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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
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二章ー八節【黒き皇の神殺し】中篇

ーー・・・

テュール軍本陣の最前空域は、戦闘状態にあった。

主戦場はテュール軍本陣から遥か前方の空域、本陣からはシステムにより復活した軍勢が絶えず前線に向かい、途切れる事のない増援を送り出していた。

しかし、そんな荒波の様な軍勢を突破し、テュール軍

本陣でーー

「バカな⁈たった一人で強襲だと⁈ーー‼︎・・・ガァ‼︎」

縦横無尽に暴れ回っている者が一人いた。

「・・・・・」

たった今、斬り捨てたエインヘリアルが消滅したかを確認する事も無く、空域一帯を埋め尽くす程展開している敵軍の中を、零牙はすれ違いざまに一太刀で斬り捨てながら超高速で飛行していた。

「クソッ‼︎あの野郎、また来やがって!しかも、また当たらねぇ!」

一度目の零牙の強襲の際にも、零牙を迎撃していたエインヘリアルがルーン・ライフルを乱射し、苛立ちながら言った。

「おまえ等、あんな奴を相手にしてたのかよ⁉︎何なんだ、あいつは⁉︎何で、常時残像を撒き散らしてんだよ⁉︎」

零牙の二度目の強襲当初は、近接戦を仕掛けにいった者もいたが、あまりの機動性の違いに全く追い付けずに早々に断念して、現在は中・遠距離戦に完全に移行していた。

ーードドドドドドドド!

テュール軍本陣の空域を目まぐるしく高速飛行する零牙に、ほぼ面に見える程のビーム・実弾・ミサイル・ルーン魔術が集中砲火される。

しかし、そんな高密度の攻撃を零牙は鋭い残像機動で寄せ付けずに、または全く危なげの無い紙一重で全ての攻撃を躱し、斬り払っていく。

そんな圧倒的な機動性を発揮しながら、前方に位置する戦艦に、急速に距離を詰めて行く。

「敵、急速に接近‼︎」

「弾幕を張れ!撃ち落とせ‼︎」

「ダメです!FCSの予測演算が追いついていません‼︎」

「あの残像の影響か・・・!」

艦のFCSは、常に零牙の機動予測をしているが、撒き散らされる残像により、かなり遅れた位置に照準していた。

「ならば、手動に切り替えーー・・・‼︎」

言っている内に、零牙は艦橋まで接近していた。

「バカな⁈この私が、ここまでの接近を許すと・・・」

ーーザン‼︎

零牙は、高速ですれ違いながら艦橋をクルーごと袈裟斬りに両断して、そのまま後方の敵軍の只中に斬り込んでいった。

少しして、艦橋を失った戦艦がコントロールを失って堕ちていった。

その様子を見ていた艦長の一人がFCSの予測が追いついていないことに気付いて、周囲に指示を出す。

「全艦、火器管制を手動に切り替え、対空防御を密にしろ!テュール様の元に行かせるな!」

『ハッ!』

ーードドドドドドドド!

ーードォウ‼︎

「これは・・・!」

加速する零牙の機動性に追いついていなかった照準が、ズレてはいるがかなり正確さを増して、砲撃が零牙に集中しつつあった。

魔力誘導式ミサイルの雨を、引きつけつつ付近の敵兵を斬り捨てて、身代わりにする様にIFFの上から強引に躱した。

そして先程より正確な砲撃を、直角かつ鋭角なジグザグな回避機動で砲撃手を翻弄して躱し、偏差して放たれるビームを急停止と急加速を瞬時に行い、足を止める瞬間を最小にとどめながら零牙は躱していく。

「・・・攻撃が多少正確になったな」

(奴等、システムに頼るのをやめたみたいだぞ?)

前方から放たれたビームを、零牙は会話しながらバレルロールで回避する。

「今更か・・・対応が遅過ぎる。まあ、楽で良かったが。油断しているつもりも無いが、手動に切り替えたのならば油断は出来んな」

集中的に降り注ぐミサイル群を先頭の一つを斬り、即座に後方にスライドする。

斬られた先頭のミサイルは爆発し、残りのミサイルを誘爆させた。

「本丸に接敵するまで魔力を温存したかったが。仕方ない、ペースを上げるか」

零牙の銀灰色の瞳が淡く輝き、【龍眼】を発現させる。

【龍眼】により、零牙の元々高い空間認識能力が更に高まり、周囲の敵にプレッシャーを与え、視認する事なく周囲の敵の位置、攻撃、あらゆる動作を詳細に把握する事が出来る。

これにより、零牙の機動性は更に鋭さを増して行く。

零牙は、その場で漆黒の両翼を大きく羽ばたかせると同時に、その場に長時間残る程の残像を残して、一気に超加速する。

先程よりも増した機動性を持ってして、敵陣を縦横無尽に駆け巡る。

エインヘリアル、ヴァルキリー、下中級の神兵達は、その姿を捉える事すら叶わずに、すれ違い様に斬り捨てられ、戦闘ドローンは処理能力の限界を超えてシステムがフリーズする物まで現れ始め、戦艦に至ってはIFFがあるとは言え、時折現れる零牙の残像に翻弄され、正確な位置を把握出来ずに砲撃を躊躇っていた。

その間にも、零牙の機動性は増していき、砲撃を躊躇する戦艦をすれ違いながら容赦なく斬り捨てていく。

ーードォォォォォォォン!


ーー・・・

「ッゥ!ええい!敵の正確な位置を知らせろ!今すぐだ!」

近くの僚艦が轟沈した爆発に、自身の戦艦を衝撃で揺らされながら、その艦の艦長はクルーに怒鳴る。

「・・・‼︎第二護衛陣より入電!こ、これは・・・!」

「どうした⁈何があった⁉︎」

「第一護衛陣は、反転し敵を挟撃せよ!と」

「き、挟撃⁉︎バカな、まさか・・・‼︎既に、突破されたと言うのか⁉︎」


ーー・・・

「第一護衛陣より返答!「敵の機動性にはシステムによる自動照準は効かず、手動に切り替えよ」との事!」

「バカどもめ・・・!みすみす敵の突破を許すとは・・・!それに、とっくに変更済みだ!いいか!此処より先はテュール様の御前、その身を賭して、あの黒い奴を早急に叩き落とせ‼︎」

『ハッ‼︎』

この二陣を指揮する艦長が、指揮下の全軍に言った。

「おのれ・・・!好き勝手にはさせぬぞ、只人如きめ・・・!」

そして、この第二護衛陣で大暴れしている零牙を憎々しげに見つめて呟いた。

ーー・・・

「成る程、最初から正確な砲撃だ。当たらんが」

零牙は、第一護衛陣より多少正確な砲撃を、追随を許さぬ機動性で余裕で躱していく。

「此処で時間をかけるつもりは無い。指揮は、あの艦か・・・」

零牙は、この陣の奥に布陣する主力艦の一隻を確認すると、その前方に高速で躍り出る。

そして、その場で敵指揮艦を睨みながらその場で静止した。

「さあ、来い」

ーー・・・

「艦長!敵が・・・!」

「分かっている!この機を逃すな‼︎総員、全兵装一斉照準‼︎」

第二護衛陣に布陣する全ての砲門、銃口が零牙に向けられる。

「よし、撃てぇぇぇぇ‼︎」

ーー・・・

ーードドドドドドドド!

ーーバシュウ‼︎

戦艦の砲門から幾重ものビームが放たれ、発射管から無数のミサイルが飛び出し、エインヘリアル達はルーン・ライフルを乱射し、神兵とヴァルキリー達はそれぞれのルーン武器から、機能により増幅したルーン魔術を放った。

第一護衛陣は、反転に時間がかかっているのか、砲撃は飛んで来なかった。

それでも、この空域を埋め尽くす程の弾幕が、街ひとつを焦土と化してもお釣りが出るほどの火力が、零牙に迫る。

「そうだ。それでいい」

そう呟くと同時に、零牙は動く。

ーードォォォォォォォン!

零牙は、その場で瞬間的に超加速して、迫るビームの間を縫う様に砲撃の包囲から抜け出す。

高出力のビーム同士がぶつかり合い、零牙が数瞬前にいた場所で凄まじい爆発が発生する。

その爆発範囲外に、零牙はゆっくりと飛行しながら姿を見せた。

遅れて飛来する無数のミサイル群に、まるで“ここだ”と言わんばかりのゆらゆらとした不規則な左右移動を後退しながら行う。

魔力誘導式のミサイル群が、零牙の魔力を探知し引き寄せられる。

そのまま零牙は、相対速度を合わせつつ放たれた全てのミサイル群を引き連れ、敵指揮艦を中心とした密集防御陣形をとっている、戦艦の密集空域まで引っ張って行った。

ーー・・・

「奴め・・・!何をする気だ?」

「艦長!敵の足が鈍っています!すぐに、攻撃を!」

しかし、艦長は零牙の不自然な動きを疑問に思い、考えていた。

「・・・・・・」

「艦長!」

(奴が目指しているのは、間違いなく此処だ。だが、自ら陣形を組んでいる密集地点に飛び込むと言うのか?奴の機動性ならば、振り切る事など容易・・・ーー‼︎まさか、奴の目的は!)

「いかん!すぐに遠隔で全ミサイルの信管を切れ‼︎」

「え?」

「早くしろ‼︎奴は、我々のミサイルをぶつけるつもりだ‼︎」


ーー・・・

零牙は、放たれた全てのミサイルがついてきているのを【龍眼】で、見る事なく把握して確認すると同時に急加速をかける。

そして、そのまま置き去りにする様に指揮艦の横を高速で通り過ぎた。

そして、零牙を追いかけるミサイル群は、密集した艦隊に突っ込んでいった。



ーードドドドドドドド!


零牙は通り過ぎた後、自身と戦艦が直線上に重なる様に動いた為、IFFの上から強引にミサイル群は降り注いだ。

無数のミサイルは、艦隊に壊滅的な被害を撒き散らしていく。


ーー・・・

ーードォォォォォォォン‼︎

「ぐう・・・⁉︎ひ、被害状況を知らせろ!」

「十隻轟沈!五隻が機関損傷!五隻が航行不能!」

指揮艦の周囲で布陣していた戦艦は、この艦を残して下に墜落していく。

「クソッ!まさか、自分たちの攻撃で陣形を崩されるとは・・・!当艦の状況は?」

「右舷スラスター損傷!左舷砲塔、ミサイル発射管大破!甲板にて展開していた兵士達にも甚大な被害が出ています!」

「特装砲に被害が出ていないのは、幸いと言った所か・・・(しかし、さっきから感じているこの圧迫感は、なんだ?)。無事な艦で陣形を再編!奴を至急索敵しろ!第一護衛陣は?」

「そ、それが・・・。先程から通信を試みているのですが・・・応答がありません」

「なら、目視で確認しろ。陣同士の間にそんなに距離は無い。望遠で確認出来るはずだ」

「り、了解。・・・・・・なっ⁉︎そんな・・・⁉︎」

「どうした?」

「第一護衛陣に布陣した戦艦・兵士達が・・・影も形も見当たりません・・・!」

「なんだと⁉︎第一護衛陣と突破されてから、たった五分程度しか経っていないぞ?しっかり確認したのか?」

「はい。一応レーダーでも同時に反応をーー!レーダーに反応!し、しかし、これは・・・!我が軍の反応ではありません!」

「モニターに出せ!」

程なく、モニターに第一護衛陣が布陣していた空域の様子が映し出される。

報告通り、そこには戦艦も兵士も見当たらず、その代わりその空域にいたのは、蒼白銀の野太刀を携え、輝く銀色の光の翼を広げて優雅に佇む“白銀の皇“だけだ。

白銀の皇が、見られている事に気づいている様に、ゆっくりと視線をこちらに向けた。

「ーーッ‼︎」

存在を確認した時から感じていたプレッシャーが、白銀の皇が視線を向けた瞬間に、五感と本能が物理的な攻撃と錯覚する程の強烈な殺気となって襲いかかる。

「ハア・・・ハア・・・ぐっ・・・ッ⁉︎」

(この圧迫感は・・・‼︎さっきから感じているものか・・・!だが、これはさっきよりも桁違いの・・・‼︎)

心臓を鷲掴みされている様な感覚に襲われている艦長が、胸を押さえながらモニターに映る白銀の皇を見る。

「まさか・・・!奴の、仕業なのか・・・⁉︎て、テュール砲の・・・チャージを・・・ッ!」

艦長は苦しみながら指示を出すが、他のクルー達も同じ状況で有り、満足に指示を実行できる者はいなかった。

「クソォ・・・!化け物め・・・‼︎」

モニターに映る白銀の皇が動きを見せ、艦長は苦しみながら悪態を吐きながら手元のコンソールを操作しようとする。

「この、私が・・・殺気如きにーー」

ーーザン‼︎

その瞬間、戦艦は白銀の斬撃に両断された。


ーー・・・

“白銀の皇”ーー凰月冬華は、たった今自身が一文字に両断した戦艦が沈んでいくのを見ながら通信を開く。

「零牙。聞こえるな?」

「姉さん?前線の指揮をしてたはずじゃ?」

「婆さんに言われてな。お前の援護に来た」

「来てくれて、凄く心強いよ・・姉さん」

「ーー‼︎ま、全く!此処は戦場だぞ・・・!お前と言う奴は・・・!」

そんな言葉を、心底安堵した様な口調で通信越しとは言え、まるで耳元で囁かれた様な気がした冬華は、ヘルムの中で顔を赤らめ、嬉しさを隠しながら言った。

「ーーえ?何が?」

「んんっ!何でも無い!・・・零牙、この一帯は任せろ。お前は、そのまま目標を落とせ。背後は気にするな」

「姉さん・・・分かった、ありがとう!」

そう言って、零牙は通信を切って、超加速をかけて敵本陣の奥へ向かった。

それを見届けた冬華は、鋭い剣気を滲み出させ、第一・第二護衛陣の敵軍を【龍眼】で睥睨する。

敵軍は、身動きが満足に取れず、身体が硬直する程の殺気とプレッシャーに晒されながらも、冬華を迎撃する為に態勢を整えようとしていた。

そんな敵を睥睨しながら冬華は、魔力と気を静かに高めていく。

「さて・・・。貴様らの相手は私だ。零牙の後を追えると思うなよ?ーー貴様らに、観るべきものは無い」

冬華の意思を読み取った【氷皇】は、“自ら”鞘走る。

「一の太刀・・・」

冬華は、絶妙なタイミングで鞘から滑る様に抜き出る【氷皇】の柄を掴み、神速の居合いを放つ。

魔力を超圧縮しての斬撃で有る【皇龍爪牙】とは違い、この技は超圧縮した剣気で斬り捨てる。

「ーー【雲耀・零式】」

【皇龍爪牙】の超広範囲に及ぶ斬撃では無く、横一文字の薙ぎを極限にまで高めた線の斬撃。

魔力という可視化するエネルギーでは無く、達人の域を超えた者達の得物が放つ、“剣を媒介にして放つ自らの気”で有る。

気は基本的に不可視のエネルギーで有り、剣を媒介する剣気は、媒介する際に剣そのものが持つ魔力等を多少なりとも含む為、純粋な気を放つ事は極めて難しく、放つ技は完全な不可視とはまず成り得ない事が多い。

しかし冬華や零牙達は、剣の魔力と混じり合いながらも、魔力を完全に取り込み、どちらを主体とするかを選ぶ事ができる。

正確には、“得物“の方が零牙達に忠誠を捧げている為に出来る芸当で有り、普通なら混じるか対立するかが常で有る。

神速で振り抜かれた【氷皇】から放たれた、極限まで研ぎ澄まされた不可視の斬撃が、数十キロ以上離れた第二護衛陣の八割以上を、有無を言わさず横一文字に両断した。


ーー・・・【ティウダンス】・艦橋

「何・・・だと⁉︎」

第二護衛陣の配下が、いとも容易くたった一人によって消え去る様を、テュールは驚愕に目を見開きながら見ていた。

配下を簡単に捨て石にするテュールであっても、護衛陣に属する兵士は、比較的優秀な者達で構成していた。

「役立たず共め・・・‼︎目を掛けてやったと言うのに、この体たらくか‼︎」

ーードォォォォォォォン!

そうテュールが吐き捨てた瞬間、【ティウダンス】を衝撃が襲った。

「・・・ッ⁉︎今度は何だ!」

「直衛艦の一隻が轟沈‼︎」

「奴の攻撃が此処まで届いたと言うのか⁉︎」

「いえ、これは、この反応は・・・!」

戦艦を沈めたと思わしき黒い人影が、本陣上空に舞い上がり、自身の到来を示すかの様に漆黒の両翼を拡げた。

「まさか・・・奴か‼︎」


ーー・・・

第二護衛陣を突破した零牙は、超高速でテュール軍本陣に飛来し、真っ先に捉えた前方の戦艦をすれ違い様に艦橋を両断した。

そのまま本陣上空へと舞い上がり、眼下の敵からの攻撃を直ぐに防げる様に翼を拡げ、敵陣を観察する。

「さて、奴の乗艦は・・・あれか」

零牙が少し本陣を見渡すと、直ぐに装飾過多にも程がある程の戦艦を確認する。

そんな目が痛くなる様な戦艦に嘆息しながらサイファスと会話する。

「いかにも、自尊心にまみれた戦艦だな・・・。ヴァルハラは、・・・開いていないか。此処に来るまでに、兵も戦艦もかなり落としたし。今頃、護衛艦隊を姉さんが殲滅している頃だが・・・」

(ふむ・・・。恐らく奴は、ある程度の数を内部で復活させてから、戦場に出すのではないか?)

「なら、もう少し減らす必要があるな。行くぞ、サイファス」

(ーーいや。その必要は無いみたいだぞ、零牙)

そう言って攻撃を仕掛けようとした零牙をサイファスが制止する。

「何を・・・?これは・・・!」

聞き返そうとした零牙も、サイファスが制止した理由を直ぐに理解した。

凰月に近しい者、そして同じ凰月だからこそ分かる、その技の到来の兆し。

テュール軍本陣にたった今到来した、空間に充満する空気を斬り裂く様な微かな揺らぎ。

この水を斬る波の様な空間の揺らぎは、剣気を主体とした技によるものなので、魔力感知では感知出来ず、空間認識能力の高い者ならば感知が出来る様な揺らぎだった。

「あれは・・・。姉さんの【雲耀・零式】か・・・!」

空間の揺らぎを起こしているのは、冬華の放った【一の太刀:雲耀・零式】。

それを冬華は、斬撃波として放った。

不可視の斬撃波は凄まじい隠密性を発揮し、戦艦・兵・ドローンを、斬撃波の進行方向に存在する敵全てを気付かぬ内に両断していく。

そして、不可視の斬撃波の進行方向には、テュールの座乗艦【ティウダンス】が滞空しているが、斬撃波はその直ぐ下を掠める様に通り過ぎた。

その直ぐ後に、両断された順に爆発や消滅が起こった。

(流石は、冬華だ。ヴァルハラが開いていない事を把握し、開かせる為の広範囲殲滅。更にテュールの危機感を煽る様にわざと最後に掠める様に計算して飛ばした斬撃波による挑発。全て、お前が行動しやすくする為の援護だ)

「ああ。姉さんは本当に頼りになるよ・・・!これならーー」

(ああ。開かざるを得んな)

その言葉通り、【ティウダンス】の甲板上に搭載された巨大な扉状のヴァルハラ・ゲートが、重々しい音を立てながら開きつつあった。

零牙は、眼下の敵からの攻撃を回避しながら、最大まで扉が開くのを待った。

「よし。行くぞ、サイファス!英霊殿を落とす!」

最大まで開いた扉を確認した零牙は、両翼の【魔光翼】の出力を上げ、その場より超加速をかけて急降下した。


ーー・・・【ティウダンス】・艦橋

複数の戦艦が轟沈した際の爆発による、凄まじい衝撃が一気に【ティウダンス】を襲っていた。

「ーーぐう・・・ッ‼︎何だ!何が起きたと言うのだ⁉︎」

「わ、分かりません!ですが、直衛の艦と兵に甚大な被害が出ています!」

「奴の攻撃か⁈」

テュールは、見下ろす様に上空で滞空している零牙を睨みながら聞いた。

「いえ、不明です。レーダーには何も観測されてませんが・・・恐らく、敵の攻撃かと思われますが・・・」

「馬鹿か貴様は!十中八九攻撃だろうが‼︎」

テュールは、此処までの苛立ちをぶつける様に艦長席より立ち上がって怒鳴った。

「も、申し訳ございません・・・!」

艦長席にドスッと座りながら、未だに苛つきながら聞く。

「チッ!それで、被害状況は?」

「ち、直衛艦隊の約四割が壊滅。兵士も同様の被害が出ております・・・」

(クソッ!どう言う事だ⁉︎奴は動きを見せていない。この私が攻撃を感知出来ない訳がない。たかが極東の蛮族風情が、私ですら感知出来ぬ攻撃をやってのけたとでも言うのか⁈おのれ・・・!この私が、小虫程度に後手に回るとは・・・‼︎)

少し、苛立ちを隠そうともせずに考え込む様に沈黙したテュールに、クルーが恐れながら慎重に伺う。

「て、テュール様?それで、如何なされますか?」

「決まっている、戦力の補充だ。ヴァルハラを開け!早急に直衛艦隊を立て直させろ‼︎」

テュールの指示により、甲板に備えられたヴァルハラに続く扉が重い音を立てながら開いていく。

そして、扉が最大まで開いた瞬間ーー

「じ、上空の敵に動き有り‼︎高速で、真っ直ぐ本艦に向かって来ます!」

「何だと⁉︎ハッ!だが、好都合だ・・・!ヴァルハラより出撃する兵にーー」

「敵の軌道予測が完了!こ、これは・・・!敵の軌道上にヴァルハラ・ゲートが!いえ、更に加速!敵、ヴァルハラ・ゲートに侵入!」

零牙は、更に速度を上げて誰の攻撃も受けぬまま、ヴァルハラに突入した。

「ーー‼︎まさか、奴の目的は・・・!ええい!侵入されてしまっては仕方あるまい。この状況を利用するまでだ!至急、ゲートを閉じろ!奴を閉じ込めろ!」

その指示により、ゲートが重い音を立てて閉じていくはずだった。

「何をしている⁉︎さっさと閉じろ‼︎」

「だ、駄目です!ゲートの蝶番が破損しています!」

テュールの正面のモニターには、ゲートの損傷箇所が赤く表示されていた。

「馬鹿な・・・⁉︎いつの間に・・・⁈ーーまさか・・・!突入する際に攻撃したとでも言うのか・・・⁉︎蛮族如きが、超高速機動中にそんな芸当を・・・ッ⁉︎」

「テュール様‼︎」

「ーー!」

「ヴァ、ヴァルハラが破壊されています‼︎」


ーー・・・

零牙は、超高速機動中だった。

突然の零牙の行動にテュール軍は反応するが、超高機動と同時に撒き散らす残像により、テュール軍は本体を捉えられずに攻撃は残像に向かっていく。

零牙は他の敵には目もくれずに、後ほんの数キロと迫った【ティウダンス】のみを見据えていた。

そこで、零牙は更に光翼の出力を上昇し、超加速をかけた。

後、数百メートルと迫った時、サイファスが言う。

(ーー?奴ら、ゲートの向こうで行列を作っているな・・・このまま行けば、鉢合わせになるぞ?)

「問題無い、このまま行く。十中八九鉢合わせるだろうが、押し込めばいい。サイファス、お前は尻尾で右を。俺は左をやる。いいな?」

(了解だ)

そして、【ティウダンス】の甲板上のゲートに至近にまで迫った時、案の定クラフティに身を包んだ敵兵と鉢合わせした。

「なっ⁉︎貴様は⁉︎ーーぐう⁉︎」

ゲートから今まさに出撃してきた神兵のヘルムを、ひしゃげさせながら鷲掴んでゲート内部に押し戻す。

そして、零牙達がゲートを通り抜ける瞬間ーー

((今‼︎))

左手の天羽々斬【(スメラギ)】と先端が長刀の形状した尻尾で、両側の蝶番を同時に斬りつけて破壊した。

そして、神兵を鷲掴みにしたままヴァルハラへと侵入した。


ーー・・・【絶勝の英霊殿(ヴァルハラ・テュール)】内

テュールのヴァルハラは、【ティウダンス】と同じ様な黄金の装飾が全体に施してあり、そして至る所にテュールを模した黄金の彫像が建てられていた。

そして、一際目立つのが明らかにこのヴァルハラの要所と思われる黄金の巨塔が中心部に建っており、その壁面にはテュールのレリーフが施されていた。

ヴァルハラ・ゲート前では、復活した神兵、ヴァルキリー、古代の戦士達からなるエインヘリアル達が出撃の為に列をなしていた。

『ぐぁぁ‼︎』

その最前列のエインヘリアル達が突如、吹き飛ばされた。

そして、エインヘリアル達を吹き飛ばした元凶が、ゲートから侵入し、ヴァルハラ内部の空間を舞い上がって両翼を拡げた。

「なっ⁈あれは・・・‼︎」

その侵入者・零牙は、右手でヘルムを鷲掴みした神兵を持ち上げながら、ヴァルハラ内部を睥睨した。

途端に【龍眼】による影響が、ヴァルハラ内部にいる全ての者に伝播していく。

零牙に掴まれた神兵が、逃れようともがき始める。

「クッソ・・・!下等な蛮族め・・・!貴様如きにこの私・・・ーーガァ⁉︎」

(聞き飽きた)

見下す様な言葉を口にしてもがく神兵を、サイファスが一言そう言って、尻尾で神兵の胸部を貫いて絶命させた。

零牙は内部の敵を睥睨しながら、サイファスが貫いた神兵を尻尾を払う様にして投げ捨てた。

零牙は、一度【(スメラギ)】を位相空間にしまい、両手に“銃火器”を位相空間より呼び出した。

零牙は一度目の強襲の後、第一師団の戦艦に寄り、そこで武器を調達していた。

零牙専用の魔導銃は有るのだが、現在はオーバーホール中である。

零牙は、左手にアサルトライフル似た形状のライトマシンガン、右手に六連リボルバー式グレネードランチャーを呼び出した。

ーージャキ

零牙は対角線に両手の銃火器を構え、ヴァルハラの破壊を開始した。

ーーダダダダダダダダダ‼︎

ーーパス、パス、パス

ライトマシンガンから放たれる銃弾が、ヴァルハラ内を薙ぐように見上げる敵兵に風穴を開け、弾痕を残し、あらゆるものに破滅の雨を降らせる。

ランチャーより放たれる榴弾は、一発一発が小規模なクレーターを穿つ程の威力を有し、まるで流星群が地上に降り注いだ後の光景を思わせた。

小隊が一斉掃射している火力と見紛う程の銃弾と榴弾の弾幕が絶えず降り注ぎ、ヴァルハラ内部を破壊して行く。

「奴を殺せ‼︎これ以上テュール様のヴァルハラを傷付けさせるな‼︎」

一応の安全地帯となっている零牙の真下と背後から距離を急速に詰めながら、神兵とヴァルキリーからなるエインヘリアル達が接近戦を仕掛ける。

「・・・サイファス」

ーーブォン!

サイファスが尻尾の刃で、仕掛けてきたエインヘリアル達を一筆書きに容易く斬り捨てた。

「ーーガァ⁉︎」

「馬鹿な・・・⁉︎」

「好きに、させるわけには・・・!」

(射角外から狙うのは正解だが、俺達が龍だと忘れているのか?こちらには、尻尾があるのだぞ?)

「エインヘリアルの数が増えてきたな・・・」

(外では、戦闘中だからな。破壊が完了するまで殺さず、復活を引き伸ばしにする為に加減した所で、ある程度はやられるだろうーー来たぞ、零牙)

サイファスに言われた零牙は射撃を続けながら、巨塔から出撃した、蒼いクラフティを身に纏ったヴァルキリーの一団を確認した。

一団を率いる先頭の二人のヴァルキリーは、零牙に凄まじい敵意を向けていた。

「クソトカゲ野郎がッ‼︎」

「テュール様の・・・邪魔はさせない‼︎」

二人の上位ヴァルキリー・サングリーズとソグンは、大斧と槍に最大限の魔力を込めて、最大性能に引き上げながら猛然と零牙に突撃した。

そんな二人に率いられるヴァルキリー達も、それに応じて各々の最大魔力を引き出しながら二人に続く。

サングリーズとソグンが更に速度を上げ、それに応じたヴァルキリー達も速度を上げた。

しかし、上位ヴァルキリーとそれに率いられるヴァルキリー達に気付いていながら、零牙は視線を向けなかった。

「チッ!ふざけやがって‼︎」

「・・・・・・」

こちらの接近に気づいていながら視線を全く向けずに銃を乱射する零牙に、サングリーズとソグンは怒りを顕にしながら、同時に武器を振りかぶった。

少し後ろから追従するヴァルキリー達も、密集陣形で攻撃態勢に入った。

「死ねよ‼︎」

「死んで・・・‼︎」

零牙まで後数メートルと迫った二人は、更に武器を大きく振りかぶったその時ーー

ーージャキ

零牙は、右手のグレネードランチャーを“視線を向ける事なく”銃口を、斜め前方から迫るヴァルキリー達に向けた。

「「ーーッ⁉︎」」

サングリーズとソグンは、既に武器を大きく振りかぶっており、零牙が視線を向けない事に怒り、攻撃する事しか考えていなかった彼女達では、瞬時に防御に切り替える事は不可能だった。

(コイツ・・・!)

(このタイミングを・・・⁉︎)

ーーパスパスパスパスパスパス

零牙が引き金を引くと、通常のグレネードランチャー

ではあり得ない連射速度で、一気に六発の榴弾が発射された。

しかも、この一瞬とも言える連射中にサングリーズとソグンにそれぞれ一発、そして後ろ続くヴァルキリー達に、二人に放った二発より先に、大きく正四角形を形成する様に四発、ずらす様に正確に撃ち放った。

(クソ・・・!)

(避けられない・・・!)

サングリーズとソグンがそう思った瞬間、その横を数瞬先に放たれた四発が通り過ぎ、そして間をおかずに二人に向けて放たれた二発が着弾しーー

ーードォォォォォォォン‼︎

六発の魔力榴弾による大爆発が、零牙の至近で巻き起こるが、爆発は凰月のテクノロジーにより、爆発影響範囲内にいる零牙に被害が及ばぬ様に、ヴァルキリー達にだけ影響が及ぶ様に、指向性の爆発となっていた。

榴弾による一撃によって、サングリーズとソグンを含むヴァルキリー達は、クラフティを激しく損傷し、全員ヴァルハラ内の地面に落ちていった。



ーージジ・・・ザザ

損傷の酷いクラフティが徐々に崩れ落ちていき、ヴァルハラの地に伏せるサングリーズやソグン、ヴァルキリー達の魔導通信が開き、少し焦りの色を見せるテュールの声が響く。

「オイ!状況を知らせろ‼︎我がヴァルハラは、どうなった⁉︎サングリーズ!ソグン!聞こえないのか⁉︎答えろ‼︎」

意識を失ったサングリーズ達が返事をする事は無かった。


ーードォォォォォォォン‼︎

その直ぐ後に、零牙は巨塔にグレネードで穴を空けて内部に突入した。


ーー・・・巨塔内部・ヴァルハラ心臓部

零牙達は、巨塔の中間地点に侵入していた。

「これは・・・!」

(成る程。通りで復活のインターバルが早い訳だ)

巨塔内部は、壁面にびっしりと100を越える数のクローン・ヨルムンガンドの心臓が、魔導ジェネレーターに加工されて等間隔に配置されていた。

「虫唾がはしるな・・・」

(零牙、あれだ)

内部を見渡しながら呟く零牙は、サイファスが示した巨塔内部上方を見上げると、巨塔の頂点部に、一際巨大な加工ジェネレーターが配置されていた。

「デカイな・・・。あれもヨルムンガンドの心臓か?」

零牙は、内部の醜悪さに辟易しながらサイファスに聞いた。

(ああ。恐らくあれは・・・かなり成長させてから加工した物だろうな。しかし、本当に奴には反吐が出る)

「ああ、俺もだ。ここまで他者から奪った力と技術を運用しておきながら、さも自分の力の様に言うとは・・・。挙げ句の果てに、戦術は配下を使い潰す様な数頼みシステム頼みのゴリ押し。これで、最高神に相応しいなどと、よくも言えたものだな。さてーー」

ーージャキ

零牙は、ライトマシンガンとグレネードランチャーを左右の壁面に向けて構えた。

ーーダダダダダダダダダ‼︎

ーーパスパスパスパスパスパス

零牙は先ず、壁面のジェネレーター群を破壊する為にゆっくりと回転しながら、両手の銃を乱射した。

ライトマシンガンより放たれる無数の銃弾が、ジェネレーターに穴を穿ち、ズタズタに引き裂き。

グレネードランチャーより放たれる高圧縮魔力榴弾が、一発事に広範囲のジェネレーターを吹き飛ばした。

零牙は、呼び出してからここに至るまで、弾倉を交換していなかった。

調達した二つの銃は、ツクヨミが用意させていた特別製で、主に対鎧性能と拠点破壊能力を重視した物だった。

銃自体の耐久性も、並の魔剣の攻撃を受けても機能を損なわない防御力を有し、弾倉に装填された魔力を高圧縮した弾丸を使用する為、大多数の勢力が運用する圧縮無しの通常弾と比べて三倍以上の威力を誇る。

そして弾倉、ライトマシンガンの弾倉は大容量ボックスマガジンで有り、マガジン内には予め、大型戦艦を動かせる程の魔力を高圧縮して装填されており、零牙が此処に至るまで連射し続けても全く弾切れしない程の継戦能力を銃に与え、グレネードランチャーの回転式弾倉=シリンダーは、射撃した側から位相空間内に保管されている専用弾薬を瞬時に自動装填し、装填の隙を無くしている。

ちなみに、この二つの弾薬に込められている魔力は、零牙の魔力では無いので、零牙の魔力を使用する事はない。

零牙は、壁面のジェネレーターの8割を破壊し尽くした後、エインヘリアルを復活させているのか、脈打ちながら魔力を精製し続ける、頂点に配置された大型ジェネレーターに二つの銃口を向ける。

「これで終わりだ」

ーーダダダダダダダダダ‼︎

ーーパスパスパスパスパスパス

無数の弾丸と数十発の榴弾が、大型ジェネレーターに殺到する。

大型ジェネレーターは、最重要であるならばなんらかの防御手段や攻撃者の排除機能を付与する物だが、零牙の攻撃は、何の抵抗も受けずに数秒と掛からずにジェネレーターを破壊し尽くした。

ジェネレーターの破壊と破壊されたジェネレーターが配置場所から落下し始めた事を確認した零牙は、内部に侵入する際に空けた穴を通り、脱出を開始した。

侵入孔を通った直後、巨塔に幾つものヒビが入り、所々が崩壊を始めた。

混乱するエインヘリアル達の散発的な攻撃をいなしながら飛行する零牙が、ゲートに到達する頃には限界を超えた巨塔が完全に崩壊し、ヴァルハラ内部を揺らす程の大爆発を起こした。

「防衛システムを構築していないとは・・・慢心が過ぎるな」

(敵に侵入される可能性を考えていなかったのだろうな。さて、残すはーー)

「ああ、奴を討つ」

そう言って、崩壊したヴァルハラを尻目に零牙は、ゲートを通り抜けた。


ーー・・・【ティウダンス)・艦橋

「馬鹿な・・・⁉︎」

テュールは破壊され尽くし、今なお連鎖的に爆発が起こるヴァルハラをモニターで唖然とした表情で見ていた。

「じ、ジェネレーター全てが損傷・・・いえ、大破・・・。ヴァルハラ・システム・・・停止」

報告したクルーも信じられないと言った様子で報告した。

「クソッ‼︎」

テュールは怒りを露わにし、肘掛けをドンッと拳で叩く。

「どうなっている・・・⁉︎我がヴァルハラが堕ちただと⁉︎たかが下等な蛮族一人如きに⁉︎あり得ぬ‼︎蛮族如きが、我が艦隊を突破しヴァルハラを堕とす戦闘力を有するなどあり得るはずが・・・‼︎サングリーズとソグンは、何をやっている‼︎」

「分かりません・・・!サングリーズ様とソグン様の反応は、先程から途絶えています・・・!」

その時、敵の反応を示す警告音が艦橋に響く。

それと、同時に甲板上のヴァルハラ・ゲートから出て来た黒い人影が一気に上空へと駆け昇る。

「テュール様!当艦上空に敵の反応を確認!これはーー」

「奴か・・・‼︎」

テュールは、忌々しげに敵をーー黒き皇を見上げた。

黒き皇は、上空にて漆黒の光翼の広げ、艦隊を睥睨していた。


ーー・・・【月輪】・艦橋

「ふふ。流石は、我が孫達ね。さてーー」

ヴァルハラの破壊をいち早く視て確認し、心底誇らしげに嬉しそうに呟いたツクヨミは、指示を出す為にゆっくりと【■■の龍眼】状態の眼を開き、立ち上がる。

「我が、セレネ・レギオン全軍よ!時は来た。盗作たるテュールのヴァルハラは、我が孫達の連携によりその機能を停止した。今この時をもって、要撃を終了する!この戦を終わらせる時が来たのだ!ーー全軍、殲滅開始!龍の庭を踏み荒らす侵略者達を、殲滅せよ‼︎」

『イエス・マイ・ゴッデス‼︎』


ーー・・・アスガルド正規軍・布陣空域

「流石、ツクヨミの孫達。作戦開始から程なくして、ヴァルハラを堕とすとは・・・!」

ヴァルハラが破壊された事は、オーディンも感じ取っていた。

自身の専用艦たる【ヴァルハラ級一番艦・ヴァルハラ・オリジン】の甲板上から指示を出す。

「アスガルド全軍、制限解除‼︎これより、総力を持ってテュール軍を討滅せよ‼︎」

『イエス・マイ・ゴッデス‼︎』


ーー・・・テュール軍・側面最前線

「ーーーしゃぁ‼︎やっとか‼︎想定よりは早かったが、最前にいたせいか、遅く感じたぜ。ーーと。しまった、つい素が出ちまった。ンン‼︎さてーー」

ヴァルハラが堕ちるまでの間、側面最前線にて極力敵を倒さずに、押し返していたトールが、オーディンの指示を聞いて、解放感の余り素の口調を覗かせてしまったが、直ぐに戒め、ヴァルハラ停止に戸惑うテュール軍を見渡した。

「だがまあ・・・ようやく“制限”無しにお前達をぶちのめせるんだ・・・!素も出ると言うものだ‼︎ーーミョルニル‼︎」

トールは、ミョルニルを払う様にして真横に構えて、全身とミョルニルの両方から、当たり一面を覆う程膨大な雷を迸らせる。

「さっき一撃喰らわせてやったが・・・。たかが、加減した一撃だけで終わると思うなよ?ーーお?」

しかし、混乱して陣形が乱れて、立て直す事に必死な相対するテュール軍は、トールの言葉を聴いていなかった。

それどころか、トールの存在を忘れているかの様に陣形再編に夢中だった。

「何だ?今更、焦り出したのか?復活出来るからってヴァルハラに頼りっぱなしだから、いざと言うときの覚悟が出来ないんだよ。なら・・・」

ーー

トールが膨大な雷を迸らせたミョルニルを、前方の再編に夢中な敵軍に向け、迸る雷を真球状にミョルニルの先端に圧縮した。

圧縮された雷は、先程まで周囲に迸らせていたエネルギーをも凝縮し、真球内部は神の雷を超高密度で内包していた。

「最後の死をくれてやる。ーー【トール・ハンマー】」

ーードシュウ‼︎

真球状の雷が、蒼銀の極大ビームとなって、一気に解放された。

「ーー‼︎さ、散開・・・‼︎総員回避行動を・・がぁぁぁッ!」

回避を促した最前線の神兵は、ビームに飲み込まれて跡形も無く消滅した。

そして、ビームの先端がトールと相対する敵軍の中央に差し掛かった時、極大のビームはその莫大な魔力の全てを、再び真球状に圧縮していく。

真球状に圧縮していく際、雷の波動が発生し、周囲の敵を集める様に圧縮していく。

「こ、これは!」

「身体が、思うように動かなーー」

ーージジジジジジ・・・ズガァァァァァァァァン‼︎

そう誰かが言った瞬間ーー真球状の神の雷は、大気を歪ませる程の極大規模のドーム状の爆発を、豪雷の音を轟かせながら巻き起こした。

神雷の爆発は、直径数十キロを飲み込み、相対する敵軍前線のほぼ全てを跡形も残さずに消滅させ、更に圧縮していく際に発生していた雷の波動が、周囲に破壊的波動として爆風と共に乱舞した。

やがて爆発が収まり、トールと相対していた敵軍は前線戦力の9割以上を失った。

そして周囲に波及した雷の波動は、後方・左右の敵軍広範囲に届き、魔力・機械の両方に対するジャミング効果をもたらした。

「こ、これが・・・雷神の力、か・・・⁉︎ーーは⁉︎」

「ーーよう」

トールの直線上の後方艦隊にいた為、トールの一撃による影響を、かろうじて逃れていた神兵が戦々恐々としながら呟くが、いきなり目の前にトールが現れた。

「いつの間にッ⁉︎ーーグハッ⁉︎」

神兵の腹部の装甲を砕き、直接トールの拳が入った。

「遅えよ」

そのままトールは、神兵を殴り飛ばした。

殴り飛ばされた神兵は、高速で後方に布陣する戦艦の側面装甲に勢いよくめり込み、その衝撃で艦が大きく揺れた。

「ただの拳打で、あの威力・・・!だが神とは言え、あの強力な一撃を撃った後だ。魔力を大きく消耗している筈!総員、畳み掛けろ‼︎」

余裕そうに、ミョルニルを肩に担いでいたトールは、その言葉を聞き、そして好機と見て迫るテュール軍を前に、不敵な笑みを浮かべた。

「ハッ・・・舐められたもんだな。消耗している?」

ーージジジジジジ・・・ズガァァァン‼︎」

ミョルニルが瞬時に膨大な雷を迸らせ、扇状に薙ぎ払った。

その一撃で、仕掛けてきた数十人以上を容易く消滅させた。

「ば、馬鹿な⁉︎消耗している筈では⁉︎」

横薙ぎの一撃をかろうじてやり過ごしていた神兵が、言った。

「お前達の尺度で、測れると思ってるのか?まあ、テュール程度の神しか知らぬ様では、無理もないか」

「貴様ッ‼︎テュール様を愚弄ーー」

テュールを侮辱された事に怒った神兵の言葉をトールは雷撃を放ち片腕を消しとばして遮った。

「・・・ぐぁぁっ、腕が⁉︎」

「全く、それしか言えないのか?それにお前達が無事でいるのは、私が手加減したおかげだぞ?」

「何、だと?」

「当たり前だろ。お前達を全滅させる事など容易い。それこそこの戦域であれば、もう少し力を込めた一撃で事足りる。だが、もうテュールのヴァルハラは堕ちたんだ。よって、お前達はもう復活出来ない。一息に全滅させては、それこそ新兵や学園の雛鳥達が経験を積む事が出来んだろう?」

トールがそう言うと、後方で待機していたアスガルド正規軍が攻撃を開始した。

「ああ、ちなみに今攻撃を開始したのは、主に新兵達でな。だが、侮るなよ?我等のヴァルハラの加護があるからな。たとえ新兵と言えど、我等三女神の指揮下にいる限り能力が向上する。1500年進歩の無いお前達では、新兵すらも倒せん」

その言葉の通り、攻撃を開始した兵達の動きはかなり慎重では有るが、それでもよく訓練され統率の取れた攻撃を行い、対するテュール軍はほぼ全員が、経験値だけなら歴戦と言っていい者達ばかりだが、新兵達に押し負けていた。

「馬鹿な⁉︎テュール様の権能による加護を受けし我等が、こんな・・・!」

「理解したか?これが本来のヴァルハラだ。どの道、お前達には、勝ちの目は無かったんだよ・・・!」

トールがミョルニルを振り上げる。

「おのれ、トー・・・ーー」

トールは、神兵の言葉を最後まで聞く事はせず、ミョルニルを振り下ろして消し去った。

「フン。しかし、少し飛ばしすぎたか?思った以上に前線に穴が空いたな」

トールの攻撃によって最前線とテュール軍本隊との間には、大きな空白が出来ていた。

その空白にも、ちらほらテュール軍の兵や戦艦が確認出来たが、いずれも敗走して本隊に向かっている最中だった。

「まあいい、どうせ殲滅するだけだ」

そう言ってトールは、雷の如き機動性でテュール軍・本隊に仕掛けていった。


ーー・・・

ロキを中心としたアングルボザ、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルと、それに率いられるアスガルド正規軍、ヴァイキングの軍勢、そしてそれらに相対するテュール前線部隊との戦闘は一方的であった。

かなり数を減らしたとは言え、そして本隊ではなくとも、数では遥かにテュール軍が勝っていた。

だが数で勝り、圧倒的大軍での一方的な蹂躙を基本戦術とするテュール軍が、完全に押し負けーー蹂躙されていた。

「砲撃の手を緩めるな!奴らが擁する二つの戦艦は、上に対する有効な攻撃手段は制限のある砲塔のみに頼っている。対処を怠った事を存分に思い知らせてやれ!」

『イエス・マイ・ゴッデス‼︎』

まず上空からは、ヘルが率いる強襲戦闘艦による制圧射撃。

ヘルが率いる艦隊を構成する戦艦【ヴァルホル級魔導戦艦・ヴァルヘル】は、最新鋭のステルスを備えた正式な小型ヴァルハラ級とも言える蒼銀の戦闘艦である。

外観と形状は、ヴァルハラ級戦艦を一回り小型化。

大元となる各北欧神のヴァルハラ全てと連動した小型ヴァルハラ・ゲートを備え、ヴァルハラ級を一回り小型化した艦で有りながら、火力は同等レベルに保たれており、最新鋭ステルス・システムを搭載した中型戦闘艦だ。

ステルス・システムには、“終末を告げる武器”から得られたジャミング機能の技術が応用されており、敵対者にだけ影響する特殊ステルスとなっており、任意に指定された敵対者の感知能力、所持するレーダーに対して干渉し、戦艦の存在認識を極めて困難にする。

そのステルス能力は、撃たれてから始めて気付くレベルである。

上空に展開された、数十のヴァルヘルで構成された艦隊から、砲撃とミサイルが降り注ぐ。


ーー・・・フェンリル討伐艦隊・司令艦

いきなり上空から降り注ぐ砲撃により、ようやく上空の艦隊の存在に気付き、レーダーに数十の光点が表示された。

「馬鹿な⁉︎戦艦は、ヘルの一隻だけでは無かったのか⁉︎レーダー監視‼︎何を見ていた‼︎」

「そ、それが・・・。先程まで、戦艦は一隻しか反応が無く・・・。敵の攻撃が開始されてから、反応が・・・。恐らく敵艦は、ステルスを搭載していると思われます」

「そんな高度なステルスがあってたまるか!そもそも、光学迷彩で透明になっていた訳では無いのだぞ!たとえ、艦のセンサーで捉えられなくとも、陣形を組んでいる戦艦を目視すら出来なかったと言うのか⁉︎」

ヘルの率いる艦隊が、こちらの艦隊に上空から一斉射する様を見ながら、艦隊司令の男は言った。

「し、しかし、そうとしか言いようが・・・」

「とにかく、迎撃だ!各艦、各兵に即時応戦をーー」

ーードォォォォォォォン!

突如、衝撃が司令艦を襲った。

「・・・ッ⁉︎今度は何だ⁉︎」

「か、艦底部に被弾‼︎」

「底部だと⁉︎もうここまで入り込まれたのか⁉︎」

「い、いえ・・・これは・・・!海上に敵反応を多数確認!」

「馬鹿な⁉︎海上だと⁉︎」


ーー・・・

ーードドドドドドドド!

海上を高速で疾走する数百隻以上の中型戦闘艦からなる艦隊が、上空のテュール軍に向けて無数の魔力弾が高速連射されていた。

「魔力を惜しむな!ありったけぶち込んでやれ!」

『応!』

その最前の戦闘艦の甲板上で指揮を取るヴァイキングの女性が、指示を出していた。

波打つ様なウェーブのかかったブロンドの長髪、戦いの為に鍛え上げられ、引き締まった抜群のスタイルを有し、その身にヴァルキリーが纏うクラフティや、オリジンの様な露出の高い軽装鎧を身につけ、右手に大斧、左手に手斧を携えた彼女の名は、アスディルダ。

ユグドラシルが内包する九つの位相世界の一つ、【ミズガルズ】を代々守護する任をオーディンより任された、アスガルド正規軍所属の強襲師団【ミドガルドシュランゲ】の現団長であり、この師団はヨルムンガンド直属の師団である。

【ミドガルドシュランゲ】を構成する数百以上の大艦隊の全方門で一斉砲撃の最中、上下からの砲撃に晒されているテュール艦隊の一部が、被弾を顧みずに艦首をヴァイキング艦隊に向けていた。

「団長、あれを!」

「攻撃すればこちらに気付くのは当然だが、こうも対応が遅いとはな・・・。いや、これでも早い方か?」

海上に艦首を向けた艦隊は、【特務主力艦・ティーウ】五隻を主軸として構成されており。

全てティーウの艦首が開き、大型砲塔が展開される。

「ほう?あれがテュール砲か?チッ!胸糞悪い・・・!クローンとは言え、我が主ヨル様の心臓を使っていながら自分の名をつけるとは・・・。貴様如きが烏滸がましい・・・!」

「団長!敵砲のチャージが完了した模様!」

アスディルダに、自身の乗る艦のブリッジからクルーが報告した。

「とは言え、その威力は侮ることは出来ん。私がーー」

「ーーいや、俺がやろう」

アスディルダの座乗艦の正面の海面が膨れ上がり、そこから水しぶきを上げながら、ヨルムンガンドが現れた。

「ヨル様⁉︎」

アスディルダは、身体から水を滴らせながら鎌首をもたげ、艦隊に向くヨルムンガンドに言う。

「ヨル様の御手を煩わせるまでもありません!私にお任せを!」

「アスディ。もちろんお前にかかれば、あの程度の戦艦を落とすなど造作もないだろう。だが俺も、いささか思うところがあってな・・・」

アスディルダにそう言いながら、ヨルムンガンドは自身の周囲にルーン式の魔法陣を10個展開した。

そして、複雑な紋様の描かれた魔法陣の中心に莫大な魔力が急速に収束し、圧縮されていく。

「いつまでも我が物顔で俺の力を利用されるのは、流石に我慢ならんからな・・・!」

上空にて横並びに整列したティーウ五隻のテュール砲から、莫大な魔力を内包した戦略級の蒼銀の光が放たれた。

周囲を眩く照らす五条の蒼銀の光が、横並びにヨルムンガンドへと向かっていく。

ヨルムンガンドは、自身に迫る自分の力を源とした戦略級の光条に全く動じることも無く、呆れた様に見据えながら鼻を鳴らす。

「フン。驕るつもりでは無いが、俺の力を利用しておいてこの程度か・・・。全く・・・デッドコピーを作った程度で、調子に乗るなよ?」

ーーゴォウウ‼︎

ヨルムンガンドが展開した魔法陣に収束・圧縮した莫大な魔力が全て開放されて、十条の極大魔力光が放たれた。

放たれた“本物”の光は、“模造”された光を容易く競り合うことも無く呑み込み、海上に艦首を向けた艦隊を跡形も無く消し飛ばした。

『オオオオオオオォォ!』

それを見たヴァイキング達が、雄叫びをあげてヨルムンガンドを讃えていた。

「容易い・・・」

「流石、ヨルムンガンド様!」

「あんな偽物如き、本物に届く筈が無い!」

それを聞いたヨルムンガンドが、展開した魔法陣を消しながら言う。

「まあ、時には届くだろうさ。だが、今では無い。さてーー」

ヨルムンガンドは、上空のテュール艦隊を見据える。

ヨルムンガンドの攻撃によって、大艦隊の後方は消え去り、残りは未だに大艦隊と呼べる程の戦力を誇っている。

だが上空からは、ヘルとヘルが率いる艦隊による爆撃にも見紛う程の密度の濃い砲撃。

海上からは、ヨルムンガンドと【ミドガルドシュランゲ】。

そして前方からはアングルボザ、フェンリル、ロキの三人の神。

「・・・遅い。・・・遅い。・・・遅すぎる!」

アングルボザが数秒と経たずに、中型戦艦十数隻と多数の兵士を細切れにするとーー

「ーー崩壊せよ!【狼の終冬(フィンブルヴェト・ヴォルフ)】‼︎」

ーージャララララ!

ーーゴォウウ

離れた所で、フェンリルが権能【狼の終冬(フィンブルヴェト・ヴォルフ)】とグレイプニルによって、一気に超広範囲を攻撃し、多数の戦艦と兵士を消滅させる。

そしてロキは、極低温の霜・霧と渦巻く純水を撒き散らし、フェンリルを遥かに超える広範囲に影響を及ぼす。

権能・【冥極の霧氷(二ヴル・フィンブルヴェトル)】よる霜と霧は、敵に纏わりついて瞬時に氷槍へと変化して全身を貫き、ミストルティンより放たれる純水は様々な状態に変化し、外す事無く一発一発正確に敵を穿つ。

主にロキの攻撃によって、テュール艦隊の大半は成す術もなくまともに抵抗すら出来ずに、氷殺されていく。

数では遥かに勝るテュール艦隊だが、誰がどう見ても、完全に圧倒されていた。

普通なら三方向から攻め立てられ、上下への有効な兵装に乏しいのであれば、撤退も視野に入れた後退戦を行う筈だが、テュール艦隊は決して後退することなく、むしろその場に留まって全力で戦闘を行っていた。

テュール軍は、テュールによって“命令で無ければ、何があろうと決して退くこと許さぬ”と言われている為、たとえ絶対的に不利であろうとも、後退すると言う選択肢は無かった。

そしてこの一分後、彼等は正規軍相手に全く損害を与えられぬまま全滅した。


ーー・・・アスガルド正規軍・本陣空域

【ヴァルハラ級戦艦一番艦ヴァルハラ・オリジン】の甲板にて、オーディンはおもむろに左手を天に向けて翳す。

「まさか、オーディン様まで動くと・・・?」

「総力戦と仰っていたからな。別段驚きはしませんが・・・」

甲板上にて、オーディンの護衛に当たっているヴァルキリーが言った。

「神槍術式、展開・・・」

オーディンが言うと共に、トール、ロキが戦闘している空域とは別の前方空域に布陣するテュール艦隊上空に、天を埋め尽くさんばかりの無数のルーン魔法陣が展開される。

「同一形成、開始・・・」

全ての魔法陣の中心部に莫大な魔力で織られた槍が形成される。

「【九界を内包せし(アイ・オブ・ユグドラシル)】事象演算、行動予測開始・・・」

オーディンの左目の仮面が展開し、蒼銀に輝く瞳が顕になる。

「敵性存在、全捕捉。展開完了・・・!」

全ての魔法陣が収束し、中心部の槍へと魔力として収束する。

「これは我が槍の具現。穿ち尽くせ!ーー【神槍術式(オーディン・オーダー)・グングニル】‼︎」

ーーバシュン‼︎

魔法陣が魔力として集約され更に力を増した、一つ一つオーディンが莫大な魔力で生成した”擬似グングニル“が、一斉に艦隊に向かって放たれた。

それもただ降り注ぐのでは無く、極めて正確に一人一人、一隻一隻に完全に誘導して襲いかかった。

「クソッ、舐めーーぐあッ⁉︎」

ある者は、飛来するグングニルを斬り落とさんと武器を振るうが、その前に高速で飛来したグングニルに貫かれ。

「フン!躱してしまえば、幾らオーディンの攻撃であろうとーーッ⁉︎馬鹿な⁉︎そんな機動をーーがはッ‼︎」

ある者は、グングニルの攻撃を一度は横に回避するが、その直後に瞬時に穂先を回頭し、直角に軌道を変えたグングニルにより貫かれ。

戦艦は、複数のグングニルによって一瞬で穴だらけになる。

擬似グングニルは、オーディンが左目で捕捉した敵の全てを穿ち、殲滅していく。

たとえ回避しても、“命中”するまで追尾し続け、ならばと迎え撃ったとしても、“完全にグングニルの性能”を再現した擬似グングニルは、並の実力者が到底受け止め切れない攻撃力を誇るため、迎撃虚しく貫かれる。

ーー【武装再現術式(イクイバレント・オーダー)

文字通り武装を再現して使用する魔術であるが、再現出来るのはあくまでも“自分が所有する武装”に限定される。

しかし再現するのは、魔力で構成された所有する武装の完全再現で、武装のあらゆる性能の一切を完全に同一形成する。

術式自体は比較的難しい物ではなく、理解できれば簡単に行使出来る。

しかし簡単に行使は出来るが、所有する武装の性能によって威力や汎用性が大幅に変わり、魔力の消費も激しく扱いが非常に難しい魔術であり、またこの術の存在自体を知る者が限られている為、実際に使用する者は少ない。

この術の真価は、強大な力を有する武装を無数に生成出来る事にある。

十全に扱えるのならば、武装にもよるが、あらゆる戦闘レンジ、敵の数にも対応出来る高い可能性を秘めている。

オーディンの得物たる【神槍・グングニル】は、単体目標に対して投擲・射出による”回避不能“の絶大な攻撃性を発揮する武器で有り、万能かつ北欧において最上位に位置する武器ではあるが、多数目標に対しての同時攻撃と言う点では、ミストルティンやミョルニルの方が優れている。

もちろんオーディンは、グングニルの穂先から多数目標を薙ぎ払う魔力砲撃を行なっているが、魔力砲撃自体は回避不能では無い為、グングニルの最大の利点を発揮出来ない。

オーディンが使用する【神槍術式(オーディン・オーダー)・グングニル】は、グングニルの回避不能の単体攻撃性能を、多数目標への同時攻撃に使用すると言う目的の元に、元の術式にルーン術式を組み合わせて組まれており。

オーディンの莫大な魔力を高圧縮して生成された擬似グングニルは、本物と寸分違わぬ同一性能を誇る。

その証拠に術式が展開された艦隊の布陣空域は、鎖から解き放たれた猟犬の如く駆ける無数の擬似グングニルによって蹂躙されていた。

オーディンが術式を展開してから数十秒と経たずに、艦隊、全滅寸前であった。

やがて艦隊を全滅させた擬似グングニル群は、オーディンの制御によって、自動で索敵して更に後方のテュール軍へと襲いかかった。

実は、その気になればテュール軍全てを攻撃対象にし、戦場の全てを覆う程の術式を展開出来たが、今回オーディンの役目は“露払い”である為、殲滅する気満々ではあるものの、相当に手加減していた。

「さてーー後は擬似グングニルに任せておけばいいとして・・・。ーー皆、出番よ」

オーディンの周囲に大小五つの転移陣が出現し、それぞれから、“金属”の身体を持った生命体が出現する。

オーディンの両隣の少し上に、二羽の漆黒の鴉。

オーディンの両隣の足元に、二匹の灰色の大狼。

オーディンの背後に、巨大な八本脚の紅と銀の軍馬が、それぞれオーディンの側に現れた。

五体の金属生命体【マキナ】達は、オーディンの正面に整列し臣下の礼を取った。

「フギン、ここに!」

「ムニン、ここに」

フギンは冷静な男性の声で、ムニンも冷静そうな女性の声で応えた。

「ゲリ、ここに」

「フレキ、ここに!」

ゲリは淑やかそうな女性の声、フレキは少し粗暴さを感じさせる男性の声で応えた。

「スレイプニル、ここに」

そして、彼らの纏め役たるスレイプニルは、厳格そうな女性の声で応えた。

「それでマスター、何奴を倒せば良いんですか?呼ばれたと言う事は、暴れろと言う事ですよね?」

オーディンが口を開く前に、少し興奮した様子でフレキが早口に言った。

「フレキ、抑えなさい!申し訳ありません、マスター。久しぶりの大戦で、弟は少々昂ぶっておりまして・・・」

ゲリが、嗜める様に言った。

「全く・・・フレキよ。久方ぶりの大仕事で気持ちはわかるが、マスターの命令を待たないか」

「ええ、兄様の言う通りです」

少し呆れるようにフギンとムニンがそう言った。

「お前達、マスターの前で止めろ」

そのやり取りを聞いていたスレイプニルが、短めに注意した。

「構わないわ、本当に久しぶりだもの。さてーー」

五体は姿勢を正して、オーディンの言葉を待った。

「貴方達への指示は単純よ。戦場の各地に分散し、テュール軍を殲滅なさい。私が、本格的に動いても良いのだけど・・・今はまだ、我がオリジンを晒すのは時期尚早。その意味は分かるわね?」

「無論です」

代表する様に、スレイプニルが即座に応えた。

「“各モード”の使用も許可する」

『おお!』

「そして行く前に一つ・・・これはこの局面において、最も重要な事だから厳守してちょうだい。“テュール本人には、決して手を出さない事”。良いわね?」

「それは、例の少年の役目という事ですね?」

「ええ、その通りよ。その事さえ守れば、好きに暴れても構わないわ」

「承知しました」

スレイプニルが応え、他の四体も頷く。

「では、行きなさい!我がビースト・マキナ達よ!」

『ハッ!』

即座に五体のマキナ達は、戦場の各所に散っていく。


ーー・・・クラス・カッパ戦闘空域:カッパ専用艦・甲板上

「喰らえ、ケルベロス‼︎」

レア・ヘラクレスのハルバード型顕装【アクス・オブ・ケルベロス】のケルベロスの頭部を模した三つの刃がそれぞれ自在に伸長し、近くにいたエインヘリアルに喰らい付いて両断した。

「刃が伸びただと⁉︎小娘め!調子に乗るな!」

エインヘリアルがレアの背後に回り込んで、五メートル程距離はあったが、近接戦を仕掛けていく。

「そこも、私の間合いなんだよ!」

ーーブゥウン!

レアは、即座に振り返りながらハルバードを振り、戻している最中の刃で五メートルの距離を補い、エインヘリアルを一文字に両断した。

「伸ばした・・・刃で、リーチを⁉︎」

驚愕の声を上げながら、エインヘリアルは消滅した。

「ハン、軽い軽い!これがエインヘリアルかよ?クラフティに頼りすぎて、警戒心なさすぎだろ」

レアがハルバードを肩に担ぎ、余裕と言った。

「チッ、あのハルバード女め!奴を狙え!一度に攻撃出来るのは、最大三人・・・。集合しろ!」

ヴァルキリーの呼びかけで、三倍の人数ーー9人のヴァルキリーが集合した。

それを見たレアが、好戦的な笑みを浮かべる。

「今度はヴァルキリーか。面白え!エインヘリアルの相手は辟易してた所だ。オリュンポスの精鋭程度には、あたしを楽しませてくれよ!」

「舐めるな、小娘が‼︎」

そう言って、飛行出来ないのにも関わらずレアが飛び出そうとしたその時ーー

ーーズドン‼︎

「が・・・⁉︎」

「な・・・に・・・?」

大気を切り裂き、同時に放たれた九本の魔力矢が、九人のヴァルキリーのクラフティを砕いて突き刺さった。

ーードォォォォォォォン

そして一拍置いて、突き刺さった魔力矢が爆発し、ヴァルキリー達に爆発の威力を零距離から叩き込んだ。

「なっ⁉︎姉ちゃん!あたしの獲物を横取りすんなよな!」

レアは憤慨して後ろを振り向き、同じく甲板上で戦っているテミスに抗議した。

「そう言わないの、レア。敵の数が多いんだから、数人の敵にかまけていられないの、よ!」

ーーバシュン!

そう言って、何本もの魔力矢を同時に番ていたテミスは、前方のエインヘリアル達に放つ。

音速にも匹敵する速度でテミスの放った矢は、エインヘリアルが反応出来ない速度で到達し、クラフティの防御能力を簡単に破り、諸共に射抜いた。

「ああ⁉︎アイツら甲板まで、近付いて来そうだったのにッ!」

またも近づく敵兵を同時に射抜かれ、レアが憤慨する様な残念がる様な声を上げた。

「そんな声を出すものではありませんよ、レア」

そう言って艦内から出て来たのは、薄く透き通る金色のケープを羽織り、豊満な胸元を開けた教官用のスーツに身を包み、眼鏡をかけた長い金髪の美女【ケイローン】。

「先生、降りて来たんですか・・・?」

レアが少し嫌そうな表情で言った。

ケイローンは、ヒールを鳴らしながらレアとテミスに近づく。

ちなみに、伝説においてケイローンは半人半馬と言われているが、実際には普通の人型で有り、半馬の部分はケイローンがオリジンを纏った姿を本来の姿だと誤認されたものが伝わっていったものである。

「それはそうでしょう。折角、大軍との戦闘を常日頃から教えていたと言うのに・・・斬撃波とケルベロスの刃を伸ばせば中距離戦が出来るのに関わらず、わざわざ誘い込んで近距離戦をして甲板に取りつかれ、挙げ句の果てに自力で飛行出来ないのに甲板から飛び出そうとするとは・・・。これでは、安心して見てるなどいられませんよ」

ケイローンは、腕を組み嘆息しながら言った。

「ぐぅ・・・だ、だけど・・・!遠距離は、姉ちゃんには及ばないから・・・。あたしの距離に誘い込むしか・・・。そうしないと姉ちゃんに獲物を全部持ってかれるから・・・」

レアは、口籠もりながら言った。

「ふむ。ではーー“アレ”はどうしますか?」

ケイローンは、前方を指差した。

「アレ?」

レアは、ケイローンが指し示す方を見た。

「げッ⁉︎」

「・・・ッ⁉︎」

レアとテミスが見たのは、既にティーウの一隻がテュール砲をチャージしながら、こちらを照準している様だった。

「あの砲門、さっき見たヤバイビームを撃つものじゃ⁉︎」

「マズイわね・・・。さっき共有された情報では、あの砲撃は神クラスに匹敵する破壊力を秘めると聞いたわ・・・!既に照準はこちらを捉えている・・・今からでは、回避は間に合わない・・!」

テミスの見た限りでは、いつでも撃てるように見えた。

「クソ!なら、あたしがぶった斬って・・・」

そう言って、レアがハルバードを構えて艦首先端に向かおうとする。

「ダメよ‼︎仮に出来たとしても、無事では済まないわ!」

「じゃあ、どうすんだよ‼︎」

そのやり取りを、ケイローンは静かに見守っていた。

「私がやるわ・・・!」

テミスは、大弓をその場で構える。

「はあ⁉︎姉ちゃんが、アレを防ぐって言うのかよ?いくら何でも・・・」

「無理でしょうね。でも、未然に防ぐ事はできる」

テミスが魔力を収束させ魔力矢を作り、弦に番る。

「見たところ・・・あれだけ艦と一体化している砲塔ならば、恐らくジェネレーター直結式だと推測出来る。ならば狙撃して砲塔を破壊すれば、砲撃も阻止できて、戦艦を一撃で破壊出来るかも知れない」

「これは確かに、姉ちゃんの領分だな・・・。分かった。ならあたしは、姉ちゃんに敵を近づけさせなければいいな!」

「頼んだわよ、レア!」

「応!」

レアは、テミスを守る様にハルバードを構えて、周囲を最大限に警戒する。

レアは、自分に出来る現状での最大威力に高めた魔力矢を、最大まで引き絞る。

ーーグググ・・・

(射線上には、敵はいない。ヴァルハラの破壊で、敵がフレンドリーファイアを気を付けないといけなくなったのが好都合。遮るものは無い‼︎)

テミスは、莫大な魔力を溜め込んだ砲塔に狙いを澄ましーー

「沈めるッ‼︎」

ーーバシュン‼︎

音速を超える速度で放たれた魔力矢は、開かれた敵の射線上を、防がれる事なくテュール軍の兵は、誰も反応出来ずにテュール砲まで一直線に飛んでいった。

しかしーー

「ッ!アレは⁉︎」

臨界寸前のテュール砲に到達した魔力矢は、そのままテュール砲を射抜くかと思われたが、圧縮されていても砲口から漏れる莫大な神の魔力による波動により、放たれた速度は殺されていないが、直前で止まりその場で押し留められていた。

「漏れ出た波動による疑似的な障壁・・・。恐らくあれは、副次的な現象でしょう」

「ッ・・・!想定されてない現象で、私の最大威力の矢を防がれるなんて・・・!なら、もう一度・・・!

テミスは悔しさを露わにしながら、再び矢を番えようとする。

「ーー待ちなさい、テミス。もう時間が無い。今からでは、到達する前に消し飛ばされる。一撃を防がれた以上は、迎撃か回避かを判断しなければなりません。神の魔力が源で無ければ、ヒュドラより放たれたあの一撃は防がれなかったでしょう」

「先生・・・」

テミスは、弓を下ろした。

「確実に貴方達二人は、成長しています。それに免じて、私が沈めましょう」

「ちょっと待ってください!今からですか⁉︎」

「いくら先生でも、無理ですよ!さっき私に言った様に回避した方が・・・!」

レアとテミスが口々にそう言った。

「普通は、そうでしょうね。ですがーー時には、正面から叩き潰してやるのも必要ですよ」

ケイローンは、左手を前方に翳して魔力を収束し始める。

「ーー顕現せよ。【サジタリウス】」

荘厳な紋章の様な金色の装飾の施され、フレームが夜空の様な漆黒に彩色され、まるで武器そのものに星座が彩色されているようかのような美しい長弓が顕れた。

そして、そのままケイローンが流れる様に狙いを定めると同時に、魔力で構成された矢が自動的に番えられた。

ーーバシュン‼︎

ケイローンは番えられた矢を引き絞り、即座に放った。

番えられた際には一本に見えた矢は、“元から”重なっていたのか、途中で分身するかの様に10本の矢に分かたれる。

そして、砲塔に到達する直前に再び収束する様に重なって一本の超高密度の魔力矢となり、更に押し留められていたテミスの魔力矢をも吸収して到達し、押し流す波動の障壁を容易く切り裂き、砲口から船尾まで射抜いた。

一拍置いて、テュール砲にチャージされた魔力は行き場を失い、その場で球状の魔力爆発を引き起こし、戦艦を呑み込み、周囲の兵士も巻き込みながら跡形も無く消し去った。

「流石、先生・・・」

「ええ。私の技術は、まだ足元すら及ばないわ」

「いいえ。貴女達の潜在能力は、私など遥かに超えるものですよ。まあ、まだまだ未熟と言うのは否めませんが・・・いずれ、私すら足元に及ばない力をつけるでしょう」

ケイローンは、敵の状況を観察しながら言った。

「とは言え。流石にこれ以上の戦闘は、“雷霆”を使用禁止にした状態では、あの戦艦への対処が難しい。制限を解除するべきか・・・?」

ケイローンは、片手に持つ【サジタリウス】で自動装填・自動射撃しながら、暫し考える。

敵の数はだいぶ減ったとは言え、この空域にはまだ遥か多くの戦艦と兵士が大挙していた。

「⁉︎ーー先生、何か来る‼︎」

「この莫大な魔力は・・・!」

気配察知能力に優れているレアと、魔力察知能力に優れているテミスが声を上げる。

次の瞬間ーー


ーードドドドドドドド‼︎

敵軍に無数の“杭”が降り注いだ。



ーー数分前、クラス・カッパ戦闘空域上空

そこには、【皇鋼】で作られた体躯を持つ紅と銀に彩られた巨大な軍馬が、眼下の戦闘を見下ろしていた。

丁度、ケイローンが矢を放った所だった。

「ふむ、あれが数多のギリシャの英雄を導いたケイローンか・・・流石の腕だ。だが、あの少女達も未熟とは言え、よく鍛錬を積んでいる。流石は大英雄ヘラクレスの子孫にして、神の系譜と言った所だな。しかし、スパルタな実戦訓練だな。能力に制限をかけた上、更に足場的に不利な条件下で戦わせるとは・・・。しかし、そう言う条件でこそ即応力がつくと言うものか」

不遜な戦艦の爆散を見届けた彼女・スレイプニルは、満足気にうなづいた。

「さて、私も参戦するとしよう。ーー変形、モード・ナイト」

スレイプニルの頭部の両眼から光が消え、頭部が変形していき、首の部分が女性的な鎧姿の上半身に変形し、馬面の頭部が半分に分かれて肩鎧へと変形した。

その代わりに、内部に格納されていた人型のフルヘルムの頭部が現れ、両眼に光が灯る。

そして、頭部の上半身への変形と共に、各部に格納された推進用スラスターと姿勢制御用のバーニアが、露出した。

そして、腕部に何処からか転送されて来た、一対の菱形の中型シールドが、それぞれ両腕部に装備されて、いわゆる人馬型になった事でモード変更が完了した。

人馬型に変形したスレイプニルは、感覚を確かめる様に手を開いたり閉じたりを2回程繰り返した。

「パイルボウ・・・展開」

ーーガシャン!

装備された両腕部のシールドが変形し、シールドにクロスボウを一体化させた様な形状に変形した。

「螺旋杭、圧縮生成」

変形して顕になった砲口部に、胴体より腕部を通して膨大な魔力が供給されて、鋭利な螺旋状に魔力で生成された杭が装填された。

そして、杭が砲口内部で高速回転を掛けられ、貫通力と威力を更に増幅させ、砲口部は電磁加速をする様に、バチバチと雷が走っている。

「久方ぶりの戦争だ。私もいささか、昂っているな」

自身の状態を確認する様に呟き、スレイプニルは狙いを定める。

「ーー殲滅、開始‼︎」

ーーガガガガガガガガガ‼︎

まるでガトリングの様な轟音を響かせながら、毎秒/1000発の螺旋杭が、砲口部で電磁加速受けて更に加速しながら眼下のテュール軍に降り注いだ。

降り注ぐ螺旋杭は、敵の防御術式を抉り穿ち容易く突破し、兵士のクラフティ、強固な戦艦の装甲に歪な風穴を開けて貫いた。

一通り連射した後、クラス・カッパに迫る巨人型の戦闘ドローンを確認したスレイプニルの姿がかき消えた。


ーー・・・

「ケルベロス‼︎」

レアが、ハルバードを振り下ろしケルベロスの頭部を模した刃が喰らい付く様に迫る巨人型ドローンに食らい付こうとするがーー

ーーギィン!

巨人型は刃を迎撃する素振りは見せず、ただ真っ直ぐにクラス・カッパ専用艦に向かって飛行し続けて、勢いと機体前面に展開した堅牢な魔力障壁によって、ケルベロスの刃を弾いた。

「チィ、硬い‼︎ケルベロスの牙を弾くか!」

ーーバシュン!

レアの後ろからテミスが魔力矢を放ったがーー

またも何の迎撃動作を見せず、飛行速度と堅牢なシールドによって弾かれた。

「くっ、駄目か・・・!」

テミスがそう言うと、巨人型がスラスターを全開にして更に加速した。

「あのデカブツ、また加速しやがった!」

「ふむ・・・あれは、特攻兵器ですね。あの速度と前面に展開したシールドから察するに、単純な質量でこちらを押し潰すか、もしくは充分に近づいた所で自爆するか・・・。盗用技術ばかりだと思っていましたが・・・中々厄介な代物を作りましたね」

「どっちにしろ特攻だとしたら、さっさと落とさねえとまずいだろ先生‼︎」

今の自身の力では落とせないと分かったレアは、少し焦りが見えていた。

「落ち着きなさい、レア。そうですね・・・確かに“制限”を掛けた状態では、落とせませんね。・・・良いでしょう」

そう言ったケイローンは、二人に向かって左手を翳す。

二人の身を囲むかの様に、魔力で編まれた鎖がジャラリと浮かび上がった。

しかしーー

ーードゴォン‼︎

突如、巨人型の直上に紅い影が顕れ、巨人型の頭部に右腕に装備されたクロスボウ一体型シールドの砲口を突きつける様に叩きつけた。

『ーー‼︎」

「まさか、貴女は・・・!」

その影ーースレイプニルは、彼女達をチラリと一瞥すると、砲口を上から押さえつける様に押し付け、スレイプニルの桁違いの出力により巨人型ドローンの侵攻を完全に押さえ込んだ。

巨人型は、スレイプニルの押さえ込みに構わず、プログラムされた目的のみを達成しようと、突如現れた障害に攻撃する事なく、スラスターを全開にして進もうとしていた。

「フン。所詮、プログラムに沿った行動しか出来んドローン如きが、我等マキナの出力には遠く及ばんと知るがいい。・・・まあ、“自我”も持たぬお前に言うだけ無駄だな・・・ーーハッ‼︎」

ーーガンッ‼︎

スレイプニルは砲口に螺旋杭を生成して、間髪入れずに押し込む様に通常のパイルバンカーの様に射突する。

生成された螺旋杭は、全長5メートルを誇る巨人型を頭頂部より貫く様に、射突された際に伸長し串刺しにした。

この巨人型は、ジェネレーターを暴走させて自爆特攻を仕掛けるタイプだったが、スレイプニルの螺旋杭により正確にジェネレーターを貫かれた為、巨人型は自爆出来ずにそのまま機能停止した。

スレイプニルは、貫いた巨人型を横に払いのける様に持ち上げて、横に貫いたままの螺旋杭ごと射出した。

「スクラップめ・・・!」

スレイプニルは、吐き捨てる様に言った。

「やはり貴女ですか、スレイプニル」

ケイローンに声をかけられ、スレイプニルは甲板に降り立つ。

「久方ぶりになります、ケイローン殿。マスターは、故あって“力”を見せる事が出来ませんので、代わりに我等マキナに参戦を命じた次第です」

「さっきの一撃、見事でした。流石は、上位マキナですね」

ケイローンがスレイプニルに言った。

「何をおっしゃいますか、私が来なくとも貴女ならばあのガラクタなど、排する事など容易いでしょう。それにヘラクレス姉妹のお二人も”本来の力“であれば簡単ですよ。しかし、相変わらずスパルタな実戦をさせますね、ケイローン殿。能力の”8割“を封じての戦闘とは・・・」

「確かにスパルタだと自分でも思いますが、こうする事で総合能力が遥かに向上するという事は、実証されていますからね。それに、“9割以上”の枷をかけられていた子がいますからね」

「確かに、そうですね」

スレイプニルがそう言うと、特攻兵器に巻き込まれまいと攻撃を中断していた前方のテュール軍が、侵攻を再開した。

その最前には、先程のスレイプニルが破壊するした巨人型ドローンが列を成していた。

「またあのガラクタか・・・何体来ようが、我が杭の前には無意味だ」

スレイプニルは冷たい口調でそう言った。

「ふふ、相変わらずのドローン嫌いなのですね?」

ケイローンは、改めてレアとテミスに手を翳しながらスレイプニルに言った。

「嫌いではありませんよ。ただ、“自我”を与えぬくせに、あの様に人型で製造する必要など何処にもないでしょう。ましてや、特攻兵器など・・・適した形があると言う物です」

「確かに。自爆が目的ならば、単純な形状の方がいいでしょうね。とは言え、流石にここからの戦闘は制限しておくのは少々危険ですね。ーーテミス、レア!」

『はい!』

再び、姉妹の体の周りに鎖が浮かび上がる。

「制限を解除します。存分に暴れなさい」

『イエス・マム‼︎』

ーーバキン‼︎

浮かび上がった鎖が砕けたその瞬間、膨大な魔力と雷がレアとテミスから迸った。

「よし・・・!漸く、本気で暴れられるな!」

「そうね。これで、足場を気にする事なく戦える!」

二人はそれぞれの武器を右手に持ち、もう片方の手に莫大な雷を迸らせる。

「成る程、アレが・・・我がマスターの御息女の方々と同じという事ですか」

「ええ。しかし、制限をかけたのは一ヶ月程度だと言うのに、魔力の増大が著しい。やはり、この修行法は本当に有用ですね。・・・もはや、あの巨人型にもテュール軍にも遅れは取らないでしょう。ーーさて、我々も暴れましょうか?スレイプニル」

ケイローンは、眼鏡をクイッと掛け直しスレイプニルに言った。

その身の内では、静かに濃密な魔力が高められ、魔力がケイローンの輪郭を覆っていた。

「数多のギリシャの英雄の師と、大英雄の子孫たる姉妹と戦場を共に出来るとは光栄の極み。私も、マスターのーー最高神の軍馬としての力をお見せしましょう」

スレイプニルも更に出力を上昇させ、莫大な魔力を内から溢れさせる。

「「・・・・」」

レアとテミスが、姿勢を低くして跳躍の構えを取った。

武器を持つ二人の空いた手には、未だに膨大な雷が迸っていたが、その形状が“武器”へと変化しつつーーいや、武器が顕現しつつあった。

「さて・・・見せつけてやるか、姉ちゃん?」

「ええ。でも、突出し過ぎては駄目よ?」

「了解・・・じゃあーー」

迸る雷が、ギリシャの雷の頂点を表すかの様な武器を顕現した。

だが、顕現しても尚莫大な雷を纏い迸らせ、詳細な姿が確認出来なかった。

「「“雷霆”よ、顕現せよ‼︎」」

ーーズガァァァン‼︎

周辺一体を揺るがす程の轟音が響き渡り、戦場に“ギリシャの雷霆”が顕現した。


ーー・・・

テュール軍本陣と最前線のちょうど中間に出来た、境目の空域にスクルドはいた。

「あれは、トール様の雷では無いな・・・。成る程、天空の雷霆か・・・」

遠くで迸った莫大な雷を見たスクルドが、“戦闘中”でありながら、その方角を余所見して言った。

そのスクルドの隙を見逃さず、対峙するエインヘリアルの大斧が振り下ろされた。

ーーギィン‼︎

「・・・フン」

「ーー戦闘中に余所見とは・・・ずいぶんと余裕だな、スクルド」

スクルドは、両手で持って全力で振り下ろされた大斧を視認せずに、大剣様な穂先を持つルーン・ランスで持ってして片手で防いだ。

「ああ、余裕だよ?テュールのエインヘリアル如き、私の影にすら及ばんさ」

「くっ・・・!」

禍々しい形状かつ重装装甲、返り血を浴びた様な黒の迷彩色に彩色された専用クラフティを纏っているボズヴァルは、自ら独自にカスタムし、クラフティに組み込んだ飛行ルーン機能を使い、地上で行うのと同じ様に高速でスクルドから距離を取って対峙した。

「その言い草・・・他のエインヘリアルやヴァルキリーであれば、思い上がりだと笑い飛ばす所だろうが。お前の実力の片鱗を知っている者としては、全く笑えんな・・・」

「ならば撤退するか、ボズヴァル?もはやお前達にヴァルハラの加護は無い。以前一度手合わせした際に、手加減していたのは気づいていたのだろう?私と戦えば、確実に死ぬぞ?」

スクルドは余裕そうな微笑を浮かべ、大槍を脇に構えながら聞いた。

「貴様も知っている筈だ。我等に退くという選択肢など無い。テュール様の名の下、蹂躙か死かだ」

そう言ってボズヴァルは、自身の纏うクラフティの腕部に巻きつける様に装備されている鎖と大斧の石突きを連結した

「・・・フ。ならば、死ぬしかあるまい」

スクルドが、静かに殺気を漂わせ始めた。

「・・・・」

(最上位ヴァルキリー・・・スクルド・デスティニア。思い返せば、1500年共に有りながら、俺は奴の事をまるで知らない・・・。昔、一度だけ手合わせした事もあった。部下達から見れば、互角の勝負に見えていただろうが・・・断じて違う、スクルドは手玉に取る様にただあしらっていただけで、全く力を出していなかった)

ボズヴァルは、大斧を両手で側面に構え直し、スクルドの動きに警戒しながら見据えた。

(逆に俺の情報は、全て知られている可能性がある。スクルドは、運命の女神・ノルンの最後の末裔・・・。恐らく、神としての権能を持っている筈、迂闊に仕掛けるのは危険だがーー)

ボズヴァルと対峙するスクルドは、大槍を脇に構えたまま、優雅な立ち姿で様子を見ていた。

(こちらが仕掛けるまで動かないつもりか・・・。不確定要素が多過ぎるが、やぬを得まい・・・!)

ボズヴァルは、大斧を両手で振り上げーー

ーーブゥウン‼︎

スクルドに向けて、全力で投擲した。

鎖で石突を繋がれた大斧は、先端部を向けて水平に飛んでいく。

「・・・フ」

スクルドは、向かってきた大斧を容易く斬り払って弾いた。

ボズヴァルは、右腕に巻かれた鎖を両手で引っ張って、弾かれた大斧を思いっきり引き寄せる。

それと同時に、ボズヴァルは前方に飛び出した

「ほう?成る程・・・」

ボズヴァルのやろうとしている事を、把握した様子のスクルドは、攻撃を仕掛ける事なく様子を見ていた。

大斧を引き寄せたボズヴァルは、両手で大斧を掴み、戻って来た勢いを利用して、スクルドに距離を詰めながら遠心力を乗せた回転斬りを放った。袈裟懸けに放たれた斬撃は、大斧の重さもプラスされて振り下ろす際に更に高速化する。

スクルドは、高速で放たれた斬撃を最小限の左へのスライド移動だけで、紙一重に躱した。

躱されても、ボズヴァルはそのままスクルドの背後に流れ、スクルドの大槍のリーチの範囲外ギリギリの所で振り返り、大斧を投擲した。

スクルドは正確に投擲された大斧を、右へのスクルド移動で躱すと同時に、大斧の柄を左手で掴んで、投擲の勢いを利用して引き寄せた。

「・・・ぐう⁉︎」

「フ・・・」

勢いよく引き寄せられ、間合いに入ったボズヴァルにスクルドが振り返りながら斬撃で薙いだ。

「チイ・・・!」

ボズヴァルは、繋がれた鎖の連結を解除して、スクルドの斬撃を胸部装甲を浅く斬られる程度に抑えた。

「いい判断力だ。私に読まれている事に気付きながらも、フェイントを含めた攻撃。本命の投擲を防がれ、私の間合いにまで引きずり込まれるや否や、咄嗟に連結を解除して得物を捨てる。並のエインヘリアルでは出来まいよ」

スクルドは大斧を捨て、ボズヴァルに言った。

「・・・(やはり、俺の攻撃を完全に予測していたのは、単にスクルドの洞察力が優れているからか・・・。ならば、奴の権能は未来予知系では無いな)」

ボズヴァルは、そう考えながら武器を呼び出した。

右手に大剣、左手に半身を覆う程の大盾を装備した。

「成る程、それで私の権能を探るつもりか?」

「・・・オリジンを纏わんのか?」

相変わらず余裕そうなスクルドに対して、ボズヴァルは、大盾の影に隠れる攻防一体の構えをとりながらスクルドを見据えた。

「その必要は無い。まあ、お前の探りに付き合ってやるのもいいかも知れんが、私には任務があるのでな。少々本気を見せてやろう。もちろん、要望に応えて権能で終わらてやろう」

ーージャキン‼︎

スクルドは、大槍を構え直した。

そしてーー

ーーギギギィン‼︎

スクルドの姿が消えると同時に、金属音が“多段”に鳴り響き、瞬時に距離詰めたスクルドの放った斬撃が、ボズヴァルの大盾に防がれていた。

防がれたものの、大盾には深い刀傷が刻まれた。

「な・・・⁉︎」

「フ・・」

ボズヴァルは、重過ぎるスクルドの斬撃によって後方に大きく飛ばされた。

(重い・・・‼︎それに、なんだ今の攻撃は・・・⁉︎一撃の筈が、全くの同時に複数回、同じ場所に斬撃を受けた感覚だった・・・!)

ボズヴァルは体勢を立て直し、追撃に備える。

しかしーー

「な・・・んだと・・・⁉︎」

「反応はいい。ーーが、遅過ぎる」

ボズヴァルが斬撃を受けた地点にいた筈のスクルドは、既にボズヴァルの背後に移動していた。

「・・・ッ‼︎」

「フ・・・」

ーーギギギギィン‼︎

二人が同時に振り返りながら、スクルドは斬撃を、ボズヴァルは大盾で防御した。

防御した大盾は限界を迎えて砕け散り、ボズヴァルはスクルドから距離をとった。

「くっ・・・!」

(辛うじて防げたが、やはり一太刀のみを受けたというのに、まるで複数回同時に斬撃を受けた感覚・・・これは・・・)

スクルドの斬撃は、振り返りながら実際に放った一撃だけだ。

しかし、ミスリル製の大盾は同一箇所に複数の斬撃を受けて両断された。

「やはりドヴェルグ製のミスリル兵装は硬いな、破壊するのに“七発“も入れねばならんとは」

「冗談を言うな。本来ならば一撃で破壊出来ただろう?だが確かに視認出来たのは、一撃のみだった。しかし、その一撃を受けた時に微かに複数回同時に防いだ感覚を覚えた。お前のいう“七発”とは、なんらかの権能による連続攻撃。つまりお前の権能はーー同一箇所に同じ攻撃を発生させる様な権能か?」

「・・・・ハズレだ。まあ、ワザと少しずらして重ねた攻撃を感知出来たのは、見事だが・・・それがお前の限界だ」

「何だーー」

ーーザン‼︎

その瞬間、全方位から大槍による斬撃がクラフティを破壊して砕いた。

「ーーと・・・⁉︎」

(馬鹿な⁉︎何処から⁉︎)

ボズヴァルとスクルドの戦闘空域の半径数十キロ以内には誰もおらず、もし他の戦線からの流れ弾だとしても全方位から同時に当たるなど、まずあり得なかった。

ボズヴァルは、予備の同じクラフティを纏い直し、周囲に誰もいない事をルーンによる探知で確認した。

(どういう事だ・・・⁉︎流れ弾などあり得ない!俺は、一瞬たりとも奴から視線を逸らしていない。何より奴はーー攻撃動作をとっていない!)

「予備か。だが、無意味だ」

ーーザン‼︎

「・・・なッ⁉︎」

先程と同じ様にボズヴァルの全方位から同時に斬撃が襲い、反応すら出来ずにクラフティを砕かれた。

またもスクルドは、何の動作も取っていない。

「予備は、最後だろう?」

「やはり、知っていたか・・・」

ボズヴァルは、全方位への警戒を最大限にしつつ大剣を構え直す。

「・・・フン‼︎」

ボズヴァルは、構え直すと同時に間髪入れずにスクルドに突撃した。

瞬間的とは言えないが、大剣を振り上げながら高速で距離を詰めると、何の動作も未だに見せないスクルドに袈裟懸けに振り下ろした。

「・・・遅いな」

スクルドは、その斬撃を寸前で後退して躱した。

「・・・ッ‼︎」

斬撃を躱されたボズヴァルは、弾かれる様に後退した。

ボズヴァルが後退すると同時に、ボズヴァルが寸前までいた地点を、全方位からの大槍の刺突が空を穿った。

ボズヴァルは後退しながら、今まで反応出来なかったスクルドの攻撃を“視認”した。

「・・・同じ大槍を、複数同時だと⁉︎」

しかし、ボズヴァルが視認した大槍は、攻撃を終えると同時に霧散して消えた。

「直感で回避したか。それに、ようやく見えたか?」

スクルドは、先程と同じように大槍を脇に構えた優雅な立ち姿で滞空していた。

「・・・今のがお前の権能か?ならばお前の権能は、武器の瞬間召喚なのか?」

「やれやれ。私が運命の女神・ノルン最後の末裔、デスティニア一族の最後の一人だと知っていたのだろう?ならば、既に我が権能に当たりをつけていてもおかしく無いが・・・あれだけ見せても的外れな推測とはな」

「・・・・・・」

「まあ、良いだろう。ならば、分かりやすく見せてやろう」

ーージャキン‼︎

「ーーッ⁉︎」

ボズヴァルの身動きを拘束する様に、スクルドの大槍が刺突する様に“出現”した。

「運命の女神・ノルン。その一族は三つあり、権能もそれぞれ運命に関連した別々の物だった。だが、全ての一族に共通したのは、運命を“顕現”させる事・・・」

「ーーッ!まさか・・・貴様の権能は・・・!」

「可能性の顕現・・・。【九界を織り顕す運命(ユグドラシル・デスティニア)】」


ーー・・・ヴァルハラ級戦艦一番艦・ヴァルハラ・オリジン


オーディンは、甲板上に複数の空中ディスプレイを投影し、戦況を見守っていた。

「可能性の顕現・・・そんな権能があるとは・・・!それがスクルド様の権能なのですか?オーディン様?」

オーディンの直衛についているヴァルキリーの一人が、ディスプレイの一つに映し出されているスクルドの実力に目を見張りながらオーディンに聞いた。

「ええ、そうよ。あの子のーースクルドの権能【九界を織り顕す運命(ユグドラシル・デスティニア)】は、“自身のあらゆる戦闘動作における無数の選択肢を、同時に顕現する事が出来る”」

「選択肢の・・・」

「同時顕現・・・」

「戦闘とは、常に取捨選択の連続・・・。一分一秒、コンマ何秒の判断の遅れが命運を分ける。貴女達も覚えがあるでしょう?「あの時、こう攻撃すれば良かった」、「この方が、もっと確実に防げた」と」

「はい、もちろん多々あります」

「スクルドは、取捨選択をする必要が無いのよ。何故なら、とれる選択肢の全てを行う事が出来るから」

「で、では・・・!スクルド様が、動く事なく攻撃出来るのは、その行動を行う可能性がある為・・・ですか?」

「そう。スクルドの戦闘能力なら、動く事なく瞬時に距離を詰めて攻撃する可能性があるから。同じく防御においても、その防御を取る可能性があるから」

画面には、スクルドの権能によって顕現し続ける攻撃を辛うじて致命傷を避けながら、スクルドに手も足も出ないボズヴァルが映し出されていた。

「だから戦闘能力が高ければ高い程、取れる選択肢は多くなり、権能はより強力無比なものになっていく」

オーディンがそう言っている内に、スクルドはボズヴァルを追い詰めていった。


ーー・・・

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・クソ、このままでは・・・!」

スクルドの権能によって顕現する可能性上のスクルドの攻撃を、戦士として登録前に培って来た直感と本能によって、辛うじて掠める程度に留めて避け続けるボズヴァルは、既に限界を迎えつつあった。

「満身創痍だな、ボズヴァル。流石は、ベルセルクの一人」

「はっ・・・よく言う。ワザと、攻撃の狙いを外してるくせに・・・。何が狙いだ、スクルド?」

全身に負った傷から血を流し、全く攻撃動作を見せずに全方位からいついかなる場合でも仕掛ける事が出来るスクルドに、ボズヴァルは全方位の警戒を厳にしながら冷静に問う。

「なに、ただの時間稼ぎだ。彼が奴に集中出来るように、邪魔なお前を誘い込んだまでだ」

「成る程な・・・“彼”とは、あの黒い鎧の奴か。だがいくらお膳立てしようが、テュール様の権能の前では、捻り潰されるのがオチだ。お前の行動は無意味に終わるだろう」

ボズヴァルは、大斧を正面に構えて、攻撃を仕掛ける準備をし、スクルドは相変わらず大槍を構えたまま、優雅に滞空していた。

余裕を見せるスクルドだが、その瞳はひと時たりとも動きを逃すまいと、油断無くボズヴァルを見据えていた。

(やはり、隙が一切見当たらん。こちらの攻撃を躊躇わすような静かな殺気・・・そして、どう攻めようが次の瞬間には死ぬだろうと思わせるこの感覚・・・。これがシグルーンに匹敵する実力を誇る、スクルドの本来の戦いか・・・)

ボズヴァル以外のテュール軍の兵士ならば、この様子を「舐めている」「侮っている」もしくは「隙だらけ」と思い、前者ならば怒りを覚え突撃、後者であっても好機と考えて安易な攻撃を仕掛けるだろう。

それ程までにテュール軍の兵士達は、自分達は「強い」と勘違いしていた。

だが、ボズヴァルは違った。

かつてボズヴァルは、北欧において英雄王と呼ばれた王直属の筆頭戦士だった。

一族の伝統によって、獣の如き膂力を発揮できる呪いを刻まれ、数多の戦において並の巨人族すら凌駕する力で数千の敵を薙ぎ払い、単独で強大な魔獣を討伐せしめるなど、数多くの武功を挙げたベルセルクの一人である。

ある時、休暇を貰い、一族が治める領地に帰ったボズヴァルが見たのは、一族全員女子供に至るまで死に絶え、徹底的に破壊し尽くされ廃墟と化した街の姿だった。

当然、ボズヴァルは怒り狂い、この所業をした者を殺し尽くす為に、各地を亡霊の様に彷徨よい探し回った。

だが、全く手かがりすら無い状態では見つける事など出来ずに彷徨った末に、廃墟と化した故郷に戻った。

戻ったボズヴァルに、上空から舞い降りて語りかけて来たのが、軍神・テュールであった。

テュールによって、街を滅ぼしたのはオーディン配下の兵士であると吹き込まれ、記録映像まで見せられたボズヴァルは、一族が崇拝していたテュールの言葉を信じてしまい、提示されたエインヘリアルへの登録を承諾してしまった。

以来、今日までテュールに付き従い、驕り高ぶる兵士達に囲まれながらも、かつて培ってきた戦闘技術と経験を色褪せずに、テュールの側近として仕えてきた。

故に、全く色褪せぬ戦闘経験に基づき、圧倒的に戦闘に長けた権能を持つスクルドに仕掛ける事に、慎重になっていた。

だがーースクルドは、小さく笑い、完全に構えを解いてボズヴァルに言う。

「フ・・・もう演技は充分だろう、ボズヴァル。ここまでやって、お前に援軍が来ないと言う事は、つまりはそう言う事だろう?」

「やはり、見透かされていたか。道理で、瞬殺されない訳だな」

ボズヴァルも、周囲を確認しながら完全に構えを解いて、スクルドに言う。

「お前の言う通りだな。もはやテュールは、自分の防衛に手一杯で、監視を送る事も出来ぬ程に追い詰められている。そして、ヴァルハラの加護も消えた。惜しむべくは、奴に一撃入れる事が出来なかった点だけだな・・・。しかし、いつから気付いていたのだスクルド?」

「お前の名がヴァルハラに登録された時に、疑問を抱いてな。というよりお前のみならず、お前の一族の戦士がごっそりと登録されたからな、気になって調べたさ。すると案の定、奴は自作自演で街を滅ぼし、一族全員を殺した挙句に、オーディン様が行なったと嘯いてヴァルハラに登録させていた。あの時は、流石に殺してやろうかと思ったが・・・計画の為に気持ちを押し殺したものだ」

「成る程。テュールの横に並び立った時には、既に知っていたのか・・・。奴は獅子身中の虫を、知らずに両腕としていたと言うわけか」

ボズヴァルとスクルドが会話していると、ヴァルキリーが戦闘態勢で二人に近付いて来た。

「スクルド様!」

「ご無事ですか⁉︎」

二人は、ボズヴァルに対して槍を向ける。

「武器を下ろせ、味方だ」

スクルドはそんな二人を制する。

「み、味方?」

「ボズヴァルがですか?」

「そうだ、我々と同じだ。だから武器を下ろせ」

二人は、武器を下ろしてスクルドに聞く。

「承知しました。では捕虜に?」

「ああ、オーディン様の元まで連れていき、扱いを仰げ。いいな、ボズヴァル?」

「ああ、もちろん」

「よし。では、連れて行け」

『はっ』

ヴァルキリー達は、見掛けだけの拘束をボズヴァルに施して連行していく。

「一つだけ確認させてくれスクルド。テュールは、本当に今日死ぬのか?」

ボズヴァルは後ろを振り返り、テュール軍本陣を見据えるスクルドに聞いた。

「心配するな。奴は今日、確実に滅びる」

「お前が言っていた、「黒き皇」・・・あの黒い鎧を纏った者にか?」

「そうだ。そしてそれは、何千年以上も前から決まっていた事だ」

「・・・そうか。ならばオーディン様の元で見せて貰うとしよう。テュールの最期ーー神殺しを」

そう言ってボズヴァルは、ヴァルキリー達に連行されていった。

「ああ・・・私も見せて貰うさ。蛮族と断じた黒龍に、引き裂かれる様を」

スクルドはそう呟き、テュールの最期を直接見る為、この空域に留まった。

その視線の先には、たった一人に対して集中する無数の砲火と、一発も被弾する気配も感じさせずに残像機動により回避しながら、テュール軍・旗艦【ティウダンス】の上空に飛翔する「黒き皇」の姿があった。


ーー・・・

ーーギン!、ギン!、ギィン‼︎

クラスデルタが守る空域では、クラス専用艦を最前より少し後方に下げて支援と戦線の防衛に撤しさせ、かつスルカとノルン以外の生徒もそこに配置して、ブリュンヒルデは上位ヴァルキリー・カーラと、カーラ率いるヴァルキリーの大部隊と単独で戦闘中であった。

ただーー

ーーギィン‼︎

ブリュンヒルデの顕現装具である、鋭利な氷を思わせる美しい両刃槍【フィンブルヴェト・ランス】と、カーラの専用ルーン・ブレイドが斬り結び、そのまま鍔ぜりあった。

「ぐ・・・こんな筈では・・・!」

「・・・・ハッ!」

苦々しくそう言ったカーラを、ブリュンヒルデは力を込めて後方に弾き飛ばした。

カーラは体勢を立て直して、ブリュンヒルデを睨む。

「ブリュンヒルデ・・・!」

「言ったでしょう?フィンブルヴェトの具現だと」

焦りを見せるカーラに対して、ブリュンヒルデは極めて冷静に答えた。

(何ですの、これは・・・⁈数の優位は、揺るが無い筈でしたのに・・・!)

カーラは、周囲の状況が理解出来なかった。

周囲からは、ブリュンヒルデとカーラの戦闘音以外に別の戦闘音が絶え間無く鳴り響いていた。

ブリュンヒルデは、カーラとカーラ率いるヴァルキリー部隊と交戦する筈だった。

だが、ブリュンヒルデの権能が解放された時、カーラが率いるヴァルキリー部隊は、混乱と狂気の渦に支配された。

「貴女達‼︎敵は、ブリュンヒルデです‼︎私の言う事が聞こえないのですか⁉︎」

カーラの部下であるヴァルキリー達は、味方同士で戦闘していた。

カーラは声を荒げて呼び掛けるが、耳を傾ける事は無く、一対一で戦う正面の敵(仲間)の事しかもはや頭に無く、ただただ己の全力を持ってして、無言で相手と殺し合う。

「ブリュンヒルデ、いったい何をしーー」

「終末の兆し、三度の厳冬・・・」

カーラが言い終わる前に、ブリュンヒルデが話し出す。

「一度目の厳冬。あらゆる方向から風が吹き荒び、吹雪を加速させ、立ち向かう全てを停滞させる【風の始冬】」

ブリュンヒルデは続ける。

「三度目の厳冬。狼の咆哮が響き渡り、全ての生命に終わりを与え、終末の始まりが訪れる【狼の終冬】」

遠くの戦線で、“大狼”により崩壊の吹雪が吹き荒れる。

「そして、二度目の厳冬。戦乱が巻き起こり、全ての生命は狂気に呑まれて殺し合う【剣の狂冬】」

「まさか、それが・・・!」

ブリュンヒルデは、謳うように告げる。

「【フィンブルヴェト・ソード】・・・【剣の冬】の具現。これこそが、私の権能」

「フィンブルヴェトの権能・・・⁉︎バカな!あり得ない‼︎フィンブルヴェトの権能は、北欧の歴史上で発現が確認された者の中に、貴女の名は無かった!それをーー!」

驚愕するカーラは、言い終わる途中で気付く。

(今、周囲で起きているこの光景は、まさに【剣の冬】そのもの・・・!近年まで潜入していた私も、ブリュンヒルデの権能は見聞きした事は無かった。だが何故、知らなかったのか?発現が確認された者の中に名が無かったという事はーー)

「まさか・・・!今まで一度も権能を使った事が、無かったと言う事⁉︎」

カーラが到った答えを、ブリュンヒルデは即座に否定する。

「いいえ、ハズレよ。フィンブルヴェト具現者として名が刻まれなかったのは、母の命令と情報の統制。そして私がこの権能を使う戦闘において、今まで敵対者の誰一人として生き残った者はおらず、かつ単独での戦闘時にしか使っていなかったからよ」

「情報統制・・・成る程、道理で知らない筈ですわね。教え子を下がらせたのも、この権能の影響が及ばない様にする為という事ね?」

「いいえ、違う」

「ーーな⁉︎」

ブリュンヒルデは、またも即座に否定した。

「生徒を下がらせたのは、迎撃に徹しさせる為。それに今回の目的は、安全に大規模戦闘を経験させる事。まさに1500年進歩していない貴女達は、まさにうってつけの相手」

「・・・まるで我らが、たかが学生如きに遅れをとるとでも言うつもりですの、ブリュンヒルデ・・・?」

カーラは、怒りを滲ませながら言った。

「実際にそうでしょう?知っているかはわからないけど、現にこちらの軍は誰一人として死んでいない。システムに頼りきりの浮かれた貴女達では、“質”の戦力差にすら気付けないのだろうけど」

「ブリュンヒルデぇぇぇっ‼︎」

挑発する様なブリュンヒルデに、カーラは激昂して突撃する。

向かって来るカーラに対してブリュンヒルデは、斜め上後退しながら左手を上に翳しーー

「【剣の狂冬(フィンブルヴェト・ソード)】・・・!」

向かって来るカーラに左手を翳すと、ブリュンヒルデの周囲に瞬時に無数の“黒い”氷刃が生成され、雨の様に降り注いだ。

「くっ・・・⁉︎」

カーラは急制動をかけて、降り注ぐ氷刃を剣で斬り払い、盾で防ぐ。

「良い判断ね、カーラ。私の権能によって生成された攻撃に被弾すれば、貴女の部下と同じ様になる。さてーーいつまで防ぎ切れるかしら?」

ーーキン、キン、キン

「舐められた物ですわね・・・!この程度を私が捌けないとでも・・・?」

カーラは、怒りを滲ませながらも余裕そうに権能の氷刃を捌いていく。

しかしそこから反撃する余裕は無く、ブリュンヒルデに悟られまいとしているが、防ぐので一杯だった。

「そう・・・なら、もっと増やしても良さそうね」

「何・・・⁉︎」

ブリュンヒルデが言うと同時に、降り注ぐ氷刃が更にその数を増やし、黒い雨が黒い暴風雪となってカーラに襲いかかる。

「くっ、クソッ・・・!」

今まで捌く事で手一杯と言え、辛うじて捌き切れていたカーラも、更に猛威を増した権能の攻撃を捌く事が出来ず、回避して距離を取ることすらままならず、その場で盾を前面に構えての防御態勢を取り、防御に専念するほか無かった。

満遍なく全身に攻撃を受け続け、次第に専用クラフティの装甲と武器にヒビが見え始めて、砕かれる寸前だった。

「ぐう・・・(こ、このままでは本当に不味い・・・!直接対峙した事は無かったが、フィンブルヴェトの権能は本当に危険かつ強力無比な権能と聞いていたが・・・権能の一端だけでここまでこの私が圧倒されるとは・・・!)」

カーラは防ぎながら、未だ味方同士で戦闘中の部下達を視界の端に捉える。

(もう部下達は、当てにならない。認めざるを得ないが、このままでは押し切られるのは時間の問題。ならば、いっそ自害して一度ヴァルハラで態勢を立て直して・・・いや!そんな事をすれば、まるで私がブリュンヒルデに恐れを為したみたいになる!私がブリュンヒルデに劣っているなど断じて認めませんわ‼︎)

そんな事をカーラが考えている内に、装甲は限界に近づいていく。

ただカーラは、気付いていなかった。

本来ならブリュンヒルデは、カーラのクラフティなど一瞬で破壊出来る所を、破壊しない様に手加減されていると言う事を。

そして、ブリュンヒルデは作戦の成功を持って行う次の攻撃で、終わらせられる様に追い詰めていた。

クラフティのシステムが限界を知らせる警告音を絶えずカーラに届けていた。

(ク、限界が近い・・・。この私がブリュンヒルデ如きに・・・!・・・いや?もしかして奴が生徒を下がらせたのは、自分の権能の影響が及ばない様にする為?そもそも今まで単独での戦闘しか使って来なかったのは、味方にも影響が出るのではないか?ならばなんとか奴らの友軍の近くに移動すればーー)

そんなカーラの考えを読んでいるかの様に、ブリュンヒルデが言う。

「ちなみに、私が味方に考慮して権能を使わなかったなんて事は無いわよ?私の権能は、敵対者に理性無き狂乱を、味方には狂乱の力“だけ”を与える物だから」

「・・・なっ⁉︎“だけ”、だと?ならば本来は、巻き込んでも能力をブーストさせるだけと言うの⁉︎」

「ええ、その通り。フィンブルヴェトの権能は強力無比・・・貴女のご主人様の権能とは違うのよ」

「ブリュンヒルデ、貴様・・・!テュール様への度重なる侮辱の数々、ただ殺すだけでは済ましませんわ・・・‼︎」

カーラは、黒い氷刃の吹雪にさらされながら怒りに満ちた声で言った

「あら、どうすると言うのカーラ?私の攻撃を防ぐ事で一杯の状況で、そんな事が出来るとでも?」

「言ってくれますわね、ブリュンヒルデ。ならば、見せてあげるわ。我が忠誠心を・・・!ーー艦長‼︎」

カーラは、後方から艦砲射撃している【特務主力艦・ティーウ】に回線を開き、呼び掛けた。

「カーラ様?」

「私の座標に向けて、【テュール砲】で砲撃しなさい・・・!」

その命令に艦長は、驚愕する。

「し、しかし、それではカーラ様も・・・!それに、既にヴァル・・・」

「いいから、撃ちなさい‼︎テュール様への我が忠誠心を示す時なのです‼︎」

「り、了解しました・・・!」

言いかけた艦長を遮り、カーラは強く命令した。

そして、後方のティーウが艦首を中心からニ又に開き、テュール砲を展開する。

「自分ごと私を撃つつもり、カーラ?」

「言った筈ですわ、我が忠誠心を示すと。それに完全に消滅するのは、貴女だけよブリュンヒルデ」

そう勝ち誇った様に、カーラは言った。

「ならその忠誠心、砕かせて貰いましょうか」

ブリュンヒルデは、左手を横に翳して新たな武器を呼び出す。

ブリュンヒルデが呼び出したのは、蒼白色の長砲身かつ長方形の銃身を持つスナイパーライフル。

それも、両手で保持する様な通常の物よりも一回り大きい物だった。

ーージャキ

ブリュンヒルデは、それを左手だけで保持して、即座に直線上に見えるティーウに銃口・・・砲口と言っていいほどの大口径の銃口を向けて狙いを定めた。

「なっ⁉︎そんな馬鹿でかいライフルを片手で⁉︎」

カーラの驚愕する声が聞こえたが、ブリュンヒルデは狙撃態勢をとりながらも権能による攻撃は緩めていない為、カーラは身動き取れないと分かっていた為にその声を無視した。

銃口の先には、チャージを開始したティーウ。

しかし、ブリュンヒルデの準備は即座に完了していた

「‼︎まさか⁉︎ブリュンヒルデ、貴様!」

「・・・遅い」

ーーダァン‼︎

腹の底に響く様な、重い砲撃音が鳴り響く。

スナイパーライフルに供給されたブリュンヒルデの魔力は、魔力弾へと即座に圧縮変換され、銃身内部を通る際に超電磁加速をかけられ、亜高速の魔力弾丸が発射された。

発射された弾丸は、一瞬にして数百キロ先のティーウをテュール砲ごと貫き、射線上の大気が遅れて切り裂かれる。

貫かれたティーウが、遠くで数回の部分爆発の後に轟沈した。

「ティーウを・・・たった一撃で⁉︎」

「戦艦は落とした。そして、もう満足に戦闘行動を取る事は、出来ない・・・終わりよ、カーラ」

漸く、ブリュンヒルデは権能による吹雪を止めた。

そして、スナイパーキャノンとでも言うべきスナイパーライフルの銃口を、満身創痍のカーラに向けた。

「ハア・・・ハア・・・おのれ、ブリュンヒルデ如きに・・・!」

カーラのクラフティは、今まで受けていたブリュンヒルデの攻撃が止まった為、修復中ではあるが70%以上が砕かれ、ルーン武器である長剣と盾も、ボロボロでもはや使い物になりそうになかった。

「ーー‼︎・・・これは・・・⁉︎」

ブリュンヒルデが引き金を弾こうとした瞬間、左目の【九界を内包せし(アイ・オブ・ユグドラシル)】が蒼く輝き、直近の光景をブリュンヒルデに視せた。

しかしその光景は、ブリュンヒルデ自身に起こることでは無く、テュール軍本陣を攻めている“少年“に対して、【ティウダンス】に装備されたテュール砲が放たれると言う光景だった。

(ーー‼︎撃ってこない?何かに気を取られている?今なら・・・!)

ブリュンヒルデが、何かに(未来視)に気を取られている事に気づいたカーラが、ボロボロになった長剣を構えてブリュンヒルデに突撃した。

「抜かりましたわね、ブリュンヒルデ!やはり、最後に勝つのはこのわたく・・・」

ーージャキ

「・・・ッ⁉︎」

ブリュンヒルデの至近にまで迫ったカーラの眼前に、“変形”したスナイパーライフルが突きつけられた。

「誰が抜かったって?」

(砲身が折り畳まれている⁉︎)

「くっ!・・・しかし、この距離ならば‼︎」

カーラは、構わずに全力の刺突を繰り出した。

しかし、カーラの刃がブリュンヒルデに届くよりも、ブリュンヒルデが引き金を弾く方が速かった。

ーーガガガガガガガガ‼︎

重い砲撃音を響かせながら、銃身が縦に折り畳まれ、短砲身となったスナイパーライフルから、一発一発が大口径の散弾が、マシンガンのごとき連射速度でカーラに放たれた。

(ーー馬鹿な⁉︎ショットガン・・・⁉︎)

そう思った直後、カーラは豪雨の様な散弾に飲み込まれる。

至近から放たれる大口径の散弾は、カーラの一切を端から消し去っていきーー

(もう・・・し訳ありません・・・テュール・・・様)

散弾の豪雨が止む頃には、カーラの姿は跡形も残らず消滅していた。

「さてーー」

カーラが消滅した後、ブリュンヒルデは【ティウダンス】を見据える。

ティウダンスは艦首を上空に向け、テュール砲のチャージを開始していた。

「彼ならばあの程度、問題にもならないでしょうけど。視えた以上は、対処しておくに越した事はないわね」

ーーガチャン!

そう言ってブリュンヒルデは、砲身を元に戻してスナイパーモードに切り替えてすかさず照準を合わせーー

ーーダゥン‼︎

大口径の魔力弾が放たれた。


ーー中篇・終

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