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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
23/49

三章ーニ節【カオス・コンバット・二日前、その当日】

ファントムが、桜花の研究室を訪れていた同時刻ーー龍凰学園・大訓練場

ーーギィン‼︎

『グゥッ⁉︎』

大きく弧を描く一閃で、10人の少年少女が吹き飛ばされる。

「クソッ」

ウェーブがかった銀髪と褐色の肌をした少女がハルバードを地面に突き立てて勢いを殺し、膝をついて相手を見据えた。

彼女の名は【レア・ヘラクレス】、クラス・カッパの副リーダーだ。

「・・・やはり、強いわね」

遠距離から援護射撃していたが、凄まじい剣圧によって吹き飛ばされ、妹・レアの隣で同じく膝つくのは長い金髪の少女【テミス・ヘラクレス】、クラス・カッパのリーダーである。

「強いなんてレベルじゃねえよ。やっぱ格が違いすぎる・・・!」

そう言ったのは赤茶色の髪の少年、【久尾修也】。

クラス・イオタのリーダーの彼は、同じ様に弾き飛ばされて立ち上がった所だ。

「ええ。新しく作った術を全て斬られるとか、自信を無くしそうだわ・・・。でも、そうでなくてはね!」

そう言って、機械で構成されている杖を構えて魔方陣を足元に展開するのは、長いエメラルドの髪をした少女【エマ・OZ・マグナ】。

クラス・イプシロンのリーダーで、考案した新しい魔術を悉く斬られ、同じく吹き飛ばされた所だった。

「と言うか僕、完全に力不足だと思うんですけど・・・」

そう言って息を切らしているのは、軍服の様に仕立てた制服を着用した黒髪の少し頼りなさげな印象の少年【大和(ヤマト)】。

クラス・ゼータに龍凰市防衛戦後に転入して来た少年で、転入して間も無いが、クラス・ゼータのリーダーである黒髪の少女【長門】に「これもいい経験だろう」と送り出されたのだ。

ちなみに彼らの名前はコードネームであり、所有する【戦争顕鎧(ウォー・クラフティ・メイル)】の名がそのままコードネームとなる。

そしてその隣で膝をついていたのはーー

「狼狽えるな大和。あの方はまさしく武の極みに至った者の一人。であれば、未熟な我等では勝てなくて道理だ。だからこそ挑む価値がある」

大和を送り出した張本人である黒髪の少女【長門】だ。

彼女は大和と同じ様な制服を身につけているが、肩に短い外套がついていた。

「うむ、やはりこの学園に入学して正解じゃったな。これほどの強者と手合わせ出来るのじゃからな」

そう言って、右手に持つ武器である鉄扇をピシャリと閉じるのは、金のメッシュが入った長い白髪と、側頭部付近の髪が狐の耳を形取った髪型をした少女【九尾藻狐(きゅうびもこ)】。

彼女は、着物型に仕立てた制服をかなり大胆に着崩して着用している為、肩や胸元、生足が露出され、同年代の者達よりも妖艶な雰囲気を醸し出していた。

ちなみに彼女の一族は、代々九尾の力を持つ【起源顕鎧(オリジン・メイル)】を発現させ、また先祖が初代九尾である事に誇りを持つ為、自分達が九尾の末裔であると知らしめる為に苗字を「九尾」としていた。

ちなみに彼女はクラス・ガンマのリーダーであり、このクラスは妖や陰陽に関連する者達で構成されるクラスである。

「ええ、藻狐に同意します。わたくしも、少々昂って参りました・・・!」

そう言って、自身の顕装である優美な三叉の槍【神姫の三叉槍(トリシューラ・ドーター)】に魔力を漲らせるのは、健康的な褐色肌と赤みがかった紫色の長い髪をした大人びた容姿の少女【シャクティ・S・デーヴァ】。

彼女は、インドからの留学生でありクラス・シータのリーダーで、このクラスはインド関連者達のクラスだ。

ただし、大半は最重要人物であるシャクティの従者達が多い。

「じゃあ同じ“ドーター”同士、同時に仕掛けようか?シャクティ?」

その隣で巨大な穂先を持つ蒼銀の槍【神姫の神槍(グングニル・ドーター)】を携える、クラス・デルタ・リーダーの蒼銀髪ロングの少女【スルカ・スヴィズニル】が言った。

「姉さん・・・そう簡単に行かないわよ。今しがた、全員で仕掛けてあしらわれた所でしょ?」

漆黒の禍々しい長剣【魔龍剣・ティルヴィング】を携えた蒼銀髪ポニーテールの少女【ノルン・ヴェルベルグ】が双子の姉に窘める様に言った。

そして態勢を立て直した10人全員が、自分達を一太刀で吹き飛ばした相手を見据える。

「うん。大規模戦闘を経験して、皆少しは力を上げた様だね」

自身の得物である身の丈を超える漆黒の大太刀を左手に持ち、刀身を右手で撫でながら、少年少女達と相対する銀黒の髪の女性は言った。

「じゃあーー続けようか?」

涼しい笑みを浮かべ、漆黒の大太刀を霞の構えで構えながら、銀黒の髪の女性は穏やかに言った。

『・・・・』

全員が息を飲み、整えた次の瞬間10人がそれぞれ動いた。

ーードドドドドン‼︎

まず長門が、クラフティの武装の一部である砲塔を側に追従させる様に部分顕現させ、真正面から連射した。

「・・・ふふ」

銀黒髪の女性は、余裕そうな笑みを浮かべながらーー

ーーザン‼︎

ーードォォォォォォォン‼︎

大きく弧を描く一太刀で、放たれた全ての魔弾を斬り払った。

身の丈を超える大太刀を彼女は軽々と片手で振るった。

「大和‼︎」

「了解‼︎」

長門の呼びかけで、大和が彼女の背後から躍り出て、呼び出していた大型砲塔から、人一人飲み込む程巨大な魔弾を放った。

「いいね」

銀黒髪の女性は楽しそうに笑みを浮かべながら、返す刀で魔弾を薙いで両断して霧散させた。

「さてーー」

魔弾を斬り捨てた彼女は、気配を消して自身の背後から斬りかかって来た者にすかさず反応し、その斬撃を受け止める。

ーーギィン‼︎

「・・・ッ!」

「私の背後を取って仕掛けるまではいい動きだったよノルン。でもーー」

ーーギィン‼︎

「・・・ぐぅ⁉︎」

銀黒髪の女性は、ノルンを大きく後方に斬り弾き飛ばした。

「直前で気配やらが漏れてるよ。私の背後を取ったからって、気を抜いたらダメだなぁ」

ーービュン‼︎

「おっと」

背後から8本の魔力矢が射かけられるが、銀黒髪の女性は最小限の体捌きだけで全て躱した。

「貰った‼︎」

テミスが放った魔力矢が躱された直後、瞬時に距離を詰めたレアが、ハルバードを大上段から全力で振り下ろす。

ーーギィン‼︎

「・・・なっ⁉︎」

並みの者であれば受け止めるのが困難な程の重い斬撃は、地面に小規模なクレーターを作る程の威力であり、事実クレーターが出来ていたがーー

「テミスの矢を躱した直後を狙っての強襲。そして迷いの無い踏み込み。いい一撃だよ、レア。だけどーー」

銀黒髪の女性は、レアの渾身の一撃を難なく受け止め、薙ぎ払う。

ーーギィン‼︎

「く、くそぉ・・・!」

レアは大訓練場の壁際まで弾き飛ばされた。

「私相手では、いささか力不足かな?」

「では、これでどうですか‼︎」

そう叫んだ藻狐が、いつの間にか上空に飛んでおり、周囲に複数の陰陽による方陣を展開する。

「・・・ほう?」

銀黒髪の女性は藻狐を見上げたが、直ぐに地上からも魔力を感じ、そちらに目を向けた。

視線の先では、エマが藻狐と同じく周囲に複数の魔法陣を展開していた。

「「これで‼︎」」

藻狐の方陣からは10個の巨大な火球が放たれ、エマの魔法陣からは鋭い水流や鞭の様に蠢く炎、そして拡散する雷や刃の様な風が放たれた。

「いい術だ。けどーー」

銀黒髪の女性は、自身に向かってくる攻撃を嬉しそうに見ながら言った。

ーーザン‼︎

銀黒髪の女性は、大太刀の一振りで難なく藻狐とエマの攻撃を全て薙ぎ払った。

「く・・・やはり!」

「うむ、たった一太刀だけで全てを薙ぎ払われる。まさに至境の業と言うべき他無いの。しかも、これで本気ですら無いからの」

「ええ、本気ならば術を発動する以前の問題ですもの」

「はあ‼︎」

「ふッ‼︎」

素早く両翼に展開したスルカとシャクティが、銀黒髪の女性の両側から同時に刺突を繰り出した。

銀黒髪の女性にグングニルとトリシューラの穂先が迫るがーー

「「・・・‼︎」」

銀黒髪の女性は突如スライドしたかの様な最小限の動きで一歩下がり、二本の神槍の攻撃を躱す。

銀黒髪の女性は漆黒の大太刀を振り上げる。

そして二本の神槍の穂先が、自身の正面で交差する様に重なった時、大太刀を振り下ろし二本の神槍の穂先を斬りつけた。

ーーギィン‼︎

その一撃で二本の神槍の穂先は地面に突き刺さり、そこから派生するであろう攻撃も、一時的に封じ込められた。

「「・・・ぐうっ⁉︎」」

そしてスルカとシャクティに当てる事無く、その場で逆袈裟に大太刀を振るい、凄まじい剣圧を発生させて彼女達と二本の神槍を吹き飛ばした。

「うぉ⁉︎」

二人の次に仕掛けようとして距離を詰めていた修也をも吹き飛ばした。

スルカとシャクティは、空中で体勢を立て直して着地し、二本の神槍はそれぞれ所有者の側に突き刺さる。

「うん、良いね。中々の連携だ。でも、今のは時間差で来るべきだったかな。修也は、もう少し早く仕掛けるべきだったね」

銀黒髪の女性は、そう言って大太刀を軽く払う様に振る。

「さてーー」

銀黒髪の女性は霞の構えを取る。

「ウォーミングアップは充分かな?」

「今のでウォーミングアップかよ・・・」

修也が立ち上がりながら言った。

漆黒の大太刀と銀黒髪の女性が、“ほんの少し上のレベル”の剣気を薄らと纏い始める。

しかしその剣気“だけ”でも本能が警告を発する程のものであり、それは彼女が遥か高みに至っている強者である事を否応なく知らしめた。

『・・・・ッ‼︎』

その剣気に当てられ、相対する全員が身構える。

銀黒髪の女性のいつも穏やかな人懐っこそうな眼は細められ、危険な色を帯び始めた。

「ーー待ちなさい」

この手合わせに参加していない誰かが、銀黒髪の女性に制止の声をかけるが、彼女が止める様子は無い。

そう・・・彼女は昂り始めると戦闘を辞められなくなる戦闘狂なのだ。

流石に殺す相手とそうで無い相手の見極めは出来るが、それでも自重が出来ずにどんどん力を解放していく。

相手が殺すべき相手なら相手が死ぬか、そうでは無い相手の場合は確実に戦闘不能にするまで止まらない。

そうなる前に唯一止められるのはーー

ーーゴチン‼︎

「ーー痛ぁ⁉︎」

素っ頓狂な声を上げて、戦闘の昂りから強制的に引き戻された銀黒髪の女性は、突如後ろから衝撃を受けた後頭部を空いている右手でさすりながら、背後を振り返った。

そこにはーー

「ーー何をしている“澪凰”?」

黒銀髪のポニーテールを足元まで伸ばし、教官用の専用スーツに身を包んだ豊満なスタイルを持つ美女、凰月冬華だった。

冬華は切長の眼を細めながら、後頭部に左手は手刀を叩き込んだ状態で、右手は腰に当てた恰好でその身より静かな闘気を滲ませながら、しゃがみ込んだ銀黒髪の女性を見下ろしていた。

「あ、あははは・・・冬華、早かったね?」

自分に一撃入れた人物が誰か分かると”困ったなぁ“と言う表情になると同時に、高まっていた剣気は一気に霧散した。

「事前説明の時間になっても、各クラス・リーダーが誰も来なかったからな。学園内を探知してみれば、お前がいるでは無いか。もしやと思って来てみれば、案の定これだ」

「え?でも、冬華が来いって言ってたよね?」

「“まず最初に私の所へ来い”と言ったんだ。それをお前達”二人“は・・・」

ちらっと、もう一人の方へ目を配ると、澪凰と呼ばれた銀黒髪の女性も視線をそこにやる。

その視線の先では、件のもう一人の純白に黒のメッシュが入った美女が、零牙の右側から抱きついて愛おしそうに頬擦りしていた。

「な⁉︎ちょっと【龍姫(るき)】‼︎ズルい‼︎」

何かに気付いた銀黒髪の女性【澪凰(みお)】が、そちらに弾かれる様に立ち上がり瞬時に移動する。

「おい!」

冬華が言うも、既に澪凰は龍姫の反対側から抱きつき、零牙をサンドイッチする形で頬擦りしたりしていた。

「・・・やれやれ。まあ、三カ月も会えなければそうなるか・・・」

諦めた様に冬華はそう言って、少しそのまましておく事にした。

「会いたかったよ〜!零牙〜!」

「本当に寂しかったのですよ?」

「あはは・・・。澪凰姉さん。龍姫姉さんも、お帰り。俺も会いたかったよ」

抱きつかれている零牙も、二人はいつもこんな感じである事はわかっていた為、好きにさせていた。

そして、他の婚約者や従者達もその事情を知っていた為、そのやり取りを穏やかな顔で見守っていた。


ーー・・・

十分後、流石に予定が遅れる為、冬華は二人を零牙から引き剥がし、各クラスを整列させた。

冬華の周囲には澪凰と龍姫、正体を隠す様に外套を纏った人物、そして黒い戦闘スーツと仮面型タクティカルバイザーを身につけた7人の男女の姿があった。

「・・・やっと始められるな。本当ならば、各クラス・リーダーにまず伝える所からだったが・・・予定が狂った為に省略する」

狂った張本人である澪凰に横目で見ながら言った冬華だったが、その本人は頭の後ろで両手を組んでどこ吹く風といった感じで、零牙を見つめていた。

「さてーーまず初めに今日から新しく教官になる者達を紹介する。おい、自己紹介しろ」

冬華は、零牙を見つめ続けている澪凰を促す。

「え?ああ、そうだね。久しぶりの顔ぶれが多いけど改めて・・・、【凰照澪凰(おうしょうみお)】今日からこの学園の教官になるから、いつでも戦闘大歓迎!あぁそれと私、零牙の婚約者の一人だからその事を忘れちゃダメだよ?」

ーー【凰照澪凰(おうしょうみお)

透き通る様な白い肌と、輝く様な白銀に黒で縁取った様な色の銀黒色の髪を足元まで伸ばし、ぴっちりとフィットした銀と黒を基調とした着物の様なインナーとパンツスーツで抜群のスタイルを誇る豊満な身体を包み、その上からオーバーコートの様に陣羽織を羽織った美女。

「最後の方は要らんだろう?皆知っている事だ」

「え?でも改めて言っとかないとさーー“死ぬからね”から」

冬華の言う通り、この学園に通う異能科の者であれば常識だった。

だが確かに、澪凰の言う事ももっともだった。

零牙の婚約者達は全員、自身に対して“邪な考えを抱く”、“精神・認識・記憶操作等の支配・改竄の行使”等、内部干渉系の能力は一切無効化し、それに対して致命的なカウンターを放つ【月の加護】を付与されている。

この加護は彼女達の深奥部分に施されている為、無効化する事が不可能な後天的でありながら、先天的とも言える絶対耐性となっていた。

【月の加護】が発動すると、カウンターとして内部に不可視の斬撃が発生し、更に心臓またはそれに相応する部分を圧壊させる。

その為、彼女達にそういう考えを抱かなければ問題は無いが、彼女達は全員が豊満かつ抜群のスタイルを持つ美女と美少女達である為、それを知らなけば途轍もなく危険な攻性防壁となっている。

故に、本当に問答無用で危険な加護なのだ。

更に澪凰や龍姫の場合は、もう一つ別の加護をそれぞれの祖母から施されていると言う。

「じゃあ、次は私ですね。私は【凰雷龍姫(おうらいるき)】。澪凰と同じですから、割愛で」

短く自分を紹介したのは女性はーー【凰雷龍姫(おうらいるき)】。

彼女も澪凰に劣らず美しい容姿を持ち、輝く様な純白に黒で縁取った様な色をした髪を足元まで伸ばしており、後ろに流れる髪を襟足で一つに纏めていた。

豊満な胸と抜群のスタイルをしており、澪凰と同じ戦闘スーツを着ていた。

ただし龍姫のものは純白と黒を基調としていた。

「では、次は私かーー」

そう言って今まで外套で容姿を隠していた人物が一歩前に出て、外套を脱いだ。

「「「なっ⁉︎」」」

北欧最高神オーディンの娘達、ブリュンヒルデ・スルカ・ノルンが、顕になったその人物の素顔を見て驚愕する。

その人物は、彼女達と同じ蒼銀髪と蒼眼を持つ女性だった。

「シグルーン・アルフォズルだ。北欧最高神オーディンの長子にして、そこで驚いている妹達の姉だ。雛鳥達よ、これから君達の成長を助けよう」

自信に満ちて凛々しい口調でそう言ったその女性はーー【シグルーン・アルフォズル】

蒼銀の長い髪をポニーテールに結え、ハイレグのインナーの様なスーツと蒼と銀を基調とした軽装鎧、腰元の鎧から透き通った蒼いケープが備わる専用のヴァルキリー戦闘スーツを身につける。

専用のスーツは胸元も開き、おそらく機動性重視であるのだろうが、かなり露出が多い仕様になっており、抜群のスタイルが強調される様になっていた。しかし、そんな色香を振り撒く様な恰好をしながらも、近寄り難い厳格そうな雰囲気を放っていた。

「な、な、何故、ヴァルキリー筆頭たるシグルーン姉様が此処に⁉︎」

唖然としながらブリュンヒルデは訪ねる。

ブリュンヒルデの側では、同じ事を思っていたと言わんばかりにスルカとノルンが激しく頷いていた。

それもその筈、シグルーンは北欧ヴァルキリー部隊の全てを束ねる頂点、故においそれと北欧を離れる訳にはいかず、先の龍凰市防衛戦でもその姿は確認されていなかった。

「心配するな。私と互角の実力を持つスクルドが戻ったのだ。私が不在の間はスクルドが総長代理だ。彼女がいる限り、危険分子が手を出すなど出来まいよ」

「そ、それはそうですね・・・」

ブリュンヒルデが頷くと、スルカが口を開く。

「では、シグルーン姉さんはこれからーー」

「ああ、お前たちの教官になる。それとブリュンヒルデ。お前は今日から副担任だ」

「・・・・へ?」

「へ、では無い。私がクラス・デルタの担任教官になるのだ、当然だろう?」

「えぇぇぇぇぇぇ⁉︎」

ブリュンヒルデは叫びを上げた。

その様子に、シグルーンはやれやれと言った様子で続ける。

「ならば、後で手合わせするか?お前が勝ったら、今まで通りでいいぞ?」

「あ、いえ、それは・・・」

「さあ、どうする?」

しどろもどろになるブリュンヒルデに、シグルーンが少しからかう様に促す。

「い、いえ・・・お姉様が担任で・・・」

ブリュンヒルデは、シグルーンには勝てないと分かっていた。

「うむ、それで良い。心配するな、私が来たからにはデルタを鍛え直す。覚悟しておけよ?」

『ヒッ・・・!』

シグルーンの微笑みながら言ったその言葉に、クラス・デルタの全員が戦慄する。

デルタの中には、親にヴァルキリーを持つ者もいるので、シグルーンの訓練がどういうものなのか聞き及んでいた。

「さてーーこちらは終わった。冬華殿、続きを」

冬華は頷き、口を開く。

「さてーー近日、魔界にて学園対抗の【混沌戦(カオス・コンバット)】が開催されることとなった」

『おお・・・‼︎』

その言葉に、生徒全員がざわめく。


ーー【混沌戦(カオス・コンバット)

カオス・コンバットは、チーム戦主体の戦闘競技である。

カオス・コンバットをするにはライセンスが必要であるが、ライセンス取得や参加自体は登録さえすれば誰でも簡単に取れる。

ただし、本格的に試合をするには最低四人以上で無ければ、試合を行う事が出来ない。

カオス・コンバットにはランキングが設けられており、最高位から順にS・A・B・C・Dのランクに分かれており、まずDランクの最下位から始まり、一つ上の順位に挑んで順位を上げていき、そのランク一位になると、昇格戦として次のランクの最下位に挑戦出来るようになり、勝利するとランクを上げる事が出来る。

勝てば高額な賞金も発生する為、この競技の始まりから人気の高い職業だった。

またカオス・コンバットは、人界・天界・魔界とあらゆる世界から強者が集まる為、腕試しには打ってつけだった。

世界中から種族問わずに誰でも登録出来るというシステム故に、日夜対戦が行われランキングの入れ替わりが激しく、まるで“混沌”とした競技であるが故に【混沌戦(カオス・コンバット)】と名付けられた。



ーー・・・

「まあ、カオス・コンバットと銘打っているが、ようは学園交流戦だ。参加校が多く総当たり戦の為、開催期間は一ヶ月。参加するのは我々龍凰学園、天界からエデン学園、魔界からバエル・ベリアル・ザガン・ヴィネ・プルソン・ベレト・パイモン・アスモデウス・マルコシアスの9つの学園。そして、その他ゲストチーム・・・この全てで総当たり戦を行う」

「【魔界九皇族(デモンズ・ナイン)】の学園も参加か、すげえな!」

修也が言った。

「ハッ!おもしれぇ、腕が鳴るぜ・・・‼︎」

レアが嬉しそうに拳を鳴らしながら言った。

「ぼ、僕も出るんですよね・・・?僕の力で大丈夫かな・・・?」

「むしろ経験を積めるいい機会だぞ、大和。

そう言って不安を口にする大和に長門が言った。

「そして龍凰学園の警備・護衛を担当する者達を紹介する」

冬華は、そう言って黒い戦闘スーツと黒い仮面の人物達を促す。

彼女達は一歩前に出て、口を開く。

「我々はセレネ・レギオン所属【亡霊の(ファントム・トゥース)】だ。私は隊長のファントム」

ファントムに続いて

「副長のパンサーです」

「ライノだ」

「ホークです」

「シープです」

「ジャッカル」

「レイヴン・・・」

「これから学園の警備を担当すると共に、一応教官という立場にもなる。隠密や射撃の技を学びたい者は声をかけてくれ、教授しよう。澪凰と龍姫が言ったから一応私も言っておくが、私も零牙の婚約者だ。くれぐれも気をつけてくれ」

そう言ってファントムは、部隊の面々と共に後ろに下がった。

「出発は、明後日。故にそれまで自主訓練とする。各々我々教官陣に指示を仰ぐなり、挑んでくるなり、英気を養うなり、自由にしろ。ただチームでの連携と“クラウン・ブレイク”については予習しておけよ?以上だ、解散!」

『イエス・マム‼︎』


ーー・・・二日後・魔界

零牙達龍凰学園の面々は、魔界の首都サタナエルのカオス・コンバットの会場であるルシフェル・ドームに会場入りしていた。

そこで、各学園の面々がお互いに挨拶を交わしていたのだが・・・

「この混血風情がッ‼︎この私に向かって舐めた口をッ‼︎」

参加者の顔合わせの場である大広間に、甲高い少女の怒号が響いた。

金髪のツインテールをロール状に長い髪に豪華装飾が施されたドレスをきた、美少女と言っていい端正な容姿ではあるものの、邪悪な印象を与える様な雰囲気の少女の名は、カーラ。

奇しくも先の龍凰市防衛戦でブリュンヒルデが戦った上位ヴァルキリーと同じ名だった。

カーラは、相対する集団ーークラス・アルファの面々に向かって怒りに顔を歪ませながら吠えていた。

「君はそれしか言えないのかな?折角の零牙の晴れ舞台。君如きに邪魔されたく無いんだよね。死にたく無ければ、今すぐ消えると良い」

そのカーラに直接相対しているのは、いつもの様に余裕ある口調で言う澪凰だ。

腰の後ろには既に、漆黒の鞘に納刀された身の丈を超える尺を誇る漆黒の大太刀が顕現していた。

澪凰は、肘掛けに腕を置くように大太刀の柄頭に手を置いていた。

相当に抑えてはいるが、澪凰からはとんでもなく冷たい殺気と剣気が洩れつつあった。

それこそ、少し開放すれば軽く一帯を消し飛ばせる程に濃密な殺気と剣気を・・・。


ーー・・・

事の発端は少し前。

会場に着いた零牙達龍凰学園の面々は、この大広間に通されていた。

豪華な装飾が施された大広間は、参加校の全参加者が余裕で入れる程広く、軽い軽食も用意されていた。

「私達は打ち合わせがあるから、戻って来るまで他の学園の生徒に挨拶でもしておけ。モルガン、龍姫、澪凰・ブリュンヒルデ、此処は任せる。ああ、それと澪凰と龍姫は“斬るなよ”?」

「はーい」

「分かりました」

澪凰と龍姫の返事を聞き届けて、冬華は担任教官達を引き連れて打ち合わせへと向かった。

「さて、挨拶と言われてもなぁ・・・こういう場は苦手なんだよなぁ」

「俺もだ。いきなり話しかけても“なんだ、コイツ?”て思われそうで動きづらいよな・・・」

「んだよ。もう片っ端から挑発してやればいんじゃねぇか?」

「レア、脳筋過ぎるわよ!確かになんだかアウェー感が否めないからこっちからは行きづらいわね」

「同感だ。それに入り口で立ち往生していては、邪魔になるな」

「そうね。まだこれで全員では無いだろうし・・・」

「うむ、取り敢えず移動するかの?」

零牙を含めたクラス・リーダーで、そう話していると零牙はスルカがいない事に気付いた。

「そう言えば、スルカは?」

「スルカならあそこよ、零牙」

零牙の問いに、零牙の側にいる刹那が指し示す。

刹那が差した方に視線をやると、スルカがクラス・デルタとブリュンヒルデを伴って、空いていた場所を取って手招きしていた

「行動が早いな」

零牙は感心してそう言うと、龍凰学園の面々でスルカとクラス・デルタの元まで移動した。

「場所を確保しておいたよ。ここなら全クラスくつろげるんじゃ無い?」

「ああ、助かった」

「流石の行動力ね、スルカ」

そう言うスルカに、零牙は感謝し朧が褒めた。

そうして広々とした場所を確保した龍凰学園の面々は、一旦各クラスに分かれて冬華達の帰りを待つ事にした。

ーー同時刻・同場所

零牙達の少し離れた場所に、仄暗くも煌めく蒼い髪を足下まで伸ばし、豊満でスラリとした身体を誇り、蒼い学生服を着こなす、誰もが羨む程の美貌を持つ凛々しい雰囲気の美少女がいた。

彼女の名はーー【シリウス・K・ベリアル】

昨今の魔界で知らぬ者はいない程の有名人で、学生でありながら既にカオス・コンバットのランキングにおいて【Aー10】に位置するトップランカーである。

シリウスはここまで“無敗”でランクを上げてきた強者であり、同年代の者よりも抜きん出た力と戦闘センスを合わせ持つ【本物の天才】だった。

しかし彼女は、自分の才能に胡座をかくこともなく、鍛錬を怠らず、種族・地位・才能・能力に拘らず分け隔て無く接し、自身のチームにも採用するその振る舞いと他を寄せ付けぬ圧倒的実力から、いつしか彼女は【絶対無敗の蒼き皇帝】と呼ばれる様になった。

シリウスは、学園の皆と共に一通りの挨拶を終えて、小休憩していた。

「ん?あれは・・・」

シリウスは、自身いる場所に程近い一団ーー龍凰学園の面々に目が止まり、“魔眼”を発動させ彼らを観察する。

彼女の透き通る蒼い眼は【ベリアルの瞳】という特殊な魔眼で、基本的な能力として、魔力を見通す事が出来る。

(全員が全員凄まじい魔力の持ち主だ、それにーー)

シリウスは、その中の一人に視線が釘付けになった。

(なんて・・・なんて“綺麗”な魔力なんだ)

その中の一人ーー零牙の魔力にシリウスは驚愕していた。

(夜の闇よりも暗く、全てを飲み込む様な漆黒の魔力。だがそこに黒にどうしても抱いてしまう禍々しさ・不吉さ等の一般的なイメージは無い。まるで、何処までも美しく全てを内包し全てを飲み込むーー“宇宙の深淵“)

「会長、如何されました?」

シリウスが見とれていると、側に控えていた厳格そう雰囲気を放つ、ブロンドの髪を肩まで伸ばした金色の瞳の美少女【ルグア・D・フラウロス】が話しかけてきた。

「ん?・・・ああ、すまない。少し見とれてしまった」

「あんたが見とれるなんて、珍しいな」

そう話しかけて来たのは、長い黒髪をポニーテールに紅い瞳をした粗暴そうな印象の美少女【ブライア・D・アムドゥスキアス】。

ルグアがとブライアは、シリウスの右腕左腕と言える存在だ。

「フ、私とて見とれることもあるさ。ましてやそれが、見たことも無い“綺麗”な魔力の持ち主ならばな・・・。君もそうだろう、ブライア?君ならば、彼の魔力を“直感”で感じ取る事が出来るのでは無いか?」

「ああ、確かにな・・・。周りの連中の魔力の大きさで霞んで見えそうだが、あいつからは異常な程の“質と濃密さ”を感じる」

ブライアが視線の先にいる零牙を見ながら言った。

「それで、どうするのですか?会長?」

ルグアがシリウスに促す。

彼女も、その身に流れる魔と獣の血により何かを感じているのか、少し早口だった。

「勿論、挨拶するさ。私自身、彼を間近で見たいという気持ちがあるからね。では、行こう」

そう言うとシリウスは、悠然と零牙達に近づいていった。


ーー・・・

「ーー失礼。龍凰学園の面々とお見受けする」

不意にかけられた凛々しい声に、談笑していた零牙達は、その声の主の方を見る。

「貴女は確か、ベリアル家の・・・」

「うむ、その通り。私はシリウス・K・ベリアル。我が一族の名を冠する学園で、生徒会長を務めている。私の後ろにいる者達は、我が学園の者達だ。私共々、これからお見知りおきを」

シリウスの後ろにはベリアル学園から今回参加する者達が控えていた。

そう言って、手を差し出した。

「凰月零牙です。こちらこそ宜しくお願いします」

零牙は差し出されたシリウスの手を握り、握手を交わした。

シリウスは零牙と握手を交わしながら、側にいたクラス・アルファの面々とも挨拶を交わす。

「そう言えばベリアルさんは、先程からこちらを見ていた様に感じるのですが・・・」

「ふふ・・・気付かれていたか。少し恥ずかしいものだな・・・。ああそれと同年代なのだから敬語は不用でいいよ、私の事は遠慮なくシリウスと呼んでくれ」

「分かった。なら、俺の事も零牙と呼んでくれ。ではーーシリウス、何故俺達を?」

シリウスは少し顔を赤らめ、恥ずかしそうにしながら言う。

「そうだなぁ・・・。先程も言った様に恥ずかしいのだが・・・見惚れてしまったのだ」

「はい?」

その瞬間ーー零牙の側にいる婚約者達全員から、何か言いようの無いプレッシャーが湧き上がる。

(ん、ん?どうしたんだ、皆?)

「えっと・・・それはどう言う・・・」

零牙は婚約者達が何故いきなりプレッシャーを放ったのか分からなかったが、他の龍凰学園の面々は察した。

零牙が困惑していると、シリウスの眼が突如蒼く輝いた。

『ーーッ⁉︎』

蒼く輝くシリウスの【ベリアルの瞳】に呼応して、零牙達の【龍眼】が発動し、この大広間全体に常に視られている感覚と、心臓を鷲掴みにされている様な重圧が大広間の全員に襲いかかる。

ある程度、殺気やプレッシャーに相対した事がある者であれば、なんとか屈さずに辛うじて耐える事が出来るが、その経験がない達は耐える事が不可能だった。

現にこの大広間の至る所で腰を抜かし、意味不明な重圧に怯えている者が何十人もいた。

しかも複数人が同時に発動した為、【龍眼】の影響はその分何重にもなって襲いかかる。

流石に本人達が敵と認識しているわけでは無いので、幾分かは軽めになっている。

ーーバキ!バキバキ‼︎ガシャン‼︎

強大な【龍眼】の影響は、複数人分の相乗効果により、周囲の環境にまで“物理的に“及んだ。

「こ、これは・・・っ⁉︎」

発端となったシリウスは、その影響に驚愕している。

本来なら、零牙達は【龍眼】を制御出来るのだが、シリウスの“ベリアルの瞳”で内部を視られた状態の為、たとえ敵対行動では無くとも”反射的な防衛本能“によって呼応してしまった。

それ程までにシリウスの魔眼は強力だった。

「シリウス、魔眼を戻してくれ・・・!君の魔眼に呼応して発動しているんだ!このままでは、経験の浅い者は耐えられない!」

「ッ!ああ、分かった・・・!」

シリウスが魔眼を通常時に戻すと、零牙達の【龍眼】の防衛本能が収まり、影響もフッと瞬時に消えて無くなった。

【龍眼】の影響が無くなり、大広間の者達は徐々に落ち着きを取り戻していく。

しかしそれでも、尋常ならざる“龍の気配”の一端を体験した者達に、少なからず龍種への恐怖が刻み込まれただろう。

(防衛本能で発動した龍眼は、やはり見境無いな・・・)

龍凰学園の者達は、【龍眼】には慣れていたので影響はほぼ無いが、大広間の他の学園の者達の様子を見て零牙は思った。

そんな零牙の考えを読んだのか、澪凰が言う。

「まあ、流石にキツイだろうね。いきなり龍が眼前に現れた様なものだからね」

「すまない・・・君の魔力を間近で見たかっただけなのだが、まさか私の魔眼に呼応するとは・・・」

シリウスは少し頭を下げながらそう言った。

「気にしないでくれ。さっきのは”龍の防衛本能“みたいなものだ。君の魔眼の力が強かった為に、反応してしまったのだと思う」

零牙は頭を上げる様に促しながら言った。

「そうなのか・・・本当にすまない」

そう言った後に大広間の者達に向けて、シリウスが謝罪する。

「皆もすまない‼︎さっきのは私が迂闊だったのだ‼︎」

「それで、シリウス。俺の魔力を見たかったとはどういう・・・?自分で言うのも何なんだが、魔力はそんなに多く無いぞ?」

「うむ。確かに側にいる者達と比べれば、君の魔力総量は少ない。だが、魔力総量とはあくまでも大まかに使える量だ。その事は零牙の魔力を見て改めて実感した」

シリウスは一息ついて、零牙の心臓辺りを見つめてから、零牙を真っ直ぐに見据えて続ける。

「零牙の魔力は尋常のものじゃ無い。さっきも言ったが、魔力総量自体は一見少なく見える。だがその魔力自体の密度が恐ろしく濃密だ。戦闘技法の“魔力圧縮”を、まるで通常状態にしたかの様な濃密さなのだ。しかもそれで全てでは無く、その奥底に更に極限まで圧縮され、かつ黒い鎖の様な物で封じられた魔力が見えた」

(ほう、流石はベリアルの瞳と言った所か。そこまで視えているとはな)

零牙の内で聞いているサイファスが感心した。

「それにそんな空恐ろしい程の密度なのに、”綺麗“だと思ったのだ。まるで宇宙の深淵の如き漆黒・・・一気に興味を惹かれたよ。最早、虜と言ってもいい程に、ね」

「はは・・・それはどうも。なんて言うか・・・そこまで言われるとは思って無かったよ」

零牙は、少し照れながら言った。

「謙遜する必要はーー」

シリウスが言いかけたその時ーー

「いいねえ、さっきの感じ。ゾクゾクしたぜ!」

強気な少女の声が割り込んだ。

話し込む零牙達に一人の少女が近づいてきていた。

「・・・アルタイル」

シリウスはその少女の名を呟く。

ーー【アルタイル・K・ベリアル】

その容姿はシリウスに酷似し美しく、スラリとした豊満な容姿を持つが、眼は少し吊り目気味の切長で、シリウスとは正反対の足元まで伸びる仄暗い紅髪を持つ、危険な雰囲気の美少女だ。

アルタイルは足早に零牙に近づき、身を乗り出す様にして顔を覗き込む。

『ーーッ⁉︎』

「な、何か・・・?」

しかも、その顔は“密着”しそうな程に至近距離で真っ直ぐ覗き込んでおり、これには流石に零牙も困惑し、婚約者達も驚愕し息を飲む、ただし別の意味でーー

アルタイルは、その紅い瞳でジーッと見つめる。

そうして少し見つめた後ーー

「良いね、ようやく見つけた・・・」

「え?」

不敵な笑みを浮かべそう言ったアルタイルは、覗き込むのをやめて背筋を伸ばす。

「いや、何でも。さて自己紹介しようか。私はアルタイル・K・ベリアル。そこのシリウスとは“姉妹”だ」

そう言ってアルタイルは零牙に手を差し出す。

「凰月零牙です。よろしくお願いします」

「最初に言っておくが、シリウスと同じで呼び捨てでいいからな?零牙、お前には資格がある」

「わ、分かった」

((また、増えるな・・・))

こここまでのやり取りで、婚約者達は近い将来を予想してそう思った。

「さて、私の挨ーー」

アルタイルが、零牙に言いかけたその時ーー

「ーーグァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァっァァァ‼︎」

大広間に耳をつん裂く様な悲鳴が響き渡った。


ーー・・・ほんの少し前

一人の男子が、大広間に入室していた。

その男子の名は【ライド・G・ブエル】。

金色の髪と吊り目気味の赤眼をした、そこそこ整った容姿をしたかなりプライドの高そうな少年である。

更に、ここ最近頭角を顕してきている期待の若者とも言われ、ブエル一族の一族固有能力である【超回復】が歴史上稀に見る強力さと言われており、長剣を使う近接戦主体の戦闘スタイルでありながら、今まで一度も傷を負った事が無い事から、彼は自ら【無敵皇帝(パーフェクター)】と自称していた。

ライドは、自身の取り巻きであるチームメンバーを引き連れながら、肩で大きく風を切る様に入室した。

大広間の入り口で立ち止まったライドは、大勢の学生(女生徒)達を物色する様に、見渡し“獲物”を探す。

(いいねえ〜、よりどりみどりじゃねえか。こいつら全員が俺様に跪くと思うとゾクゾクするぜ・・・!)

ライドはいやらしい笑みを浮かべながら、主に女性達を眺めながら何の根拠も無い事を想像する。

しかし、その“想像”が失敗だった。

ライドはそもそも自分が”特別な人間“であるという自分にとって絶対の真理の元、己の欲望のままに行動してきており、それが全て正しい事だと信じて疑わなかった。

特に、女は自分に屈服するのが当たり前なのだと本気で思っている様な人間なのだ。

ライドは様々な学園の美少女や美女達を眺めながら、考えていた。

(カオス・コンバット。めんどくせえと思ってたが、これだけ俺様の”物“に相応しい女共がいるなら悪くねえなぁ。しかも、この俺様が最強だって事を世界中の愚民共に知らしめられる。ククッ、まさに俺様の為に用意された晴れ舞台じゃねえか)

そうして、再び誰から自分の”所有物“にしようか迷っていると、視界に絶世の美少女と美女達が集まる”クラス・アルファ“の面々が視界に入った、いやーー”入ってしまった“。

(なッ⁉︎ヤベェ、何だあの女共は⁉︎見た事がねぇぐらいの美女達じゃねえか‼︎よし!まずはアイツらを俺のーー)

獲物を見つけたライドは、更に醜悪な程のいやらしい笑みを浮かべながらそこまで考えた瞬間ーー

「ーーグァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァっァァァ‼︎」

理解不能な激痛が襲い、地面に倒れ伏し絶叫した。

「何だ?おい、どうしたんだよ?」

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ⁉︎」

チームメンバーの一員である、ライドの側近とも言うべき短い黒髪を逆立てた大柄な少年と長い紫髪の少女が声を困惑しながら声をかけた。

仲間のそんな声に反応も出来ずに、ライドは胸を押さえながら床でのたうち回る。

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼︎何なんだよこれ⁉︎ふざんけんな‼︎ふざけんなよ、クソがぁ‼︎︎何でこの俺様が苦しんでんだよッ⁉︎)

ライドの普段の横暴ぶりを知っている者達からは、嘲笑の目が向けられる。

普段であれば、自分を一瞬でもそんな眼で見た奴は、チームメンバーの男子複数人で袋叩きにする。

自分に従わない者、自分に意見する者、自分の思い通りにならない者は全て“悪”と断じる。

更に己の力を過剰に過信し、女性を下に見る。

それが、【ライド・G・ブエル】という少年なのだ。

だが、今はそんな眼を向けている者に意識を向ける余裕は無かった。

ライドの心臓は、【月の加護】によるカウンターで何十回と破壊されていた。

不可視の刃でズタズタに斬り裂かれ、極大の重力により圧壊される事、実に11人分。

更に澪凰と龍姫に施された【月の加護】とは別の、それぞれの祖母から与えられた加護【天の加護】と【雷の加護】により、太陽の炎と雷によって一瞬で消し炭にされる。

それら11人分の零牙の婚約者達に施された【加護】によるカウンターが、瞬時にライドを襲っていた。

常人でも訓練された戦士であっても、一瞬で精神を撃ち砕き、本来であれば死に至らしめる【加護】。

だがライドは死ななかった、いやーー死ねなかった。

ブエル一族の能力である【超回復】がライドの心臓を即座に修復し、精神を強制的に再生させた。

本来であれば優秀な能力であり、ライドも自身を【無敵皇帝】とまで自称する所以の【超回復】も、この瞬間だけは地獄の様な能力であった。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァ‼︎」

涎を撒き散らしながらのたうち続けるライド。

零牙達は恐らくそれが【加護】によるものであると分かっていたが、零牙も婚約者達も“ああ、そういう奴か”と理解していた為、最初から興味は無い。

「何かの発作か?」

「さあな?そもそもあんな奴に興味ねえからな。気にするだけ無駄だぜ、シリウス」

「それもそうだな」

側にいるシリウスとアルタイルも疑問を浮かべるが、直ぐに意識の外に置く。

「お、おい、なんかよくわかんねぇが、流石にヤベェよな?」

「と、とりあえず治療室に連れて行きましょう・・・!」

痛みに叫び続けるライドは、仲間達に抱えられて大広間から連れ出されていった。


ーー・・・

「何だったんだ、今の?」

「だが、いい気味だぜ・・・!あの野郎、いつも威張り散らして偉そうだったからな!」

周囲のそんな声が聞こえたフェンリルは思う。

(あれは姫様方の【加護】に当てられたか・・・という事は、奴は下衆だったという事だな。しかし、あれで死なぬとは・・・【超回復】だけではあるまい。恐らく、流石にここでは“殺し”はだめだという姫様方の自制に【加護】が反応した結果か・・・)

「えーと・・・なんか途中で遮られちまったが、ほらよ、私らと同じ“K”の奴等がこっちに来るぜ?」

アルタイルにそう言われて、零牙達が周囲を見渡しと広い大広間の至る所から零牙達がいる場所に、大勢が集結しつつあった。

“K”、魔界においてこの名が指し示すものは、すなわち“王族”である。

零牙達の元に来た“K”の名を持つもの達と、零牙達は挨拶を交わしていく。

茶髪を逆立て、紅い瞳を持った粗暴そうな印象だが、話してみると気さくな長身の男子【ファルガ・k・ザガン】。

翠色の髪を腰元まで伸ばした凛々しくスラリとしたスタイルの美少女【ルティナ・K・ベレト】

豊満なスタイルを露出の多い制服で包み、長い黒髪をポニーテールにした鋭い刃物の様な印象を放つ美少女【ラファル・K・パイモン】。

眼鏡をかけた長い紫の髪の理知的かつ中性的な外見の美少女【イオン・K・アスモデウス】。

紅く縁取られた蒼い長髪の厳格そうな美少女【ルーヴ・K・マルコシアス】。

その双子の妹であり、蒼く縁取られた紅い長髪【ルーネ・k・マルコシアス】

金色のメッシュが入った漆黒の髪と金色の瞳の美少女【レグリナ・K・ヴィネ】。

その妹である、金色のメッシュが入った純白の髪と金色の瞳を持つが、自信なさげな様子の美少女【アリエル・K・ヴィネ】。

燃える様な紅蓮の髪を無造作にふくらはぎ付近まで伸ばし、紅蓮色の瞳の男勝りな美少女【レオーネ・K・プルソン】。

そしてーー

「初めまして。俺の名は、【レリウス・K・バエル】。試合で当たった際には、お互い全力で戦うとしよう」

ーー【レリウス・K・バエル】

流れる様な金色の髪と碧眼、整った顔立ちでいかにも王子様と言った少年である。

その隣には、腰元まで伸ばした長い金髪を襟足で一つに結えた、いかにも女騎士と言った雰囲気の美少女が控えている。

「ああ、こちらこそよろしく。俺も、全力を望むよ」

そう言って零牙は、レリウスと握手した。

「ああ・・・そうだな。」

(ん?これは・・・)

その答えと共に一瞬見せた言葉の揺らぎ、そしてその目の奥に垣間見えたものに零牙は違和感を覚えた。

レリウスが“全力を望む”やその答えを述べる時の瞳に、僅かに“諦観”が感じられたのだ。

零牙がその事について聞こうと口を開くより前にーー

ーーバァン‼︎

いきなり大広間の扉が蹴破られたかの様な勢いで開き、新たな一団が入り口に立っていた。

そして、その一団の最前列中央であたかも率いているかの様に振る舞う長身の男が、嘲笑の笑みを浮かべながら口を開き、第一声を放つ。

「ーーハッ‼︎何だ、雑魚ばっかじゃねぇか!」

男は足を踏み入れて大広間の者達を見渡し、鼻で笑うとその言葉を放った。

男ーーその少年は、くすんだ様な灰色の髪をし、金色の眼をしており、第一声の後に自身の取り巻きを引き連れ、大広間を少年と取り巻きが周囲を威圧しながら進んでいく。

「ーーオラ‼︎邪魔だ‼︎」

「ーーぐぅ⁉︎」

「ーー雑魚共がッ‼︎セト様の前を塞ぐんじゃねえよ‼︎」

「ーーキャッ⁉︎」

ーードン‼︎

大広間進む最中、セトと呼ばれた少年の取り巻きが近くにいた他の学園の生徒達を、乱暴に足蹴にしていった。

そうしてセト率いる一団が中央付近の軽食が置かれた一際大きな円状のテーブルにたどり着くとーー

ーーガシャァン‼︎

取り巻きの一人がテーブルクロスを乱暴に引いて、上に乗った料理を床にぶち撒けた。

「よっと」

そして、何も無くなったテーブルの上にセトが飛び乗り、大広間を見渡す。

自分が一段高い所から見下ろしている事に、愉悦を感じ笑みを浮かべた後、セトは尊大かつ乱暴な物言い宣言する。

「ーーいいか、雑魚共!俺は最強の天族、堕天使セト・U・ワームウッド‼︎お前ら無能の雑魚共とは格が違う、本物の強者だ!雑魚共じゃ俺の足元にも及ばないが・・・俺は寛大だ。だから、“命令”してやる。試合で俺に当たった奴等は、土下座して降伏しろ。そうすれば痛めつけずにおいてやる。だがもしこの俺と戦うってんなら、ぐちゃぐちゃに踏み潰してやるから覚悟しろよ?ーーハハハハハハハハハ‼︎」

セトはそう一方的に宣言して、高笑いしながらテーブルから飛び降り、元来た道を辿る様に大広間より出て行く。

その途中で、セトは入り口付近で呆れ果てた顔でこちらを睨む少女達の存在に気がついた。

「何だ?この俺に文句でもあんのか?ーーミカエル?」

少女達の中央にいたミカエルと呼ばれた美しい長い金髪の少女は、呆れた果て怒りを滲ませた瞳で、セトを見据える。

「大有りだ。貴様、どういうつもりだ?初対面の者達、しかも実力も知らぬ他の学園の生徒達を雑魚呼ばわりなど、非常識にも程がある。撤回して、この場の者達に謝罪しろ」

金髪の少女ーーミカエルは腕を組んで毅然とした態度で睨んでいた。

「はぁ?雑魚を雑魚呼ばわりして何が悪い?それに非常識だぁ?謝罪しろ?ふざけた事抜かしてんじゃねえよ。いいか?“常識”は俺だ。俺が“常識”を決める」

「何を言っているのだ、貴様は?」

ミカエルと呼ばれた少女が怪訝そうに眉を顰め、心底意味が分からないと言った感じで聞き返す。

「いいか?いずれ俺は天界の至高天になる男だ。天界も魔界も人界も、全ての存在はこの俺様に跪く。わかるか?俺は“選ばれた存在”なんだよ。つまり、未来の絶対者であるこの俺から見れば、俺以外の奴等は全員雑魚ーー虫ケラ以下だ」

「貴様・・・妄言も大概にしろ!」

意味不明な発言に、ミカエルと呼ばれた少女は静かな殺気を顕にし言った。

だがそれに気付かずにあるいは鈍感なのか、セトは相変わらず嘲笑の笑みを浮かべている。

「本当に無礼な女ねぇ、ミカエル。セト様こそ絶対の強者だと言うのに・・・」

セトの腕に絡みつく様にして、紫色のウェーブがかった髪をした妖艶な雰囲気の少女が割って入った。

「黙れ。貴様と話しているのでは無い」

ミカエルはピシャリと少女に言った。

「あら、怖い。でも、セト様に楯突いたのだからこの場で殺そうかしら?」

紫髪の少女が得物を取り出そうとするが、セトがそれを制した。

「よせよ。どうせミカエルも他の“七大天使の娘”達も、いずれ俺に平伏する事になるんだ。俺に楯突いた仕置きはその時にとっておけ。まあ、この大会で当たった時は、大観衆の前で這いつくばらせてやるがな」

「まあ、それはいいお考えです!セト様!」

「ーーそういう訳だ。精々俺を楽しませて見ろよ?有象無象の雑魚共?ーーハハハハハハハハハ‼︎」

そう言って高笑いしながら、セトは取り巻きを連れて大広間を出ていった。

「奴め・・・何と傲慢な・・・。天界以外でもいきなり問題を起こすとは・・・」

ミカエルが頭を抱えていると、ハネっけの強い紅い長髪の男勝りそうな少女が、ポンと肩に手を置きミカエルに言う。

「お疲れ、”ライラ“。お前のせいじゃ無いさ、あの野郎がクズだってだけだ」

紅髪の少女に賛同する様に、他の五名の“七大天使の娘”達が頷いた。

「だとしても、迷惑をかけたな。ーー人界、魔界の皆様、同界の者が申し訳ない事をしました。ここに謝罪致します」

全く、非はないと言うのに金髪の少女【ライラ・S・ミカエル】は、大広間の者達に向けて頭を下げた。

ミカエルだけに頭を下げさせる訳にはいかないと、他の七大天使の娘達、更にはそれぞれのチームメンバー達もミカエルに続いて頭を下げた。

そんなミカエル達の対応に、大広間の至る所からーー

「頭を上げてくれよ!あんたらは悪く無い!」

「そうよ、あの連中の代わりに謝る必要は無いわ!」

「ーーミカエルたん、マジ天使!」

最後にオタクぽい発言が聞こえたが、ミカエルはそれでも毅然とした態度でーー

「すまない、感謝する」

そう言った最後まで、頭を上げなかった。

その後、ミカエル達は大広間の空いている場所に移動した。

だが、直ぐに他の学園の生徒に囲まれて挨拶責めに遭っていた。


ーー・・・

零牙達龍凰学園組とレリウス達魔界組は、嵐の様な出来事に唖然としていた。

ちなみに、零牙の婚約者達は少し苛ついていた。

セトが何度も大広間の者達に向けて言った“雑魚共”の中には、零牙を含めた大広間にいるセト以外を全員を含んでいる事に気づいていたからである。

セトはさっき辛うじて命を拾っていたのである。

もしさっきの演説を何かの拍子に零牙に向けていたのなら、セトは一瞬で殺されていただろう。

さっきの言葉は、零牙に直接向けていなかったかつ零牙自身がセトに対して無関心であった為、彼女達の共通認識でーー

(『クズの戯言、聞く価値は無い』)

と思っていた。

だがーー

(『試合で当たったら、絶対ぶちのめす』)

と全員が考えていた。

そして、今回教官として来ている為に学生同士の試合には出れない澪凰と龍姫はーー

(まあ、零牙に直接言って来たら殺すけどね)

(零牙に向かって言ったら、殺しますけどね)

と考えていた。

一方、突然の出来事に握手を交わしたままの状態だった零牙とレリウスは、口を揃えてーー

「「何だ、アイツ?」」

「どうやら、天族の様だな。しかし、彼女と一緒にいる者達が、“七大天使の娘達”か・・・後で挨拶に行かなければな」

「良いねぇ・・・零牙程じゃないが、戦うのが楽しみだ」

シリウスとアルタイルが、他の学園の生徒に囲まれているミカエル達を見て言った。

「レリウス、握手したままですよ?」

レリウスの側にいた金髪の少女が言った。

「あ、ああ・・・そうだったな」

「何かよく分からん奴が来たからな、すっかり忘れてた」

レリウスと零牙がそう言って握手を解いた。

そしてこの直ぐ後に、一番の問題児がこの大広間に現れた。


そして、その少女はあろう事か、【黒天の剣聖】と謳われる【黒天の皇】である澪凰と対峙してしまう。


ーー10秒後

ーーバァン‼︎

またも勢いよく大広間の扉が開く。

「ーー・・・ああ、臭い臭い。混血風情の匂いが充満して、鼻が曲がりそうだわ」

入室早々にそんな事を口にして、ブロンドの髪をアップにまとめたその少女は、尊大な態度で歩き出す。

少女の後を取り巻き達が後に続きーー

「邪魔だ!混血共がッ!」

「混血の風情が・・・!カーラ様の視界に入るな!クズ共がッ!」

そんな暴言を吐きながら、カーラと呼ばれた少女の進行方向にいた生徒達を、男女関係無く殴り蹴飛ばして、無理矢理に道を作る。

カーラは、大広間の中央付近で立ち止まると周囲を見渡しーー

「・・・あら?」

零牙達の方で視線が止まり、何かを見つけた様子でそう呟くと、軽蔑しきった笑みを浮かべながら近づいていった。

「あらあら。誰かと思えば、雌ライオンじゃない」

「ーー何の用だ、【カーラ・D・アイム】」

金色のメッシュが入った漆黒の髪の少女【レグリナ・K・ヴィネ】が言った。

そのブロンドの髪の少女【カーラ・D・アイム】は周囲の“K”の名を持つ者達を見渡し言う。

「宣言しに来たのよ。大観衆の前で、混血の筆頭たるお前たち偽物の王族を無様に這いつくばらせる、と」

「わざわざ、そんな事を言いに来たのか?私は同じ学園故に日頃からお前の戯言には慣れているが・・・他の学園にまで毒を吐くなど、【D(公爵)】の名に相応しい行いではないだろう」

レグリナはその豊満な胸の下で腕を組み、カーラの言葉に毅然とした態度で対応した。

「相応しい行い?それを決めるのは、お前では無いわ。この私、この私の行動こそが貴族として、そして真の純血の者として正しく模範的な行いというもの。したがってそれ以外の言葉も、ましてや混血共の言葉など聞く価値も無い」

カーラは嘲笑う様にそう言った。

「相変わらず身勝手な考えだな。そもそも、碌に鍛錬もせず自身の力を高めようとしていないと言うのに、お前は私達全員に本気で勝つつもりか?」

「鍛錬?ハッ!くだらない!私には、才能があり力がある。そんな事は、程度の低い下民がする無駄な行為。まあ、混血風情はそんな事も分からないのでしょうね」

カーラは自慢げに言い放った。

その言葉を聞いて、零牙は思う。

(鍛錬を否定するのか・・・。この態度といい、これはーー“弱い”な)

「まあいい。これで用事はすんだか?満足したのなら、後は向こうで大人しくしていろ」

溜息をつきながら、レグリナはそう促した。

その言葉には、面倒だなと思っているのが窺えた。

「混血風情の言葉などに、従う道理は無いわ。興味があったのよ。偽物の王族が群れてる原因にーー」

この言葉に、レグリナ達“K”の名を持つ者達は全員“不味い”と思った。

カーラは、まだ毒を吐こうとしている。

新しくこき下ろす相手を見つけたカーラの表情は邪悪な笑みを浮かべ、心底楽しそうに矛先を向けようとしていた。

カーラの視線が、零牙に向いた。

ハッとなったレグリナが声を上げる。

「おい、いい加減しろ!」

カーラはその言葉を無視し、零牙を品定めするかの様に見る。

その不躾な軽蔑しきった視線に、零牙の婚約者達は身構える。

「成る程、いかにも下民といった様子ね。雌ライオン達が集まっていたからなにかと思えば人界の混血とは・・・。とんだ無駄足だったわねぇ。この私の時間を無駄にして、どう責任を取るつもりかしら?そこの“不細工な混血“?」

零牙に向けて放たれたその言葉には、周囲の者は首を傾げた。

そもそも零牙は、パッと見美女に見間違える程のかなりの美形だった。

その為、何処をどう見たらそんな言葉が出てくるのかと、カーラの取り巻き以外の周囲の者は理解出来なかった。

ーーブチ

カーラの言葉で婚約者達はーー完全にキレた。

静かに立ち昇る殺気に気付かずに、カーラは零牙の返答を待つ。

「お前に言っているのよ、人界の混血?」

カーラはニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべて、零牙に言った。

その様子から、どう返事をしても見下してやろうと考えている事が見てとれた。

「いや、俺には君と話す気は無いが?」

零牙がそう言うと、我が意を得たりという様に更に邪悪な笑みを深くして、嘲笑う様に言う。

「ああ、”下界“の混血風情には理解出来なかった様ね。こんな猿に私の時間を無駄にされるなんて不愉快極まり無いわ。少し、お仕置きが必要ね。お前達!」

カーラが引き連れる取り巻き達の中から、三人の少年達が前に出る。

「この下界の混血に、私の時間を無駄にした罰を与えてやりなさい」

こ綺麗ではあるがガラの悪そうな少年達が、ニヤついた笑みを浮かべながら零牙に相対する。

「覚悟しろよ、混血?」

「さぁて・・・どうやってズタボロにしてやろうか?」

「へへへ・・・」

周りの人間が止めに入る事を想定していないのか、そんな事を言いながら戦闘態勢に入っていた。

零牙もいつでも応戦出来る様に、構える事なく臨戦態勢に入る。

三人の取り巻きが一歩足を進めた瞬間ーー

ーードスッ‼︎

『グゥ・・・⁉︎』

その三人が同時に、何らかの衝撃を受けた様に吹き飛ばされ、壁にめり込む程に叩きつけられた。

「なッ⁉︎な、何が⁉︎」

遅れて、カーラが飛ばされた三人を振り返り驚愕の声を上げる。

カーラは、壁に叩きつけられてピクリとも動かない自身の取り巻きを見た後、零牙達に向き直る。

するとーー

「正直さ、我慢の限界なんだよね。まあ、こういう場だから一応死なない様に“手加減”したけど」

零牙を庇う様にして澪凰が立っていた。

「お前が、やったのか?お前様な混血如きが、私の物に手を出すなどッ‼︎万死に値する‼︎」

カーラは、目の前の澪凰が取り巻きを倒したと分かると、怒りの形相でそう言いながら魔力を昂らせる。

「へえ・・・?」

膨大な魔力がカーラから溢れ、魔力よる圧が周囲に撒き散らされ、物が舞い上がる程の衝撃波が起こるが、澪凰は全く同じておらずに余裕だった。

そんな様子にカーラは更に激高する。

「このッ!混血風情がッ!この私を怒らせる事がどういう事かその薄汚い身を持って味わうがいい‼︎」

カーラは右手を澪凰へと向けて、その手に魔力を集束させていくがーーその魔力集束はしっかりと集束出来ておらず、集束というよりもただただ手に集めただけという様相だった。

その事だけで誰が見てもわかる様に、カーラには技術が伴っていなかった。

「その程度で?」

ーーゴォウ‼︎

そう言った瞬間ーー澪凰から衝撃波が放たれ、カーラの右手に集まっていた魔力と身体の内より溢れた魔力を一瞬で消し飛ばす。

「なッ⁉︎馬鹿な⁉︎私の魔力を⁉︎お前ぇ‼︎何をした⁉︎」

激高し冷静さを欠くカーラに対し、冷静な澪凰。

「ただの剣気だけど?まあ、君程度では永遠に理解出来ないだろうね」

「何を訳の分からない事をッ‼︎」

冷たく返答した澪凰に、カーラの怒りは留まることを知らない。

澪凰は何の攻撃動作を見せていないが、澪凰は剣気を指向性の衝撃波として、意識するだけで飛ばしていた。

それによってカーラの魔力も消し、取り巻きの三人も戦闘不能にしたのだ。

しかし、その様子を見ていた零牙は思っていた。

(これは・・・いつ斬られてもおかしく無いな)

零牙は分かっていた。

澪凰は“手加減”したと言うが、殺さないつもりでは無い。

過去に零牙を澪凰の前で侮辱した愚か者は、一瞬で斬り捨てられた。

だから今回も零牙を面と向かって侮辱したカーラの命は風前の灯だった。

その証拠に澪凰の腰帯には、漆黒の鞘に収まった天羽々斬が顕現しており、澪凰は大太刀の柄頭に右手を置いていた。

ーー澪凰からしてみればいつでも、反応する間も与えずに殺せるのだ。

自身が偉いと、自身が強いと勘違いして零牙を侮辱したこの女を。

そして澪凰からは、既に発動している龍眼の影響と冷徹な殺気が溢れており、自身に向けられているわけでは無いが周囲の者に否応無しに二重の重圧が襲う。

そしてもちろん、他の婚約者達からも殺気が溢れており、澪凰と合わせてその全てはカーラへと向けられていた。

ちなみに男性陣と、婚約者では無い女性陣は大人し静観していた。

もちろん従者でもある影刃や龍護、フェンリルも怒り心頭だったが、自分達の出る幕では無いだろうと思い静観していた。

零牙は婚約者達の怒りを、奥底の繋がりから深く感じとっていた。

(これは殺気が尋常じゃないな・・・。スカアハさんやモルガンさんは抑えている様だけど、他の皆の気が既に本気レベルだ。それにーー)

零牙はチラリと大広間の入り口付近を見る。

冬華の護衛には、【亡霊の(ファントム・トゥース)】全員が付いて行ったのだが、いつの間にか隊長であり婚約者の一人でもあるファントムが戻って来ており、零牙への侮辱を聞いていたのかカーラに大型ハンドガンの銃口を向けていた。

(グーーファントムさんは次にあのカーラとか言う女子が俺に何か言った瞬間に躊躇いなく撃つだろうな・・・。だがそれより早く動くのは、やはり澪凰姉さんだろうな・・・。しかしーー)

そんな自身へと一点集中する殺気に気づいているのか否か、カーラはヒステリックに喚き立てながら思いつく限りに混血への侮蔑と差別発言を繰り返している。

(この殺気の中で、よくもあそこまで自分を保てるな。普通彼女の様な奴は、あの殺気には耐えられない筈なんだが・・・余程肝が据わっているのか、それともただ鈍感なだけなのか・・・?まあ、恐らくは後者だろうな)

そこまで考えた零牙の耳に、あいも変わらず喚きたてる少女の怒号と、澪凰の冷たく呆れるも静かな殺気が滲む声が聞こえてくる。

「この混血風情がッ‼︎純血であるこの私に向かって舐めた口をッ‼︎」

「君はそれしか言えないのかな?折角の零牙の晴れ舞台。君如きに邪魔されたく無いんだよね。死にたく無ければ、今すぐ消えると良いよ。ああそれとも、私が君を“終わらせて”あげようか?まあなんにせよ、次にその口が零牙への言葉を吐いた瞬間ーー斬り捨てるけどね」

澪凰の殺気が更に濃密になり、漆黒の鞘の鯉口からは既に剣気が迸っている。

カーラは、気づいていないない。

次に零牙への言葉を吐いた瞬間ーー目の前で相対している澪凰だけでは無い、刹那、アイナス、織火、朧、アンジェ、アリシア、モルガン、スカアハ、ファントム、龍姫とここにいる婚約者達に確実に八つ裂きされるだろう。

しかもほぼ全員、背後に龍を象ったオーラが顕現しつつあった。

しかし、激高が頂点に達しているカーラはその事実に気づくことは無く、口汚く混血を罵る言葉を大声で叫んでいる。

魔界九皇族(デモンズ・ナイン)】の学園の代表とも言える“K”の名を持つ者達も、流石にそろそろ黙らせようかと思っていたその時ーー

「ーー何の騒ぎだ‼︎」

凛々しい声が大広間に響き、全員の注目を集める。

声を発した女性【凰月冬華】が護衛についていた【亡霊の(ファントム・トゥース)】を引き連れ、各学園の主任教官陣と位が途轍もなく高そうな二人の男女と共に大広間に戻って来ていた。

「打ち合わせが終わって戻ってきてみれば、何だこの惨状は‼︎ここは、挨拶と互いに力戦奮闘を誓い合う場だ‼︎それをあろう事か、混血への侮蔑の言葉を喚き散らすとは何のつもりだ‼︎」

冬華は背筋が薄寒くなる程に冷徹な眼差しでカーラを見据えながら、静かな怒りによって濃密な剣気と殺気を纏いながら零牙達の元へ歩いてきていた。

そしてその濃密かつ大きすぎる“気”によって、一歩足を進めるごとに、“床にヒビが入っている”。

冬華は、混血への侮蔑と差別の言葉に対しての怒りもあったが、大半をーー9割以上怒りを占めているのは、やはり零牙への侮辱だった。

公の場に置いては、零牙へのスキンシップを他の婚約者達よりは抑えているが、冬華も零牙へ侮辱は一切許す気は無く、そもそも零牙中心に物事を考えている。

しかし、周囲の学生達はもちろんの事、実力者でさえ身震いする程の“気”を放つ冬華にさえも、激高して感覚や本能が麻痺しているのかカーラは食ってかかる。

「分を弁えろ、混血がッ‼︎純血である私に口をーー」

「・・・黙れ小娘・・・!」

「ウッ・・・・・・⁉︎」

食ってかかったカーラの言葉を遮って、冬華のドスの効いた一喝と一瞬当てられた“本気の殺気”により、流石のカーラもたじろいでしまった。

それはそうだろう、冬華は一瞬だが戦場での“殺気”を放った。

「あ・・・ああ・・・⁉︎」

冬華も零牙を隠す様に澪凰の隣に並び立ち、カーラに相対する。

そして婚約者達も零牙の脇を固める。

怒りによって一時的に感覚も本能もあり得ないレベルで麻痺させていたカーラは、自分が対峙している存在の大きさに気づいてしまった。

「そんな・・・!何よこの、混血共・・・」

カーラは見てしまったのだーーコチラを射殺さんとただそれだけで殺せる程、あるいは“自分の死を連想し幻覚してしまう程“の殺気を放ち、見下ろす”龍“の存在を認識してしまった。

そして、認識してしまった瞬間に一時的に忘れていた恐怖で全身が慄いていた。

「ッ・・・‼︎・・・くッ‼︎」

だが、自身の【下僕(取り巻き)】達の前で啖呵を切ってしまった以上引く訳にいかず、ましてや相手が自分に楯突き侮辱し混血であれば尚の事、だからこそ自身の寄って立つ“純血”というプライドを奮い立たせ、対峙する下等な混血達をキッと睨もうとするが、本能的な恐怖が勝り視線を逸らしてしまった。

この場にいるカーラは十数人の取り巻き達以外は、全員が理解している。

“次にカーラが言葉を零牙に向けた瞬間に死ぬ”とーー

カーラは、魔界に置いては【D(公爵)】の名を持つアイム家の者である為、【M(君主)】に次ぐ権力を持っている。

故に魔界において【D(公爵)】以下の者達がカーラに意見する事は、カーラの日頃の態度もあってかなり危険な行為である。

普段のカーラであれば、自分が動かせる権力や最悪実家の力を使って、”正当な理由“をでっち上げて自分に楯突いた者をあの手この手で排除するだろう。

しかし、今回は相手が悪すぎる。

カーラの相手は凰月一族とそれに連なる者達、人界を“本当の意味”で統べる者達。

表向きには、人界は各神話体系がそれぞれの頂点なのだが、実際にはその更に上に凰月一族とそれに連なる一族が位置している。

故に魔界や天界に置いても、その影響力は計り知れず。

一介の【D(公爵)】如きがそれに対抗するなど、不可能なのだ。

ましてや相手は、神と同等かそれ以上に強大な【龍鎧の起源(ドラゴニック・オリジン)】をその身に宿し、魔力・戦闘センス・身体能力、あらゆる面に置いて他とは類を絶する、龍と人の“真のハイブリッド”【龍血(ドラゴン・ブラッド)】達なのだから。

それこそ本当の意味で敵対するのは、龍族に“滅ぼしてくれ”と言っている様なものだった。

実は冬華も、ここで起きた事は“繋がり”によって全て知っていたーーいや知らされていた。

“色魔”が加護にやられてのたうち回っていた事も、“自称最強天使”が間接的に零牙を侮辱した事も、この目の前で足がすくみきっている“勘違い傲慢令嬢”が直接侮辱した事も、全て知っていた。

大広間に充満する圧倒的な“龍達の気”に、いよいよ誰か発狂するかもしれないと思われた時ーー

「失礼、凰月殿。貴女方の怒りは最もです。先程、スタッフから事情は聞きました。ですがこの場は抑えて頂きたい」

その様に言ってカーラと冬華の間に割って入ったのは、専用のコンバットスーツと複雑な紋章を施された外套を着た金髪の青年【テオ・Sin・ベルゼブル】。

そしてーー

「同じ女として、その気持ちは痛い程にわかります。ですが、どうかお願いします。他の学生達がいる“この場“に置いてだけはお待ちください」

露出の多いコンバットスーツと、テオと同じ様な外套を着た、プラチナブロンドの髪を腰元まで伸ばした美女【フィオナ・Sin・ベルフェゴール】。

「ま、魔王様・・・」

大広間の誰かが、この凄まじい威圧感の中で呟いた。

七罪魔王(セブンス・シン)】ーー

魔界を統べる頂点たる魔皇・ルシフェルに次ぐ権力を持つ七人の魔王。

七罪魔王の選定基準は、【七罪王城(セブンス・シャトー)】に安置されている初代七罪魔王達の【起源顕鎧(オリジン・メイル)】の【傲慢(プライド)】・【憤怒(ラース)】・【嫉妬(エンヴィー)】・【怠惰(スロウス)】・【強欲(グリード)】・【色欲(ラスト)】・【暴食(グラトニー)】の内のどれかに選ばれる事である。

ただこの“選ばれる”と言うのが、それぞれで違いまたその基準も厳しいのか、現在【七罪魔王(セブンス・シン)】の座についているのはテオとフィオナだけと言うのが現状である。

七罪魔王(セブンス・シン)】に選ばれた者は、昇格としてそれぞれの家名と【Sin】の名を名乗る事を許され、初代七罪魔王のオリジンを元々のオリジンと共に自らのオリジンとして内に宿し、自身の力と成す。

その現状二人しかいない【七罪魔王(セブンス・シン)】の二人が、空気を震わす圧倒的な龍の気を垂れ流して、静かな怒りを顕にしている冬華達零牙の婚約者の前に立ち塞がる。

『・・・・・・』

婚約者全員は無言で、立ち塞がった二人に視線を向けている。

「「・・・・・・」」

そんな重圧の中、魔王の二人は敵対する意思が無い事の証明の為か、対抗して力を昂らせること無く黙って彼女達を見据える。

だが幾ら魔王の二人が強者とは言え、本気でカーラを殺そうとする彼女達の怒りを鎮めるのは容易な事ではなかった。

そもそも彼女達は、極論で言えば、魔王の言葉を聞く必要が無い。

大広間の重圧と緊張がマックスになろうとしていたその時ーー

「ストップ。姉さんもみんなも落ち着いてくれ。俺はあんな言葉なんか気にして無いから」

唯一婚約者達の怒りを鎮められる存在ーー零牙が冬華達の前に割って入った。

「零牙。この女はお前を侮辱した。それを私達が許せると思うか?」

「冬華の言う通りだよ。一瞬で首を落とされないだけもマシだと思って欲しいんだよね。・・・正直抑える必要無いと思ってるから」

その重圧だけで並みの者ならば向けられただけで心が死ぬ程の殺気をそのままに、冬華と澪凰は零牙に穏やかに言った。

「だとしても、此処が戦場であったのなら俺も止めない。でもこの場は学生が参加する祭典の交流の場だ。此処には本当の実戦を経験していない者達が大勢いる。今はまだ生存本能で耐えられているが、これ以上姉さん達の龍の気が膨れ上がればそれを食い破るだろうし、この部屋も耐えきれない。頼む、この場は抑えてくれ」

零牙は婚約者達全員を見渡してながら、懇願する様に言った。

ちなみにカーラはもはや腰を抜かして、ただ震えていた。

しかし、その目は自分にとって理不尽な怒りに燃えているのか、涙目ながらに周囲を睨んでいた。

(ほとんどこの重圧を一身に受けていると言うのにプライドだけで折れないとはな・・・ある意味才能か)

とカーラをチラリと見て零牙は思った。

「・・・・・・・・・ハァ」

少し長い静寂と続いていた重圧の果てに冬華が息を吐いた。

すると大広間に充満していた“龍の気”が、霧散する様に一つ消えた。

それに続いて他の婚約者達も“気”を納めていった。

「まあ、零牙の言うなら一度は見逃すよ。でもーー」

殺気を消した澪凰が、頭の後ろで手を組んで原因の少女から一度視線を逸らして言った。そして、背筋の凍る様な冷酷な眼を横目で向けーー

「ーー次は無い。だから今すぐ消えろ」

「ーーヒッ⁉︎」

再び殺気をカーラに向けて、澪凰は言った。

「澪凰姉さん!」

またも殺気を向けた澪凰を零牙は制する様に言ったが、澪凰は肩をすくめて言う。

「ごめん、零牙・・・でも認識範囲にその女がいたら、耐え切れる自信が無いんだ」

零牙に少し強めに言われ、ちょっとシュンとしながら澪凰は言った。

「お、覚えていなさい・・・・ッ‼︎」

「ま、待ってくださいカーラ様!」

そんな捨て台詞を吐いて、カーラは大広間を脱兎の如く出ていき、大勢の取り巻き達も慌てて後を追った。

捨て台詞で、澪凰がまた殺気を向けるかと思い零牙は澪凰の様子を見るが、澪凰は既にカーラへの一切の興味を捨てていた。

「・・・これはもう少し休憩が必要だな」

緊張を解いたテオが、大広間を見渡して言った。

充満していた龍の気が消えたと言っても、その余韻は残っていたのだ。

「ええ、今治癒師を呼ぶわ」

フィオナが手早く通信を開きいて、スタッフに連絡する。




その後、スタッフにより学生全員が気力回復が行われ、会場に設けられたそれぞれの控室に分かれ、カオス・コンバットが始まるのだった。



ーー・・・ニ節【カオス・コンバット・二日前、その当日】・終
























































































































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