三章ー零節【強奪】
あけましておめでとうございます。
今年も遅い投稿頻度ですが、見ていただけたら幸いです。
タイトルを変えたついでに途中までを投稿します。
魔界ーー零牙達の住む人界や天界とは位相違いに存在する世界。
魔界は、魔力や異能を持っている者で大多数を占めており、人界に置いて御伽噺や神話で語られ、“一般的な認識として”架空とされている生物も普通に存在している。
ーー・・・魔界・ベリアル王国のとある都市
ベリアル王国内に位置する魔術大都市・【ダンタリマリウス】。
主に複数の学院や研究院・魔導科学関連の企業の建物で都市のほとんど構成し、魔界において魔術を極めんとする者が一度は訪れたいと思う魔術と魔導技術の宝庫。
この大都市を治めるのが、72柱の71位【ダンタリオン】と72柱の72位【アンドロマリウス】の二つの一族であり、この都市の名はこの二つの一族の名称を合わせたものである。
現在そんな大都市では、大規模な襲撃が行われていた。
その襲撃は突然の出来事だった。
太陽が完全に隠れて間も無く、アンドロマリウス一族の居住区向けて大規模魔術が放たれ、居住区の一角を吹き飛ばした。
直ぐに警備隊や軍隊が出動したが、それを待ってましたとばかりに都市に潜り込んでいた襲撃者達が姿を現し、程なくして周辺は戦場となった。
「クソっ‼︎こいつら一体何処から⁉︎ーーっ⁉︎ぐあぁぁ‼︎」
ーーザシュ‼︎
アンドロマリウス邸の広大な敷地に入り口に備えられているセキュリティゲートで防衛に当たっていた兵士が、
振り下ろされた小山の如き巨大さを誇る大剣によって、真っ二つに両断された。
「ハン、雑魚が!一丁前に出て来てんじゃねぇよ!」
身の丈を超える大剣を右手だけで軽々と振るうフード付きの外套を纏った男が、そう吐き捨てた。
「くっ・・・・奴を止めろ‼︎賊を近づけるな!」
『了解っ‼︎』
ーーダダダダダダ!
都市を防衛する警備兵達が6人で包囲陣形を取り、大剣の間合いに入らない様に距離を取りながら魔導小銃で男に斉射した。
しかし魔力弾は、男が張っている魔力障壁に阻まれダメージを与える事は出来なかった。
「ハァ・・・全く、理解力がねぇな・・ーー」
ため息を吐きながらそう言い、地面がめり込む程に踏み込んで、一瞬で大剣の間合いにまで距離を詰めた。
「ーー雑魚共がっ‼︎」
ーーザシュン‼︎
そう吐き捨てながら、大剣を軽々と振るって大きく弧を描く横薙ぎで、一気に6人を真っ二つに両断した。
「全く・・・私にも残しておいて欲しいですわ」
男の後ろから、同じフード付きの外套を纏った女性がそう言うと、男は心底不機嫌そうな口調で答える。
「ああ?仕方ねぇだろ。こいつらが雑魚過ぎて一撃で終わっちまうんだよ・・・!チッ・・・!アンドロマリウスかダンタリオンの奴等とやり合えると思ったのによ・・・」
「恐らく、我等の目的に気付いたのだろう」
後方から同じ外套を纏って、音も無く近づいて来た男が言った。
男の側には、4人の男女が同じ外套を纏って集まっていた。
「お前達二人は、ここで囮になって敵を惹き付けろ」
集団のリーダー格と思わしき男が、先にこの場にいた大剣を携える男と女性に言った。
「何だよ、まだ雑魚共の相手をしろって言うのかよ?」
「同感ですわ」
大剣を肩に担いだ男が不満そうに言い、女性もそれに同意した。
「案ずるな、どうせ足止めで両一族の誰かは残るだろう。そいつの相手をさせてやる」
リーダーの男がそう言うと、大剣を担ぐ男はやれやれと言った様子で言う。
「ったく、しょうがねえなぁ・・・。今回はそれで我慢してやるか。ーーっと、来やがったな」
軍事区画より出動した、ベリアル傘下・アンドロマリウスとダンタリオンが擁する軍団の一部、複数の大隊規模の兵士が続々とアンドロマリウス邸に集まりつつあった。
「では、頼むぞ」
そう言って、リーダーの男は他四人を引き連れてアンドロマリウス邸に向かった。
残った二人は並び立ち、殺到してくる敵を見据える。
「これだけの数、今度は独り占め出来ませんわね?」
「ハン!無理矢理独り占めしてやっても良いんだぜ?」
男は、大剣を未だ担いだまま余裕そうな態度で敵を見渡す。
「そうはいきませんわ。せっかく暴れられる機会ですもの。私もーー」
女性は右手に、刃がびっしりと備わった長大な鞭を呼び出した。
「ーー楽しませて頂かないと」
表情が見えない程に目深に被ったフードの奥で、女性は笑みを浮かべた。
ーー・・・アンドロマリウス邸・大広間
優に百人以上は入れる広さを誇る大広間で、アンドロマリウスとダンタリオンの両一族の数人と、その周囲を常に護衛に当たっている魔導小銃で武装し、黒い戦闘スーツに身を包み、フルフェイスのタクティカルヘルメットを被った精鋭部隊の20人程が固めて周囲を警戒していた。
「父上、正気ですか⁉︎それに義父様も!二人で囮になるなどと・・・‼︎」
そう声を荒げる黒髪ショートの男性が、黒髪をオールバックにした父であるアンドロマリウス当主・【シャーロック・C・H・アンドロマリウス】と、ウェーブがかったブロンドの髪を肩まで伸ばした養父であるダンタリオン当主【ジュール・D・ダンタリオン】に詰め寄っていた。
彼等は魔族なので膨大な魔力を持ち、魔力に比例して寿命もあって無い様な物なので、若々しい見た目をしている。
「落ち着け、理由は先程説明した通りだ」
シャーロックは、極めて冷静な様子で息子に言った。
「しかし・・・‼︎」
シャーロックは、息子の隣にいる息子の妻が大事そうにしっかりと抱える魔導書を示して言う。
「良いか?奴等の狙いは“その書“だ。それは半分だけだが、それだけでも使い方によっては災厄級の力を発揮する超古代のアーティファクトだ」
「ならば、残りも持って共にーー」
「言っただろう?もう半分は、この都市の地下深くで厳重に封印されている。この封印されているもう半分を囮に使う」
「それは・・・今、私が持つこの”前半“こそが最も重要な物だから・・・ですね」
書を抱える長いブロンドの髪をした女性が、呟くように言った。
「そうだ。この書の前半部分に記録されている力こそが決して奪われてはならない物だ。そして、お前達を逃す為に封印と後半部分を時間稼ぎに使う。その間にお前達は、あの子に”前半“を必ず届けろ・・・!その為であれば、後半を敵にくれてやるぐらいは我が先祖も許してくれるだろう」
「父上・・・」
「義父様・・・」
ーードォォォォォォォン!
戦闘の音が近づいて来ていた。
「シャーロック、急げ!」
それまで、黙っていたジュールが警告する。
シャーロックは、転移魔法陣を展開する。
「うむ。さあ、行け‼︎精鋭達よ、後は頼んだぞ‼︎」
『ハ‼︎』
大広間に広がって警戒していた精鋭部隊が黒髪の男性とブロンドの女性の周囲を固める様に集結した。
「父上、どうかご武運を・・・」
「お父様・・・」
二人は心配そうに義理の父と実の父に見つめながら、護衛と共に転移していった。
「ジュール・・・お前も行っても良かったのだぞ?」
全員を転移させ、魔術行使の痕跡を消した後、シャーロックはジュールに言った。
「馬鹿を言うな。戦闘においては、私の方が強いだろう?”名探偵”殿?」
ジュールは、少しからかう様に言った。
「来たぞ・・・!」
「・・・・」
ドォォォォォォォン‼︎
轟音を響かせながら、大広間の扉が吹き飛んだ。
「コレはコレは・・・両当主が自らお出迎えとは、光栄の極み」
大広間にフード付きの外套を纏った五人の男女が大広間に現れ、中央の男がそう言った。
「フン・・・よく言う。お喋りをしに来たのではないだろうに」
ジュールは、右手にフリントロック式の様な魔導銃と左手にアーミーナイフを呼び出して、銃口を向けナイフを逆手で構える。
「おやおや・・・我々としてはアーティファクトさえ渡してくれれば、何も“無駄に”戦う必要は無いと思いますが?」
「どの口がーー」
シャーロックは紳士杖を呼び出し、内部に仕込まれた剣を引き抜いて、中央の男に切っ先を向けた。
「言うか、だな。それに・・・こちらを見下す“本心”が滲み出ているぞ?」
「・・・・・・・ハ‼︎」
中央の男は、嘲る様に鼻で笑った。
「やはり、慣れぬ口調では無理があるな。では、単刀直入にいこう。無駄な抵抗で私の時間を浪費させるな、大人しく“本”を渡せ。さすれば、痛め付けずに済ませてやろう」
男は、尊大かつ完全に相手を下に見た口調で言った。
「フ・・・その口調の方があっているぞ。悪党」
ジュールは、油断無く相手をその鋭い眼光で見据え、他四人にも注意を払いながら言った。
「フン・・・貴様等に私の崇高な目的を理解出来んさ。が、いずれ魔界の全てはこの私の前に平伏す事になるだろう」
「そんな事はさせんよ。勘違いした小僧の鼻っ柱をへし折るのも、当主の一柱としての務めと言うものだ」
シャーロックはそう言いながら、仕込み剣を体と平行になる様に胸の前で縦に構える。
二人の当主は魔力を一気に高め始め、濃密な魔力が大広間に満ちていきその影響で空気が振動し始める。
「ほう・・・流石は当主クラス、凄まじい魔力だ。だが、勘違いとは聞き捨てならんな。たかだか“混血種”如きが、この私に意見するとは・・・だが、当主クラスの力には興味がある。本来なら万死に値する発言だが、ここは見逃してやろう。さあ・・・見せてみるが良い!貴様等当主クラスの【起源顕鎧】の力を・・・‼︎」
「ピラー・オブ・セブンティーワン・・・ジ・ダンタリオン‼︎」
「ピラー・オブ・セブンティーツー・・・ジ・アンドロマリウス‼︎」
当主二人の背後に、後光の様に両一族の紋章が浮かび、そこから濃密な魔力によって象られた悪魔が現れて二人の当主を包み込む様に融合していった。
やがて、鋭角の装甲をした全身鎧に包まれた両当主が現れるとーー
「・・・・はは‼︎」
リーダー格の男は、好戦的な笑みを浮かべた。
ーー・・・1時間後
大広間には外に通じる大穴がいくつも穿たれ、豪華だった内装は、面影もない程に戦闘の痕跡で塗り替えられていた。
「ーーぐっ・・・‼︎」
「この、力は・・・ッ⁉︎」
そう言って膝をついていたオリジンが解除されたシャーロックとジュールは、意識を失った。
「ハァ・・・ハァ・・・流石は当主クラス。まさか“魔力阻害”を受け続けながら戦闘を続行するとはな・・・」
リーダーの男は、全身を覆う外套こそ脱げていないが、かなり消耗していた。
「思ったよりも苦戦したっすねぇ、リーダー?いやあ、僕見ててハラハラしてましたよ?負けるんじゃ無いかって」
戦闘を静観していた四人の内の一人である少年が、からかう様な口調で言った。
「フン・・・まだ力が馴染んでいないだけだ」
リーダーの男がそう返答すると、少年はからかう様に続ける。
「これなら僕が戦った方が良かったんじゃ無い?僕、強いし」
「黙まりなさい、作戦の途中よ!我が君、長居は禁物かと・・・急ぎ、目標の確保を」
ピシャリと少年を遮る様にそう言い、四人の内の一人である女性がリーダーに促す。
「ああ、そうだな。流石に時間をーー」
「なんだよ!もう終わってんじゃねえか!」
そこへ、外で警備部隊を相手にしていた大剣を担いだ男と鞭を持った女が、フード付き外套をはためかせながら大広間に空いた大穴から入ってきた。
「おい、約束しただろうが?当主共の相手をするのは俺だって」
大剣を担いだ男は、リーダーに近づきながら言った。
「仕方あるまい?この当主共が、器用にもこの大広間に場所を限定する様な戦い方だったのだ」
「へえ?そいつは是非とも相手したかったもんだ。・・・まあ、いい。どうせこれからデカい戦が始まるんだ。そんときは、俺に譲れよ?」
先程までは不平を口にしていた大剣を担いだ男は、まるで“飽きた”かの様に切り替えて、そう言った。
「ああ、72もいるんだ。そのくらい構わん。さてーー」
リーダーの男は、大広間の中央に移動して床を探る様に、片膝をついて手を当てた。
「この下だな・・・行くぞ」
そう言うとリーダーの男は、魔法陣を展開した
「おい、こいつ等はどうすんだ?」
大剣を担いだ男が、倒れている当主二人を指して言った。
「拘束して、先に転移させろ。まだ聞かねばならん事があるからな」
「既に部下を呼びました。もう間も無く回収部隊が到着するでしょう。先に帰還する様にも命じておきました」
リーダーの男を“我が君”と呼んだ女性が言った。
「うむ、流石の手際だ。では行くぞ」
リーダーを含めた七人の男女が、展開した魔法陣に乗ると、魔法陣はドーム状の力場を発生させて七人を覆い、床を透過し、エレベーターの様に下降していった。
ーー・・・
アンドロマリウス邸の地下空間にたどり着くと、そこは四本の柱が正方形に並び立つ祭壇が空間の大部分を閉めていた。
四本の祭壇からは、膨大な魔力が中央の台座に向かってレーザー状に伸びており、台座に安置されている“本”に絡みつく様にエネルギー状のチェーンに変換されて封印されていた。
「成る程、これは厳重な封印だ」
リーダーの男は、周囲を探る様に見渡した。
「はい。それに柱を起点とした防御結界も感じられます」
リーダーを我が君と呼ぶ女が言った。
「だが、お前ならば“割り開ける”だろう?」
「ええ、もちろん。お任せ下さい」
我が君と呼ぶ“副官”の女が祭壇に近づき、結界の境界面に手を翳す。
ーーバリン‼︎
小気味良い音が響き、強固な防御結界は手を翳した部分だけが、大扉が開くかの如く大きく割れ開いた。
女が、道を空ける様に傍に寄り、王を迎える様にリーダーに促す。
それに応じたリーダーの男は、割れた結界内に入り、台座に封印された“本”に近づく。
男が、“本”に手を翳すと“本”を封印しているエネルギー状のチェーンが振動し始め、ガチャガチャと大きな音を立てて激しく揺れる。
やがて、チェーンを構成する魔力が限界を迎えて弾け飛ぶ様に、封印が強引に解除された。
「ついにーー」
男は、笑みを浮かべながら“本”を手に取った。
「ハハハハハハ‼︎ついに、ついに手に入れたぞ‼︎ようやく、ようやくだ・・・ようやく我が崇高なる計画は、始まりの時を迎えられる!」
男は“本”を天に掲げながら、歓喜に打ち震えていた。
そして、男は後方で待っている同志達に向き直る。
「フゥ・・・さあ、始めるぞ。古き魔王共と“混血”共廃し、“純血種”による“純血種”の為の魔界の復活、そして新しき魔王・・・いや、我等が真なる七大魔王による魔界の新生をっ‼︎」
その言葉と共に、副官の女がいつの間にか展開していた魔法陣によって、七人は転移した。
ーー・・・魔界・首都サタナエル
魔界の中心部に位置する首都・サタナエル。
かつて天より堕ち、戦乱に明け暮れていた72柱を、“灰色の龍”と共に圧倒的な力を持って下して平伏させ、魔界を統一した“七大魔王”筆頭にして現在も魔界の全てを治める魔皇、ルシフェル・アルカディア。
ルシフェルによって、当時の魔界に置いて迫害されていた“混血”の立場を復権し、七大魔王を権力の次点に置き、それを補佐する“王”の階級を持つ混血への差別意識を唯一持たなかった9柱の魔族を皇族とした【七罪魔王】と【魔界九皇族】の仕組みを考案し、“純血種”も“混血”も異種族も分け隔て無く暮らせる現在の礎は築かれた。
その功績を讃え、かつて天界の“ある者”による謀略によって命を落としたルシフェルの父・サタナエルの名が首都に名付けられた。
首都・サタナエルには、商業施設や住宅を要する複合的な多くの摩天楼や、全世界の者達がしのぎを削る戦闘競技・【カオス・コンバット】の複合競技ドーム、【ナイン・カイゼル】それぞれ率いる軍の軍事施設、研究開発施設がそれぞれの区画に分かれて建てられており、首都の中心部には、かつて初代【セブンス・シン】達が発現させ纏った【起源顕鎧】が安置され、魔王選定の場でもある七棟の尖塔が特徴的な巨大な城【七罪王城】が聳え立っている。
ーー・・・
「・・・・・」
そして・・・【七罪王城】を一望出来る首都・サタナエルの北側に位置する摩天楼の最上階の部屋で、長い金髪を後ろで束ねた厳格そうな印象の美女が、天井まで届く巨大な装飾の入ったガラス製の大窓から城を眺めていた。
ーーコン、コン
不意に部屋の扉をノックする音が響く。
「入りなさい」
女は、静かな低い声で言った。
「失礼します」
専用のコンバットスーツを見に纏いその上から、“魔王”の紋章が大きく描かれた長い外套を靡かせながら、二十代ぐらいの金髪の男性が入ってきた。
男は、女の執務机の前まで来ると同時に話し出す。
「お婆様。数時間前、【ダンタリマリウス】が武装組織によって襲撃を受けました」
「報告は先程聞いた。被害状況は?」
「幸い、両家専用の居住区を狙ったピンポイントでの襲撃だった為、一般市民の被害は軽微です。ですが・・・居住区の警備に当たっていた部隊はほぼ全滅。対処に出撃した両家傘下の軍も甚大な被害を被り、両家のほとんどが消息不明となっており、破壊された邸宅には戦闘の痕跡こそあったものの、遺体は一つも見つかっていません」
「そうか。市民への被害が最小限だったのは、不幸中の幸いだが・・・。しかし、アンドロマリウスの監視網を掻い潜ってピンポイントに襲撃するなど・・・余程個人の隠密能力が優れているのか、あるいは組織力が無ければ不可能だが・・・」
女は、顎に手を当てて考える。
「お婆様、やはり例の組織が・・・?」
「ああ。ついに表舞台に上がってきたと言う事だ」
「では、両家の者達はーー」
「連れ去られたと見て間違いないだろう。だが全員では無い。恐らく連れ去られたのは、両家の当主だけだろう。他の者達は安全な場所に避難しているだろうな」
「では、我々に保護を求めないのはーー」
「安全を考慮しての事だろう。まあ、両家については独自に動いている方が安全だ。我々が保護に動けば、敵に位置を知らせる事にもなりかねん。恐らく奴等の目的は両家だろうからな」
男は少しの間考え、切り出す。
「・・・お婆様。今大会を今からでも中止しては如何ですか?」
「お前の懸念も分かる。だが、太古から一度の中止も遅延も無かった大会をとり辞めるのは、得策では無い。私の一存で中止出来るものでは無いからな。それに、学生達が自分の力がどこまで通用するかを試す事の出来る絶好の機会を奪うのは、申し訳が無いだろう?何より、あの子が“バエル”の者として悩まされる事なく戦う事が出来る。そうだろう、“テオ”?」
そう言われてテオは、気掛かりはあるものの納得するしか無かった。
「・・・・分かりました。まあ確かに、この大会には全世界の神々や“七大天使”等も関わっていますからね」
「そういうことだ。だが、警備は増やした方がいいだろうな。各世界のVIPが集まるこの大会、テロリストにとってはまたと無い機会だからな」
「では、早速手配します。各関係者にもその可能性がある事を通達しておきます」
「うむ、任せた」
テオは魔法陣を瞬時に展開し、転移した。
「・・・・」
テオが退室した後、女は背もたれに身を預けながら椅子をくるりと回転させ、再び光輝く【首都・サタナエル】の景色を眺め始めた。
「・・・・・全て、予見されている事だったと知れば、テオは怒るだろうな・・・」
“バエル”一族の当主の女は、既に飲み物が注がれているグラスを何処からか呼び出し、深く腰を掛けながら一口飲んだ。
「“書”に記されているのは、あくまで“黒き皇”とキーパーソンが織りなす結果。そこに至るまでの詳細な過程は不確定・・・。私もツクヨミの様に、イレギュラーが発生した場合に備えておくか・・・」
女はそう呟き、通信回線を開いた。
ーー・・・龍凰市・凰月邸
美しく整えられた庭園を眺められる縁側にて、美しい黒銀の長髪を緩やかな風に靡かせ、側の柱に背を預けて、凰月ツクヨミは晩酌をしていた。
「・・・・」
ただ、晩酌と言ってもツクヨミが飲んでいるのは、酒では無く炭酸飲料だ。
別に酒が苦手というわけでは無く、孫である零牙が酒を少し苦手としており、単純に嫌われたく無いという思いから、酒は一滴も飲む事はしない。
ちなみに、零牙の周りにいる二十歳以上の者も同じく零牙に合わせて酒を飲む事は無く、ツクヨミと同じく炭酸飲料を好んで飲んでいる。
静かに満天の星空と満月を眺めながら晩酌をしているツクヨミに近づく者がいた。
「ーーツクヨミ」
「あら、戻ったのねスサノオ」
黒銀の髪に、黒衣の着物の様なコンバットスーツに身を包み、黒い陣羽織を羽織ったスサノオと呼ばれた二十代後半の外見をした男は、ツクヨミの側に腰を下ろした。
【凰月スサノオ】ーー零牙と冬華の祖父で有り、ツクヨミの実の弟にして“夫”だ。
「お疲れ様、飲む?」
「ああ、貰おう」
予め“夫”が戻る事を予測していていたツクヨミは、用意していたグラスに飲み物を注いだ。
スサノオがある程度飲んで一息つくのを待ち、ツクヨミは口を開く。
「・・・さて、三頁目の始まりね」
「ああ、そうだな。それで、次は何処を落とす?」
「あら?帰って来たばかりだと言うのに、もう行くの?零牙と冬華に会わなくていいの?」
「楽しみは後にとっておくさ。それに“零華”達が頑張っているのに、その父たる俺が休んでいる訳にもいかんからな。それに、お前がいれば安心して“削り”に行ける」
「ふふふ、もちろん。万全に万全を重ねているもの」
ツクヨミは、柔らかく微笑しながら言った。
「さて・・・“零華”達は既に向かったけれど、貴方にも“レメゲトン”の拠点を幾つか落として貰うわ」
そう言ってツクヨミは、スサノオの端末に情報を送った。
「これは・・・位相空間か」
スサノオは端末を取り出し、空中に拠点情報をホログラムで投影して確認した。
「ええ、レメゲトンの拠点の中でも特に巨大な兵器生産拠点よ。残しておいて、後で零牙達に潰させても良いのだけれど。いささか、“現時点”での奴等の戦力が予測よりも多少多い」
「成る程・・・。ならば、全て殲滅する。それで良いな?」
「ええお願い、スサノオ」
スサノオは立ち上がり、すぐに出て行った。
「さて、レメゲトン・・・。いえーー“置いていかれた敗北者達“よ。好きに出来るとは思わない事ね」
満天の星空と手が届くのでは無いかと思う程に巨大に輝く満月を見ながら呟いた。
ーー・・・
ーー数時間後・レメゲトン位相拠点
位相空間内は球体状で有り、その広さも様々になる。
手が加えられていない限り、基本的には空も無く大地も無い宇宙の様な深淵が広がっているだけだ。
だがそれ故に無であり、使い勝手がよく、天候や気候に左右される事も無い為、多くの勢力が兵器開発・生産拠点・居住区や商業施設、軍の駐屯地等、様々な用途で使用している。
レメゲトンが拠点へと改造して使用するこの位相空間は、空間の内部外側に通常の昼夜を魔導技術で出力し、通常空間と同じ様な気候を再現していた。
そして現在ーーこの拠点は襲撃を受けていた。
拠点には警報が鳴り響き、レメゲトン構成員の怒号と断末魔が飛び交う。
襲撃から“一撃”、たった一撃で大陸規模の面積を誇るこの位相空間内に所狭しと建てられた拠点の約半分が、襲撃者の一振りによって薙ぎ払われた。
「急げ‼︎奴のこれ以上の破壊を許すな‼︎」
先手を打たれ、虚を突かれたレメゲトンだったが、こうした状況を想定していたのかすぐさま態勢を整えて、襲撃者を迎撃する為に【魔導顕鎧】を纏った部隊と戦闘ドローンを集結させた。
「・・・ほう?統制は取れている様だな。だがーー」
「総員、攻撃かーー」
ザシュン‼︎
スサノオが、左手に持つ身の丈を超える灰色の巨大な両刃の刀【天之尾羽張:叢雲】を一閃し、集結し相対した戦力を、相手が号令を掛け終わる前に一振りで瞬時に薙ぎ払った。
その際、部隊の居た場所は大きく地面が抉れていた。
「俺にとっては、塵にもならん」
スサノオは、向かって来る敵を全て一太刀で斬り伏せながら基地司令部へと歩みを進める。
この位相空間のレメゲトン基地の司令は、司令部のモニターで、クラフティを纏った部下や数多の戦闘ドローンが一太刀で薙ぎ払われていく様子を唖然として見ていた。
「第10顕鎧大隊、全滅‼︎」
「第7守備隊、反応途絶‼︎」
「我が方の戦力、30%まで低下‼︎し、司令‼︎このままでは・・・!」
「馬鹿な・・・この短時間で⁉︎我等・・・レメゲトンの精鋭がこんなーー⁉︎」
そう言った瞬間ーー
ーーザン‼︎
司令部の上半分が両断され、両断された部分は斬り飛ばされ、内部が外へと露出させられた。
『ぐあああああッ⁉︎』
その衝撃と風圧は、司令部に詰めていたレメゲトン構成員達を地面へと叩き伏せた。
「な、何だ⁉︎何が、起きた⁉︎」
「ーーお前が、ここの指揮官だな?」
屋外に露出した司令部にスサノオが、降り立った。
「き、貴様・・・!一体、何者だ?此処の戦力は、一国を滅ぼせる程の物・・・‼︎それを僅か10分でここまで・・・‼︎」
司令の男は、ライフルを取り出して構えながらスサノオに言った。
「確かめたい事があってな。むしろ、一息で殲滅出来る所を10分も持たせてやったんだ。自分の幸運を誇るが良い」
「貴様・・・ッ‼︎ならば、我が【起源顕鎧】で葬ってくれる‼︎」
司令はそう吐き捨てると、懐から複雑な紋様が描かれたカードの様な物を取り出した。
「成る程・・・【レプリ・メイル】か」
「な⁉︎貴様、何故その名を⁉︎」
「何、見た事があるからな。・・・しかし、この規模の拠点ならば“残党”の一人くらいはいると思ったが、どうやら“ハズレ”だったか・・・」
「“残党”だと?何を言っている?」
「知る必要は無い。お前達はここで終わるのだからな。さあ、オリジンを纏え。一太刀で終わらせよう」
そう言ってスサノオは、破壊された司令部に集まって来ていた残りの敵戦力に囲まれながらも【叢雲】を振り上げる。
「我等の崇高な使命の邪魔はさせん!貴様はここで殺す‼︎」
基地司令の男は、“72柱”の鎧を纏いスサノオに突撃した。
それと同時に、周囲の敵が一斉にスサノオに仕掛けた。
「・・・フ」
灰色の太刀が無造作に振り下ろされる。
『ーー・・・ッ⁉︎』
スサノオの一閃で莫大な剣気が膨れ上がり、たった一太刀で、キロトン級の爆発の如く司令部を中心とした広範囲を更地に変えた。
スサノオに仕掛けた者達は、訳も分からずに消滅した。
ーー・・・同時刻、人界・レメゲトン位相拠点
スサノオが現在、襲撃している拠点と同等規模の別拠点。
この拠点は既に、拠点の9割が灰塵に帰していた。
襲撃から5分と経たずに、一つの大陸を滅ぼして余りあるこの地のレメゲトン保有戦力は、男女二人によって全滅寸前だった。
「馬鹿な⁉︎これだけの戦力をたった二人で・・・⁉︎あり得ん‼︎我等、レメゲトンの精鋭が破れるなど・・・‼︎」
「精鋭?数分程度で壊滅する様な兵士を精鋭とは言わないわよ?それはただの“雑兵”でしか無い」
今まさに全く反応も出来ずに、周囲に倒れている数十人の護衛を一瞬で斬り伏せられた基地司令の発したその言葉に、黒い太刀を持った女がそう言った。
女は美しい黒銀の髪をポニーテールにし、ピチッとした黒の戦闘スーツに身を包み、その上から”家紋”が刺繍された黒銀色の陣羽織をマントの様に肩に羽織る。
マントの様に陣羽織を着ていても、風や爆風等ではためくたび、戦闘スーツに押し込まれたグラマラスな身体が見て取れた。
そして、こちらを見据える銀灰色の切長の瞳は、輝きを放ち、周囲の敵対者の総てを見透かしている様だった。
その美貌はまさに玲瓏で有り、戦場で有りながら誰もが見惚れる程だった。
「斯くなる上は・・・‼︎」
司令の男は、懐から術式が刻まれた金属の手榴弾を取り出して、地面に叩き付けた。
手榴弾が炸裂し、魔術によって強化された閃光が、周囲を白く塗り潰す。
閃光が止んだ時には、既に司令の男の姿は無かった。
「目眩し・・・往生際が悪い。でもーー」
しかし直後に、地下から轟音が鳴り響き、離れた場所にある辛うじて無事な格納庫を突き破り、全長約10メートル程の巨大な灰色の機体が出現した。
「逃げなかった事だけは、誉めてあげるわ」
女は、不敵に機体を見上げて言った。
「調子に乗るなよ、“混血”風情が‼︎この“ギガス”で葬り去ってくれる‼︎」
機体から、拡声された司令の男の声が響く。
「へえ・・・?巨人型ドローンの最新鋭機種かしら?でも、どうやら試作型の様ね」
「確かにまだ完成には至っていないが、既に一国を滅ぼせるほどの性能を発揮出来る。貴様がどれだけの実力を秘めていようが、この機体には傷一つ付ける事も出来ん!これで終わりだ‼︎」
ギガスの野太い両腕が女に向けられ、内部に内蔵された数多の砲塔と発射管が展開する。
「・・・・・」
女は武器を構える事もなく、ただ静かに相手を見据える。
「混血風情が‼︎消えるが良い‼︎」
ーーガガガガガガガガガ‼︎
凄まじい轟音が鳴り響き、両腕から無数の魔力弾、戦車砲並みの実弾、誘導ミサイルが、雨あられと女に殺到した。
無数の弾幕は、周囲の地面を穿ち尽くし、やがて捲き上る土煙と無数に起こるミサイルによる爆風によって、女を覆い尽くす。
ーーブゥウン‼︎
そして、ダメ押しとばかりに左腕に内臓された姿勢制御スラスターを全開して、推力を上乗せした巨大な拳を女がいるであろう地点に向けて全力で振り下ろした。
「流石に、これだけやれば仕留めーー」
「どれほどの物かと思って受けてみれば、この程度とは・・・」
煙がはれていき、顕になったのは、全くの無傷かつ片手で巨大な質量を誇るギガスの拳を余裕で受け止めている女の姿があった。
「ば、馬鹿な⁉︎あれだけの攻撃を受けて無傷だと⁉︎シュミレーションでは、オリジンすらも破壊可能なこのギガスの攻撃を⁉︎」
「オリジンを舐めすぎね。こんなーー」
ーーバキ‼︎ーーバキン‼︎
女は、自分の二倍以上の大きさを誇るギガスの拳を鷲掴み、そのまま左腕を肘関節から”引きちぎった“。
「こんなガラクタでは、せいぜい量産型のクラフティが関の山ね」
そう言った女は、引きちぎったギガスの左腕を無造作に背後に投げ捨てた。
左腕を破壊されたギガスは後ずさる。
「お、重さを感じていないのか⁉︎推力を上乗せした巨大な質量をこんな簡単に・・・ッ⁉︎しかもそれを引きちぎるだと⁉︎貴様、一体・・・ーー」
ーーザン‼︎
その瞬間、コックピットに搭乗していた司令の男は、ギガスごと両断された。
男は、数秒間自分が斬られた事に気づかなかった。
「・・・何、だと・・・⁉︎」
女は、司令の男が認識する事すら出来ない速度の斬撃で、防御術式が何重にも展開され、装甲自体も堅牢なギガスを一瞬にして両断した。
「ガラクタに乗った程度で、調子に乗った阿保の相手をする暇は無いのよ。それにお前には、最初から“観るべきものは無い”」
ーーチチ、ジジ・・・・ドォォォォォォォン‼︎
一拍置いて、両断されたギガスの動力炉が爆発を起こし、ギガスは搭乗者ごと内部から爆発四散した。
ーーそして、女の周囲から完全に敵性反応は無くなった。
「ーー“零華”」
不意に背後から自身の名を呼ばれ、その女ーー【凰月零華】は振り返る。
背後から、銀色のメガネを掛けた黒銀の髪の美青年が近づいて来ていた。
「お疲れ様。そっちも終わったのね、ーー“星牙”」
その青年ーー【凰月星牙】は、零華の様な漆黒の戦闘スーツに身を包み、【凰月】の家紋が刺繍された黒銀の陣羽織を羽織っていた。
「ああ。それに、父さんも先程壊滅させた様だ」
「流石ね。さて、残りの担当はあと三箇所ね。流石に、零牙の晴れ舞台は観れなさそうね」
「奴らの“襲撃”の前に、増長し過ぎた戦力を削らなければならんからな」
「仕方ないわ、イレギュラーを減らす為だもの。ーー全ては、来る“皇の覚醒”為・・・」
零華は漆黒の刀【天之尾羽張:八咫】を位相空間に格納して、“実の弟で有り、夫である”星牙と共に歩き出す。
「さてーー露払いをしましょうか」
零華は、不敵な笑みを浮かべて言った。
二人の歩き出した先に、光学迷彩を解除した戦艦が出現し、二人を迎えた。
ーー・・・
ー黒き皇 偉大なる至高天の名を冠す都に赴く
ー黒き皇 魔なる王、聖なる天の名を持つ者達と邂逅す
ー黒き皇 魔なる鎧纏し手勢と刃を交えん
ー黒き皇 封じる鎖が砕け散りし時、“零”の刃が空を裂かん。
ーーー【■■の書】三頁目
ーー・・・零節【強奪】・終




