二章ーエピローグ【十四皇会と暗躍】
戦闘から翌日ーー
「みんな、久しぶり!」
龍凰学園の大訓練場で全クラスの前で、スルカがおどけるように敬礼をとりつつ軽い口調で言った。
「いや、久しぶりじゃねぇだろ・・・!二年くらい死んでたのに何でそんな軽いんだよ・・・⁉︎」
レアが呆れながら突っ込む。
「レアの言う通りよ、スルカ。一応復活したとは聞いていたけど・・・一体どうやって?」
レアの直ぐ側にいるテミスが言った。
「いやぁ、母さんの術式であれからずっと【神姫の神槍】と同化して朧の中にいてね。正直、一週間ぐらいで生き返れると思っていたけど、まさか二年も朧の中にいるとは思ってなかったよ」
「北欧の最高神独自のルーン魔術・・・それってオリジンの様に宿っていたと言う事?興味深いわね・・・」
顎に手を当てる仕草を取りながら、エメラルドの長い髪をしたクラス・イプシロンのリーダー【エマ・OZ・マグナ】が紅い瞳に探究心を覗かせながら呟いた。
「オリジンの様にって言うより、居候みたいなものものかな。朧の心の中が覗けるのかなぁと思っていたけど・・・そこはアズラルがシャットアウトしてたみたいだし」
『・・・ッ⁉︎』
「オリジンと同時に意識があったのか?しかも、朧に気付かれずに・・・⁉︎」
驚きながら零牙が言った。
「ちょ、ちょっと待って!それってアズラルは、生きてる事を知っていたという事⁉︎アズラル⁉︎」
朧の呼び掛けにアズラルが応じ、蒼い魔力体で朧の側に縮小サイズで出現した。
「すまない、驚かせたいと言ってな。口止めされていたのだ」
「はあ、驚きが過ぎる・・・」
朧が溜息を吐いて呟いた。
「まあ、なんだかんだでーースルカ・スヴィズニル、クラス・デルタリーダーに本日を持って復帰。改めてよろしく、皆!」
ーー・・・北欧・アスガルドテュール領・グラズヘイム・テュール
龍凰市防衛戦当日未明、テュールの居城グラズヘイム・テュールの地下区画の奥深く、限られた研究員しか知らない極秘研究開発区。
そこには、研究開発の為の設備と部屋の中央に二つのシリンダーが置かれている。
その内の一つに今まさに灯が灯り、その内部が明らかになる。
そこには、テュールのオリジンに似た意匠を施された黄金の全身鎧が安置されていた。
しかし、その鎧は【起源顕鎧】では無く【人工顕鎧】でも無い、機械生命体・【マキナ】の躯体だった。
ーーシステム起動
ーーシステム・チェック・・・・・・オール・グリーン
ーーソウル・ダウンロード・・・15%・・・・45%・・・・・・警告、魂の一部能力に損傷を確認。・・・・損傷箇所のダウンロードを中止。ダウンロード再開・・・・55%・・・・・・85%・・・ダウンロード完了、予備躯体稼働開始。
やがて、そのマキナの頭部の眼に光が灯る。
シリンダーのガラス扉がスッと開いた。
ーーお帰りなさい、テュール様。
「・・・・ッ」
テュールと呼ばれた黄金のマキナは、ガチャガチャと金属音を立てながら身体を起こし、シリンダーの外に出た。
「上手く予備躯体に逃れられた様だな・・・おのれあの小僧め・・・!いつか必ず私が手ずから八つ裂きにしてくれる!ーーッ!」
「御身の無事のご帰還、お祝い申し上げます」
マキナの身体となったテュールの目の前に、転移魔法陣が展開され、黒い騎士の様な全身鎧を纏った男が、黒いマントを翻しながら現れ、テュールに言った。
「【A】か。貴様、あそこに我が軍を圧倒する戦力がある事を知っていたのか?」
「いえいえ、私も全くの想定外でした。加えて三女神まで参戦するとは・・・。恐らく、貴方の計画を前もって知り、迎え撃つ準備をしていたのでしょう」
「チッ・・・まあいい、戦力などまた集めれば済む話だ。ーーん?何だ、【A】?」
テュールは【A】が、表情は兜に覆われて窺い知れないが、興味深そうに顎に手を当てて自分をじっと見ている事に気が付いた。
「いえ、これもまた想定外の事態が起きていると思いまして。テュール殿、“躯体が違っています“」
「ーーッ⁉︎」
テュールは、慌ててマキナとなった自分の身体を見て、驚く。
「ば、馬鹿な⁉︎これは、予備の予備では無いか‼︎」
テュールが目覚めた身体は予備躯体の【トルーパー】と呼ばれるタイプだった。
「ふむ・・・テュール殿が本来入るはずだった予備の方は、どうやら何百年も前に起動したようですね」
【A】が、もう一つある空っぽのシリンダーに備え付けられたコンソールを操作して、記録を確認していた。
「見せろ‼︎」
テュールもコンソールへと、金属となった足音を響かせながら急いで近づいた。
「・・・・1500年前、だと⁉︎馬鹿な、あのラグナロクの時に起動したと言うのか⁉︎」
「恐らくテュール殿と同じ様に、“死んだ誰かの魂“の入れ物となっているのでしょう」
「誰かだと?あの時に死んだ奴か・・・この区画を知っている者はごく僅か。だが一体・・・」
テュールはその場で考え込む。
「とは言え、テュール殿。犯人探しは後にしましょう。招かれざる客が来た様です」
【A】がコンソールを操作して、空中に外の様子を映し出した。
映し出されたのは、多数の戦艦と二隻のヴァルハラ級魔導戦艦が進軍している様子だった。
「オーディンめ・・・!しかもあの戦艦は、フレイとフレイヤか!道理でいなかった訳だ」
「どうやらこの城を占領するつもりの様ですね。直ぐに脱出しましょう。流石に復活したてでは、幾ら貴方と言えどもあの戦力を相手に少々厳しいと言わざる負えないでしょう?」
【A】は、あまりテュールを刺激しないように極めて丁寧な口調で促した。
「フン・・・何を馬鹿な、と言いたい所だが・・・確かに今は戦力が足りん。ここはお前の意見に従おう」
【A】はその答えに頭を下げて礼をとった。
「ありがとうございます。では参りましょう」
そう言って【A】は、転移魔法陣を展開して離脱の準備を始めた。
「それで?好きにお前たち組織の力を使っても構わんのだな、【A】?」
「もちろん。我々は、テュール殿の崇高な目的にお手伝い出来ればと思っております」
「分かっているじゃないか。実際、お前たちの力には期待している。1500年も手塩にかけてやったと言うのに私の命も満足に実行できんとは・・・我が兵士共は実に役立たずだったからな」
テュールは魔法陣に乗りながら、そう言った。
「ご安心ください。必ずやテュール殿の期待以上の働きをお約束します」
「ああ、期待している。だがまずは、我が肉体を奪った盗人を見つけ出して始末する」
「承知しました。では、参りましょうーー」
転移魔法陣が輝きを放ち出す。
「我等【レメゲトン】は、テュール殿の加入を心より歓迎致します」
そうしてテュールと【A】は、グラズヘイム・テュールを後にした。
ーー・・・龍凰市・凰月邸・■■の間
美しい星空と満月が輝く部屋の中央に備えられた円卓に、扉に一番近い席にツクヨミが足を組んで座っていた。
この部屋に入るのは、“頁”が無事に完了したと言う確認とその次について話し合う為だ。
いつもならば、ホログラムか音声だけで他の長達と話し合うが、今回この部屋にいるのはツクヨミだけでは無かった。
ツクヨミから左側の一つ飛ばした自らの席に、北欧の最高神・オーディンが着席している。
そしてオーディンの両側に控える様に、ロキとトールもこの場にいた。
程なくして他12席に灯が灯り、ホログラムが立ち上がる。
全員が集まった所で、ツクヨミが口を開く。
「さて・・・二貢目が無事に終わり、我が孫・零牙は“枷”を一つ解いた。そして此度の戦闘に置いても、“こちらの損害は一切無し”。順調と言った所ね」
「今回は、前回の様なイレギュラーは?・・・って言っても、先生がその場にいたのならば起こり得ないでしょうな」
威厳の備えた青い目をした金髪の男が言った。
「ええ、そうね。まあどうやらテュールは、死ぬ直前に魂だけで逃げ延びたようだけど。それと“ゼウス”、先生はやめなさい。貴方はもう最高神なのよ?」
「私にとって、師(先生)はいつまでも師(先生)ですよ」
金髪の男、ギリシャ最高神・ゼウスがそう答えた。
「しかし、テュールが逃げ延びたと言うのは大丈夫なのか?幾らあの程度の実力しか無い小物とは言え、権能だけは最高神相応の力だ。奴の性格上、大人しくしている訳もあるまい。今この局面で確実に滅ぼす方が良いのでは無いか?」
ゼウスから二つ離れた席に座る、厳格そうな長い金髪の女性がそう問うた。
「確かに奴の権能は真に力を発揮すれば、“並の兵士を神クラスに匹敵する戦闘能力にまで引き上げる事が出来る”もの。後々利用される事も考慮するならばその方が良いでしょうけど、テュールが入った“器”を聞いて問題無いと判断したわ。オーディン?」
ツクヨミはそう言い、オーディンに促した。
オーディンが頷き、口を開く。
「フレイとフレイヤからの報告によれば、奴の城の地下深くに隠された区画において、二基のシリンダー型ハンガーを発見し、両方とも起動していたそうよ」
「ハンガー・・・。するとマキナの?タイプは?」
赤みがかった長い茶髪を襟で一つに結び、肩にかける様にした女性が言った。
「【トルーパー】と【ジェネラル】よ」
「それは、流石に憂慮すべきなのでは無いか?どちらも下手な神クラスを超える戦闘能力を有する存在。それを器として復活したのならば奴の戦闘能力は、本来の肉体の時よりも遥かに向上するぞ?」
マキナのタイプを聞いた女性が言った。
「確かに、本来であればその戦闘能力は警戒すべきだけど・・・。情報によるテュールの現状、“初期理念規格の【トルーパー】”かつ魂の四分一が欠損しているならば、問題無いと判断したわ」
『・・・‼︎』
ツクヨミと三女神を除いた全員が驚いていた。
「初期理念規格か・・・!」
「成る程、確かにそれならば放置しても問題無いな」
ゼウスと金髪の女性がそれぞれ言った。
「そう、この規格は魂が欠損した状態では最大限の性能を発揮出来ない。完全な状態の魂ありきの規格・・・テュールの欠損箇所も“権能”部分であれば放置しても問題無く、たとえ後々再び仕掛けて来たとしても“いい経験”になるでしょう」
ツクヨミがそう言うと、金髪の女性が頷きながら言った。
「確かに、成長するであろう彼らならば、奴が後から出て来たとてもはや“過去の敵”。放置しても他の雑兵と変わり無いか・・・」
「そう言うことよ。さて!過ぎた敵は置いておいて、本題に入りましょうか。次のーー」
ツクヨミが円卓の中央の龍を模した台座に鎮座する“本状の記録端末”に左手を向けると、本のページが捲られ“三貢”が開かれる。
「【学園交流戦】についてーー」
ーー・・・一部 ー二章[神と影の槍]・終
かなり長い期間空いてしまいしたが、二章が完成しました。
待っている方などいないとは思いますが、ここまで読んでいただけたら嬉しく思います。
一応、三章についての予告です。
新しい舞台として、魔界と72柱の悪魔と対の天使の名をラストネームに持つキャラ達が新たに登場します。
そして、零牙の婚約者が“四人”登場します。
またかなり期間が空くと思いますが、鋭意執筆中ですので、ここまで読んで気に入ってくれて続きが気になると言う方はお待ち頂けたら幸いです。




