三章ー四節【目醒めぬ白獅子】
【アリエル・K・ヴィネ】ーー【レグリナ・K・ヴィネ】の一つ下の妹であり、ヴィネ家の次女。
彼女は、姉が生徒会長を務める【ヴィネ学園】に通い、少し前までは同じ生徒である自身の従者達と共に姉がリーダーを務めるクラスに所属しており、レグリナの庇護下で日々の学園生活を送っていた。
しかし一部の心無い者や“純血派”からは、拙い魔力・姉に及ばない戦闘技能と指揮能力ーーそして未だ完全顕現を果たさぬ【起源顕鎧】と、優秀な姉・レグリナと否応が無しに比較されるアリエルの能力を指して、蔑称でこう呼ばれていたーー【駄獅子】と。
ーー・・・チーム・ヴィネ・控室
「スゥーーー・・・ハァ・・・」
控室の転送陣の上で、【アリエル・K・ヴィネ】は気持ちを整えていた。
何せ自分から言った事とは言え、姉が率いるチームの一員では無く、初めて自分がリーダーとして従者と同期で構成されたチームを率いるのだから。
(大丈夫・・・姉様がいなくてもちゃんと戦える。この大会の為にちゃんと準備はしてきた・・・。家にある戦術や戦闘技能に関するデータは、全て頭に叩き込んである。後は実戦でそれを活かして応用するだけ。大丈夫、大丈夫・・・」
アリエルは自身に言い聞かせるように、胸の内で言っていた。
「アリエル」
不意に優しい声がかけられる。
「姉様・・・」
声をかけたのは、【レグリナ・K・ヴィネ】。
レグリナは妹が心配で、自分のチームの控室から見送りに来ていた。
「いいか、アリエル?試合形式が“クラウン・ブレイク”である以上、【王冠】が破壊されるかチーム・リーダーが戦闘不能にならない限りは試合は終わらない。一応生命に関わる様で有れば、運営側の判断で強制終了されるが・・・選手の意思が何より尊重される。だから余程の事が無い限りそれは無いと思っておけ?」
レグリナは優しく語り掛ける様に言い、アリエルが頷いたのを見てさらに続ける。
「中には、このルールを利用して、不必要に相手を痛ぶる行為をする輩もいる。だから本当に危なくなったらリタイアするんだ。そうすれば、誰もが介入出来る様になる」
「うん、分かってる。心配しないで、姉様。“ヴィネの直感”でそう言う事は分かるから。その時は潔くリタイアするから」
「・・・・」
心配させまいと笑みを浮かべてそう言うアリエルに対して、レグリナは心配そうな表情で見つめる。
しかし、この大会への参加登録の際に同期や従者で構成したチームを自ら率いて出ると言った、今も変わらぬアリエルの決意に満ちた瞳を見て、レグリナは言う。
「・・・・・・分かった、これ以上は何も言わない。貴女の多大な努力を私は見てきた。だから・・・ここまで培ってきたもの全てを大会で出し切りなさい!」
「はい、姉様‼︎」
アリエルは強く拳を握り、レグリナに答えた。
レグリナは、アリエルの周囲に集う彼女のチームメンバーを見渡して言う。
「皆・・・妹を頼む!」
『ハッ‼︎』
ーー・・・・会場・戦闘フィールド
会場中央の戦闘フィールドは、先程のエキシビション・マッチで使用した平原によく似たフィールドで、所々に中世風の廃墟や、森林や川などの自然が点在し、フィールドで向かい合う様にして北端には堅牢で巨大な城が、南端には魔導砲台を多数備えた前線基地が存在するフィールドになっていた。
実況席のモイラが告げる。
「さあ、いよいよ本日から一ヶ月に及ぶメインイベントを開催させていただきます!学園交流カオス・コンバット第一試合、チーム・ヴィネーーチームリーダー【アリエル・K・ヴィネ】対 チーム ・セトーーチーム・リーダー【セト・U・ワームウッド】の試合を開始します‼︎」
観客がどっと沸き、歓声が会場を包み込んだ。
「まずは、今大会における試合形式である【クラウン・ブレイク】について説明させていただきます」
モイラがそう言うと、会場全体の何処からでも見える様に、城と前線拠点が現フィールドと同じ様に配置された、簡易的なフィールドの巨大なホログラムが投影された。
「【クラウン・ブレイク】は文字通り、チーム・リーダーが持つ【王冠】を破壊する形式になっています。この形式での勝利条件は二つあり、前述した【王冠】の破壊、そしてチーム・リーダーの戦闘不能、このどちらかが達成された時点で達成したチームが勝者となります」
「チームはそれぞれ、襲撃側の拠点と防衛側の城に振り分けられます。チーム・リーダーには携帯端末が支給され、この端末もしくは拠点と城に備えられた端末から各機能及び、襲撃ミニオン・防衛ミニオンの召喚が可能となっています」
大型ホログラムに両用途で使用するミニオンがリストで表示される。
「ミニオンの召喚に使用するコストは1分毎に1コスト回復し、その最大値は20となっており、試合開始直後にそれぞれ最大値が支給されます。このミニオンを様々な用途に使う事が、勝負の鍵になる事でしょう。ーーでは第一試合、両チーム登場です‼︎」
フィールドの前線拠点に転移陣が展開し、十数人が出現する。
その中央にいる、金色のメッシュの入った長い純白の髪の少女にスポットライトが浴びせられる。
「まずは、アリエル・K・ヴィネ選手が率いるーーチーム・ヴィネ‼︎そしてーー」
巨大ホログラムに映像がポップアップし、城の玉座にふんぞり返って座るくすんだ灰色の髪の少年が映し出された。
「セト・U・ワームウッド選手率いるーーチーム・セト‼︎記念すべき︎第一試合は、この組み合わせで行います!」
実況のモイラは続ける。
「攻守は御覧の通り襲撃側をチーム・ヴィネ、防衛側をチーム・セトとさせていただきました。ーーさて、両チームの準備が宜しければ始めますが・・・」
そう言って、モイラは交互に両チームに手元で確認をとる。
それに答えるようにアリエルは力強く頷き、セトは気怠そうに手を軽く上げた。
「では、始めさせていただきます。第一試合ーーチームヴィネ対チーム・セト。ーー始め‼︎」
歓声が沸き上がり、間を少し挟んでも冷めないエキシビション・マッチの熱狂の中、試合が始まった。
しかし、記念すべき第一試合はブーイングの嵐で終わるとは、ほとんどの者が予想していなかった。
ーー・・・試合開始直後、戦闘フィールド・防衛側
防衛側の拠点である城の玉座の間では、セトがチームメンバーに指示を仰がれていた。
「で、セト様。どうやってアイツらを痛めつけます?」
ガラの悪そうな短髪の少年が、そう言った。
「何、焦るこたぁねぇよ。あの雑魚どもがどうあがいても俺様には勝てねぇよ。まあ先ずはミニオンをぶつける。ミニオンにすら勝てねぇようじゃ、俺様と戦う資格はねぇよ」
玉座でふんぞり返って頬杖をついたセトが嘲笑う様に言った。
「その通りです、セト様!」
長い紫のウェーブがかった髪をした妖艶な雰囲気の少女が、すかさずセトに賛同する。
「じゃあ、セト様?どのミニオンを出すんで?」
「決まってんだろーー“最大コスト”だ」
そう言ってセトは手元の端末を操作して、全てコストを使用してミニオンを召喚した。
ーー戦闘フィールド・襲撃側
ーードスン・・・・・ドスン!
戦闘開始直後に鳴り響く、大地を揺らす足音。
防衛側のチーム・セトが取った最初の一手は余りにも分かりやすかった。
「お嬢様、あれは・・・!」
幼少からアリエルの従者で、アリエルの右腕とも言うべき凛々しく常に表情を引き締めたメイド服姿の長いブロンド髪の少女サーシャが、緊張した面持ちでアリエルに言った。
アリエルはゆっくりと大地を揺らしながら自陣に迫る、ミニオンを見据えて言う。
「ええ・・・。防衛側最高コスト、フォートレス・ゴレム・・・‼︎」
【フォートレス・ゴレム】ーー最高コスト20、つまりコストを全て使用する事により召喚出来る防衛側最強のミニオン。
最高コストであるが故にその性能は高く、プロの試合であれば本来は全高30メートルなのだが、今回は学生同士の試合である為、20メートルにダウンサイジングされている。
外見はまるで城がロボットに変形した様な見た目に加え、各所に多目的迎撃用CIWSを多数備え、チェスのルークの駒の様な形の両肩部に集束式大型三連魔導砲を二門備え、堅牢な装甲には対魔導術式が組み込まれ、並の魔法や魔術による攻撃を八割軽減し、物理ダメージに置いても並の攻撃など歯牙にも掛けない防御力を誇る。
更に各所の装甲内部に多連装ミサイルランチャーを備え、たった一機で2師団分に相当する火力を展開可能だが、今大会で召喚出来るのはプロ仕様をダウングレートしたものである為、総合的な火力は6割に抑えられている。
しかし、それでもフィールドの何処にいても確認出来る圧倒的な巨体は、威圧感を与え真っ直ぐと前線拠点に進行し続けるその姿は、対峙したチームに焦りを植え付ける。
「なんとチーム・セト、いきなり最高コストミニオンであるフォートレス・ゴレムを召喚すると言う一手を繰り出したぁ!ご存じの通り、フォートレス・ゴレムはまごう事なき“要塞”。最高コストに相応しいその圧倒的な火力と防御力を前に、果たしてチーム・ヴィネはどう対応するのか⁉︎」
実況のモイラがそう言った。
ーー・・・チーム・ヴィネ(レグリナ)控え室
「会長、アレってかなり不味いんじゃ・・・?」
レグリナのチーム・メンバーである、焔の様な赤毛の髪をした少年【ルーク・K・バラム】が聞いた。
「ああ、まさかフォートレス・ゴレムを最初から召喚するとはな・・・。確かに過去にプロの試合で用いられた戦術の一つではあるし、陽動や囮としては最高のミニオンだが・・・。果たして、あのふざけた宣言をした奴にそこまでの戦術知識があるとは思えんが・・・。大広間で見た第一印象とあの言動から、単純に最高コストだからと言う理由で召喚したとしか思えんな」
レグリナはフォートレス・ゴレムを見据え、防衛側の行動を探していたが、ミニオン召喚以外に動きが無かった為そう言った。
「じゃあ、向こうのチームはあのミニオンの欠点も把握していないんでしょうか?」
「恐らく、性能だけしか見てないんだろう。最高コストミニオンを召喚すれば一定時間コスト回復出来なくなるなど、恐らく知らんのだろうな」
そう言ってレグリナは、チームメンバーと作戦を話し合っているアリエルを見守る。
(たしかにフォートレス・ゴレムは厄介なミニオンだ。だが、たとえ実力に乏しかろうと倒せない訳じゃ無い。アリエル、お前ならきっとこの一手を打ち崩せる)
ーー・・・龍凰学園・クラス・アルファ控え室
「へぇ・・・アレがフォートレス・ゴレムか。中々強そうだけど、ちょっと物足りないかな。それとも・・・プロ仕様だったら、まだマシなのかな?」
鈍重ではあるものの見る者全てに強烈な威圧感と圧迫感を与える様な超重量級のミニオンを見て、澪凰が少し残念そうに言う。
「いやいや・・・澪凰姉さんからすれば物足りなく感じるだろうさ。でも多く学生からすれば十二分に難敵だよ。かく言う俺も、もし自分の試合で出てきたらどう対応しようか考えてる所だし」
そう言う零牙に澪凰は自信たっぷりと言う。
「うん?心配無いよ。“今”の零牙の力でも余裕で斬れるよ」
「いやいや俺も多分出されたら苦戦すると思うけどな・・・。確かに実際に相手をしなければわからないけど・・・」
「ふふ・・・大丈夫大丈夫。零牙の強さは私達が分ってるからね」
澪凰がそう言うと、他の全員が同意する様に強く頷いた。
ーー・・・フィールド・襲撃側
「お嬢様、指示を」
迫るフォートレス・ゴレムを見据えながら、冷静にサーシャが主人に指示を促す。
サーシャは既に右手に大型の軍用ナイフを手にしていた。
「うん、分かってる。最高コストミニオンへの対策は頭に入ってる。まずはーー」
アリエルは端末を操作し、リストアップされた襲撃ミニオンの一つを選択する。
「【軍団兵:砲】召喚・・・!」
アリエルの前方に、簡易的なライオンの頭部を模したフル・プレートメイルを纏い、大型の魔導式ロケットランチャーを携えたミニオンが、200体展開された。
レギオン系のミニオンは、1コストで100体召喚出来る低コストミニオンだ。
その種類は主に、近接系・遠距離系の二つに分類され、更にそこからあらゆる武器ごとのミニオンが用意されている。
一体ごとの戦闘能力はごく平均的なものの、1コストで召喚出来る為に囮・奇襲・護衛・陽動と様々な用途に使用可能であり、汎用性の高いミニオンとなっている。
フォートレス・ゴレムがゆっくりと前線拠点に迫り来る。
召喚したレギオンの射程距離に入るまでの間に、皆に作戦を伝えたアリエルは指示を出す。
「いくよ、皆・・・!フォートレス・ゴレムを撃破する!」
『了解‼︎』
アリエルの号令と共に、チームメンバーがフォートレス・ゴレムの視界に入らぬ様に左右に散っていく。
「来て、宙を震わす吼銃よ!」
それと同時にアリエルが、右手を前方に突き出し自分の武器を召喚する。
「界敵を慄かせ、其の雄叫びで轟振させよ‼︎」
粒子がアリエルの手元に集束し、純白の大型長銃へと形を成していく。
「顕現して、【アサルトレグルス・オリジン】‼︎」
ーー【アサルトレグルス・オリジン】
純白を基調とし、所々に金の差し色が入り、スラリとした流線形の近未来的なフォルムをし、銃身上部に金色の宝玉を備え、そこから銃身全体にエネルギーラインが走るアサルトライフルである。
アリエルは純白の長銃を構え、フォートレス・ゴレムに狙いを定めると同時に、ミニオンに思念で指示を出す。
アリエルに続く様に200体のランチャー・ミニオンが、ロケット・ランチャーを一糸乱れぬ動作でフォートレス・ゴレムに向けて構える。
ーーズゥン・・・ズゥン・・・
フォートレス・ゴレムは、狙いを前方のアリエルと率いるミニオンに定めて各部兵装を起動させ、近接防御目的の迎撃兵装以外の砲門をアリエル達に向けた。
「一斉掃射‼︎」
ーーヴゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
アリエルの号令と共に200門のロケット・ランチャーが火を噴き、フォートレス・ゴレムの頭部目掛けて一斉発射された。
しかも、このロケット・ランチャーはミニオンの魔力が続く限り連射が可能な代物で、アリエルは思念で魔力切れまで連射する様に指示していた。
だが、200門のロケットの轟音をかき消す様にな銃声をフィールドの鳴り響かせていたのは、アリエルのライフルであった。
ーーヴゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
まるでミニガンの様な掃射音を響かせながら、ミニガンの上回る毎分4000〜8000発の発射速度を【アサルトレグルス・オリジン】は誇り、その射撃音はまるで“獅子の唸り声を思わせた”。
フォートレス・ゴレムの装甲は、低コストミニオンの攻撃では、束になっても傷ひとつつかないが、【アサルトレグルス・オリジン】の放つ弾丸ではダメージを負っていた。
ーーズゥン・・・ズゥン・・・
フォートレス・ゴレムがダメージによって進行が止まる。
その間の砲撃によってミニオンがいくらか破壊され、魔力切れになったミニオンも消滅したが、アリエルは射撃を続けながら適宜同じミニオンを召喚して間断なくフォートレス・ゴレムを真正面から攻撃し続けた。
(よし、狙い通り・・・。こちらに攻撃とターゲット優先が向いてる・・・!後は皆が位置につけばーー落とせる‼︎)
そもそもアリエルが、ダメージを与えられないと分かっていてミニオンを召喚したのは、フォートレス・ゴレムの迎撃優先を自身に向け、索敵を周りに向けさせない事にあった。
「お嬢様、位置に着きました」
そしてサーシャから通信が入ると同時に、アリエルは号令をかける。
「今よ、攻撃開始‼︎」
『了解‼︎』
アリエルの合図と共に、サーシャと他のチームメンバーが、メンバーの一人の能力によって潜んでいた地点より、一斉にフォートレス・ゴレムに背後から攻撃を仕掛けた。
ーー・・・防衛側
「馬鹿な・・・フォートレス・ゴレムだぞ⁉︎いくら、この俺様より弱いとは言え、プロでも苦戦する最高コストミニオンだぞ⁉︎何故、あんな雑魚如きが・・・⁉︎」
セトは玉座に座り、前方の空中に投影されたフォートレス・ゴレムに相手チームが蹂躙されるのを高みの見物しようと思って映し出していたが、セトの予想に反してフォートレス・ゴレムは相手チームを蹂躙するどころか、数分程度で陥落しつつあった。
他のチーム・メンバーは、城の正門でセトの合図を待っており、玉座の間にはセトしかいない。
「ハン!だが、完全破壊する事は出来ねぇだろ」
完全にアリエルを格下に見ているセトは、鼻で笑いながらそう言って玉座でふんぞり返った。
ーー・・・フィールド・襲撃側
ーーズゥゥウン・・・‼︎
フィールド全体を超重量で震動させながら、フォートレス・ゴレムは仰向けに地に臥した。
アリエルの合図と共に一斉に仕掛けたサーシャ達は、フォートレス・ゴレムの脚部膝裏関節に集中攻撃をかけ、サーシャの能力である【開放】で関節部に組み込まれている防御術式に“過負荷”をかけて破壊し、脆弱になった両膝関節を瞬く間に破壊した。
自重に耐えきれなくなったフォートレス・ゴレムは、接敵からわずか1分で、誰一人戦闘不能にする事なく行動不能にさせられた。
「今です、お嬢様‼︎」
「ええ・・・‼︎」
サーシャの合図でアリエルは、前方に展開したミニオン達を足場にして、急速にフォートレス・ゴレムに距離を詰めて脚部に飛び乗り、胸部中央目掛けて駆けていく。
その際、まだ可動出来る迎撃兵装を砲門がこちらを向く前に、接続基部を撃ち抜いて破壊していく。
「よし・・・この下ね・・・!」
そして胸部中央に到達したアリエルは、胸部装甲に銃口を当て引き金を引いた。
ーーヴゥゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
唸り声の様な銃声をフィールド全体に響かせながら、装甲を一点集中でコアを守る分厚い装甲に、金色の弾丸ーー“荷電粒子弾”が穴を穿っていく。
【アサルトレグルス・オリジン】は、使用者の魔力を圧縮して弾丸を放つのでは無く、金色の宝玉内部で半永久的に生成される重粒子を圧縮して放つ、荷電粒子ライフルである。
その為、単純な物理と魔力を使用した攻撃を想定したフォートレス・ゴレムの装甲では1分と持たずにコアまでの穴が穿たれていった。
「これで、終わりッ‼︎」
ーーヴォォォォォォォォォォォォ‼︎
アリエルはそう言う共に、発射レートを更に引き上げ装甲奥に見えたフォートレス・ゴレムのコアに無数の風穴を穿ち、完膚なきまでに破壊した。
ーーブゥウン・・・・
完全にコアを破壊されたフォートレス・ゴレムの眼から光が失われ、最高コストミニオンは召喚されてから目立った戦果を上げる事なく沈黙した。
「なんと、アリエル選手‼︎苦戦すると思われた最高コストミニオン、フォートレス・ゴレムをわずか数分で倒したぁ‼︎」
モイラの興奮した声が会場に響いた。
ーー・・・防衛側
ーーバンッ‼︎
「クソ役立たずめッ‼︎」
相手チームを蹂躙する予定だったフォートレス・ゴレムが沈黙したのを見て、セトは玉座の肘掛けを叩き、憤りを露わにした。
フォートレス・ゴレムを召喚してまだ数分しか経っていない為、最高コストミニオン召喚の“一定時間コストが回復しない”と言うデメリットは、まだ続いていた。
「チッ、俺様の手を煩わせるとは・・・‼︎・・・まあいい、調子に乗った雑魚を踏み潰すのも絶対的な強者たる俺様の役目だ」
そう言うとセトは、画面に映るアリエルを愉悦を込めた笑みで睨んで玉座を立ち上がり、城の外へと出ていった。
セトが城壁に上がると、少し困惑した様子のチーム・メンバー達の姿があった。
「おいおい、何惚けてんだよ?」
セトは余裕ある態度でチームを見渡して言った。
「でもセト様、敵はフォートレス・ゴレムを倒したんすよ?」
軽薄そうな茶髪の少女がそう言うと、セトはニヤリと笑う。
「ハっ!所詮、ミニオンなんて前座だ前座だ。むしろあの雑魚どもを褒めてやらねぇとな。今から潰される為に頑張ったみたいだからな」
セトがそう言うと、チーム・メンバー達は愉悦の笑みを浮かべた。
「よし、いくぞお前ら。雑魚どもを踏み潰す‼︎」
『了解!』
セトはチームを率いて何の策も立てる事なく城から出撃し、自身と余裕満々に真正面から“歩いて”進軍を開始した。
セトを始め、チーム全員の左手には“金色の指輪”がはめられていた。
ーー・・・襲撃側
「流石です、お嬢様。お嬢様の日頃の努力を持ってすれば、フォートレス・ゴレムなど敵ではありませんね」
サーシャが、フォートレス・ゴレムの上から降りたアリエルの側に来ながらそう褒めた。
「おだてないでサーシャ。これは皆のお陰だよ。それにーー」
「ええ、来ましたね」
気配と魔力を感じたアリエルとサーシャがそう言って前方を見ると、セトが背後にチームを率いて横柄に肩で風を切って、支配者だと言わんばかりにアリエル達に向かって来ていた。
ちなみにクラウンは、腰の後ろにぶら下げられていた。
それを見て、他のチーム・メンバー達は警戒しいつでも行動出来るように、戦闘態勢で身構えた。
「よぉ、雑魚ども。頑張ったじゃねぇか」
開口一番にそんな言葉を放ったセトが、馬鹿にした様な不敵な笑みでアリエル達を見渡す。
「これは、セト選手。チーム全員を引き連れて正面進行!試合開始から早くも総力戦になりそうです‼︎フォートレス・ゴレムを、チームワークと巧みな最小限のミニオン戦術で降したアリエル選手。セト選手の実力は不明ですが、アリエル選手の方に軍配が上がりそうですが・・・」
モイラがアリエルが優勢なのではないかと言うと、セトはその実況を鼻で笑う。
「ハ!雑魚どもの方が優勢だと?舐められたもんだぜ!まあいい。そんな勘違いなんて言えねぇくらい、圧倒的な力を見せつけてやるよ。喜べ。お前ら雑魚どもは俺様の踏み台になれんだからなぁ?」
「随分な自信ね。相手を甘く見ると足元を救われるわよ?」
アリエルは、油断無くセトを警戒しながらそう言った。
「それは才能も力もねぇ、雑魚どもの話だ。俺様は違う。今から証明してやるよ。ーー本物の・・・」
そう言ってセトは、左手の金色の指輪を掴みーー
「選ばれし存在って者をなぁッ‼︎」
「・・・‼︎」
ダイヤルを回す様に指輪を捻った。
ーーゴォウウ‼︎
その瞬間、セトから猛烈な勢いで凄まじい魔力が立ち昇る。
「これは・・・⁉︎」
「お嬢様・・・!」
アリエル達は、立ち昇る金色の魔力の余波で後ろに少し後ずさった。
「ハハハハハハハハハッ‼︎これが力だ!見るがいい、この俺様の圧倒的な魔力‼︎しかもそれだけじゃねぇ。おい、お前ら」
高笑いしたセトは、他のメンバーに呼びかける。
「はい、セト様」
セトの一番の最側近と思われる紫色のウェーブがかった髪の少女が、セトに続いて左手の指輪を捻る。
ーーゴォウウ‼︎
彼女からもセトと同じ様に金色の魔力を立ち昇り、更に続いて他のメンバーも指輪を捻り、同じ金色の魔力を立ち昇らせる。
「あの指輪は・・・昨今出回っている“遺産のレプリカ”か」
その様子を実況席で見ていたレクリエーナは、険しい表情で見つめる。
「成る程・・・あの坊主の余裕の理由は、あの指輪か。しかも、チーム全員が持っているとはな」
「ええ、プロの試合で使用されたケースは知っていたけど・・・。まさか学生にまで出回っているなんて・・・!」
同じ頃、コントロール・ルームの魔王であるテオとフィオナも同じく険しい表情だった。
「フン・・・あんなものに頼るとは、笑わせる」
「ああ。アレを自分の力だと思うとはな、程度が知れる」
同じく見ていたファントムと冬華は心底呆れた様に、辛辣に言った。
そして、クラス・アルファ控え室でもーー
「ふぅん・・・魔力の強制増幅ねぇ?しかも全員同じ金色・・・。ああ成る程・・・どうやら“一族特有の能力“が薄れてる様だね。アレはもう取り返しがつかないかな?」
澪凰がその全てを見抜く様な洞察で、一瞬にして指輪の作用を理解し、呆れる様に言った。
「道具を使っての増幅など、真に自分の力とは言えないと言う事を理解出来てませんね。あんな物で悦に浸るとはーー」
龍姫も澪凰と同じ様に呆れる様に言った。
「でも、彼女達や戦い慣れてない者にとってはーー」
零牙がそう言うと澪凰が続きを言う。
「まあ、結構厳しいだろうね」
ーー・・・
内側から増幅された魔力が溢れ出しているセトのチームメンバーは、全員自分達が最強だと言う実感に悦に浸っていた。
「へへッ」
「これだよ、これ!」
「いいねぇ!最高だ!」
柄の悪そうなメンバー達がそう言うと、セトの側近である紫のウェーブの妖艶な雰囲気の少女がセトに命令を促す。
「さあセト様、ご命令を。不遜にもセト様の戦術を台無しにした者共に鉄槌を‼︎」
「ああ、そうだな。まあまずは小手調べだ。ちゃんと足掻けよ?」
そう言ってセトはアリエル達に右手を翳し、そこに膨大な金色の魔力を集束する。
「ーー・・・ッ⁉︎皆、散開して‼︎」
アリエルが弾かれる様に指示を出すがーー
「ハ!遅せぇんだよ‼︎」
ーーゴォウウ‼︎
セトが集束した魔力を解放し、地面を“若干抉る”程の凄まじい魔力砲撃が放たれた。
アリエルは咄嗟に皆を守るために【アサルトレグルス・オリジン】の構え、埋め込まれている宝玉より、重粒子を外部に放出し粒子障壁を形成した。
セトの魔力砲撃が形成された障壁に防がれるがーー
「・・・くぅッ⁉︎勢いが止まらない・・・‼︎」
「お嬢様・・・‼︎」
ーーピキ・・・ピキ・・・
セトの攻撃の威力は衰えず、程なくして障壁にヒビが入り始めた。
「ハハハハハハハハハ‼︎そんな障壁程度じゃ俺様の攻撃は止めらんねぇよ‼︎そら、威力アップだ!」
ーーゴォウウゥゥゥゥ‼︎
セトが更に魔力を込めると、砲撃は勢いと太さを増し比例する様に威力が底上げされた。
ーーバキン‼︎
障壁が破られ、アリエル達は金色の魔力砲撃に飲み込まれた。
「・・・きゃぁぁぁぁぁ‼︎」
着弾地点で爆発が起こり、アリエル達は後方に吹き飛ばされた。
「セト選手の強烈な攻撃により、ヴィネチーム全員が吹き飛ばされたぁ‼︎爆風が立ち込める中、果たしてヴィネチームは耐えられたのか⁉︎」
モイラが言った程なくして立ち込める土煙が晴れると、ヴィネチームはアリエルとサーシャ以外全員が倒れ伏すか膝をついていた。
「皆・・・!」
「く、流石にダメージがでかいか・・・」
アリエルとサーシャは、チームメンバーを見渡して言った。
リタイアは免れているものの、セトの一撃でボロボロだった。
「ハハハハハハハハハ‼︎どうだ俺様の力は?たった一撃でそのザマだ。さぁてーー」
悦にいった笑みで、セトはヴィネチームを見渡して言う。
「後はお前ら二人だけだ。他の連中はもうまともに戦えねぇ。まあ、俺様は優しいからな。這いつくばって許しを乞うならここで終わりにしてやるが?」
「・・・・」
しかし、ニヤニヤとアリエル達を見る目はそうは言っていなかった。
「誰が・・・ッ‼︎」
ーーヴゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
アリエルは間髪入れずにセト達に向けて、【アサルトレグルス・オリジン】を横薙ぎに掃射した。
「・・・っぐぅ⁉︎」
その掃射に、既に勝った気でいたセトは反応が遅れ、粒子弾がセトの脇腹を掠めた。
「サーシャ‼︎」
セトが被弾した痛みで、怯んだのを確認したアリエルはサーシャに合図し、サーシャは即座に応えてセトに肉薄する。
「・・・なッ⁉︎」
サーシャは地を這う様に体勢を低く保ちながらセトに距離を詰め、メイド服のスカートの内側から投擲用の小型ナイフを左手に3本取り出し、セトの胴体目掛けて投擲する。
「チッ・・・!悪あがきを・・・!」
悪態を吐きながら、セトは金色の魔力を噴出させ放たれたナイフを弾いた。
セトが弾いた事を確認したサーシャはすかさず左に避ける。
ーーヴゥゥゥゥゥゥゥ‼︎
そして、サーシャがセトの正面から退いた瞬間に、セアリエルがセトに集中砲火を行った。
「チィ、ウザってぇ・・・‼︎」
アリエルはセトに射撃しながら距離を詰める。
「ハン!真正面から来るとはなぁ‼︎」
セトは無数の粒子弾を、膨大にまで増幅された魔力を噴出させる事で防ぎながら、アリエルを迎撃すべく右手を翳し、魔力を集束し始める。
だがそこへーー
ーーザン‼︎
「・・・なッ、テメェ⁉︎」
割り込んだサーシャが、集束し始めた魔力だけをを大型軍用ナイフを正確に一閃し、魔力を霧散させた。
サーシャは最小限の動きで、セトに追撃の一閃を浴びせようとするがーー
ーーギン‼︎
「セト様‼︎」
「・・・くっ!」
セトがピンチだと思った側近の紫色ウェーブの少女が、サーシャに小型の魔力砲撃を放ち、それに気づいたサーシャはすかさず攻撃を中断して、ナイフで防ぎながら飛び退いた。
「申し訳ありません、セト様。つい・・・戦いの邪魔を」
「いや助かったぜ。まあ、あの程度の攻撃に当たっても問題はーー・・・あの女は何処だ⁉︎」
言い終わる前にセトは、さっきまで雨霰と浴びせられていた射撃が止んでいる事に気が付き、同時に前方にいたアリエルの姿が無い事にも気づいた。
不意に背後に気配を感じ、セトは振り向こうとするがーー
「後ろだと・・・⁉︎」
「貰った・・・!」
アリエルは、いつのまにかサーシャの大型軍用ナイフを持っており、それでセトではなく“セトの腰”を斬りつけた。
ーーキン‼︎
軽い音が鳴り響き、アリエルに斬られた“物“が宙を舞った。
「アリエル選手!サーシャ選手との見事な連携により、相手チームのクラウンに一撃を入れたぁーー‼︎果たしてクラウンは破壊されたのか⁉︎」
実況のモイラが興奮した様に口早に言った。
数メートル舞ったクラウンは地面に落ち、両チームと観客の視線が注がれる。
クラウンはーーーーーー
ーーピキ・・・
地面に落ちたクラウンには、ヒビが入っていた。
「クラウンは健在です‼︎ヒビが入りましたが、クラウンは形を保っています‼︎惜しくも破壊には至りませんでした!」
モイラがそう言うと、アリエルは悔しそうに言う。
「浅かった・・・っ‼︎」
「フゥ・・・少しヒヤッとしたが、残念だったなぁ?この雑魚がッ‼︎」
そう言ってセトはアリエルの脇腹を思いっきり横薙ぎに蹴り飛ばした。
「ーーがぁッ⁉︎」
「お嬢様‼︎」
魔力を込めて回し蹴りの威力は、思いっきりヒットしたアリエルを大きく吹っ飛ばした。
蹴りを食らったアリエルは数メートル程飛ばされた後、大きく転がってうつ伏せになって止まった。
「う・・・く・・・!」
アリエルは立ちあがろうとするがーー
「這いつくばってろよ!」
セトの追撃の魔力砲撃がアリエルに放たれる。
「お嬢様‼︎ーーぐぅッ‼︎」
アリエルに当たる寸前でサーシャが庇う様に割って入り、サーシャはナイフで防御して受け止めたが、しっかりと防御出来ていなかった為、霧散した魔力の一部がサーシャに直撃した。
「サーシャ・・・‼︎」
「大丈夫、擦り傷です!」
しかし所々服が破れ、破れた箇所の肌は血塗れだった。
しかし、主を心配させまいとするサーシャはアリエルを庇う様に立ち塞がり、ナイフを構える。
「ハハハハ、無様だなぁ?ええ?しかし他の連中はどうだろうなぁ?」
「「・・・ッ!」」
アリエルとサーシャが周りを見ると、相対しているセトと側近の少女以外に、他のチームメンバーは追撃を受けたのか全員ボロボロだった。
しかし、戦闘不能になればリタイアとしてフィールドから転移させられるはずが転移していない。
「貴様・・・リタイアしないギリギリを狙って・・・!」
サーシャが怒りを顕にし、睨みながら言った。
「まあな、この試合だけじゃねぇ。俺の圧倒的勝利を邪魔する奴等は踏み潰してやらねぇとな。ーーほら、ちょうど見つけたみたいだぜ?」
セトは近づいてきたガラの悪そうな少年から、何かを受け取る。
「それは・・・‼︎」
立ち上がっていたアリエルが驚愕の声を上げる。
セトが受け取ったのは、ヴィネチームのクラウンだった。
「おかしいと思ったんだ。俺様の一撃でクラウンなんか破壊できる筈が、アナウンスが無かった。という事はお前はクラウンを持ってきてねぇだろうってな。それでお前らの拠点探らせたら案の定だ」
クラウンが敵の手に落ちた以上、既にアリエル達の敗北は確定的だった。
セトがその気になれば、今この瞬間にも破壊されるかもしれない。
アリエル達がこのピンチを乗り切るにはクラウンの奪還または、セトを戦闘不能か敵チームのクラウン破壊、そのいずれかの手段しか無かった。
「これで俺様はいつでも試合に勝てる訳だ。ーーが、楽には終わらせねぇ」
セトのその言葉が合図かの様に、十数人のワームウッド・チームが、中距離を保ってアリエルとサーシャを完全に包囲した。
「お前らは、俺様の完璧な戦術を台無しにしてくれたからな。その礼だーー」
そう言ってセトは右手をアリエル達に向けて翳し、魔力を集束し始める。
セトに続く様に、側近の少女を始めとする十数人のワームウッドチームの面々が同じように各々の利き手を翳す。
そしてセトに続く様に増幅した魔力を集束する。
「くっ・・・!」
アリエルとサーシャがセトが何をするかを察した時、セトが言う。
「ーー痛ぶり尽くしてやるよ!」
その言葉が合図となって、セトとワームウッド・チーム全員が魔力砲撃の連射を始めた。
ーードドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼︎
完全に包囲された状況から、アリエルとサーシャは無数の砲撃に晒される。
アリエルは【アサルトレグルス・オリジン】から、瞬時に粒子障壁をドーム状に展開し砲撃からサーシャと自身の身を守る。
「・・・ッ!・・・ぐぅ!」
「お嬢様・・・!」
サーシャを守る為、粒子障壁で必死に耐えるアリエル。
しかし真に適合出来るアリエルでさえも、この兵装の本来の性能の半分も発揮出来ておらず。
その粒子障壁も本来の強固さとは程遠い性能の為、破られるのは時間の問題だった。
「ハハハハハハハハハ‼︎さあ、足掻いて見せろよ、雑魚がッ‼︎」
ーー・・・10分後
「ひでぇ・・・・」
会場の誰かが呟いた。
ーードドドドドドドド‼︎
包囲攻撃は絶え間無く続いていた。
「くぅ・・・ッ・・・!」
「お嬢様、このままではッ・・・‼︎もうリタイアを・・・!」
「ダメ!リタイア宣言しても、転送されるまで若干ラグがある。その間に無防備な皆に矛先が向くかもしれない・・・!」
「お嬢様・・・。くッ・・・」
自分を囮にして他のメンバーを守ろうとするアリエルの意思に、この状況では何も出来ない自分にサーシャは悔しい思いをしていた。
アリエルは粒子障壁に全力を注ぎ10分間耐えていたが、粒子障壁は所々綻びが出始め、アリエルの力は消耗する一方だった。
「そらそら!頑張れ頑張れ!もっと足掻いて楽しませてみろよ!」
セトが凶悪な表情で、笑いながら煽った。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・まだ・・・まだ行ける・・・」
ーー・・・ヴィネ・チーム控室
「・・・・・・」
レグリナは妹の消耗戦を自分の身体を抱く様に腕組みをして、じっと我慢していた。
そしてその隣では、サーシャの姉であり従者であるアーシャも同じ様にジッと耐える様に見つめていた。
「会長・・・先輩・・・」
そんな様子を黒髪の少年【アレン・バラム】は見ていた。
アレンはつい数ヶ月前にヴィネ学園に姉と共に転入して来た為、まだ彼女達との付き合いは浅い。
だが、レグリナがいかに妹を気に掛けているかは深く理解していた。
その為、同じく側で試合を観ていた姉に問いかける。
「なあ、姉さん。リタイアって本人しか出来ないんだよな?」
その問いに、黒髪を無造作に伸ばした勝ち気そうな美少女【アリアナ・バラム】は答える。
「まだ齧った程度の知識しか無いが、そうなんじゃ無いか?本人の戦う意思がある限り運営は止めないって見たが・・・。クソッ、胸糞悪いなあの野郎‼︎もうクラウンは手元にあるんだから勝負は付いたも同然だろうが!」
アリアナは憎々しげに毒付いた。
「・・・・・・・・・」
だがそれ以上に、レグリナの我慢は既に限界だった。
(我慢・・・我慢だ、レグルナ。あの子の努力を知っているだろう?あの子がリタイアしない限り我慢だ、我慢しろ!だが・・・)
だが、そんな妹の意思を尊重するレグリナの目に決定的瞬間を目撃した。
その瞬間ーー
ーードゴォン‼︎
レグルナは控室をぶち破り、戦闘フィールドに突撃した。
ーー・・・戦闘フィールド
「ハァ・・・ハァ・・・!」
アリエルは玉の汗を滴らせる程に消耗しながらも、まだ耐え抜いていた。
「お嬢様、早くリタイアを‼︎もうこれ以上は・・・‼︎」
そんなサーシャの心配する声も、意識が朦朧として来たアリエルには聞こえていなかった。
「フフフ、無様ねぇ?」
「もう限界なんじゃないかぁ〜?這いつくばって許しを乞うなら、止めてやっても良いぞ?まあ止めないけどなぁ!」
側近の少女とセトが、馬鹿にする様に笑いながら言って更に砲撃を強くした。
ーードドドドドドドドドドドド‼︎
「くぅ・・・・ッ‼︎」
アリエルはとっくに限界を超えていたが、無意識的に更に力を振り絞り障壁に力を注ぎ込む。
「もういいわリタイアして・・・‼︎」
「おい、もう勝負はついてるだろ‼︎そこまでやる必要が何処にある‼︎」
「ふざんけんな、もう止めろ‼︎」
必死に耐えるアリエルの姿に、観客がセトへの批難とアリエルへのリタイアを促した。
だがセトは観客に怒鳴り返す。
「黙ってろ雑魚ども‼︎いいか?今俺様が楽しんでんだ。この世界で最強たるこの俺様がルールだ。テメェら雑魚の戯言なんて聞く価値は無いんだよ!ーーまあいいだろう、望み通り終わらせてやるよ‼︎」
ーーゴォウウ‼︎
そう言ってセトは、砲撃を連射から照射に変更して更に威力を強めた。
ーーピキ・・・ピキ・・・パキッ
「ぐぅ・・・ッ⁉︎」
アリエルはそれでも踏ん張るが、障壁の亀裂と綻びが広がっていく。
「お嬢様・・・!」
サーシャは自分の魔力をアリエルに注ぎ込み、少しでも回復させようとするが・・・・その時が来てしまった。
ーーバリン‼︎
「・・・・あ・・・・」
「終わりだ!」
障壁が音を立てて破れ、セトがニヤリと愉悦の笑みを浮かべ、アリエルとサーシャに全方位からの砲撃と照射が直撃しようとしたその時ーー
ーーガァォォォォォォォォン‼︎
ーードゴォン‼︎
天を震わせる様な獅子の咆哮と共に、何かがアリエルとサーシャの側に粉塵を撒き散らす勢いで降り立ち、迫る攻撃の全てを消し飛ばした。
「こ、これは・・・攻撃が当たったのでしょうか・・・?煙が立ち込めてアリエル選手とサーシャ選手の様子が窺えませんが・・・」
中立な立場でいなければいけない実況のモイラが、少し心配そうに言葉を選びながら言った。
「チッ、またかよ!」
自分の予定がまたも阻まれたセトが、不機嫌そうに立ち込める煙に目を凝らす。
そして煙の中に地面に座る二人と、守る様に立ちはだかる詳細不明の黒き獅子の顕鎧を纏った一人、計三人のシルエットが浮かび上がる。
鎧を纏ったシルエットから怒気を孕んだ殺気が放たれ、セト達を威圧した。
『・・・ッ・・・⁉︎』
その殺気に、セトを含めたワームウッド・チームの全員が怯んだ。
鎧を纏った人物が鎧を解除すると共に、解除の余波で立ち込める土煙が一瞬にして吹き飛ばされ、金のメッシュの入った美しい長い黒髪を靡かせながら、その人物ーーレグリナの姿が現れた。
「何だお前?俺様の邪魔をする気か?」
セトは不機嫌に表情を歪めながら言った。
レグリナはそんなセトを睨みながら、怒りを抑えながら淡々と言う。
「もう十分だろう、お前の勝ちだ。これ以上不必要に長引かせるな」
「ハァ?ふざんけんなよ、女?さっき俺様が言った事が分からなかったのか?ルールは俺様だ。俺様が決める。つうかお前誰だよ?俺様の邪魔して、ただで済むと思ってねぇよなぁ?」
セトがイライラしながら言った。
「姉さん・・・・」
消耗し過ぎたアリエルが、サーシャに抱えられながら消え入りそうな声で呟いた。
「姉さん?ハハハ‼︎何だよ姉に助けを求めたのか?素直に俺様に許しを乞えば、止めてやったって言うのになぁ?ハハハハハ、こいつは笑えるぜ‼︎」
セトがせせら笑いながら言った。
「これは私の意思だ。姉として、これ以上我慢出来なかったからな。貴様がこの子のクラウンを手にした時点で終わらせていれば、乱入はしなかった」
レグリナが静かな殺気による威圧感を強めながら言った。
ただその威圧だけで、“勘違いで麻痺している”セト以外、怯んで身動きが取れずにいた。
「終わらせるかどうかは、俺様次第だろうが。何だったらお前も纏めて相手してやっても良いぜ?」
セトが両手に魔力を集束し始める。
「私が乱入した時点で試合は終わり、この子の負けだ。それでも続けると言うのか?」
レグリナが眼を細め、警戒を強めながらセトを見据える。
「当然だ。俺様が求めるのは、圧倒的に相手を踏みにじる勝利だ。こんな邪魔されてばかりで終われるかよ!ーーおい、お前ら!」
セトが集束を完了した右手をレグリナに向けて翳すと同時にメンバーに呼びかけ、応じたメンバー達が魔力を集束し始めた。
「・・・後悔するぞ?」
レグリナはいつでも動ける様に体内で魔力を高めながら、威圧する様にワームウッド・チームを目線だけで見渡した。
一触触発ーーまさにそんな言葉が会場全員の頭によぎり、静まり返ったその時ーー
「試合終了‼︎繰り返します。試合終了です‼︎ヴィネ・チームの関係者乱入により勝者ーーセト選手率いるチーム・ワームウッド‼︎」
静寂を破る様に大音量で、実況のモイラの声が響いた。
「ハァ⁉︎ふざけんじゃねぇッ‼︎こんなんで終われるかよ‼︎ーーおい、テメェ何してんだ‼︎」
セトが吐き捨てる様に怒りを顕にし、相対していたレグリナがアリエルとサーシャを支え、転移しようとしているのを見て憤慨する。
「もう試合は終わった。医務室に連れて行く」
レグリナは警戒を怠らずに、転移の準備を進めながら言った。
「どいつもこいつも・・・俺様プランを台無しにしやがって・・・!勝手な事してんじゃねぇッ‼︎」
ーーゴォウウ‼︎
セトは怒りに任せて、両手に集束した魔力を束ねて更に強力にし、レグリナ達に向けて放った。
「・・・‼︎貴様・・・!」
流石のレグリナも、両脇にアリエルとサーシャを支え、他のチーム・メンバー共々纏めて転移する準備をしている最中では咄嗟に防ぐ事は出来なかったが、こう言う事態は予測していた為、【起源顕鎧】の顕現の余波で吹き飛ばす為、力を高めて纏おうとしたがーー
ーーザンッ‼︎
それより先に新たに割り込んだ金髪の少女が、セトの砲撃を十字に斬り裂いた。
「なっ、テメェ⁉︎」
「君は・・・」
割り込んだ金髪の少女が、セトを睨み忌々しげに言う。
「試合は終わりだと言われただろう。自分の予定通りに行かなかったらと言って癇癪を起こし、挙げ句に先の攻撃とは・・・、どこまで貴様は傲慢なんだ?」
金髪の少女【ライラ・S・ミカエル】は、両手に持った純白の長剣と黄金の長剣の内、右手に持つ純白の方の切っ先をセトに向けながら立ちはだかった。
「本当にウゼェな・・・。ハ!試合なんて関係ねぇ‼︎邪魔したお前ら纏めて捻り潰してやるよ‼︎」
セトが再び魔力を集束し始めた。
またも一触触発の事態だったが、直ぐにそれは止められた。
ーーブォォォォウ‼︎
突如、二人の間を裂くように暴風の刃が通り過ぎ、大地を裂いた。
そしてライラとレグリナ側に女性が現れた。
アップに纏めた金髪の女性ーーレクリエーナが胸の下で腕を組みながらフィールドに現れた。
「双方止めろ。試合は既に終わりだ、何度も言わせるな」
現れて早々にそう言い放ったレクリエーナからは、有無を言わさぬ静かな覇気が放たれていた。
だがレクリエーナにさえも、恐れが麻痺したセトは食ってかかる。
「また湧いてきてんじゃねぇよ‼︎俺様がルールだって言ってんだろうが‼︎」
そんなセトに対して、レクリエーナは一切表情を変えずに冷静に言う。
「そこまで身勝手を通そうと言うのなら、貴様の力を示せ小僧。お前の為に特別な試合を組んだ。その相手に勝てたのならばお前の身勝手を許そう。無論、次は強制的に終了はしないと保障しよう。お前のルールで見事勝って見せるがいい」
その言葉にセトはニヤッと笑う。
「へぇ、良いじゃねぇか。ならソイツに勝ったら俺様は好き勝手出来る。テメェらのルールには従わねぇ、それで良いな?」
「ああ良いだろう。勝てれば、な」
「ハ!余裕に決まってんだろうが!良いだろうこの試合は終わってやる。で、試合はいつだ?」
その問いに、レクリエーナは即答する。
「1時間後だ。もし負けた時に消耗していたなどと、言い訳など聞きたくないからな」
「ハン、するかよそんなこと!よし、行くぞお前ら!」
そう言ってセトは、チームを引き連れ自分の控え室に戻って行った。
レクリエーナはそれを見ながら呟く。
「お前如きでは決して勝てぬさ・・・“黒き皇”にはな」
ーー・・・ヴィネ家専用・医務室
「ん・・・・」
頭部を往復する優しい温もりを感じながら、【アリエル・K・ヴィネ】は目を覚ました。
「気が付いたか、アリエル?」
自分の頭を撫でている少女の名を、覚醒間も無い掠れた声でアリエルは呼ぶ。
「姉さん・・・?」
「・・・ああ」
自分を見つめる妹にレグリナは、優しい眼差しで見つめて頭を撫でながら返事をした。
「ここは・・・?」
「家の学園専用医務室だ。・・・すまないアリエル、お前の試合に水を差してしまって・・・」
レグリナは目を伏せ、軽く頭を下げながら謝った。
謝るレグリナに、アリエルは頭をしっかりと覚醒させて、はっきりとした声で言う。
「・・・気にしないで姉さん。もう少しで勝てそうだったから、私も意固地になってた。あの場面で取れなかった時点でリタイアを選択していれば、あんな結果にはならなかった。むしろ姉さんが介入してくれて助かったわ。・・・他の皆は無事?」
「ああ大丈夫、全員無事だ。もう全快しているよ。むしろお前の消耗の方が酷かったくらいだ」
「そっか、良かった・・・」
姉の言葉にアリエルは、安心した。
「・・・・・・勝ちたかったなぁ・・・・」
「アリエル・・・」
安心したアリエルは、医務室の窓からフィールドを眺めて、自分の想いを吐露した。
「まさか相手が、あんな魔力を持っていたなんて予想出来ていなかったし、その後も防戦するのが手一杯でまだまだ鍛錬不足だった・・・」
「仕方無い・・・は慰めにもならんな。だが、奴等のあの過剰な傲慢と自信の源はあの指輪だろうな。アレは見た感じ、奴等の魔力を増幅して王クラスにまで魔力を高めているようだった」
「それでもレギュレーション違反じゃないよね?」
「ああ」
「それでも、向こうが道具を使ったから負けたんじゃ無い。私がまだまだってだけだよ・・・」
「・・・・」
レグリナが外に視線を向け続けるアリエルを見つめていると、アリエルの瞳が潤んで来ていた。
「あんな人には、負けたく・・・なかったな・・・」
アリエルは今まで一部の者達に、優秀な姉と比べられて「駄獅子(ノー・ライオン」ーーいわゆる獅子に相応しくないと言われて蔑まれてきた。
だがアリエルは、そんな自分を卑下して諦める事なく鍛錬を行い、戦術を学び、自分に出来る事を従者や同期と共に自分を高める事を怠らなかった。
この大会は、自分の今までの成果を確認する絶好の機会だった。
その甲斐あってフォートレス・ゴレムを下す事が出来た。
しかし、セトの様に自尊心が強く、相手を蔑み痛ぶって楽しむーーまるで純血主義の様な相手に負けた事が何より悔しかった。
声を押し殺して必死に涙を流すまいとするアリエルを、レグリナは優しく胸に抱き締める。
「大丈夫だ、アリエル。その悔しさを忘れずにいれば・・・お前はもっと強くなれる」
アリエルはレグリナの胸に抱かれ、静かに悔し涙を流した。
ーー・・・医務室・外
「お嬢様・・・申し訳ございません・・・我々が至らぬばかりに・・・!」
医務室の外から様子を伺っていたサーシャ達チーム・メンバーは、アリエルの涙と共に肝心な時に役に立てなかった自分達の情けなさと悔しさを全員が噛み締めていた。
「サーシャ・・・我ら従者は主人についていける様にもっと精進せねばならない。お前もアリエルお嬢様を支えるだけでは無く、主人の窮地を救える程に強くなれ」
「はい・・・姉上・・・!」
サーシャ達と共にいたアーシャも妹にそう言った。
アリエルとサーシャーーどちらも優秀過ぎる姉を持った主人と従者なのだ。
アリエル達が落ち着くのは、“特別な試合”が始まる時だった。
アリエルとサーシャはこの時、もっと強くなろうと深く誓った。
彼女達が覚醒するのは・・・まだ先の事だ。
ーー・・・四節【目醒めぬ白獅子】・終




