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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
22/49

三章ー一節【亡霊部隊】

魔界・某空域深夜ーー

漆黒の夜空を満天の星が照らす、月見や天体観測に絶好の夜。

その漆黒を進む、不可視の飛行物体。

その飛行物体は、目標地点に向けて音も無く航行中であった。

飛行物体は、”ある部隊の為に用意された最新鋭ステルス戦闘艦“だった。

全長100メートル程の小型艦で、外見は一般的に認知されているエイの様な形を更に鋭角にした様な形状になっているが、ステルス戦闘機では無く戦闘艦なので、一枚の平面の様に薄くは無く、艦底部はしっかりと流線形に厚みがあった。

そして、魔力・レーダー・気配等のあらゆる探知を阻害し吸収する漆黒の特殊塗料によって全体的に漆黒に彩色されており、その副次効果として夜闇においては完全な低視認性を発揮する。

しかし今は、最新鋭の魔導迷彩により低視認性ではなく、僅かな空間の歪みすらも感じさせない“完全な不可視”となって無音航行を実現していた。

この二重のステルス技術により、この魔導戦闘艦は、目の前を航行していても見失う程の性能を有する、世界最高峰のステルス戦闘艦として建造されていた。


ーーステルス艦・艦内

艦内は位相空間技術により全長よりも広く、訓練や装備点検等の部隊運用に必要な設備以外にも、娯楽等の設備も十二分に完備している。


ーー・・・ステルス艦・隊長室

それぞれの隊員の個室は、軍にありがちな簡素なものでは無くなく、高級ホテルのスイートルームの様な内装とそこに各種装備の格納する為の場所など複合した様な部屋となっている。

そして隊長室は特に広く、艦内の設備を全て兼ね備えた部屋となっており、移動する事なく艦内全てにアクセス出来る特別製となっており、この部屋の主人が“特別な立場の人物”である事が一瞬で分かる部屋となっていた。

そして今、この部屋の主は、執務室とリビングを兼ね備えたメインルームの隣に造られた装備格納庫で、間も無く始まる作戦の為、装備を整えていた。

”藍色“の膝下まで届く長髪をした隊長の女は、スラリとしたグラマラスな身体をライダースーツの様なはっきりと身体のラインが分かる戦闘スーツと、その上にホルスターや各種装備を収納する軽装のアーマーを身につけている。

そして壁に吊るされていた“藍色”のロングコートを羽織った時、呼び出しのコール音が部屋に鳴り響いた。

「隊長。間も無く目標地点上空です」

音声のみの空中ディスプレイが、女の近くに投影され、副官の女がそう伝えた。

「分かった。すぐに行く」

隊長の女は、そう短く答えて通信を切った。

女は、側のデスクに置いていた一般的な物よりも二回り程巨大な銃身を持つ二丁の大型ハンドガンをホルスターに収めた。

そして、最後にハンドガンを置いていたその隣に置いてある、”龍の頭部を模した“藍色のフルヘルムの仮面を身に付けながら、部屋を後にした。


ーー・・・ステルス艦・後部格納庫

格納庫には既に6人の隊員が、装備を整えて集合していた。

全員がそれぞれ隊長と同じ、生物の頭部を模したフルヘルムの仮面を脇に抱えていた。

「準備は出来ているな?」

「はっ!全隊員、装備完結。いつでも作戦行動可能です!」

隊長の女の言葉に、金色の長い髪を後頭部で団子状に纏め、“豹”の仮面を脇に抱えた副官の女が反応し、即座に答える。

「・・・ブリッジ。目標地点までは、あとどのぐらいだ?」

隊長の女はその答えに頷くと、艦の指揮を任せている隊員に通信を開いた。

「あと5分で到着予定です」

「了解した。ーー皆、聞こえていたな。到着前に改めて任務内容を確認する」

隊長の女の声に反応して、空中に目標施設の立体構造が投影された。

「作戦目標は、レメゲトン研究施設の地下最奥部に存在する試作兵器の破壊、及び施設の完全破壊だ。事前の偵察で、レメゲトンの構成員以外はいない事が分かってはいるが・・・万が一と言う事もある、もし“被害者”を発見した場合には、緊急転移陣を使用して保護しろ」

『了解』

「侵入経路は、この三つ」

立体マップ状で、地上施設の北、東、南の三つの入り口が強調される。

「そして、出口もこの三つだ。施設機能の大半を地下に置いている癖に随分と杜撰な設計だが・・・」

「自分達が襲撃されるとは、想定していないのでしょうね」

副官の女がそう言った。

「とは言え、我々にとっては好都合だ。この三つを押さえれば良いのだからな。ライノ、ホーク、お前たちは北ゲートから攻めろ」

「「了解」」

“サイ”の頭部を機械的に模した仮面を抱え、重装備を身に付ける金髪をオールバックにした大柄な男と、“タカ”の頭部を機械的に模した仮面を抱え、大型のスナイパーライフルを装備した長い黒髪の女が答えた。

「ジャッカルとシープ、お前達は東ゲートから侵入し、施設の制御中枢を探して無力化しろ」

「「了解」」

“ジャッカル”と“羊”の頭部を機械的に模した仮面を抱える、共に比較的軽装備の少女達が返事をした。

「パンサー、レイヴン。お前達も東ゲートから侵入し、ジャッカルとシープとは別ルートで遊撃だ。各部屋を掃討しろ」

「「はっ!」」

“豹”を機械的に模した仮面を抱えた副官の女と、“鴉”を機械的に模した仮面を抱え、腰に軍用コンバットナイフをそのまま一般的な剣の大きさに大型化した様な得物を装備し、背部に翼の様なケープを装備した銀髪の女が返事をした。

格納庫の後部ハッチが、開いていく。

開いていくと同時に、全隊員が仮面を装備した。

“ブゥウン”という音と共に、最新鋭技術の塊であるタクティカルバイザーの仮面の目に光が灯った。

「時間だ、始めるぞ。【亡霊の(ファントム・トゥース)】行動開始」

隊長の女【ファントム】が、降下していく。

それに続いて隊員達も降下する。

この降下は、パラシュートやロープ等を用いた通常の降下では無くーー

「・・・・・」


ーー飛び降りるのだ。


程なくしてファントムは、“静か”に地面に降り立った。

ファントムが降り立った場所には、落下速度による着地の際の地面の変形も極微細に留めてかつ、周囲に着地音を響かせる事もなかった。

他の隊員達もファントムと同様で、流石に大柄な身体かつ重装のライノの着地地点は大きく地面が変形したが、ライノですらその着地音は全く響く事は無かった。

彼らが身に付ける戦闘スーツも最新鋭技術の塊であり、対弾・耐刃・耐衝撃・対魔等あらゆる攻撃に対する耐性と防御性能を備え、【顕鎧】の様に装着者の能力を高める機能を備える物であり、この部隊【亡霊の(ファントム・トゥース)】が装備する物はそれに加えて、最新のステルス技術まで備える特別製で、姿を消す迷彩こそ備わっていないが、あらゆる探知を阻害し、行動による音を消音し、姿と存在を捉えていても注意していなければ見失う程の認識遮蔽能力を備えていた。

「降下完了、これより施設に強襲をかける。艦はステルスを最大稼働、一帯のジャミングを開始しろ」

「了解」

「よし、配置につけ」

『了解』

ファントムの指示により、他の隊員は移動を開始した。


ーー・・・レメゲトン研究施設・南ゲート

施設周囲は背の高い鬱蒼とした森に囲まれており、加えて現在時刻は深夜、隠密行動にはうってつけであった。

ファントムは、一際高い大木の上で待機し、部下からの連絡を待ちながら南ゲートを見下ろしていた。

南ゲートの警備は深夜だからなのか、たった二人だった。

「・・・二人か、そして防衛兵器も見当たらないな。こんな場所に攻めて来る者はいないという慢心からか、あるいはあの二人が相当な強者なのか・・・まあ、前者だろうな」

ファントムがそう分析していると、通信が開く。

「こちら、パンサー。レイヴン、ジャッカル、シープと共に現着」

「こちら、ライノ。ホークと共に現着」

「こちらの警備は二人、防衛兵器無し。お前達はどうだ?」

「こちら、パンサー。同じく二人、防衛兵器無し」

「こちら、ライノ。こちらも同じ。ずいぶんとお粗末な警備だ・・・龍凰市ではあり得んな・・・」

ライノが呆れた様に呟く。

「シープ、施設表層をスキャンしろ」

「了解しました、少しお待ちを・・・」

シープの装備した攻撃兵器でも有るドローンが、上空に音も無く飛び上がり、広域スキャンをかけた。

「・・・見た通りですね。ゲートに防衛兵器無し、生体反応は二つ。施設内部には多数の防衛兵器と生体反応を確認しました」

「ならば、侵入に時間をかける必要は無いな。始めるぞ。ライノ、先制をかけろ」

大木の枝の上で、片膝をついてしゃがんでいたファントムは、そう言いながら立ち上がる。

「はっ!」

命じられたライノは、6つの大口径砲身を束ねた巨大なガトリング砲を呼び出し、それを右手だけでも保持して構える。

ーーキュイーー・・・・ドドドドドドドドドドド‼︎

空転から、一秒も経たずにガトリングが火を噴く。

「な、何ーー」

その轟音に、北ゲートを警備する兵士が気付いて音の方向に向こうとしたが、既に遅くーー

ーードドドドドドドドドォォォォォォォン

ガトリングより放たれた“榴弾”が着弾し、北ゲートは発生した多数の爆発に飲み込まれ、二人の兵士諸共、隔壁を微塵に破壊し施設への入り口が大きく形成された。

同時にけたたましいサイレンが鳴り響き、施設にいるレメゲトン構成員達は叩き起こされた。

「ーーて、敵襲っ‼︎クソっ!何処かーー」

ーーダゥンッ‼︎

一番最初に施設から出てきた兵士が、索敵を行おうとしたが、その前に大口径弾によって頭を狙撃されて即死した。

「狙撃だとッ⁉︎スナイパーがいるぞ‼︎総員ーー」

ーーダゥン‼︎

破壊された入り口から迎撃に出撃しようとしている仲間に、警告を発しようとした兵士が撃ち抜かれた。

「外に出るな‼︎ゲートを盾にしつつ迎え撃つぞ‼︎敵の位置を確認しろ‼︎︎」

そうしていち早く北ゲートに到着した小隊が、破壊された残骸に身を隠して索敵を開始する。

「ぜ、前方、敵を確認‼︎一人です‼︎」

その内の一人が、北ゲートに接近するライノの姿を目視した。

「仮面を着用しています‼︎」

「あれは、クラフティか・・・?それとも・・・」

「どうしますか?」

「とにかく攻撃だ‼︎あのデカブツを近づけるな‼︎総員、攻撃開始‼︎」

ゆっくりと威圧する様に侵攻するライノに向けて、破壊されたゲートの物陰から、魔導小銃による銃撃が放たれた。

しかし放たれた四人分の斉射は、迫るライノのボディアーマーに効果が無く、空しく金属音を鳴らすだけだった。

「馬鹿な⁉︎対クラフティ用の徹甲弾だぞ⁉︎あれが、オリジンだったとしても、多少は効くはずだ‼︎」

「目標の侵攻、止まりません‼︎」

「チイッ‼︎応援はまだか⁉︎現装備ではーー」

「敵、攻撃態勢‼︎」

「ーーッ‼︎」

ゲートから約10メートル地点で、ライノがガトリング砲を再び構えた。

「ガトリングだと⁉︎全員、防ーー」

ーーキュイーードドドドドドドドドドドド

警告の言葉は、轟音によってかき消された。

破壊されたゲートを更に微塵に砕く様に、六つの砲身から放たれる無数の魔力榴弾が敵兵共々着弾地点一帯を破壊していく。

ーーキュイーー・・・・

「ホーク、ゲートの掃討を完了した。行こう」

「ああ」

ゲートと敵兵を破壊し尽くしたライノは、上空に滞空し迷彩を起動して狙撃を行ない、たった今迷彩を解除して地上に降りて来たホークと共に施設へと侵入した。

「・・・ッ、クッ・・・‼︎増援は・・・何をやっていた・・・ッ‼︎」

辛うじて生きていたレメゲトン兵の一人が、ライノとホークの侵入を見ながら呟き、施設の入り口で増援の部隊が、外に出ることも無く絶命していた事に気が付いた。

「そうか・・・!スナイパー・・・‼︎」

その兵士は最後の力を振り絞り、攻撃魔術を放とうとするがーー

「ーー・・・ッ‼︎」

生き残った者がいる事に気が付いていたホークが、既にこちらにスナイパーライフルの銃口を向けていた。

「く、クソ・・・」

ーーダゥン‼︎


ーー・・・レメゲトン施設・東区画

東ゲートからは、パンサー、レイヴン、ジャッカル、シープが既に侵入を果たしていた。

現在、軍用大型車輌が複数同時に通れる程の広さを誇る区画の通路にて、4名はレメゲトン兵と交戦中であった。

レメゲトン兵は、無数の銃弾と魔術を雨あられと侵入者達に向けて放つ。

しかし攻撃は、一つたりとも当たら無かった。

ほぼ面にも見える程の弾幕の中、パンサーとジャッカルは、縦横無尽な回避機動で苦もなく距離を詰めながら、確実に敵の数を減らしていく。

「なんだ、こいつら⁉︎何故、当たらない⁉︎ッ!ーーぐあぁぁ‼︎」

戸惑い声を上げた兵士は、一瞬で背後を取ったパンサーによって頸椎を斬られて絶命した。

パンサーの得物は、ダブルバレルのソードオフショットガン。

このショットガンは、ダブルバレルをサブマシンガンの銃身に換装し、弾倉に小型の魔力貯蔵変換炉であるドラムマガジンを備え、アンダーレールに爪の形を模したコンバットナイフを装備したパンサー専用の特殊魔導銃で有る。

銃身をサブマシンガンに換装したことにより、通常よりも威力は劣るが、散弾をサブマシンガンの連射速度で放ち、射程距離も中距離までに延長され、パンサーの技量と魔力制御によっては、射程距離を更に伸ばす事も可能になった。

そして、それぞれの銃身のアンダーレールに装備された、豹の爪を模した特殊なコンバットナイフによって近接格闘戦に対応している。

たった今絶命した兵士も、このコンバットナイフによって頚椎を斬られていた。

ーーダダダダダダ‼︎

『ーーぐあぁぁ!』

パンサーは兵士を斬り伏せた後、両手の“マシンショットガン”を敵集団に向けて乱射、相手の攻撃魔術や銃弾を一方的に相殺して多数の兵士を撃ち抜いた。

「クソッ!何で、ショットガンがそんなに持つんだ⁉︎ーーぐあっ⁉︎」

そう言った兵士が、パンサーとは別方向からの銃弾に倒れた。

レメゲトン兵が、圧倒的な弾幕を張るパンサーに気を取られている隙に、ジャッカルが集団の側面に回っていた。

「・・・遅えよ」

「クソッ、奴に気を取られ過ぎた‼︎側面にもいるぞ!背中を見せるな!密集陣形を取れ!半数は障壁に、残りは攻撃に集中しろ‼︎エレベーターを死守しろ‼︎」

『了解‼︎』

その指示で、レメゲトンの魔術師達は防御に、それ以外の残りの兵士は防御を捨てて攻撃に集中した。

ジャッカルの得物は、特注のサブマシンガン。

本人の意向で、“表”に普及しているライフル弾を使用するサブマシンガンをベースにワンオフカスタムがされており、弾倉を“リロード”する必要の無い魔力貯蔵変換炉に換装している。

変換炉にも調整が施されており、通常の変換炉は一つの弾種に絞って威力を上げる所、ジャッカルの物は威力低下と引き換えに複数の異なる弾種に変換が可能で有り、ライフル弾だけで無く、スラグ弾、散弾、榴弾などを使い分ける事が可能となっている。

また彼女はそれを二丁装備しており、右手左手でそれぞれ異なる弾種を使用し、相手に防御手段を固定させない戦闘を可能としていた。

「クソッ、追い込まれた‼︎奴等、何でリロードしないんだっ⁉︎」

相対する密集陣形をとったレメゲトン兵達は、エレベーターを背にして完全に扇形に追い詰められていた。

パンサーが敵の攻撃を散弾の連射で相殺しながらこうし、ジャッカルが防御障壁を砕き、それでも抜けて来た反撃は、シープが小型ドローンを思念操作して、ドローンが発生させる強力なエネルギーシールドによって二人への攻撃を防いだ。

シールドを発生させているドローンとは別のドローンが二機、下部に備えられた機関砲とミサイルランチャーを連射して包囲に加わり、3機のドローンを別々に思念操作しながらも、もう一機のドローンを用いて施設制御システムにハッキングをかけていた。

「耐えろ!耐えるのだ‼︎弾は無尽蔵では無い筈、必ず攻撃は途切れる!それまでーー」

そう言った兵士に割り込む様に、パンサーが言う。

「いや、それは無い。我らはそもそもリロードする必要が無いからな。そしてーー終わりだ」

「何だと⁉︎ーーッ‼︎」

彼らが密集陣形を取っている場所の直上に、今まで気配を絶ちながら静かに1人ずつ屠っていたもう一人ーーレイヴンが、鴉のタクティカルヘルムの眼を光らせ敵を見据えながら、飛び越える勢いで直上に跳躍していた。

「・・・沈め」

レイヴンが翼の様なケープをバサァと広げると、そこから魔力で生成された無数の羽の形をしたクナイが、雨の様にレメゲトン兵達に降り注いだ。

ーーボボボボボン‼︎

放たれたクナイは、着弾すると小規模の指向性爆発を起こし、兵達の障壁と防具を破壊して甚大な被害を与えた。

『ぐあぁぁっ⁉︎』

密集陣形の内側で連鎖的に起きた爆発は、兵がとっていた防御の全てを崩した。

ーーガガガガガガガガガ‼︎

防御が無くなった兵士達にパンサーとジャッカルの放つ魔力弾が襲い掛かり、瞬く間に全滅させた。

「シープ、侵入出来たか?」

パンサーは、全滅させた後も油断無く銃を構え、周囲を警戒しながらシープに聞いた。

「既に完了、掌握済みです。ただ、どうも地表施設と地下施設では、制御システムが別になってるみたいです。ですが、エレベーターはこっちからでも操作可能です」

「よし、エレベーターが動けば後はどうとでもなる。ジャッカル、ライノとホークの状況は?」

二人の状況を聞いていた、ジャッカルにパンサーは声をかけた。

「同じく、エレベーター前で待機中」

「ふむ。予定通りといった所か・・・隊長は?」

パンサーは、レイヴンに聞いた。

「既に、地下施設に侵入し戦闘中です」

「流石、隊長ですね。しかし、どうやってエレベーターを動かしたんでしょうね?」

それを聞いたジャッカルが、感心しつつ言った。

「まあ・・・“こじ開けた”のだろうな。もちろんあの方は、隠密も超一流の域をも超えている。しかし本来ならば、能力的には正面からのゴリ押し方が得意だからな。エレベーターを使用不可にした所で、あの方は止められん」

パンサーがそう言うと、シープがエレベーターロックを解除した。

「お待たせしました副長、開きます」

「よし。行くぞ、隊長と合流する」

『了解!』


ーー・・・少し前

ライノに指示を出した後、即座にファントムも襲撃を開始した。

ーーダァウン‼︎

腹に底に響く様な重い銃声が、夜の闇に響く。

「「・・・が・・・ッ⁉︎」」

同時に放たれた二発の魔力弾が、ゲートを警備していた兵士二人の眉間を同時に貫き、絶命させた。

それと同時に、各ゲート方面からも戦闘音が聞こえ始めた。

「シープはまだだな・・・ならば、こじ開けるか」

シープのハッキングがまだの為、最初にゲートに到達したファントムはそう言った後ーー

「・・・フッ‼︎」

右手のハンドガンを一旦コートの内側に納めた後、ゲート中央部の継ぎ目に向かって、“能力”を纏わせた抜き手を繰り出して、貫通させない程度に破壊しながら継ぎ目に突っ込んだ。

そして突っ込んだ右手を薙ぐ様に動かし、右片方の巨大な機械扉をロックと、無理矢理開ける際に発生したスパークなど意にも介さずにこじ開けた。

ーーダァウン‼︎

「な、何だ貴様ーー」

こじ開けた際に鉢合わせた兵士の一人を確認するや否や、左手のハンドガンで即座に照準し撃ち抜いた。

ーーダァウン‼︎

「馬鹿な⁉︎どうやってゲートをーー」

他のゲート襲撃の一報に気を取られ、自分達が守るゲートの異変に遅れて気付いた兵士達が、慌てて迎撃しようと武器を構えファントムの前に躍り出るが、ファントムは再度抜いた右手のハンドガンと合わせて、歩きながら正確に急所を撃ち抜き絶命させていく。

「・・・!」

ーーガガガガガガガガガ‼︎

ファントムが、敵を反撃も許さずに倒していく最中、通路の奥から無数の弾丸が彼女を襲った。

敵兵の射撃が放たれる直前、攻撃の気配に気付いていたファントムは、丁度差し掛かっていた左の部屋の“電子ロックされた”扉を瞬時に蹴り破りながら飛び込んだ。

ファントムはその部屋で、気配探知と魔力探知を併用して、通路の角から身を隠しながら銃口を向ける敵兵四人の存在をと曲がった先に待機する数人を確認した。

「カバーファイア・・・更にそれを抜けても奥に別部隊が待機の二段構え・・・だが私相手にそれは無意味だ」

そう言って彼女は、おもむろに部屋の壁に向けて二つの銃口を向けた。

その方向は、敵が待ち構えている通路の方角だった。

ーーダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎

彼女は、躊躇う事なくまだ数部屋の隔たりがあるにも関わらずに壁に向かって連射した。


ーー・・・

「出て来ませんね・・・」

通路の角で待ち構えるレメゲトン兵士の一人が言った。

「油断するな、相手は他の侵入者達とは違って一人で侵攻している。余程実力に自信が有るのか、それとも捨て石の陽動か・・・とにかくここで奴を排除するぞ」

『了解!』

曲がり角から銃口だけを覗かせ、一隊は敵が姿を現すのを待ち構える。

待ち構える四人の背後では、更に四人が整列して突破された時に備える二段構え、完璧な布陣と彼等は思っていたーー

ーーダァウン‼︎

「ーー銃声⁉︎何処かーーがッ⁉︎」

曲がり角で待ち構えていた一人が撃ち抜かれた。

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

「がッ⁉︎」

「なっ⁉︎」

三人が瞬く間に撃ち抜かれ、残ったのはファントムがいる部屋とは逆側の角で待ち構える一人だった。

「何故だ?身体の9割は壁を盾にしている・・・跳弾でもさせていると言うのか・・・?」

銃口も引っ込め身体を完全に隠して、やられた仲間を観察していると、壁に綺麗な穴が空いている事に気が付いた。

「まさか・・・壁を貫通させて・・・?」

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

「「ぐっ・・・⁉︎」」

そうしている間にも、更に奥で待ち伏せしていた兵士が壁越しに撃ち抜かれた。

「馬鹿な‼︎壁面は、あらゆる防御手段が組み込まれた特殊素材だぞ⁉︎それを数部屋分貫通させるだと・・・⁉︎奴の装備は、我らの物を上回ると言うのか・・・⁉︎」

ーーチャキ・・・

「ーーッ⁉︎」

仲間が倒されて驚愕している最中、唯一カバーファイア組で生き残った兵士の目の前に、銃口が突きつけられた。

「クソッ・・・」

ーーダァウン‼︎

音も無く目の前に現れたファントムは、躊躇い無く引き金を引いた。


ーー・・・ファントムは、待ち伏せにあったT字路のエレベーターホールに続く左側の通路を進んでいく。

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

その間に位置する部屋から出てくるあるいは室内にいる敵兵は、反撃する間も無く正確急所を撃ち抜かれ、一発で絶命していく。

そして部屋を通り過ぎる時にファントムは、円盤型の爆弾を室内に投げてセットしていった。

投げ込まれた円盤は、地面から数センチの空中に滞空し、高速回転を始めた。

円盤は高速回転しながら、内部に格納された極小の設置型爆弾を遠心力で部屋中に撒き散らした。

やがて全て巻き終わると、地面に落ち起爆可能状態で設置された。



エレベーターホールには、多数の兵士が待ち構えていた。

常時気配と魔力を殺す術に長けるファントムの接近に兵士達は気付かず、エレベーターを使用不能にする為のロック作業を行なっていた。

ーーダァウン‼︎

その事を確認するや否や彼女は、先制攻撃を仕掛けた。

「ぐぁっ⁉︎」

「な、何っ⁉︎」

「馬鹿な、いつの間に⁉︎」

「迎撃だ!奴を排除するぞ‼︎」

ーーガガガガガガガガガ‼︎

兵士達は、装備している腕部のアーマーから防御障壁をライオットシールドの様に展開しながら一斉射撃を行った。

エレベーターホールに通じていた為にそれなりに広さがあるが、回避機動を取りにくい通路をファントムは、そんな事を微塵も感じさせずに“最小限のスライド機動で弾幕の間を縫う様にして回避し、両手の大型ハンドガンで攻撃する。

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

「ぐっ⁉︎」

「がッ⁉︎」

「クソッ‼︎何だあの動きは⁉︎この狭い通路で一発も当たらない・・・!幽霊とでも言うのーーがっ⁉︎」

そう言った兵士が、正確無比な射撃で“障壁ごと”眉間を撃ち抜かれた。

「クソッ、またやられた‼︎おい、さっさとロックしてこっちを手伝え‼︎」

アサルトライフルを連射しながら、ファントムを迎え撃っている兵士の一人が怒鳴るように、エレベーターのロック作業を行なっている仲間に言った。

ーーダァウン‼︎

「がっ・・・⁉︎」

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎


「分かってる‼︎これで・・・・よし、今援護にーー⁉︎」

ーーチャキ・・・

ロック作業を終えて振り向いた兵士に、銃口が突きつけられた。

「嘘だろ・・・⁉︎」

それなりに広いエレベーターホールに10人いた部隊が、瞬く間にその兵士だけになっていた。

銃口越しに状況を確認した兵士は、驚愕で見開いた目で相手の顔を見た。

「たのーー」

咄嗟に命乞いを口にしようとしたが、直ぐに無駄だと悟った。

龍の頭部を模した仮面のツインアイは光学的で無機質な物で、表情は一切分からない。

だが、その仮面の奥からは寒気を覚える程に、“レメゲトン兵”に対する冷徹な殺気を感じ取れた。

この兵士は本来、そこまで感知が鋭敏では無かったが、迫る確実な死に直面して感覚が研ぎ澄まされたのだ。

そこに恐怖を跳ね除け、この逆境を覆す事が出来れば“真の強者”となり得たのだろうが、この兵士にそこまでの力は無かった。

その兵士は、レメゲトンに入って初めて心の底から後悔した。

「クソッ・・・」

ーーダァウン‼︎

そして引き金が引かれ、エレベーターホールは掃討された。


ーー・・・

「・・・・」

エレベーターホールを掃討した後、ファントムはエレベーターを調べていた。

(ふむ。エレベーターはロックされている様だが、どうする■■■■?)

不意に彼女の内に宿る雌龍、“藍皇龍“が話しかけた。

「無論、決まっている。わざわざ解除に時間をかける必要は無い。こじ開けるまでだ」

ファントムは、エレベーターの扉に銃口を向けた。

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

彼女は、自身の能力を込めた魔力で弾丸を生成し、間髪入れずに二発放った。

通常ならば、扉に口径程度の弾痕か貫通して穴を穿つが、ファントムの能力を込めた魔力弾は、着弾箇所に小規模な爆発と共に口径の何倍もの大穴を穿ち、エレベーターの扉は見る形も無く”消し飛ばされていた”。

ーーダァウン‼︎

更に彼女は、エレベーターのケーブル部分も撃ち抜いて破壊した。

ケーブルを破壊されたエレベーターが高速で落下していき、轟音を響かせながら下層に激突した。

「・・・・」

ファントムは躊躇う事無く、エレベーターシャフトを飛び降りた。

2〜30メートル程自由落下した後、落下の衝撃でひしゃげたエレベーターの上に、音も無く彼女は着地した。

着地した姿勢からゆっくりと立ち上がりながら、ファントムは魔力感知による索敵を行った。

エレベーターシャフトのすぐ外は、巨大なドーム型の実験場の様になっており、そこには数十人の敵が待ち構えている事を彼女は感知した。

ーーガン‼︎

エレベーターが落下した衝撃で、同じくひしゃげたドアを蹴破って実験場に突入した。

「・・・・」

実験場に入った途端に、扇状に待ち構えていたレメゲトン兵から無数の銃口や攻撃魔術が、ファントムに向けられた。

この中で一番高い立場にいると思われる兵士の1人が、ファントムを品定めする様に見ながら言う。

「なかなかやるな、侵入者よ。ここまで来れた事は褒めてやろう。だが、たった1人で此処に飛び込んだのは間違いだったな。レメゲトンの精鋭である我等を相手に勝ち目は無い」

此処にいるレメゲトン兵は、殆ど男だった。

その為、ロングコートを着ていてもピッタリとした戦闘スーツで更に強調される様な抜群のスタイルを誇るファントムに、下卑た視線を向ける者は少なく無かった。

「隊長、殺すのは惜しいですよ。どうせなら抵抗出来ない様にして、我等の崇高な戦の前の宴として“楽しむ”のはどうです?」

兵士の1人が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。

「ふむ、確かに。ではこうしよう。大人しく降伏するのであれば“丁重”に扱ってやろう。貴様もレメゲトンの崇高な理念に貢献出来るのだ、光栄であろう?よもや、この数を相手に戦う愚など起こすまいな?まあ、その時は、少々痛い目にあって貰おうか。我等としては無傷で楽しみたいのでな」

隊長と呼ばれた兵士も、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、舐める様な視線でファントムを見ながら言った。

そして、かなり多くの者が“そういう事”を想像しているのか、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

その中には少なからず女性も含まれていた。

しかし彼等は知る由も無かった。

“黒き皇”以外が、花嫁達にそういった意識を向ければどうなるのかを・・・。

「・・・・」

自分に向けられる下卑た視線や笑みの数々を、ファントムは無言で聞いていたが、内心は呆れ果てていた。

(これが純血史上主義の成れの果てか・・・。ただの下衆に成り下がるとはな・・・)

そして、未だいやらしい笑みを浮かべ、そう言った事を想像・意識・思考しファントムに向ける者達に”裁き“が訪れる。

「ゴバッ・・・⁉︎」

突然1人の兵士が、口から大量に吐血しながら地面に倒れた。

「な、何だ⁉︎ーーガハッ⁉︎」

驚く暇も無く、次々と兵士達は吐血し倒れていく。

このホールには部隊が集結しており、およそ50人前後はいたのだが、今や謎の現象によって半分以下にまで減っていた。

そして、倒れた者は全員ほぼ即死だった。

「こ、これは一体⁉︎・・・き、貴様‼︎一体何をした⁉︎」

流石の状況に、頭を切り替えた隊長の男がライフルの銃口を焦りながら向けた。

他の者もこの状況に、同じく銃口を向け、攻撃魔術を準備した。

彼等の認識は、既に“楽しめる”存在から“未知”へと変わっていた。

だが彼女は、多数の銃口を向けられようとも微動だにせず、この状況を無言で眺めていた。

そもそも彼女にとってこの程度の敵は、雑兵に過ぎなかった。

長いファントムの沈黙とレメゲトン兵達の張り詰めた緊張の後、ファントムが口を開く。

「・・・黙れ、下衆共」

「何ーー」

ーーダァウン‼︎

ファントムの攻撃に反応して兵士が、言い終わる前に眉間を正確に右手の大型ハンドガンで撃ち抜かれ、即死した。

「き、きさーー」

ーーダァウン‼︎

仲間が撃たれた事で、言いかけながら攻撃しようとした兵士が、その前に左手の大型ハンドガンで撃ち抜かれた。

「チッ‼︎愚かな、抵抗するとはな‼︎」

そう言って、隊長の男がライフルの引き金を引こうすとするがーー

ーーダァウン‼︎

「ーーッ⁉︎」

引き金を引く寸前で、ファントムは隊長を撃ち抜いて即死させた。

「隊長が⁉︎クソッーー」

ーーダァウン‼︎

またも攻撃の寸前で撃ち抜かれた。

ーーダァウン‼︎

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

正面の対角線上で、攻撃の直前だった兵士を同時に撃ち抜き。

ーーダァウン‼︎

背後に回った兵士を視認する事無く、脇下から撃ち抜く。

ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎ーーダァウン‼︎

ファントムは、二丁の大型ハンドガンで“月の加護”で死んだ者達以外のレメゲトン兵を、一切の反撃を許さずに“攻撃する直前”の者から次々と撃ち抜いていく。

普通なら照準が間に合わないと思う程に距離が離れている事もあった。

しかしファントムの射撃能力は、攻撃直前の気配を察知し、その直前の者を即座に撃ち抜いて反撃させないという事をやって退ける程、尋常では無い精密かつ高速であった。

ーーダァウン‼︎

「がっ・・・⁉︎」

最後の兵が、心臓を撃ち抜かれライフルを構えた姿勢のまま地面に倒れ伏した。

ファントムは、右手のハンドガンを一旦納めて通信回線を開いた。

「私だ。各員、状況を報告せよ」

「こちらパンサー以下三名。現在、サーバールームに向かって掃討中。それと、申し訳ありません。敵は、サーバールームの守りを想定以上に固めていた為、私の判断でフォーマンセルでの行動継続を選択しました。申し訳ありません、隊長・・・」

「いや、気にするな。今、シープから情報が送られてきた。シープには、セキュリティ制圧を第一にと指示したからな。この程度レイヴンだけでも事足りただろうが、想定外は用心するに越した事は無い。いい判断だ、そのまま掃討しろ」

「ハッ!」

「ライノ、報告を」

「ハッ!現在、性能試験場と思われる区画を掃討中。目標に酷似した兵器群並びレメゲトン兵と交戦中」

ライノの通信には、戦闘音が絶えず鳴り響いていた。

ファントムの仮面の内側に、シープより情報が送られてきた。

「ライノ、シープより情報だ。その区画の奥に生産施設がある様だ。お前とホークは掃討後、生産施設を破壊しろ」

「ハッ!優先目標の方は?」

「そちらは、私が行く。お前たちは現掃討を完了次第先に地上に戻れ。パンサーにもそう伝えておいてくれ」

「隊長、お一人でですか?我等もーー」

「私を誰だと思っている?」

ライノの言葉を遮る様に、ファントムは言った。

「分かりました。お気をつけて」

そう言って、ライノは通信を切った。

「・・・さて」

ファントムは、地下最深部の向かうエレベーターに向かう。

ーーダァウン‼︎

歩きながら向かう最中、心臓を撃ち抜かれても辛うじて生きていた兵士の頭を無造作に撃ち抜いて止めを刺した。


ーー・・・地下最深部

最深部は、ファントムが先程一方的に敵を掃討した実験場よりも一回り大きな実験場だった。

その巨大さは、20メートル級巨大兵器が複数動き回っても余りある程だった。

実験場に侵入したファントムは、明かりがついていない真っ暗な部屋を油断無く見据え警戒し、目標の索敵を行う。

バチンという音と共に、闇に包まれていた実験場が一気に明るくなった。

顕になった実験場の中央には、約30メートル級の巨大兵器が鎮座していた。

「これはこれは。ようこそ、私の実験場へ」

ファントムが“目標”を視認すると同時に、実験場に男の声が響く。

ファントムが侵入して来たエレベーターとは反対側の奥の天井付近が迫り出しており、そこが菅制室になっていた。

その管制室から、髪をオールバックにし白衣を着たレメゲトンの男が見下ろしていた。

「まさかここに襲撃をかけてくる者がいるとは予想外だった・・・。しかし、考えてみればこれは好都合というもの。今しがた最終調整を終えたところでね、丁度実戦の相手が欲しいと思っていたのだよ」

そう言って、男がコンソールを操作し兵器を起動した。

中央に鎮座していた兵器が起動し、その全体が顕になる。

それぞれキャタピラと小口径対地対空用の旋回砲塔を兼ね備えた6本脚の重装甲多脚型。

その上に、戦車の車体上部の様な形状した胴体部分が存在し、更にその上にボックス型のセンサーを頭部として備えていた。

そして両腕にはマニュピレーターが無く、代わりに肘から下にかけて左腕が大口径六連装ガトリング砲、右腕が巨大なグレネードランチャーになっていた。

全体的に戦車に腕と脚をつけた様な印象で有り、色もオリーブグリーンとグレーのミリタリー色であった為、一層拍車をかけていた。

「【アラクネ】、我等レメゲトンの崇高な理念を実現する為の来る聖戦に向けて開発した新型無人機」

巨大兵器アラクネは、動作を確認する様に各部を空転させたりしていた。

「・・・・」

先に情報で確認していたファントムは、特に驚きもせず静かに見上げていた。

その様子を勘違いしたレメゲトンの男が、嘲る様に言う。

「・・・フン、どうした?この素晴らしい傑作を前に、恐ろしくて声も出ないか?無理も無い事だ。では、我等レメゲトンの役に立てる事を光栄に思いながら死ぬが良い!ーーアラクネ!」

ーーキュイィィ・・・ドドドドドドドド‼︎

アラクネの左腕のガトリングが轟音を立てて火を吹き、ファントムの身長を優に覆い尽くす無数の大口径弾が、彼女を襲った。

ファントムは、スライドする様に右に跳躍して回避機動を取った。

その動きを追う様に、アラクネが左腕を動かす。

ーーダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎

アラクネの放つ弾丸の雨に追われながら、跳躍機動を行いながらファントムは、両手の大型ハンドガンを連射した。

ファントムが放った弾丸は、カンと言う小気味良い軽い音を立ててアラクネの装甲に弾かれた。

「・・・ほう?(試しに“最低威力“にしたが・・・成る程あの装甲は、対魔導装甲か。しかもこれは、魔界で最近導入が進められている次世代型か)」

「ハハハハ!その程度の攻撃では、アラクネの装甲には傷一つつかぬわ!」

レメゲトンの男の声が聞こえたが、ファントムはそれを完全に無視し、思考しながら戦闘機動を続行した。

ーーダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎

またもアラクネの装甲に弾かれたが、ファントムは先程よりも少しづつ威力を上げていた。

(成る程、硬いな・・・。広く普及している軍用の対魔導APを再現してみたが、流石は次世代型と言った所か)

ファントムは、放つ弾丸の威力上げながらアラクネの視覚から消えて、瞬時に背後に回り込むがーー

「ほう、成る程。死角を取るつもりか?だが、無駄だ!」

アラクネは一瞬見失うも、背後からの攻撃を検知したセンサーでファントムの位置を演算し、6本の蜘蛛の様な脚部の先端に備えられたキャタピラで高速旋回し、彼女を捉える。

(無限軌道による超信地旋回での旋回性能。更に各脚部に小型の旋回砲塔による迎撃・・・)

AIが高速で動き回るファントムに、ガトリング砲は効果が薄いと考えたのか、右腕のグレネードランチャーから榴弾を乱射して周囲を爆撃する。

ーードドドドドドドドドォォォォォォォン‼︎

ファントムは、アラクネの周囲で起きた爆発範囲から瞬時に後方に跳躍して、回避した。

(更に、街一つは容易く焦土に変える“通常の”一個大隊に相当する火力・・・と、ここまで考えれば高性能ではあるが・・・セレネ・レギオンに所属しているとどうしても思ってしまうな。ーー“この程度か”と)

「ハハハハ‼︎素晴らしい‼︎やはり、私は天才だ‼︎アラクネが量産の暁には、貴様ら“混血”共を根絶やしにしてくれるわ‼︎さあ、そろそろフィナーレだ‼︎」

男は、狂気的な笑いを上げながらそう言っていたが、ファントムは、その全てを無視した。

彼女は、速度を上げて中距離を維持しながらアラクネの背後に回り込んだ。

「ハハハハ‼︎なんとまあ、芸がない事だ。背後に回った所でーー」

ファントムは、左手のハンドガンでその一瞬を狙い澄ます。

男が彼女を嘲笑した所で、アラクネが無限軌道で旋回する。

「・・・・」

ーーダァウン‼︎

アラクネが旋回する途中で放たれた弾丸は、一直線上に並んだ右側の3つの脚部を貫いた。

しかも、弾丸はただ風穴を開けるだけでは無く、弾丸の大きさ優に超える大きさの穴を開け、着弾地点となる脚部の無限軌道ごと完全に“消滅”させていた。

右半分の脚部を失った事により、アラクネは体勢崩してその場に倒れた。

「な・・・なん、だと⁉︎」

唖然とする男をよそに、ファントムはアラクネのコアユニットに飛び乗り、二丁のハンドガンの銃口を向けーー

ーーダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎ダァウン‼︎

コアユニット目掛けて連射した。

ーーズゥウン・・・

その連射によって完全に中枢を破壊されたアラクネは、重々しい音を立てながら完全に崩れ落ちた。

「ば、馬鹿な・・・⁉︎我が傑作がこんな・・・⁉︎」

ファントムはアラクネから飛び降り、管制室の男を見据える。

「・・・・」

「何故だ⁉︎貴様はさっきまで、アラクネにダメージを与える事が出来なかったはず!何故・・・ッ⁉︎」

男は、予想外の事態に狼狽してファントムに言った。

「簡単な事だ。手加減していただけに過ぎん。情報でそのガラクタの性能は知っていたが、実際に確認するのとではワケが違う。ただそれだけだ」

「ガラクタ、だと・・・⁉︎」

男の言葉を無視して、ファントムは管制室の男に左手のハンドガンの銃口を向ける。

「ハン‼︎それでどうするつもりだ?いくらアラクネを撃破したからと言って調子付くなよ?この場所には、アラクネの装甲の比ではない程に防御が施されている。貴様のーー」

ーーダァウン‼︎

男が話している途中で、重い銃声が鳴り響く。

「ば・・・馬鹿・・・な⁉︎」

放たれた弾丸は、管制室の何重にも施された防御を容易く貫き、管制室に大穴を空けて、男の心臓を正確に貫き、男は絶命した。

「目標殲滅・・・。お前たちは、驕りが過ぎる」

そう言って、彼女は銃口を下ろした。

それと同時にファントムに通信が入る。

「ーー私だ」

「こちら、パンサー他三名。目標達成後、指示通りに施設入り口で待機しております。ライノ、ホークも既に脱出を完了しております」

「こちらも完了だ、これから脱出する。パンサー、シープに言って仕掛けたクラスターと施設の自爆システムを起動させろ」

ファントムは、部屋の中央へ歩きながら話す。

「今からですか?今起動すると最深部いる隊長の脱出はギリギリかと思われますが・・・?」

副隊長の言葉に、ファントムはフッと笑いーー

「心配するな。”顕鎧“を使う」

ーーそう言って魔力を高め始める。

顕現の言の葉を唄うと彼女の内より膨大な魔力が溢れ、背後に巨大な“藍色の龍”の姿を象った。

そして背後の龍、【藍皇龍】が彼女を包みこみ融合していき、膨大な魔力の波動を放ちながら藍の顕鎧を纏ったファントムが顕になる。

しかし、顕現の際に放たれた魔力の波動が、この場所の照明を全てを破壊してしまった為に、その詳細な外見は隠されていた。

ファントムは、鎧と共に顕現させた自身の本来の大型ハンドガンを右手に持ち、銃口を天井に向ける。

ーーシュウウ・・・バチチ

銃口に膨大な魔力が圧縮・集束し、紫電が迸る。

ーーゴォウウ‼︎

集束した魔力が一気に解き放たれ、“白い”極大の魔力光が照射された。

その光条は天井を消滅させ、地上まで容易く貫き、天へと伸びる光の柱を建て、やがて消えた。

ーーバサァ‼︎

ファントムは、地上までの脱出ルートを確保した後、背部ウイングユニットから藍色の光翼を広げて地上に向けて飛び立った。

上昇して数秒と経たずに、地下300メートルに位置していた最深部から、施設上空へと舞い上がった。

眼下に自分が開けた大穴を確認しながら、ファントムは指示を出す。

「脱出した。パンサー、起爆しろ」

「ハッ!起爆開始!」

その瞬間、ファントムが施設内に仕掛けてきた無数の爆弾が起動し、施設内の一部屋一部屋が粉微塵に破壊されていく。

やがて全ての爆発が終わると、施設は再生不能な程に破壊し尽くされ、地上施設も含めて瓦礫と化した。

「・・・・・任務完了、帰還する」

『了解』

ファントムの背後に、光学迷彩を解除した戦闘艦が静かに姿を現していた。


ーー・・・ステルス艦・隊長室

龍皇市への帰路の間、隊員達に休息を命じたファントムは、自身の部屋に戻って来ていた。

部屋に入り、シャワールームに向かいながら仮面を外し、途中の執務机に置く。

そして漆黒のロングコートを脱ぎながら、シャワールームの横に備えられた洗浄機に入れ、その場で装備を外し、タイトな戦闘スーツを脱ぎ、美しい裸体を顕にしながら、一緒に放り込む。


ーー五分後

身体を洗ったファントムは、広々とした湯舟に浸かりリラックスしながら、空中ディスプレイを投影して操作していた。

今チェックしているのは、任務に出ていた三ヶ月の間に起こった零牙に関しての情報である。

ヴォーティガンの襲撃・テュール軍の襲来、そこにいられなかったのは悔やまれるが、だがそれ以上にーー

「そうか、零牙は神殺しをやって退けたのか・・・。ふふ、流石は我らの夫殿だ」

零牙の活躍が、ファントムには何よりも嬉しかった。

そして、もうすぐ零牙や他の皆に会えるという事が、普段は凛々しい彼女の表情を綻ばせていた。

「たかが三ヶ月・・・だが、それ以上の月日に感じられたな・・・。フ・・・あの時以前までは考えもしなかったな。この私がこうも想い焦がれるとは・・・」

ファントムはディスプレイを操作し、最近撮ったであろう自分と他三名が写っていない零牙と婚約者達そして従者の揃った集合写真や、日常の写真をしばらくの間湯に浸かりながら眺めていた。



ーー・・・龍皇市・軍港

龍皇市の空中軍港に、漆黒の戦闘艦が到着した。

亡霊部隊を出迎える為、セレネ・レギオンの兵士達が道の中央を開けて縦二列に整列した。

艦の搭乗口が開き、ファントム以下6名が降りて来た。

その瞬間、整列している出迎えの兵士達が敬礼する。

『お疲れ様です!姫様‼︎』

「ああ。皆もご苦労」

ファントムは隊員達と中央を歩きながら手を挙げ、それに応えた。

出迎えの先で、眼鏡をかけたいかにも真面目そうな女性士官がファントムを待っていた。

「お疲れ様です、ファントム様。着いて早々で申し訳ありませんが、言伝を預かっております」

「言伝?誰からだ?」

「桜花様です」

「ふむ、桜花か・・・」

「どうされますか?お疲れでしょうし・・・遅れるとお伝えしましょうか?」

彼女は心配そうに尋ねてくるがーー

「いや、艦で充分休めたからな今から向かう。それと、私達への次の任務はあるか?」

「はい。【亡霊の(ファントム・トゥース)】は、魔界へと赴く零牙様の護衛任務に当たれ、と」

「魔界・・・そうか、交流試合だったな。了解した。お前たちは先に学園に向かえ、私は後から行く」

ファントムは懐かしそうに呟いた後、振り返って隊員達に言った。

『ハッ』

隊員達の敬礼を見届けた後、ファントムはルナフィールド一族の開発区画に向かう。


ーー・・・龍皇市・ルナフィールド専用区画

ルナフィールド専用区画は、主に零牙の婚約者の1人である【桜花・ルナフィールド】が使用する為、厳重なセキュリティと防衛機構、そして警備体制が敷かれている。

ファントムは目的地に続く通路を、コツ、コツと隠密部隊の隊長である彼女からは考えられない足音を立てながら進んでいく。

本来ファントムは、気配や足音そして魔力を完璧に抑える術をマスターしている。

しかし龍皇市の軍施設は、そうした“ある基準以下の実力”の隠密の術を無効化する特殊術式加工が施されている。

その為、凰月に仇を成す存在の侵入はたちまち検知され、直ぐに侵入者排除の為の防衛機構が起動する仕組みになっている。

『ファントム様、お疲れ様です』

通路の奥の扉にファントムは到達し、扉の両端に控えるクラフティ守衛の女性達が挨拶した。

この守衛の女性達は、【魔導顕鎧(クラフティ・メイル)】を纏って警備についており、彼女達に与えられたクラフティは最新装備満載の特別仕様になっており、セレネ・レギオンで運用されるクラフティの中でもかなり高性能を誇る代物である。

「ああ。桜花に呼ばれて来たのだが・・・」

「もちろん、存じております。どうぞ中へ」

ロック解除の電子音が響き、扉が開く。

促されたファントムは、桜花の研究室に入った。


ーー・・・

桜花の研究室は整理が行き届いており、開発途中の魔導兵装やクラフティなどが綺麗に飾られていた。

それらを一通り見ながら、その奥の巨大な格納庫に向けてファントムは歩みを進めていく。

目的の人物は、四つの人型大の格納庫前に設置されたコンソールで作業していた。

その女性は胸元が大きく開いた龍皇学園のタイトな教官用のスーツに、その上から黒銀に染められた特注品の白衣を着、先端がウェーブがかった足元まで伸びる黒髪のポニーテールと、ポニーテールを結えるリボンを揺らしながら忙しなくコンソールを操作していた。

ファントムは彼女に近づきながら、途中で購入した冷たいボトルドリンクを取り出し、集中している彼女の頬に当てた。

「ーーひゃあ⁉︎」

「お疲れ、桜花」

「グ・・・あ、いやファントム」

「ほら、飲め。どうせ集中して、水分補給もしていないのだろう?」

「ええ、ありがとう」

桜花は手渡されたドリンクを受け取り、一気に半分程飲んだ。

「ふぅ・・・悪い癖ね、完成間近だと一気に仕上げたくなるのは」

そう言って、かけている眼鏡をクイっと掛け直す。

【桜花・ルナフィールド】ーー

冬華と同い年の二十歳で、穏やかな母性を感じさせる美貌を持つ零牙の婚約者の一人であり、眼の色は灰色。

髪型は美しい黒髪を足元まで伸ばしたポニーテール。

そして、ロストテクノロジーやオーバーテクノロジーの魔導科学に精通した技術者であり、魔術師としても天才的な実力を有し、凰月の研究開発の一部を担うが、基本的には零牙や他の婚約者達と従者達用の装備の開発と整備を行なっている。

もちろん剣術も達人以上の腕を持つ。

ファントムは、四つの小型格納庫で沈黙している四体の機体に目を向けながら言う。

“巨大な弓を装備した白い機体”、“変形しそうな見た目の大剣を携えた赤い機体”、“身の丈を超えるフレイルを装備している黒い機体”、そして馬鹿でかい“棺桶の様な装備を背負っている紺色の機体”。

「随分と外見が変わったな。以前は全員騎士鎧の様な外見だったが」

「ええ、そうね。全身をロストテクノロジーでオーバーホールして現代戦に適応した兵装を追加したから装甲もそれに合わせてデザインしたのよ。もう完全にここに来た時とは別物よ」

「零牙がかなり喜びそうな外見だが・・・本人達は納得しているのか?彼らもマキナだ。本来の姿から変わるのは、随分と嫌がったのでは無いか?」

「ふふ・・・その点は問題ないわ。主である“彼女”が望んだ事だもの、彼らも進んで現代戦闘を研究して装備追加を望んで来たわ」

桜花が少し面白そうに、口元に手を当ててクスリと笑う。

「ああ、目に浮かぶな・・・あいつは自重しない戦闘狂だからな」

ファントムも胸の下で腕を組み、その人物を思い浮かべる様に言った。

「それで、用があったんだろう?何なんだ?」

「ああそうそう、これを零牙達に届けて欲しいのよ。ーー持ってきて」

桜花が呼び掛けると、飛行する作業ドローン達が奥から現れ、持ち手がついた大小様々な複数のジュラルミンケースをファントムの側に運んで来た。

ファントムはその内の一つを受け取り、中身を確認する。

「オーバーホールが終わったのか」

ファントムが開けたのは、零牙用の物が入ったケースで、中身は零牙専用にワンオフカスタマイズがされた、ハンドガンの様な銃身を持つ黒銀のソードオフショットガンである。

「ええ、全て完璧に整備しておいたわ」

「流石だな。そういえば、お前は零牙に会わなくていいのか?どうせ、ここに篭りっきりなのだろう?」

「それは、”彼ら“を完成させてからのお楽しみにしておくわ」

「そうか・・・。なら、私は先に甘えるとしよう。あまり根を詰めすぎるなよ?零牙が心配するからな」

そう言ってファントムは、ドローン達を引き連れて部屋の出口に向かう。

「ええ、分かってる。じゃあ頼んだわよ、ファントム」

その言葉を聞きながら、部屋を出てファントムは学園に向かう。

その足取りは、嬉しさのあまり少し急ぎ足になっていた。



ーー・・・一節【亡霊部隊】・終









































































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