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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
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三章ー三節【エキシビション・マッチ(超越戦闘)】

ーー大広間での騒動から、1時間後

カオス・コンバットの会場である複合競技ドーム【リリス・ドーム】は円形の超大型施設であり、観客の動員数は万は余裕で入る程の広さと、位相空間を利用した広大なフィールドを中央に備えている。

そして観客席の上空には、各学園の各クラス事に用意された、数十の巨大なボックス型の控室が空中に乱雑に浮いていた。

会場には既に満員近くの観客が詰めかけており、それぞれ大まかに人界・魔界・天界に別れていた。

特に開催地ともあって魔界の観客が少し多く、また観客席の上には、VIP専用の個室が備えられていた。

そして、大会が始まる。


会場の各所に設置された巨大モニターに二人の女性の姿が映し出され、その内一人の女性が口を開く。

「皆様、長らくお待たせ致しました。只今より、カオス・コンバット学園交流戦を開催させて頂きます‼︎」

その言葉で会場全体より歓声が上がり、否応なしにボルテージが上昇していていく。

歓声が少し静まるのを待って、開催宣言をした女性が口を開く。

「今大会に置いて実況と進行を、この私【モイラ・MA・ロノウェ】が務めさせて頂きます」

深い緑の髪を肩まで伸ばした女性・モイラは一度言葉を切り、会釈してから言葉を続ける。

「そして今回、解説にはこのお方ーーバエル家現当主・デモンズ・ナイン筆頭【レクリエーナ・K・バエル】様‼︎」

『おおおおおおおお‼︎』

その瞬間ーー会場から破れんばかりの歓声が上がり、歓声に応える様に解説席から、白を基調とし金色をさし色にした軍服に身を包み、金髪をアップに纏めた厳格そうな凛々しい美女【レクリエーナ・K・バエル】が立ち上がり、手を挙げてそれに応える。

「まさか、レクリエーナ様のお姿を見られるとは!」

「ああ、なんとお美しいお姿か」

そんな会話が観客のどこかで交わされ、歓声が落ち着いた所でモイラが口を開く。

「さてーーメインプログラムに移る前に、前座と言うのは大変失礼な事ではありますが、名だたる強者四名によるエキシビション・マッチを行わせて頂きます‼︎」

その言葉と共に会場中央のフィールドに、特殊位相空間が展開されそこに造られた超広大な平原が広がり、スタジアム中央に固定された。

ちなみにスタジアムも位相空間を利用している為、外から見れば、大型とは言え都市の一部にある施設にしか見えないが、中の広さは魔界の首都サタナエルの半分以上の広さを誇り、状況に応じて更に拡張が可能となっている。

したがって、設置された平原フィールドも首都の約半分くらいの広さとなる。

「さあフィールドの設置が完了した所で、強者達に登場して頂きましょう。まずはこの方ーー」

その言葉と共に、フィールドの一角に転移魔法陣が展開され、プラチナブロンドの女性が現れる。

「我らが【七罪魔王(セブンス・シン)】の一人、怠惰の冠を頂きし魔王ーー【フィオナ・Sin・ベルフェゴール】様‼︎」

『おおおおおおおおお‼︎』

観客の魔界出身の者達の歓声が上がり、フィオナが手を挙げて応えた。

「続きまして。依頼達成率90%以上、世界最強の女傭兵!“傭兵王”【ジーナ・ファシネイト】殿‼︎」

ピッタリと身体のラインわかるノースリーブで腹部を露出した強化スーツと、紺色のロングコートにスラリと均整のとれたその身を包み、その上からタクティカルベルトを装備した紺色のポニーテールの美女【ジーナ・ファシネイト】がフィールドの一角に現れる。

「あれが伝説の女傭兵・・・“傭兵王”か。凄まじい美貌だな」

「ああ・・・。それに噂では、たった一人で大国の師団と大艦隊相手に完勝したって・・・」

ジーナも軽く手を挙げて、観客の歓声にクールに応えた。

「まさか、この方が参加してくださるとは夢にも思いませんでした!世界の抑止力が一つ。至天統一聖教会を統べる【女教皇(プリエステス)】にして、同教会の最高戦力!”裁きの具現者“の異名を持つ【ディヴェーナ・ディヴァイン】猊下‼︎」

透き通る肌に、プラチナブロンドの美しい髪を足元まで伸ばし、母性を感じさせる蒼い瞳、抜群のスタイルをオーバーコートの様な純白の教皇服に身を包んだ美女【ディヴェーナ・ディヴァイン】が穏やかな笑みを浮かべながらフィールドに現れた。

滅多に生で見ることの出来ない、その姿に観客のボルテージは更に上がっていく。

『オオオオオオオ‼︎』

「あれが教皇猊下か・・・まさに聖母と言う概念を具現化したかの様な御姿・・・!わざわざ天界から来た甲斐があったというもの!」

「噂では聞いていたが・・・謎に包まれた実力を見られるのか・・・」

天界の観客がそう言った。

「そして、最後に紹介致しますのはーー極東の神の系譜にして龍族の頂点たる血脈。日本の“表”の最高神・アマテラスの嫡孫にして、凰月の姫の一人。”黒天の皇“【凰照澪凰(おうしょうみお)】様‼︎】

ディヴェーナの反対側の一角に、銀黒の長い髪を靡かせ、澪凰が現れた。

『オオオオオオオ‼︎』


ーー・・・澪凰の転移前、龍凰学園クラス・アルファ控え室

「いやぁ、すごい面子だ!これは楽しめそうだなぁ!」

空中に浮いたアルファ専用の控え室にて、会場全体を見渡せるガラスに張り付く様にもたれながら、心底嬉しそうな声を上げ、澪凰はフィールドに出現した三人を見ていた。

1時間前に冬華から、エキシビション・マッチに教官陣の誰か一人を参加させると言う話しに、澪凰は真っ先に手を挙げて立候補した。

「さて行ってくるね、零牙!」

『ーーッ⁉︎』

澪凰は部屋に設置された転移陣に向かいながら、その途中で零牙に少し抱きついた。

「あ、ああ・・・力を上げすぎない様にね。澪凰姉さん」

「オリジンを纏っていいのかな?」

「いや、ダメだろ」

「ええ〜・・・」

少し残念そうにしながら、澪凰は後手に手を振りながら転移陣に向かいフィールド上に転移した。

そのすぐ後、澪凰だけズルイと零牙は婚約者達からのハグ責めにあった。


ーー・・・現在・フィールド上

澪凰、ディヴェーナ、ジーナ、フィオナの四名は、フィールドの四方にて、十字の形で澪凰とディヴェーナ、ジーナとフィオナの組み合わせで対峙していた。

澪凰は相対した三人を見据えながら、フィールドに吹く風を感じていた。

「・・・いい風だ。さてーー」

「ええ、まずは名乗りを。ディヴェーナ・ディヴァインと申します。御三方のお噂は耳にしております。手合わせ出来る事、心から光栄に思います」

ディヴェーナが胸に右手を当てて、穏やかな声音でそう言った。

「ジーナ・ファシネイトだ。“傭兵王”などと言われているが、ただのしがない傭兵だ。だが、強者との手合わせは望む所」

ジーナは、低めの凛とした声で淡々とそう言った。

「フィオナ・SIN・ベルフェゴールです。魔王として若輩者ですが、こちらこそ手合わせ出来ることに感謝を」

フィオナは、感謝の意を示しながら言った。

三人の視線が、澪凰に向いた。

澪凰は心底楽しそうに、不敵な笑みを浮かべて三人を見返していた。

そして三人は確信していた。

“この中で一番彼女が強い”という事を。

「凰照澪凰と言う者だ。いやぁ、こんな強者達と死合えるなんて楽しみだよーーっと、死合うのはまずかったね。まあ、それくらいの気持ちで手合わせを、・・・という事でーー始めようか?」

「「「ッ‼︎」」」

ニコニコとしていた表情から一転、澪凰は眼を細め、全てを射抜く様な伶俐な視線で三人を見据え、声音も一段低くなる。

三人は、気を引き締め身構える。

そしてーー澪凰は右手を翳し、言の葉を紡ぐ。

「降臨せよ。・・・其は、黒陽の一振り」

澪凰の上空に裂け目が開き、そこから“黒い太陽”が黒いプロミネンスを迸らせながら、澪凰の眼前に降りて来る。

その際の極高温並びに極低温により、澪凰が立っている場所を残して周囲の地面が瞬時に“融解・氷結”し砕け散り、小規模なクレーターを作り出した。

「全てを極滅せし、黒き太陽の龍刃!」

澪凰は、黒い焔が渦巻く黒い太陽に右手を突っ込み、黒い太陽は“凍てつく”様な黒い焔を撒き散らしながら、大太刀の姿へと収束していく。

その大太刀からは恐ろしい程の濃密な剣気と魔力が放たれ、まるで巨大な“星”が目の前に存在しているかの様な錯覚とプレッシャーを、見る者全てに覚えさせた。

そして、謳うように愛刀の銘を言う。

「抜刀・・・天羽々斬【極皇(きょくおう)】」

漆黒の鞘に納められ、身の丈を超える尺を誇る大太刀が、澪凰の右手に顕現し、澪凰はそれを流れる様な動作で柄を右側に向け、腰背部に差した。

観客の大半は騒然としていた。

何せいきなり太陽の様な黒い球体状の力の塊が、出現したのだから。

「な・・・なんだ、あれ・・・?」

「か、彼女・・・黒き太陽とか言ってたわよね?え?太陽って、あの太陽・・・?」

そして澪凰と対峙し、間近で天羽々斬の顕現の余波を感じた三人は思う。

(成る程、“お母様”から聞いてはいましたが・・・彼女の天羽々斬は、やはりかの“星の龍”を・・・)

とディヴェーナは思い。

(“何千年ぶり”だな、こうして対峙するのは。寧ろ、あの姿の方が更に力を増している感じがする)

とジーナは感慨深いものを感じ。

(あの太刀は明らかに魔剣や聖剣、更には神剣といった物を軽く下に見る程の業物・・・!それを彼女は自らの顕装としているのね。最強の系譜・・・その実力、見極めさせて貰うわ)

とフィオナは表情には出さないが、その大太刀の異常さに驚愕しながらも気を引き締めた。

不意にディヴェーナが、右手を上に向けーー

「【クロス・ジャッジメント】!」

その右手に十字架の形を模した様な、巨大な純白の大剣を呼び出した。

「・・・・・」

ジーナは無言で右手に大型のマシンガンと、左手に刀身の無い剣の柄を呼び出した。

ジーナが左手に呼び出したのは所謂“レーザーブレード”であり、柄の先端の発振部より魔力を圧縮した高密度の魔力刃を発生させる兵装である。

ジーナはブレードの発振部より、長剣並みの長さを誇る緑色の光刃を発生させた。

そして、大型マシンガンと共にレーザーブレードを身体の前で交差する様に構えた。

「いでよ!【光魔剣・フラガラッハ・オリジン】‼︎」

フィオナが前方に向けて翳した右手に、アームガードを備えた幅広い刀身を持つ純白のレイピアが顕現した。

フィオナはそのまま身体の前方で構える。

「なんとも壮観な眺めです!神話に記されし、伝説の剣が勢揃いしています!・・・では開始の合図は、レクリエーナ様にお願いしたいと思います」

「うむ」

モイラに促され、、レクリエーナが立ち上がる。

「これより、エキシビジョン・マッチを開始する。試合形式はバトルロワイヤル。制限時間は一時間。制限時間の超過及び、最後の一人になった時点で終了とする!ーーでは、準備はいいな?」

ディヴェーナ・ジーナ・フィオナの既に得物を構えていた三人は頷き、対峙する相手を見据える。

ーーシュリン

澪凰は鞘から【極皇】を抜いて漆黒の刀身を顕にし、流れる様な流麗な動作で左半身に霞の構えをとった。

「それではーー」

四人が身構え、踏み込む準備をする。

会場が静まりかえり、静寂が支配する。

「ーー始めッ‼︎」


その瞬間ーー四人の姿が掻き消えて、遅れて四人が数瞬までいた地面が抉れ上がる。

そしてーー

ーーギィン‼︎

次の瞬間には、フィールドの中央にて四人の得物が斬り結び合った。

ーードゴォォォォォォォン‼︎

ぶつかり合った衝撃で衝撃波が発生し、交わり合った場所の地面は細切れになり、ブロック状に隆起し、破片が舞い上がった。

四人は一度距離を取った。

ーーダダダダダダダダダダダ‼︎

すかさず、ジーナが右手のマシンガンを乱射し、向かい側の澪凰を狙い撃った。

「フフ・・・」

澪凰は、魔力を圧縮して構成された無数の弾丸を、柱の様に隆起したブロック状の地面を足場にしながら高速で躱し、瞬時にジーナに距離を詰め袈裟がけに斬りかかる。

ーーギィン‼︎

ジーナは澪凰の斬撃を、左手のレーザーブレードで受け止め、二人は鍔迫り合う。

「へえ?天羽々斬を受け止めるなんてね・・・その光剣、かなりの性能だね。それにマシンガンもマガジン弾倉では無く、圧縮形成炉を備えているタイプか。うん。いい装備を持ってるね」

「そう言うお前こそ、かなり手を抜いているな。本来ならば、この剣ごと斬れるだろうに」

「まあ、確かにね。でも、“本当”の得物を出していないのに終わらせてしまうのは勿体無い」

「・・・・成る程、気づいてーーッ‼︎」

「ーーへえ?」

会話の途中、二人は自分達を狙う魔力の高まりに気がつき、そちらに意識を向ける。

彼女達が鍔迫り合いをしている右側から、ディヴェーナとフィオナが合わせた訳では無いが、同時に攻撃を仕掛けようとしていた。

「ーーヘブンズ・コール」

ディヴェーナが左手を天に掲げる様に上げ、そう唱えると十数個の金色の魔法陣が周囲に展開される。

「ーーフレア!」

魔法陣から白い焔の球体が放たれ、それと同時にーー

「ーーフラガラッハ!」

フィオナが、フラガラッハをその場で横薙ぎに一閃し、その描いた斬撃の軌跡から10本の光の帯が放たれた。

十数個の白い焔の球体は、澪凰とジーナに放たれるものの、既に二人は瞬時に飛び退きその場を離れていた。

躱された焔の球体群は、二人が数瞬までいた場所に着弾すると同時に一気に数倍にまでに膨張し、その場にその数だけクレーターを穿った。

「ふふ・・・いいね!“最高位の中では最下級”に位置する聖焔を、此処までの威力にするとはね。ーーッ!」

数瞬までいた地点から飛び退いた澪凰は、隆起したブロック状の地面の上でディヴェーナの方へ向きながらそう言った。

だが澪凰を追う様に、すぐにフィオナが放った10本の光帯の内5本が、曲がりくねりながら高速で向かって来ていた。

澪凰は不敵な笑みを浮かべて、その攻撃を見据える。

「遅すぎる。その程度の速度では、私を捉えーーいや、回避しない方がいいね」

並みの者からすれば、避けにくい様な速度で飛来する光帯も、澪凰からすれば遅すぎた。

その為、直ぐに回避しようとするが”直感”的に感じとったその攻撃の“特性”に気付き、すぐに思い直してその場で迎撃する。

曲がりくねり高速で前方より迫る光の帯は、更にその速度を増しながら澪凰へと襲いかかった。

「その程度の”加速”じゃーー」

ーーザン!

澪凰は、常人では視認が難しい速度と威力になっていた五本の光帯を難なく斬り払い、一太刀で全て斬り落とした。

「ーー私には届かないよ」

「まさか、フラガラッハの特性を一瞬で看破したと言うの・・・⁉︎」

フィオナが冷静に驚愕しながらも、残る五本が向かうジーナを見るとーー

「・・・フ!」

ジーナも、レーザーブレードとマシンガンで瞬時に撃ち落としていた。

(彼女は予想していたけど、“傭兵王”殿もやはり相当な強者ね・・・。フラガラッハの攻撃は光の速度を軽く超える。それを撃ち落とせるのがその証拠・・・“魔神”を出す事になりそうね)

フィオナはそう思いながらも驚愕を直ぐに押し込め、構えをとった。

「ーーッ‼︎」

フィオナから少し離れた所にいたディヴェーナは、澪凰が瞬時に消えた事に気づいた。

次の瞬間には、ディヴェーナの目の前に澪凰が【極皇】を上段から振り下ろしながら現れ、唐竹に斬撃を繰り出した。

ディヴェーナも瞬時にそれに反応し、十字架を模した大剣である【クロス・ジャッジメント】で迎え撃った。

ーーギィン!ーーギィン!ーーギィン‼︎

常人には霞すら捉えられない速度で斬り結ぶ澪凰とディヴェーナ。

大半の観客には、遅れて到達する金属音と二人が斬り結んで一瞬止まる以外には、その余波によりフィールドが破壊されていく様しか見えていなかった。

12合、13合、14合、15合と斬り結んだ後、彼女達はフィールドの一角にて鍔迫り合う。

「流石ですね、澪凰さん。力を十分の一すら出していない状態で、これ程の速度と剣戟とは!」

「フフ、そちらこそ。流石は音に聞こえし【女教皇(プリエステス)】。教会最高戦力は伊達では無いね。でもーー」

ーーギィン‼︎

澪凰が大剣を弾くと、そのままその場で二人は高速で斬り結び、互い剣閃より発せられる刃風が周囲の地面を斬り刻んでいった。

ーーギギギギギギギギギギィン‼︎

その場で十合程斬り結んだ二人は再び鍔迫り合い、澪凰がディヴェーナの大剣を見ながら言う。

「それ、大剣じゃ無いよね?いつまでその“【大剣(外装)】”で、戦うつもりなのかな?」

「やはり、気づかれましたか・・・。貴女程の実力者相手に隠し通せるとは思いませんでしたが・・・・・戦闘狂の質がある貴女が、未だに力を抑えているのはやはり・・・?」

「まあ、それはね。そもそも私以外、未だに“本当の得物”を出していないこんな状況じゃこっちも抑えるしか無いよね?」

「・・・・・・」

ディヴェーナは大剣を“解放”するか鍔迫り合う最中に考え、返答を返さない。

一瞬の逡巡、だが決して油断無く刃を交える澪凰を見据える。

ーーギィン‼︎

二人は刃を弾き合い、大きく距離を取った。

「フフ・・・」

澪凰は全力では無いものの、“本物”の強者との戦いは歓喜に震え、不敵な笑みを浮かべっぱなしだった。

フィオナとジーナも交戦中であったが、澪凰達とほぼ同時に距離とっていた。

(さて・・・次は怠惰の魔王に仕掛けようか)

澪凰はフィオナへと距離を詰めようと、脚に力を込める。

しかしこの時、意図も示し合わせも全くせずにディヴェーナ、フィオナ、ジーナの三人は澪凰に向けて、同時に牽制の攻撃を放っていた。

ディヴェーナの聖焔、フィオナのフラガラッハからの魔力光帯、ジーナのマシンガンによる射撃が既に澪凰に向かって来ていた。

「・・・ッ‼︎」

澪凰は、三人の攻撃に対して瞬時に防御態勢をとり、【極皇】の漆黒の刀身で防いだ。

しかし攻撃の勢いまで完全に殺し切れず、後方へと大きく吹き飛ばされた。

その様を見ていた実況のモイラが言う。

「おおっとぉ⁉︎凰照様が、御三方の同時攻撃を防御するが、強力な一撃に耐えられずに吹き飛ばされたぁ‼︎」

ーーズザザァ

澪凰は、空中で体勢を立て直し地面へと着地しながら後退り、その場に膝をついて逆手に【極皇】を持って地面に突き立てた。

「・・・・・・・」

澪凰は立ちあがろうとはせずに、黙っていた。

“笑みの浮かぶ”口元以外は、美しい銀黒の髪に隠れ表情は窺い知れなかった。

「これは、流石の凰照様もダメージが大きかったのか、膝をついて沈黙しております‼︎」

実況のモイラが“勘違い”してそう言った。

しかし相対する三人は、澪凰の不気味な沈黙を見て同じ事を思った。

(((いや、違う・・・!)))


ーークラス・アルファ控え室

沈黙の意味を、零牙達はもちろん知っている。

「澪凰姉さん、止まらなくなるな」

零牙がそう言うと、側で観戦していた龍姫が頷いて言う。

「ええ、本当ならもう少し相手の力を把握してからのつもりだったでしょうけど、他の三人が“本当の得物”では無いと分かってしまった・・・。故に、無理矢理にでも出させるつもりですね」

「澪凰姉さん、まさか【起源顕鎧(オリジン・メイル)】も出すつもりじゃ・・・?」

黒髪に指を絡めながら、刹那がそう口にした。

「それは無いんじゃ無いかしら?ただでさえ、極滅の黒焔と剣閃だけでも、桁違いの戦闘能力を持つ澪凰姉さんよ?あくまでも試合で、殺すのでは無いのだから流石に・・・」

同じ焔の系統の最高位の一つたる滅焔を持つ織火が、少し自信なさげにそう言った。

此処にいる全員が澪凰の力である極滅の黒焔ーー即ち、黒き太陽の力そのもので有る”権能“と”能力“が、どれほど異常かつ強大な力である事を分かっていた。

加えて、剣聖の域を既に遥か下に見る程の剣の腕。

この二つのスペックだけでも、並みの最高神クラスをも軽く凌駕するのでは無いかと言われているのだ。

そこに龍の【起源顕鎧(オリジン・メイル)】まで加えると、澪凰と相対する三人の強者達を軽んじるつもりは無いが、オーバーパワーが過ぎると言うものだ。

『・・・・・・』

全員、沈黙する。

此処にいる比較的新参と言えるアリシアやモルガンとスカアハの婚約者組、従者であるクレアとエレインも含め、全員が澪凰の戦いの際の性格を知っている。

ーー手加減が非常に苦手かつ戦闘狂

だから皆、確実に出さないとは言えない。

ましてや、澪凰のこの沈黙はーー


ーー・・・コントロール・ルーム

会場全体を眺める強化ガラス兼モニターを有する、コントロールルームにて、魔王であるテオと各学園の主任教官が集い観戦していた。

そしてもちろん冬華も、護衛であり同じく零牙の婚約者の一人であるファントムと共にこの場で観戦していた。

澪凰の沈黙を、壁に腕を組みながら寄りかかるファントムと、その近くで豊満な胸の下で腕を組んでいる冬華は言う。

「澪凰の奴・・・」

「ああ、そうだな・・・」

その二人の言葉の意味を、テオは聞く。

「彼女が何か・・・?」

「ん?ああーースイッチが入った」

冬華は、澪凰に視線を向けたまま言った。

「・・・!」

テオもその言葉に、澪凰に視線を向けた。

(スイッチ・・・力を高める気なのか。ならばあの沈黙は、嵐の前の静けさと言った所か・・・)

テオがそう思っていると、おもむろに冬華が声をかける。

「ところで。侮るつもりなど無いし、強者だと言う事は分かっているが・・・彼女ーーフィオナ殿は、あれが本気という訳では無いのだろう?」

「ああ、それは勿論。彼女も私と同じく【魔王(SIN)】の名を受け継ぐ者。自惚れるつもりは無いが、相応の実力は備えている」

「なら、今すぐに力を出した方が良い。そうでなければーーすぐに終わる」

「・・・ッ!」

冬華のそう言葉が終わったと同時に、澪凰の周囲の空間が、空気と共に収縮していった。


ーー・・・戦闘フィールド

『・・・・・・・』

三人は、警戒を最大限にして身構えていた。

澪凰の周囲の空間が、歪みながら収縮している。

誤差とも錯覚とも言える様な歪みなのだが、確かに収縮していた。

実況のモイラが言う。

「や、やはり凰照様は、ダメージが大きかったのでしょうか?沈黙したままですが・・・」

レクリエーナが少し楽しげな声音で言う。

「いや、そうでは無いよ」

「と、言いますと?」

「ここからが“本番”、と言う事だ」

レクリエーナは澪凰を見ながら言い、そして思う。

(さあ、黒き天照の力・・・見せて貰おう)


澪凰は変わらず沈黙し膝をついて、逆手で漆黒の大太刀を地面に突き立てたままだった。

沈黙したままだった澪凰が、語る様に呟く。

「・・・・・・・フフフ・・・【傭兵王】、【女教皇(プリエステス】、そして刃をきちんと合わせた訳では無いが【怠惰の魔王】・・・・・・。いいね・・・!確かに実力者達だ・・・・!でもーー」

澪凰がゆっくりと地面から【極皇】を抜いて、立ち上がる。

周囲の空間の収縮は無くなっている。

「やはり、“本来の得物”で戦わないのはいただけないなぁ・・・?でも、まあそれなら・・・ーー力を上げても良さそうだ」

『・・・ッ⁉︎』

空間そのものが震え始める。

ーーゴォウウ‼︎

一瞬にして、澪凰の剣気と魔力が膨れ上がり研ぎ澄まされていき、澪凰の輪郭は美しくも玲瓏な黒を帯びる。

そして澪凰の周囲の地面が足元だけを残し、力を高めた余波でクレーターが出来てひび割れ、カケラが浮かび上がる。

更に彼女の周囲は、澪凰の“力”の影響によりクレーターを更に広げ、それらの舞い上がるカケラは、“凍結し融解“して消滅していく。

そして、フィールド・会場の両方を澪凰の膨大過ぎる“剣気と魔力”による重圧が包み込む。

更にーー

ーーズンッ・・・

そこにもう一つ重圧がプラスされた。

「ーーッ!このプレッシャー・・・!」

「これは龍の気配か・・・!」

「この感じ・・・大部屋の!」

ディヴェーナ、ジーナ、フィオナがそれぞれ言った。

澪凰が俯き加減だった視線を三人に向けた。

そして、“眼”が向けられる。

微笑を浮かべている澪凰の瞳は、“龍眼”となっており、淡く白銀色に輝いている。

だがその眼の力は、その美しい輝きに見惚れる暇などない程に強力無比なものだ。

眼が完全に【龍眼】へと変わった瞬間、心臓を巨大な龍の爪で鷲掴みにされる様なプレッシャーがフィールドを支配し、常に“視られている”感覚が増大する。

ーースゥ・・・チャキ

澪凰は優美な立ち姿で、流れる様に霞の構えを取った。

【極皇】の漆黒の刀身にも、澪凰と同じ玲瓏なる黒色の剣気と魔力を帯びていた。

「さて・・・本当の得物を出すか、それかもう少し本気を出した方が良い。さもなくば・・・・一瞬で終わるよ?」

『・・・ッ!』

その言葉と共に三人に向けられた剣気は、凄まじく濃密かつ刃の如き鋭さを持ち、三人が実戦経験豊富かつ並外れた実力者であるから耐えられるものの、並みの者が当てられれば、ただそれだけで戦意もしくは意識すら喪失するものだった。

澪凰の“気”に当てられたのか、会場全体は静寂に包まれていた。

フィールドも一瞬の静寂が支配する。

澪凰と相対する三人は、予感していた。

(((来る・・・!)))

澪凰が口を開く。

「ーー【四の太刀・龍閃抱翼】」

その瞬間ーー澪凰の姿が音も無く掻き消え、澪凰が立っていた地面が遅れて捲り上がった。

次の瞬間には、三人を取り囲む様に全方位からドーム状に数十以上の銀黒の斬撃波が、”全くの同時に“放たれていた。

放たれた斬撃は、三人に襲い掛かる。

「・・・くっ⁉︎」

「チィ・・・!」

「・・・ッ!」

向かってきた嵐の様な斬撃波を、三人はそれぞれ得物で防御し、受け流す。

ーードドドドドドドドォォォォン‼︎

三人に当たらなかったもの、または三人が受け流したものは周囲に着刃し、ズタズタに地面を斬り刻んでいった。

「彼女は何処に・・・⁈」

防ぎきったディヴェーナが、素早く気配を探る。

「・・・ッ!上だ‼︎」

ディヴェーナが感知するより先に、ジーナが弾かれる様に上を見据え、声を上げた。

「ふふ・・・・!」

その声で、ディヴェーナとフィオナが見上げると、澪凰が大上段から【極皇】を振りかぶりながら、急降下していた。

ーーギィン‼︎

「くっ・・・!」

澪凰は一番近くにいたディヴェーナに斬撃を浴びせるが、ディヴェーナはそれを大剣で防御する。

しかし、力を上げる前と比べて数倍以上の鋭さと重さを兼ね備えた斬撃の威力を殺し切れずに、ディヴェーナはそのまま後退る。

「フフ・・・ーーッ!」

澪凰はそのままディヴェーナを追撃しようとするが、背後から仕掛けてきたフィオナに応戦する。

ーーギィン‼︎

フィオナが細い剣身を持つ【フラガラッハ・オリジン】で繰り出した高速の刺突を、澪凰は即座に反応し、振り向きざまに斬り払って弾いた。

「・・・ハァァァッ‼︎」

弾かれたフィオナが、すかさず体勢を整えて、高速の刺突を連発して繰り出した。

「いいね、なかなかだ・・!」

澪凰はフラガラッハの剣身が、五つ以上に見える程の高速で繰り出される刺突を苦もなく防ぎ、弾き、躱し、捌いていく。

(こう防がれていては、フラガラッハの能力は最大限に活かせない・・・!恐らく最初の攻撃で、この剣の能力は彼女に看破されている・・・!)

フィオナは、左手に持つ大太刀では防ぐ事が難しい位置に絞って攻撃を仕掛けていたが、澪凰は最小限の防御と回避によって、フィオナの攻撃を完全に潰していた。

更に澪凰は、フィオナの推測通りにフラガラッハの最初の攻撃を視て、その能力を完全に見切っていた。

ーーギィン!

刺突の一瞬の間に合わせて、澪凰が【極皇】を横薙ぎに振るい、二人は鍔迫り合う。

「気づいているとは思うけど、貴女のフラガラッハの能力を私は既に見切った」

漆黒の刃越しに、澪凰はフィオナに言った。

「・・・ッ!」

フィオナはやはりと言う感じで息を呑む。

「だから、もう“魔神”を出すしか無いと思うんだけどなぁ?それに貴女の本来の戦闘スタイルは、魔神との連携だよね?」

「ええ、貴女の言う通りよ。でも・・・」

目の前の彼女が強いとは言え、魔神を出す事にフィオナは躊躇いがあった。

怠惰の魔王の【起源顕鎧(オリジン・メイル)】と共に受け継いだ魔鎧。

それは、機械生命体ーーマキナの上位存在とも言うべき意志を持つ鎧だった。

「ふぅん・・・・・なるほどね。躊躇う程に強力なのか、それとも危険なのか。まあどちらにせよ、引き摺り出すまでの事・・・!」

ーーギィン‼︎

「ぐ・・・⁉︎」

澪凰が言い終わるとは同時に力を込め、フィオナを大きく後方へと弾いた。

ーーダダダダダダダダダダダ‼︎

「フフ・・・ーーッ!」

フィオナを弾いた直後の澪凰に、ジーナから無数の弾丸が放たれる。

ーーキキキキキキキキキン!

澪凰は放たれた弾丸を、【極皇】を高速で振るい斬り落とした。

そしてある程度弾丸を斬り落とすと、ジーナがまだ澪凰に向けて射撃中にも関わらずに、すかさず踏み込んで瞬時に残像も残さぬ機動力で距離を詰め、【極皇】で袈裟懸けに一閃しーー

ーーザン!

「・・・・ッ!射撃中に仕掛けてくるか・・・!」

ジーナのマシンガンを両断した。

ジーナはすかさず、懐に飛び込んできた澪凰に応戦し、左手のレーザーブレードで斬りかかる。

しかしーー

「甘い・・・!」

ーーザン!

振り下ろした状態から、瞬時に返す刀でレーザーの発振基部を斬りあげて両断した。

「精密な剣捌き・・・・流石だな。ならばーー」

使い物にならなくなったレーザーブレードを手放しながらそう言い、ジーナは右手に魔力を圧縮し攻撃魔術を澪凰に放とうする。

それと同時に、ディヴェーナとフィオナがそれぞれ澪凰の斜め背後から同時に斬りかかっていた。

それを【龍眼】で視認する事なく詳細に把握した澪凰はフッと笑みを浮かべ、大太刀を地面と並行にバックハンドに構える。

「ーー【五の太刀・嵐龍旋尾】」

澪凰がそう言った瞬間ーーその場で反時計周りに高速で一回転して【極皇】を振るい、回転斬りを放った。

ーーゴォウウ‼︎

「「「・・・ぐっ⁉︎」」」

その斬撃により、無数の斬撃波が周囲に撒き散らされ、暴風の如き刃風が乱舞し、三人を勢いよく吹き飛ばした。

三人は飛ばされた場所で体勢を立て直し、地面に着地して後ずさった。

澪凰は振り抜いた体勢からゆっくりと大太刀を下ろし、余裕の表情で警戒しながら三人を見据える。

そして次の瞬間には再び姿が掻き消えて、【四の太刀・龍閃包翼】の全方位同時斬撃波が三人を襲う。

ここまでの戦いを見ていた観客の一人が唖然として呟く。

「・・・これ、バトルロワイヤル・・・だよな?」

「あ、ああ、強すぎるだろ・・・。もう三対一じゃねえか・・・」


ーー・・・VIP専用観覧席

VIP専用に設けられた部屋型の観覧席の一つ。

そこには、天界の関係者が“七人”集まっていた。

「おいおい・・・凄えな、あの娘」

足を組んで用意された椅子に座り、そう感心する様に言ったのは、紅蓮の如き長い髪をした赤目と、赤い軍服を豊満な胸元を開ける様に着崩した長身の美女、七大天使の一人である【アシュレイ・S・ウリエル】。彼女は、現ウリエルにして熾天使の位に就く女性である。

「ああ、流石はアマテラス様の孫娘と言った所か。剣も気も魔力も、全てが練り上げられている。しかも、まだ本気では無いな・・・」

そう言ったのは同じく椅子に座り観戦している、スレンダーなスラリとしたスタイルを白い軍服に身を包む、輝く様な長い金髪と碧眼をした凛とした印象の美女。

【ルーネリア・S・ミカエル】、アシュレイと同じく熾天使の位につく現ミカエルであり、七大天使の筆頭を務める女性である。

そして、ルーネリアの言葉に答える様に口を開いたのはーー

「当然よ。あの娘はまだ半分も力を出していないわよ?」

いつの間にか部屋に入ってきていた、銀髪の美女がそう言った。

その声の主に七大天使達は、座席から振り向く。

「ルーーいや、イブリス」

その銀髪の美女の名をルーネリアが呼ぶ。

銀髪の美女【宵月イブリス】は、何処からともなく椅子を呼び出して、ルーネリアの隣に座った。

「久しぶりね、皆」

「おう」

「お元気そうで何よりです」

「はい」

イブリスの挨拶に七大天使達は、それぞれ応えた。

「と言うか、相変わらず似合わないな。その丁寧口調」

アシュレイが両手を伸びをする様に頭の後ろで組みながらイブリスに言った。

「あら?板についてきたと思うのだけれど?」

「いやいや。お前の本当の口調を知ってる身としては、違和感を感じんだよ。なあ、ルーネリア?」

「・・・まあ、そうだな」

ルーネリアは躊躇いがちにそう言った。

「ふふ、まあいいでしょ?私はまだ“イブリス”を名乗っているのだから一応、ね?」

事情を知っているアシュレイはそれ以上深掘りしようとはせずに、ルーネリアが話題を変える。

「それで、イブリス?お前も“娘達”の応援か?」

「ええ、勿論。でも、“あの子”は“槍”を出すことに躊躇っている様ね」

イブリスは、フィールドの戦闘中の四人を見ながら言った。

「まあ、あの槍は【超魔導兵装】だからな。【取り残されし(ディフィーテッド)】相手じゃ無いからじゃないか?」

「だとしても、彼女のあの漆黒の大太刀。天羽々斬と渡り合うには、躊躇っている場合では無いと思うが?このままでは教会最高戦力の名折れになるぞ?」

アシュレイとルーネリアがそう言った。

二人のその言葉にイブリスはクスリと微笑を漏らしてから言う。

「大丈夫よ、あの子もそれは理解してる。それにほら、もう決めたみたいよ」

イブリスの視線の先ーーディヴェーナは力を解き放とうとしていた。


ーー・・・フィールド

崩壊し尽くしたフィールドの中央にて三人と相対する澪凰は、ディヴェーナが大剣をスッと天に切っ先を向ける様に掲げたのを見て、その意図を察する。

「へぇ・・・ようやくその気になった様だね?」

「ええ。異名に拘るつもりはありませんが、教会最高戦力の名折れですからね。それに・・・このまま圧倒されっぱなしは、性ではありませんので」

ディヴェーナがそう言うと、ジーナが口を開く。

「確かに、私もそれは同意だな。それに私も何処かお前たちを侮っていた様だ。フ・・・やれやれ。目の前に力を示した強者がいると言うのに、少し躊躇いが過ぎたな・・・」

ジーナが自嘲気味にそう言うと、フィオナが口を開く。

「私も同じね。魔王という立場上、簡単に本気を出すと“外野”が煩くて面倒だから自重していたけど・・・そもそもこれはエキシビション・マッチ。そんな事を気にするだけ無駄と言うものね」

澪凰がニコリと笑みを浮かべながらい言う。

「フフ・・・その通り、無粋と言うものさ」

そして、数瞬の静寂が流れーー

ーーゴォウウ‼︎

静寂を破る様に三人の魔力が、一瞬にして暴風の様に高まり荒れ狂い、周囲の地面がその余波で崩壊していく。

まずはディヴェーナが、本来の得物を解き放つ。

「バインド・リリース・・・」

十字架を模した形の大剣が、ガチャガチャと数十のパーツに分解されていき、やがて内部から黄金の鎖によってがんじがらめになった長物が姿を現す。

「界敵を穿ち、神をも穿つ聖槍よ。顕現し、その威を示せ‼︎」

ーージャララララララ!」

黄金の鎖がディヴェーナの周囲を旋回する様に、解き放たれていき、やがて純白の美しい槍が姿を顕す。

「ーー現出せよ、【ロンギヌス・オリジン】」

完全に顕になった世界的に有名な聖槍は、高周波の様な聖なる波動を撒き散らしながら、神々しく顕現していた。

その神々しさにディヴェーナの部下である教会関係者と一部の天族達は祈りを捧げる様に、敬意を示し見つめている。

聖なる波動を苦手と“している”魔族達でさえも、美しい純白の槍に見惚れていた。

ただこの槍は、知られている聖槍よりも“オリジナル”の物だ。

ディヴェーナが【ロンギヌス・オリジン】を右手で掴むと更に波動が強くなり、その余波で周囲の地面が捲り上がる。

ディヴェーナは【ロンギヌス・オリジン】を構えながら波動を抑えて他の三人を見据える。

次にジーナが、本来の得物を呼び出す。

彼女の右側の空間が波紋の様に歪み、ジーナはそこへ右手を突っ込んだ。

「来たれ、宙の理を集束せし槍よ」

ジーナがゆっくりと歪みより右手を引き抜くと、煌めく様な蒼い石突きと長大な柄が顕になっていく。

「崩壊の光を放ち、界敵の全てを撃ち穿たん‼︎」

ジーナは完全に歪みより槍を引き抜いた。

その槍は背丈を超える長大な柄を持つが、最大の特徴は、“穂がレールガンの様な開放型バレル“になっており、その砲身を覆う様にして白銀の刃が備わっていた。

そして穂の根元には蒼い宝玉が埋め込まれており、その宝玉の内部は煌めく粒子が渦巻いていた。

ジーナはその槍を右手だけで保持して、下段に構えた。

「ーー降臨せよ、【ブリューナク・オリジン】」

穂が砲身となっている他に類を見ない蒼い槍、この槍こそがジーナの本当の得物である【ブリューナク・オリジン】、太陽神ルーが持つと言われていた伝説の槍。

しかしこの槍も、“オリジナル”と言える代物である。

「まさか⁉︎此処に来て伝説に謳われる槍が二本も登場だぁーー‼︎」

実況が興奮した様に言うが、フィールドの四人には聴こえていない。

「神話の槍・・・この気、やはり凄まじいわね。流石、オリジンの名を冠するオリジナル・・・。では私もーー」

そう言うとフィオナは地面に向けて左手を翳した。

「出でよ、銀なる無双の魔神よ!」

フィオナの背後の足下の地面に魔法陣が出現し、歪に歪んだ一対の大角を持つ狼の様な頭部に、銀色の装甲を持つ巨大な魔神が、魔法陣よりせり上がりながら顕現していく。

「その白銀の巨椀を持って、仇なす界敵を薙ぎ払え‼︎」

魔神が紅い眼に光を瞬かせながら“起動”し、フィオナと相対する三人を見据える。

「ーー轟臨せよ、【アガートラム・オリジン】‼︎」

ーーグオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎

銀色の装甲に紅いエネルギーラインが流れ、完全に起動した魔神が、天に向かって獣の如く咆哮した。

【アガートラム・オリジン】ーー

巨大な体躯を持つ4メートル程の“上半身”だけの銀色の魔神。

下半身に当たる部分は、絶え間無く魔力を噴出する高出力スラスターの役目を果たし、躯体は常時滞空しており、滑る様に高速で移動する。

頭部は、一対の歪な大角を持つ獰猛な狼の頭部を模しており、口腔内には砲口を備えている。

銀色の装甲には紅いエネルギーラインが走り、胸部の宝玉から生み出される莫大な魔力を制御し、瞬時に各部に伝達する役目を担っている。

そして巨大な椀部には鋭い鉤爪を備え、様々な機能を内包したガントレットを装備している。

ーーグルルル・・・!

アガートラムが唸り声を漏らしながら、三人を見据える。

その視線は獲物を狙う狩人の様に、冷徹な殺気を纏っていた。

フィオナはアガートラムと共に改めて構え直し、三人と相対した。

ディヴェーナ、ジーナ、フィオナは魔力を研ぎ澄ませながら戦闘態勢を整えた。

先程とは比べ物にならない程の三人の魔力による影響によって、フィールドの地面にヒビが入り、破片が浮き上がる。

「フフフフ・・・・いいね!これは、楽しめそうだ・・・!私ももう一段、力を上げても良さそうだ・・・」

ーーゴォウウ‼︎

澪凰は好戦的笑みを口元に浮かべながら、魔力と剣気を更に一段階上に上げて鋭く研ぎ澄ませ、自身の輪郭と【極皇】の漆黒の刀身に、紅と蒼が入り混じる黒い剣気を纏った。

そしてスッと流れる様に、左半身に霞の構えをとった。

ジーナが澪凰に、ブリューナクの穂先を向ける。

ーーシュウウゥ・・・・

ブリューナクの砲身に、宝玉より生み出される莫大な粒子が、真球状態へと収縮し圧縮されていく。

「へえ・・・・?」

澪凰はそれを確認しながらも、あえて動かずに砲撃の時を待った。

ブリューナクの砲身に集束していく膨大な力の塊から余剰粒子が紫電となって迸り、ジーナの周囲を乱舞してフィールドを破壊する。

やがて紫電が収まると、目標である澪凰があえて受け止めようとしている事に気付いているジーナが呟く。

「ーー良いだろう、受け止めてみるが良い。原子分解を引き起こす、破滅の光を」

ブリューナク砲身に真球状態に集束した膨大な粒子が、“強力な電圧”をかけられ“加速”し、真球状態から爆ぜる。

「ーー穿て」

ーードゴォォォォォォォォ‼︎

開放された粒子は、亜光速まで加速されたビーム状となって放たれた。

蒼い粒子ビームは、進行方向の全てを濁流で洗い流すかの如く地面を抉り、対策の出来ないオブジェクトを原子分解して消滅させていく。

「フフ・・・さあ、試させてもらおうか?」

ーーギィン‼︎

澪凰は蒼い荷電粒子ビームを霞の構えのまま、真っ向から刀身で受け止めた。

ーードドドドドドドド‼︎

刀身で受け止められた粒子ビームが、周囲にビームを拡散させながら【極皇】と迫り合う。

蒼い粒子ビームより拡散するビームは、辺り一面に小さなクレーターを穿っていく。

「成る程、やはりこれは・・・」

そう言って澪凰は、粒子ビームと迫り合うのをやめて、後方へと受け流した。

ーードォォォォォォォン‼︎

受け流され、後方で着弾した粒子ビームはドーム状の巨大な爆発を引き起こし、地面を原子分解しながら大規模なクレーターを穿った。

澪凰はそれをチラリと、横目で振り返りながら見ながら呟く。

「・・・やはり、“荷電粒子砲”だったか」



ーー・・・クラスゼータ・控え室

「荷電粒子砲・・・‼︎」

クラス・ゼータの一員である黒髪の少年【大和】は驚愕の声を上げて、フィールドを見ていた。

「な、長門姉、あれって⁉︎」

「ああ、まごう事なく荷電粒子砲だ。だが、我々の【戦争顕鎧(ウォー・クラフティ・メイル)】に装備されている物よりも威力が桁違いだ。恐らくあれは、通常装備されている物よりも・・・大和、お前の纏う様なプロトタイプに装備されている物が一番・・・いやもっと言うならば、あれは荷電粒子砲の“祖であり完成形”とも言うべき物だろうな」

長門は、大和とは冷静に分析していた。

「完成形・・・」

「ああ、そうだ。その証拠にあの槍は粒子チャージの際に周囲に存在する粒子では無く、埋め込まれたあの宝玉から粒子が供給されていた。恐らくあの宝玉は、適切な粒子を生成するジェネレーターなのだろうな。その事実だけでもあの槍が、ロストテクノロジーの産物である事の証左だ。技術者連中が喉から手が出るほど欲しい代物だな」

フィールドでは、通常の荷電粒子砲の性能ではあり得ない程の連射速度で蒼い粒子ビームが乱舞していた。


ーー・・・フィールド

ジーナは三人に向けて、“調整”した荷電粒子砲を連射していた。

先程の照射ビームよりは威力は遥かに劣るが、それでも通常の荷電粒子砲よりも遥かに高い連射性能と、小規模なクレーターを穿つ程の威力を誇っていた。

ジーナは高速で移動しながら、【ブリューナク・オリジン】から蒼い粒子ビームを雨あられと連射していた。

降り注ぐ粒子ビームを三人は一様に防ぎ、弾き、回避する。

「この出力で、この威力・・・!ーーですが!」

ディヴェーナは【ロンギヌス・オリジン】を振るい、光の波動を壁の様に立ち昇る様に放出して薙ぎ払った。

「アガートラム!」

「ーー承知・・・」

フィオナは【フラガラッハ・オリジン】から誘導ビームを連射し、降り注ぐ粒子ビームにぶつけて相殺しながらアガートラムに命じる。

そしてその背後にて、銀色の魔神【アガートラム・オリジン】がフィオナに応じて巨大な腕部と体躯で、フィオナが相殺し切れなかった粒子ビームを防御した。

「フフフ・・・・成る程、流石の性能だ」

澪凰は余裕の笑みを浮かべながら、姿がその場でブレる様な高速機動で大まかに回避した後、【極皇】を横薙ぎに一閃し、自身に降り注ぐ粒子ビームの大半を斬り伏せ霧散させる。

澪凰は、空中から撃ち下ろしていたジーナの真上へと瞬時に移動し、【極皇】を振り上げる。

「遠距離性能は流石の一言。近接ではどうかな?」

「ーーッ!」

ジーナは荷電粒子砲の連射を止めて、【ブリューナク・オリジン】の穂先を澪凰に向けて迎え撃つ。

「フフ・・・」

澪凰はそれを確認すると同時に【極皇】を振り下ろした。

ーーギィン‼︎

澪凰の【極皇】の漆黒の刀身と、ジーナの【ブリューナク・オリジン】の蒼い穂先がぶつかり合い凄まじい衝撃波が生まれ、周囲の空気と舞い上がった塵を消しとばし空間を震わせる。

「いいね!天羽々斬と刃を合わせられるとは、近接性能も申し分無い・・・!」

「やれやれ・・・よく言う。“まだ半分以下も力を出していない”癖に・・・」

そう会話しながら、二人は高速で斬り結ぶ。

一合毎に刃を合わせる度、凄まじい力の余波が一帯を吹き飛ばす。

共に神話に謳われる天羽々斬とブリューナクの激突は、周囲の環境を簡単に一変させる力を共に有していた。

だが、所有者である澪凰とジーナの二人はまだ“全力”では無い。

特に澪凰が“別の意味での本気”であれば、この会場を含めた首都の一角はとっくに焦土と化していただろう。

澪凰とジーナが空中で目にも止まらぬ速度で斬り結んでいる時、ディヴェーナとフィオナの戦闘も激化していた。

フィオナがフラガラッハを横薙ぎに振るい、誘導光帯を十数本ディヴェーナに放つ。

ひとつひとつがランダムな軌道を描き、更に加速しながらディヴェーナに襲いかかる。

そして光帯がディヴェーナに殺到すると同時に、フィオナを守る様に背後で相対する相手を見据えていた【アガートラム・オリジン】が飛び出した。

「・・・ッ!」

それに気づいたディヴェーナはまず、フラガラッハの攻撃に対応する。

(フラガラッハの能力は“加速”。対象に当たるまで誘導し、当たらなければ加速度的に威力・速度・密度を増幅していく・・・いわば、遠距離特化型の魔剣。であればーー)

ディヴェーナは、迫る十数本の光帯に自ら距離を詰めた。

そして当たる直前に、【ロンギヌス・オリジン】を斬り上げて光の波動を立ち昇らせ壁を作り、光帯を全て防いだ。

その直後、距離を詰めていた銀色の魔神【アガートラム・オリジン】がディヴェーナの右側面に回り込み、振りかぶっていた巨大な右腕部をハンマーの様に振り下ろした。

ディヴェーナは後ろに跳躍し、アガートラムの攻撃を躱す。

ーードォォォォン‼︎

躱されたアガートラムの右拳は、地面を砕き隆起させ陥没させた。

そしてアガートラムは、後退したディヴェーナを追う様に左腕を向け、巨大なガントレットから小口径の砲塔を展開した。

小口径と言えどアガートラムの巨体から見ての小口径故、展開された砲塔は軍事用戦艦に搭載されている様な機関砲並みの口径だ。

ーーガガガガガガガガガ‼︎

アガートラムが展開した砲塔から、無数の紅い圧縮粒子弾が放たれた。

ディヴェーナは、殺到する粒子弾をロンギヌスを前方で高速回転させて防ぎ、弾いた。

弾かれた粒子弾は、着弾地点にて榴弾の様に爆ぜた。

アガートラムの砲撃を右手で回転させているロンギヌスで防ぎながら、空いている左手で術式を起動し、自身の上方に巨大な魔法陣を展開した。

ーーキュイイ・・・

魔法陣が輝きながら込められた魔力を集束し、魔法陣の正面がフィオナとアガートラムに向けられる。

「ーー【裁きの聖柱(ジャッジメント・ピラー)】」

魔法陣より巨大な光の波動で構成された円柱が放たれ、フィオナとアガートラムを呑み込まんとする。

「アガートラム!」

フィオナの鋭い一声で、即座にアガートラムがフィオナを庇う様に正面に立ちはだかり、両腕をクロスさせて粒子障壁を展開して防御態勢をとった。

ーーゴォォォォウ‼︎

ディヴェーナが放った光の柱は、アガートラムの展開した障壁に堰き止められる。だがーー

ーーバキン・・・

強大な威力を誇る光の柱を食い止めるアガートラムの障壁に、食い止めて間も無くヒビが入った。

「くッ・・・!やはりこの柱は、ロンギヌスの能力で・・・!」

アガートラムが防御態勢に移行したため、砲撃から解放されたディヴェーナが瞬時にアガートラムの懐へ間合いを詰めた。

「ーーハァッ‼︎」

間合いを詰めたディヴェーナが、アガートラムのクロスする両腕に向かって、研ぎ澄まされた刺突を放った。

ーーガァン‼︎

既に光の柱によってビビが入っていたアガートラムの障壁は、ディヴェーナの“極点集中”したロンギヌスの一撃によって霧散する様に砕け散り、ロンギヌスの一撃がアガートラムの体勢を崩す。

ーーガァン‼︎

ーードォォォォォォォン‼︎

「アガートラム・・・‼︎」

刺突を繰り出した体勢から、流れる様な流麗な動作で右に一回転し、体勢の崩れたアガートラムを強力な薙ぎ払いによって後方に吹き飛ばし、地面にダウンさせた。

アガートラムの巨体が倒れた事により地面が砕け、土煙が舞い上がる。

ーーオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎

舞い上がった土煙は、腹の底まで響く様なアガートラムの威圧する様な咆哮と共に吹き飛ばされ、ダウンと同時に瞬時に起き上がっていたアガートラムが、スラスターより粒子を放出しながらディヴェーナに猛然と突撃した。

アガートラムがその巨体からは想像出来ない程に瞬時に間合いを詰め、高速の打撃をディヴェーナに繰り出す。

繰り出される打撃を、ディヴェーナは力を受け流す様に軽々と後退しながら防ぎ、弾いていく。

受け流された力は衝撃波となり、周囲の地形を破壊していく。

フィオナからもフラガラッハによる攻撃が、アガートラムの攻撃に合わせた絶妙なタイミングでディヴェーナを襲う。

だが防ぎ切る事が難しい同時攻撃にさえ、ディヴェーナは光の波動を壁や柱の様に立ち昇らせ現出させて対応し、フィオナとアガートラムの攻撃の全てを捌いていく。

「流石は、教会最高戦力・・・!この程度の攻撃は通らないわね。アガートラム、戻りなさい!」

フィオナの呼びかけに銀色の魔神は即座に反応して攻撃を中断し、主の側に瞬時に戻った。

「行くわよ、アガートラム」

フィオナがそう言うと、アガートラムは右手をディヴェーナに、未だ空中にて高速で斬り結び合っている澪凰とジーナに左手を、それぞれ翳す様に向ける。

「・・・・!」

ディヴェーナは、アガートラムのその動作に身構えた。

「ーー【サクリファイス】」

アガートラムの掌に、膨大な粒子と魔力が集束する。

その際、集束していく魔力と粒子の一部が“完全に消失”し、その“完全消失”に反比例する様に両手に集束する魔力と粒子は更に高密度に、より膨大な物へと増幅されていく。

「この高まり、まさか・・・?」

「・・・!」

空中で斬り結んでいる澪凰とジーナもその魔力と粒子の異常な高まりに気付いて、アガートラムに注意する。

「ーー【サクリファイス・ノヴァ】」

ーーゴォウウ‼︎

アガートラムの両手から、集束した魔力と粒子が高密度の粒子ビームとなって解き放たれる。

放たれた粒子ビームを、ディヴェーナは光の波導を立ち昇らせ防御する。

粒子ビームの威力は想像を絶するものとなっており、ナノ単位にロンギヌスの能力が付与されたディヴェーナの光の波導を食い破らんとしていた。

「この威力は・・・!」

堪らずディヴェーナはその場から飛び退き、回避を選択した。

ーードォォォォォォォン‼︎

光の波導を食い破った粒子ビームは、着弾地点にて巨大なドーム状の爆発を引き起こし、周囲に破壊を撒き散らす。

澪凰とジーナは霞を残す様な高速機動で消えて、それぞれ距離をとって地上に降り立った。

アガートラムが空中の二人に向けて放ち、回避された粒子ビームは、観客に被害が及ばぬ様にフィールドに張られた結界の上空方面の一部を貫き、威力が落ちる事なくそのまま彼方に消えていった。

「フィオナも本気を出し始めたな・・・。ーー私だ、結界の強度を三段階上げろ」

その様子を見ていた解説席のレクリエーナの指示により、損傷した結界は即座に修復・強化された。

「良いね・・・中々の威力だ。じゃあ、乱戦と行こうか・・・!」

そう言った澪凰は、瞬時にアガートラムの懐に間合いを詰めて【極皇】で左から振るい薙ぐ。

ーーギィン‼︎

強力無比かつ鋭く研ぎ澄まされた重い斬撃は、強大な砲撃を放った直後のアガートラムの体勢を大きく崩した。

澪凰はすかさず返す刀で、追撃を放とうとするがーー

「させないわ!」

フィオナがフラガラッハを振るい、十数本以上の誘導ビームを澪凰に放つ。

「フフ・・・成る程、このタイミングでフラガラッハは厄介だ」

その攻撃を確認した澪凰は、アガートラムへの追撃の一太刀を止め、フラガラッハのビームをその場で斬り落としていく。

ーーオオオオオオオオオオオオオオオ!

澪凰がフラガラッハのビームを半分以上斬り落とした時ーー体勢を立て直したアガートラムが咆哮を上げながら、澪凰に右拳を振り下ろす。

ーーギィン‼︎

「ハァッ‼︎」

澪凰はその拳を弾き、返す刀で斬撃を放つ。

その際、殺到していたフラガラッハの残りのビームは、同時に放った剣気の衝撃波によって掻き消した。

そして澪凰の斬撃をアガートラムは左腕で防ぐと、すかさず拳を繰り出す。

澪凰が同じ様にその拳を弾くと、そこにフラガラッハによる数十のビームが先程の様に襲いかかる。

そして自身の放ったビームと同時にフィオナも距離を詰め、高速で拳を繰り出すアガートラムと同時に澪凰に近接戦を挑む。

「ハァァァ・・・!」

「フフ・・・」

フィオナとアガートラムの怒涛の連携攻撃を、澪凰は楽しそうに余裕の笑みを浮かべながら、かすり傷ひとつ負う事なく捌き切っていた。

攻撃を捌く中、澪凰が呟く。

「四の太刀ーー」

「・・・!アガートラム‼︎」

澪凰の囁く様な呟きに、フィオナは即座に反応してアガートラムに鋭い声を上げる。

アガートラムも主の声に反応し、言われるまでも無くその意図を読み取り、即座にフィオナを守る様に自らの懐に匿い、両腕をクロスさせ粒子障壁を展開し、防御体勢をとった。

「ーー龍閃抱翼!」

澪凰の姿が掻き消え、同時に全方位からの斬撃波が全くの同時にフィオナとアガートラムへと放たれた。

その嵐の如き全方位斬撃波に対してアガートラムは瞬時に威力を算出し、その結果に伴い粒子障壁の出力を高めて更に強固な防壁とした。

ーーギギギギギギギギギギギギィン‼︎

甲高い金属音を響かせながらアガートラムは粒子障壁で、主と自らに殺到した澪凰の斬撃の全てを弾いて言った。

しかし澪凰の斬撃波を霧散し消滅させる事は叶わず、弾かれた斬撃波はフィオナとアガートラムの周囲をズタズタに斬り裂き、地形を破壊した。

「へえ・・・?本気では無いとは言え、私の斬撃を弾くとは・・・。成る程、“覚醒”の一歩手前と言う事かな?」

フィオナとアガートラムの前方に現れた澪凰が、そう言った。

その時ーー澪凰の背後から、斬り結び合ってたジーナとディヴェーナが空中に躍り出て、それぞれ片手で【ブリューナク・オリジン】と【ロンギヌス・オリジン】の穂先を向け、澪凰とフィオナに向けて突撃をかけていた。

「・・・ッ!」

「・・・!ーーフフフ・・・!」

その攻撃をフィオナは目視で確認し、澪凰は【龍眼】による“空間把握”で確認した。

フィオナはアガートラムを攻撃態勢にして共に迎え撃ち、澪凰は好戦的かつ楽しいそうな笑みを浮かべながら振り返りながら踏み込み、激突する様にお互い瞬時に間合いを詰める。

四つ巴の戦闘は更に激化していく。

フィオナのフラガラッハによる誘導ビームが何十と飛び交い、アガートラムが巨大な剛腕を振るい、その腕より展開した砲身と両の掌から圧縮粒子ビームを乱射する。

ジーナは近接戦を交えながら高速機動で一定の距離を取りつつ、【ブリューナク・オリジン】から超威力の荷電粒子砲を連射する中距離戦を主体とした戦闘スタイルを繰り広げている。

ディヴェーナは、近接では光の波動による障壁と【ロンギヌス・オリジン】を振るって捌き、中遠距離からロンギヌスの能力を最大限に付与した【裁きの聖柱(ジャッジメント・ピラー)】を乱立させ、無尽蔵に上空から降り注がせる。

そして澪凰はーー

「フフ・・・!ハハ・・・!」

“ワザと”三人を相手にする様に中心地点に、舞う様な流麗な動きで漆黒の大太刀である【極皇】を振るって、降り注ぎ殺到する三人の攻撃を捌いていた。

フィオナの誘導ビームを自身に向かってきた分だけ斬り落とし、アガートラムの砲撃を【極皇】から放った剣気だけで消滅させ、巨大な腕部による打撃を【極皇】で弾き、ジーナの【ブリューナク・オリジン】から放たれる超威力の荷電粒子砲のビームを弾き、ディヴェーナの光の波動と乱立し降り注ぎ続ける【裁きの聖柱(ジャッジメント・ピラー)】を事もなげに両断する。

澪凰は三人の怒濤の攻撃の中心地点にいながら、それらの攻撃を“擦り傷一つ負うこと無く”、自身の力を“半分以下”にセーブして、楽しそうな笑みを浮かべて捌き続けていた。

「・・・これが“真なる皇の世代”の力。想像以上ですね・・・」

ディヴェーナが、波動と光の柱を更に放ち続けながら言った。

「アガートラムの攻撃を物ともしないとは・・・これが“皇の血脈”・・・!」

フラガラッハより誘導ビームを何十と放ち、アガートラムにも思念で指示を飛ばしながらフィオナが言った。

「ブリューナクが放つ荷電粒子砲すら軽く弾くか・・・。・・・ふ。流石は“覚醒の時代”だ・・・!面白い・・・!」

口元に楽しそうな笑みを浮かべたジーナは、ブリューナクより荷電粒子砲を超連射しながらそう言った。

不意に澪凰が霞のように掻き消え、三人から少し離れた位置にある、地面が破壊されて出来た隆起した柱の上に見下ろす様に現れた。

「うん、良いね・・・!顕鎧を纏っていないから“本当の全力”とまでいかないけど・・・流石だね。これならば、この一太刀を受けられるかどうか・・・試してみたくなったーー」

ーーゴォォォォォォォォォ・・・・

澪凰がそう言うと、澪凰の魔力と剣気が先程までとは遥かに比べ物にならないレベルまで瞬時に高まっていく。

『・・・ッ‼︎』

三人は瞬時に高まった別次元の魔力と剣気を肌で感じて息を飲み、それぞれ得物を構えて警戒する。

そして実況席のレクリエーナは素早く指示を飛ばして、フィールドを覆う結界の強度を更に引き上げた。

立ち昇り渦巻く力によって肩に羽織った銀黒の陣羽織と美しい銀黒の長い髪が靡く。

澪凰と共に、【天羽々斬・極皇】は更に濃密な玲瓏な漆黒の気を帯びていく。

特に澪凰の身の丈を超える尺寸を誇る大太刀である【極皇】の漆黒の刀身には、空恐ろしいまでの魔力と剣気そして“権能”が、極密度で合わさり圧縮された“力”が収束していた。

「・・・・ッ!」

「・・・成る程、これが・・・!」

「“黒天”・・・。“太陽の反転事象”・・・!」

フィオナ・ディヴェーナ・ジーナは、力を高め更に漆黒を帯びた澪凰を見上げ、警戒を最大限にしながらそれぞれそう口にした。

会場の観客も結界越しとは言え澪凰の絶大な魔力を感じ、殆どの者が言葉を発せずに唖然としていた。

澪凰の周囲の空間は、最早絶対不可侵領域と化していた。

“権能”を解放している事によって、周囲の空間内の総ては灰すら残らず凍結しながら融解し、滅せられていく。

その権能は、まさしく“陽“。

黒を帯びた澪凰は、まさしく黒き太陽の具現。

普通であればフィールドの三人は凄まじい熱気か冷気を感じる所だが、”黒き太陽“はそれが一切無い。

高温過ぎるが故に何も感じず、低温過ぎるが故に何も感じ無い。

「フフ・・・さて、受け止められるかな?」

澪凰はそう言うと、楽に下に【極皇】を下げた優雅な立ち姿からスウッと上に上げ、ゆっくりと左側に霞の構えをとる。

本来ならこんな大技を放つ為に長い力溜めを行なっていれば邪魔されるのが常なのだが、澪凰を中心に渦巻く黒い焔と黒い氷の力は、漆黒の全方位障壁の様な力場を生み、余計な横槍の全てをシャットアウトしていた。

澪凰は静かに謳う。

「焔にして極氷、氷にして極焔。我が太刀は黒き太陽の具現・・・」

ーーゴォウウゥウウ‼︎

澪凰を中心に渦巻き立ち昇っていた力が瞬時に【極皇】の漆黒の刀身へと収束し、一瞬の静寂が生まれる。

「顕現するは終の一太刀・・・」

ーーこれより放つは、“皇”の一撃。

ーー神の一撃など足元にも及ばぬ、一刀絶殺の一閃。



ーー事象の具現。


静寂の中、澪凰の涼やかな声が響く。

「皇の太刀ーー」

澪凰が霞の構えからスウッと、大太刀の切っ先を天に向ける様に大上段に振り上げる。

「・・・終ーー」

澪凰がフィオナとアガートラム、ジーナ、ディヴェーナを見据えて【極皇】を振り下ろさんとするその時ーー

ーーバチン‼︎・・・ギィン‼︎

爆ぜる様な雷音を響かせ、澪凰の側に瞬時に現れた女性が、澪凰が太刀を振り下ろす寸前でそれを止めた。

「そこまでですよ、澪凰」

「龍姫?」

その女性ーー白い陣羽織を肩から羽織り、黒のメッシュが入った銀髪の美女【凰雷龍姫(おうらいるき)】は、絶大な力を収束し力を解き放つ寸前の【極皇】の漆黒の刀身に、七支刀の様な長い刀身と槍の様な長い柄を持つ、自身の天羽々斬の刀身を当てて止めていた。

そして龍姫と彼女の得物は、“純白の雷”を帯びていた。

(力の塊であるアレを、放つ前とは言えああも簡単に止めるとは・・・。彼女も既に“シンギュラリティ”に踏み込んでいるな・・・)

自分の他二人が最大限に警戒し、澪凰の力の余波で形成されていた権能の力場によって、妨害する事が叶わなかった所をいとも簡単に止め、かつ力場内に影響も受けずに踏み込んだ龍姫を見てジーナはそう思った。


「澪凰。いくら名だたる御三方とは言え、流石に“皇の太刀”はやり過ぎですよ。幾ら手加減したとて、貴女の皇の太刀は“太陽を爆発させるも同じ”。今刀身に込めた力でさえも、放ってしまえばこの会場を含めた首都の一角は簡単に消し飛ぶでしょう」

龍姫は澪凰に言い聞かせる様にそう言いながら、“龍眼”状態の金色の両眼でじっと見つめ、澪凰の天羽々斬を同じ天羽々斬で抑える。

澪凰は不服そうに龍姫を無言で見返す。

「・・・・・・・・・・」

「「「・・・・・・」」」

フィールドのフィオナ・ディヴェーナ・ジーナの三人は、いつあの膨大な力が解放させるかと、警戒を解かずに見守っていた。

不服そうな澪凰に、龍姫はダメ押しの一言を言う。

「・・・“零牙“も言っていましたよ?」

「ッ‼︎・・・」

零牙の名を出された瞬間ーー澪凰は不服そうだった表情を緩め、昂った気を鎮める様に息をつく。

「・・・・・・ふう」

澪凰が息をついた瞬間、【極皇】の刀身に収束していた”力“は何も無かったかの様に瞬時に霧散し、同時に澪凰が纏っていた魔力と剣気も鎮まり、周囲の地形と環境への影響も収まった。

「あーあ、もうちょっと試したかったんだけどなぁ。まあ、零牙に待ったを掛けられたんじゃ仕方ないね」

そうあっけらかんと言って、澪凰は【極皇】を自身の位相空間に仕舞った。

澪凰が得物を仕舞った後、実況席のレクリエーナがモイラに目配せをする。

「せ、制限時間超過‼︎エキシビション・マッチはドローとさせていただきます‼︎まさに超常の戦いを魅せて下さった方々に盛大な拍手を‼︎」

本当はまだ時間は残っていたが、レクリエーナの判断によりそう言う名目でエキシビション・マッチは終了した。

澪凰の桁違いの力による重圧に圧倒され言葉を発する事が出来なくなっていた観客達が、次第に平静さを取り戻していき拍手が散発的に起こっていき、やがて会場全体が喝采で包まれた。

フィールドでは、澪凰の他の三人もそれぞれ得物を仕舞っていた。

フィオナはアガートラムを自身の位相空間に沈めている最中で、ディヴェーナとジーナは少し離れた所で会話していた。

「終わりですか・・・彼女の力が解放されればどうなる事かと思いましたが、凰雷の娘が止めくれて助かりました。あの娘も他の“姫”達同様、彼の意思や言葉等が最優先ですからね」

「ああ。あの技を止めるには、顕鎧を纏い、全力を出す他は無いからな」

ディヴェーナとジーナは、戦闘の最中の恐ろしいまでの気などもう微塵も感じさせず、ニコニコといつもの表情で龍姫と話している澪凰を見ながら言った。

「龍姫。零牙、怒ってた?」

「大丈夫ですよ。やり過ぎだと言っていただけですよ」

「ふぅ、良かった・・・」

「さて、次は零牙達の晴れ舞台です。戻りましょう」

「そうだね。っと、その前にーー」

そう言って澪凰は龍姫と共に、ディヴェーナ・ジーナ、そしてアガートラムを格納し終わり二人と会話していたフィオナの三人の元へ歩いていく。

「いやあ楽しかったよ。今回はお互い全力は出せなかったけど、次は貴女達の“全力”と手合わせしたいな。もちろんその時は私も“全力”を挑ませてもらうよ。顕鎧ありで、ね?」

ニコニコと穏やかな笑みを浮かべて、澪凰は三人にそう言った。

その言葉を聞いてジーナが肩をすくめて言う。

「よく言う。最後、歯止めが効かなくなっていただろうに」

「ええ。流石に貴女の全力を受けるには鎧を纏う他はありませんでしたから・・・」

ディヴェーナが苦笑しながら言った。

「フフ・・・次ある時は”【取り残されし者達(ディフィーテッド)】“を狩るくらいの全力で相手して欲しいな・・・!ーーそれと魔王様も」

澪凰はフィオナに話しかける。

「聞き慣れない用語を聞いて疑問を浮かべていないと言う事は、既に貴女も”【取り残されし者達(ディフィーテッド)】“を知っている様だね?いやーーもう狩っているのかな?」

澪凰は見通す様に目をスウッと細めて、フィオナに言う。

「ええ、知っているわ。魔王になった時に、それがどういう存在かも・・・、まだ相対した事は無いけど」

「なら、対峙した後が楽しみだ。貴女の剣と魔神の真の性能が解放されるからね。ーーさて」

澪凰は、クラス・アルファの控え室に戻る為の転送陣を作り、既にその上で澪凰を待っていた龍姫の元へ行く。

「メインイベントが始められないだろうし、そろそろ戻らないとね。ーーじゃ、また機会があれば“本気”で」

一瞬、好戦的な笑みを浮かべながらそう言って、澪凰は龍姫と共にクラス・アルファ控室に転移していった。

「・・・・真の性能。フラガラッハとアガートラムは、まだ力を発揮出来ていないという事?」

フィオナは自身の胸に手を当て、そう呟いた。

考え込むフィオナの肩にジーナが手を置き促すように言う。

「その事に関しては、凰照の娘が言うようにいずれ分かるだろう。ほら、我々も早くここから退かなくてはな」

ディヴェーナが言う。

「ええ、我々の戦いはあくまでエキシビジョン。この大会のメインは、各学園の雛鳥達が自分の力を試す事なのですから」

「そうですね。考えるのは後にして、急いで戻らなければ」

そう言って気持ちを切り替えたフィオナは、転移陣を瞬時に展開し言う。

「では、お二方。共に戻りましょう」

「ああ」

「ええ」

実の所三人の戻る場所は同じであり、魔王であるフィオナはコントロールルームへ、ディヴェーナとジーナはVIPとしてコントロールルーム近くの部屋にそれぞれ戻っていった。

「参加各学園にお知らせします。フィールドを変更した後、十分後に各フィールドにて第一試合を開始致します。各学園の当該クラスは準備してください」



ーー・・・クラス・アルファ控室

「ごめん!零牙ぁ!嫌いにならないでぇ!」

少し棒読みの様にそう言いながら澪凰が零牙を抱き締めていた。

「ちょ・・・!別に・・・怒ってないから・・・!胸・・で息が・・・!」

澪凰の豊満な胸に頭を押し付けられながら抱き締められ、零牙はもがいていた。

全力で抵抗しようと思えば逃れられるのだが、それをすると更に強い力で押し付けられるので、“現在”の零牙の力では抵抗しても基本的に無意味である為、満足するまで好きな様にさせるしか無かった。

アリシア・モルガン・スカアハ・クレア・エレイン以外の者達は「またか」と言った感じで見守っている。

スカアハが姿勢よく座っているフェンリルに聞く。

「フェンリルよ、澪凰はいつもこうなのか?」

「ええ。澪凰様は、特に積極的ですからね。人目など・・・いえ、我々以外の者の目など全く気にしていないお方ですから。場所が公共だろうがプライベートエリアだろうが関係なくああしたスキンシップをしますよ。まあ、最近は零牙様の意思を尊重するので“公共の場”では減りましたが」

スカアハは、零牙が目立った抵抗しない事を良い事に相当ご機嫌に胸元で抱き締めている澪凰を見つめる。

「戦闘狂な上に身内以外の他人は基本的に気にしない、か・・・まさしく“龍”だな」

「それで、参戦しなくてよろしいのですか?」

「うむ。戦闘であればいざ知らず、こういった事はまだタイミングが掴めなくてな・・・ケルトで名を馳せた私が情け無いものだ・・」

スカアハは、困った様に苦笑しながら言った。

「大丈夫です、その内慣れますよ。タイミングと言っても簡単ですので・・・。スカアハ様、周りをご覧下さい」

「・・・ん?」

フェンリルに言われ、スカアハは辺りを見渡す。

そこには零牙を抱き締めている澪凰を、“自分もしたい”という気持ちを疼かせてウズウズと二人を見ながら、距離をもとい零牙への包囲網をジリジリと狭めている他の婚約者達の姿があった。

「ああしてお一人が何か理由をもしくは理由なく零牙様にアタックした後、“自分達も”と言って包囲を狭め、零牙様に飛び掛かる。これが姫様方の常套手段かつ零牙様に最も効果ある戦術です」

「な、成る程・・・確かに戦術だな」

「ええ。ですので慣れないのであれば、集団戦闘と同じで他の方々と“連携”すれば良いのです。それならばスカアハ様も分かりやすいかと」

「そ、そうだな。確かにこれも戦闘と思えばいささか私でも分かり易いな・・・」

「その通り。ですので、今です!スカアハ様も包囲網への参加を!」

「え?うむ・・・分かった!」

フェンリルにそう言われ、スカアハも零牙の包囲に参加する。

それに気づいた零牙が、声を上げる。

「え⁉︎スカアハさん?それにアリシアさんもモルガンさんもいつの間に・・・⁉︎」

アリシアもスカアハ同様に躊躇していたが、同じく婚約者である姉・モルガンに誘われる形で、零牙包囲網に参戦していた。

ここにいない冬華とファントムを除いた婚約者の女性陣に、次第に揉みくちゃにされる零牙。

望みを懸けて従者達に助けを求める。

「ちょ・・・フェンリル、龍護、影刃!助けてくれ!」

しかしーー

「申し訳ございません、零牙様。こういった時間に関しましては、姫様方の意思を最重視する様に言い付けられております」

「「同じく」」

そう言ったフェンリルに賛同して龍護と影刃が言うと、クレアとエレインもまだ慣れない為か、少し躊躇いがちにそれに続く。

「「お、同じく・・・」」

「クレアとエレインまでも⁉︎婆さんめ、いつの間に⁉︎あっ!ちょ、・・・待って!もう試合が始まるって‼︎」

「大丈夫ですよ、零牙。クラス・アルファはまだまだです」

自分も楽しそうに参戦しながら、龍姫が言う。

「だ、だから・・・!他の試合も観たいんだってーーー‼︎」

零牙の声が控室に響き渡った。


ーー・・・コントロール・ルーム

現在クラス・アルファ控室での一件を、そこにいない婚約者の二人は聴いていた。

「澪凰め・・・また、勘違いしているフリをしたな」

「ああ、私達は後で零牙に個別で穴埋めして貰うとしよう」

ファントムと冬華は、コントロール・ルームのメインモニターに映し出されている、直前に決まった試合の組み合わせを眺めながら呟いた。


ーー・・・第一試合・組み合わせ

チーム・ベリアル:【アルタイル・K・ベリアル】対 チーム・ブエル:【ライド・G・ブエル】


チーム・クラス・イオタ:【久尾修也(くおしゅうや)】対 チーム・クラス・イータ:【??????】


チーム・クラス・ゼータ:【長門】 対 チーム・アイム:【カーラ・D・アイム】


チーム・ヴィネ:【レグリナ・K・ヴィネ】 対 チーム・ミカエル:【ライラ・S・ミカエル】


チーム・ヴィネ:【アリエル・K・ヴィネ】 対 チーム・セト:【セト・U・ワームウッド】


チーム・クラス・アルファ:【凰月零牙】 対 チーム・ベリアル:【シリウス・K・ベリアル】


ーー・・・三節【エキシビション・マッチ(超越戦闘)】・終














































































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