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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
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二章ー八節【黒き皇の神殺し】前編

「ーーさあ、真なるラグナロクの始まりよ」

ぶつかり合う最前線。

その真横の空域、そして海域に、多数のルーン術式による転移陣が展開され、そこから大小様々な戦艦が出現していた。


ーー・・・ティウダンス艦橋にて

「・・・何、だと・・・⁉︎」

「転移陣より、魔導戦艦の出現を確認!ーー‼︎こ、これは、この識別コードは・・・!」

状況を理解仕切れずにいるテュールの代わりに、側に控える、いかにも歴戦の英雄といった風貌をした屈強なエインヘリアルの男が確認する。

「何だ?」

「は、ハ!これは・・・ヴァルハラ級戦艦三番艦・ビルスキルニル!ヴァルハラ級戦艦二番艦・フヴェズルング!・・・ヴァルハラ級戦艦一番艦・・・ヴァルハラ・・・オリジンを・・・確認・・・‼︎」

オペレーター担当官が戦々恐々しながら報告する。

「バカ・・・な⁉︎三女神、だと⁉︎」

ーー・・・

多数の転移陣より出現した北欧・アスガルド正規軍の大軍勢。

その軍勢の最前に、三女神のヴァルハラ級戦艦が扇状に布陣していた。

その中央の蒼銀の流麗な戦艦、【ヴァルハラ級戦艦一番艦ヴァルハラ・オリジン】の甲板上に、長い蒼銀の髪を靡かせてオーディンは立っていた。

「・・・確実に機能する術式を組んだとは言え、無事に復活出来た様ね・・・」

復活した娘・スルカの姿を確認したオーディンは、胸を撫で下ろしていた。

「ーー姉上!」

そこにヴァルハラ・オリジンの右側に布陣する、『ヴァルハラ級戦艦三番艦・ビルスキルニル】の甲板上に立つ、トールから魔導通信が入る。

空中にディスプレイが投影され、トールの姿が映し出される。

「思う存分に暴れていいんだよな、姉上?正直言って抑えきれそうに無いんだが?」

「ええ。でも、少し待って。ツクヨミと足並みを揃えて仕掛けるわ」

「分かったよ、姉上。でも始まったら好きにさせて貰うぜ?」

「もちろん、存分に暴れなさい。ただし、奴を討つのは彼の役目よ」

「分かってる、了解だ」

そう言って、トールは通信を切った。

通信ディスプレイを閉じた後、ロキに通信する為、ディスプレイを投影する。

「ーーロキ」

「ーー姉上」

オーディンが呼びかけると、ロキはすぐに反応した。

【ヴァルハラ級戦艦二番艦・フヴェズルング】の甲板上に立つロキの表情は、戦場である為引き締められているが、久しぶりに直接息子の姿を見た喜びが、少し溢れていた。

「ロキ・・・もう抑える必要は無いわ。貴女も存分に力を振るいなさい。貴方もね、“アング”」

「・・・ああ、義姉上」

ロキの側に控えていた銀色の体毛の狼獣人、いわゆるワーウルフやウェアウルフとして認知される人狼の男性が返事した。

その風貌は、フェンリルにそっくりだが、威厳を兼ね備えていた。

言うなれば、フェンリルを人型にしたらこんな感じでは無いかと言う様な姿だった。

ーー【アングルボザ】

ロキの夫で有り、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルの父親で、アスガルド軍・元帥兼智神補佐を務めている。

巨人種の軍にも重用される人狼の一族の出で、オーディンがスルトとの友好関係を結んだ時に、客員将校としてアスガルド軍に派遣され、ロキの護衛を務めた。

当時から、その戦闘能力は一族の中でもずば抜けており、当時のテュール率いるアース神族を悉く蹴散らし、目にも止まらぬ神速で、敵群に切り込み、その爪牙と膂力を駆使した体術を持ってして、たった一人で戦線を僅か数分で崩壊させた事から、当時のアース神族から、【破軍の銀狼(シルバリオ・ヴォルフ)】と恐れられた。

その経緯からロキの護衛を長年務めた後、ロキと結ばれた。

フェンリルの爪牙を使った体術は、アングルボザ譲りの物だ。

「さて・・・そろそろあの子も動くわね」

オーディンは、敵軍の最奥に布陣しているティウダンスの方向を見据えながら、呟いた。


ー・・・【月輪】・艦橋

「さて、終止符を打ちましょう」

そう言ってツクヨミは、艦長席より立ち上がる。

「全軍に通達。全軍、“要撃”開始!アスガルド軍と協働し、敵を殲滅せよ‼︎」

『イエス・マイ・ゴッデス‼︎』

指示した後、ツクヨミは冬華に回線を繋ぐ。

「冬華。零牙のヴァルハラ・システム破壊の援護に回って」

「了解」


ーー・・・

ツクヨミの号令により、オリジン持ち(基本的にクラス・アルファ)のみで最前線を構築していたが、この号令により、セレネ・レギオン全軍が進軍を開始した。

セレネ・レギオンの攻勢を確認し、オーディンが右手を前方に翳して、得物を顕現する。

「ーー来れ。其はユグドラシルの欠片。北欧の具現よ・・・神なる魔槍よ。我が元に顕現せよ」

オーディンの膨大な魔力が集束し、長大な蒼銀の槍を形取る。

「ーー【神槍・グングニル】」

テュールが望んで止まなかった神槍が顕現した。

オーディンはグングニルを掲げる。

「聞け!我がアスガルドの戦士達よ!既に我が娘によって警告は済ませた。よって、これ以上は不要。皆、思う存分に力を振え!全軍、攻撃開始‼︎軍神・テュール並びにその配下を討滅せよ‼︎」

『イエス・マイ・ゴッデス‼︎』

オーディンがグングニルの穂先をテュール軍に向けると、アスガルド軍が一斉に進軍しながら攻撃を開始した。

ーードドシュウ!

アスガルド艦隊がビーム砲撃を斉射した。

放たれた高出力ビームは、オーディン達の出現により、動揺し、碌な防御も取れないテュール軍の艦艇を多数貫き轟沈させた。

「ようやくこの時が来た!テュール!そして、付き従う愚か者共!我が雷の前に消えるがいい!」

ビルスキルニルの甲板上でトールが言い放ち、右手を翳す。

「来れ。其は、ユグドラシルの欠片。北欧に響く剛雷よ・・・神なる魔鎚よ。我が元に顕現せよ‼︎」

トールの右手に莫大な雷が渦巻き、長大な柄を持つ槌を形成していく。

「ーー【神槌・ニョルニル】‼︎」

凄まじい豪雷とそれに伴う轟音を響かせ、ニョルニルが顕現した。

トールの身には、既に【メギンギョルズ】と【ヤルングレイプル】が装備されていた。

「姉上の許可は出ているからな。見せてやるよ・・・雷神の本気を」

トールは、ニョルニルを天に向けて掲げる。

ニョルニルの掲げられた上空が、局所的に天候が変わり、雷を帯びた黒雲が渦を巻いた。

「・・・我は北欧の雷神。世界に示すは神の威光」

ーーゴロゴロゴロゴロ!

トールの上空の黒雲が呼応して、膨大な雷をその内で増幅し、収まり切らない雷が外側に溢れ出す。

「我が御するは猛き雷。天地に轟く神威と成りて・・・我が戦雷は顕現せん‼︎」

ーーズガァァァン‼︎

上空の黒雲から、黒雲を一気に散らしながら雷が落ちる。

増幅されていた膨大な雷は、蒼銀の豪雷となっており、トールの身を覆い隠す様に呑み込んだ。

「ーーソー・オブ・ゴッデス‼︎」

雷から、蒼銀の鎧を纏ったトールが現れる。

全体的にルーン文字の刻まれ、身体にフィットした蒼銀色の少し重厚な全身鎧。

腰には、鎧の一部と化したメギンギョルズとルーン文字が刻まれた腰布が垂れ、ガントレット状に変化したヤルングレイプルを腕部に装備し、背中には、二叉に分かれた長い蒼色のマント、フルヘルムの両側面には、雷の様な形状の羽飾りが角の様に一対備わり、全身には常時、蒼銀の雷を帯びている。

トールの神の魔力の一部を切り離して、鎧へと昇華させたトールの【起源顕鎧(オリジン・メイル)】ーー神威顕鎧【戦雷の神鎧】。

「さあ、雷神と呼ばれし我が力!今一度、存分に知るがいい!」

ーーバチン!

電気が迸る様な音を立てて、重厚な装甲でありながら、トールの姿がビルスキルニルの甲板上から消えた。

トールが次に現れたのは、数百キロ先の敵艦隊の一団の直上。

ーージジジジジジジ‼︎

そこでトールは、眼下の艦隊を見下ろしながら、長大な柄のミョルニルを片手で掲げ、柄頭の先から膨大な雷が迸り、極大の雷球を生成する。

極大の雷球は、周囲に膨大な雷を撒き散らし続ける。

「1500年前、私は言った・・・「消し飛ばす」と。貴様達が覚えているとも思わん、思い出す必要も無い。これが死出の手向けだ、そして、消えろ」

トールはニョルニルを振り下ろして、雷球を放った。

極大の雷球は、雷の如く瞬時に加速し、数秒とかからずに艦隊に着弾した。

ーーズガァァァン!

ーードォォォォォォォン!

着弾した瞬間、雷鳴と共に、凄まじい雷を撒き散らす爆発が起き、眼下の艦隊に巨大な穴が穿たれた。

爆心地から、一番離れていた一隻の戦艦が辛うじて撃沈は免れていたが、トールの攻撃の余波で兵装の大半が使い物にならなくなっていた。

ーー・・・生存艦・艦橋

艦橋には、けたたましい警告音が幾つも鳴り響き、ブリッジクルーは、状況確認に忙殺されていた。

「ひ、被害状況を知らせろ・・・」

艦長の男は、トールの攻撃の余波による衝撃で席から放り投げられ、叩きつけられた為、頭部から血を流していた。

意識は朦朧としていたが、それでも部下に指示を出した。

「主砲、副砲共に、砲身が焼け焦げ使用不能!同様に左舷ミサイル発射管も使用不能!」

「サブスラスター機能停止!メインスラスター損傷!」

「クソっ!これでは・・・!」

「右舷ミサイル発射管は生きてますが・・・艦長、これでは戦闘は・・・」

「やむを得ん、戦闘を避けつつ後方に撤退する!レーダー監視を怠るな!」

「か、艦長、それが・・・」

「どうした?」

「先程からレーダーが何らかのジャミングで妨害されている様です・・・」

「ジャミングだと⁉︎トールの雷の影響か・・!」

「いえ、それが・・・このジャミングパターンは、我が軍で過去に使用した物と酷似しています・・・!」

「何だと・・・⁉︎ーー‼︎」

その会話を遮る様に、トールが無造作に放った雷撃に、艦橋は飲み込まれ、死に体だった戦艦は、爆散した。

ーー・・・


「さてと・・・最初の一発としては、上々だな。しかしーー」

トールは上空で滞空しながら、大艦隊に自分が開けた大穴と突然の雷神の一撃に戦々恐々し、混乱状態にあるテュール軍を見ながら呟く。

「軽めの一撃で、陣形が崩壊してるじゃないか。こっちは“通常の姿“だというのに、腐っても軍神なら、これくらい瞬時に立て直させろよ。まあ、無理な話しか。私達を排斥するのに必死で、大局も見れない奴には」

トールは、ニョルニルを肩に担いた。

「さあ、動く時だぞ。1500年も耐えたんだ。その屈辱と恨みを奴に突き立てろ」

トールは、ティウダンスの布陣する方を見据えて待機する事にした。

ーー“彼女”の邪魔をしない為に。


ーー・・・ティウダンス・艦橋

「最前線の艦隊の約二割が、トールの攻撃により消失!」

「周辺の部隊にも攻撃の副次効果と思われる影響が発生しています!」

「テュール様!最前線が救援を要請しております!いかがなされますか⁉︎」

部下の呼びかけにテュールは応えず、三女神への憎悪を滾らせていた。

「おのれ、三女神共め・・・私を討滅するだと?この真なる最高神たる、この私を?思い上がるなよ、小娘共が・・・!いいだろう・・・。貴様らがラグナロクを求めるならば、望み通りにしてやろう。滅びるのは、貴様らだがな!」

テュールは、そう吐き捨てると共に立ち上がり、指示を出し始めた。

「待機している艦隊に連絡しろ!予備戦力を投入する!」

「す、全てですか⁉︎」

「そうだ!何の為の予備戦力だ?私は、この事態を想定して用意していたのだ」

先程までの動揺が無かったかの様に、テュールは嘯いた。

「さ、流石です、テュール様!」

テュールを信奉している配下達も、自分達の主の動揺を見ていないかの様に、感心した。

「そう・・・全て、我が計画の内だ。全軍に通達しろ!これより我がアスガルド正規軍は、あの逆賊共を総力を持って討滅する。・・・この私、最高神・テュールの名の下、奴らを蹂躙せよ‼︎」

『イエス・マイ・ゴッド‼︎』

ブリッジクルー達は、全軍に連絡取る為、コンソールに向かう。

テュールはその様子を見て、先の動揺が嘘の様にその表情は、絶対の自信に満ちていた。

その場のテュールの配下達も、その言葉に奮起して、自分の役目に集中した。


だがーー

これから、“あの反乱軍を討つ。我等が最高神・テュール様の為に”その目的の為に、総力を結集して動こうという、まさにその時ーー“ある者”が、行動を起こした。


その人物は、ブリッジの扉の前で静かに自身の得物である、大剣の様な穂先を持つルーン・ランスを呼び出した。

その眼に、冷酷で極めて静かな殺意を宿しながらーー


それを目撃している者がいた。

正確には、テュールの指示で艦隊への連絡を終えた為、これからの事を考えて計器の確認をしようとした時に視界の端に捉えたのだ。

(え・・・・?あの方は、何故こんな所で武器を出しているんだ?)

理解出来なかった。

いや、理解したく無かった。

頭の片隅に一瞬、その考えがよぎるが、直ぐに消し去る。

“あり得ない”、1500年以上も配下だったのだ、そんな事・・・“あり得る筈が無い”。

美しさと強さを兼ね備えた、テュール軍の筆頭ヴァルキリー。

その戦闘能力は、スカアハと並び最強と謳われるかのオーディンの長子にして、オーディン軍・筆頭ヴァルキリーであるシグルーンに匹敵すると言われている。

更にそれを鼻にかける事なく、末端の一兵卒をも気にかけて、テュールに見捨てる様に言われた時も、誰一人見捨てる事をしなかった人格にも優れた人物で、テュール軍に置いて絶大な人望を集めており、憧れと恋慕の念を抱く者が後を経たなかった。

“この方がいれば、自分達は勝てる”と、そう誰もが確信していた。

(そんな・・・嘘だろ・・・)

テュール軍に置いて絶大な人望を集めた“彼女”は、冷徹な殺意をその瞳に宿し武器を脇に構えるが、偶然目撃したクルー以外は、誰もその行動に気付かぬ程静かで、殺意を燃やしながらも、極めて冷静に一切の魔力も気配すら感知させないその動作は、戦乙女では無くまるで暗殺者の様だった。

「いいか!一人も逃すな!私に楯突いた報いは、鏖殺だ!全軍に通達しろ!」

『ハッ!』

そのクルー以外は、誰も気付いていない。

テュールは、動揺を隠す様に饒舌に指示を出し、その指示に従うクルー達は、作業に忙殺される。

そのクルーが見ている事を、“彼女”は気付いていた。

クルーは、テュールの配下であるが為、警告の声を上げようとしたが、“彼女”が冷徹な瞳で一瞥する。

“邪魔をするな”とーー。

その瞳と局所的な殺気に当てられ、冷や汗を流しながら、黙る事しか出来なかった。

震え黙ったクルーから、視線を戻し、“仇”を見据える。


ーーシュウンッ‼︎

彼女は、脇に構えた優雅な体勢から、強者ですら反応が遅れるほどの速度で、刺突を放った。

「ーーテュール様‼︎」

「ーーッ⁉︎」

ーーザシュン‼︎



ーードサッ

大量の鮮血が艦橋に撒き散らされ、斬り落とされた右腕が地に落ちた。

落とされた右腕は、テュールの物では無く側近のエインへリアルの物だった。

「ぐ・・・何故だ⁉︎何故、裏切った⁉︎」

「・・・・・・」

エインヘリアルは、右腕を止血しながら問い、テュールは言葉を発する事も出来ないほどに唖然としていた。

エインヘリアルは、力を高めて戦闘体勢に切り替え、凄まじい殺気で“彼女”を睨みながら、声を荒げる。




「答えろぉ‼︎ーースクルドォォ‼︎」





ーー・・・約1500年前・ヴァラスキャルブ大広間

大広間で、オーディンに一人のヴァルキリーが、意見を進言しに来ていた。

「ーー潜入?」

そのヴァルキリー・スクルドは、オーディンの前に膝をついて話している。

「ハ・・・私にテュール軍への潜入を許可して貰いたいのです」

オーディンは、優しく諭す様な口調で言う。

「スクルド。貴女の気持ちは分かる。しかし、敵の真っ只中に部下を放り込む様な事は許可出来ない。私は常に潜入などしなくていい様に、策を練っている。それに、既に打ち合わせは済ませた。後は想定外の事態が起きない様に警戒しながら、奴の計画を回避するだけ。仇を討ちたいと言う気持ちは分かる。“その時”が来れば、テュールは討たれる。そんな事しなくても良いのよ?」

「承知しています。・・・私怨も多分にあります。ですが、私は私怨だけで進言したのではありません」

スクルドの口調にオーディンは、あまり私怨は感じ取れなかった。

「どう言う事?」

「オーディン様、貴女様の左目【ユグドラシルの瞳】は、直近の事象に関しては、過程と結果を見る事が出来ますが、未来の事象に関しては、結果のみを見る事が出来ると・・・」

「ええ。以前貴女に話したわね」

「ならば、テュールが近く起こそうとしている”ラグナロク計画“に関しても、想定外に事態が起こり得る可能性があると言うことでは?テュールが討たれると言う未来も同様と、私は考えます」

「確かに貴女の言う通り、想定外の事態も起こり得るでしょう。・・・・成る程。だからこそ、なのね?」

「はい。奴は必ず、私を受け入れます。そうすれば、あらゆる詳細を、オーディン様にお伝えする事が出来ます。情報は武器です。私が流す情報を元に、オーディン様と月の女神の計画をより完璧な物にする事が出来ます」

そう言って、スクルドはオーディンの判断を待った。

「ふふ・・・負けたわ、スクルド。良いでしょう、ではスクルド、貴女に任務を与えます。これよりテュール軍へ潜入。諜報活動を命じます!」

「イエス・マイ・ゴッデス!」

「スクルド、あなたの師団を連れて行きなさい。その方が信憑性が増すわ」

「ハ、ありがとうございます」

「本当に長い任務になるわよ?私は特に、貴女の精神面が心配だわ・・・。仇に仕える事になるのだから・・・何時でも中断して良いのよ?」

オーディンは、心底心配そうにスクルドに言った。

しかし、スクルドは笑みを浮かべる。

「ご心配には及びません。奴に気付かれぬ様に、命令違反を繰り返しますので。それに、奴が四苦八苦する様を近くで眺めてやりますよ」


ーー・・・




スクルドは、冷静な表情を変えずに見返す。

「・・・外したか。まあ良い、不意打ちとしては、上々だな」

「答えろと言っているんだ、スクルド‼︎」

スクルドは、冷酷な瞳でエインヘリアルの男を射抜く。

その瞳は、美しさの中にゾッとする程の殺気を帯びていた。

「やかましいぞ、ボズヴァル。数々の功をあげた最強のベルセルクの一人たるお前が、たかだか右腕を失った程度で声を荒げるな」

「右腕など、どうでもいい‼︎貴様は、テュール様に忠誠を誓った筈だ!何故、裏切ったのかと聞いている‼︎まさか、この状況に臆したのか⁈」

スクルドは、ただそれだけで周囲を抑え込む程の殺気の重圧をそのままに、呆れる様な溜息を吐いてから静かに語る。

「・・・そもそも私は、忠誠など誓っていない。お前たちを信用させる為に言葉を紡いだだけに過ぎん。そうすればテュール・・・自分で言うのもなんだが、シグルーン様に匹敵すると言われる私を、お前は必ず重用するだろうからな」

「スクルド、貴様・・・!」

「ああ・・・理由だったな。・・・どうせ忘れているお前に語る必要は無い」

「スクルド!最高神たるこの私を裏切ると言うことがどう言う事か、貴様は分かっているな‼︎」

テュールが激昂して言ったその言葉に、不快さをあらわにし、呆れながらスクルドは言う。

「・・・それだ。私がお前に敵意を向ける理由を考える事もなく、さも自分は完璧な存在だと言う様に事ある事に最高神と言い、直ぐにそうやって離反者を断罪しようとする。少しはお前に理不尽な命令をされる配下や民を思い遣った事があるのか?」

「なんだと⁉︎」

「私は1500年間、お前の側近を務めてきた。お前の理不尽な命令を実行する配下や、その犠牲となる民を見てきた・・・。命令を遂行出来なかった配下を、即座に斬り捨て、民には過分な貢ぎ物を要求し、過剰な重労働、人体実験、少しでも反発した者は鏖殺と・・・お前の横暴は数え切れん。お前が一応の最高神だった時代から何も変わっていない。これでよく自分が、最高神足り得るとのたまう事が出来るな」

スクルドは、静かな怒りを滲ませながら言った。

「だから、どうした?私は真の最高神だ!ならば、配下や民は、私の命に従うのは至極当然の義務だ!最高神であるこの私の命令は絶対!そこに反発や疑い持ち、命令を遂行出来ぬのならば、死を持って償うのは当然だ!」

テュールは、尊大な態度でそう言った。

「下衆が・・・。お前は神では無い。ましてや最高神の器など微塵も無い。歴史に埋もれる暴君共と何ら変わりない」

スクルドは、一層静かな殺気と怒りを乗せながらそう言った。

「この、私を、暴君・・・だと⁉︎・・・良いだろう、貴様は私手ずから微塵も残さず殺してやる‼︎」

テュールは自身の得物である、刀身に”自分を表す“ルーンの刻まれた黄金の長剣を、ルーン文字を中空に描き、そこから召喚した。

テュールは魔力を激らせながら、黄金の長剣を荒々しくスクルドに向ける。

「私からの手向けだ、スクルド。最高神の真の力を目の当たりにしながら、死ね!」

スクルドは、剣を突き付けられても眉一つ動かさずに言う。

「此処から、お前諸共屠って行こうと思っていたが・・・。残念な事に、私がお前を討つわけにもいかなくてな」

「何だと⁉︎ーー!」

ーーブォン‼︎

スクルドは凄まじい速度で、無造作に自身の右側を薙ぎ払い、艦橋の右側面を容易く破壊した。

艦橋に開けられた大穴から、スクルドが飛び出した。

「くっ・・・フン!私の力を前に、臆したかスクルド?」

それを見たテュールが、見下す様に言った。

スクルドは、振り向き滞空して言う。

「勘違いするな。言った筈だ・・・お前を討つのは、私の役目では無い。運命の女神の一族の末裔として、お前に運命を知らせよう。ーーお前を討つのは、黒き皇だ」

そう言って、スクルドは飛び去った。

テュールが何か言った気がするが、スクルドは聞くに値しない事だと思い、無視した。

「聞こえるか?」

スクルドは回線を開き、部下の一人に連絡を取る。

「スクルド様、時間ですか?」

連絡を取ったヴァルキリーが即座に、応答した。

「ああ、そうだ。全員、聞いているな?」

『ハッ!』

多数のヴァルキリーが、即座に応答した。

「潜入は終わりだ。これより帰還する。だが、休むにはまだ早い。続いて、スルカ様とノルン様の護衛任務を開始する。全員、お二人の元に集結だ。・・・皆、これまでの潜入で思う所もあるだろう。だが今は、合流を最優先しろ。その後に存分に暴れろ‼︎」

『ハッ』

上空を飛ぶスクルドに対して報告があったのか、神兵やエインヘリアル、戦艦から攻撃が射かけられるが、スクルドは意にも介さずに躱し、払い、無造作に防ぎ、そしてすれ違うテュール軍の兵士を容赦無く斬り捨て、穿ち殺す。

「・・・フン」

(しかし・・・。顕鎧を纏っていないとは言え、力を高めて“あの程度”か。“神殺し”は容易だな。あれで、神とは笑わせる)

そう思って、スクルドは合流ポイントに急いだ。


ーー・・・ティウダンス・艦橋

右半分を、スクルドの一閃で喪失した艦橋では、ルーン魔術による修復作業が行われていた。

「おのれ、あの忌々しいヴァルキリー風情がッ‼︎」

テュールはそう吐き捨てながら、艦長席にドスンと乱暴に座る。

「テュール様、如何なされますか?」

止血を終えていた、ボズヴァルが聞いた。

「無論、私が殺す‼︎・・・と言いたい所だが、奴の言った“黒き皇”とやらが気にかかる。フン!所詮、最高神たるこの私の足元にも及ばぬだろうが・・・警戒しておくに越した事は無いだろう。奴の言葉に踊らさせるのは業腹だが、万が一と言う事もある。私が直々に其奴の相手をしよう。あの女への怒りは、奴を斬り刻む事で、納めるとしよう。・・・裏切り者の始末は、ボズヴァル、お前に任せる。必ず、あの女の息の根を止めろ!その証拠として、奴の首級を持ってこい!」

「ハッ、直ちに!」

ボズヴァルは、身を翻してブリッジを後にした。

「来るが良い、黒き皇とやら。この怒りの捌け口として、貴様を踏み潰してやる・・・」

テュールは、激情に満ちた声で呟いた。


ーー・・・

セレネ・レギオンは全軍、殲滅を開始していた。

ーーブゥゥゥゥゥゥゥ!

ボックスの様な重厚な装甲を持つクラフティ、遠距離制圧型:【AD型(アーセナル・ドラゴン)】を纏った師団が、背部のウイング状の大型スラスターで滞空し、ゆっくりと全身しながら、脇に抱えた六門の砲門を束ねた長砲身のガトリング砲を、響く様な重い音を響かせながら斉射していた。

AD型専用のガトリング砲、【AD\G03・魔導式対艦制圧重速射砲】は、逆手持ちでグリップを持つ長砲身のミニガンに似た形状のガトリング砲で、魔力を装鎧者から直接供給し、内蔵式圧縮機関で弾丸状に圧縮・形成した後、毎秒200発、一分間に12000発の連射速度を叩き出す。

通常の様にベルト給弾式や、カートリッジも存在するが、現在は直接魔力を供給する第三世代型が主流となっており、供給する魔力も圧縮の関係から少なく、装填の隙はほぼ無くされており、間断無く火力を叩きつける事が出来る。

ーーブゥゥゥゥゥゥゥ!

もはや、壁が迫ってくるが如くの弾幕の雨が、相対するテュール軍に降り注ぐ。

テュール軍も、ヴァルキリーやエインヘリアル、神兵や戦艦が応戦するも、無数の弾幕により、攻撃はかき消され、防御するも絶え間無く降り注ぐ弾丸で身動きが取れなくなり、やがて防御を砕かれ貫かれ、消滅し、爆散する。

制圧射撃を行うその師団、【セレネ・レギオン・第3龍鎧師団【雌龍の息吹(ブレス・オブ・レディドラグーン)】】だ。

その名の通り、女性だけで構成された師団であり、主に暗色の青にカラーリングされた重火器装備の【AD型(アーセナル・ドラゴン)】を用いた、射撃・爆撃での対軍・対艦・対要塞を担う部隊である。

鳴り止まぬ銃火の中、中央で射撃を行う、両脇でガトリング砲を放っている師団長の女性が、通信で言う。

「総員、射撃中断‼︎」

一斉に銃火が止み、一帯の空域は、他の空域での戦闘音しか大きく聞こえなくなる。

「よし、この空域の制圧は完了だ。ではーー」

「団長、増援です!」

一帯を見渡して言った団長を遮る様に、部下が声を上げた。

指し示された前方を見ると、一帯を埋め尽くさんばかりの戦艦や神兵、エインヘリアルが進軍していた。

「増援か。先程よりも多いな・・・。奴らも予備戦力を投入したか・・・」

女団長は、接敵距離を想定する。

「まだ距離があるな・・・ならば、丁度いい」

そう言って、左手のガトリング砲を鎧に標準装備されている位相空間に収納し、別のガトリング砲を取り出した。

「団長⁉︎まさか、それは⁉︎」

そのガトリング砲は、大口径の4門の砲身を束ねた長砲身を持つガトリング砲。

「ああ。桜花様が新たに開発された試作型・・・。【AD\G04・魔導式対物狙撃重速射砲】、コレの実戦テストに丁度いい」

【AD\G04・魔導式対物狙撃重速射砲】は、桜花が開発した物で、ある“皇妃”の為に開発したテストモデルで、実戦で運用した後に個人様にワンオフ・カスタムが施されて、渡される事になる。

師団長は、AD型でコレの運用テストを頼まれていた。

このガトリング砲の最大の特徴は、名称にもある様に、対物ライフルまたはかつての対戦車砲の射程と超弾速及び貫通力を、ガトリング砲で速射すると言うコンセプトで開発された。

ただ、魔力を使用しない通常兵器では無いので、魔導式であるこのガトリング砲は、圧縮効果で桁違いの弾速・射程・攻撃能力を誇る。

AD/03よりも射撃速度はかなり落ちるが、それでも毎秒80発の魔力弾を速射する事が出来る。

女団長は左手に装備したAD/04を、約数百キロ以上離れた前方にいる戦艦に向けて構えた。

「さて、我らが“皇妃”様専用装備の礎となるが良い」

程なくトリガーを弾き、砲身の空転が始まる。

ーーキュィィドドドドドドドドドドドドドドドド!

空転から程なく地響きの様な銃声を上げながら、重徹甲弾に圧縮・形成された魔力弾が、凄まじい弾速を誇りながら、空気を切り裂きながら敵軍に殺到した。

放たれた弾丸は瞬時に敵軍に到達し、最初にターゲットされた戦艦に幾つもの風穴が空き、瞬時に轟沈させた。

戦艦を沈めた女団長は、そのまま薙ぐ様に左右にガトリング砲を振り、他の敵に弾丸の雨を降らせた。

敵は回避しようとするが、射撃から瞬時に目標に着弾する程の弾速の前では、回避すらままならず。

辛うじて防御しても、あらゆる防御が巡らされた戦艦の装甲すら容易く貫く貫通力の前では、ジリ貧になり、やがて貫かれた。

更に、右腕のガトリング砲も敵軍に向けて撃ち始める。

「総員、殲滅再開!」

『イエス・マム!』

他の団員も、再びガトリング砲を射撃した。



ーー・・・

テュール軍は、筆頭だったスクルドの裏切りで指揮系統の混乱が生じたヴァルキリー以外は、持ち直して来ていた。

テュールの指示で、アスガルドで待機していた予備戦力も合流を果たし、総力戦の構えだった。

テュール軍は、アスガルド正規軍と三女神の出現に動揺したものの、“無限に等しい、見える数”での戦力差から、勢いを取り戻しつつあった。

だからこそ、慢心があった。

今まで防戦一方だった臆病者の集まりなど、容易く蹴散らせる、と。

圧倒的に、個人の質が違い過ぎる事にテュール軍の誰一人気付かなかった。

ーードォォォォォォォン!

アスガルド正規軍とは反対方向の、テュール軍の戦艦が爆散する。

テュール軍から見て右側面、師団が大攻勢を掛けていた。

側面攻撃を行うその師団は、【【セレネ・レギオン・第2龍鎧師団【龍の襲爪(クロー・オブ・アサルトドレイク)】】。

この師団は、全員が暗色の紅にカラーリングされた近接制圧型の【SD型(サムライ・ドラゴン)】を纏う強襲師団である。

SD型はその名の通り、装甲が武者の軽装鎧を模した形状をしており、頭部は龍を模していることから、全体の印象は俗に言う“武者龍“となっている。

SD型の特徴は、他の2タイプよりも装甲防御力は低いが、装甲が極めて軽量かつ、後付け方式ではあるが増加装甲内蔵型の高出力偏向スラスターと姿勢制御スラスターによって、低防御力を補って余りある姿勢制御能力と圧倒的な機動性を有しており、その機動性は【光翼】を顕現したオリジンに匹敵する程である。

その機動性を持って、近接兵装を用いた撹乱と強襲戦闘を主軸とした師団である。

「情けをかけるな。徹底的に殲滅しろ!」

戦艦を、魔力を高密度の強力なビーム刃として発振する長刀【SD/S02C高出力魔導光刃長刀】で斬り刻みながら師団長の女性が淡々と言った。

基本的に、セレネ・レギオンの師団などのトップは女性だ。

別に女尊男卑というわけでも無く、単純な伝統でそうなっており、歴代の師団長には男性も名を連ねている。

敵軍の真っ只中を、暗紅の龍鎧を纏った多数の師団員達が団長に続いて駆け巡り、テュール軍を斬り捨てていく。

その動きは洗練かつ迅速で、無駄な動きは最小限に、ある一人が討ち漏らしても、直ぐに他の者が反応して斬り捨て、仲間を死角から狙う者に即座に対応して、攻撃を行う前に仕留める。

そんな高度な連携を流れる様な動きで、言葉や目線で合図する事なく行なっており、練度の高さが窺い知れた。

今回参戦している戦闘要員は約250名と別の任務で出払っている為かなり少ないが。

それでも側面攻撃から、僅か一分弱で、テュール軍の最前線右翼に壊滅的な被害を与えていた。

「団長!残敵が後退を開始しました!」

近くにいた部下の一人が報告する。

右翼を崩されたテュール軍が、既に手負いの戦力を殿として残し、残存部隊を下げ始めていた。

「恐らくヴァルハラでの復活を待ち、再編成するつもりだな。しかしーー」

時間稼ぎのために残された殿の戦力は、戦艦も兵も全てが手負いで、時間稼ぎなど到底出来なかった。

それでも死を恐れずに殿を務めるのは、無限に復活出来るという絶対の安心感からだった。

「愚かな・・・確かに数はこちらより遥かに上だ。だが質が違う。その程度で神の軍を名乗るなど、笑わせる」

「団長、再編成を阻みますか?」

女団長は即答する。

「いや、敵の好きにさせるぞ。我らの役目は、戦力を引きつけることだ。殿は適当にのさばらせておけ。恐らく今度は、更に大規模な戦力を送り込んでくるはずだ。それを引きつける。零牙様の邪魔をさせるな!」

『イエス・マム‼︎』


ーー・・・

最前線の正面からテュール軍と当たるのは、龍皇学園各クラスと【セレネ・レギオン第一龍鎧師団・【龍凰の威光(レガリア・オブ・ドラゴニックフォース)】だ。

この師団も例によって、女性が師団長を務める師団であり、セレネ・レギオン最強にして最大の師団だ。

この師団はAD型、SD型、MD型、三種類を用いる混成師団だ。

凰月の戦闘スタイルである、全ての状況に対応するオールラウンダーを体現する師団である。

ーーザン‼︎

蒼い閃光が、巨大な戦艦を横薙ぎに一閃し、一拍置いて爆散する。

戦艦の爆発を斬り裂いて、高出力スラスターを全開に高速で敵の只中に、暗色の蒼にカラーリングされたクラフティを纏った女性が躍り出る。

彼女は、瞬時に眼前のエインヘリアルを左薙で斬り捨てると、そのまま大きく円を描くような機動で周囲の敵を斬り捨てていく。

周囲の敵を斬り捨て、その場を広く確保した後、彼女は左側に蒼い光刃を構える。

ーーブゥゥゥゥン・・・・

光刃に圧縮された魔力が蓄積していき、元々高出力だった光刃が更に高出力化を果たして、刀身が三メートル程まで伸張する。

ーーブゥン‼︎

彼女はその場で、背部フレキシブルスラスターを左側に集中偏向し、極大の推力を乗せた高速回転斬りを放った。

蒼い閃光によって描かれたドーナツ状の円は、そのまま斬撃波として、拡大していき周囲の敵群を一網打尽に両断した。

ーードォォォォォォォン!

斬撃波がやがて消滅すると共に、それによって両断された多数の戦艦が、周囲を巻き込みながら爆散、あるいは轟沈した。

彼女は、師団員よりも先行し突出した為、単騎で敵軍の只中で囲まれる形にはなっているが、対峙する兵士は、自分達は「無限に復活する。故に強い」と言う勘違いの慢心があった。

それ故に、彼女の桁違いの戦闘能力に驚愕し、単騎で只中を引っ掻き回している事に戦慄を覚えた。

そして、気付いた時には既に彼女を境界線に、前線は完全に分断される形になっていた。

「バカな⁉︎単独で、ここまでの力・・・。たかが極東の蛮族如きが、最高神の加護を受けし我らを圧倒するなど!あり得ぬ!」

その場にいる、中級神の一人が言った。

「こんな事あるはずが無い‼︎こんなーー」

ーーザシュ

「くどい」

そう吐き捨てて、彼女は中級神を瞬時に斬り捨てた。

中級神は断末魔をあげる事も出来ずに消滅し、ヴァルハラへ送られた。

ここまで囲まれていながら、、未だに無傷を誇る彼女を前に、周囲のテュール軍は攻撃の手を止めて受け身の態勢になっていた。

「・・・来ないのか?ではーー」

ーーザン!

彼女が踏み込もうとした瞬間、対峙する兵士が上方から放たれた斬撃波によって斬られる。

「な、何⁉︎何処から⁉︎」

ーーバシュウ

続いて、上空から斬撃波を放った【AD型(アーセナル・ドラゴン】に酷似したクラフティを纏った人物が、自由落下で急降下しながら、全身の装甲に内蔵されたマイクロ・ミサイルを全斉射した。

「み、ミサイルだと⁉︎総員、回避をーー」

マイクロ・ミサイルは実弾のミサイルから、更に五つの魔力誘導弾を生成して、頭上から彼女と対峙する広範囲の敵軍に豪雨となって降り注いだ。

ーードドドドドォォォォォォォン!

実弾のミサイルは近接信管により、至近に近づくと炸裂して強力な爆風を浴びせ、生成された魔力誘導弾は、正確に敵に着弾して直接爆発を叩き込んだ。

彼女と対峙していた広範囲の敵兵が、またも大きく減り、更に境界線を大きくした。

ミサイルを放った人物が、彼女の側に降りて来る。

「・・・護音か。団の指揮を任せたはずだが?」

名前を呼ばれたその女性は、【AD型(アーセナル・ドラゴン)】の重厚な装甲を少し削り、通常より防御力の低下と引き換えに、装甲内部に高出力スラスターを更に増設し、使用兵装を近接武器に変更した重近接戦仕様に大幅に仕様変更したクラフティを纏っていた。

「ああ、部下達に言われてな。ここは良いから、一人で突っ込んだお前の援護に向かってくれだそうだ。影流」

名前を呼ばれた彼女は、少し咎めるように言った。

「今は、団長と呼べと言った筈だろう」

護音は、ガチャと鎧を纏った肩をすくめる動作をして言う。

「形式上だろ?俺達の本分は、冬華様の“盾と刃”だ。それに、団長呼びは慣れなくてなあ・・・」

「お前と言う奴は・・・。実戦での性能テストの任を忘れた訳では無いだろうな?」

影流は、少し呆れた様な口調で聞いた。

「もちろんだ。・・・しかし、このクラフティはよく馴染むな。“自分のオリジン”を纏うのと、まるで遜色ない」

護音は、身に纏ったクラフティの具合を確かめる様に、その場で身体を動かしながら言った。

「当然だ。他ならぬ桜花様が設計開発された、次世代型のクラフティだ。そして私達が纏うこのテストモデルは、桜花様が我らのオリジンをモデルに製作してくださった、いわば、限り無くオリジンに近い模倣品だ。固有能力は、クラフティが故にオミットされているが、その代わりに性能をほぼオリジンと同等にして下さったのだ」

二人には、自身の内に宿る龍のオリジンがある。

しかし今回は、師団長と副師団長として次世代型の実戦テストを桜花から頼まれていたので、自分のオリジンは纏う予定はなかった。

「流石は、桜花様だな。・・・で、この後は?」

「予定通りだ。零牙様の邪魔にならぬ様に雑兵共を引きつけ、システム破壊と同時に殲滅を開始する。どうせ破壊するまで奴等は、何度でも復活するんだ。それまで、せいぜい動く的になって貰おう」

「・・・エグい事を言うなぁ」

「当然だ。奴らは愚かにも龍の住処に武器を掲げて、土足で踏み入ったのだ。ならば、相応の報いというものだろう」

「同感だ。まあ、そのおかげで学生や新兵には良い経験になるだろうしな」

「その通りだ。さてーー」

影流が前方を見ると、態勢と再集結を終えた二個艦隊が接近していた。

「龍の住処に踏み入った事、存分に後悔して貰おう!」

そう言い放ち、影流と護音はスラスターから巨大な噴射炎を放ちながら、高速で敵軍に突撃した。


ーー・・・

上位ヴァルキリー・サングリーズは、クラス・イオタ教官・幽龍と戦闘中であった。

サングリーズは、今しがた通信で部下から報された事に驚愕して、動きが鈍った。

「クソ!スクルドめ‼︎おまけにアスガルド正規軍だと⁉︎クソ野郎共が‼︎」

サングリーズは、知らず内に変化した状況にそう吐き捨てた。

「ーー余所見をしている暇があるのか?」

「ーー‼︎」

サングリーズが、アスガルド軍の出現場所に顔を向けて吐き捨てた瞬間、幽龍が警告を発して、大剣を左薙に斬りつけた。

ーーギィン!

「ーーくっ⁉︎」

サングリーズは、警告に反応して大斧で受け止めた。

「どうした?啖呵を切った割にその程度か。この程度の力で、私と戦っているのに余所見とは・・・ずいぶんと余裕だな」

「クソがっ!」

ーーギィン!

サングリーズは、力を込めて大剣を弾いた。

「人間風情が!舐めんじゃねえ!」

ーーブゥウン!

「フ・・・」

大斧を振るい、幽龍には斬りかかるが、幽龍はサングリーズの斬撃を正面切って受け止めるのでは無く、刃を合わせる角度と体捌きの組み合わせた最小限の動きで、相手の攻撃の勢いを殺さずに受け流す。

サングリーズはすぐさま切り返し、大斧で連続で斬撃を放つ。

幽龍は、先程と同じ様に微笑を浮かべながら余裕で受け流す。

「クソアマが!鬱陶しい動きをしやがって!」

幽龍は、大きくバックステップで距離を取り、イオタ専用艦の甲板に降り立った。

「やれやれ・・・上位ヴァルキリーと言うからには期待していたが。まさか、“技”も理解出来ないゴリ押しの脳筋とはな、とんだ期待ハズレだ」

「ほざきやがって・・・!本気でぶち殺してやるよ‼︎」

サングリーズは、高速で幽龍に突撃するがーー

「本気か・・・。それは良い、あの程度で全力かと思っていたからな」

その声は、サングリーズの直ぐ正面から聞こえた。

「ーーな⁉︎」

「ーーフ」

サングリーズが数メートルと進まぬ内に、もう少し先にいた筈の幽龍が、“いつの間にか”直ぐ目の前まで接近し、既に大剣を振りかぶっていた。

「チィ!」

ーーギィン!

直ぐ様サングリーズは急制動をかけて、横薙ぎに振られた大剣を辛うじて防ぎ弾いた。

サングリーズは理解不能な接近に警戒して、距離を離しながら考える。

(なんだ、今のは⁉︎勢いを乗せる為に距離はとっていた。あの女は、十メートルは先の甲板に立っていた筈。私と同時に動いていたとしても、ぶつかるのは半分くらいの位置のはず・・・。それを奴は、8割以上も距離を詰め、私よりも先に攻撃に入っていた。しかも、その動作を直前まで“認識出来なかった”)

サングリーズは、幽龍を見やるがーー

サングリーズが見た時、幽龍はゆっくりと自由落下中だったが、まるで映像が一瞬で切り替わるかの如く、その姿が瞬時に目の前で大剣を突き出す幽龍の姿に変わった。

「ーーくっ⁉︎またかよ!」

ーーギィン!

刺突を大斧で受け止めたサングリーズと幽龍が鍔迫り合う。

「ほう?反応速度は大した物だ」

「テメェ・・・今のも“技”か?」

「さてな。では、ペースを上げるか」

「何?ーーな⁉︎」

今の今まで鍔迫り合っていた幽龍の姿が消え、左側面から空気を斬り裂いて迫る大剣を感知した。

ーーギィン!

サングリーズはその斬撃を防ぐが、ある程度予測していた為、先程よりは余裕を持って防御する事が出来たが、それも辛うじてだ。

一撃を防いだサングリーズが反撃する間も無く、幽龍が全方位から立て続けに重い斬撃を浴びせる。

ーーギィン

ーーギィン

ーーギィン

ーーギィン

(クソ!どうなってる⁈一時も奴を見失っていない。奴の一挙一動を見逃すまいと、魔力で強化した感覚と各種感知を最大限にして警戒している・・・。にも関わらず、奴の動きの始めが全く確認出来ん。気が付いた時には、奴は既に至近から剣を振り下ろしてる。クソ!何だ、この動きは⁈)

サングリーズは、訳も分からずに防ぎ続ける。

「クソが!ちょこまかしやがって・・・!」

サングリーズが一時防御を捨て、大斧に魔力を込める。

大斧、ルーン・バトル・アックスは、込められる魔力によって、刃に刻まれたルーン文字が輝き始め、全体にオーラを帯びた。

魔力を込めている間にも、幽龍の斬撃によってサングリーズのクラフティに刀傷が刻まれる。

「鬱陶しいんだよ‼︎」

「ーー!」

ーーブゥウン!

そう叫んだサングリーズが、大斧を大きく弧を描く様にして、全力で薙ぎ払った。

大斧に込められた魔力が解放されて、大波の様な斬撃波がサングリーズの周囲を薙ぎ払った。

斬撃が終わり、サングリーズが防御を捨てて魔力を込め始めた時から攻撃を予測していた幽龍は、攻撃に掠りもせずにデルタ専用艦の甲板に降り立った。

「ほう、正に肉を切らせて骨を断つか・・・見直したぞ、そんな判断が出来るとはな」

サングリーズは、再び魔力を大斧に込め始める。

「ハッ!余裕ぶってろクソアマ!すぐにぶち殺してやるからよ」

サングリーズの調子を取り戻したその言葉に、幽龍は不敵に笑う。

「そうだな。いつまでも遊びに興じる訳にもいかんからな」

「何だと・・・」

「望み通り、終わらせてやろうと言っている。最も・・・死ぬのはお前だがな。ああ、復活するのだったな。まあ、それもすぐに出来なくなる」

幽龍から、黄色と仄暗い灰色が入り混じった魔力が溢れ出した。

「ーー!ーーこれは⁉︎」

「付き合ってくれた礼だ。見せてやろう、“陰を司る帝王龍”の姿を・・・」

幽龍が、大剣を甲板に突き立てて顕現の言葉を紡ぐ。

「我が身に宿るは、黄金なる帝」

幽龍から溢れ出た魔力が、背後に凛々しくシュッとした頭部と黄金に輝くしなやかな体躯をくねらす、東洋龍の姿を形作った。

「世界に響くは、龍の咆哮」

背後の龍【陰帝黄龍・インファン】が威圧する様に咆哮する。

「太極の陰を司る帝王龍よ、我が身に纏い顕現せん!」

インファンが、幽龍を中心にとぐろを巻く様に包み込んでいく。

「エンペラー・ジ・ファンロン‼︎」

黄金の輝きが辺り一帯を照らす。

「チッ!この輝きは⁉︎」

サングリーズが眩しさに左腕で目元を遮り、呻く。

光が弾けて、黄と灰色の龍鎧を纏った幽龍の姿が確認できる。

幽龍の身体にフィットしたスマートな全身鎧。

しかし、全身の装甲には灰色の刃の様に鋭い鱗が剣山の様に備わっており、それも相まってスマートなフォルムながら何処となく重厚な印象を思わせる。

背部には長い鎧状の尻尾が備わっており、尻尾にも鋭い鱗が斜め45°程に鋭く逆立つ様にびっしりと備わっており、武器として使用出来る事が容易に想像でき、腕部にも、刃の様な鱗が幾重にも重なる様にトンファー状の細い刃となって備わっている。

頭部ヘルムには、額部分から後ろに向かって伸びる一対の細い角と、側面から後ろに向かって伸びて、途中から上に向かって伸びる三日月の様な形状の一対の角を備えたスマートなヘルムになっており、金色と見紛う程の輝きを放つ黄色と仄暗い灰色のカラーリングの全身龍鎧ーー【黄龍の陰帝鎧】。

「そ、それが、テメェのオリジンか⁉︎」

サングリーズは、少し気圧されながらも言った。

「そうだ。さあ、来い。黄龍の力を知るがいい」

「ハン‼︎イイぜ!丁度、通り名が欲しいと思っていた所だ。龍鎧を纏うお前を殺せば・・・龍殺しを名乗れるからなぁッ‼︎」

サングリーズは武器を構えて、幽龍に突撃した。

サングリーズは、更に速度を上げて幽龍に勢いを乗せた重い斬撃を叩き込もうとしたが、しかしその途中でーー

「・・・【陰】」

幽龍が、左手をサングリーズに向けて呟いた。

その瞬間ーー

ーードゴォ‼︎

「ーーガハッ⁉︎」

サングリーズが突撃したその途中、突如強烈なボディブローの様な打撃を腹部に食らった。

「ぐぅ、ハァッ!何だ、今のは⁉︎」

サングリーズは予期せぬダメージに呻きながら幽龍を睨みつける。

(どう言う事だ⁉︎奴までの直線上には、何一つ邪魔な物は無いはず。術式が仕掛けられていたとしても、私の専用クラフティで有れば無視出来る。だが、その気配は無いし感知にもかからない。奴が、何か呟いたと思った瞬間にさっきの攻撃が来た。・・・これが、奴のオリジンの固有能力か?)

「訳が分からないと言う様子だな」

油断無く、幽龍を見据えながら考えるサングリーズに幽龍が言った。

「何をしやがった・・・!」

「ふ・・・まあ、無理もない。初見では、そうなる。まあ、私自身も大概チート能力だと思っているからな。最も、この能力以上など幾らでもあるがな」

「ざけんなッ‼︎」

サングリーズは、今度は、謎の攻撃に捉えられぬ様にフェイントを織り混ぜながら幽龍に突撃した。

しかし、幽龍は全く微動だにせず、攻撃が来ることもなかった。

(さっきの意味の分からん攻撃が来ない?発動に条件があるのか?何だろうが、もう遅い!この距離は私の間合いだ!)

「貰ったぁぁッ!」

ーーブゥウン‼︎

幽龍の至近まで、何事も無く接近出来たサングリーズは、強大な魔力・渾身の力・最適な距離で、大斧による全力の一撃を放った。

ーードォォォォォォォン!

サングリーズの一撃は、大斧が幽龍に着刃すると同時に、溜め込んだ魔力を爆発させて強烈なインパクトを炸裂させ、魔力爆発を引き起こした。

発生した黒煙によって、幽龍の様子は確認出来ないが、サングリーズは確かな手応えを感じていた。

「ハ!これで、終いだ」

幽龍が無事で有れば、すぐに返答が返って来るが、返事が無いので、サングリーズは確信した。

「さて、死に様を拝ませて貰おうか?まあ、原形を留めてないだろうがなぁ?」

サングリーズは、そう言ってほくそ笑んだ。

しかしーー

「ーーなっ・・・に⁉︎」

徐々に煙が晴れてきて、サングリーズが目撃した物はーー




「ふむ・・・一撃を許してやったというのに、この程度とはな。これでは私の鎧を砕くどころか、かすり傷をつける事すら叶わんぞ?」

そこにいたのは、サングリーズの全力の一撃を全く防御態勢を取る事なく胸部装甲で大斧を受け止め、その場に悠然と立つ幽龍の姿があった。

「バカな・・・⁉︎無傷だと⁉︎この私の全力を⁉︎クソがぁ‼︎」

サングリーズは、その場で怒涛の連続斬撃を繰り出した。

「クソ!クソ!クソ!クソォォ!」

ーーギィン、ギィン、ギィン、ギィン

サングリーズは、全力の魔力と渾身の力で大斧を振り回して、幽龍に斬撃を繰り返すが、斬撃は幽龍の顕鎧の装甲を前に火花を散らすばかりで傷一つつけられなかった。

「クソ!何だ、この硬さは⁉︎」

「その程度の攻撃では、傷一つつけられんと言った筈だが?さて、お前の底は見えた。終わりにしよう」

「ーー⁉︎」

「ーー【陰】」

ーードゴォ!

「ーーグッ⁉︎」

再び、ボディブローの様な衝撃がサングリーズを襲った。

そして、その衝撃でのけぞったサングリーズを連続で見えない攻撃が襲う。

ーードドドドドドドドドドドド‼︎

「ーーガハッ⁉︎グ⁉︎」

まるで、不可視の拳打のラッシュを食らっているかの様な衝撃音と共に、サングリーズが後ずさって行く。

「ぐぅ、あ、クソがっ!・・・カハ」

サングリーズは、徐々怒涛のラッシュの中で防御を取り始めた。

しかしその不可視の攻撃により、既にサングリーズのクラフティは所々砕け、大斧にもかなりのダメージが見てとれた。

その様子を見ていた修也とヴァスキが、前線に援護砲撃を撃ち込みながら会話する。

「いつ見ても、えげつないな教官の能力は・・・」

(ああ。だが、本当に恐ろしいのは【深淵能力】の方だ)

ーードドドドドドドドドドドド

「く、クソがぁ・・・!」

「ふむ・・・」

幽龍が能力による攻撃をやめて、サングリーズの様子を見る。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

「ほう?手を抜いたとは言え、あれだけ連打を耐え切るとは見事な物だ。見直したぞ」

幽龍は手を抜いたと言うが、サングリーズは慢心創痍だった。

クラフティの装甲は六割以上砕け、残り四割にもひびが入り破壊寸前。

大斧も途中から防御に使った為、砕けはしていないがボロボロになり、刃は刃こぼれした様な状態となっていた。

「クソ・・・!何故だ・・・⁉︎私は上位ヴァルキリーだぞ・・・!何故、追い詰められている⁉︎」

「だから、最初に言った筈だ。相手を過小評価する愚か者では抜けられんと。まあ、ある程度お前の力を想定していたのだが・・・まさか下回るとは、思わなかったが」

「クソアマが・・・!」

サングリーズは悪態をつきながら、クラフティの修復機能とルーンを併用して、破損した顕鎧を修復していた。

「さてーー」

幽龍が大剣を構える。

「鎧の修復が終わるまで待つつもりは無い。この一太刀で終わりだ」

「クッソ・・・!」

サングリーズは、修復途中ながらボロボロの大斧を構えて、迎え撃つ様子を見せる。

「ああ、最後に私の能力を教えてやろう。【黄龍の陰帝鎧】の能力・・・【陰】の正体は「斥力」、すなわち反発力だ」

「斥力だと・・・⁉︎」

「これは、任意の一方向に斥力をかける事が出来る能力だ。お前をボロボロにした攻撃は、この能力で周囲の空気に対して、全方位から斥力による圧縮をかけて相手に放つ・・・要は強力な空気砲だ」

「空気砲、だと・・・⁉︎何故、そんなまどろっこしい攻撃を・・・!直接、斥力をぶつけりゃいいだろうが・・・!」

サングリーズは、引き続き鎧を修復しているが、まだ60%しか修復出来ていない。

「言った筈だ。“手を抜いた”と・・・。それに、そのクラフティの防御力では、直接力をぶつけたら一撃で壊れる」

「クソッ‼︎こんな筈では‼︎」

「お前達は慢心が過ぎる・・・そもそも、龍の庭に踏み入った事自体が間違いだーー」

「ーーなっ⁉︎」

そう言って、幽龍の姿が何フレームも飛ばした様に、サングリーズの至近に接近した。

「教えておいてやろう。この技はーー」

「ーーッ‼︎」

幽龍が左薙ぎで斬りつける。

サングリーズは、遅れながらも咄嗟に大斧で防御するがーー

ーーザン!

ーー・・・・・バキン

損傷により、既に機能の大半が停止したボロボロのルーン・バトル・アックスでは、幽龍の大剣【龍淵】の斬撃に耐えられる筈も無く両断され、サングリーズを斬り伏せた。

「ーー【無識】だ」

「バカ・・・な⁉認・・・織が、遅れ・・・」

サングリーズは、驚愕に目を見開きながらヴァルハラへと消滅していった。

「やれやれ・・・テュールのヴァルキリーはこの程度か。修也、どんな感じだ?」

幽龍は、甲板上に戻りながら聞いた。

「敵の数が、比べ物にならないくらい増えてます!さっきから幾ら撃っても、減らないくらいで・・・」

甲板上で、砲撃し続けている修也が即座に答えた。

「ふむ・・・事前情報にあった予備戦力か・・・。アスガルド正規軍の参戦で、全戦力を投入したな。・・・出遅れたが、我々も最前に出るぞ!お前達、存分に実戦経験を積んで貰うぞ?」

『イエス・マム‼︎』


ーー・・・


「グハッ・・・⁉︎」

「ぐぅ・・・⁉︎」

エインヘリアルとヴァルキリーが同時に、飛来した黒紫の槍【ゲイ・ボルグ】に貫かれた。

「ーーなっ⁉︎」

「まさか、そのまま⁉︎」

二人を貫いた【ゲイ・ボルグ】は、貫いたまま穂先を枝分かれさせながら射出し、周囲のエインヘリアルとヴァルキリーを多数貫いた。

「こんな・・・⁉︎」

「クソ!まるで隙がねえ!」

「怯むな!全方位から仕掛けろ!いくら影の国の女王とて隙を見せる筈だ!」

ヴァルキリーとエインヘリアルは、スカアハを囲む様に移動し、【ゲイ・ボルグ】の間合いに入らぬ様に距離を取りながら、全方位から遠距離攻撃を仕掛ける。

「ほう・・・集団戦術を少しは心得ている様だ。ーーが、お前達程度では相手にもならん」

スカアハは、自身の顕装【サブリメイト・ゲイ・ボルグ】により昇華させた武器で、【龍剣の円舞(ドラゴニック・サークル)】を十本、瞬時に円環状に生成して全方位からの攻撃を防いだ。

全方位を囲まれ、一斉射撃を受けてもスカアハは全く動じず、“黒い円状の影”の様な物の上に優雅に立ちながら、そう言った。

「ほざくなクソアマが!後ろがガラ空きなんだよ‼︎」

「ーー‼︎馬鹿者!迂闊に仕掛けるな‼︎」

そう声を荒げたヴァルキリーの警告を無視して、一人のエインヘリアルが【ゲイ・ボルグ】によるガードが“薄い”背後から、近接武器に切り替えて吠えながら突撃した。

「フ、青いな・・・」

ーーザシュ!ザシュ!ザシュ!

「ーーガハッ⁉︎」

スカアハがそう呟き意識を向けた瞬間に、突撃したエインヘリアルを新しく瞬時に生成された【ゲイ・ボルグ】が三本飛来して、胸部、腹部、脇腹を三方向から貫いた。

「小僧だな・・・。この程度の誘いに乗るとは・・・。テュールのエインヘリアルは、やはり雑兵ばかりか」

スカアハは全方位の攻撃を完全に【龍剣の円舞(ドラゴニック・サークル)】で防ぎながら、そう言った。

貫かれたエインヘリアルは消滅し、貫いた三本の【ゲイ・ボルグ】は、周囲の敵にそれぞれ高速で襲いかかって行く。

【龍剣の円舞(ドラゴニック・サークル)】により制御される13本の【ゲイ・ボルグ】は、その攻撃性能も相まって、高速で飛び廻りながらスカアハに対する攻撃を完全にシャットアウトし、瞬く間に周囲の敵軍を瓦解させて行く。

「これが・・・オーディンと並び欧州最強と謳われる影の国の女王の実力なのか⁉︎ーー!ぐあぁぁ!」

そう言ったヴァルキリーが、抵抗も出来ずに死角から飛来した【ゲイ・ボルグ】に貫かれ消滅した。

「やれやれ・・・。テュールに降ったヴァルキリーは堕ちたものだな。まだ1割程度の力しか出していないと言うのに、この有り様とは・・・」

スカアハとの戦闘から3分と掛からずに、200人以上はいたヴァルキリーとエインヘリアルは、既にその数を20人までに減らしていた。

しかし本来なら、スカアハがその気になれば、最初から一分と掛からずに200人程度瞬殺出来たが、零牙の敵軍中枢への強襲を援護する為、20人まで敵を減らしては、敵増援が来るまで殺さずにあしらうといった戦闘を既に数回していた。

スカアハは、残したエインヘリアルとヴァルキリーの攻撃を、周囲を飛び廻る【ゲイ・ボルグ】で防ぎながら“零牙との繋がり”で状況を感じ取った。

「ふむ。零牙は敵本陣を蹂躙中か・・・」

復活し、ヴァルハラより再出撃したエインヘリアルとヴァルキリーの大軍が、スカアハを討つべく、それまでスカアハが撃破した総数を遥かに上回る数で迫っていた。

「ならば私も、本格的に殲滅するとしよう」

スカアハは、両手に持つ【ゲイ・ボルグ・ニーズヘッグ】と【ゲイ・ボルグ・フレスヴェルグ】をパッと手放す。

ニーズヘッグとフレスヴェルグは、スカアハを守る様に周囲を旋回する。

「来たれ。其は抑止の一振り」

スカアハの直ぐ前方の空間が“反転”し、空間が反転する際、膨大な黒紫の魔力が漏れ出し、巨大な槍の形をした影が、膨大な魔力を纏って現出する。

「全てを反転せし、影の龍刃!」

スカアハは、影に包まれた槍を右手で掴む。

「抜刀・・・天羽々斬【影皇】‼︎」

スカアハは、纏った影を落とす様に槍を頭上にて、片手で高速回転させた後、流れる様な動作で脇に構えた。

纏った影が無くなった事で、槍の全体像が顕になる。

鋭く研ぎ澄まされた二本の長刀を背中合わせにした様な、漆黒と紫の大剣の様な印象を与えるカタールの様な刀身を持ち、根元に刀の様な刃の形状した二対の返しを備え、柄の部分は二メートル有り、真っ直ぐシンプルなデザインだがびっしりと龍の鱗で覆われており、スカアハが握る場所によって、自動的に展開してアームガードの様にスカアハの手を保護する。

石打ちにも、二本の短刀を背中合わせにした様な刀身を備えたスカアハの本気の得物にして、零牙の婚約者たる証で有る槍型の天羽々斬、銘は【影皇】。

「な、なん・・・だ・・・あの槍は・・・⁉︎」

近くにいたエインヘリアルやヴァルキリーは、全く見た事もスカアハの伝承でも聞いた事の無い【ゲイ・ボルグ】以外の槍の出現に驚愕し、そして・・・戦慄した。

その理由は【影皇】が、【ニーズヘッグ】と【フレスヴェルグ】そしてここまでの戦闘で、影の国で製作されたルーン・ランスをベースに昇華生成された概念顕装【サブリメイト・ゲイ・ボルグ】による【ゲイ・ボルグ】、これら顕装群もエインヘリアルやヴァルキリーの兵装とは比べ物にならない程強大な力を有する物だが、それすらも遥かに凌駕する魔力を内包し、更に強大な龍の気配とプレッシャーを垂れ流し、ただ存在を感じ取るだけで敵対者を威圧し殺す様に顕現したその龍槍に圧倒され、本能で恐怖した。

「まだだ、まだ絶望するには早いぞ?お前達は、龍の庭を土足で踏み荒らしたのだ。ヴァルハラで復活出来る不運を呪うがいい。見せてやろう【影皇龍】の姿をーー」

続けて、スカアハの内より膨大な魔力が溢れ出す。

「我が身に宿るは黒紫の皇」

スカアハの内より溢れ出した黒紫の魔力が立ち昇り、すらりとしたフォルムの雌龍【影皇龍・ルーラー】の姿をスカアハの背後に象る。

「世界に響くは龍の咆哮」

背後のルーラーが咆哮し、流麗な両翼を広げる。

「転影を制御せし影皇龍よ・・・我が身に纏て顕現せん!」

ルーラーが広げた両翼で、スカアハを包み込んで行く。

「スカーレ・ジ・カイゼル‼︎」

スカアハを包む黒紫の魔力が弾けて、顕鎧を身に纏ったスカアハが現れる。

全体的にスカアハの抜群のスタイルに完全にフィットした女性型のフォルム。

全身の装甲は美しく流麗で、曲線と直線を組み合わせた分割装甲で構成されており、スカアハの動きに合わせてフレキシブルに展開・可動する事により、攻撃時、防御時の動きを最大限サポートし、その効果を更に極大化させる。

その為、背部の【魔光翼】と尻尾以外には武装を配しておらず、スカアハの培った戦闘技術を更に極限化する装甲構成となっている。

背部の【魔光翼】はスラリとしたウイングスラスターとなっており、メインスラスター以外にサブスラスターとオート・ブレイド機能を有する【ゲイ・ボルグ】に酷似した刃が羽の様に三対備わっており、尻尾の先端部は【ゲイ・ボルグ】の穂先の様な刃が連なった蛇腹剣の様な形状をしている。

零牙達もそうだが、完全顕現とは、その宿主の戦闘スタイルを望みのままに延長・増大・最適化を行う為、この鎧構成はスカアハの意思により、特に自身の戦闘技術の延長と増大を重点にした完全顕現となっている。

鎧のメインカラーは黒混じりの紫、サブカラーに黒と少し金色で配色されたスカアハの顕鎧【影皇龍鎧】。

そして、【影皇】とはーー天羽々斬にしてスカアハの【起源顕鎧(オリジン・メイル)】でもあるのだ。

「こ、これが・・・影の国の女王のオリジン・・・⁈」

「さて・・・抵抗は無意味だ。ーー消えろ」

そう言ったスカアハが、【魔光翼】から黒紫の光翼を出力した瞬間ーー

ーードスドスドスドスドスドスドスドスドスドス

瞬時に、残り20人の内10人のエインヘリアルとヴァルキリーの周囲の空間の一部が裏返り、全てを飲み込む様な漆黒が露出され、それが変形して鋭い黒槍となって、尽くを貫いた。

「な・・・に⁉︎」

「これは・・・⁉︎」

「何・・・だ⁉︎」

「ヴァルハラ・システム。実に便利なシステムだろう?戦において、優秀な戦力の喪失というのは実に痛い。だが、このシステムはそれを無視した戦略を取れる。だからこそ、お前達は無謀な特攻や死を恐れぬ戦闘行為を繰り返す。何度でも復活出来るからな。ーーだが」

残り10人は、スカアハが次の行動を起こす前に一様に攻撃を仕掛けようとするがーー

ーードスドスドスドスドスドスドスドスドスドス

既に遅く、同じ様に周囲の空間の一部が裏返り、瞬時に変形した漆黒の槍に貫かれた。

「その便利さに味を占め、お前達は死を恐れる事を忘れ、お前達自身の覚悟も想いも無くし、ただ奴の命ずるままに戦う「兵」と成り果てた。だからこそ、”質“の違いすら分からない。冷静な”眼“を失ったお前達では我等には届かん」

「ほざくな‼︎死を恐れぬ我等こそ、英雄の鑑!たかが女王風情がテュール様の恩恵を理解出来るものか‼︎」

援軍としてスカアハに侵攻していた一人のヴァルキリーが突出してスカアハに突撃した。



ーーザシュ


「が・・・⁉︎」

「・・・・・」

突撃したヴァルキリーは、カウンターの様な形で正面の空間が反転変形した漆黒の槍に貫かれた。

「理解する気も、するつもりも無い。最期に説いてやったまでの事・・・何故ならお前達は、テュールのエインヘリアルへと転生した時点で、“戦闘能力が固定されている“のだからな」

「・・・・・・は?」

スカアハの言葉に腹部を貫かれた痛みも忘れて唖然とするヴァルキリー。

「・・・さて、邪魔だ」

その言葉と共に、スカアハは尻尾を側面に伸ばし先端部の蛇腹剣状の【ゲイ・ボルグ】を捉えられぬ程の速度で射突して、とどめを刺して消滅させた。

突出したヴァルキリーがやられたからか、遠方に見える援軍が攻撃態勢に入る。

「フン・・・艦砲ならまだしも、お前達程度の力では、その距離から効果的な攻撃など出来まい」

「ーー【影皇】」

スカアハは、左手を敵軍に翳した。

瞬時にスカアハの認識範囲にいる直線広範囲の敵軍一人一人多様に、戦艦等はその直上の空間が反転して漆黒が顕になる。

スカアハは、左手を握ると共に呟く。

「ーー穿て」

ーードスドスドスドスドスドスドスドスドスドス

全ての漆黒が槍へと変形して、敵援軍全てを余さず貫いた。

まさに一瞬の出来事、敵は自身の近くに突如出現した漆黒に戸惑う事すら許されずに、攻撃態勢に入ったにも関わらず、予め出撃していた兵士・約2000人は、何もさせて貰えずに消滅し、中型魔導戦艦・500隻は轟沈していった。

「フン・・・他愛無い」

スカアハは、左手を下ろして呟いた。

(・・・スカアハ)

内にいるルーラーに促され、スカアハは前方を見据える。

遠くの空域に数瞬前に殲滅した艦隊と同等規模の艦隊が展開して迫りつつあった。

「ほう?・・・二段構えか。だが同規模とは・・・ずいぶんと甘く見られたものだ・・・」

スカアハは肩をすくめ、嘆息した。

「・・・本来なら、スクルドを当てるつもりだったのだろうが。お前達雑兵が、私に本気で挑むつもりならば、その100倍は連れて来い。それでも相手にならんがな。ーー【影皇】!」

今度は艦隊の周囲に、単体を対象にした物では無く、広範囲を攻撃出来る様、艦隊を前面扇状に包囲して巨大な複数の空間反転が発生した。

ーーバサァ

そして、スカアハはウイングユニットから出力している黒紫の光翼に魔力を流し込み、更に高出力化させた。

スカアハは自身の周囲の空間を幾多も反転させ、内部の漆黒を無数の槍に変形させた。

そして、無言で【影皇】の穂先で前方の敵軍を指し示すと同時に、周囲の反転空間の変形した無数の黒槍が敵軍目掛けてレールガンの如き速度で発射された。

それと同時に、スカアハも【魔光翼】で黒紫の残像を撒き散らす超機動力で突撃した。

敵軍の誰もが反応出来ぬ程の機動性を持ってして、スカアハは敵軍の前面の斜め上方に一瞬で躍り出た。

その機動力は、先に射出した無数の黒槍を追い抜く程だった。

「・・・馬鹿、な⁉︎」

一番前面にいたヴァルキリーがスカアハを仰ぎ見る。

ヴァルキリーが見たものは、絶対的な力の化身、その象徴たる生物。

そのヴァルキリーはここに至りようやく理解した、自分達が何処に迷い込んだのか、何を相手にしているのかを・・・。

「これが・・・本物の龍・・・」

ヴァルキリーがーー彼女達が相対しているのは、”龍族の中でも最上位“に位置する者達の一人。

優雅に脇に【影皇】構えて滞空するスカアハの側に、いつの間にか別空域でそれぞれ暴れ回っていた、蒼い巨鳥【フレスヴェルグ】と黒い巨龍【ニーズヘッグ】が戻って来た。

二人もスカアハの側で魔力の紫電を迸らせながら滞空して眼下の敵軍を見下ろし、主の下知を待った。

「お前達に教えてやろう。真の蹂躙というのがどう言うものか」

スカアハが【影皇】を眼下の敵軍に向ける。

「ーー影に沈め」

その瞬間、スカアハが先に射出した無数の黒槍が正面から殺到し、フレスヴェルグとニーズヘッグがそれぞれ尻尾を【ゲイ・ボルグ】に昇華させて、敵目掛けて穂先を幾重にも枝分かれさせ射突し、前面扇状に複数反転させた空間から、触手の様な柔軟性を持つ巨大な鋭い黒槍が敵軍目掛けて放たれる。

更にスカアハの背部のウイングユニットから、サブスラスター兼オート・ブレイド機能を持つ【ゲイ・ボルグ】が射出されて、稲妻の様なジグザグの軌道を描きながら高速で、敵軍に突撃した。

全ての攻撃が敵軍に殺到し、漆黒が軍勢を覆い蹂躙して行く。

ーードスドスドスドス

ーーザシュザシュザシュザシュザシュ

『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・‼︎』

様々な攻撃の炸裂音と【ゲイ・ボルグ】の特性を持った各種攻撃の破裂音と共に、軍勢の断末魔と爆散音が響き渡り、覆い隠されて行く。

援軍に来た全軍が漆黒の攻撃に飲み込まれるその様は、まさしくーー影に沈んでいくかの如くだった。


ーー・・・

「ハァ!」

スルカが【神姫の神槍(グングニル・ドーター)】を蒼銀の軌跡を描きながら一閃し、ヴァルキリー数人を纏めて薙ぎ払った。

ヴァルキリー達は、ルーン武器で防御態勢をとっていたが、そもそも武器の格が違いすぎた為、ただの棒切れの如く意味を成さなかった。

「セイ!」

ノルンが【魔剣・ティルヴィング】の振るい、黒い斬撃波を飛ばす。

黒い斬撃波は、正面の複数人を薙ぎ払い、着刃した斬撃波は黒い波動となって周囲の敵に伝播して、多様な“破滅”を及ぼした。

「ーー【剣皇】!」

朧が、右手に持つ天羽々斬【剣皇】に魔力を収束させる。

「ーー同等顕現・【焔皇】!」

【剣皇】の纏った魔力が瞬時に朧の左手に移動して凝縮した後、“紅蓮色の刀身を持つ長刀”が顕現する。

顕現させた後、朧は凄まじい滅焔を迸らせる“擬似【焔皇】”を左側に持っていきーー

「ーー燃えよ!」

擬似【焔皇】で前方を左薙ぎ、超広範囲・放射状に滅焔が放たれた。

「ぐぅぅ・・・!ば、馬鹿な⁉︎ルーン武器が燃える⁉︎」

「な、何故防げない⁉︎」

全てを滅殺する滅焔の放射に、ヴァルキリー達は防ぐ術を知らず、手立ても無く焼き尽くされた。

そして、朧は擬似【焔皇】を敵集団目掛けて鋭く投擲する。

「ぐぅ・・・⁉︎ぐあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

投擲された擬似【焔皇】は、相手のクラフティの装甲を焼き尽くしながら、咄嗟に防御した左腕に突き刺さり、そこから相手を侵蝕する様に焼き尽くしていく。

「ーー爆ぜろ」

「ーーなッ⁉︎」

ーードォォォォォォォン‼︎

その瞬間、擬似【焔皇】を中心に、広範囲を飲み込む球体状の魔力爆発が引き起こされた。

「本当に凄まじいチート能力よね。【剣皇】の固有能力は。ほぼ同じ力を有する別の天羽々斬を擬似的に顕現出来るなんて」

その様子を見た、スルカが感心した様に朧に言った。

「それでも、あくまで“本物に限り無く近い擬似“だから本物には圧倒的に劣るわ。でもだからこそ、魔力が続く限りは何振りでも顕現出来るし応用も効く。それに、二人の武器も引けを取らないと思うけど?」

「まあ・・・ハッ!」

「それは、確かに・・・ねッ!」

スルカは答えながらも、周囲の敵に対して【グングニル・ドーター】から蒼銀のビームを放って撃ち落とし、ノルンは【ティルヴィング】から漆黒の斬撃波を飛ばし、数人纏めて両断する。

「・・・やはり、手強い・・・」

上空から観察していたソグンが、ゆっくりと三人の前に降りて来た。

「ソグン様・・・!申し訳ございません!」

「・・・いい。私がまとめて殺す・・・」

ソグンが、魔力妨害を備えたルーン・ランスを構える。

「ヴァルキリー・ソグン・・・。二人ともあの槍の機能はわかっているわね?」

「ええ、姉さん」

「無論」

三人は、ソグンの槍に警戒を向ける。

「・・・オーディンの娘・・・。討てば、テュール様を阻む障害が減り、神槍も回収出来る・・・。ついでにその蒼いのも殺す・・・」

そう言いながら、ソグンが本気とばかりに濃密な魔力を全身から激らせた。

それに伴い、ソグンのクラフティが呼応する様に、全身の装甲に魔力を迸らせ、淡い光をにわかに纏った。

「リミッター解除・・・。やっぱり、そのクラフティも、ヘルヘイムから盗んだ次世代試験モデルをベースとした物か」

「・・・確かに元はテストモデル・・・。・・・だけど、最新技術により、・・・オリジンに匹敵する性能を有している・・・。さあ、死んで・・・!」

ーーシュン‼︎

ソグンが急加速し、蒼い閃光となりながら突撃した。

ーーギィン!

ソグンは速度を乗せた刺突をスルカに放つが、瞬時に反応したスルカが【グングニル・ドーター】で受け止めた。

「・・・予測された・・・⁉︎」

「・・・・・」

即座にソグンが急加速して、三人の“視界からは”消える。

(成る程、疾い。・・・だけどーー)

視界から消えていたソグンが、下方からランスを構え突撃する。

ーーギィン‼︎

「・・・ッ⁉︎」

その突撃を、スルカは受け流した。

(・・・また・・・⁉︎)

再び、ソグンがその勢いのまま飛び去る。

「・・・へえ」

少しの間、ソグンの気配が完全に消え去り、三人は連携する様にソグン援護の為に攻撃を再開した周囲のヴァルキリーにも対応しながらソグンを探る。

ソグンは気配を完全に殺しながら、“蒼い鎧”目掛けて突撃する。

狙うは、最大の死角・・・首の真後ろ。

不意に狙われれば、後ろに目でもついていない限り、反応速度が遥かに逸脱していない限り、瞬時に対応出来る事はまず少ない。

だからこそ強者達は、意識的にも無意識でも常に死角を警戒し、なんらかの防御手段を講じる。

これは太古の昔から変わらない、戦闘の基本。

だがーー防御手段講じる事も無く、生来の反応速度で対応出来、“広大かつ精密な空間把握”で【龍血(ドラゴン・ブラッド)】たる“蒼き皇”は斬り払う。




ソグンが狙うのは“蒼い龍“。

今のソグンは、ヴァルキリー専用クラフティをリミッター解除で性能を何倍にも増幅している。

したがって、機動性は通常時を遥かに上回り、防御力も然り、そしてクラフティと紐付けされているソグン専用のルーン・ランスもその機能を大幅に向上されている。

そして、目標は他のヴァルキリーと戦闘中。

探られてはいるものの、正確な位置は特定されていない。

完全な不意打ち、完全な好機。

更に加速かけ、超スピードで朧の真後ろに迫るソグン。

(・・・獲った・・・!)

戦闘中の朧に穂先が迫る。

「・・・・・・」

しかしーー

朧の側で戦うスルカとノルンが、朧から少し離れて、朧は穂先に吸い寄せられる様に、瞬時に後方にスライド移動し、そしてーー

ーーギィン‼︎

「・・・ッ⁈」

朧の首を貫く筈だったソグンは、大きく後方に払い飛ばされた。

「・・・な、なぜ⁈・・・どうして・・・⁉︎」

「・・・攻撃に対応出来たか?」

ソグンが声のした方を見ると、ソグンに気付いていなかった筈の朧が振り向いており、振り抜いた【剣皇】を下すところだった。

「確かに、真後ろは最大の死角・・・。如何な生物とてそれは変わらない。だけど、それは龍には・・・いえ、私や零牙達には通用しない」

「・・・・・・ッ!」

ソグンが一瞬で加速して朧の視界から消える。

そしてーー

ーーギィン!

「・・・く・・・⁉︎」

真上から仕掛けたソグンの突撃を朧は、最小限のスライド移動で“見る事も無く”躱す。

そのままソグンは、朧の視界に入らぬ様、探知を困難にする様に気配を殺しながら大きく様々な機動を取る。

ーーギィン

右斜め背後からの突撃を、朧は軽く刃を合わせる様に受け流す。

ーーギィン!

真下からの斬撃を、朧は叩きつける様に無造作に振り下ろして弾き飛ばし。

ーーギィン‼︎

再びソグンが真後ろから仕掛けるが、まるであしらうかの様に尻尾で打ち払う。

「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハア」

そうして何度も死角からの攻撃を余裕で防がれ続け、リミッター解除の影響からかソグンは息を乱し始める。

淡い光を纏っていたクラフティも、纏う光が心なしか弱まっていた。

「・・・速さは、私の方が上の筈・・・!・・・気配も消していた・・・。・・・何故、殺せない・・・⁉︎」

ソグンの口調も、少し早めかつ焦りが滲んでいた。

「言った筈、不意打ちは通用しないと・・・。太古から神話にあるだろう?強大な龍に挑んだ英雄達に無傷で帰った者は一人もいない・・・」

「・・・それは・・・」

「たとえどれだけ強力な武器を有していようが、たとえどれだけ罠を張ろうが、たとえどれだけ特異な能力を備えていようが、龍との戦いでは有利とはなり得ない。総じて自身の持てる力の全てを、死力を尽くて戦う総力戦・・・真正面から挑む他は無い」

「まあ、全てを把握されていたら真正面から挑む他は、選択肢が強制的に無くなるからね」

朧の側に来たスルカがそう言った。

「全てを、把握・・・⁉︎」

「全てを睥睨し、全てを把握する。それが龍の瞳。龍族と私達【龍血(ドラゴン・ブラッド)】が持つ魔眼。ーー【龍眼(ドラゴン・アイズ)】」

「・・・ッ‼︎・・・なら⁉︎」

「そう。最初から分かってたよ。朧も“私達”も、全て視えていた」

「・・・視えて・・・?ーー‼︎」

「その様子、私と姉さんが何者かも忘れていたみたいね」

ノルンも朧の側に移動してそう言った。

そして、ソグンの目に映るのはーー

中央の龍鎧のヘルムの目の紅き輝きと、心臓を巨大な手で鷲掴みされていると、常時錯覚させられる様な圧倒的なプレッシャーを放つ龍の眼。

そして、その両側で蒼銀に輝き、何もかも見透かされる感覚を与える“神の左眼”。

「さっき、覚醒したんだけどね。本当、戦闘においてこんなに有利な事はないよね、近時未来が視えるのは」

スルカが自身の左目を指し示しながら言った。

「オーディンの眼、【ユグドラシルの瞳】。真の名称を【九界を内包せし(アイ・オブ・ユグドラシル)】。戦闘においては、あらゆる近未来を事細かに見通し、自身に関連した遠い未来を視る事が出来る。母様、オーディンを欧州最強と言わしめる。もう一つの“武器”」

「・・・だけど、それはオーディンだけの筈・・・!何故・・・⁈」

「オリジンや顕装と同じだよ。親がオリジンや顕装を有しているならば、生まれる子は親の有するオリジンや顕装と同種の物を生まれつき宿す。もしくはその特性を引き継いだ、全く別のオリジンや顕装を生み出すか・・・。私達の場合はその混合だけどね。もっともさっきも言った通り、“眼”はついさっき覚醒したけど」

「姉さん・・・そろそろ」

「そろそろ・・・?ーー‼︎」

ノルンの言葉にソグンが疑問に思うが、すぐにその理由が判明する。

ソグンのクラフティの蒼い魔力光が完全に喪失したのだ。

「・・・こ、コレは・・・‼︎」

「限界時間だよ。リミッターの」

ソグンのクラフティは、各スラスター・防御術式、そして紐付けされるルーン・ランスに至るまで機能低下を起こしていた。

「・・・そんな・・・⁉︎・・・限界なんて・・・!」

「無いとでも?そのクラフティの大元は、かつてヘルヘイムで研究されていた第二世代の試作モデル。搭載されているリミッター解除機能も試作型。莫大な性能向上が得られるリミッター解除をしての最大稼働は精々二分。しかも、解除後は各機能が著しく低下する諸刃の剣。もちろん、正規軍正式採用モデルは、限界時間を本人の任意か魔力総量に依存し、機能低下も起こさない。そのクラフティを見る限り、世代を経る事に改良を施してそのクラフティに到達したのだろうけど・・・稼働限界を引き伸ばせても、デメリットは克服出来なかったか」

スルカがそう語るとソグンは気づく。

「・・・まさか・・・⁉︎こちらの位置を把握していながら受け流すだけだったのは、限界を知る為・・・⁉︎」

「いや、最大稼働時の性能を知る為さ。まあ、少し打ち合えばすぐ分かったし。時間に関しては、説明を大人しく聞いてくれたから、じっくりと把握出来たしね」

「・・・今までの話しは、リミッター解除の時間切れを待つ為の・・・⁉︎」

「テュール側のヴァルキリーのクラフティがどんなものか興味があったからね。本当ならとっくに終わってる。ーーほら、周りを見てみなよ」

スルカに言われ、ソグンが周りを見渡す。

「ーー‼︎」

既に自身が率いるヴァルキリーとエインヘリアルの混成軍が全滅した後だった。

「・・・そんな・・・⁈いつの間に・・・⁉︎」

ソグンがスルカに視線を戻すと、いつの間に姿を消していたのか、殲滅し終わった朧とノルンが舞い戻って来ていた。

「まあ、気付かなかったのも無理も無い。絶殺の一撃をあしらわれ、クラフティも機能低下して、冷静そうに見えるけどかなり動揺してただろうしね。ーーさあ」

「・・・ッ!」

スルカが神槍を構え直す。

「終わりにしよう」

「・・・リミッター・・・・‼︎解除・・・‼︎」

ソグンのクラフティが再び蒼い魔力光を纏い始める。

しかし、その光はかなり乱雑な輝き方だった。

「止めた方がいい。機能低下した状態で最大稼働はーー」

「・・・ハァァァッ・・・‼︎」

スルカが言い終わる前に、ソグンが猛然と突撃をかけた。

乱雑な輝きが増しており、明滅を繰り返していた。

「成る程、システムに頼った自爆か・・・。でもーー」

ーーザン‼︎

「・・・なッ⁉︎」

スルカはグングニル・ドーターを一閃し、ソグンをクラフティごと斬り伏せた。

「そんな時間は与えない」

「・・・こんな・・・⁉︎・・・これ、では・・・」

ソグンは、粒子となって消滅していった。

「ふう・・・。復帰戦としては上々かな」

スルカは、神槍を肩に担いでそう言った。

「スルカ、一息ついた所で要点だけで良いから説明してもらえる?」

そう良いながら、朧がスルカに近づいた。

「え?ああ、そうね。要は、私が消える間際に唱えたルーンーー」

「姉さん、朧・・・!」

スルカが説明しようとした矢先、三人に向け、今度は戦艦も編成された大軍が接近しつつあった。

「やっぱり、話しは後ね。いい、朧?」

「ええ、そうーー。・・・零牙・・・!」

朧が視線を向けた先にスルカとノルンも目を向けると、接近する軍団の上空に漆黒の龍鎧を纏った零牙がこちらの様子を伺っていた。

そして、程なく三人に通信が入る。

「三人とも気づいているだろうが、敵の大規模艦隊が接近中だ。俺も援護に行こうか?」

零牙の提案に朧が即答する。

「いえ。あの程度、私達三人で十分よ。零牙は、任務があるでしょう?」

「だが・・・」

零牙の声音には、心配そうな様子が伺えた。

「心配無いよ。私とノルンもいるし、零牙君の手は煩わせないよ」

「姉さんの言う通り、此処は私達に任せて!それに本体を早く破壊した方が良いわ」

スルカとノルンにも言われ、零牙は、一瞬の逡巡の後答える。

「分かった、此処は任せる。だが、無理はするなよ?」

『ええ・・・!』

三人の返事を聞いて、零牙は身を翻し、超機動で敵陣深くに向かった。

零牙を見送った後、スルカが言う。

「本当、相変わらず心配性だね。零牙君」

「その心配も、もう少し自分に向けてくれたらと私達は思っているんだけど。・・・でも、その思いより嬉しさがどうしても優ってしまうのよ」

少し溜息混じりだが、嬉しそうに朧は言った。

「良いよねぇ〜婚約者!私も零牙君の婚約者になろうかな?」

冗談混じりにスルカが言う。

「待って!スルカが言うと本当にそうなる予感がするのよ。13人いるって言うのに・・・まさか、視えたの?」

「流石に、まだ母様の域には達して無いから視えないよ。まあでも、そうなっても私は構わないけどね」

会話する二人にノルンが言う。

「姉さん、朧。話しは後って言ったばかりでしょう?ーー来るわ!」

敵の大規模艦隊は、数十キロの距離に接近していた。

「久しぶりだから、浮かれてたなぁ・・・」

スルカがグングニル・ドーターを軽く脇に構えながら、静かに出力を上げ始める。

「うん。零牙がやり易いように、此処からはーー」

朧も、【剣皇】と顕鎧の出力を高め始め、それに伴い鎧状のウイングユニットから出力されている【魔光翼】がバサバサと音を立てた。

そして、ノルンも【ティルヴィング】の出力を静かに上げ始める。

「「「ーー殲滅の時間だ‼︎」」」

蒼、蒼銀、黒の3つの閃光が敵軍に突撃した。


ーー・・・・

「・・・ハァ・・・ハァ・・・」

フェンリルは海上で、ヴァルキリーの副長率いるヴァルキリーとエインヘリアル混成部隊の一部と戦闘中であった。

ーーギィン!・・・ギン!・・・ギィン!

「奴め・・・!ドローミと毒の影響を受けていると言うのに、これほどまでに防ぎ切るとは・・・!化け物め・・・!」

多数のヴァルキリーとエインヘリアルに全方位を囲まれて、間断なく攻撃にさらされているフェンリルだが、グレイプニルと【狼の終冬(フィンブルヴェト・ヴォルフ)】を使い、完全に寄せ付けない防御領域を形成し、未だ毒を浴びた事以外無傷を保っていた。

「この犬ころがッ‼︎さっさと沈め‼︎」

一人のエインヘリアルが痺れを切らし、味方の射線上を避けてフェンリルの上方に飛び上がり、長剣で斬りかかった。

「待て‼︎不用意に仕掛けるな‼︎」

ーーギィン‼︎

ヴァルキリー副長が上げるその声も既に遅く、エインヘリアルの攻撃は、既に領域に到達して防がれていた。

エインヘリアルの斬撃は、フェンリルの周囲を覆う権能の氷雪に阻まれていた。

「クソ、がッ!こんな雪如きに!」

エインヘリアルが渾身の力を込めるものの、権能障壁はびくともせず、そしてーー

ーーパキ・・・パキパキ

「ーー⁉︎コレは・・・⁉︎」

権能の氷雪に触れている長剣の刃が氷結して来ていた。

それを見たヴァルキリーの副長が弾かれた様に声を上げる。

「ーー‼︎今すぐ剣を捨てて離れろ‼︎」

しかし、時既に遅く氷結は瞬時に広がり、仕掛けたエインヘリアルを既に侵食していた。

「ぐあぁぁ・・・!クッソ・・・!腕が、動かねぇ・・・!」

右腕の二の腕まで、氷結しているエインヘリアルは、なんとか氷を砕いて脱出しようとするが、氷結した右腕は全く動かなかった。

「右腕を斬り落とせ‼︎全身に回るぞ‼︎」

ヴァルキリーの副長がそう言うが、エインヘリアルは聞かずに脱出しようと、拳で氷結した部分を殴って砕こうともがく。

「・・・無駄だ。お前達程度では、我が権能に抗うこと叶わぬ」

「クソッ!ぐっ⁉︎・・・あ、あァ・・・あぁぁぁぁぁぁ・・・‼︎」

エインヘリアルは、最期に断末の叫びを上げたまま凍りついた。

やがて、凍りつき氷像となったエインヘリアルは、端から瞬時に崩壊して消滅した。

「全員、距離を取れ!決してあの氷雪に触れるな!奴は、あの領域を解くことは出来ない!遠距離からじわじわ削るぞ!」

『ハッ!』

ーーダダダダダダダダダ

放たれた各属性のルーンを込めた弾丸・魔術が氷雪の障壁にぶつかるが、いずれも触れる前から凍結して崩壊していく。

(・・・成る程、挑発して引っ掛かったと思ったが・・・。あの副隊長・・・冷静な対応だな。テュールの配下である事が惜しい程の器だ。しかし、この護りを突破する決定打はやはりない様だな。・・・解毒には、まだ時間がかかるな・・・。いっそ一息に消しとばすか?さて、どうすーー⁉︎この気配は・・・‼︎」

フェンリルが懐かしい気配を感じて真上を見ると、自身の球体状の権能の障壁の頂点部に、銀色の獣人が腕を組んで立っていた。

「良く耐えた、我が息子よ」

「ーーち、父上⁉︎」

フェンリルの権能の障壁の上に、フェンリルすらも含めたその場の誰もが気付かぬうちに、アングルボザが出現していた。

「ば、バカな⁉貴様はーーアングルボザ⁉︎」

ヴァルキリーの副長がその出現にたじろいだ。

「父上、何故此処に?」

「口を開けろ、フェンリル」

「・・・は?」

フェンリルの問いに、アングルボザは思わぬ答えを返した。

「良いから、口を開けろ」

「は?はあ・・・?」

疑問に思いながらも、フェンリルは真上に大口を開けた。

すると、アングルボザは自身の尻尾を使いフェンリルの障壁に容易く穴を開けた。

そして、懐から透明な液体の入ったアンプルを取り出すと、先端を折り、中の液体を開けた穴に向けて全て垂らした。

液体は穴を通ってフェンリルの口に流し込まれる。

その液体をフェンリルは、ゴクリと飲み込んだ。

(・・・これは!)

液体は、瞬く間にフェンリルの体内を駆け巡り、【神毒】の影響を完全に中和した。

「それで、十全に動けるだろう?」

「父上・・・!この為にわざわざ出向いてくれたのですか?」

「フ・・・それもあるが、千年以上直接会っていなかった息子に会いたいと思うのは、親の道理というものだ」

「・・・何故だ?」

「・・・ん?」

フェンリルとアングルボザの会話にヴァルキリーの副長が割り込んだ。

「何故、元帥の地位にいる貴様が最前線に来る?わざわざ死にに来たか?」

「異な事を・・・。上に立つ者が、率先して最前に出るのは当然の事だろう。たとえ、最高司令官だろうが神だろうが、戦闘を旨とするならば尚の事自ら最前に身を置き、変化する状況を見極め、決して先に倒れる事なく臨機応変に指示を出す。それこそ理想的かつ優秀な指揮官という者だ。最後方の安全な場所から“一歩も動かずに”ふんぞり返って指示を出すなど誰でも出来る。それこそ無能だ。」

アングルボザの後半の言葉は、明らかにテュールを指して言っており、それに気づいたヴァルキリーの副長が激昂する。

「貴様・・・‼︎テュール様を無能呼ばわりするか‼︎」

「フン・・・だとしたら、どうする?」

「ーー八つ裂きにするまでだ‼︎」

その言葉を合図に周囲のヴァルキリーとエインヘリアルがクロスボウを構えて、一斉に撃ち放った。

全方位より、【神毒】入りの特殊矢がアングルボザに迫る。

「ーー父上、あの矢には‼︎」

「皆まで言う必要は無い」

ーーフォン‼︎

アングルボザは腕を組んだまま、誰も反応できぬ程の速度で、しなやかかつ強靭な尻尾で弧を描く様に一閃し、矢を払い落とした。

「くッ・・・!流石と言った所か。だが、この毒矢は、専用のクロスボウの射出衝撃以外の衝撃を加えられると、毒をすぐさま散布する仕組みになっている!貴様も毒をーー・・・どう言う、事だ?」

尻尾で矢を払い落とした為に、本来微粒子状で散布された毒の影響を即座に受ける筈が、アングルボザには全くその影響は見受けられなかった。

「フン・・・それで?」

アングルボザは、造作も無いと言った様子でヴァルキリーの副長に次の反応を促した。

「何故だ⁉︎毒は、すぐさま身体を蝕む筈!毒への耐性を持っていたとして、神をも殺す【神毒】は、耐性すら蝕む程に強力な筈!何故、貴様は無事でいる⁉︎」

「やれやれ・・・。そもそも、【神毒】を持つヨルムンガンドは、私とロキから生まれたのだぞ?親が子の能力に対応出来なくてどうすると言うのだ。他の子も然り、当然の結果だ」

「・・・くッ、だが毒を封じたとて、貴様達は、二人!数は、遥かにこちらが勝る!押し潰してくれる!ーー総員、突撃準備‼︎」

その言葉で、ヴァルキリーとエインヘリアルが近接武器を構える。

「相も変わらず、二言目には数か。・・・ならば、雑兵が束になった所で埋めることの出来ない、”質“を教えてやろう・・・ーー来るがいい」

アングルボザは静かな威圧感と殺気を放ちながら言った。

「舐めるな‼︎獣人如きがッ‼︎」

此処に至るまでの度重なる挑発に我慢の限界を越えたヴァルキリーの副長が遂に激昂しながら、引き連れた全員でアングルボザに仕掛けた。

しかしーー

「遅過ぎる」

アングルボザが呟いた瞬間ーー


ーーザン‼︎

アングルボザは腕を組んで、フェンリルの権能障壁の上に立ったまま、誰も反応出来ずに斬られたと認識する事すら一拍遅れる程の速度で、尻尾を一閃し、周囲の敵を全て両断した。

「・・・・・・な・・・に⁉︎」

ヴァルキリーの副長は、驚愕でヘルムの中で目を見開き、アングルボザを信じられないといった様子で見た。

「・・・・・・・・は?」

「・・・・・・・・なんで?」

他の者達も副長に遅れて反応を示し始めたが、その多くは状況に理解が追いついていなかった。

そして、ヴァルキリーの副長含めた敵が粒子となってテュールのヴァルハラに送られ始める。

その様子を見ながらアングルボザは言う。

「これが“質”の差だ。小娘、小僧共、もはやお前達が到達する事の無い領域だ」

「・・・・・・これが・・・【破軍の銀狼(シルバリオ・ヴォルフ)】・・・」

送られていく自身の粒子に包まれているせいか、蒼光を纏って神々しい輝きを放つ銀狼を見ながら、副長は消えて行った。

「流石は、父上・・・」

「ドローミに力を吸われて無ければ、お前も出来るだろう?それより、まだ障壁を解くな。ーー来るぞ」

「ーー!増援・・・!」

権能を一旦解除しようとしていたフェンリルは、父親にそう言われ、障壁を継続し、迫る増援艦隊に目を向けた。

「どうやら、先程のヴァルキリーが呼んだものの様だな」

「ならば、父上!共に殲滅を・・・!」

「だから、待てと言うておろうが。まずは、お前の回復が先だ」

「しかし・・・!」

「案ずるな。あの艦隊は、もう“終わる”」

「ーー‼︎これは・・・!この気配は、まさか!」

ーーザバァァァァン‼︎

突如、火山が噴火する如く、海水が天に向かって大きく噴き上がる。

やがて、噴き上がった水が元に戻って行くと、長大な黒い生物が水を滴らせながら出現した。

その生物は間髪入れずに、龍に酷似した頭部を艦隊に向け、ガパっと大口を開けて、口元に空恐ろしい程の莫大な蒼銀の魔力を圧縮・収縮していく。

ーーゴオォォ‼︎

真球状に凝縮された魔力が解放され、極大の蒼銀のビームが放たれる。

そのビームは、【特務主力艦・ティーウ】に搭載された主砲・テュール砲の放つビームに酷似していた。

しかし、その規模と魔力量はそれを圧倒的に凌駕していた。

蒼銀のビームは、増援艦隊を丸ごと呑み込み、跡形も残さず消し去っていった。

ビームの照射が終わり、放った本人がフェンリルを見る。

「兄上!」

その神・ヨルムンガンドは、喜びを滲ませながら言った。

「ヨル・・・!何故、此処に・・・⁉︎」

「私だけでは有りません。あれをーー!」

ヨルムンガンドが指し示した前方から、またしても増援艦隊が侵攻しつつあった。

しかしーー

ーードドドドドドドドドドドドシュゥ‼︎

突如、艦隊の上空から豪雨の如く高出力ビーム砲撃が降り注ぎ、艦隊に風穴を開けていく。

上空には、銀と紅でカラーリングされた戦艦で構成された大艦隊が、艦底部に装備された多数の砲塔を展開してビームを連射していた。

ーーゴォウウ‼︎

トドメを刺す様に、中央最前の蒼銀の戦艦の先端部の上に立つ人物が、ルーンで極大の火球を生成し、眼下にて既に瀕死の艦隊に高速で落とした。

火球は艦隊の中央部に落とされ、着弾すると同時に艦隊全てを覆い尽くす極大の爆発を巻き起こし、大気ごと全てを焼き尽くして全滅させた。

「まさか、あのルーンは・・・」

そう言ったフェンリルの近くに、転移陣が空中に出現する。

そして、そこから長い蒼銀の髪を靡かせながら火球を落とした本人が現れた。

「ーーッ!兄上・・・‼︎」

その女神は、フェンリルの姿を確認するやフェンリルの首元に勢いよく飛び込み抱き着いた。

「ヘル、お前まで・・・!」

その女神、ヘルはフェンリルから離れて目尻に涙を溢れさせながら、直接の再会に身を震わせていた。

「全く・・・。通信越しに会っていただろう・・・?」

フェンリルは、フッと笑いながら言った。

「それでも・・・直接お会いするのは、実に1500年振りです・・・!」

「そうだな。悟られぬ様にとは言え、こうして三人が揃うのは、兄上の転生以来か・・・」

フェンリル、ヘル、ヨルムンガンドが話していると、アングルボザが嗜める様に言う。

「積もる話は後にしろ。ほら、また差し向けてきたぞ」

三度、前方より大艦隊が4人に向けて進軍中だった。

「やれやれ・・・。神が3人もいるこの場に、懲りずに向かって来るとは、不屈なのか愚かなのか・・・まあ、後者だが。それに家族の再会を邪魔するとはな・・・。だから、怒りを買うのだ」

アングルボザは、少し上空を見上げる。

「そら。後数秒もせずに、お前達は死ぬぞ?」

アングルボザの言葉は迫る艦隊には聞こえないが、そう独りごちた瞬間ーー

ーードドドドドドドドドドドド‼︎

上空から超高密度かつ莫大な魔力を高圧縮した水のビームが、鼠一匹すら通さない程隙間無く艦隊に降り注ぎ、まるで汚れを洗い流すが如く艦隊を殲滅した。

「あの攻撃は・・・!まさか・・・」

一瞬で艦隊を殲滅した攻撃に、フェンリルは覚えが有り、次に来る人物の想像がついた。

「・・・ッ!」

その女性は、上空からゆっくりと長い蒼銀の髪を靡かせながらフェンリルの目の前に舞い降りた。

「・・・フェンリル」

その女神・ロキは、眼鏡の奥から優しげな瞳でフェンリルを見つめる。

「・・・母上」

しかし、ロキはすぐに表情を引き締めて言う。

「アングが言った通り、再会を喜ぶのは後にしましょう。今はまずーー」

ロキは、振り向き前方を見据える。

前方から、三度殲滅され再復活した艦隊を合わせ、更に複数の艦隊と合流した超大規模な艦隊が、テュールの命により、フェンリル達家族を始末する為に進軍中であった。

「ほう?テュールめ、ようやくまともな指揮が出来る様になったと見える。だがーー」

そう言って言葉を切り、アングルボザはロキを見る。

極めて冷静に努めているが、テュールにより、子供達が生まれてからの子供達に度重なる刺客の差し向けられ、そして偽りのラグナロクの首謀者に仕立て上げられての1500年の別離。

北欧の副神の一人として、怒りに身を任せるのは神として浅慮と考えていた。

しかし、姉であるオーディンから「抑える必要はない」と許可を貰った。

もはや、これまで抑えに抑えてきたものが爆発寸前だった。

傍目にはいつも通りの智神の様子だったが、その内では莫大な魔力が渦巻き、静かに解放の時を待っていた。

ロキはゆっくり息を吐いて、誰に言うわけでも無く呟く。

「・・・ーーーハァッ・・・!許可は得た・・・。お前達に見せてやろう、聞かせてやろう、教えてやろう・・・!」

ロキは、そう言いながらかけていた眼鏡を外して、服にしまう。

ロキの輪郭が、内より極大化し続ける魔力によって、蒼銀のオーラを纏い静かに輝き始める。

その静かなオーラに呼応して、ロキ達のいる周辺海域に突如大規模な渦潮が発生し、不自然に津波が幾つも発生してぶつかり合ったりと、ざわつき始める。

そして、ロキは静かに語る様に顕現の言の葉を紡ぐ。「・・・我は北欧の智神。世界に示すは神の威光」

ロキの膨大な魔力が、海域の水を更に暴れ狂わせる。

「我が御するは暴乱なる霧氷。変幻なる神威と成りて・・・我が戦水は顕現せん‼︎」

ロキの直下の海面に極大の渦が形成され、周囲の空気中の水分が可視化する程、瞬時に集中し凝縮され、巨大で透き通った水球を幾つも形成する。

「ーーロプト・オブ・ゴッデス‼︎」

ロキの直下で形成されていた渦が、水を伴う巨大な竜巻となって立ち昇ってロキを覆い、周囲の水球が融合する様に竜巻に合流した。

「ーー特別だ。目に焼き付けろ、恐れと共に心に刻め・・・!ーー我が姿を」

寒気がする程の冷酷かつ冷静な怒りを内包した膨大な魔力の解放と共に竜巻が大量の水を撒き散らしながら破裂し、強大な力を持つ顕鎧を纏ったロキの姿が顕になる。

トールと同じく、全体の装甲にルーン文字の刻まれた蒼銀の全身鎧。

トールのオリジンは、常に最前線で戦う事を想定した近接戦闘重視の重厚な装甲を持つ重めの中量級。

ロキのオリジンは、中遠距離戦重視の軽めの中量級。

全身にフィットする軽量の装甲で構成されており、トールの様に背部にマントは無く、代わりに腰部から足元まで伸びる白いケープが常に高密度の魔力で形成されて出力されている。

両腕部の軽量ガントレット内部には、展開式のクロスボウと近接戦闘・防御用に通常より長めの刃を持つダガーを内蔵している。

脚部はハイヒール状になっており、トールよりも女性が纏っていることが強調されている。

頭部ヘルムは、魔術師の帽子を被った様な形状をしており、帽子の側面にルーン文字の【L(ラーグ)】の形をした中型の羽飾りが備わっており、空間認識能力を高める機能を備えている。

そしてその装甲には、常時“霜”を纏うロキの【起源顕鎧(オリジン・メイル)】ーー【戦霧の神鎧】。

オリジンを纏ったロキは、神の膨大な魔力を敵対するものをそれだけで殺せる様な冷徹な殺気と共に抑えることも無く、敵対者を威圧する様に垂れ流していた。

ロキは冷静な低い声で、敵対者達に語る。

「・・・北欧の雷神。それはトールが雷を纏い、戦場を雷の如く縦横無尽に駆け巡り、剛力をもって薙ぎ払う様から付けられた異名。そして、我が異名・・・【智神】。それはそのままの意味では無く、その本来の意味はーー」

ロキのオリジンが纏っている霜が、危険な輝きを増していった。

「”知恵の神“では無く。一切の事象を的確に判断し、冷静に、冷酷に、冷徹に、効率的に、優先目標を瞬時に選定し、戦略級の攻撃を乱発し、速やかに敵対者を殲滅すると言う意味の“智”だ」

そう語るロキから、尋常では無い覇気が滲み出る。

その覇気は、側にいる夫や子供達をも戦慄させる程だった。

「こんな、母上・・・初めて見る」

「ああ、いつも理知的で温厚だからな」

「まあ、奴には散々迷惑を掛けられたからな。無理も無い」

「ふっ・・・お前達は知らんだろうが、昔のロキはかなりとっつき難い性格だったぞ?」

ロキの右手に膨大な魔力が水へと変換されながら、両手銃を形成していく。

「来れ。其はユグドラシルの欠片。北欧に流れる清水よ・・・神なる魔銃よ。我が元に顕現せよ!」

ロキの右手にぱっと見、長剣に見紛う様な形をした美しい銃が顕現する。

「ーー【神銃・ミストルティン】」

ロキは左手をゆっくりと前方に上げて、迫る敵軍に向けて翳した。

「そして、これから起きるのは一方的な殲滅だ」

アングルボザがそう言うと同時に、ロキは権能を解き放つ。

「ーー【冥極の霧氷(二ヴル・フィンブルヴェトル)】」

ーーザァァァァァァ‼︎

突如、ロキの周囲の水分が凝縮され、夕立の如く相対する敵軍に向かって真横から打ちつけた。

「・・・ッ⁈なんだ、ただの雨⁈」

「気を付けろ!奴の権能かも知れん!」

雨に打たれた最前線のエインヘリアル達は、警戒して身構える。

しかし、その豪雨は敵軍を満遍なく濡らすだけで、何も起きなかった。

「・・・?何も・・・起きない?」

「ただ、濡れただけか・・・?」

今も尋常では無い冷徹な覇気・魔力・殺気を垂れ流して、こちらに向けている【智神】。

相対しているテュール軍は、背筋の凍る思いをしていたが、この結果にそれぞれ近くの者と顔を見合わせて、笑いが起きた。

「・・・は、ハハハ!」

「く、クハハハ!」

「何だよ!あれだけ大層に語っておいて、ただ“氷の様に冷たい”雨を降らすだけ!これなら、俺も神を名乗れるんじゃねぇか?」

「・・・全くだ!じゃあ、俺もーーぐっ⁉︎何だ⁈なんか、刺さって・・・⁈」

同意したエインヘリアルの全身を、極めて細く鋭利な氷柱が、濡れた全身を満遍なく貫きつつあった。

敵軍を満遍なく濡らしたロキの権能による雨は、生み出された水の一滴一滴に至るまで瞬時に氷結していき、瞬く間に付着した水分の全てが、致命傷を与えられるまで痛覚が反応しない程に細く、鋭い氷の槍と化した。

ーーバキン!

「っぁぁ‼︎クソッ‼︎防御ルーンを‼︎」

「クラフティを纏ってるんだぞ⁈何故⁈」

「み、水だ‼︎急いで、水を落とせ‼︎まだ猶予はーー」

テュール軍が様々な反応する中、一部の者が権能の正体に気付き、振り払おうとする。

その間にも敵軍を濡らした水分は、氷槍へと鋭さを増しながら変化していき、敵軍は蒼白く氷に覆われていく。

戦艦も含めて相対するテュール軍が、水を振り払おうとしている様をロキは冷徹な瞳で見据えながら、死を告げる。

「ーー閉じよ」

ーーザシュン‼︎

ロキがそう告げた瞬間、相対したテュール軍は、船体・全身を満遍なく内側へと一瞬で伸長した無数の氷槍に貫かれた。

相対したテュール軍は、防御力など意味を成さず、声を上げる事も一切の抵抗すらも許されずに、雨が変化した無数の氷槍に貫かれたその姿は、まるで、鋭利な樹氷に包まれたかの様な姿だった。

氷槍に包まれたテュール軍は、最早、刺々しい姿ながら辛うじて人だと分かるヴァルキリー、エインヘリアル、神兵は静かに崩れていき、戦艦は爆発すら起こさずに粉々になり、ロキの権能を受けたテュール軍が眼下の海に落ちた後には、崩れた時に出来た氷片が舞っていた。



ーー【ティウダンス】・艦橋

「ふ、フェンリルの討伐に向かった艦隊が・・・全滅しました・・・!」

その様を各種レーダーで確認したブリッジクルーがテュールに報告した。

「何をしている‼︎たかが手負いの犬ころを始末するだけなど、簡単な事だろう!それをあれだけの大艦隊で全滅だと⁉︎私は無能を配下にした覚えは無いぞ‼︎」

報告を受けたテュールが憤慨する。

「そ、それがどうやら向こうにも援軍があった模様です・・・!」

「援軍だと⁉︎」

「アングルボザ、ヘル、ヨルムンガンド・・・それと、ロキです・・・」

「チィ!おのれ、目障りな奴等め・・・!あの時、無理矢理にでも始末していればよかったか・・・?ならば後方に控える戦力の4割を、全滅した艦隊の復活を待った後に合流、それを奴等に向わせろ!」

「よ、4割ですか⁉︎それでは、本陣の防衛が薄くなりますが・・・?」

「構わん。どの道この戦力差では、奴等は深く攻め込んではこれまい。戦況を見る限り、犠牲を最小限にする戦略の様だ。如何に奴等でも“無限”に突っ込むバカはおるまい?故に、どれだけ加勢が来ようとも我が軍の優勢は決して覆らない。まあ、当初の予定とは違うが。じっくりと消耗させればいいだけの事だ」

そこまで言って、テュールは席の肘掛けをドンと叩いて憎々しげに言う。

「とにかく!あの忌々しいロキとその親族を始末させろ!討伐した者には、望むだけの褒美をくれてやると伝えろ!」

「り、了解・・・!」



ーー・・・

「流石は母上・・・!艦隊を一瞬で・・・」

何世紀ぶりに見たロキの力に、フェンリルは驚嘆した。

「あなたも造作も無いでしょう?さて。・・・ヨルムンガンド!ヴァイキングの軍勢は連れて来ているわね?」

「もちろん。今か今かと待ち侘びてます」

「なら、ヴァイキング達を海上に展開しておきなさい。そして、待機」

ロキは、遥か前方に見えるテュール軍本陣の護衛艦隊と、再集結しつつある前線に向かうであろう艦隊を油断無く見据えながら、指示を出した。

「今ですか?まだヴァイキングが来ている事は、テュール軍に感知されていません。その有利を捨てると?

「問題無い。奴は、数頼みの用兵しか出来ない無能な指揮官。ましてや、自身が奇襲を受ける可能性など微塵も想定した事も無い。“潜航”していなくとも主戦場は空中。海上に注意を払う余裕など奴には無いわ。それに、光学ステルスは搭載してあるし、向こうの貧相なレーダーでは感知すら出来ないわ」

「了解です。母上」

ヨルムンガンドは、即座に通信を開きヴァイキング達にロキの指示を伝える。

「後、十分程度と言ったところか?ロキ?」

「ええ、もうすぐ・・・“無限が破壊される”」

ロキの言葉を聞き、フェンリルは敵陣奥深くを見ながら呟く。

「・・・零牙様」




ーー前編・終































































































































































































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