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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
26/49

三章ー五節【蹂躙するは黒き皇】

ーークラス・アルファ控え室

特別試合開始前、控え室には沈黙が流れていた。

「・・・・・・・・・」

沈黙の原因は零牙だ。

先の試合でのセトの傲慢さと相手を痛ぶる戦い方を見て、そうーーキレていた。

転移装置の上でその時を待つ零牙は、まるで瞑想をしているかの様に眼を閉じていた。

だが決して精神を落ち着かせる為ではなく、解放の時を待つ様に怒りを内側で溜めに溜めているのだ。

そのせいか、右手を腰に当ててリラックスした立ち姿で眼を閉じてジッと佇む零牙からは、内側から怒りが覇気や剣気となって静かに漏れ出し、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

零牙の婚約者達や従者達も、零牙が何に怒りを覚えているのかを理解していた。

その為、全員静かに待機していた。

本来ならば、これほどまでの怒りを見せるのは身内関連なのだが、今回は機会が機会なだけに少し違っていた。

零牙は二つの事で怒りを覚えていた。

まず零牙も、強さの頂きの更に向こう側を目指す者の一人。

実の所、この大会を楽しみにしていた。

自分が戦うのも楽しみであり、観戦するのも楽しみだった。

そして迎えた記念すべき開幕の初戦ーーだったが、結果は終わらせる事が出来た筈を終わらせず、相手を痛ぶって雑魚呼ばわりし、制止の声も一切聞かずに痛ぶり続け、第三者の介入を受けてもなお罵詈雑言を吐き続け、傲慢な振る舞いで更に続けようとして強制終了に終わった最悪の初戦を繰り広げたセト。

初戦で仲間と息の合った連携を取り、学生には難しいとされたフォートレス・ゴレムを瞬殺すると言う素晴らしい戦果を上げたヴィネ・チーム。

セトのあの振る舞いは、鍛錬や努力の積み重ねであるそれを踏み躙る行為ーーこれが一つ目。

そしてもう一つはーーエキシビション・マッチの熱をーーつまり、澪凰が高めた会場の盛り上がりを完全に台無しにされた事だ。

この二つの事柄によって、完全に零牙の逆鱗に触れた。

セトは知らず内に、龍の尾を踏んでいた。


ーー・・・コントロール・ルーム

「まさか、緊急で試合が追加になるとは・・・我が一族の当主も、あの少年の振る舞いは気に入らなかった様だな」

「無理もないでしょう。あんなの一部の者以外が見れば、不愉快極まりないもの」

モニターに表示されている新たな組み合わせを見ながら、テオとフィオナが言った。

「いや、恐らくレクリエーナ様の決定では無いだろうな・・・」

胸の下で腕を組みながら冬華は言った。

「では、誰が?」

「私の祖母だ」

テオが聞き、冬華が即答した。

「極東の月の女神、凰月ツクヨミ様が⁉︎」

その答えにフィオナが驚愕した。

「ああ、この急な決定は祖母がやりそうな事だ」

「だが、この急な変更は何の為に?」

「多分・・・見せしめ、だろうな」

「見せしめ?」

「ああ。あの指輪を見た二人の反応からして、既にプロの間や魔界で出回っているのでは無いか?」

冬華が二人の魔王を横目で見ながら言った。

「ああ。まだ公にはなっていないが、最近になってその数が増加している様でな」

「カオス・コンバット運営委員会も、あの指輪の使用禁止を検討している最中ではあるけど、妨害もあって実現には至っていないのが現状でーーまさか・・・!」

「成る程・・・だからこその見せしめか」

フィオナが見せしめの意味に気付き、テオも同時に気付いた。

その反応を見た冬華が頷いて言う。

「ああ、そう言う事だ。その意味では、あの小僧はもはや“贄”と言っていいだろう」

「だからレクリエーナ様は許可を・・・」

フィオナがそう言った時、それまで沈黙を保っていたファントムが口を開く。

「それにしても、あの小僧は災難だな。あれほど最強だと宣言して、“確実”に叩きのめされるのだから。まあ自業自得だが。普通でもそうだが、ましてや今の零牙が相手では満に一つも勝ちの目は無い」

「ああ。二人ともよく見ていると言い。“龍”を怒らせるとどうなるか・・・その答えが見られるだろう」

冬華はそう言って、映し出されている組み合わせを見ながら言う。

「これは試合では無いーーただの蹂躙だ」

その言葉端には、喜びが隠されていた。

姉として女として、こんなにも早く零牙の活躍を見られると言う喜びにクールな表情に若干の笑みが浮かんでいた。

何故なら、今回の零牙は“現段階での本気”なのだからーー


ーー・・・フィールド

突然の追加試合に未だざわつく会場に、実況のモイラの声が響く。

「皆様、お待たせ致しました。これより特別試合ーーチーム・アルファ対チーム・ワームウッドの試合を開始します‼︎」

歓声が上がらない代わりにざわめきが止み、会場にはモイラの声だけが響く。

歓声が無い理由は、零牙率いるチーム・アルファを観客の大半が知らない為、またチーム・ワームウッドのあの不愉快な行為を見なければいけないのか、と言う思いを大半の観客が抱いているのだ。

戦闘フィールドは先ほどとは違い、風光明媚な中世風の都市を円形の堅牢な外壁が一周囲み、都市の中央に巨大な城が聳え立ちその城を更に円形の壁が囲むいわゆる城壁都市となっていた。

この広大な城塞都市が、今回の防衛側の拠点となる。

本来ならこのフィールドはプロの試合で使用される物だが、“ある理由”で用意された物だった。

「それでは、両チームの登場ですーー」

その城の玉座には呼ばれる前から、既にセトが我が物顔で脚を組みながら頬杖をついてふんぞり返っていた。

セトの命令により他のチーム・メンバーは、既に城の周囲に散開して配置についていた。

「まずは防衛側、セト・U・ワームウッド選手率いるチーム・ワームウッド!」

なるべく平静に実況を努めようとしていても、心無しかモイラの実況は沈んで聴こえた。

「そして襲撃側、凰月零牙選手率いる龍皇学園所属ーーチーム・アルファ‼︎」

城塞都市の正門の前方に流れる巨大な川の向こう側に、このフィールドの前線基地が配置されていた。

だがこのフィールドは、巨大な河川の向こう岸から攻める関係上、どうしても河川を越える手順を考えなければいけない。

その為、プロの間でもこのフィールドは防衛側が非常に有利な為、プロの間でもデビュー戦の新人チームやお互いの実力差を地形の有利で拮抗させる為のフィールドなのだ。

そして新人や相手よりも実力評価の低いチームは必ず防衛側となる。

その為、防衛側に配置されるのは相手チームよりも実力が低いと見られている証拠なのだ。

前線基地に零牙達が現れた。

「・・・・・」

零牙はまだ眼を閉じ、始まりの時を待つ。

チーム・アルファのメンバーは、冬華・澪凰・龍姫・モルガン・ファントム・スカアハの教官陣を除いた、刹那・アンジェ・アイナス・織火・アリシア・朧・フェンリル・龍護・影刃・クレア・エレインの11名で試合に臨む。

零牙達の実力や出自を知る者であれば、これだけでも国を滅ぼすなど容易い程の戦力であり、このフィールドでの配置も相まってこの後の展開は火を見るよりも明らかだった。

「おい聞こえるか?聞こえてるよなぁ?」

城塞都市の正門上方に魔導通信によるウインドウが投影され、そこからセトの声が響いた。

「お前がどこのモブかは知らねぇが、お前程度じゃ俺様の足下にも届かねぇ。ま、速攻で片付けてやるから覚悟しとけよ?」

「・・・・・・・」

セトの煽る様な挑発を、静かにその時を待つ未だ眼を閉じた零牙は答えずに完全に無視した。

「ハ!ビビってダンマリかよ!ま、そう言う事だ。せいぜい無駄な足掻きするんだな!」

そう言ってセトは魔導通信を閉じた。

ーー・・・チーム・アルファ控え室

「ふふ、過剰戦力も良いところだね〜!」

澪凰がフィールドのアルファ・メンバー達を見ながら、楽しそうに言った。

「ええ。あの不愉快な相手チームなど、誰か一人でも十分ですからね」

龍姫もフィールドの零牙達を見ながら言った。

「それにーー久しぶりに“最初から全開”の零牙が見られそうだ・・・!ふふ・・・興奮するよ・・・‼︎」

澪凰はフィールドの零牙を見つめて昂りを抑える様に自分の身体を抱き、戦いの最中に見せる嬉しそうな笑みを口元に浮かべて言った。


「チーム・アルファ対チーム・ワームウッド、試合開始‼︎」

試合開始の実況が控え室に響いた。



ーー・・・フィールド・襲撃側

ーーズゥン・・・ズゥン・・・

試合開始から間も無く大地を震わせる要塞の足音が、フィールド全体に響き渡る。

城塞都市の正門前に門番の様に召喚されたフォートレス・ゴレムが、此処に向けて侵攻を開始していた。

「同じ戦術か・・・芸が無いな」

その言葉と共に、零牙がゆっくりと眼を開く。

その瞬間ーー戦場全体を心臓を鷲掴みにされている様な重圧が広がり、フィールド全体を支配する。

既に零牙の眼は銀灰色に輝く龍眼状態であり、その眼でフォートレス・ゴレムを睥睨する。

側で零牙の指示を待つ婚約者達や従者達に、極めて静かな声音で指示を出す。

「周りの連中は任せる。俺は奴をやる。それと俺以外はこの試合でオリジンを纏う必要は無い。そして接敵次第、倒せ」

「「了解です」」

とアンジェとアリシアが返事した。

「「ええ」」

と刹那と織火が返事した。

「「分かった」」

と朧とアイナスが返事した。

零牙の指示に婚約者達は一様に頷き了承する。

そして従者達もーー

「「了解致しました」」

とクレアとエレインが言った。

「零牙さんの邪魔はさせませんよ」

と龍護が言った。

「露払いはお任せを」

と影刃が言った。

「存分に力をお振るい下さい。雑兵共は我等が掃除します」

とフェンリルが言った。

ちなみにフェンリルは、一度生まれ変わっているので零牙達と同年代と言う扱いである。

「任せた。”一撃で城を消し飛ばす“。その後散開し、容赦なく戦闘不能にしろ」

『了解‼︎』

そう言って零牙は歩き出す。

ーーギチ・・・ギチ・・・

鎖が震えるーー

その鎖の音は“枷”を知る一部の者や魔力感知に長けている者ぐらいしか音は聴こえず、おかしいと思っても小さな揺らぎや雑音にしか思えぬものだ。

零牙は歩きながら左手を腕を伸ばして翳し、得物を喚び【起源顕鎧(オリジン・メイル)】を纏う。

「我が身に宿るは黒き皇。・・・其は、始原の一振り」

歩きながら言の葉を紡ぐ零牙に重なり、追随する様に膨大な漆黒の魔力が溢れて龍の姿を象る。

「世界に響くは龍の咆哮」

魔力体のサイファスは両翼を広げ、その羽ばたきと共に周囲の地形が抉れた。

「万有の力を制御せし黒皇龍よ・・・我が身に纏て顕現せん!・・・シュバルツシルト・ジ・カイゼル‼︎」

サイファスは零牙を両翼で包み込んで鎧となり、零牙は黒皇龍鎧を纏う最中に、残りの顕現文を唱える。

「全てを裂断せし、皇たる龍刃!」

零牙の伸ばしていた左手の先に空間の裂け目が形成され、そこから刀の柄が現れる。

「抜刀・・・天羽々斬【(スメラギ)】‼︎」

零牙が柄を掴んで、刀を引き抜くと同時に鎧の顕現が完了し、その余波で地形が抉れ、その場に黒き皇が現出した。

「これは凰月選手、開幕からオリジンを纏いました!どうやら単独でフォートレス・ゴレムに真正面から挑むつもりの様です」


ーーギチギチギチ・・・

鎖が震えるーー

何かのキッカケさえ有れば、“枷”であるその鎖は砕けるであろうと予感させる程に限界が近い。


零牙は立ち止まり、拠点に迫るフォートレス・ゴレムを睥睨する。

そして右手を胸の前に五指を広げて掲げ、自分の奥底の膨大な魔力を圧縮しながら体内で高め始める。

そしてーー








ーーバキィン‼︎

零牙の怒りに呼応して限界を迎え始めていた“枷”の一つが、“現時点”での限界以上に魔力を高めた事によって奥底で完全に砕け散った。

その瞬間ーー

ーーゴォォォォォ‼︎

“枷”の一つによって抑え込まれていた本来の魔力の一部が解放され、抑え込まれていた事により何十倍にも膨れ上がった魔力が零牙の体内より溢れ出し、膨大な黒銀の魔力が天高く渦巻きながら立ち昇る。

そして”枷“が一つ外れた事により、元々鋭角的な形状だった刃の様な顕鎧の装甲も更に鋭く研ぎ澄まされたものとなり、その切れ味と防御力を増し、相手に攻撃を躊躇わせるであろう禍々しさと、軽率に触れる事を許さぬ荘厳さを増していた。

ーーシュゥウ

胸の前に掲げた右掌に、周囲と零牙の魔力から生成された重力が圧縮・集束の後に爆縮し、極大の重力と破壊を内包する漆黒の真球が完成した。

「星の終末・・・静寂の時」

零牙はゆっくりと右掌を前方に向けて伸ばしながら言の葉を紡ぐ。

「時空は歪み・・・万象は崩壊し」

周囲の空間が“黒き皇”の力に呼応して、平伏させるかの様に周囲の地面を平す。

「光を呑み込み・・・因果を押し潰す」

零牙はフォートレス・ゴレム、その先の城を見据えて右手を翳す。

力が解き放たれる寸前、周囲は静寂に包まれる。






「【黒の咆哮(グラビトン・ハウリング)】」

ーーゴォオオオオオオオウ‼︎

漆黒の真球状に圧縮された力が全て解放され、広大な城塞都市の全てを覆い尽くせる程の一条の極大奔流のビームとなって放たれた。

放たれた瞬間の余波で周囲の地形が地割れを起こし、捲りあがり地が抉れ、零牙の立つ場所以外の広範囲にわたるクレーターが形成された。

漆黒の奔流は周囲を漆黒に染めながら大河を分断し、その先まで迫っていたフォートレス・ゴレムを瞬時に呑み込み圧壊・消滅させ、そして堅牢な城壁と正門など何の意味を成さずに圧壊・消滅させて都市を蹂躙しながら城を呑み込んだ。


ーー・・・防衛側・玉座の間

玉座で自分の戦術の成果を余裕の表情で待っていたセトは、異様な魔力を感知して表情を強ばらせた。

「ーーな、何だ・・・⁉︎この魔力は・・・⁉︎」

“勘違い”しているセトですらも感知出来る程の膨大過ぎる魔力に狼狽した程だった。

「クソッ‼︎何だこの有り得ない魔力ーー」

そう吐き捨てる様に言い終わる前にセトは漆黒の奔流に飲み込まれた。






ーーフィールド・襲撃側

漆黒の奔流が薙いだ後の城塞都市は、都市の様相は微塵も無く廃墟と瓦礫が点在し、中央部を横断する更地が残るのみとなった。

「さあ、終わらせよう」

そう言って零牙は漆黒の光翼を広げ、静止状態から一気に加速して、残像を撒き散らしつつ城のあった方面へと向かった。

「さて、私達も行くわよ」

零牙が飛び去ったのを見送った後に刹那がそう言い、他の面々も散開して城塞都市に向かった。



ーーフィールド・城跡地

城が跡形も無く消し飛んだ更地で、セトは“運良く無傷”の玉座に座ったまま唖然としていた。

「・・・・・・・・は?」

何が起こったのか分からなかったセトは、間抜けな声を出した。

突如城内から外へと様変わりした玉座の間で必死に状況を理解しようと考える。

(どう言う事だ・・・⁉︎何だこれは⁉︎何で城が無くなってんだ・・・⁉︎)

「呆けている場合か?」

「ーー‼︎」

セトが必死に状況整理を行なっている最中、漆黒の全身鎧を纏った零牙がセトの前方へと舞い降りた。

「て、テメェ・・・!」

流石のセトも理解出来ない状況に戸惑ったが、直ぐに態度を元に戻していく。

「まあ、よく俺様の前に来たと褒めてやるよ。だがーー」

セトは手練れの者でも身震いする程の覇気と剣気を纏ったオリジン姿の零牙を前にしても相手を見下す尊大な態度は変えず、あろう事か脚を組み直し余裕の表情で零牙を見返しーー

「ーー俺様に勝てねぇよ。さっきの攻撃はお前だろ?あれだけの攻撃を放ったんだ、もう魔力はすっからかんで立っているのもやっとなんだろ?まあ俺様が同じ攻撃をやっても魔力は減らねぇがな」

そうニヤニヤしながら言ったセトに対して、一切何も答えずに見据える零牙。

「どうしたよ?いざ目の前にするとビビって声も出せねぇか?ハハハハ‼︎」

そう言って笑うセトに対して、零牙はーー

「いつまで座っているつもりだ?ーー立て」

ーーザン‼︎

そう言って零牙は長刀を一閃し、剣気による不可視の斬撃を飛ばして、セトには“一切の影響無く”玉座を両断して破壊した。

ーードサッ

セトは一切反応出来ず、ふんぞり返って座っていた為に尻餅をつく様な形で地面に転がった。

「て、テメェ・・・!」

「さっさと立て。それとも敵を目の前にして余裕ぶっておきながら戦わないつもりか?今此処には俺とお前のリーダー同士しかいないぞ?お前自慢のご立派な力とやらを見せてみろ」

「ハ!いいぜ?テメェ如きが俺様を煽るとどうなるか教えてやるよ!」

そう言ってセトは立ち上がり、左手の金色の指輪を右手で摘んでダイヤルを回す様に捻った。

ーーゴォウウ‼︎

その瞬間、膨大な魔力がセトより溢れて立ち昇り、周囲を金色に照らす。

「ハハハハハハハハハ‼︎どうだ?これが俺様の力だ‼︎テメェの見掛け倒しの“クラフティ”なんか一瞬で粉々にしてやるよ‼︎」

「・・・・ほう?」

(成る程、その程度か)

(俺もオリジンは必要無かったか・・・)

完全に相手を測り間違えているセトに、零牙とサイファスは呆れる。

そう内側で会話している間にセトは右手を零牙に向けて魔力を集束し始める。

だがその速度は遅いーーそもそも先程斬撃で玉座を破壊されている事は、相手は近接戦闘を得意としているという事は簡単予測出来る。

にも関わらず、10メートルもない距離で魔力チャージを目に見える形で行う。

この魔力チャージがすぐ終わるか、チャージの隙を余波や何らかの防御手段で埋められるのであれば納得して出来る。

零牙の場合、残像機動で瞬時に距離を詰められる他、先程みたいに斬撃を飛ばすだけで容易に阻めたが、黙ってチャージが終わるのを待ってやった。

ちなみに零牙が魔力収束を行うとその影響で重力力場が発生する為、力場そのものが防御障壁の役割を果たすが、指輪で増幅されたセトの魔力にはそんな効果は無かった。

「おいどうしたよ?ブルって動けないか?この攻撃はテメェが防げる物じゃ無いぜ?」

「・・・・・」

(遅いな・・・)

セトの魔力集束が終わるのを待っている零牙は、挑発するセトの言葉に答えずにそう思った。

そしてようやくセトが魔力集束を終えた。

セトの右手に集まった魔力はグニャグニャに歪んでおり、誰の目から見てもただ魔力を無理矢理集めただけの物で、魔力制御技術を一切修練していない事は明白だった。

「さあ、これで終わりだ!食らいやがれ‼︎」

ーーゴォウウ‼︎

セトの右手から金色の魔力砲撃が放たれ、零牙に向かうがーー

「・・・・・」

ーーシュ!

「な・・・ッ⁉︎」

零牙は右手を手刀にして腕を振るい、向かってきた砲撃を斬り払って霧散させた。

「どうした?これで終わりか?」

絶対の自信を持っていた攻撃が、簡単に消された事実に唖然とするセトに向かって零牙は言った。

「い、今のは手を抜いてやっただけだ!簡単に終わったらつまんねぇからな」

「そうか。ならさっさと本気を出せ」

強がるセトに対して、零牙は淡々と言った。

セトはイライラしながらチャージを始める。

そして少し後ーー

「さあ、これで終わりだ‼︎」

再び魔力砲撃が、零牙に向かうがーー

ーーシュ!

先程と同じ様に、手刀で簡単に斬り払われた。

「ーーチッ、またかよ‼︎」

「で、次は?」

「舐めやがって‼︎今のも手加減だ‼︎次こそ本気だ‼︎」

そしてまたーー

ーーシュ!

三度放たれた魔力砲撃が、零牙の手刀で斬り払われた。

「クソッ‼︎次だ!次こそテメェをぶちのめしてやる‼︎」

しかしーー

「嘘だろ・・・⁉︎俺の攻撃を何度も・・・⁉︎」

何度セトが魔力砲撃を放とうが、、零牙はそれを簡単に斬り払う。

しかも刀では無く、単純な手刀で容易く行った。

「これで終わりか?」

淡々と言った零牙に対してセトは決して余裕ぶるのを辞めない。

「ハ!な訳ねぇだろ‼︎まあ今回は、俺様の砲撃の調子悪かったんだろうな。本来ならテメェ如きが防げるもんじゃないからな」

「・・・・」

「まあテメェの頑張りに免じてーー」

セトは拳をコキコキとならしながら、自分の手に魔力を集中させ、光の大剣を形成した。

更に金色の魔力を噴出させて大雑把に身体にオーラとして纏い、身体能力にブーストをかけた。

しかし魔力制御技術の基本すらなっていない為、その形は刃こぼれしている様に歪だった。

「俺様の剣技でぶちのめしてやるよ。喜べ。俺様の手を煩わせる奴はそうはいない。光栄に思いながらくたばりやがれ‼︎」

セトは高速で大剣を振りかぶりながら、零牙に突撃した。


ーークラス・アルファ控え室

「無謀だねぇ」

「全くですね。そもそも零牙に砲撃を払われた時点で、実力差に開きがあるものだと理解出来るでしょうに」

そう言った澪凰と龍姫が観戦するフィールド中央では、セトが大剣を手に突撃かけた所だった。

「まああんな道具に頼り切っているんだ、冷静に相手を見極める事すら出来ないんだろうね。しかも基本的な魔力制御技術すら習得していないのでは、零牙に勝てる要素は一つも無いね。まあそれ以前に、そもそも相手にすらならないけど」

「しかしまだ零牙相手に傲慢な姿勢を崩さぬとは、余程の格下を相手にして来た結果なのでしょうね」

「まあ、勝てる戦いしかしてこなかったのは確実だろうね。ーーほら砕かれた」

そう話す澪凰と龍姫の視線の先で、セトの大剣が零牙の右腕で防がれただけで砕かれていた。


ーー・・・フィールド・中央

「さあ、この一撃で終わりだぁ‼︎」

大きく振りかぶりながら高速で零牙に仕掛けながら、セトが言った。

そして自身の間合いに入った瞬間、セトは右薙を繰り出した。

だがーー

ーーバキン‼︎

零牙はその斬撃を瞬時に防げる左手の長刀では無く、わざわざ右掌で防ぎ、歪な魔力の大剣を砕いた。

「ーーなッ⁉︎」

「脆いな」

砕かれた魔力の大剣を見て一瞬唖然となりながらもなが、再び魔力を集中させて同じ物を形成して斬りかかる。

「あり得ねぇ・・・こんな事はあり得ねぇんだよッ‼︎」

「またか?」

今度は大上段から振り下ろすがーー

ーーバキン‼︎

右腕で防御されて砕かれた。

「クソがッ‼︎だったらもっとデカくすればいいんだろ‼︎」

そう言ってセトは大上段で構えた両手に魔力を集中して、先程までの大剣の二倍の大きさを誇る物を形成した。

「オラァ、これでどうだ‼︎」

そして再び大上段から振り下ろすがーー

「同じだ」

ーーバキィン‼︎

「ーーッ⁉︎」

今度は右の手刀で、無造作に払い退ける様に零牙は砕いた。

「クソッ‼︎何でこんな簡単にッ⁉︎」

セトは距離を取りながら言った。

「何度お前が光の刃を作ろうが、結果は変わらない。魔力制御技術の基本すら習得していないお前の刃では、俺に擦り傷すらつける事は出来ない」

「テメェッ・・・・‼︎」

「最強なんだろう?獅子は兎を狩るのにも全力を出すと言う言葉がある。その言葉の通り、アリエル・K・ヴィネは全力でお前と戦った。だがお前はどうだ?相手の力を侮り、過剰に自分の力を誇示して相手を見下す事しかしていない。挙げ句その力も道具に頼り切り、これはその結果だ」

「テメェ如きがこの俺様に説教だと・・・⁉︎調子こいてんじゃねぇぞ雑魚が‼︎」

「今の状況と全く合っていないな。それに吠える前に、さっさと本気を出せ。ほら、お前のチームは壊滅していくぞ?」

「テメェ何言ってーー」

「チーム・ワームウッド、二名戦闘不能‼︎」

「何だと・・・⁉︎」


ーー・・・少し前、城塞都市・中央広場跡地

瓦礫が散乱し、周囲の建造物が軒並み廃墟と化した正門を抜けた先にある、時計塔を擁する広場。

この広場でワームウッド・チームメンバーである、いかにも不良といった容姿の少年と少女の二人がいた。

「クソ‼︎なんだよこれは、雑魚を待ち伏せしようと思ったのに、これじゃ意味ねぇじゃねぇか!」

短髪の赤い髪の少年が、近くの瓦礫を蹴り飛ばしながら悪態をついた。

片耳を押さえながら金髪の少女が、イライラした声で言う。

「騒がないでよ、うるさいわね‼︎もうこんなになっちゃたんだから待ち伏せなんて出来ないわよ‼︎ほら、セト様の所に戻るわよ!」

「チッ、しゃあねぇな。ならとっととーー」

「ーー何処に戻るつもりだ?」

廃墟となっても辛うじて屋根部分が残っていた時計塔の上に、蒼白銀の毛並みが美しい大狼・フェンリルが二人を見下ろす様に音も無く出現していた。

「な、何だテメェは⁉︎」

「そんな⁉︎敵の反応は無かった筈‼︎」

少年と少女は、同時に条件反射の様に指輪に摘みながらフェンリルを見上げる。

「反応が無い?当然だ。偽りの力に頼った貴様ら如きに感知など出来るものか。自分達の力を過剰評価し過ぎだ。さてーー」

ーージャララララ

「「ーーッ⁉︎」」

フェンリルの周囲に、鋭い矛を備えた白銀の鎖【グレイプニル】が四本鎌首をもたげる様に漂い、二人に穂先を向ける。

「お前達如きに我が皇の邪魔はさせん。一瞬で終わらせる。抵抗したければするがいい、その偽りの力で抗えるのならばな」

ーージャララララ‼︎

フェンリルは四本のグレイプニルを、高速射出して突撃させた。

「クソ犬がッ‼︎調子に乗るなぁ‼︎」

「お前など私一人でも十分‼︎」

二人は同時に指輪を捻って起動させ、たちまち増幅魔力が二人から立ち昇るがーー

「知っているかどうかは知らんが、その魔力に攻撃を防ぐ副次効果は無い。したがってーー」

「「ーー⁉︎」」

グレイプニルは何の影響も受けずに、二本ずつ二人の立ち昇った魔力に突っ込みーー

ーードス‼︎

「ーーぐっ⁉︎」

「ーーがはッ⁉︎」

グレイプニルは鞭の様に鋭くしなりながら、正面から二人を打ちつけた。

「無意味だ」

腹部に入った重過ぎる一撃によって地面に叩きつけられた二人は、一瞬で意識を持っていかれた。

「チーム・ワームウッド、二名戦闘不能‼︎」


ーー・・・城塞都市・西居住区跡地

「死ねやぁ‼︎」

「この雑魚がぁ‼︎」

大柄な身体の少年二人がそう言いながら、一人は魔力を込めた拳を振り翳し、もう一人は増幅した魔力で形成した歪な光の斧を振り上げながら、相対する相手に猛然と突撃していた。

「・・・・」

「・・・やれやれ」

相対するその二人ーー影刃と龍護は、“隙だらけ”な突撃を眺めていた。

指輪で増幅された魔力を込めた拳による打撃を繰り出した黒髪の少年に対して影刃はーー

ーーザン‼︎

「ーーがっ⁉︎・・・嘘だろ?・・・・俺が一撃、で・・・」

「その程度で我らを雑魚呼ばわりするなど笑わせる・・・」

すれ違いざまに居合いで一閃し、斬り伏せた。

一方、光の斧で仕掛けたもう一人もーー

「この俺の一撃、これまで防げた者はいない!貴様も斧の錆びになれ‼︎」

茶髪をオールバックにした少年は、魔力で形成した光斧に更に魔力を上乗せし、大上段から渾身の一撃を間合いに入った龍護に振り下ろした。

ーーガキン‼︎

龍護は、身の丈を越える斬馬刀型の羽々斬【剛波】を右手で逆手に持ち、刀身の腹で容易く受け止めた。

「ーー何ッ⁉︎馬鹿な⁉︎」

「やれやれ・・・相手の能力を探らずにそんな大振りな一撃を繰り出すのは悪手だぞ?ーーそら、”返すぞ“」

間をおかずに【剛波】の刀身が、斧を受け止めた場所から金のラインが走り刀身全体に走った後、巻き戻る様に受け止めた場所に収束しーー

ーードゴォン‼︎

「ーーぐあああ⁉︎」

局所的な爆発が発生し、少年の斧を微塵に破壊し霧散して、凄まじい“金色”の爆風が少年を吹き飛ばした。

少年は大きく後方に飛ばされ、廃墟の壁に叩きつけられて動かなくなった。


「チーム・ワームウッド、更に二名戦闘不能‼︎」


ーー・・・城塞都市・外壁上

「クソッ!何でこんな・・・!このあたしが・・・!」

辛うじて残った外壁上の一部で、淡い赤色の長い髪を振り乱しながら全方位から縦横無尽に襲い来る魔力剣を、少女は必死に躱し続けていた。

まるで不恰好に踊る様に必死に躱し続ける少女を、金髪ツインテールのクールな少女・アンジェが上空で滞空しながら見下ろしていた。

「意外に頑張るでは無いか」

【龍剣の円舞(ドラゴニック・サークル)】で生成した十本の魔力剣を思うがままに思念操作しながら、アンジェは反撃すら許さずに一方的に攻め立てる。

「ちくしょう、鬱陶しい‼︎」

ーーギィン‼︎

「クソッ、またかよ⁉︎」

切っ先を向け飛来した剣を、腕をクロスして両腕に装備したガントレットで防御するが、すぐさま別方向から飛来する剣には対応出来ずに大きく回避する。

アンジェが少女と戦闘開始してから、その一連が続いていた。

「はあ・・・はあ・・・。テメェ、降りて来て正々堂々戦いやがれ‼︎飛び道具なんか卑怯だろうがッ⁉︎」

少女の戦闘スタイルは、増幅した魔力で身体能力をブーストしての近接格闘。

それ故に、戦闘開始から一切自分の間合いに持ち込めない状況にイラつき、そんな言葉が出てしまった。

「正々堂々?卑怯?まさかお前達の口からそのような言葉が出てくるとは思わなかったぞ?」

最近アンジェは自身の深層を探る中で自分の真の出自”を垣間見た為、零牙達には丁寧な口調だが敵対者に対しては少々尊大な口調になっていた。

「このアマッ!ーークソッ‼︎」

悪態を遮る様に飛来した魔力剣を、赤髪の少女はバックステップで躱す。

アンジェは相手を見下ろし、魔力剣の攻撃速度を速めながら更に攻め立てる。

「間合いを測れぬのはお前が未熟が故、私の実力を測れぬのもまた未熟なだけ。自分が接近戦しか出来ないからと相手にも同じ土俵を要求し、通らなければ卑怯などと・・・あれだけ最強だと吠えていたくせに戦いの常すら知らぬなど、未熟と言わざるを得んだろう」

「コイツ・・・‼︎雑魚のくせに説教垂れてんじゃねぇ!」

少女は歯噛みしながらアンジェを睨むが、アンジェは冷めた視線で見下ろしながら攻撃を一度中断し、魔力剣を円環状に自分の周囲に戻した。

「自分の状況も理解できないーーいや、理解したく無いか・・・全く間合いに持ち込めないのでは憤るのも無理は無いが、対応が出来ていないお前の鍛錬不足なだけだと言うだけだ」

アンジェはそう言いながら無造作に魔力剣を圧縮生成し、自身の周囲に滞空する魔力剣の数を増やしてく。

「な、に・・・⁉︎何だよ・・・これ・・・⁉︎テメェ、まさか・・・⁉︎」

少女は、自分の気付かぬ内に増えていたアンジェの魔力剣の数を目の当たりにし、驚愕に目を見開いた。

「手加減か?確かに我等は全力を出していないが、“全力”でお前達を潰しにかかっているぞ?そしてーーお前との戦いも終わりだ」

円環状滞空する魔力剣全ての切っ先が、赤髪の少女に向く。

「あり得ねぇ・・・!あたしらは、最強の、筈・・・!」

赤髪の少女の瞳に絶望感が垣間見え、声にも若干の震えが混じる。

「その程度で最強を気取るなど片腹痛い。道具に溺れた時点でお前達に強さなど皆無だ」

アンジェがそう言った瞬間、30本以上の魔力剣が一斉に少女に襲いかかった。

「クソッ!クソ‼︎クソ‼︎・・・がッ⁉︎・・・クソ・・・・・・ク、ソ・・・」

荒波の様に襲い掛かる魔力剣に飲み込まれても、少女は必死に殴って抵抗を続けていたが、その抵抗も一瞬の事で抵抗虚しくーー

「チーム・ワームウッド!一名戦闘不能‼︎」

そのアナウンスを聞いたアンジェは、一瞬で魔力剣を消した。

そしてその場には、ボロボロになった赤髪の少女が倒れ伏していた。


ーー・・・城塞都市・軍区画

ーーゴォウウ‼︎

紅蓮の焔が迸り、巨大な焔柱が天高く聳え立った。

「・・・・ば・・・・な・・・」

やがて焔柱が地から天に向かって消えると、その場に黒焦げになった少年が残され、言葉にならない声を呟いてそのまま地面に倒れ伏した。

「チーム・ワームウッド。一名戦闘不能‼︎」

「ーーさて、次は誰?」

そのアナウンスを聞いて、焔を発生させた張本人である織火は相対する4名の少年少女を冷たい視線で見据えながら言った。

「「「「・・・・ッ!」」」」

四人は仕掛ける事を躊躇し、ただそれぞれ武器を手に織火を睨むだけだった。

織火と、今しがた戦闘不能になった一人を含む五人の少年少女達は、戦闘開始からまだ一分も経っていなかった。

にも関わらず、一瞬で先頭の少年が焔柱に飲み込まれて戦闘不能になった事に、残された四人は動揺を隠せなかった。

「来ないの?」

「「「「・・・・・」」」」

クールかつ無感情を思わせる声音と、冷たく輝く紅蓮の龍眼で見据えられ動けずにいた。

更に四人に攻撃を仕掛ける事を躊躇わせる理由は他にもある。

それはーー織火の刀だ。

織火の天羽々斬【焔皇】のマグマの様に紅蓮に輝き明滅する長い刀身に本能的な恐怖を覚え、先にやられた仲間の二の舞になるまいと、一歩でも織火の間合いに入る事を躊躇わせていた。

しかし織火と四人の距離は十数メートルーー四人は既に間合いの中にいた。

「臆したのね、今更だけど。なら一息に終わらせるわ」

そう言って織火は、四人に向けてゆっくりと歩き始める。

「「「「・・・ッ‼︎」」」」

織火が一歩ずつ四人に歩みを進めるたび、四人も一歩ずつ後退する。

長い暗色の紅髪を靡かせ、紅蓮に輝く龍眼で冷たく睥睨し、マグマの様に明滅する刀を携え、その超高熱の影響により歩みを進めるたびに踏んだ地面に焔が走り融解する。

織火と相対する四人からしてみれば、まるで意思を持ったマグマと焔が迫って来る様なものだった。

そして先程やられた仲間の一人、彼は織火が軽く刀を振るって足下から発生させた焔柱で一撃で倒された事実。

これらの要因でようやく四人は理解し始めていた、「自分達は決して勝てない」とーー

後退する四人対し、一歩ずつ歩みを進める織火。

誰がどう見ても、既に四人に勝てる要素は見当たらない。

(フン、我等を雑魚だ何だと囀っておいてこの有り様か・・・。織火、もう終わらせろ)

織火の内に宿る【滅焔龍・ヴァーミリオン】が、戦意を既に喪失しつつある四人を見て、つまらなそうに言った。

(そうね。じゃあーー)

織火が紅蓮の長刀を上段に振り上げる。

「「「「・・・・ひ・・・⁉︎」」」」

「く、クソッ⁉︎こんなの勝てるわけねぇ・・・‼︎」

「そ、そうよ・・・‼︎セト様の所まで逃げて・・・」

「せ、戦略的撤退ってやつだ・・・!」

「そ、そうね⁉︎一度戻って態勢を・・・!」

それを見た四人は恐怖に襲われ、次に来る攻撃から逃れる為に背を向け口々にそういいながら逃走を図る。

「無理ね。ここで終わりなさい」

冷たくそう言い放ち、織火は【焔皇】を振り下ろした。

その瞬間ーー

ーーゴォウウ‼︎

四人それぞれの足下から焔柱が天高く聳え立ち、四人はなす術なく紅蓮に飲み込まれた。

「「「「・・・・・・」」」」

やがて焔柱が天に消え、その場には黒焦げになった四人が立ち尽くし、そのまま地面に倒れ伏した。

ちなみにあくまで試合なので、最小火力かつ殺さない様に織火は火加減している。

「チーム・ワームウッド。4名戦闘不能‼︎」



ーー城塞都市・大通り

ーーゴォォォォォ‼︎

大通りを純白の光が走り、一直線に薙いだ。

純白の光が薙いだ所は大きく地面が割れていた。

「チーム・ワームウッド。2名戦闘不能‼︎」

「ふむ、やはり見掛け倒しですか。本来の戦闘力も大した事は無いですね」

ーーキン!

そう言った足元まである長い金髪ポニーテールの美少女【アリシア・ペンドラゴン】は、今しがた光の斬撃を放つ為に振り下ろした【聖剣・エクスカリバー】を側の地面に突き立てながら言った。

ちなみにエクスカリバーは拘束を解除されていない。

「嘘だろ・・・⁉︎たった一撃で二人を・・・⁉︎」

「び、ビビるんじゃ無いわよ!私達は世界最強たるセト様のチーム・メンバー・・・!最強である私達が負けるなんて有り得ないのよ‼︎」

残る二人の内、少年は唖然と信じられないと言った声を出し、もう一人の少女は自分に言い聞かせる様に声を震わせながら発破をかける。

「ここまでです。貴女達には万が一にも勝ち目はありません」

アリシアがキリッとした凛々しい瞳で見据えながら淡々とそう言い放つと、少女と少年は声を荒げる。

「ここまでですって?冗談じゃ無いわ!最強である私達に決して負ける事は無い‼︎」

「そ、そうだ‼︎せいぜい余裕ぶっこいてやがれ‼︎1分後に土下座させてやるよ‼︎」

少女と少年は、魔力を両手に歪に迸らせながら言った。

「やれやれ・・・」

(戦ってみて改めて確信しましたが・・・やはり道具に頼りきって鍛錬を何もしてこなかったのですね。基本技術すら疎かとは・・・)

まるで制御出来ていない魔力を見ながらアリシアが嘆息していると、側で控えていたクレアとエレインが一歩前出る。

「お嬢様、我らにお任せを。そもそもこの程度の輩に零牙様やお嬢様達が本来出る必要はありません」

「ええ、一息に終わらせます」

クレアとエレインは、それぞれの聖剣と魔剣に魔力を纏わせる。

「上等だぁ、やってみろよぉ‼︎」

「思い知らせーー」

「ーー遅い」

ーージャララララ!

そう口々に言って踏み込もうとした瞬間、二人は足元の地面から伸びる黒い鎖によって四肢を拘束されていた。

「なッ⁉︎」

「いつの間にッ⁉︎」

「今縛っただけです」

そう言ったエレインが、切っ先を地面に向けた右手に持った【魔剣・アロンダイト】から八本の鎖が地面に向かって伸びていた。

「か、身体が・・・重いッ⁉︎」

「クソッ・・・⁉︎何だよこれは・・・‼︎」

アロンダイトの能力の一部である【鈍化】ーーこの魔剣の鎖や刃に触れると“あらゆる運動“を遅くする。

それは触れている時間が長ければ長いほど深く、強く能力は侵蝕する。

「お前たち程度では、アロンダイトの鎖は振り解けまい?」

クレアがそう言いながら、エクスカリバーと同様に装甲が施され、女性としては高身長のクレアの身の丈を越える大剣の様な白銀の長剣【聖剣・ガラティーン】を片手で振り上げる。

「クソッ・・・‼︎姑息な手を使いやがって・・・‼︎」

「そうよ、卑怯よ・・・‼︎」

そんな事を言う二人にクレアが呆れた様に言う。

「やはり貴様らは救いようが無い阿呆だな。ーー聞くに耐えん」

ガラティーンの白銀の剣身に魔力が圧縮される。

「ーー倒れるが良い」

ーードゴォォ‼︎

クレアはガラティーンを振り下ろし、鋭く研ぎ澄まされた重い斬撃を放ち、剣圧を発生させた。

「「ーー⁉︎」」

地面を抉りながら進む不可視の圧力が、アロンダイトの鎖に拘束され身動きが取れなくなった二人に向かう。

「クソッ‼︎何で千切れねぇんだ」

「魔力よ!この程度の鎖なんて私達の魔力でーー」

二人は不可視の攻撃が抉る地面を目にして焦り、少女が魔力を高めて無理矢理拘束を振り解こうとするがーー

「そんなッ⁉︎魔力が湧いてこない⁉︎」

「ハァ⁉︎そんな訳ーー・・・嘘だろ・・・⁉︎何で俺たちの魔力が・・・⁉︎俺らの魔力は無限の筈だろ⁉︎」

二人はアロンダイトの鎖に長く縛られ続けた為にその能力が深く侵蝕し、増幅された魔力の中の“本来の魔力”に届き、【鈍化】によって魔力の流れを抑制され、魔力制御を修得していない二人では本来の魔力すら制御が困難になっていた。

ーードゴォォ‼︎

「「ああああああッ⁉︎」」

焦っている内に二人は剣圧に巻き込まれた。

剣圧が到達した際にエレインは拘束を解除し、二人は剣圧に巻き込まれながら後方に大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてそのまま意識を失った。

「チーム・ワームウッド。二名戦闘不能‼︎」






ーー・・・城塞都市・城下

「食らえッ‼︎」

叫び声を上げながら目の前の長い蒼髪の少女を、茶髪の少年が背後から剣で斬りつけた。

「よっしゃ!くたばれ雑魚がーー⁉︎」

ーーザシュン‼︎

確実に剣で斬ったと思った相手は全くの無傷、そして即座に振り向きざまに蒼髪の少女は斬撃を放つ。

「がッ・・・嘘だろ・・・⁉︎当たった、じゃねぇか・・・」

蒼髪の少女ーーいや、蒼髪の少女の幻影は一刀の元に少年を斬り伏せた。

「チーム・ワームウッド。一名戦闘不能‼︎」

「この程度か、なんともお粗末な剣筋だ」

役目を終えた幻影が、本体である朧に重なる様にして消えた。

「そんな⁉︎ただの幻影が攻撃力を持つなんて・・・‼︎」

セトの側近である紫髪の少女が、想定外の事が余りに多過ぎる為かうめく様に言った。

「この・・・チート女どもがぁ‼︎」

少年の一人がそう吐き捨てながら、槍を構えて朧に突撃するがーー

「おっと、させないよ」

ーーザシュン‼︎

「ーーガッ⁉︎」

横から伸びて来た蒼黒い刀身に、踏み込んだ右脚を貫かれて横に回転する様に地面に叩きつけられた。

「チートねぇ・・・。自分達が無知なだけじゃないか」

蒼黒い刀身で刺突した張本人である長い銀髪の少女・アイナスが、天羽々斬【冥皇】の切っ先を地面に倒れた少年に向けながら呆れる様に言った。

「ふざけんじゃねぇ!俺らがやられるなんてあり得ーー」

地面に倒れながら怒りの声を上げる少年の真上から凛々しく低めの少女の声が降り注ぐ

「あり得るわよ」

ーードゴォン‼︎

「ーーガハァ⁉︎」

その言葉と共に少年の背中に巨大な鉤爪が叩きつけられた。

その衝撃は、地面に小規模なクレーターを作り出した。

「いつまであんた達は、自分達は最強だと言うつもり?」

左腕に部分展開した鎧の鉤爪で少年を叩きつけた長い黒髪の少女・刹那は、自分が作ったクレーターの外に飛び退きながら言った。

「チーム・ワームウッド。一名戦闘不能‼︎」

「あれ、刹那?オリジンは使うなって零牙は言ってたけど?」

「違うぞ、アイナス。零牙は“纏うな”と言ったんだ。それはおそらくーー」

「ええ。あたしの事を考えてくれたのよ。零牙は容赦なく戦闘不能にするのが望みだし、この方が早く片付く」

刹那は自身の【起源顕鎧(オリジン・メイル)】の腕部だけを顕現させ、黒紅い装甲を纏った左腕を軽く構えながら残る五人を見据える。

ちなみに零牙の言った“纏うな”の意味は、“全身に纏う”必要は無いと言う意味だ。

「さてーー残るは五人。まあ数的にはあんた達の方が多いけど・・・実力差はハッキリしている。事ここに至って、まだ自分達が最強だと言うつもり?」

そう言う刹那の両側に、朧とアイナスが並ぶ。

「たかが二、三人倒したくらいで調子に乗らない事ね!なら見せてあげるわ、この私の本気を‼︎」

紫髪の少女は、左手にはめている指輪とは別の同じ指輪を懐から取り出して右手にはめ、すかさず捻って起動させた。

ーーゴォウウ‼︎

増幅されていた魔力が更に増幅され、二つ分の指輪の相乗効果によって王クラスに匹敵する程の魔力が荒れ狂う。

「ふふふふふ‼︎ハハハハハハハハハ‼︎これこそ最強の証というもの‼︎最早お前たち雑魚どもなど私の足下にも及ばない!この世界の王になるべきお方であるセト様の忠実な僕たる私達に歯向かった事、存分に後悔しながら地に這いつくばると良い‼︎」

愉悦の笑みを浮かべ、刹那達を嘲笑う様に紫髪の少女・“イーラ”は言った。

「よし、全員イーラ様に続け!」

一人がそう言うと、言った者も含めた残り四人の少年少女も懐から指輪を取り出し、イーラと同じ様に起動して魔力を更に増幅する。

彼等の魔力も荒れ狂い、その場は膨大な魔力の坩堝と化した。

しかし零牙達と違い、影響を及ぼす程に見える膨大な魔力であっても、やはり偽物であると言う事なのか周囲に一切の影響は及ばず、魔力による重圧も無かった。

それ故に荒れ狂う五つの魔力を目の当たりにしても、対峙する刹那・朧・アイナスは特に驚く事も無かった。

幼少期から自分達の親・祖父母世代の別次元の力を目の当たりにし、多分に手加減されていたが実戦訓練をしてきたのだ。

今更この程度の魔力に臆する者は、零牙達の中にはいない。

「ふむ・・・道具とは言え」

「実際に見ると凄いじゃないか。まあでもーー」

「そうね。見てくれだけは立派に王クラス位ね」

(((この程度か)))

三人はただ冷静に敵を見据えていた。

「強気な言葉を発していても、内心では私達の魔力の震えている様ね」

冷静に相手の出方を伺っている三人に、的外れな事をイーラは笑みを浮かべながら言った。

イーラは右手を前方に翳し、膨大な魔力を歪な形で集束し始める。

そしてイーラに続いて、他四人も魔力集束を開始する。

「さあ、この私の攻撃で消し飛ぶがいいわ‼︎」

集束が完了していない内からそんな事を言い、三人から見れば完全に隙だらけだった。

だが三人は防御するそぶりを見せず、油断はしていないがリラックスしていた。

「隙だらけね・・・。どうする、片付ける?」

「増幅された攻撃がどんなものか・・・試してからでも良いだろう」

「そうだね。今後の為にもどんなものか、防御してみてからでも遅く無いし」

そしてイーラのチャージが完了し、少し遅れて他四人のチャージも順次完了した。

その間、刹那・朧・アイナスの三人は黙ってそれを待っていた。

「「「・・・・」」」

イーラは次の一撃で勝ちを確信し、愉悦の笑みを浮かべて魔力を解き放つ。

「これで終わりよ!雑魚ども‼︎」

ーーゴォウウ‼︎

イーラの右手から歪に集束された魔力が、照射ビームとなって解き放たれた。

イーラに続いて、他の四人も同様に魔力を解き放つ。

刹那・朧・アイナスに迫り来る五条の金色のビーム。

一応瓦礫だらけの地面を“少しだけ”抉る程の威力を誇るが、三人はただ冷静にそれぞれで防御するだけだった。

刹那・朧・アイナスの三人は、五本の光条に飲み込まれ、辺り一面を“鈍い”金色の輝きが覆い尽くしていった。












ーーやがて光条が消え、その場の状況が少しずつ顕になっていく。

「私達の勝ちね。まあ当然の結果でしょうけど」

まだ相手の状況が完全にわかっていない内から、イーラは勝利を確信してそんな言葉を言った。

「当然ですよ。イーラ様や私達の攻撃を受けて無事な筈有りませんから」

イーラに同意して少女の一人が言った。

「もしかして、もう形も残ってないんじゃ無いんですかね」

少年の一人がそう言うと、イーラは笑いを堪える様に言う。

「ふふふふふ!無理も無いわ。私の攻撃を食らったのだから。あれだけでかい口叩いておいても所詮は雑魚という事よ。一応確認して、セト様の元へ向かーー」

完全に周囲の眩しさが消え、相手の状況を確認したイーラは言葉を失った。

そこにはーー




「やっぱり技術が伴って無いと、この程度か」

「ああ。力も偽物だと本来戦術級の攻撃であってもこの程度だからな」

「技術の修得や何の鍛錬もしてない癖にこんな物に頼る時点で、当然ね」

飲み込まれる前と一切変わらぬ状態で、無傷のアイナス・朧・刹那の姿があった。

「馬鹿な⁉︎あり得ない‼︎あの攻撃を受けて無傷でいられる筈は無い‼︎何故⁉︎」

動揺からか、声を若干震わせながらイーラが言った。

少し乱れた制服を整えながら刹那が言った。

「単純よ。そもそもあたしには、魔力を少しでも含んだ敵対的攻撃は通用しない。そして、朧とアイナスは単純に身に纏う剣気で防御した。ただそれだけよ」

朧とアイナスは、刹那の言葉に頷いた。

「魔力での攻撃が効かない・・・⁉︎剣気で防いだ・・・⁉︎そんな事・・・あり得る訳が・・・」

呆然と呟きながら、イーラは少し後退する。

そして他の四人の少年少女達は、既に戦意を喪失しつつあった。

イーラ達はこの時点になってようやく理解し始めていた。

“目の前の三人と自分達の実力差に”、だが本能では理お解し始めていても、彼女達のプライドや心がその事実を認める事を拒絶していた。

その拒絶の意思は、がむしゃらな攻撃となって顕となる。

「認めない・・・そんな事はあり得ない・・・‼︎私が‼︎私とセト様こそが‼︎この世界ーー最強だッ‼︎」

イーラは集束せずに出鱈目に魔力を放出して、三人に向けて連射する。

その攻撃を、刹那が一歩前に出て部分顕現した左腕のガントレットの甲で受け止める。

ーードドドドドドドド‼︎

「私達がーー私とセト様こそが最強だ‼︎目障りな雑魚どもは消えろッ‼︎」

ヒステリック気味にそんな事を叫びつつ、増幅された魔力をただただ両手から放出し、歪な砲弾を連射し続ける。

だが刹那に受け止められた魔力は、一切の影響も及ばせる事なく刹那の前に虚しく霧散する。

「・・・言った筈よ。あたしに魔力は通用しない」

「黙れ黙れ黙れ黙れ‼︎そんな事はあり得ない‼︎」

イーラは目の前の事実を否定する言葉を吐きながら、狂った様に魔力を連射し続ける。

自身に無効化され続ける砲火に晒され続けながら刹那は、嘆息する。

(刹那、他の皆は終わった様だ。後はこの場と奴等のリーダーだけだ。もう終わらせろ)

「そうね・・・。ならーー“ディスチャージ”」

ーーシュウゥゥゥゥ‼︎

刹那の左掌に高速で莫大な魔力が圧縮していく。

その魔力は、イーラ達の増幅された魔力とは比べ物にならない位の質・量・密度を誇っていた。

「なッ⁉︎それは・・・⁉︎」

イーラは頭に血が昇っていても流石にその魔力の危険さは感じたのか、攻撃の手が一瞬緩まる。

「見せてあげるわ。本物の増幅をーー」

刹那の左掌に、紅の入り混じった漆黒の極小真球が形成され、刹那は腕を軽く斬り払うかの様に無造作に振って、イーラに向かってそれを投擲する。

「ーー【カタストロフィ・コラプス】」

「・・・・ッ‼︎そんなもの・・・!」

我に返ったイーラが咄嗟に極小の真球を狙い、魔力を打ち出して攻撃するが、高速かつ女性の掌に収まるサイズの真球は狙い辛く、全く当たらなかった。

そして漆黒の真球は、イーラ達の懐に到達する。

「ーー爆ぜろ」

『ーーッ⁉︎』

ーードゴォォォォォォ‼︎

刹那がそう呟いた瞬間ーー真球は一瞬圧縮した後一気に膨張・爆発し、紅の入り混じった漆黒の魔力がドーム状に膨れ上がり、逃げる間もなくイーラ達5人を一瞬で呑み込んだ。

(なんで・・・こんな・・・私は・・・最強の、筈・・・)

そう思いながら、イーラは意識を失った。

後には、地中深くまで抉れた大きなクレーターが形成され、その中にイーラ達五人が倒れていた。

彼女達を見下ろしながら刹那が溜息混じりに言う。

「やれやれ、結局理解できていなかった様ね」

「ああ。あそこまで押されれば力量差はわかる様なものだが・・・」

「そうだね。まるで認めようとしていなかったし、最強であると“思い込まされている”様だった」

刹那・朧・アイナスがそう会話していると、実況のモイラが響く。



「チーム・ワームウッド。五名戦闘不能‼︎」



ーー・・・城塞都市・玉座の間跡地

ーー「チーム・ワームウッド。更に二名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。一名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。一名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。4名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。2名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。2名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。1名戦闘不能‼︎」

ーー「チーム・ワームウッド。5名戦闘不能‼︎」

「嘘だろ・・・?俺様のチームが・・・この短時間で全滅・・・?」

立て続けにアナウンスされる自チームの戦闘不能を聴いたセトは、目の前に相手がいるのにも関わらずに呆然として呟いた。

「これが現実だ。相手チームの力量も見極められず、前線に出ず、城でふんぞり返って戦況を見極めようとしない。俺と戦っている時でさえ、チームの状況を知ろうともしなかった。お前が本物の強者であるならば、戦いながらでもできる筈だ」

零牙はセトを見据えながら、淡々と言った。

「テメェ・・・‼︎この俺様に向かって・・・‼︎」

セトは顔を歪めながら零牙を睨む。

「さて、残るはお前だけだ。このまま長引かせる気は無い。終わりにしよう」

零牙はそう言って天羽々斬【皇】に剣気を乗せ、切っ先をセトに向ける。

「クククククククク、ハハハハハハハハハ‼︎」

「・・・・・」

いきなりセトが顔を右手で覆いながら高笑いした。

そして高笑いしながら、二対の仄暗い色の翼の装飾が施された六角形のタリスマンを懐から取り出した。

「雑魚風情がこの俺様を舐めやがって・・・良いぜ。ならテメェの望み通り、俺様の全力全開の本気の姿を見せてやるよ!ーークラフティ・アウェイク‼︎」

セトがそう言うと、タリスマンから金色の輝きが放たれて周囲を照らし、タリスマンが座標となりセトの背後に“天使式”魔法陣が浮かび上がり、そこから金色の魔力が溢れてセトの全身を包み込んでいく。

膨大な魔力に包まれていく際、セトは零牙に対して嘲笑の笑みを浮かべていた。

膨大な金色の魔力が渦を巻き、セトを中心に乱舞する。

零牙はその魔力の様子と周辺状況を、頭や眼を動かす事なく龍眼で洞察・認識して思う。

(やはり“使える”だけか・・・)

本来これほどの膨大な魔力が乱舞していれば、周囲の地形や環境に影響を及ぼすが、増幅された魔力に一切その様なことは無かった。



やがて魔力の渦が集束していき、金灰色の全身鎧を纏ったセトが顕になった。

金灰色の鎧は、全体のデザインは中世の騎士を彷彿とさせるが、身体にフィットする様に細身に造られており、背部にメインの腰部にサブの光翼発生器ーー天使の翼を象ったいわゆるブースターが備えられている。

両腕部には大きめのガントレットが備わり、その外観から察するに武装が内蔵されているであろうという事が見て取れた。

そして何より目を惹いたのは、中世の騎士を模した様な全身鎧にも関わらず、その全身の装甲には装飾過多とも言える程の“堕天使”の翼の意匠が施され、フルヘルムには王冠を彷彿とさせる様な二対の翼飾りが備わっていた。


ーー・・・実況席

その【魔導顕鎧(クラフティ・メイル)】の外観を見たレクリエーナは、じっと奥底まで見通す様にセトの顕鎧の細部を観察しながら思う。

(あの鎧・・・。細部の意匠やデザインから堕天使のクラフティに見えるが・・・恐らくベースは“遺産”のレプリカか。そしてあの鎧の機能も恐らく・・・)


ーー・・・城塞都市・玉座の間跡地

ーーゴォォォォォ‼︎

金灰色の鎧を纏ったセトの魔力が先程よりも高まっていき、指輪二つ分の増幅を軽く超える魔力が溢れ出し、柱の様に立ち昇った。

しかし相変わらず周囲に影響は無い。

その魔力を、零牙の内から感じ取っているサイファスが言う。

(ほう・・・魔力の見てくれだけは立派じゃないか。しかし、これだけの魔力を垂れ流して影響が全く無い、という事はーー“元の質“が大した事無いという事か)

(ああ。そしてあの指輪の増幅ーー恐らくは”量のかさ増し“だろうな)

金灰色のクラフティをセトは、肩を震わせながら自らの内より溢れ出る膨大な魔力に歓喜の声を上げる。

「クククククククク・・・スゲェ・・・‼︎身体の︎奥底からさっき以上の魔力が湧いてくる!これがアイツらの言っていた、指輪と顕鎧の相乗効果って奴か!ハハハハ、俺様に説教垂れた奴らなんぞ目じゃねぇ‼︎全員、ぶちのめしてやる‼︎」

溢れ出る膨大な魔力の柱の中心でひとしきり愉悦に浸った後、漆黒の龍鎧を纏った零牙に顔を向ける。

そして、黙ってセトを見据える零牙に言う。

「よお、待たせちまったか?さっきまで偉そうにしてやがったくせに、ダンマリか?まあどうせ、俺様の本気の姿と魔力にブルってたんだろうがなぁ?コイツは天界のある企業が、俺の為に用意した特注の最新型の第五世代のプロトタイプってふれーー」

「御託はいい、さっさと来い」

そう言って煽るセトの言葉を遮り、零牙はただ淡々と言った。

「チッ、舐めやがって・・・‼︎テメェはあの女よりも痛ぶってやるからな。覚悟しやがれ‼︎」

そう言ってセトは、右手に魔力を集束して砲弾を放つ。

さっきまでチャージが必要だった砲撃が瞬時に集束されて放たれた。

(ほう・・・?)

零牙は放たれた砲弾を軽く右手で払いのけた。

その際、先程までの攻撃よりも威力と圧縮力が向上していた。

「さあ、コイツを喰らいな!」

そう言ったセトが、ガントレットに内蔵された砲口を両腕に展開する。

ーードドドドドドドド‼︎

マシンガンの様な連射で発射され、無数の魔力弾が放たれた。

零牙は放たれた魔力弾に対して“防御の構え”を取らなかった。

ーーキキキキキキキキキン!

軽い金属音の様な音が響かせながら零牙に着弾し、その際に魔力弾が爆ぜ、極小の爆風が零牙の姿を覆い尽くす。

「ハハハハハハハハハ‼︎オラオラオラオラ‼︎これが俺様に本来の強さだ‼︎テメェ如き雑魚が俺様の本気の攻撃を防げる筈ないんだよ‼︎」

そんなセトの声を聞きながら、爆風の向こうの零牙は防御態勢を一切取らず、最小限の魔力を使用した障壁をピンポイントに生成して、弾丸と爆風を完璧に防いでいた。

(容易いな・・・増幅してこの程度か)

零牙には戦闘に集中してもらう為、障壁の生成・制御を行っているサイファスが言った。

「攻撃が止むな・・・」

放たれる魔力弾の数が減っている事を感知し、零牙が言った。

「ハッ!これでどうだ?もう影も形も残ってねぇだろ」

程なくして攻撃が止み、セトは零牙の様子を確認する為両腕を下ろし、フルヘルムで表情は隠れているが自信ありと言った様子で爆煙が立ち込める地点を見据えた。

「何・・・だと・・・⁉︎」

爆煙が晴れていき零牙の姿が顕になると、セトは驚愕した。

そこにあったのはーーかすり傷ひとつ負っていない漆黒の龍鎧を纏った“無傷”の零牙の変わらぬ姿だった。

「馬鹿な・・・⁉︎嘘だろ・・・⁉︎無傷だと・・・⁉︎この俺様の全力の攻撃だぞ⁉︎それを無傷だと⁉︎あり得ねぇ・・・あり得る訳が無い・・・こんな・・・」

信じられないという様子で後退りながらそう言ったセトに対して、零牙が言う。

「これが道具に頼りきったお前の実力だ。たとえ俺で無くともお前の攻撃など、自分自身の力を高めて来た者達には一切通用しない。今お前が戦闘経験の浅い者や自分の力を模索している者達にイキリ倒していようが、すぐにお前程度など軽く追い抜いていく」

「テメェ・・・雑魚の分際で俺様をコケにすんじゃねぇ‼︎」

そう言ってセトが、右手に瞬時に集束させた魔力弾を放つ。

だが魔力弾は、零牙の龍鎧に傷をつける事なく着弾し、虚しく霧散した。

「ーーなッ⁉︎」

「言った筈だ。お前の攻撃ではかすり傷ひとつつかん。俺以外はもう終わっているからな。もう長引かせるつもりは無い。ーーお前には視るべき所は無い」

そう言った零牙は漆黒の光翼を展開し、瞬時に十数メートルのセトとの距離を詰めた。

ーードスン‼︎

「ーーッ⁉︎ガハッ⁉︎」

そしてセトが反応する間も無く、零牙はセトの腹部に重いボディブローを叩き込んだ。

その一撃でセトの鎧の腹部装甲が容易に砕け、零牙の右拳が直接セトの腹部にめり込んだ。

ーーシュン‼︎

「ーーぐぅ⁉︎」

くの字に前のめりになったセトの頭部を、龍鎧に備わる鎧状の尻尾が斬りあげる様に頭部を打ちつけた。

その際にセトのフルヘルムは半分以上砕かれ、セトは苦悶に歪む表情を晒し、その衝撃で少し宙に浮きながら後ろに仰け反った。

零牙は、宙に浮いたセトの右腕を掴んで引き寄せてーー

ーードスン‼︎

「ーーゴフッ⁉︎」

胸部に膝蹴りを叩き込み、胸部装甲を完全に破壊した。

その際、掴まれて右腕の装甲は破壊されている。

最後にその場で一回転し、再び宙に浮いて仰け反ったセトの胴体に、左回し蹴りと鎧状の尾による打撃を腹部と鳩尾に同時に叩き込んだ。

「ーーグハァッ⁉︎」

その衝撃でセトのクラフティは完全に破壊され、セトは乱雑に残った後方の瓦礫に吹き飛ばされ、背中から叩きつけられた。

「・・・・・・ッ」

瓦礫に埋もれたセトは、全身を襲う痛みに動けずにいた。

セトのクラフティは魔力増幅に性能の大半を割いていた為か、装甲の防御力や対魔術式もお粗末かつ衝撃吸収機能も脆弱であった為、零牙の打撃の威力を一切弱める事が出来なかった。

「クソ・・・が・・・俺様・・・は・・・最強・・・」

セトは薄れゆく意識の中でうわごとの様に言った。

「・・・・・」

零牙は後ろを振り向きながらオリジンを解除し、自チームの拠点へと歩き出した。

その瞬間ーー

「チームワームウッド、リーダー戦闘不能‼︎よって勝者、チーム・アルファ‼︎」

モイラの勝者宣言が響き、会場を大歓声が包み込んだ。



ーー・・・五節【蹂躙するは黒き皇】・終



























































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