ、修也。相手は歴代朱雀の中で、最強と言われる現・朱雀だ。生半可な戦技は通用しないぞ?」
(ああ、分かってる。幼馴染の中で、蒼姫はあらゆる面で抜きん出ていた天才だからな)
「さて、いくぞ?」
そう言った瞬間に蒼姫の姿がブレ、一瞬にして修也の視界から消えた。
(何処から来る・・・⁉︎)
修也は自身の感覚を研ぎ澄ませ、漢剣をいつでも防御出来る様に構え、蒼姫の気配や魔力を探る。
「ーー・・・ッ!背後か⁉︎」
「遅い!」
ーーギィン‼︎
背後に現れた蒼姫から袈裟懸けに振り下ろされた大翼の如き長剣の斬撃を、修也はかろうじて反応して防いだ。
「ぐぅ・・・!」
(重い・・・‼︎)
修也はその一撃で体勢を崩され、剣を弾かれて無防備にされた。
「フンッ・・・!」
ーードスン!
「がはッ・・・⁉︎」
無防備となった胴体に蒼姫の蹴りの一撃が入り、修也は後方に飛ばされた。
「クソッ・・・!やっぱすげぇな蒼姫。前に手合わせした時よりも、斬撃も速度も桁違いだ・・・!」
地面に転がされた修也は直ぐに立ち上がり、剣を構え直して蒼姫に言った。
だが蒼姫はそんな修也の言葉を否定する。
「いや、違う。今の一合、お前本来の戦闘スタイルを練り上げていれば、そうはならなかっただろう」
蒼姫は、真っ直ぐに修也を見つめながら言った。
「本来の、戦闘スタイル・・・?何を言って・・・」
修也は、本当に分からないと言った様子で呟いた。
「“ジャマダハル“」
「ーー⁉︎」
蒼姫が言った単語を聞いた瞬間、修也の脳裏に記憶がフラッシュバックする。
ーー「どうだ、雑魚ども?これが俺とお前等の力の差だ。ガキのくせに太古から生きている俺たちに逆らうな。劣等種が・・・‼︎」
こちらを見下して、嘲笑う長髪の男。
ーー「な、何だ⁉︎何だその魔力は⁉︎まさかそれは・・・‼︎馬鹿な、︎その武器はーー」
しかし、嘲笑う男の表情が突如恐怖の表情へと変わった。
「・・・ッ‼︎何だ今の・・・‼︎」
脳裏に浮かんだ記憶をまるで”思い出したく無い“と言う様に、左手で修也は頭を押さえた。
「まだ押さえるか。思い出せ、修也。それは本当に“敗北”の記憶か?」
「俺は・・・ッ!」
頭を押さえながら修也は、右手に持った漢剣を強く握り締めた。
まるでこの剣こそが、今の自分の得物だと言う様にーー
その様子を見た蒼姫が言う。
「成る程・・・模索した上で辿り着いた得物がそれか・・・。ならばそれを砕こう」
そう言って蒼姫が一瞬にして修也に肉薄し、右薙を放つ。
「ーー・・・ッ⁉︎く・・・!」
ーーギィン‼︎
修也は咄嗟にその斬撃を防御するがーー
「脆い!」
防御された自身の得物に、蒼姫は力を込めた。
ーーバキン‼︎
蒼姫が力を込めた瞬間に、漢剣は呆気なく朱雀の刃に競り負けて半ばから両断された。
その衝撃で、修也は右側へと飛ばされて地面に転がった。
「・・・くぅッ!かはっ・・・!」
「偽りの得物は破壊した。もうその剣は、使い物にならんぞ?」
修也は漢剣を捨てながら、起き上がる。
そして自身の位相空間より、今度は槍を取り出して構える。
「・・・・まだだ」
「・・・・」
蒼姫は何も言わずに、またも瞬時に距離を詰めて。
ーーバキン‼︎
槍を狙って袈裟懸けに斬撃を放ち、一瞬でその槍を半ばから両断した。
「クソッ・・・!」
修也は槍を両断された衝撃で、少し後退した。
「偽りの得物を取り出すな。いい加減、お前の本当の得物をーー“クシャトリヤ”を思い出せ」
蒼姫は冷静に、言い聞かせる様に修也に言った。
「俺の本当の得物・・・?クシャ、トリヤ・・・?うッ・・・くぅ・・・ッ!」
修也は、蒼姫から言われた単語を聞くたびに徐々に内から湧き上がって来るものを、頭を押さえて必死に押し留めようとする。
「仕方ない・・・」
その様子を見ていた蒼姫はそう呟くと共にーー
「フンッ!」
「がッ・・・⁉︎」
瞬時に距離を詰めて鳩尾に、威力を限界まで弱めたもの、しかし今の修也をしばし昏倒させるには充分の“発勁”を放った。
その一撃は修也の奥底にまで届き、修也はその場に仰向けに倒れた。
「全く・・・“婚約者”にこんな事をさせるな・・・。心配するな、戦闘不能扱いにはならぬ様に根回しは済んでいる。だからちゃんと向き合い・・・そして思い出して戻ってこい、我が“婚約者”よ」
蒼姫は悲しげに、しかし愛情を感じさせる様な表情で修也にそう言った。
「蒼姫・・・ッ」
それを聞きながら、修也の意識は奥底に沈んでいった。
「さて・・・お前の思惑通りの展開だな、“劉冥”よ」
修也が仰向けに倒れた様子を見て、実況席のレクリエーナは、この会場にはいないが”視ている“であろう友の名を呟いた。
ーー峡谷フィールド・最終防衛ライン
ーーギィン‼︎
ーーガキン‼︎
ーードゴォォォン‼︎
「ハハ!ハハハハハハハハハ‼︎」
「ハァッ‼︎」
最終防衛ラインでは、峡谷を崩落させる勢いの戦闘が繰り広げられていた。
油断無く相手を見据え、隙を見せない戦闘を展開する雲蘭に対して、余裕ある表情で心底愉しげに笑いながら、並みの者であれば致命的な一撃一撃を繰り出す奉玲。
【青龍偃月刀・始原】と全ての”戟“のオリジナルである【玄天画戟・始原】。
四神たる青龍と玄武の力の具現とも言える二つの武器の刃が交わるたび、発生した刃風と衝撃波が地を裂き、大地を抉る。
「良い!良いわよ、雲蘭‼︎アタシにここまでついて来れるなんて‼︎」
「それはどうもッ!」
高速で刃を交えながら、奉玲は雲蘭に感心していた。
「ハァッ‼︎」
ーードゴォォン‼︎
刃を交える中、奉玲の薙ぎ払いによって大地が扇状に大きく抉れた。
しかし、その攻撃を予測していた雲蘭は奉玲の薙ぎ払いを受け流しながらバックステップで距離を取り、薙ぎ払いによって発生した衝撃波も、範囲外に距離を取る事で回避した。
「・・・裂け!」
大きく抉れた地面の先で、雲蘭は穂先に集束させていた魔力と粒子を青龍偃月刀を振るい斬撃波として、魔力を集束した斬撃はと粒子を集束した斬撃波で覆うーー二重に重ねた碧い斬撃波として飛ばした。
その斬撃波は抉られた地面に一条の地割れを残しながら奉玲へと高速で迫る。
その攻撃を見て、奉玲は口角を上げて嬉しそうに迎撃する。
「やるじゃない!ーーフッ‼︎」
ーーガキン‼︎
奉玲は玄天画戟を上段から振り下ろし、斬撃波を両断した。
ーードゴォォン‼︎
両断された斬撃波は、二つに分かれても威力も勢いも衰えず左右の岩壁に着刃して小規模な爆発をおこして、大きく岩壁を抉った。
「魔力を芯に、その上を粒子で覆った二重の斬撃波とはねぇ・・・。冷静にえげつない反撃をしてくるじゃない、感心したわ」
奉玲は、肩に玄天画戟を軽く担ぎながら言った。
「よく言うわね。その攻撃を簡単に両断しておいて」
「まあ、これくらいわね。でも嬉しいわ。世界は広いと言えど、今まで出会った中で本気で戦り合えたのは“トップ7”か蒼姫ぐらいだったもの。だからーー」
奉玲は画戟を薙ぎ払うように一振りしーー
「上げていくわよ?簡単に終わらないで、ね!」
そう言った瞬間ーー奉玲の画戟から黒い粒子が放出され、高速で雲蘭に向かう。
放出された粒子は向かう途中で、ドリルの様に鋭く回転し、蛇の様に蛇行する黒い水柱へと変わった。
「これは・・・!」
ーードゴォォン‼︎
雲蘭は黒い水流をギリギリまで引き付け、後方へ飛び退いて回避した。
躱された水流は、地面を穿ち潜航すると直ぐ様先端の向きを変え、水上を滑走する様に地面を蛇行し抉りながら雲蘭に再び襲いかかる。
「やはり追尾式・・・‼︎」
蛇の様に襲いかかる水流を再び回避しながら、雲蘭が偃月刀に粒子を集束する。
「・・・セイ‼︎」
ーーザン‼︎
雲蘭は蛇の頭を落とす様に、粒子を圧縮した斬撃で水流の粒子を中和しながら半ばから水流を両断した。
「やるわね!粒子の流れを見極め、短時間でこの攻撃を防がれたのは久しぶりよ。ならこれはどうかしら‼︎」
奉玲は踏み込んで、一気に雲蘭へと突撃する。
「・・・・!」
雲蘭はその接近に身構えて、偃月刀に粒子を圧縮して迎撃態勢を整えるがーー
奉玲が肉薄する途中で、画戟の石突きで地面をトンと突く。
ーードゴォォ!
「ッ⁉︎地面が・・・⁉︎」
雲蘭の立つ地面が柱の様に突然隆起し、雲蘭は迎撃態勢を一瞬崩した。
「さあ、どうする?雲蘭!」
奉玲が跳躍して雲蘭と同じ高度に達すると、隆起した柱の頂上にいる雲蘭に画戟を薙ぎ払う様に振るう。
「・・・暴風よ!」
ーーゴォウウ‼︎
雲蘭は偃月刀に圧縮していた碧い粒子を解放し、自身の周囲に荒れ狂わせる。
荒れ狂う粒子は、瞬時に可視化する程に濃密な風となり、暴風の如く雲蘭の周囲を吹き荒れる。
「・・・⁉︎」
奉玲は咄嗟に防御した。
吹き荒れる暴風は、至近にまで接近していた奉玲を吹き飛ばし、現在雲蘭が足場としている隆起した柱を微塵に切り裂いた。
奉玲はその様子を見て、笑いながら言う。
「青龍の風!待っていたわ‼︎」
奉玲は地面に着地して言う。
「さあ、お互い上げていきましょうか‼︎」
そう言って奉玲は、画戟の石突きで地面を突き刺す様に突き、自分の足下の地面を隆起させる。
「ーーッ⁉︎」
隆起させた地面の勢いと自身の膂力を合わせて、奉玲は天高く跳躍した。
奉玲は眼下の雲蘭を見下ろしながら、天に穂先を向けて上段に掲げ、穂先に魔力と粒子を集束・圧縮させる。
そして空中で体勢を上下反転させ、スラスターでブーストする様に石突きから粒子を放出する。
ーーギュン‼︎
穂先の粒子とは別に、石突きに圧縮した粒子を瞬時に全て放出してのブーストは、音速並みの速度を発生させ、奉玲は雲蘭に向けて急降下突撃した。
自身に向けて落ちて来る奉玲に対して、雲蘭は偃月刀高速で三度振り、先も見せた魔力と粒子の碧い二重斬撃波を飛ばす。
ーーギン、ギン、ギン‼︎
雲蘭の斬撃波は、奉玲の粒子を圧縮した画戟の突撃の前に弾かれ、止める事も軌道を逸らす事も叶わ無かった。
「ーー黒蹄衝‼︎」
奉玲が技名を言って更に加速した。
(流石に回避ね・・・!)
もはやインパクトまで僅か数秒もない中で、雲蘭は瞬時にそう判断し、その場から大きく後方に飛び退いた。
その瞬間ーー
ーードゴォォォォォォン‼︎
玄天画戟の穂先が地面へと突き刺さると同時に圧縮粒子と魔力が解放され、奉玲を中心にドーム状の爆発が起こる。
粒子と魔力の爆風は、ドーム状の爆発に伴って細い水流を撒き散らし、それが大蛇の様にのたうちまわり、周囲を抉りながら破壊を撒き散らす。
「この威力・・・‼︎一気に力を上げて来たわね・・・!ーーハァ‼︎」
ーーザン‼︎
雲蘭は、爆発と爆風を躱したものの大蛇の様に襲いかかってきた複数の水流を、粒子と魔力を込めた薙ぎ払いの一振りで斬り裂いて霧散させた。
そこへーー
ーーザン‼︎
爆風を斬り裂き、奉玲が雲蘭へと瞬時に肉薄する。
ーーギィン‼︎
「・・・ッ‼︎」
瞬時に肉薄ながらの奉玲の一閃を雲蘭は辛うじて反応して偃月刀の柄で防ぐが、その衝撃で大きく飛ばされて地面に叩きつけられる。
「・・・・・くぅッ‼︎」
「ハハハハハハ‼︎まだよ、雲蘭!そんなものじゃないでしょう‼︎」
そう言いながら、奉玲はその類稀なる膂力で空中を蹴って雲蘭に突撃する。
「全く・・・‼︎こっちは久しぶりだと言うのに・・・‼︎」
受け身をとってダメージを最小にしていた雲蘭は、その状態から瞬時に体勢を立て直し、粒子放出で更に加速して自身に突撃してくる奉玲を見据える。
雲蘭は偃月刀に粒子を圧縮しながらーー
「でも、そうも言ってられないわね・・・。思い出させる覚悟はもう決めたのだから‼︎」
「ハハハハハハハハハ‼︎」
「ハァァァ‼︎」
ーードゴォォォォォォン‼︎
粒子を圧縮した二人の突きが同時に繰り出され、穂先同士がぶつかり合った瞬間に圧縮粒子が解放され、二つのドーム状のエネルギーが互いを破壊し合う。
それによって解放された莫大な粒子と魔力は、周囲に破壊を撒き散らし、雲蘭と奉玲を中心に地面を抉りながらクレーターを形成していき、両側の崖を碧い風と黒い水流が削り崩していく。
ーー・・・峡谷フィールド・城内
「・・・・・・」
仰向けに倒れたままで、気を失って意識の無い修也を近くで見下ろしながら、蒼姫はじっと待っていた。
ーーゴォウウ
蒼姫の背後に蒼い炎が燃え上がり、その炎は巨鳥の姿へと集束していく。
「蒼姫よ」
「鳳蒼か」
魔力体で背後に顕れ、静かな女性の声で語りかけて来た、自身の内に宿る【顕鎧生命体】で“現・朱雀”である【七炎鳳・鳳蒼】を、蒼姫は横目で確認しながら言った。
「蒼姫よ。この様な回りくどいやり方をせずに、我等の炎で思い出させる方が容易では無いのか?」
鳳蒼は、倒れている修也に視線を向けながら言った。
「確かに我等の浄化の炎であれば、修也が無意識に掛けていた呪詛だけを焼く事が出来ただろう。だが、やはり自分でその呪詛を解く事にこそ意味がある。それにそのやり方は、いささか乱暴に過ぎる。婚約者としては取りたくない方法だったからな」
最後の部分は、蒼姫が修也を見つめながら優しげな口調で言った。
「ふふ・・・このやり方も充分乱暴だと思うがな」
鳳蒼がクスリと笑いながら言った。
「まあ、そうだな・・・」
そう言った直後、倒れている修也の両手が何かを掴む様にゆっくりと動いていた。
ーー・・・修也の精神世界
「うぅ・・・くぅ・・・!ーーここは何処だ・・・?」
小山程もあろうかと言う巨大な岩が点在する竹林の中で、修也は目覚めた。
「目が覚めたか。まあ、本当の意味で覚めたとは言えんがな」
身体を起こして地面に座る状態で周囲を見渡そうとした時に、直ぐそばから不意に聞き覚えのある声が聞こえた。
「ヴァスキ・・・?」
修也は後ろの生命体を見上げて言った。
「うむ、我等だ」
そう答えた生命体は九つの頭部を持ち、鎧状の西洋龍の身体を持つ【顕鎧生命体】である【九頭龍王・ヴァスキ】。
ヴァスキは九つの頭部それぞれで意思を持ち思考出来るが、基本的には意思は統一されている為、一人称に「我等」を用いる。
「なんで、ヴァスキが外に?」
修也は立ち上がりながら言った。
「此処は“外”では無い。お前の心の中。即ち、我等顕鎧生命体が常に暮らす宿鎧者の心象世界だ」
ヴァスキは周囲を見渡しながら言った。
「心象世界・・・。でも俺はこの竹林を知らないんだがーーいや、懐かしい感じはあるが・・・。此処は本当に俺の心象なのか?」
屏風絵にでも描かれそうな風景を見渡して修也は言った。
「うむ、確かにお前の心の中だ。そしてこの場所はお前が無意識のうちに忘れ去っていた記憶と、“お前の本当の武器”が眠る場所でもある」
「俺の本当の武器・・・そういえば、蒼姫もそんな事を言っていたな」
ヴァスキは九つの頭部で前方を指し示して言う。
「我等に乗れ、とりあえずこの先に進むぞ。アレがお前を待っているからな」
ヴァスキの指し示す方向に向かって、修也はヴァスキの背に乗りながら共に向かう。
100メートルも行かないうちに、竹林に広場のようにひらけた場所が二人の目の前に現れた。
その中心地には、H型の柄と五つの剣身を持つ特殊な剣が、二本クロスする様に地面に突き刺さっていた。
そしてその剣の周りには、白い粒子の霧がゆっくりと渦を巻きながら立ち込めていた。
「アレは・・・」
修也は引き寄せられる様にヴァスキの背からおり、霧を掻き分ける様に二本の剣に近づいていく。
ヴァスキも修也の後に続く様に、体躯の巨大さ故にゆっくりと歩を進める。
「⁉︎これは・・・!」
「ふむ・・・」
二本の剣の詳細を確認した修也は息を呑んだ。
二本の剣は同型のもので、メインとなる長い剣身から横に伸びる様に四つの刃が備わっており、通称“鎧通し”とも言われる剣【ジャマダハル】をベースとした物だった。
そしてそれぞれの剣の鍔部分には、この大会で修也も目撃した強者達の武器に埋め込まれている宝玉と、同様の物が埋め込まれているが、その輝きは失われており、剣全体はーー
「錆びて、いるのか・・・?」
色を失い、灰色に錆びていた。
「そうだ。所有者が忘れ去ろうとしている所為で適合出来ず、こうして奥底で機能を停止している状態だ」
「所有者・・・俺の事、だよな・・・?」
「うむ。それで、どうする?」
「・・・・・・・」
ヴァスキが次の行動を促すと、修也は少し間沈黙した。
「なあヴァスキ、これが蒼姫の目的なんだよな?」
修也は二本の錆びた剣を見つめながらヴァスキに聞いた。
「恐らくな」
「・・・・・・俺に向き合えって言う事なんだよな」
そう言った修也は、意識を失う直前の蒼姫の言葉を思い出した。
(「向き合い・・・そして思い出して戻ってこい」)
「俺が自分で封じた記憶・・・・」
修也は二本の錆びた剣に、右手を躊躇いがちに伸ばす。
そして意を決して、錆びた剣の片方の柄を掴んだ。
「ーーッ‼︎」
その瞬間ーー封じていた記憶が蘇り、修也は荒い息を吐く。
「ハァ・・・ハァ・・・!そう言う事か・・・!」
自分が何故その記憶を忘れ去ろうとしていたのか、修也は完全に思い出した。
「ーーッ‼︎」
そしてこの場で、その記憶の一部が再生された。
修也とヴァスキの周囲に五人の人物が現れる。
固まって現れた四人は、今よりも幼い修也・雲蘭・蒼姫・飛華。
そして四人を見下す様に、腕を組みながら対峙するのは不敵な笑みを浮かべる長髪ブロンドの男。
ーー「ハァ・・・・ハァ・・・クソ・・・‼︎」
過去の幼い修也が荒く肩で息をつき、両手にあの錆びついた剣を持って膝をついている。
ーー「どうだ、雑魚ども?これが俺とお前等の力の差だ。ガキのくせに太古から生きている俺たちに逆らうな。劣等種が・・・‼︎」
長髪の男がそう言った。
ーー「貴様・・・‼︎」
幼い蒼姫が戦意に満ちた眼で、男を睨む。
ーー「ほう、まだそんな目が出来るのか?圧倒的な力の差を教えてやったと言うのになぁ。強気な態度は気に入った。ーーだが、お前たち劣等種如きが俺にその様な態度を取るのはすこぶる気に食わん」
ーーバシュン‼︎
ーー「ぐぅ・・・‼︎」
男が右手から発した魔力波をぶつけ、蒼姫を吹き飛ばした。
ーー「蒼姫・・・ッ‼︎お前・・・‼︎」
修也が男を睨みつけると、男は不愉快そうにしかし愉悦に満ちた視線を向ける。
ーー「ん?反抗的だな」
ーーバシュン‼︎
ーー「がは・・・⁉︎」
そう言って男は、修也にも魔力波をぶつけた。
ーー「修、也・・・!」
ーー「修兄・・・ッ!」
かなりダメージを負っている幼い雲蘭と飛華は、動けずにいた。
ーー「ふむ、飽きて来たな。俺も忙しい身だからな。いつまでも塵と戯れる趣味は無い。冥土の土産に俺の力の一端で葬ってやろう。少し干渉を受けるだろうが、仕方ない。どうやらこのままでは貴様等を痛ぶる事は出来ても、殺す事は出来ん様だからな」
そう言って男は、身に纏っていたシールドを一部解除した。
“この男の様な者達”が本来の力を出すには、身を守るシールドを解除するしか無い。
それがこの男の間違いだった。
ーーゴォォォォォォ‼︎
ーー「ーーッ⁉︎何、だと・・・⁉︎」
解除した瞬間ーー四人が持つ武器が突如膨大な粒子を解放し始めた。
ーー「これは・・・?俺の武器、どうしたんだ?」
ーー「この膨大な粒子・・・どんどん生成されていく」
修也と蒼姫が、自分の武器を驚愕した表情で見つめながらそう言い、雲蘭と飛華も自分の側の地面に突き刺さるそれぞれの武器を同様の表情で見ていた。
ーーゴォウウ‼︎
粒子の生成と放出は一向に収まる気配が無く、むしろ更に勢いを増して生成され続ける。
四人の武器に埋め込まれた粒子生成機関である宝玉が、輝きをどんどん増し続けていた。
ただ蒼姫の武器に関しては、七つ埋め込まれた宝玉の内の一つしか輝きを増していなかった。
そして、激しい粒子の生成の生成に呼応する様にそれぞれの武器の所有者の魔力も上昇しつつあり、可視化した魔力が四人の身体を覆い始めていた。
ーー「馬鹿な・・・‼︎これは・・・この現象は‼︎まさか⁉︎このガキ共の武器は我々を殺す為のーー」
男は余裕ぶった表情から一転し、恐怖の表情へと変わり、少しずつ後退りし始めた。
ーー「なんかよく分からないけど・・・俺の武器が教えてくれた」
修也が身体に莫大な粒子を纏いながら立ち上がる。
ーー「小僧・・・まだ動けーーいや、その武器の力か・・・!」
男は、決して修也の両手の武器から視線を外さずに、最大限に警戒しながらジリジリと後ずさっている。
その様子から、撤退しようとしている事が明らかな動きだった。
ーー(完全に想定外だ・・・‼︎まさかこのガキ共全員が”超魔導兵装“だったか・・・?我々を殺す為の武器持ちだったとは・・・!どうする・・・?いっそのこと奪ってーーいや、駄目だ!あの武器は我々には扱えない物だと聞いた。そんな物の為にシールドを解除して”世界“に付け入る隙を与えるリスクは犯せん。・・・・こんな雑魚共から撤退するなど屈辱でしか無いが、背に腹はかえられん)
そう思考した男は、焦りから冷や汗を垂らしながら油断無く四人に視線を向け、警戒しながらどんどん後退していく。
しかしその動きは慎重で、まるで四人を刺激しない様にするかの様な動きだった。
それに気づいた修也が自身の武器に呼びかける。
ーー「逃がさない・・‼︎クシャトリヤ・・・‼︎」
ーーバシュン‼︎
応じた修也の武器、ジャマダハル型の武器【クシャトリヤ】の側面の四つの刃、両手合わせて計八つの刃が射出された。
ーー「チッ・・・‼︎こんな機能が解放されるとはな・・・ッ‼︎」
高速で縦横無尽に飛び回りながら迫る刃を見て悪態を吐きながら、男は回避運動を取る。
ーー「今はまだシールドを張った状態でも避けられん事はないーーが、時を追うごとに速度を増している。流石にまずいな・・・」
男は八つの刃を回避しながら、修也をチラリと見る。
ーー「ハァ・・・ハァ・・・ッ‼︎」
修也は荒い息を吐きながら男に敵意の目を向けているが、自分で攻撃を仕掛けようにも動けずにいた。
ーー(しかしあの刃が放たれてから、何かがシールドに干渉している。“世界”からの干渉か・・・?いや、それとは何か違う様な・・・?)
そう思った男は刃を回避しながら、魔力探知で自分の周囲を精査する。
ーー(これは・・・‼︎成る程、“コレ”が干渉していたのか!)
魔力探知によって明らかになったのは、男の周囲を微細な粒子が濃霧の様に立ち込めており、それがシールドを攻撃している様子だった。
ーー「眼を凝らさなければ確認出来ない程の白い粒子・・・さっきからデタラメとも言える程に無茶苦茶な軌道を描く放たれた刃・・・この攻勢粒子を撒くためか!」
男は対峙する四人の様子を確認する。
ーー(あの小僧以外は、“リミッター”が外れていても既に戦闘不能。干渉を無視してシールドを解除し、本気を出せば、ガキ共を殺す事は可能だろうが・・・奴等の武器の性能が未知数だ。そしてこの纏わりつく粒子・・・この粒子の性質も不明。我等の再侵攻の為にも此処でリスク犯せん。であるならばーー)
男は突撃してくる刃を躱し続けながら現在の状況を整理し、答えを出す。
ーー(やはり、撤退しか無いな。しかしデコイが必要だな・・・・・まあいい、右腕くらいはくれてやろう・・・!)
ーーザシュン!
そう決断した男は、自分の右腕の肘から下を手刀で切断し、後方に跳躍して距離を大きく離した。
切断された右腕はシールドが解除され、露出した右腕に白い粒子が即座に纏わりついた。
粒子が纏わりついた右腕は、みるみる白く変色していった。
ーー(アレは・・・まさか毒、か?)
そして変色した右腕に、右腕の直下の地面が”意思を持ったかの様に“隆起して形成された槍が突き刺さり、更に追い討ちと言わんばかりに飛び回っていた八つの刃が右腕を一瞬の内に細切れにしていく。
ーー(チッ・・・‼︎やはり一度シールドを解除した時に察知されていたか・・・!撤退を選んで正解だったな)
男は右腕が消滅する様を確認してから、転移して言った。
ーー「修兄・・・勝ったの?」
ーー「ええ・・・修也がアイツを撃退したのよ」
自分もボロボロであるが、雲蘭は飛華を支え起こす。
ーー「見事だ、修也・・・!ーー修也・・・?」
蒼姫もふらつきながらも、翼の様な剣を支えに立ち上がる。
ーー「・・・・ハァ・・・・ハァ・・・ハァ・・・‼︎」
修也は蒼姫の呼びかけに答えず、両手の剣を地面に突き刺して支えとしながら俯いて息を切らしていた。
ーー「修也・・・?どうしたの?」
ーー「修兄・・・?」
雲蘭と飛華の呼びかけにも返事は無く、修也は荒く息を切らすばかりだった。
ーーガチン‼︎
やがて八つの刃が、デタラメな軌道を取りながら修也の元へ戻り剣に納まると同時にーー
ーーバタン‼︎
ーー「「「修也・・・⁉︎」」」
修也はその場に倒れ伏した。
「そうだ・・・あの時俺は、【クシャトリヤ】の機能を制御する事に必死になって、敵を撃退した事は覚えて無かった」
忘れていた自身の記憶を見た修也は呟く様に言った。
「そうだ。解放された【クシャトリヤ】の全性能を制御し切れず、刃を制御する事で精一杯だった。仕方あるまい、当時お前は幼く、魔力もこの剣を制御するのには不足していた」
ヴァスキが、倒れ伏した過去の修也を見ながら言った。
「そして実家の屋敷で目を覚ました俺はーー」
「この時の記憶を無くし、覚えていたのは奴に吹き飛ばされた所まで。そして目覚めたお前が、幼馴染達を見て放った第一声がーー「誰がアイツを倒したんだ?」だ」
「・・・・・」
修也はしばし沈黙した。
「お前の幼馴染達はその言葉を聞いて驚愕し、問いただした。クシャトリヤの覚醒の事、お前がその機能を使い撃退した事を。だがお前はその事を覚えていなかった。そして極め付けは“クシャトリヤ自体を忘れて”いた事だ」
修也は複雑な表情でヴァスキの言葉を聞いていた。
ヴァスキは続ける。
「その後、一族当主である劉冥がお前の心象を探って判明したのが、制御に手一杯で意識が朧げだったお前は、あの時の出来事を”何も護れなかった敗北“として認識していた。それは幼馴染達を大事にしていたお前にとっては、屈辱以外の何物でも無かった」
「ああ・・・制御するのに必死で、あの時俺は敵がどうなっているのかなんて、意識も認識もしていなかった。魔力もゴッソリ持っていかれて、ただただクシャトリヤに振り回されていたんだ・・・それ以外なんて気にする余裕なんて無かった・・・」
「その認識は“呪詛”となり、故にお前はクシャトリヤを“意図的”に忘れ去る事でその時の記憶を封じ込め、戦闘スタイルを模索する様になった」
「・・・・・」
修也が再び沈黙する。
そこまで言ってヴァスキも修也を見ながら沈黙し、修也の言葉を待つ。
「・・・俺は、怖かったんだ」
修也は呟く様に語り出す。
「ほら、俺達って生まれながら力を持った異能、つまり本当の“世界”を知ってるだろ?だからさ・・・漫画とかノベルで語られる様な主人公の様に、凄い力に目覚めるって言う様な事に憧れてたんだよ。でさ、そう言う物語で力を制御出来ずにって事を見てて、自分はそうならないようにって頑張って来たつもりだった・・・」
修也は、地面に突き刺さる錆びついた【クシャトリヤ】を眺めながら続ける。
「だったんだけどさ・・・この四年前の出来事でクシャトリヤが覚醒して、その力を全く制御出来ていなかった・・・。精一杯って言ったけど、実際はあの時制御に精一杯じゃ無くて、意識が飛びそうなのを踏ん張ってただけなんだ・・・。だから、俺が敵を撃退したんじゃ無くて、クシャトリヤの“自動撃滅機能“のお陰なんだよ・・・」
「それは、内にいる”当時“我等でも気付けなかったな・・・。だからか。だからその時のことを敗北の記憶としていたのか」
「確かに敵は撃退出来たんだろうさ。でもそれは俺の力じゃ無い。全部クシャトリヤのお陰ってだけだ。笑えるだろ?自分で言うのも何だが何年も鍛錬してきて、いざ力が覚醒したら意識を保つだけで精一杯なんてな。だから俺にとっては敗北以外の何物でも無い。そりゃそうだろ?敵にぶっ飛ばされていざ力が覚醒したら、今度はそれに振り回されて最後にはぶっ倒れたんだからな」
「・・・・・・」
自嘲する様にそう語った修也をヴァスキは黙ってジッと見ていた。
「それで俺は、その敗北を無かった事にしようと無意識に思ったんだ。だから思い出したく無い一心で、別の戦闘スタイルを模索してたんだよ。此処に来るまで、自分でも驚くほどに綺麗に忘れ去ってたよ。思い出してクシャトリヤを使ったら、また振り回されて思い知らされるだろうからな、自分の才能の無さに。怖いんだよそれが・・・。こんな心持ちじゃ【起源顕鎧】の”完全顕現“なんて出来るわけ無いよな。俺は自分の力を疑問視してるんだから・・・・」
「・・・それでどうする修也?今、目の前にはクシャトリヤがある。このままにしておくつもりか?」
ヴァスキは錆びついたクシャトリヤを指して言った。
修也はクシャトリヤから目の逸らして言う。
「蒼姫が望んでいるのは、俺にクシャトリヤを使えって事なんだろ。でも俺には無理だ、コイツを扱い切れる自信が無い。俺は零牙達みたい才能に溢れてるわけじゃ無い」
「確かにお前は、あの者達の様には出来無いだろう。だが才能とは、活かすも殺すもその者次第だ。誰しも最初から何かも出来る者などいない。お前が憧れる強者達でさえ、長きにわたる鍛錬を積んできた結果の強さなのだ。我等はこの世に生を受けた時から共にあるのだ。我等は知っている。お前が幼馴染達を守る為の力をつけようと、必死に鍛錬に注ぎ込んでいた事を」
「だが、結果は・・・!」
「結果など、後からついてくるものだ。大事なのはそこに至るまでに何をしていたか、だ。今のお前の様に、生まれながらに与えられた力を自分には扱えないと嘆き諦めていたら、強くなどなれん」
「・・・・・・・」
ヴァスキの言葉を修也は黙って聞いていた。
「今のままでは決してあの者達ーーましてや凰月零牙には決して届かん。お前は気づいていないのだろうが、あの者は本来の力の大部分をかなり制限されているぞ?」
「ッ⁉︎そうなのか⁉︎枷を掛けられてるとは聞いていたが・・・⁉︎」
修也は驚愕で目を見開き、ヴァスキを見上げる。
「うむ。それも対峙する者に”魔力が乏しい“と感じさせる程の縛りだ。だがそれでも、あれ程までに戦えるのは才能だけでは無い。枷を掛けられた現状で何が出来るのかを突き詰め磨き上げ、積み重ねてきた結果の実力なのだろう」
「やっぱすげぇな零牙は・・・」
俯き加減に修也はそう言った。
「自分を彼奴と比べるのはいい加減に止めろ。人それぞれなのだ、比べた所でどうしようもあるまい?お前はお前だ。自身の出来る事をしていけば良いのだ。クシャトリヤを封じた後も、お前はあらゆる武器を試して一定以上に扱えたでは無いか。最初から学び直し、その武器一筋の者達と打ち合えるなど、誰でも出来る様な事では無いぞ?」
「それは・・・・」
「それにお前の悩みは、言ってみれば贅沢過ぎる悩みだぞ?」
「え・・・?」
ヴァスキは遠くを見る様にして言う。
「この世界には、【起源顕鎧】や【顕現装具】を持たぬ者たちも存在する。お前は我等を宿し、強力な武器も有する。お前の悩みは、その様な者達からすれば喧嘩を売っている様なものだぞ?」
ヴァスキは少し揶揄う様に言った。
「そんな事は・・・‼︎」
「無いか?なら、もっと胸を張り自信を持て!出来ないなどと嘆くのでは無く。出来るのだと証明して見せろ!」
「・・・・・・」
修也は再び沈黙し、考えている様だった。
ヴァスキはその様子を見ながら思う。
(長々としたが、此処まで言えば大丈夫だろう。後はお前の決断次第だ、修也。お前がクシャトリヤを扱えれば、長年準備していた”完全顕現“をようやく解き放てる)
少し長い沈黙の後、決心した様子で修也が口を開く。
「俺に、クシャトリヤを扱えるだろうか・・・?」
「それはこれからのお前次第だ。お前次第でどうとでもなる。肝心なのは、扱えぬと逃げぬ事だ」
修也は、錆びついた剣に近づいていく。
「すまない・・・忘れていて。だけど、もう一度お前を扱うチャンスをくれ。今度こそお前をーー使いこなしてみせる・・・!」
修也は二本のジャマダハル型の剣の柄を掴み、引き抜いた。
その瞬間ーー修也の心象世界は真っ白に染まっていき、修也の意識は現実世界へと覚醒していった。
ーー・・・峡谷フィールド・城主の間
「・・・・・・」
蒼姫は鋭く広げた翼の様な長剣、【七星鳳剣・始原】を床に突き立て、柄に両手を置きながら瞑想の様に目を閉じて修也から少し離れた所で、優雅さを感じさせる立ち姿でジッと待っていた。。
蒼姫の背後には、蒼姫の内に宿る【顕鎧生命体】である【七炎鳳・鳳蒼】が大翼を広げ、修也に向けて“淡い緑色の火の粉”を浴びせていた。
この緑色の火の粉は、鳳蒼の能力である【七の炎】の内の一端である“回復効果”を持つ炎であり、意識を失う前の修也のダメージと疲労、更に心象において自分の弱さと向き合っているであろう修也の精神的疲労を回復させる為に、こうしてゆっくりと浴びせ続けていた。
ーーピク・・・
修也の手が微かに動いた。
それを感じとった蒼姫は、目を開く。
「戻って来たか・・・」
「う・・・く・・・!」
仰向けに床に倒れていた修也が、頭を片手で押さえながらゆっくりと上体を起こした。
「目が覚めた様だな、修也」
「蒼姫・・・俺は、何分ぐらい気を失っていたんだ?」
修也は肩を回したりして、身体の感覚を確かめながら蒼姫に聞いた。
「何、十分程度といった所だ」
「十分か・・・もっと長く感じたな」
「心配するな、試合はまだ続いている。お祖母様からレクリエーナ様に話しは通してもらっている。意識を失っても、戦闘不能扱いにならぬ様にな」
修也はそれを聞いて納得した様に呟く。
「成る程な・・・全部婆さんの依頼だったんだな。目的は、俺にクシャトリヤを取り戻させる事だったんだろ?」
「そうだ」
蒼姫は修也の問いに頷きながら答え、言葉を続ける。
「だがこれは私達、幼馴染の悲願でもあると言う事を忘れて貰っては困る。飛華、“孫凛“、雲蘭、”姉様“そしてこの私蒼姫の願いでもあった」
「ああ・・・今ようやく実感してるよ。みんな、あの時から俺の前では覚醒した武器を使わなかったんだな・・・俺に思い出させない為に」
「うん、お祖母様から言われていてな。”時が来れば、修也の魔力はクシャトリヤを扱える程に成長する“とな、故に私達で話し合って、その時が来るまではお前の前では決して顕装は使わぬとな。そして私達は、顕装を使わずに強者達と渡り合える様にそれぞれの道へと進んだ。そしてーー遂にこの時が来た」
ーーシャキン・・・・
蒼姫はゆっくりと地面に突き立てていた【七星鳳剣・始原】を抜いて、剣の切っ先を修也に向けた。
「お前がクシャトリヤを扱えぬと恐れずに私との戦闘で使えれば、劉冥お祖母様より託された依頼は完了だ。ーーさあ我が婚約者よ、思い出したお前本来の剣を抜くがいい‼︎」
「・・・・・・・ああ行くぜ、蒼姫‼︎」
自分に向けて剣を突きつけながら真っ直ぐ見据えて言った蒼姫に対して、修也も見返しながら言った。
修也は、身体の前で両腕をクロスさせて地面に翳した。
そして修也は己の魔力を高めていき、顕現の言葉を口にする。
自らの武器を封じた時から口にしていなかった言葉。
さらに言えば、【クシャトリヤ】や【七星鳳剣・始原】の様な、【始原】もしくは【オリジン】を冠する兵装群の特徴として、未覚醒と覚醒済みではそれぞれ顕現文が違う。
故に修也の【クシャトリヤ】も覚醒した為に顕現の言葉が変化しており、修也はそれを一度も口に出した事はない。
しかし、覚醒した【クシャトリヤ】を喚ぶ言葉は自然と口から出る。
「来い、白き玉刃よ」
クロスして翳している両手の直下の地面の空間が開き、そこから白く細く圧縮された魔力が修也の周囲を蛇の様に旋回する。
まるで蛇や東洋龍がとぐろを巻く様にーー
「微小なる機を御し、仇なす界敵を内壊せよ!」
修也の周囲を旋回した魔力は、腕付近まで来ると蛇の様に腕に絡みつきながら修也の掌に収束していき、特殊な剣であるジャマダハル状へとシルエットを形成していく。
「玉臨せよ、【クシャトリヤ・オリジン】‼︎」
修也は両腕を広げる様に一振りし、顕現させた武器の姿を顕にさせる。
ーー【クシャトリヤ・オリジン】
H型の柄を持つジャマダハル状の兵装。
最大の特徴は、アームガードから伸びる長剣の如き両刃のメインの剣身に、背鰭の様に四つの短剣がメインの剣身に一体化する様に備わっている。
備わる全ての刃は乳白色のクリア状に輝き、剣の鍔となっているアームガードには、粒子渦巻く乳白色の宝玉が輝きを放つ、全体に白を基調とした一対の剣。
ーーシャリン‼︎
修也は両腕を広げるように振るった後、左手を前方に右手を後ろに構えた半身の構えをとった。
「・・・・・・・!」
その構えを見た蒼姫は込み上げる嬉しさのあまり、思わず笑みをこぼした。
(ああ・・・これだ、この構えだ・・・!ようやくこの時が来た・・・!ずっと待っていた、お前のその眼を再び見れる日を・・・!)
蒼姫は覚悟を決めた眼でこちらを見据える修也に、内心では感慨深い思いを抱いていた。
(この感じ・・・固有粒子が身体を巡り、魔力と共鳴するこの感覚・・・。行ける感じがする。あの時とは違う、と・・・)
一方修也も懐かしい感覚に、胸が一杯だった。
「スゥ・・・ハァ・・・・。いくぞ、蒼姫・・・!」
修也は短い深呼吸で態勢を整えると、蒼姫に聞いた。
「ああ来い、修也‼︎ここからがこの試合での本当の私達の戦いだ‼︎」
そう言い合い、二人は互いを真っ直ぐと見据え、静寂が玉座の間を暫し支配する。
そしてーー
「「・・・・・ッ!」」
二人は互いを見据えたまま、同時に踏み込んだ。
ーーギィン‼︎
10メートル程距離をとって対峙していた二人は、丁度中間地点でぶつかり合った。
ーードゴォォ‼︎
上段から振り下ろした鋭い大翼の如き蒼姫の紅い長剣と、クロスする様に袈裟斬りを放った修也の刺々しい白い双剣、両者の刃がぶつかった衝撃で床を大きく凹ませ、放射状のヒビを生み出し、飛び散った床の破片が空中に舞う。
二人はそのまま数瞬の間鍔迫り合うと、そのままその場で高速で斬り結び合う。
ーーギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎
修也は双剣である為、攻撃と防御を同時に行える。
故にこの至近距離での攻防の中では、手数の多い修也の攻撃回数は蒼姫の倍以上であった。
蒼姫が繰り出す唐竹、逆袈裟、袈裟斬り、右薙、刺突を片手の剣で防御すると同時に、即座に反撃の斬撃を繰り出す。
しかし、攻撃回数が倍以上である筈の修也の攻撃を、蒼姫は密近接戦で少々取り回しがし辛い長剣の柄や鍔を使った変則的な防御で、修也の連撃を受け流し・防御して返す刀で重い斬撃を繰り出す。
ーーギィン‼︎
互いの刃が交わり弾かれて、お互い後方にステップして距離を取る。
「激しい斬撃の応酬を繰り広げ、リーダー対決は“20分もの間、膠着状態“が続いております!」
とここで、今まで気にする事が無かった実況のモイラの声がフィールドに響いた。
「十分ぐらい、俺はぶっ倒れてたと思うんだが・・・?」
モイラの実況を聞いた修也は、まるで蒼姫と互角で戦っていた様に言われる実況に眉を顰めた。
「ああそれは、”傾国の耀狐“殿の幻術だ。我々はここに至るまでの間は、互角の戦いを繰り広げている様に観えていたのだ。最も、事情を知る者や実力のある者ならば、本来の趨勢が見えていただろう。だがーー」
ーーチャキ・・・
蒼姫は、鳳剣の切っ先を天に向けて振り上げる。
「それも先程まで、ここからは我々の戦い次第だ」
「ああ・・・!」
修也は蒼姫の次の動きを見逃すまいと、油断無く見据えて身構える。
「ブレイド」
ーーバシュン‼︎
蒼姫が言った瞬間、七星鳳剣の刀身の峰に備わっていた鋭い羽状の刃が7本射出され、蒼姫の周囲を縦横無尽に高速乱舞する。
「ブレイド・・・ッ!」
修也は乱舞する刃羽を、自身の魔力感知・気配感知を最大限に発揮して警戒する。
「さあ修也、捌き切って見せろ‼︎」
その言葉と共に蒼姫は鳳剣の切っ先を修也に向けーー
「舞え!」
指示を受けたブレイドが、蒼姫の周囲から一斉に修也に向けて突撃した。
「・・・・ッ!」
(当時、蒼姫はブレイドを使えなかった。ブレイドの特性は物によって様々。俺にとって未知の機能・・・ならここはッーー)
修也はデタラメな軌道で空間を斬り裂きながら迫る7本の刃羽を警戒し、バックステップで距離を取る。
「フウゥゥッ・・・‼︎」
(放つのは本当に久しぶりだが・・・)
距離をとった修也は、息を吸いながら両手の剣に粒子と気を収束する。
そして両手のクシャトリヤを同時に突き出す。
「ーー【発勁・崩閃】‼︎」
クシャトリヤに圧縮された粒子と気が解放され、広範囲に広がる指向性の衝撃波が放たれた。
ーードゴォォォォ‼︎
この技は、いままで修也が使用していた【発勁閃】の応用技だ。
ちなみに【発勁閃】と言うのは略称で、正式には【発勁・斬閃】と言う。
この技は【発勁閃】と言う術技態系の基本系であり、多様される為に基本的に省略して使われる。
ただし、この様に正式名を言わずに詠唱破棄・正名省略をすると、魔術や顕装の様に“本来の威力”や“性能”が低くなってしまうと言うデメリットがある。
言うなれば詠唱破棄・正名省略と言うのは、“手加減”していると言っている様なものだ。
放たれた衝撃波が、乱舞して迫る蒼姫のブレイドに襲い掛かる。
ーーシュン!
「な・・・ッ⁉︎躱すのかよ⁉︎」
ブレイドは意思を持つかの如く、瞬時に四方に散って衝撃波を躱した。
だが衝撃波は、床を抉りながら蒼姫に迫る。
それを見ながら蒼姫は嬉しそうに笑い、鳳剣を構えて迎撃態勢をとった。
「そうだ!全ての【発勁閃】を駆使する事こそ、お前の戦闘スタイル‼︎さあ、懐かしき感覚を味合わせてもらうぞ‼︎」
「スゥゥゥ・・・・」
蒼姫は息を吸いながら、剣に粒子と気を収束する。
そして勢いよく中段で防御の構えを取りーー
「ーー【発勁・護閃】‼︎」
鳳剣に備わる7つの宝玉全てから、収束した粒子と気を乱解放した。
解放された粒子と気は、蒼姫の前方に斬撃の障壁となり、半円のドーム状に展開された。
あらゆる角度の斬撃が組み合わされた高密度の障壁は、攻勢防壁の機能を果たし、迫り来る衝撃波を逆に押し返す勢いでぶつかり合った。
衝撃波と障壁は互いに相殺し合い、周囲の床や柱に破壊を撒き散らす。
「くッ、堅い・・・‼︎完全に消されるとは・・・ッ‼︎」
しかし蒼姫の発勁による障壁は、今なお効力を失わずに残っており、修也の衝撃波は完全に防がれていた。
「出力で言えば、我が鳳剣は四神随一を誇る。7つも宝玉を備えているのは、伊達では無いさ」
蒼姫は鳳剣を一振りして、発勁の障壁を霧散させながら言った。
「ところで修也よ、気付いているか?」
「ああ・・・完全に囲まれたな」
修也の周囲では、風で不規則に揺れる羽の如く鳳剣より放たれた羽状のブレイドが、全方位からその切っ先を向けていた。
「俺が発勁閃で迎撃する事を読んでいたんだな。蒼姫」
修也は切っ先を向ける7つ刃に、警戒の視線を向けながら言った。
「ふふ・・・お前の考えを読むことなど造作も無い。婚約者の一人として当然の事だ」
「そ、そうなのか・・・」
修也はその返答に戸惑ったが、すぐに気を引き締める。
「さて・・・我がブレイドは揺らめく羽。簡単には捉えられぬぞ?ーー凌いでみせよ、修也!」
ーーバシュン‼︎
そう言った瞬間、蒼姫の7本のブレイドが全方位から一斉に修也に突撃した。
「・・・・ッ!」
一斉に襲いかかって来た刃を、修也はその場から飛び退いて躱す。
(蒼姫の事だ。最初の突撃は、躱される事を前提としたもの。ーー次は・・・)
地面に着地した修也に、間を置かずに3本のブレイドが高速で揺れ動きながら襲いかかる。
ーーギィン‼︎
不規則に揺れて幻惑する様な機動を取る刃は狙い難く、修也はその内の一本を右手の剣で斬り払い、残りの2本を左手の剣で防御する。
(この3本は、俺の迎撃を誘う為のもの・・・本命はーー)
しかし、3本に対応するだけで両手が既に塞がった。
それ故に修也は蒼姫の次の一手を予感していた。
ーーシュン‼︎
修也の両斜め後ろに2本づつ分かれて回り込んだブレイドが、一斉に突撃した。
「ハァッ‼︎」
ーーゴォォ‼︎
修也はその場で粒子放出を行い、発勁では無い自身を中心としたドーム状に莫大な粒子が広がった。
それを見た蒼姫は修也に肉薄し、上段から斬りかかった。
ーーギィン‼︎
「ぐっ・・・⁉︎」
修也は蒼姫の斬撃に辛うじて反応し、見様によって大剣とでも言える鳳剣の一撃は、蒼姫の腕も相まって流石に今の修也が片手で受け止められる程に容易で無く、修也は両手の剣をクロスさせて防御した。
「良く反応した。流石だ、修也」
そのまま二人は鍔迫り合い、その周囲には蒼姫のブレイドが舞う様に滞空していた。
「この状況も予測してたな蒼姫・・・っ?」
「まあそうだな、だが発勁では無く粒子放出で凌ぐとは予想外だった。確かにあの状況では、気を混ぜて溜める必要のある発勁よりも、単純な粒子放出の方が早く確実だ」
「結構ギリギリだったけどな・・・!つうか、まじで強くなりすぎだろ蒼姫・・・!」
鍔迫り合う中でも蒼姫の剣は重く、速さと手数を重視したであろうジャマダハル型のクシャトリヤでは押され気味であった。
「あの時は私も無力だった。お前や皆を守れずに這いつくばるだけなど、二度とごめんだ。だからこそお前達からしばらく離れて傭兵になったのだ。傭兵として戦闘経験を積み、お前の隣に立つに相応しい女になる為にな・・・」
当時、吹き飛ばされて以降何も出来なかった事を思い出しているのか、憂いを帯びた表情で蒼姫は言った。
「・・・・・俺もだ。もうあの時の様な無力感は味わいたくない。ーーハァッ‼︎」
「・・・・!」
そう言うと修也は、蒼姫との鍔迫り合いを受け流す様に横に逸らして後方に距離を取った。
そして修也は再び身体の前で、両腕をクロスさせてクシャトリヤを構えた。
そして、クシャトリヤの剣身に備わる短剣に圧縮粒子を収束供給していく。
「正直言って・・・この機能を今の俺が十分に使いこなせるとは思っていない。だがたとえ振り回されるとしても・・・コイツの解放された性能を扱えなければ、俺は前に進めない」
粒子を供給された短剣が、強く白い輝きを放つ。
そして8本の短剣が基部となっているメインの剣身より、少し伸長する様に順に突き出す。
「行くぞ・・・【クシャトリヤ・オリジン】!ーーブレイド展開ッ‼︎」
ーーバシュン‼︎
クシャトリヤより、柄頭がスラスターになっている8本の短剣型ブレイドが射出された。
クシャトリヤのブレイドは、スラスターより粒子の軌跡を空中に残しながら、蛇行する様な機動で蒼姫に向かっていく。
「遂に来たか、修也のブレイド!待ちかねたその性能、見せてもらおうか‼︎ーー我が羽よ、迎え撃て!」
修也が後退した時から蒼姫の周囲で滞空していたブレイドが、揺れる様な機動で修也のブレイドに突撃する。
ーーキン‼︎キン‼︎キィン‼︎
お互いのブレイド計15本が入り乱れ、高速ですれ違いながら斬り結ぶ。
しかしブレイドの操作は、長年使用して自分の物の特性を熟知している蒼姫に分があった。
蒼姫の羽型のブレイドは、修也の短剣型ブレイドとすれ違う時、急激に真横にゆらりと回り込む機動を取り、修也のブレイドを何度も叩き落とす。
その度に修也は、叩き落とされたブレイドが完全に地に落ちる前に体勢を立て直す事に意識を割かなければならなかった。
「く・・・ッ!やっぱ操作では蒼姫が上だな・・・!」
「ふ・・・長年使って来たからな。流石に操作ではまだ負けんさ。本来であればブレイドを操作しながら、本体である所有者も同時に攻めるオールレンジ攻撃が、ブレイドの優位性だ」
そう言った蒼姫は、ブレイドを展開してから一度も同時に攻撃する気配は無かった。
「ハハ・・・やっぱまだ手加減してんだな」
修也は苦笑しながら言った。
「なに、お前が操作にある程度慣れるまではと思っていただけだ。先の“絡み合い”で慣れた頃合いだろう?」
「絡み合いって・・・・」
蒼姫はブレイドでの攻防を、絡み合いと称した。
「うん、違うのか?お互いの思念操作によるブレイドでぶつかり合う・・・私としては“絡み合い”だと感じたぞ?」
「いや、普通に攻防や一合でいいだろ!なんか意味深になるだろうが!」
「ふむ?婚約者なのだから、別にいいでは無いか。それにこれでも言葉は選んだ方なのだが・・・」
「そ、そうなのか・・・ーーと、ともかく続きだ!」
そう言って修也は両手のクシャトリヤを構え直し、ブレイドを自身の周囲に集めた。
「うむ、そうだな・・・先程も言ったが、あの“一合”でブレイドの操作には慣れた頃合いだろう?ここからはーー手抜きは無しだ」
蒼姫の声音が一段低くなり、濃密な剣気をその身に纏った。
「ーーッ!この剣気・・・‼︎これが今の蒼姫の全力か・・・ッ‼︎」
蒼姫が発する剣気の重圧が修也を襲い、その影響で今までの戦闘での破壊の痕が残る玉座の間が、ビシビシと音を立てる。
(朱雀の姫め・・・傭兵生活で偉く力を伸ばした様だな・・・)
修也の内で、ヴァスキが関心する様に唸った。
その声に応える様に二人の“つながり”を介し、蒼姫の内の鳳蒼が応える。
(その通りだ。蒼姫はあの時とは比べ物にならない程に力をつけた。生半な力では1分も保たないぞ?)
「鳳蒼・・・ハードルを上げてくれるな。だがまあ・・・自惚れるつもりは無いが、今の私はお前よりも強いだろう」
「ああそうだな・・・この剣気だけで、それは嫌と言うほど分かるさ・・・」
修也は剣気による重圧に耐えていた、その額には汗が浮かんでいた。
「だがそれでも・・・」
蒼姫は薙ぎ払う様に一振りして、鳳剣を構えた。
「お前ならばついて来れると信じているぞ、我が婚約者よ」
蒼姫は確信を込めた表情で、修也に笑みを見せた。
「努力するさ・・・」
(修也、ブレイドの操作は我等に任せよ。お前は相手に集中しろ)
ヴァスキが修也の内よりそう言うと、修也の周囲のブレイドがゆらゆらと蛇が獲物を狙う様な動きへと変化した。
「ああ、頼んだヴァスキ」
「ふ・・・ならこちらも。鳳蒼、ブレイドの操作は任せた」
(承知した)
鳳蒼が応えると、蒼姫のブレイドは周囲を舞う様な動きに変化した。
「さて、再開しようか」
「ああ」
修也と蒼姫の視線が交わり合い、一瞬の静寂が玉座の間を支配する。
二人は同時に動いた。
ーーギィン‼︎
「く・・・っ!」
「フ・・・・」
二人の刃と周囲を飛び交うブレイドが、すれ違いざまに斬り結んだ。
だが蒼姫の斬り込む速度の方が速かった為、修也は自分の間合いでは無く蒼姫の間合いで斬り結んだ為、防御する様な形で斬り結んでいた。
ブレイドはヴァスキが制御している為に、この剣戟は互角であった。
二人は同時に、踏み込みながら振り向く。
しかし、蒼姫の方が一歩早かった。
蒼姫は居合いの様に、鳳剣を腰溜めに構えた。
「さあ体勢を立て直せ、行くぞ!」
蒼姫は瞬時に粒子と気、更に”剣気と魔力“をも収束する。
修也が振り向いて迎撃の態勢をとる頃には、既に蒼姫の収束は完了していた。
「ーー【発勁・嵐閃】‼︎」
蒼姫は薙ぎ払う様に一閃する。
その一振りで、七色の粒子の軌跡を残す斬撃が7つ発生し、その斬撃が格子状に乱舞しながら放たれた。
7つの斬撃が連続で何度も発生し、空間をズタズタに斬り刻みながら迫る【嵐閃】に対して、修也はーー
「くっ・・・‼︎」
(回避は間に合わないか・・・!収束率が不安だが、数秒くらいは稼げるか・・・?)
修也は両手のクシャトリヤに粒子と気を収束させ、そしてギリギリまで斬撃の嵐を引き付けーー
「ーー【発勁・護閃】っ‼︎」
修也はクシャトリヤをクロスさせる様に防御の体勢を取り、前方に押し出す形で白い粒子障壁を展開した。
7つの斬撃とドーム状の障壁がぶつかり合い、衝撃波と刃風が周囲に撒き散らされる。
蒼姫の【嵐閃】の威力は、修也の【護閃】の防御力を上回り、障壁は瞬く間に斬り崩されていく。
修也は、障壁が完全に崩される前に右側に回避した。
ーードォォォン‼︎
障壁を破壊した斬撃の嵐は、そのまま通り過ぎていき修也の後方の壁に着刃してズタズタに破壊した。
「よし・・・!数秒は持ったな・・・!」
修也はそれを横目で確認しながら言った。
修也と蒼姫の間の空中では、ヴァスキと鳳蒼が制御するブレイドが高速で突撃の応酬を繰り広げていた。
「成る程、我が発勁を防ぎきれぬと判断して回避を選択していたか。だが、それを私が予測していないと思ったか?」
蒼姫は弓を引く様に鳳剣の切っ先を修也に向けながら構え、粒子・気・剣気・魔力を剣身に収束する。
蒼姫はググッと、柄を握り締めて力を込めーー
「ーー【発勁・刺閃】‼︎」
蒼姫が鋭く鳳剣を突き出すと同時に、鳳剣の剣身を形どった刺突エネルギーが放たれた。
「ーーッ‼︎」
横っ飛びで回避して体勢を立て直す途中だった修也は、しゃがんだ姿勢のまま半身になって紙一重で刺突を躱した。
「一重で躱したか、流石の反応だ。では、“7つ”ではどうだ!」
再び蒼姫が弓引く様に構え、力を収束し始める。
今度は七色の粒子が、鳳剣の剣身を包んでいく。
「ーー発勁・刺・・・」
(させん!)
ーーバシュン‼︎
鋭い声が聞こえた直後、蒼姫の上方に修也のブレイドが飛来し、蒼姫に向けて“切っ先”を射出した。
「ーー⁉︎」
蒼姫は即座に反応し、射出され地面に突き刺さる過程を目にしながら、力の収束をそのままに後方に飛び退いた。
「射撃機能・・・?いや、これは・・・」
地面に突き立てられたブレイドと切っ先は、細い糸状の物で繋がっていた。
「・・・ワイヤーか!」
ワイヤーに繋がった切っ先は、引き戻されてブレイド本体へと戻っていく。
切っ先が戻る最中、蒼姫のブレイドを振り切った数本が飛来し、蒼姫に切っ先を向ける。
「虚を突かれたが、一度見れば軌道予測は容易い。だが、易々と二度めはやらせん!鳳蒼‼︎」
ーーギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎
蒼姫の呼びかけに応じ、すぐさま鳳蒼の制御するブレイドが飛来し、ヴァスキが制御する射出寸前だったブレイドを叩き落とした。
「ハァァァ‼︎」
「ーーッ⁉︎」
蒼姫が自身のブレイドが、相手のブレイドを落とす様を見上げて確認した一瞬、修也が雄叫びを上げて斬り込んできた。
「一瞬、私の意識を逸らして接近戦に持ち込むか!受けてたとう!」
蒼姫は不敵な笑みを浮かべ、修也を真正面から迎え撃つ為に斬り込んだ。
修也は両手のクシャトリヤで同時に粒子を収束した斬撃、蒼姫は【発勁・刺閃】の実に”11もの力“の収束そのままに斬撃を振り下ろす。
ーーギィン‼︎
二人の武器がぶつかり合った際に収束したお互いの力が拡散し、戦場である玉座の間に破壊を撒き散らしていく。
既にここまでの二人の戦闘で、玉座の間はボロボロになっており、先の衝撃で完全に”床以外“は破壊され、”玉座“も既に見る影も無かった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」
「ハァァァァァァァァァァッ‼︎」
二人はそのまま至近距離で、斬撃の応酬を繰り広げる。
ーーギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎ギィンギィン‼︎ギィン‼︎ギィン‼︎
金属音を鳴り響かせながら、二人は目まぐるしく斬撃を繰り出す。
手数と取り回しを重視したジャマダハル型の【クシャトリヤ・オリジン】に対し、大剣の如き長大さ故に一撃を重視した長剣である【七星鳳剣・始原】にとって、至近距離での剣戟は不利であった。
しかし蒼姫は、防御と攻撃を同時に行える修也の双剣スタイルに対応するように、密接での取り回しがしづらい鳳剣で防御と攻撃を同時に行うという腕で、至近戦闘での不利を完全に腕でカバーしていた。
二人が高速で繰り広げる剣戟、そしてその上方ではそれぞれの武器から射出されたブレイドが入り乱れ、二箇所から発生する衝撃波と刃風が玉座の間を見る影も無く破壊していった。
ーー・・・会場・実況席
会場はどんどん激化するリーダー同士の戦闘に、盛り上がりを見せていた。
「第一・第二・“第三”・最終防衛ラインと違い、ここまでリーダー同士の戦闘は“静”とも言うべき物でした。しかしここに来てのリーダー同士の激しい戦闘に、会場は熱狂の坩堝と化しています!ーーレクリエーナ様、どうでしょうかこの展開?」
興奮した様子でモイラがレクリエーナに聞いた。
「そうだな・・・実力的にはチーム・イータの方が上だろう。だがクラウン・ブレイクは勝利条件が二つある形式だ。格下が格上に勝つというのが容易に起こり得る。どちらかの条件が達成される最後の瞬間まで、驕らず、慢心せずにあらゆる可能性を活かしたチームが勝利するだろう」
「成る程。これは、一瞬たりとも目が離せませんね!」
「ああ」
モイラが視線をフィールドに戻した後、レクリエーナはリーダー同士の戦闘を見ながら思う。
(超魔導兵装の出力は、7乗の出力を有する鳳剣に分がある。総合的な実力でも朱雀の姫が上だ。彼がクシャトリヤの“散布”機能を使用出来れば、互角の勝負だった。しかし既にこの試合の目的は達成している上に、勝利条件が”先程“達成された。この試合はもう直ぐ終わる。もう少し戦闘が続けば、彼とクシャトリヤの適合率を高められただろうに・・・実に惜しいな)
そう思うレクリエーナの視線は、戦闘によって今も破壊され続ける玉座の間の残骸の中の”二つの何か“に向けられていた。
ーー・・・峡谷フィールド・玉座の間
ーー終わりは唐突に訪れた。
ーーギギギギギギギギギギィン‼︎
激しい斬撃の応酬を繰り広げる修也と蒼姫、そしてブレイドを制御するヴァスキと鳳蒼。
至近距離で攻撃と防御を同時に行う双剣スタイル修也に対し、双剣が得意とする密近接戦に大剣の如き威容を誇る長剣を持ってして、達人クラスを超える剣の腕で対応する蒼姫。
「オオオオオオオッ‼︎」
「ハァァァァァァッ‼︎」
ーーギィン‼︎
高速で実に数分は斬り合っていた二人は、お互いの剣で弾き合い、後方へ距離を取った。
「ふぅ・・・なんとか捌き切ったか・・・!」
修也は、乱れ始めた息を整えながら言った。
「フフフ・・・ハハハ!良いぞ修也、予想以上だ‼︎先の斬り合いで戦闘不能にする気だったのに、私の剣戟を捌き切るとは!流石は、我が婚約者だ‼︎」
蒼姫は嬉しそうな笑みを浮かべながらな、喜びを顕にして言った。
「結構ギリギリだけどな・・・。全く・・・クローズ・コンバットで双剣に対応するとか、どんだけ腕を上げてんだよ・・・」
「何、傭兵稼業で培った術を私の剣に加えただけだ。それにお前もギリギリとか言いながら、私の攻撃をほぼ無傷で凌ぎ、少々息を乱しただけでは無いか」
「ハァ・・・龍凰学園に通ってると、本物の“化物”レベルの方達と戦う機会が幾らでもあるからな。伊達じゃないって事だ」
「ふむ、そうだな。私も今から楽しみだ。さてーー」
そう言って蒼姫は、鳳剣をくるりと逆手に持ち直して地面に突き立てる。
「ーーッ!」
蒼姫の魔力が、徐々に膨れ上がり始める。
「お前はまだ完全顕現には至れてないとの事だが・・・不完全な状態であろうとも、【起源顕鎧】には違いない」
蒼姫の魔力がどんどん膨れ上がっていき、蒼姫は修也を見据えて言う。
「オリジンを纏え、修也。そして私も、一旦の完全へと到った我がオリジンを見せよう」
「やっぱり完全顕現に至っていたか・・・!まあ、予想はしてたが・・・!」
高まり続ける蒼姫の魔力の重圧を感じ、修也の額から汗が一筋流れる。
「では行くぞ!ーー我に宿るは蒼き・・・」
蒼姫がそこまで紡いだ時、実況のアナウンスが割り込む。
「蒼姫選手、待ってください!」
「む?」
「・・・?」
魔力の高まりが一瞬で消え、蒼姫と修也は疑問の声を上げた。
「申し訳ございません。たった今確認出来たのですが、両チームのクラウンは既に破壊されています!」
「「・・・は?」」
修也と蒼姫はお互いを見やりながら、唖然とした声を出した。
熱狂していた会場も、何事かとザワザワしていた。
「こちらをご覧下さい」
モイラがそう言うと共に、会場とフィールドの各所に映像が空中展開された。
その映像は、修也と蒼姫と二人のブレイドが、至近距離で斬撃の応酬を繰り広げる先の記録映像だった。
「先程の応酬の際、両名の攻防から発生した衝撃波等が玉座の間を破壊していく時にーー」
映像の中の二箇所が、同時にズームされる。
「「・・・あ」」
修也と蒼姫は同時に声を上げた。
ズームされたのは、二人の攻防で生じた衝撃波や刃風によってズタズタに斬り刻まれ、“同時”に破壊されていく二つのクラウンだった。
「両チームのクラウンが破壊されたのは、全くの同時でした。よってこの試合、クラウンの同時破壊でーー引き分けとなります‼︎」
会場からは、もう少し観たかったと言う様な残念がる声もあったが、すぐに拍手に変わっていった。
「は、ははは・・・まさか、引き分けになるなんてな・・・思っても見なかった」
修也は脱力した様に構えを解くと、気の抜けた様な声でそう言った。
「全くだ」
安心した様に脱力している修也の耳に、蒼姫の声が聞こえた。
「まさかクラウンを此処に持ってきていたとはな・・流石に予想していなかったぞ。てっきり拠点に置いてきているとばかり思っていたぞ、修也よ」
蒼姫も、鳳剣を自身の位相空間に納めながらそう言った。
「ああ・・・まあ最初は置いていこうと思ってたんだけどな。蒼姫の事だから、俺がそう考える事はお見通しだろうと思ってな。俺なりに裏を読んで懐に忍ばせておく事にしたんだ。で、玉座の間に入る前に扉脇に置いておいたんだが・・・すっげぇ裏目に出たな」
修也も床に胡座で座り込んで、クシャトリヤを位相空間に納めながら言った。
「やれやれ・・・灯台下暗しと言った所か。まあ私も、最初からクラウンを破壊するつもりもなく気にも止めていなかったが・・・私もそれが裏目に出たな。お前との“逢瀬”をもっと楽しむつもりだったのだが・・・」
蒼姫が修也の側に近づきながら言った。
「逢瀬って・・・」
そう呟く修也の目の前に手が差し出される。
「まあ何はともあれ、目的は達成出来たし久方ぶりの手合わせも楽しめた。この結果に私は大満足だ‼︎」
そう言った蒼姫は修也に満面の笑顔を向けた。
「お、おう・・・ありがとうな、蒼姫」
修也は差し出された手を取り、少しドキリとしながらそう言った。
「ふふ、気にするな。婚約者なのだから当然だ。さて、戻るとするか!」
そう言って蒼姫を嬉しそうに、差し出した手を掴んだ修也の手を掴んで、流れる様に肩に腕を回させた。
「いや、蒼姫・・・!自分で歩けるって・・・!」
「遠慮するな!これも婚約者として当然の務めだ!」
「肩を貸してくれるのは嬉しいけど・・・こんな衆目で密着するのは・・・」
「何だ?嫌なのか?」
「嫌じゃ無いけど・・・」
「なら問題無い!良いから私に任せておけ!行くぞ!」
「おい、蒼姫・・・!」
二人は、傍目から見ればイチャついているとしか見えないやり取りをしながら、城の外に展開された転移陣に歩いていった。
ーー・・・最終防衛ライン
「あ〜あ、終わりかぁ!ま、久しぶりに楽しめたし上々と言った所ね。ね、雲蘭?」
奉玲が【玄天画戟・始原】を位相空間に納めながら、不敵な笑みで雲蘭に言った。
二人が戦った最終防衛ラインは、そこが元々は切り立った峡谷とは思えぬ程に破壊されて、破壊の痕があちこちに残る荒野の様になっていた
「そうね。私も本気で戦って感覚を取り戻せたわ」
雲蘭は何処か落ち着かない様子でそう言いながら、【青龍偃月刀・始原】を位相空間に納める。
「彼が心配?」
その様子を見た奉玲が、ニヤッと笑い掛けながら言った。
「ええ・・・当たり前でしょ」
「なら、もう行きなさい雲蘭。この手合わせも楽しかったけど・・・相手が別事を考えながらやり合ったんじゃ、次第に興がさめてくるわよ」
「それは・・・申し訳無いわ。無礼だったわね・・・」
少し怒った様に奉玲に、雲蘭は謝罪した。
「まあ良いわよ。中々楽しめたから。それより早く行ってあげなさい。次は、私との戦いだけを考えて貰うわよ?」
「ええ、感謝するわ呂布奉玲‼︎それじゃあまた!失礼させて貰うわ‼︎」
そう言って雲蘭は、嬉しそうに急いで転移陣の方へ向かって行った。
その様子を見ながら奉玲は呟く。
「次、ね・・・ええ楽しみよ。龍凰学園・・・実に、楽しみだわ・・」
奉玲は好戦的な笑みでそうひとりごちながら、転移陣に歩いて行った。
こうして、チーム・イオタ対チーム・イータの試合は大歓声の中、引き分けに終わった。
ーー・・・三章ー六節【朱雀と九頭龍。闘神と軍神】・終
面白い・続きが読みたいと思って頂いた方は評価して頂いたら幸いです。
次回はツクヨミの話しです。
また時間が掛かるかも知れませんが、早く書き上げられると思います。




