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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
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二章ー七節【神々の夜明け(ラグナロク)】

敵の主力艦を落とし攻勢が弱まった隙にアリシアは、アルファ専用艦の甲板に降りて来ていた。

「・・・・はあ」

一度顕鎧を解除し、アリシアは息を吐いた。

「アリシア様!大丈夫ですか⁉︎」

近くに降り立ったクレアが心配して駆け寄り、エレインは顕鎧を解かずに周辺を警戒している。

「ええ、大丈夫です・・・」

「戦艦を簡単に消滅させるとは、お見事です。アリシア様!」

「ええ、更には敵主力級を容易く葬る攻撃。こちらにも戦略級の攻撃が出来ると敵に示す事で、敵の戦線を下げるとは・・・!しかし、魔力をだいぶ消耗されたのでは?」

影刃と龍護がアリシアを称賛した。

「いえ、その・・・何というか、魔力は問題ありません。ただ・・・一瞬でいろいろ起こったので、少し混乱していて・・・」

「少し休みなさい、アリシア。あの攻撃で、敵は主力戦艦を全て下げたとの事よ。しばらくの間は警戒してこちらには攻撃を仕掛けて来る可能性は低い。この隙に休んでおきなさい、周囲の警戒は私がするから」

「姉上・・・。分かりました、そうさせて貰います」

アリシアはエクスカリバーを一度しまい、甲板上に強力な結界と共に設定された回復エリアに向かい、長椅子に腰を下ろした。

それと同時に、すぐさま小型の機械龍の様な形状の回復ドローンが一機飛来し、アリシアの直上で滞空してベールの様な回復ビームを浴びせ始めた。

アリシアは、先程自身に起こった事を思い返した。

(“彼女”は一体・・・。“思い出す”、“最後の責務”?私が何か忘れているとでも?いや、あり得ない。

仮に何かを忘れていたとしても、私は“この時代”に生まれた筈・・・。父も母もいる。幼少時からの記憶も思い出す事が出来る。だがーー“彼女”は、私に瓜二つだった。鎧も聖剣も“彼女”に合わせた様に切り替わった)

「・・・・・・・」

アリシアは、目を閉じて自身の深奥を探ってみるが、“彼女”の存在は感じ取れなかった。

まるで“今”はまだだと言わんばかりにーー

「・・・貴女は誰なんですか?」

アリシアはそう呟き、回復に専念した。

「・・・・・・・」

そんなアリシアを、モルガンは静かに見つめていた。



ーー・・・

ーザシュ!

「ぐぁぁぁ‼︎」

フェンリルがグレイプニルで、エインヘリアルの一人を貫いた時、その光条を目撃した。

光条に飲み込まれ、消滅した敵特務艦が跡形も無く消える間際に、フェンリルは自身に近しい魔力を感じ取っていた。

「この感じ・・・さっきから感じていたが」

フェンリルは、その感覚を確認する為に近くにいた特務艦に強襲した。

ーズゥン!

衝撃で特務艦の姿勢を崩す程、勢いよく甲板上に降り立ったフェンリルは、間髪入れずに氷雪を発生させ、特務艦の砲門を全て凍結させた。

「やはり、この魔力は・・・動力炉は、此処か」

前足で甲板上をツーと撫でる様にして動力炉の位置を探り当てた。

「グレイプニル!」

ーガンッ‼︎

フェンリルは、四本のグレイプニルを束ねて一点を集中して貫いた。

そこから抉り開く様にして動力炉までの装甲を開いた。

「クソ・・・やはり、ヨルの心臓か。奴め、どれだけ我が一族を愚弄するつもりだ!」

動力炉を確認すると、フェンリルは怒りに震えた。

動力炉は、ラグナロクの折にテュールが戦力として使用した、クローン・ヨルムンガンドの心臓を魔導エンジンに加工して戦艦の魔力炉として使用していた。

「複製とは言え、我が弟を生体部品として戦艦に組み込むとは、ーー度し難い‼︎」

フェンリルは、グレイプニルで動力炉を貫き氷結させて、戦艦を数秒と経たずに崩壊させた。


ーー・・・

フェンリルの近くの空域にて朧は、ヴァルキリーとエインヘリアルの混成大部隊と交戦中だった。

ーザン!

朧は、エインヘリアルの一体を袈裟懸けに斬り捨てると、背後に攻撃を仕掛けてきたヴァルキリー二人に対して、幻影を放つ。

先程から朧と交戦している為、幻影には攻撃が効かないという事は頭では理解していたが、身体に関してそうもいかず。

透けている訳でも無く、攻撃は通用しないが、本物と同一の機動性と攻撃能力を有し迫り来る幻影に対して、反射的に反応して真っ向から迎撃してしまった。

ーーザシュ

ーーザン!

「ぐはッ⁉︎」

「しまーー」

幻影は、ヴァルキリーの迎撃を歯牙にも掛けずに一太刀で斬り捨てた。

「全員、距離を取れ!近接戦は避けろ!・・・あの能力は厄介過ぎる。本体と同じ能力の幻影で、おまけに幻影への攻撃は無意味とは!」

部隊長の指示で、全員が朧から距離を取る。

「隊長!このままでは、我々は全滅します!」

「分かっている!こうなれば、やむを得まい。全隊“鎖”の使用を許可する!」

その言葉で、ヴァルキリー、エインヘリアルの全員が懐から一本の銀色の鎖を取り出した。

それを隊の半数が投縄の要領で、その軌道を魔力で操作して朧に放った。

朧はすかさず幻影を創り出し、近くの鎖を斬り払って迎撃するがーー

「ーーッ⁉︎」

幻影が斬り払う為、鎖と刀が打ち合った瞬間、幻影の魔力が吸収され幻影が維持できなくなっていく。

他の幻影も同じだった。

「魔力を吸収された⁉︎」

一瞬止まったその隙を見逃さず、隊長のヴァルキリーが朧の右手を鎖を放ち、絡め取った。

「貰ったぞ!」

「ーーッ!この程度で!」

朧が尻尾の刀身で鎖を斬ろうとするがーー

ーージャララララ

「ーーくッ⁉︎」

尻尾にもヴァルキリーの放った鎖が巻き付いて、引っ張られる。

朧は、左腕のブレードで鎖を斬ろうと魔力刃を発振するがーー

「ーーッ!」

左腕にも鎖が巻き付き、発振した魔力刃を吸収して拘束した。

そして、両脚、胴体、翼にも鎖が巻き付いて、朧の身動きを封じる。

「この魔力吸収能力・・・。まさか!」

「まだだ!二重に鎖で拘束しろ!」

隊長の指示で更に、両腕、両脚、胴体、両翼、尻尾と鎖で二重に拘束され、それに比例して魔力吸収量も上昇する。

「さあ、捕らえたぞ。小娘」

「ーー朧様‼︎」

艦隊を殲滅していたフェンリルが駆け付け、グレイプニルを放ち、エインヘリアルを数人貫いた。

「フェンリル・・・本当に生きていたとはな。奴も拘束し、今度こそ仕留めろ!」

フェンリルは、四方八方から放たれる鎖を回避しながら、朧を拘束している鎖めがけてグレイプニルを放った。

しかしーー

ーーギィン!

「ーー‼︎」

グレイプニルは、ヴァルキリー、エインヘリアルを含む五人が同時に束ねる様に放った鎖とぶつかり合う。

鎖は完全に砕けたが、グレイプニルを相殺した。

「まさか、グレイプニルを量産したのか⁈」

「いや、これはグレイプニルの製作過程で作られた、グレイプニルの試作型だ。グレイプニルを製作したドヴェルグの工房で保管されていた物だ。名は、【ドローミ】」

「グレイプニルの試作型・・・。成る程、ならば魔力吸収能力を備えているのは当然だな。だがーー」

フェンリルは、四本のグレイプニルを構える。

「完成形のグレイプニルは、試作型の比では無いぞ?」

「無論、理解している。倒された部隊から、貴様の生存を確認している。出撃の際、我等が対策を準備していないと思うか?」

フェンリルと正面から対峙していた、ヴァルキリーの隊長のヘルムの目が一瞬チラついた。

その合図で、フェンリルの後方にいたエインヘリアルの一人がクロスボウを取り出し、フェンリルに向けた。

クロスボウに小型弾頭の様な鏃をした矢が、装填されていた。

傍目には、フェンリルが気付いていない様に見えた。

だがーー

ーーザシュ

「ーーがはッ⁉︎」

クロスボウの引き金を引く寸前、うねりを上げて放たれたグレイプニルの一本が、エインヘリアルを貫いた。

「・・・フン」

フェンリルはそちらに向く事もせずに、グレイプニルを操作して、対処した。

「流石だな、フェンリル。ならばーー」

隊長が手を挙げると、その場の兵士の半数が同じクロスボウを取り出し、フェンリルに向ける。

装填された矢も同じ物だった。

「この数をーー捌き切れるか?」

ーーバババババババババ

百を超えるクロスボウから、一斉に矢が高速で放たれる。

ーーキキキキキキン

差し詰め、蛇がのたうち回る様にフェンリルの周囲を、縦横無尽にグレイプニルが動き回り、矢を払い落としていく。

無数の矢が落とされている内に、その内の幾つかがグレイプニルの矛に斬り裂かれる。

すると、斬り裂かれた矢の弾頭部分が爆ぜ、中から“蒼銀色の液体”が辺りに撒き散らされる。

フェンリルは、その液体の正体を知っていた。

「ーー‼︎(マズイ‼︎)」

瞬時に権能を解放し、吹雪で液体を吹き飛ばす。

しかし、既にフェンリルの周囲に撒き散らされた液体は、分子レベルでフェンリルに纏わりついていた。

「ーーグッ⁈」

「フェンリル⁉︎」

液体の影響で、フェンリルの身体がぐらつき、グレイプニルが動き回る事で形成されていた防御フィールドに隙が出来る。

「今だ!ドローミを放て!」

ーージャララララ

出来た隙間から、幾重ものドローミが入り込み、フェンリルの四肢を拘束して魔力吸収を始める。

「やはり、ヨルの【神毒】か・・・!」

「そうだ。幾ら貴様が兄弟で耐性があると言えど、神が恐れる程の毒だ。瞬時に解毒とはいかないだろう?」

「ふ・・・確かにな」

「更にドローミによる拘束。毒に侵されながら、同時に対処するのは難しいだろう?」

「・・・・・・(確かに同時に解毒は難しい。ヨルの毒は強力だ。魔力を吸収するドローミは、朧様の能力と少し相性が悪い)」

朧とフェンリルを拘束するドローミを持つ兵士以外が得物の切っ先を向ける。

(俺も朧様も力を温存して戦闘している。ブランクがあるとはいえ、朧様が本気にを出せば、ドローミを破壊出来るだろうが・・・)

「たとえ、対処出来たとしても、神毒もドローミも十二分に用意されている。1500年の準備は伊達ではない」

ヴァルキリーの隊長が勝ち誇った様に言った。

フェンリルは、朧の様子を見る。

(幸い、朧様には毒の影響はない様だ。分子化した毒も、周囲に見受けられない)

隊長が手を挙げ、それに応じてヴァルキリーとエインヘリアル達は一斉攻撃の態勢に入る。

(朧様の手を煩わせる訳にはいかない。ならばーー)

「これで・・・詰みだ!」

そう言って、隊長の女性は手を振り下ろそうとした。

しかしーー

「クククククク・・・ハハハ」

「・・・何がおかしい?」

フェンリルは、毒の影響で顔を歪めながら笑い出した。

「1500年・・・。確かに、良く準備したものだ。だが・・・結局お前達も、テュールも、1500年前と何一つ変わらん」

毒で侵され、ドローミで魔力を吸収されながらも、フェンリルは魔力を少しずつ上昇させた。

「何が言いたい?」

「分からないのか?・・・まず、ルーン武器。これは我が母達が、影の国と共同開発した物だ。次に、ヴァルハラ級戦艦とヴァルハラ・システム。これは、母が考案し設計した物。ヘルヘイムから盗んだのだろう?」

「だから、どうした?我等は、貴様等の技術を解析して更に向上させた。その証こそ、我等が【特務主力艦・ティーウ】と【ヴァルハラ級駆逐艦・ツィーウ】‼︎」

拳を握りしめて隊長の女性は声高に言った。

フェンリルは、それを鼻で笑う。

「ふ・・・その主力艦も、我が弟の複製を生体部品として成り立つ代物。駆逐艦に至っては、ヴァルハラ級の設計からグレードの高い機能を省いて、ダウングレードしただけだろう?つまり、デッドコピーだ」

「貴様・・・‼︎」

「違うのか?まして、自分の名を付けるとは・・・。全て、自分が作ったとでも言うつもりか?思い上がるな・・・!」

フェンリルの魔力が更に上昇する。

「奴は、盗んだ物を我が物顔で使っているだけの盗賊に過ぎん。神としての功績は皆無のくせに、自尊心だけは人一倍だ」

「テュール様を愚弄するか‼︎」

フェンリルの挑発する様な言葉は続く。

「フン・・・お前達もだ。勇敢にして栄光なるエインヘリアル、麗しくも誇り高い戦乙女・ヴァルキリー。それがどうだ?テュールの傘下のお前達は、奴と同じで、奪ったものを自分の力の様に振り回して自慢げに語る・・・堕ちたものだな」

「ーー貴様ァッ‼︎」

ーードゴォォォ‼︎

隊長の女性が怒りで叫ぶと同時に、フェンリルの魔力が爆発的に膨れ上がり、濃密で強大な神気と魔力が周囲を支配する。

「・・・栄光なるエインヘリアルよ、誇り高きヴァルキリーよ。盗賊風情に堕ちたお前達に、ヴァルキリーとエインヘリアルとしての誇りがまだあるのならばーー」

フェンリルの魔力が暴風の様に吹き荒れ、フェンリルの輪郭が白銀に輝く。

「挑んで来るがいい。ーーこのフェンリルに‼︎」

ーーバキン!

フェンリルの荒れ狂う魔力により、吸収限界を超えたドローミが砕け、フェンリルは拘束から解放された。

フェンリルは挑発する様な笑みを浮かべながら、自由落下で下降する。

「・・・このッ!」

「調子に乗るなぁ!犬ころがぁ‼︎」

挑発に乗ったエインヘリアルが、ドローミを投げ捨てて、フェンリルを追撃していく。

「・・・・ーーーーーー」

フェンリルに煽られた、隊長の女性は怒りに震えながらも、部下に指示を出す。

「・・・副長」

「はっ」

「私は、この小娘を仕留める。お前は、隊の半数を連れてフェンリルを奴を仕留めろ。今度こそあの犬畜生の息の根を止めろ!」

「はっ!」

副長のヴァルキリーは、半数を連れてフェンリルを追っていった。

(流石はフェンリル。敵を分散する為にワザと敵を挑発して、自分に敵意を向けさせるとは)

(ええ、これで敵の数が半数に減った。今の内にーー)

朧は、右手を動かして刀で鎖を斬ろうとする。

「・・・!引け!脱出させるな!」

それに気づいた隊長が鋭く声を上げた。

「・・・ーーくッ!」

何人ものヴァルキリー達により再び引っ張られる様に動きを封じられた。

「決して逃さんぞ。先ずは確実にお前を殺す。オリジンの宿鎧者を殺せば、戦力は大きく削れるからな。やれ‼︎」

『はっ!』

その指示により、ヴァルキリーが一斉にランスで突撃する。

ーーガキン‼︎

しかしーー勢いを乗せたルーン・ランスの攻撃は、完全顕現を果たしている【蒼皇龍鎧(そうおうりゅうがい)】の装甲に、幾つもの火花を散らしながら全て弾かれた。

「ーーくッ⁉︎」

「ーー固いッ!」

「怯むな、攻撃し続けろ!幾らオリジンであろうが、防御力は魔力を使っている。此方にはドローミがある。削り切れ‼︎」

『はっ!』

ーージャララララ!

朧に更に何本ものドローミが絡み付き、ヴァルキリー達が全力で連続攻撃を繰り返す。

ーーガキン、ガキン、ガキン、ガキン!

「・・・・・・」

(朧、今は耐えなさい。フェンリルが暗に教えてくれた様に、ドローミは吸収限界を超えればそれ以上吸収出来なくなる。そこに魔力を流し込めば、一気に破壊出来る)

(ええ、分かっている)

朧とアズラルはそう内で話すと、魔力を装甲に集中して防御力を更に高めた。

ヴァルキリーの隊長もルーン・ランスを構える。

「ーー私に続け‼︎」

ヴァルキリー達は、一斉に突撃した。


ーー・・・

ーードドドドドドドド!

修也は、エインヘリアルとヴァルキリーの大軍に対して砲撃を続けていた。

しかし今は、抜けて来た師団規模のヴァルキリー部隊の迎撃を優先していた。

ーードドドドドドドドド!

「くッ!敵の数が多い!ヴァスキ!連射速度を上げられるか?」

(これ以上上げれば、一発の威力が弱まる。これが丁度いい出力だ!)

「・・・了解!」

修也の砲撃は確実に抜けて来たヴァルキリー師団を削っていた。

「・・・ーー‼︎あれは・・・!」

ほぼ面にも見える程の連射を繰り出す修也の砲撃の中を、巧みな飛行で回避しながら、着実に接近しているヴァルキリーを修也は捉えた。

「ーーさせるか!」

修也は八つの首の内、半分をそのヴァルキリーに対処する為に集中させた。

ーードドドド!

回避位置を予測して放たれた四連ビーム砲撃を、ヴァルキリーは速度を上げながら、ジグザグの回避運動で躱す。

「ーー疾い!だったら・・・!」

ーードゥン、ドゥン!ドドドドゥン!

連射ビームに単発、照射ビームを、織り交ぜて、数十数発を位置予測で撃ったり、回避直後に到達する様に撃つが、ヴァルキリーは小刻みに回避し、直後の隙を狙って放たれた一撃も急制動をかけて躱した。

「ーーこれは、どうだ!」

回避運動を防ぐ様にヴァルキリーの周囲に環状に放ち、防御するしかなくなった所を狙い撃つ。

ヴァルキリーは、左手に持つルーン・シールドから流線型の障壁を発生させて、ビーム受け流した。

「ッ、これも防ぐか!なら!」

修也は、八つの首を全てヴァルキリーに向け、砲口を自身の正面にまとめて配置してチャージを開始する。

ーーシュウゥゥ

ヴァルキリーは、尚もクラス・イオタに急速に接近しつつあった。

(修也。奴一人にかまけている場合では無いぞ。我等には砲撃支援の任がある)

「分かってるよ、ヴァスキ。だが、片手間で倒せるほど、あのヴァルキリーは甘く無い。集中しないと・・・」

抜けられた事で修也の声音に焦りが見えた。

(焦るな。私が言いたいのはそういう事では無い。いいか?ーー)

零牙が敵軍の只中で戦果を上げている姿を見て、零牙をライバルだと思っている修也は、自分も相応の活躍をしなければとの焦りが戦闘開始からあった。

「やれやれ・・・」

ヴァスキを遮る様に、見かねた幽龍が声を出す。

「修也。お前は、引き続き砲撃支援を続けろ」

「でも、教官!奴に抜かれたのは俺の責任です!俺が始末を・・・!」

「ヴァスキが言いたいのは、周りを頼れという事だ。何の為に、他の者にお前の直衛に当たらせたと思っている?こういう事態を想定しての事だ」

「教官の言う通りよ、修也。私達に任せて」

幽龍に同意して雲蘭が言い、他の者も頷いていた。

「分かったら、チャージした砲撃は前線に撃て。何、あのヴァルキリーは私が相手をしよう。丁度、退屈で艦を前線に移動させようかと思っていた所だ」

「・・・了解」

修也は、チャージしていた砲撃を前線の敵軍に向け直した。

ーーゴォウウ!

収束したビームが敵前線に向けて放たれ、敵を多数薙ぎ払った。

(そうだ、焦って功を挙げる必要は無い。自分に出来る事をしていけば良い。)

「・・・ああ、そうだな」

修也が再び前線に砲撃支援を行う様子を確認して、幽龍はヴァルキリーを迎える。

「ようやく辿り着いたぜ、人間。散々後ろからちまちま砲撃なんぞしやがって、覚悟は出来てんだろうなぁ?」

ヴァルキリー専用クラフティに身を包んだ女性が、甲板上空で滞空し、クラス・イオタの面々を見下ろしながら言った。

「ーー死ねよ‼︎」

ーーブゥウン!

ヴァルキリーは、素早い動作でルーン武器で有る、身の丈を超えるバトルアックスを振るい、斬撃波を修也に向けて放った。

ーーギィン!

「・・・・・・」

修也に向けて放たれた斬撃波は、即座に間に入った雲蘭によって、偃月刀で斬り払われた。

「・・・へえ?ガキ共の集まりにしては、やるじゃねえか」

ヴァルキリーは、嘲る様な口調で言った。

「誇り高きヴァルキリーとは思えん、粗暴な物言いだな」

幽龍は、生徒達より前に出て言った。

「なんとでも言うがいい。テュール様に楯突く者は、全員死すべし。貴様ら人間風情は、既にテュール様の慈悲を拒否した。よって、貴様らの死は確定している。この私、サングリーズ直々に踏み潰してやろう。光栄に思うが良い、人間」

「やれやれ・・・。そこまで言うなら、力を見せてみろヴァルキリー。私が相手をしてやろう・・・」

ーーフォウン・・・

幽龍は、右手に暗い灰色の大剣を静かに呼び出した。

「だが・・・上位ヴァルキリーのくせに相手を過小評価する事しか出来ん愚か者に、私は抜けんぞ?」

「完膚なきまでに殺してやるよ・・・人間風情がぁ‼︎」

ヴァルキリー・サングリーズは、怒りを露わにしながら、ルーン・Bアックスを構えて幽龍に猛然と突撃した。

「・・・フ・・・ハハッ!」

ーーギィン

幽龍は、好戦的で不敵な笑みを浮かべてサングリーズを迎え撃った。


ーー・・・

クラス・デルタは、ヴァルキリー部隊と交戦中だった。

「・・・ティルヴィング!」

ノルンがティルヴィングを掲げて、破滅の呪いを放射状に放ち、禍々しい漆黒の魔力が周囲に拡散する。

「・・・鎧が⁉︎」

「くッ!破滅か⁉︎全員、距離を取れ!奴の魔力に触れるな!」

ティルヴィングの魔力に当てられたヴァルキリー達のクラフティは、破滅の影響により、一様に鎧が機能不全に陥る。

ある者は装甲に付与された防御術式が劣化し、ある者は飛行のルーンが効果を失い、またある者は武器に影響が及び、ルーン・ランスの耐久度が急激に落ちて砕け散る。

「クソッ!これでは近づけん!全員、遠距離攻撃に切り替えろ!」

その言葉でヴァルキリー達は、距離をとりつつ近接用のルーン武器やルーン・ライフルからの遠距離攻撃に戦術を変更した。

ーーダダダダダダダ!

ーービィィ!

しかし、ティルヴィングの魔力放射は続いており、放たれた射撃は一様に破滅の影響を受け、ライフルの弾丸は内蔵された魔力が暴発して四散し、武器から放たれたビームは整えられた魔力を乱されて霧散し、全てティルヴィングの魔力放射によって防がれた。

「バカな⁉︎たかだか魔力を放射しているだけだぞ⁉︎何故こうも攻撃が届かない⁈」

ティルヴィングの魔力放射は、それだけで広範囲に及ぶ一種の強力な防御撹乱膜の役割を果たし、影響を受けた敵対対象は、“直近での力の使用状況”によって“その力”が破滅へと向かう。

この魔力放射は、ティルヴィングの固有能力を乗せた攻撃の一種で有り、単純ではあるが強力な攻防一体の攻撃になる。

「放射の隙間を探せ!幾らオーディンの娘とは言え、これだけの魔力放射を長くは続けられまい!」

ヴァルキリー達が放射の隙を狙う為、攻撃を控え出した所を、ブリュンヒルデが高速で飛来する。

「ーーハァ!」

ーーザシュ

ブリュンヒルデが右手に持つ、鋭利で美しい蒼銀色の氷の刃を備えた巨大な両刃槍を一閃して、ヴァルキリーの一人を瞬時に斬り捨てた。

「ブリュンヒルデめ・・・この時を待っていたのか。目標変更だ。全員、突出して来たブリュンヒルデを狙え!奴を倒してテュール様に勝利を捧げろ!」

ヴァルキリー全員が、目標をブリュンヒルデに定めて、攻撃を開始する。

ーーダダダダダダ!

ヴァルキリー達の一部が、先制として遠距離射撃を行った。

無数の弾丸とビームが、ブリュンヒルデに襲いかかる。

「・・・・ハ!」

ブリュンヒルデは両刃槍を前方に翳すと、手元で高速回転させて、盾の様に射撃を防御した。

ーーキキキキキキン

先制の射撃を防いだブリュンヒルデは、回転をそのままに身体を一回転させて、両刃槍を投擲した。

放たれた両刃槍は大きく弧を描き、回転によって防御を崩し、複数のヴァルキリーを両断しながらブリュンヒルデの手元に戻った。

両刃槍を掴みながら、ブリュンヒルデは切り替える様に左手を前方に翳し、蒼銀の魔力を収束する。

「ソーン・イス・・・・【アヴァランチ・ソーン】‼︎」」

ーーフォウ・・・・ビキビキビキビキ!

ブリュンヒルデが収束する魔力に、一瞬ソーンとイスのルーン文字が浮かんだ瞬間、収束した魔力は、十本の歪な刃の様な氷の茨に変化し、一本一本が更に枝分かれしながら、ヴァルキリー達に高速で襲いかかった。

氷の茨は、無数に枝分かれして雪崩の様に隙間無くヴァルキリー達をクラフティごと貫いていく。

「クラフティの防御ルーンごと貫くのか⁉︎」

「まともに受けるな!回避に専念しろ!」

高速で迫り来る茨の雪崩に、大半の者は危機回避よりも防衛本能が勝ってしまい、防御を選択した者のヴァルキリー専用のクラフティに施された防御ルーンを破壊していく。

「・・・くッ⁉︎既に次の術式を⁉︎流石はーー」

「ーー遅い」

そして【アヴァランチ・ソーン】を回避したヴァルキリー達に向けて、ブリュンヒルデが左手を向け直し、魔力を収束し次のルーン魔術を放とうとした、その時ーー

「ーー‼︎」

ーーギィン!

ブリュンヒルデは、自身に向けて突如飛来したルーン・ソードを、収束を中断して両刃槍で斬り払った。

「流石ですわね。ブリュンヒルデ」

斬り払ったルーン・ソードが術によって呼び戻されて、上方から戦闘を傍観していた所有者は掴みながら言った。

上方にいた所有者のヴァルキリーは、ロールした長い銀髪を靡かせ、ドレスの様な軽装鎧を纏い、右手には呼び戻したルーン・ソードを持ち、ブリュンヒルデと同じ高度に降りて来て対峙した。

「久しいですわね。ブリュンヒルデ」

「・・・カーラ」

ロールした銀髪のヴァルキリー・カーラは、ブリュンヒルデを見下す様な眼で対峙している。

「二年前の作戦では、我らヴァルキリーはテュール様に待機を命じられていましたから、見える事が出来ずに残念ながら殺しそびれましたわ・・・」

「そう?その割には、今まで高みの見物を決め込んでいた様だけど?」

「観察していたまでですわ。こんな極東の浮遊都市で一教官と成り下がったお前如き、私自ら出向く必要が有るのか?と」

カーラの口調は、自分の強さに絶対的自信を持った口調だった。

「それで?降りてきたという事は、合格かしら?」

「ええ、そうですわね。部下達では、役不足・・・この私手ずからーーお前達、残りのオーディンの娘の内の二人を殺して、テュール様の絶対なる勝利に華を添えましょう」

カーラはクラフティを起動し、左手にルーン・シールドを呼び出し、剣を突きつけながら、オーディンの娘達を見据えて言った。

「さあ、殺される準備は良くて?ノルン・ヴェルベルグ・・・そして、“ブリュンヒルデ・ヒルドルヴ“」

ブリュンヒルデは、右手の両刃槍を正面にゆっくりと翳す。

「変わらないわね、カーラ。強さに自信を持つ事は結構。でも、自分以外のヴァルキリーを下に見るのは、本当・・・主そっくりね。だからこそ、相手の力を見誤るのよ・・・」

「戯れ言を・・・。私が見誤る?いいえ、見誤っているのはお前の方よ。この1500年で私は高みに上り詰めた・・・最早、ヴァルキリー筆頭たるシグルーンですら敵では無い。もちろんブリュンヒルデ、お前もよ」

「・・・・・・ーー!」

その時ーーブリュンヒルデの左目が、少しずつ蒼い光を放ち始める。

「・・・一つ訂正しておくわ。この戦場に私達オーディンの娘は、二人では無く三人よ」

「ハッ!三人?何を言ってーー」

ブリュンヒルデは、カーラを見据える。

「なッ⁉︎ーーその目は!バカな!あり得ない!」

蒼い輝きが強くなっていくブリュンヒルデの左目を見て、カーラ達は動揺した。

「ノルン!朧さんの所に行きなさい!」

ブリュンヒルデは、そんなカーラ達の様子を無視して、ノルンに言った。

「教官⁈でも・・・!」

魔力放射を続けていたノルンは驚いた。

そもそもノルンの魔力放射は、この空域の防衛の要でもあった。

相手がティルヴィングの魔力放射に触れまいと尻込みした所を、ブリュンヒルデが叩く。

この連携によって、この空域に鉄壁の防衛線が敷かれていた。

彼女達の後方には他のデルタの面々が専用艦で、防衛しているが、それを崩すという事は、ここまで敵に突破される事の無かったこの空域を、ブリュンヒルデ一人で支えなければならないという事だった。

「ここは私一人で十分よ。貴女は“あの子”を迎えてやって」

「え?ーーそれは・・・ーー‼︎」

そして、ノルンの左目もブリュンヒルデと同じ様に、蒼く輝き始めた。

「そう・・・ようやく・・・。分かりました。教ーー姉さん・・・此処は、頼みます!」

ノルンは魔力放射を止め、飛行のルーンで飛び去った。

「ブリュンヒルデ・・・。まさか、この数を一人で相手取ると?いくら、“その目”があろうとも実に無謀ですわね。ほらーー」

パチンとカーラが指を鳴らすと、周囲に先程ブリュンヒルデのルーン魔術で倒されたヴァルキリー達が出現した。

「テュール様の軍は、不死にして無限。我らヴァルキリーも同様に不死ですわよ?」

「ええ、知っているわ。だからーー」

ブリュンヒルデを中心に氷雪と膨大な魔力が渦巻き始める。

「ヴァルハラから出て来れなくなるまでーー殺し尽くせば良いだけの事」

「へえ・・・?出来るのかしら?」

カーラが挑発する様に言って、ルーン・ブレイドを構え、他のヴァルキリー達も戦闘態勢を整えた。

「見せてあげるわ、カーラ」

「・・・・この魔力・・・これは、権能⁉︎」

ブリュンヒルデの魔力は尚も上昇し続け、呼応する様に局地的に天候が変わり始め、周囲の空間には氷雪が乱舞する。

「・・・フィンブルヴェトの具現を」

ブリュンヒルデは低く、静かに、殺気を言葉に乗せて言った。


ーー・・・

アイナスもヴァルキリーの複数の部隊からなる大部隊との戦闘の最中だった。

ーーダダダダダダ!ビィィ!

ルーン・ライフルから放たれた弾丸が弾幕を形成し、次々と放たれる多数のビームが、アイナスを襲い続ける。

そんなビームと弾丸の弾幕に対し、アイナスは灰色の【魔光翼】を広げて滞空し、刀の能力で攻撃を捌いていた。

全方位から放たれるビームと弾丸は、アイナスに到達する前に、空間上に突如形成される漆黒の刃と不可視の刃よって防がれていた。

漆黒の刃ーー【闇刃】と不可視の刃ーー【空刃】は、アイナスが認識した全ての攻撃を、最小限かつ瞬時の形成で完全に防ぎ切る。

理解出来ぬ能力で、ただ滞空して攻撃を防がれているヴァルキリー達に、焦りが見え始める。

「何故だ!何故、突破出来ない⁉︎」

「クソ!たった一人相手に足止めなど・・・!」

「撃ちまくれ!奴とて魔力切れがあるはずだ!釘付けにして、仕留めろ!」

先程からヴァルキリー達は弾幕を張っているが、一向にアイナスの防御が崩れる気配は無かった。

「近接ならば!」

業を煮やしたヴァルキリーの一人が、ルーン・ランスに持ち替え、突撃を仕掛けた。

ーーザシュ

「ガハッ⁉︎」

ヴァルキリーが突撃を仕掛けたその瞬間に、不可視の刃が、ヴァルキリーを貫いた。

不可視の刃は、クラフティ越しに心臓を正確に貫き、ヴァルキリーは絶命し、粒子ととなって消滅した。

「おのれ!・・・突撃を仕掛ける!私に続け!」

部隊長の一人が自身の隊員を率いて、アイナスの全方位から、近接戦闘を仕掛ける。

「各自、自由に仕掛けろ!見る限り防ぐ事に一杯で、反撃はあの黒い刃だけだ。警戒していれば対した攻撃では無い。隙間を狙え!」

『ハッ!』

「隊を援護する!撃ち続けろ」

近接戦を仕掛ける隊を援護に別の部隊が援護射撃を開始した。

ーーダダダダダダ!

ーーキキキキキキン!

アイナスの動きを封じる為の弾幕は、全て闇刃と空刃によって防がれる。

「貰ったぞ!」

ヴァルキリーの一人が闇刃と空刃の発生した瞬間の隙を狙ってアイナスの左側面から突撃をかけた。

アイナスまで、十数メートルまで接近した時ーー

ーーザシュ!

「ーーグ⁉︎何、だと⁉︎」

ヴァルキリーは、突如“蒼黒い刀身”に貫かれていた。

貫かれたヴァルキリーが十数メートル先のアイナスを見ると、アイナスがヴァルキリーに向けて天羽々斬【冥皇】を向けていた。

アイナスは、【冥皇】の刀身を伸ばして射突する様に突撃をかけたヴァルキリーを貫いていた。

ーーシャキン

アイナスが刀身を元に戻すと、貫かれたヴァルキリーは、消滅した。

(防御で一杯だったと言うわけでは無いのか⁈まさか・・・あれは自動防御の一種なのか?だとするならーー)

近接戦を仕掛けた部隊の隊長がそう考えているとーー

ーーシャキン

「グゥ⁉︎」

アイナスの上方から隙を窺っていたヴァルキリーが、高速で射突される刀身に貫かれた。

「まさか奴は、自由に動けるのか⁉︎」

部隊長が突破口を見出そうと観察するのをよそに、アイナスによって隊員は次々に貫かれて行く。

「・・・・・」

アイナスは背後から攻撃寸前の気配を察知した。

ーーシャキン

「かは⁉︎」

背後斜め50度程にいた、ルーン・ランスに魔力をチャージしていたヴァルキリーを、上方に向けていた天羽々斬【冥皇】を刀身を引き戻して、クルリと逆手に持ち替えて、見る事も無く後ろ手に射突して貫く。

『ハァァァ!』

五人のヴァルキリーが、一斉に正面から攻撃を仕掛ける。

「ーー【冥皇】」

ーーシャキン

アイナスは刀身を瞬時に引き戻し、クルリと順手に持ち直して、狙いをつけて射突した。

刀身は、先頭のヴァルキリーをーー外した。

「フン!何処を狙っ・・・」

【冥皇】の刀身は先頭のヴァルキリーを掠める様に、一番後方にいたヴァルキリーを貫いた。

「最後尾⁈何を・・・⁉︎」

刀身が最後尾のヴァルキリーを貫いた瞬間ーー

ーーザザザザザザザン!

刀身の周りに、周囲の空間を斬り刻む様にソニックブームの如く、広範囲に渡って闇刃と空刃が発生した。

「バカ・・・な⁉︎」

一斉に近接戦を仕掛けたヴァルキリー達は、貫かれた一人を除いて、闇刃と空刃によってズタズタに斬り刻まれ、数秒と掛からずに五人は全滅して粒子となって消滅した。

ーーガチャン

刀身を戻した後、アイナスは右腕のガントレットから大型ハンドガンの銃身の様な砲身を展開する。

ーーブゥウ・・・

砲口に膨大な魔力が圧縮し収束していく。

(‼︎ーーアレは⁉︎)

その様を見てヴァルキリーの隊長が叫ぶ。

「奴は何かするつもりだ‼アレを︎撃たせるな‼︎」

その声でヴァルキリー達が一斉にあらゆる攻撃を仕掛けるが、チャージ中のアイナスを守る様に【冥皇】の能力である闇刃と空刃が、全ての攻撃に反応して瞬時に発生して防いでいく。

その絶対領域の隙間を突こうにも、それすらも能力だけで防ぎ切る。

ヴァルキリー達がチャージを妨害しようと攻撃を行なっている最中、アイナスはその場でチャージしながら滞空しているだけだった。

「クソっ!全く隙が無い!」

「奴の魔力は底無しか⁉︎」

ヴァルキリー達の攻勢をよそに、砲口に収束した魔力が真球の様に凝縮・圧縮され、チャージが完了した。

(完了よ。アイナス)

アイナスの内にいる【灰皇龍・エンディア】がアイナスに告げた。

ーーガチャン

アイナスは右腕をゆっくりと上げていき、数キロ先にいるヴァルキリーの隊長に狙いを定めた。

「・・グラウ・エリミネート」

ーードシュウ‼︎

灰色の真球に凝縮・圧縮された魔力が解放され、レーザーカッターの様に細い超密度の照射ビームが撃ち出された。

「・・・・ーーッ⁉︎な、・・・に⁉︎」

隊長のヴァルキリーが撃ち出されたと認識した時には既に遅く、照射ビームは、ヴァルキリーをクラフティの防御機能の一切を”消去”しながら、貫いた部分を抉り消し去った。

撃ち貫いたヴァルキリーの隊長が消えた後もビームの照射は終わらず、アイナスはそのまま右腕を動かして薙ぎ払う。

「る、ルーンを・・・!ぐあぁぁ!」

一人が防御ルーンを展開しようとしたが、術の展開途中から、術諸共に消去され消滅する。

「魔力分解のルーンならば・・・!」

そう言ったヴァルキリーが、得物のルーン・ランスに魔力構成を分解するルーン魔術を施し、横薙ぎに迫り来る照射ビームに斬りかかる。

「ば、バカな・・・分解術式を・・・消し去るだと⁈」

一瞬、分解のルーンが効果を発揮し、押し留めて拮抗したかに見えたが、直ぐにルーンの構成が消去され、そのヴァルキリーも得物とクラフティごと胴体を薙ぎ払われ、消滅していく。

一人、また一人、更にまた一人と、アイナスが薙ぎ払うごとに消滅していき、最後にアイナスは、左から右へと薙ぎ払ってようやくビーム照射が終わり、終わった時には近接戦を仕掛けた部隊は全滅していた。

「く・・・!傷一つつけられぬまま全滅だと⁉︎・・・だが、我らは不死身。総員、攻撃準備‼︎」

部隊長の中でも、混成大隊を率いるヴァルキリーの指示で、アイナスの戦闘能力を目の当たりにして少なからず慄いていたヴァルキリー達が、気を持ち直して得物を構え直した。

「総員、攻撃開始!討ち取ってテュール様に勝利を捧げよ‼︎」

その号令でヴァルキリー達が全方位から、遠距離攻撃、近接戦と攻撃を開始した。

迫り来る魔力弾やビーム、猛然と速度を上げ接近するヴァルキリー達にもアイナスは全く動じず。

迫り来る攻撃を感じとり視認しながら、ゆっくりと左手に持つ天羽々斬【冥皇】を掲げる。

天に向けて掲げられた【冥皇】の蒼みがかった漆黒の刀身を灰色の魔力が覆っていき、魔力は圧縮・凝縮する。

その間にも遠距離攻撃と近接攻撃は、全て闇刃と空刃の自動防御により防がれ、阻まれてアイナスには届かずにいた。

そして、掲げた【冥皇】をバックハンドを打つ前の様に、右側に片手で構えた。

「ーーグラウ・デリート」

アイナスは、右から左へと【冥皇】で薙ぎ払った。

ーースゥウウ!

超密度かつ強大で圧縮・凝縮された魔力が、極めて静かな波動の様な斬撃波となって、アイナスの全方位に放たれた。

「ーー⁉︎」

「こ、これは⁉︎」

斬撃波に当てられたヴァルキリー達は、まず、咄嗟に構えたルーン・シールドの付与された防御ルーンを、次にルーン・シールドの機能を、材質の耐久度を消去され、シールドは砕け散り、破片は塵化し、消滅する。

得物・クラフティ・装備類も同様にルーン・機能・耐久度を消去しその物も消去。

そしてヴァルキリー達の生まれながらの耐性や自身に付与したルーンの一切を消去して、斬撃波は敵の諸々を消去しながら大部隊の残存ヴァルキリー全てを斬り消し去った。

その空域には、暫しアイナスだけが滞空していた。

(敵部隊全滅。ヴァルキリーと言えど、ここまで練度が低いとは思わなかったわ)

「確かに。本当にフェンリルが言った通り、質より量の軍勢だね。まあ、その数が厄介なんだけど・・・」

そう二人で会話していると、複数の艦影がアイナスに向けて接近しつつあった。

その艦影は全て【ヴァルハラ級駆逐艦・ツィーウ】だった。

そして艦に搭載された小型ヴァルハラ・ゲートから、エインヘリアルと化したヴァルキリーの大部隊が出撃した。

全て【ヴァルハラ級駆逐艦・ツィーウ】で構成された艦隊は、砲塔をアイナスに照準しながら出撃したヴァルキリー部隊と共に進攻を開始した。

(またよ、アイナス)

「構わないよ、何度でも叩きのめすだけだから」

ーーガチャン・・・ブゥウン

アイナスは、再び右腕を接近しつつある艦隊に向け、再度瞬時に展開した砲身に膨大な魔力を圧縮・凝縮しーー

「ーーグラウ・エリミネート」

ーードシュウ!

再び、超密度に圧縮・凝縮された細い照射ビームが放たれ、アイナスは数百キロ以上の距離から狙撃を開始した。


ーー・・・

ーーキィィィン

ーードォン、ドン、ドォォォォォォォン!

冬華の剣閃が煌めき、【特務主力艦・ティーウ】が一隻轟沈した。

「・・・三隻」

冬華は、撤退した主力艦隊の一部と交戦中だった。


ーー【特務主力艦・ティーウ】17番艦ブリッジ

「15番艦、轟沈‼︎」

「ば、バカな・・・。10番、13番に続いて15番まで。たった一人に我が軍の主力艦がこうも容易く・・・。ええい!テュール様より賜った艦をこれ以上失うわけにはいかん!全砲門一斉射・・・ーー撃・・・」

ーーキィィィン

17番艦の艦長を含めたブリッジクルーは一斉射を撃つ前に、冬華の抜き放った剣閃によってブリッジごと斬り捨てられた。

艦長とブリッジクルーが死んだ事に気付くのは、ヴァルハラで目覚めた時だった。

ーー・・・

ードォォォォォォォン!

巨大な爆風を起こし、出撃していた周囲の兵士を巻き込みながら、17番艦は轟沈した。

冬華の強襲から僅かな時間で、またも僚艦を失った事に焦ったのか、密集陣形をとっていた残りの【特務主力艦・ティーウ】数十隻は陣形を解いて、それぞれ全砲門で砲撃しながら、冬華に向けて全速で進攻し始めた。

「・・・遅い」

ーーブゥウン!

冬華が居合いの構えから、右薙ぎに抜き放った。

ーーブゥウン!

流れる様に右から斬り上げる。

ーーブゥウン!

ーーカチン

そして、唐竹を放って天羽々斬【氷皇】を鞘に収めた。

鞘から抜きはなち、納刀するまで1秒も掛からぬ神速の斬撃だった。

この間に戦艦は三隻、兵士や戦闘ドローンはそれぞれその数十倍以上斬られている。

一拍置いて、動力部を正確に両断された戦艦三隻が凄まじい爆発を起こしながら轟沈し、斬られたドローンはいきなり両断され爆散、兵士もズタズタに刀傷を負って消滅した。

冬華の強襲から、1分と経たずに分散撤退して集結していた主力艦隊の一部は、全滅の憂き目に遭っていた。

この空域に集結していた主力艦隊の一部は、【特務主力艦・ティーウ】 30隻で構成されていた。

冬華はこの艦隊との戦闘開始から、防衛線の最前線から艦隊の前方に位置取った以外一歩も動かずに、神速の剣閃を放った際に発生する剣圧と剣気を複合した不可視の衝撃波で、敵艦隊を攻撃していた。


ーー・・・接近するティーウ10番艦・ブリッジにて

ーーバシュ‼︎

ーードォォォォォォォン!

「11番艦、轟沈‼︎」

「くぅ・・・!クソ、どうなっている⁉︎」

近くを共に全速で航行していたティーウ11番艦が轟沈し、その爆発の衝撃に艦全体が揺れる中、衝撃に耐えながら艦長がクルーに聞いた。

「11番艦が轟沈する寸前に・・・し、衝撃波が観測されています!」

「バカな・・・⁉︎衝撃波だと⁉︎まだ数十キロ以上は離れているのだぞ!それを剣を振った際の衝撃波だけで戦艦を両断したというのか⁈」

ーードォォォォォォォン!

「16番艦、轟沈!」

「ならば・・・!全艦に通達、主砲チャージ開始!完了と同時に、あの銀鎧に向けて一斉射を開始する!」

「了解!全艦、主砲チャージ開始。完了後、指示を待て。繰り返すーー」

この艦隊の指揮を任されている10番艦の艦長の号令により、残るティーウ全艦が一斉にヨルムンガンドの複製体の心臓を改造・加工した魔導炉心から、主砲にエネルギーチャージを開始した。

それと同時に、残る砲門でチャージを妨害されない様に全艦がチャージしながら、一斉射撃で冬華を狙い。

周辺の兵士達も想定された射線上からずれながら、冬華に猛然と接近しつつ遠距離攻撃を仕掛けていた。

豪雨の様なビーム弾や実弾、魔力弾やルーン弾が全て冬華に向けて放たれていたが、一つ一つの攻撃に対してピンポイントに冬華の周囲に瞬時に創成される氷の結晶や氷柱により全て防がれ、冬華の白銀の龍鎧は擦り傷一つすら付けられずに、氷が防いだ際に飛び散る破片と相まって幻想的な輝きを放っていた。

ーーキキキキキキン

冬華は、雨の様な攻撃に微動だにせず優雅に滞空し、【氷皇】の“意思”による防御・迎撃に任せていた。

そんな強者の余裕の様な光景を見せながらも、その双眸は油断無く敵を見据えていた。

「・・・もうチャージが完了したのか?フェンリルの推察はやはり正しかったな」

冬華は、チャージが完了した戦艦が自身に向けて射撃位置を整えている様子を見て言った。

(・・・そうだな。複製とは言え、巨大な世界蛇の心臓が動力源ならば、生成される魔力も莫大なものだろう)

アルジェがそう言い、冬華達の前方でチャージの完了した戦艦が、次々に凹凸の様な陣形で少しずれて横並びになり、主砲を冬華に照準して号令を待つ。

「威力は・・・まあ、言うまでも無いか」

ーーカチン

冬華は右手の親指で押す様に、鯉口を切った。

「あの斉射が通りさえすれば、壊滅的な被害を被るだろうな。並の軍が相手であればだが・・・」

二十数隻の戦艦の主砲は臨界寸前だった。

冬華は、自身の全高を越える野太刀型の天羽々斬である【氷皇】の白銀の刀身に莫大な白銀の魔力を圧縮・凝縮する。


ーーティーウ10番艦・ブリッジ

「全艦、チャージ・待機完了!」

「よし・・・テュール砲ーー撃てぇぇぇ‼︎」

ーーゴォォォォォウ‼︎

全艦から一斉に主砲・テュール砲が凄まじい閃光と紫電を帯びながら、二十数本の光条が冬華に向けて斉射された。

テュール砲と言っているが、その名はテュールが指定した通称で有り、正しくは【蛇心直結型収束魔導砲】と命名されている。

テュール砲は、複製ヨルムンガンドの心臓を加工・改造した魔導炉心から莫大な魔力を圧縮・収束し、炉心と直結されている戦艦の甲板の下部に沿う様に備えられている砲身を展開し、砲身内部を通す際に加速して放つ兵器で有り、最高神の親類の神の心臓を動力源としている為、威力は主神レベルの攻撃に匹敵する威力を誇る。

魔力のチャージも短時間出る為、主砲として分類されている。

ーー・・・


ーーゴォォォォォウ‼︎

冬華に二十数本の光条となった莫大な魔力の極大ビームが迫る。

「だが、私の前では・・・無意味だ」

しかし、冬華は一切動じずに静かに【氷皇】を抜き放つ。

「ーー【皇龍爪牙】」

ーーシィィィィィン!

ーーザン‼︎

その刹那、時が止まった様な一瞬の間に神速の一閃が全てを裂断した。

神の心臓より生成された魔力を利用し、主神級の破壊力を秘め、辺りをホワイトアウトさせる程の閃光を発した光条は目標ごと全てを薙ぎ払う前に、そもそも目標に到達する遥か前の地点で、放たれてから秒と経たぬうちに白銀の剣閃によって容易く両断されて、二十数本全てが霧散した。

冬華の放った”かなり抑えた“【皇龍爪牙】は、銀皇龍の能力【空間切断】を圧縮し凝縮した超高密度の魔力を纏わせて放つ、空間そのものを裂断する極大規模の斬撃で有り、その剣速は神速で放たれる為に回避は困難、そして空間ごと対象を斬る為に防御不能では有るが、少しプロセスを抜いた状態で放った為、本来の威力と攻撃範囲には全く届いていない。

冬華の剣閃は、たとえ加減していようと極大の戦略級ビーム砲撃二十数本を霧散させるだけには止まらず、艦隊の全てを数十キロ以上離れた所から真一文字に超広範囲を両断していた。

ーードォォォォォォォン!

一拍置いて状況が動き出し、冬華の前方の敵戦艦全ては巨大な爆発を起こし、兵士は上半身と下半身に分かれて消滅した。

爆発が終わった後、後に残ったのは遥か下の海面に落ちて行く戦艦の残骸だけだった。

ーー・・・カチン

冬華は、敵艦隊を全滅させた後、振り抜いたままだった体勢を戻して【氷皇】をゆっくりと鞘に戻した。

「・・・これで少しは主力を削れたか?」

(どうだろうな・・・奴は腐っても軍神だ。予備戦力くらい用意しているだろう。それに、ヴァルハラ・システムもある。全滅させた艦隊も復活して来るかも知れん。最も、空間切断で斬り捨てた者もシステムに登録されるかは分からんが・・・)

「ああ。システムについては・・・。ーー!」

気配と魔力を感知し言葉を途中で切った冬華は、前方を確認する。

「・・・増援か」

先程の分艦隊の倍以上の規模を誇る艦隊が接近しつつあった。

(やはりシステムそのものを破壊しなければ、奴の戦力は無限と言う訳か)

「それは零牙に任せてある」

(大丈夫なのか?いくらあの子でも、我々以上に敵の矢面に晒される事になるぞ?)

「分かっている。出来る事なら援護に行きたいが、私の役目は前線指揮だ。今は零牙を信じて戦線の維持に努めるだけだ。ーー行くぞ、アルジェ」

(ーーああ)

ーーシィィィィィン!

冬華は新たに接近しつつある艦隊に向けて、神速の剣閃を抜き放った。


ーー・・・

零牙は敵兵の復活を止める為、テュール軍のヴァルハラ・システムの大元、テュールが乗艦するヴァルハラ級戦艦【ティウダンス】を探して敵軍の奥深くまでその機動性を持って強襲をかけていた。

ーーダダダダダダ

ーービィィ

隙間などない様に思える程の弾幕が、敵の只中を超高速で飛行する零牙目掛けて張り巡らせられる。

ーーブォォォォ

ーーブォ、ブォォォォ

零牙は、細かいステップを取る様なジグザグの機動や、バレルロールや後方宙返り、更に急制動からの鋭い直角機動等、残像を撒き散らす超高速の機動性を持ってして縦横無尽に飛び回っていた。

「クソ!速すぎる!」

「撃ちまくれ‼︎この弾幕だ、延々と回避する事など出来はしない。撃ち続けろ!」

その弾幕を、零牙は右左とスライドバックで回避した直後、急加速して前方に突撃した。

ーーザシュ!

「・・・がは⁉︎」

零牙は前方にいた部隊の中の、エインヘリアルの一人の胸の中心を天羽々斬【(スメラギ)】で刺し貫いた。

「今だ、撃ちまくれ!」

ーーダダダダダダ

自分達が無限に復活する為、仲間がやられた事にも動揺せず、エインヘリアルを貫いて一瞬動きの止まった零牙を見逃さずに、周りのエインヘリアルがルーン・ライフルを一斉に速射する。

零牙は振り向きながら薙ぎ払う様にして【(スメラギ)】を振るって、貫いたままのエインヘリアルを身代わりにする様に刀身を抜き、高速で後方に飛翔し、視界から姿を消す。

身代わりにされたエインヘリアルは、仲間からの銃火を雨の様に浴びせられて消滅した。

「おのれ・・・!奴はどこだ!」

エインヘリアル達は、辺りを見渡して索敵する。

「いたぞ、あそこだ!」

零牙は、超高速機動ですれ違う敵を斬り捨てながら、再び急速接近しつつあった。

「迎撃しろ!今度こそ撃ち落とせ!」

ーーダダダダダダ

再度捉えた零牙に、その戦闘領域の全軍から遠距離攻撃が撃ち放たれる。

ーーブォォォォ!ブォォォォ!

零牙は、ジグザグに稲妻の様な残像を撒き散らす回避機動を取りながら、先程の部隊に超高速で肉薄して行く。

「当たらねえ!」

「・・・こうなれば白兵でーー」

一人のエインヘリアルが射撃をやめてルーン・ライフルからルーン・ブレイドへと持ち替える。

「ーー遅い」

持ち替えた時には、既に零牙は至近距離まで肉薄しておりーー

ーーザン!

零牙は、そのまますれ違い様に右から左に薙ぎ払って一閃、その大きく弧を描く一太刀で、部隊員全員を斬り捨てた。

零牙はその勢いのまま近くの【ヴァルハラ級駆逐艦・ツィーウ】に肉薄して、艦の前面に躍り出る。

対峙するツィーウは、零牙に主砲を向けてビームを撃ち放った。

ツィーウの主砲は、威力は抑え目だが、チャージの短さと連射性に優れており、近距離での迎撃にも向いた兵装となっている。

零牙は放たれたビームを真正面に見ながらも、そのまま高速で進み、ビームが至近にまで迫った時に最小限のスライド機動でビームと平行の半身の状態で紙一重に躱す。

そして、ビームが過ぎ去った後に半身の状態から身体を一回転させながら、左薙で【(スメラギ)】を振り抜いて主砲を一文字に両断した。

零牙は、少し上昇して【(スメラギ)】を逆手にクルリと持ち替えて、艦の先端近くの甲板に着地して突き刺した。

甲板に突き刺したまま、そのまま奥の艦橋に向けて、少し浮遊するホバー状態で斬り裂いて行く。

甲板に取り付いた零牙を迎撃しようと、待機中の兵士達が、甲板に上がって零牙を迎え撃つ。

甲板をホバーで斬り裂きつつ移動する零牙に対して、下級神や中級神達が無数のビームや弾丸を撃ち放った。

「ーーサイファス」

(ああ、任せろ)

零牙がサイファスに呼びかけ、それに応じたサイファスが弾幕に対応する。

零牙は、弾幕に対して防御手段を取る事なく、ホバーで甲板を斬り裂きながら進み続ける

ーーキキキキキキン

零牙は目立った防御手段を取っていなかったが、浴びせられる弾幕は零牙に当たる前に小気味良い音を立てながら、障壁によって阻まれた。

零牙は、弾幕の防御を内に存在する【黒皇龍・サイファス】に任せていた。

サイファスは、ビームや弾丸一つ一つの防がなければ確実に当たる物だけを瞬時把握して、更にその着弾箇所に最小限の魔力を圧縮・凝固した堅固な魔力障壁をピンポイントに一瞬だけ形成する事で、魔力消費をほぼゼロにした方法で完全に弾幕を防いだ。

無論、龍鎧の装甲ーーましてや“皇”を冠する龍鎧の装甲は、神レベルやそれと同等か匹敵する攻撃でしか傷をつける事も叶わないとまで言われる程の防御力を有しているが、今の零牙は“枷”を何重にもかけられた状態で有り、大多数の能力が制限されている。

それ故に、龍鎧の装甲防御力も完全な物とは言い難く、万が一完全に砕かれて解除された場合に、再度顕現すればかなりの魔力を消耗する。

それを考慮した結果、ほぼゼロにも等しいスズメの涙程の魔力を圧縮・凝固したピンポイントバリアを一瞬だけ形成する防御方法を取った。

サイファスは、ピンポイントバリアで全方位からの弾幕を完璧に防ぎ切っていた。

零牙は、サイファスに弾幕の防御を任せてそのまま斬り裂き、ホバー移動で進み続ける。

「くっ・・・これ以上好きに・・・ぐ⁉︎」

零牙は艦首前の甲板に設置されている、小型ヴァルハラ・ゲートに向かう途中の進路上に立ち塞がった中級神を、ガシッと右手でクラフティのヘルムをアイアンクローで掴んでそのまま前方に突き出して進み続ける。

ーードォォン!

ーービシ・・・ビシビシ

零牙は、アイアンクローで掴んだ中級神を小型ヴァルハラ・ゲートに叩きつけた。

高速で勢いをつけて叩きつけた衝撃で小型ヴァルハラ・ゲートの金属の扉に蜘蛛の巣状にヒビが入った。

「ぐ・・・あぁ・・・」

龍鎧を纏った際の総合能力上昇による零牙の膂力によって、鷲掴みされた中級神のクラフティのヘルムが歪み、頭を締め付けられる苦痛に呻いた。

零牙は、頭部を鷲掴みにしている中級神を扉にめり込ませ、右手を離して相手が持っていたルーン・ライフルを奪った。

ーーダダダダダダダダダダダダ

零牙は奪ったルーン・ライフルを、斬り裂いた甲板の裂け目に向かってワンマガジン分撃ち込んだ。

撃ち込んでいる最中、零牙を背後から他の兵士達による攻撃が襲うが、遠距離攻撃はピンポイントバリアに、接近戦を仕掛けた複数の兵士は先端がブレード状になっている鎧尾によって貫かれ、斬り払われ、薙ぎ払われ、吹き飛ばされ、まともに攻撃を仕掛ける事すら出来なかった。

零牙は、弾倉を撃ち尽くしたライフルを横に捨てて、【(スメラギ)】をそのままに、持つ手を順手に持ち直し、扉にめり込ませた中級神を扉ごと甲板に突き刺した状態から斬り上げて、トドメを刺した。

中級神は断末魔も言葉も発する事無く絶命して、前に倒れる。

零牙は、中級神が斃れる前にアイアンクローで歪んだクラフティのヘルムを鷲掴みにして、扉に叩きつけて更に力を込める。

ーードゴォォォン!

零牙は、絶命した中級神を扉に押し込んで、小型ヴァルハラ・ゲートをぶち破った。

中級神は、今度こそ消滅して零牙の手から消えていった。

「ヴァルハラ・ゲートが⁉︎」

「これ以上やらせん!」

背後の兵士達が零牙に攻撃を仕掛けようとするが、零牙は見向きもせずに急加速して上昇した。

零牙はブリッジまで上昇し、【(スメラギ)】を右手側に振りかぶる。

ブリッジの中では、慄きながらも指示を出す艦長、大慌てで艦の武装を操作して零牙に対応しようとする者、本能的に逃げる者、武器を取り出して応戦しようとする者と様々な様子が見て取れた。

「・・・・・」

ーーザン!

零牙は、一切の躊躇いを見せずに右から左へと薙ぎ払い、ブリッジを両断した。

両断されたブリッジがずり落ちて、一拍置いて爆発が始まり、甲板の裂け目からも炎が噴き上がり、戦艦の内部で連鎖的に爆発が始まった。

兵士達は、機関が破壊され徐々に落ちて行く戦艦から退避を開始していた。

零牙は一旦全体の確認をする為、見渡せる様に高速で飛び去って上昇した。

零牙が飛び去った後、戦艦は爆風で周辺の兵士を多数巻き込みながら完全に爆散した。

零牙は、敵軍を俯瞰出来る高度まで上昇して敵軍旗艦を探しながら、サイファスと話し合う。

「しかし、随分敵中深くまできたが・・・大元を乗せた艦は何処だ?陣の中央かと思ったが・・・」

(ふむ・・・大元を破壊すれば、復活と数頼みの戦術は一気に瓦解するからな)

「ああ。逆を言えば大元を破壊しない限り敵の戦力は削れないという事だ」

(正しく無限の兵団か・・・よく心が折れないな)

「とにかく、システムを潰さない事には、“無限”を相手する事になる。そうなればジリ貧だ」

(確かテュールの乗艦は、装飾過多だったか?)

「フェンリルの話ではそうらしいが・・・」

零牙達は、前夜にフェンリルとした会話を思い返した。


ーー・・・

「フェンリル。ヴァルハラ・システムについて教えてくれ」

アルファ専用宿舎の広間で事前の打ち合わせをしている時、冬華がフェンリルに言った。

「ハ・・・我が母・ロキが考案した英霊戦力即応投入機構ーー通称【ヴァルハラ・システム】。ヴァルハラ・システムは、登録した者の死後、神の魔力で構成し強化を施した生前の身体に魂を定着させ、英霊兵・エインヘリアルへと変貌させるシステムです。システムの動力源は、各ヴァルハラの所有者たる神の魔力です。したがってシステムを維持する為には、常時神が魔力を供給し続ける必要が有ります。その為、神と言えど余り余る程の莫大な魔力の持ち主・・・最低でも上級神クラス以上で無いと十全な運用が出来ない代物となっております」

フェンリルは、姿勢よく座りながら続ける。

「エインヘリアルは神の魔力が供給される限り消滅する事は無く、即座にヴァルハラにて再構成され即座に戦線への復帰が可能となるのです」

零牙は、フェンリルにずっと気になっていた疑問を聞く。

「フェンリル。エインヘリアルには、誰でもなれるのか?」

零牙は、二年前のユグドラシル・シティ郊外での戦闘を思い出していた。

敵のエインヘリアルは、戦い方がおよそ太古の英雄らしからぬ“暗器”を用いた戦法だった。

装備は近代化されていたが、多数のナイフや絡め手を用いた戦い方は“暗殺者”そのもので有り、およそ一騎当千の英雄の戦い方では、無かったからだ。

「はい、生前にエインヘリアルとして契約するか、もしくは神が自ら選んだ者を登録すれば、死後または望めば存命中にエインヘリアルとして転生する事が出来ます」

「当時ーー」

スカアハが口を開く。

「北欧で戦争が絶えなかった時代・・・まだテュールが北欧の主神だった頃。アース神族達は、巨人やヴァン神族との戦に明け暮れていた。そこに姿を現したのが、それまで表舞台には姿を見せなかったアスガルズ一族のオーディン・ロキ・トールの三女神だ」

「我が影の国も、その趨勢を見守っていたのだが・・・三女神が現れてからは、あっという間の出来事だった。・・・まず、三女神と率いられた軍勢は圧倒的な力とロスト・オーバーテクノロジーを用いた軍事技術を持ってして、巨人連合とヴァン神族の二大勢力に挟まれ、足掻きすら無意味と思えるアース神族の戦況を僅か一日で勢力図を覆した」

「今のアース神族からは考えもつきませんね。滅びの憂き目にあっていたとは・・・」

アンジェがそう言い、スカアハが頷く。

「うむ。当時のアース神族は、いわゆる弱小神族と揶揄される程に弱かった。まあ、当時の主神が権威にふんぞり返ったテュールではな・・・。配下の神族も、傲慢で胡座をかいた者が多かった。今でこそ麗しのヴァルキリーと讃えられているが、当時のヴァルキリーですらそんな調子だ。そうならなかったのは、ヘイムダルくらいだ。アース神族がそんな二大勢力すら凌駕する勢力になったのは、アスガルズ一族が戻ってきてからの事だ。そうしてオーディン達は、テュールが成し得なかった二大勢力の頭を引きずり出す事を僅か二日で成し遂げた」

当時を知る者の話に皆が興味津々で聴き入る中、スカアハは続ける。

「そうして、戦場に出てきたスルトとヴァン神族の主神とオーディン達三女神は、戦争終結を賭けた決闘をした。ヴァン神族の王は剛力無双の闘神と言われ、小山の如き巨大なミスリルの大剣を得物とし、ロキとトールの二人と対峙した。結果は・・・言うまでも無いが三女神の勝利だ。だが、驚嘆すべきは内容の方だ。トールが振り下ろされた大剣を片手で受け止め、雷撃で動きを封じた所にロキが小粒程度の水弾で一撃で終わらせた」

ロキの話しの所で、フェンリルは誇らしげだった。

「そして、スルトとオーディン。スルトの得物は、グングニルと同等の性能を誇る【変幻型戦炎器・レヴァンテイン】の大剣形態で対峙した。対してオーディンはただのルーン・ランスでスルトを迎え撃った。当時、オーディンはグングニルを所持していなかった為、当然と言えるが・・・傍目から見れば流石に勝敗は目に見えていた。レヴァンテインは、世界を焼き尽くすと言われる炎の戦器、対して専用に調整されていたとは言えただのルーン・ランス。いくらオーディンが強いとは言え、スルトも巨人族を束ねる最強の女王・・・同等の力を有するならば、超高性能の武器を所有するスルトが勝つとアスガルズ軍以外には思われていた。ーーが、勝利したのはオーディンだった。戦闘は長時間続いたが、オーディンはスルトを下した。王が敗北した両陣営は降参し・・・長きに渡って続いた戦争は、アスガルズの参戦からたった三日で終結した」

スカアハはドリンクで喉を潤して続ける。

「ハァ・・・・話が逸れたが、ヴァルハラ・システムはその戦争終結後に開発される。戦争を圧倒的力で終結させた三女神は、雷神・トール、智神・ロキ、戦神・オーディンと讃えられた。同時に北欧の民達の間で三女神信仰が急速に拡がった。信仰と戦争終結、更に戦後に巨人族とヴァン神族との友好関係の構築の功績により、オーディンは北欧の最高神になり、ロキとトールは副神となった。そして、三女神が北欧の頂点に君臨した事で、ある噂が民の間囁かれる事になる。「勇敢な戦士は死後ヴァルキリーによって、三女神の元で不滅なる栄光の戦士として復活出来る」と・・・」

「それって・・・」

アイナスの呟きにスカアハは頷く

「そう、ヴァルハラ信仰だ。ミズガルズも戦争状態だったからな。その噂は瞬く間に拡がり、オーディン達が「そんな事は無いから命を大事にしろ」と言っても聞く耳持たず、死を恐れる事なく戦場に赴き死んでいく。オーディン達の活躍もそれに拍車を掛けてしまった。それもそうだ、神とはかくあるべきと意図せず行動で示してしまった。戦争を止める事は簡単だ、だが介入は人が成長する機会を奪ってしまう。どうしたものかと悩んだ所に思い出したのだーーミーミルの泉に保管された設計図を・・・」

スカアハは腕を組み、脚を組み替えて続ける。

「その設計図は、まさにこの状況の最適解だった。信仰を禁ずる事は出来無い。噂は拍車が掛かって真実として蔓延し、戦争を助長。死んだ者達は真実を知って報われない。であるならばーーヴァルハラ信仰を実現しようとな。そして・・・幻想設計図もあり、ヴァルハラ・システムは一年と経たずに完成した。システムが完成した後は、オーディンが北欧全体に「死を恐れずに死に急ぐ者は、決して選ばない」と宣言した。それまではどんな戦闘でも戦って死ねば復活出来ると思い込んでいた奴らはその一言で鳴りを潜め、戦争は急速に減少した」

フェンリルが口を開く。

「故にシステムには、所有者が自動的な選別に対して“基準”を設ける事が出来ます。恐らく零牙様達が戦ったエインヘリアルを考えれば、テュールは基準を設けずに片っ端から登録したか、もしくはテュール自ら勧誘したかのどちらかだと思います」

「そうか・・・。エインヘリアルには誰でも登録出来るんだよな?」

零牙がフェンリルに聞いた。

「ええ、システム所有者への忠誠心などが必要ですが・・・」

「という事は・・・ヴァルキリーもエインヘリアルとして再投入される可能性があるという事なのか?」

「・・・・可能性としてはあると思いますが・・・正規軍が使用しているシステムの最新モデルは、ヴァルキリーは“ヴァルキリーとして”の復活と、致命傷を受けた場合の転移退却か、神の魔力を使用しての即時回復が可能と聞きましたが・・・。対してテュールの使用するシステムは、ヘルヘイムから盗み出した設計図から作成した、ロールアウト直後の初期型モデルです。・・・初期型モデルのエインヘリアルは“ミズガルズの民”を対象にした物で、テュール側がそこから独自にアップグレード出来たとしても、単純な機能拡張ぐらいでしょう」

「どちらにせよ、最初に潰すべきはシステムだろうな。システムがある限り、敵の戦力は無限に等しい。だがシステムさえ潰せば、後は殲滅するだけだ」

スカアハがそう言うと、冬華が口を開く。

「フェンリル。テュールのヴァルハラに通じるゲートは、奴の座乗艦で間違い無いか?流石にシステムが自軍の要だと奴も分かっているだろう。カモフラージュや移設の可能性のあると思うが・・・」

フェンリルは苦笑して、答える。

「いえ、それは無いですね。奴にとってヴァルハラは”無限の力“を体現する物、移設は絶対に有り得ません。カモフラージュも無いでしょう。ヴァルハラ級戦艦は自分の力と権威そのもの・・・だからこそ、艦の名前を自分の名が元になった名称【ティウダンス】と名付けたのでしょう」


ーー・・・

零牙は下方からの攻撃を回避し続けながら、上空からテュールの座乗艦【ティウダンス】を探し続けていた。

ーー「他の戦艦よりも巨大で豪華な装飾の戦艦を探してください。それが【ティウダンス】です」

「他よりも巨大で・・・」

(豪華な戦艦か・・・ん?零牙、あれを見ろ)

眼下に満遍なく戦艦が陣を敷く中、その後方にその戦艦はいた。

「何というか・・・・自己主張が激しいな・・・」

その戦艦の周りには、多数の護衛艦が何十にも防御陣形で固めているのだが、護衛艦は装飾は施されているが少なく、色も暗い青と灰色のツートンカラー。

しかし、この空域に敷かれた陣形の中央に座するその戦艦は、暗い色使いをした護衛艦と対照的に遠目からでも、“これに乗っているぞ“と分かる程に目立ち、かなり浮いて見えた。

全体は、ヴァルハラ級戦艦を設計図通りに建造した感じだが、艦体は左右対称の流線型では有るが、技術力の差で設計図通りとはいかなかったのか何処と無く歪な形をしていた。

その戦艦は、全高が護衛艦の二倍以上を誇り、艦の色はメインが眩しい程の金色、サブカラーに青色のツートンカラーで彩色されており、青色が辛うじて確認出来るくらいに全体には、別パーツで立体的な金色の装飾が施されており、細部まで観察し無ければ青色が使われているとわからない程に装飾で覆われており、ぱっと見では金色一色に見えた。

艦の最大の特徴は甲板中央部に装備されたヴァルハラ・ゲート。

このヴァルハラ・ゲートは初期型モデルの為、巨大な両開きの扉の形状をしており、扉の表面はまたも金色で彩色された豪華な装飾が施されており、扉の枠は純金製で、枠の表面にびっしりと“テュール”を意味するルーン文字が刻まれていた。

「ようやく見つけた。さて、どう攻めるか・・・」

敵軍からの索敵を避ける為、遥か上空の雲海を背にして、テュールの乗艦する旗艦を捉えながら何通りもの進攻戦術を瞬時に組み立てていた、その時ーー

(ーー!零牙!)

「ーー!これは・・・朧?いや、この“神気”は・・・!」

遠くの戦線から、覚えのある力が膨れ上がるのを二人は感じた。



ー・・・

ーーギィン!

「・・・・・」

ドローミで身動きを封じられた朧は、ヴァルキリー達の攻撃をじっと耐え続けていた。

「何て奴だ!ドローミで拘束した上、攻撃を加えているというのに、まだ防御力を保つのか⁉︎」

拘束されてから約十分以上、絶え間無く全身に攻撃を受け続けているが、朧の纏う蒼皇龍鎧には擦り傷一つついていなかった。

「・・・手間取っている・・・?」

その時、静かにその場に一人のヴァルキリー飛来した。

「・・・・・」

専用のクラフティを身に纏った先端がニ又に開いた穂先を持つ長大なルーン・ランスを携えたヴァルキリー

が飛来した。

「ソ、ソグン様⁉︎申し訳ございません!今、仕留めます!」

その場を指揮していた部隊長が、新たに出現したヴァルキリー・ソグンに慌てて言い、朧に攻撃を再開しようと武器を構える。

(ソグン・・・その名は確か・・・)

(上位ヴァルキリー・・・)

部隊長が隊員に合図して攻撃を再開しようとするがーー

「いい・・・私がやる・・・」

上位ヴァルキリーのソグンがそれを制止、朧の正面まで高度を下げて対峙した。

「し、しかし・・・!」

「・・・・・・」

「あ、いえ、失礼しました・・・!」

食い下がろうとした部隊長は、ソグンからの無言の圧力で押し黙った。

「・・・・・・ッ」

「・・・!」

ーーヒュン

ソグンは朧に向き直ると、瞬時にルーン・ランスを一回転させてから、勢いを乗せて朧の胸の中心部めがけて突きを放った。

ーーガァン!

「・・・硬い・・・」

「・・・!これは・・・!」

放った突きは胸部装甲に弾かれたが、朧は突かれた場所の装甲に流れる魔力が少し乱れが生じた事を感じ取った。

間髪入れずに、ソグンが刺突を繰り出した。

「・・・・・ッ!」

朧は、瞬時に圧縮した六角形の魔力障壁を正面に集中展開した。

ーーガァン!

ソグンのランスが障壁に阻まれる。

しかし、ソグンは構わずにランスを押し込んでいく。

集中展開された障壁は、魔力を圧縮・凝縮した強力な物で、コレを展開したのはソグンのルーン・ランスを警戒しての事だった。

(くっ!障壁の魔力を乱している!やはりこの槍には、【魔力妨害(マジック・ジャマー)】が付与されている!)

ソグンのルーン・ランスには、【魔力妨害(マジック・ジャマー)】が付与された特別製の物であり、その能力により、穂先の触れている対象の魔力を触れている時だけ継続的に乱し、一瞬脆弱なものにしてランスの穂先で断ち切るといった武器となっており、朧が障壁を展開したのはこの能力で、装甲の防御力を低下させられる恐れがあったからだ。

今もランスは、障壁の魔力を乱して脆弱にしようとするが、構成する魔力を乱される度に朧は再度構成し直すと言った方法で対抗していた。

ーーギィン!

ソグンの攻撃は再度防ぎ切られて、槍が弾かれ、ソグンは距離をとった。

「・・・二度も・・・驚いた・・・!」

「まさか、ソグン様の攻撃を防ぎきるとは・・・」

魔力妨害(マジック・ジャマー)】の能力を伴った攻撃を防がれると思っても見なかった周囲のヴァルキリー達は驚きを隠せなかった。

「・・・・・」

ソグンは、少し考えて口を開いた。

「・・・部隊長・・・」

「は、ハ!」

「・・・ドローミの出力最大・・・魔力吸収を限界まで上げて・・・」

「し、しかしそれでは、耐久限界でドローミが砕けます!」

「・・・その前に仕留める・・・」

「了解・・・」

部隊長が隊員に指示して、ドローミの出力が最大まで引き上げられる。

(吸収と妨害。同時に来られれば、無傷とはいかないぞ!)

「流石に危ういか・・・。アズラル、【剣皇】!」

朧は抑えていた魔力を解放し、顕鎧と刀の出力を飛躍的に上昇させていく。

「・・・させない・・・これで終わり・・・」

朧が莫大な魔力を解放し、力を高め始めた事を感知して、ソグンも魔力を高めながらルーン・ランスを構え、高速で踏み込んだ。

長大なランスの間合いに入ったソグンが、膨大な魔力を纏わせ強化した刺突を繰り出した。

ーーバキン!

砕ける音が響き、朧が解放した莫大な魔力により、吸収限界を超えたドローミが砕け散り、右腕が自由になった朧が、右腕以外は拘束されたまま莫大な魔力を纏った【剣皇】を袈裟懸けに振り下ろして、ソグンを迎え撃つ。

莫大な魔力を纏った刃と膨大な魔力を纏った穂先が、激突する寸前ーー

朧の内から鋭い蒼銀の光が、飛び出した。

「・・・ーー‼︎」

「・・・‼︎・・・」

それに気づいたソグンが、弾かれる様に急制動をかけて、後退した。

ーーガキン!

「ーーッゥ⁉︎」

蒼銀の光は一直線にソグンに襲いかかった。

鋭い槍の様な蒼銀の光をソグンは受け止めたが、凄まじい突進力を発揮した光に、後方へと押され行く。

「ーーー‼︎」

ーーギィン!

ソグンは大きく弾き飛ばされ、空中で体勢を立て直した。

蒼銀の光は、鋭い軌跡を描きながら、朧の側に戻り滞空した。

「これは・・・?」

(この感じ・・・まさか⁉︎)




ーー「やれやれ・・・後の事を考えて温存するのは正しいけど。この程度・・・朧なら簡単に蹴散らせるでしょ?」

蒼銀の光から少女の声が響いた。

光は二つに分かれ、一つは、長大で大剣の様な蒼銀の刃を持つ槍へと姿を変えて、もう一つは女性の輪郭を形作る。

光に包まれた少女が、目の前の槍を右手に持つと、光は剥がれる様に消えていき、少女が姿を現した。

蒼銀の長髪を靡かせ、スタイルの良い身体をローブの様なオーダメイドの龍皇学園の制服に包んだ”死んだ筈“の少女は、周囲を見渡して身体をほぐす様に伸びをする。

「ん〜〜〜、ハァ!まさか・・・激戦の最中とは、ね。予定とは違ったけど、まあ良いか」

朧は唖然して右腕をだらんと下げ、絞り出す様に声を出す。

「す、スル・・・カ?どうして・・・?」

「・・・・ーー」

スルカは振り向き、唖然した様子の朧に笑いかけるとーーブゥウン!

ーーバキン!

右手の“神槍”を一閃し、朧の左手と左脚を拘束していたドローミを破壊した。

「ーー!スルカ・・・どうなって?ーー!」

「流石、グッドタイミングね」

死んだ筈のスルカが目の前に出てきた事に、混乱した様子の朧は、凄まじい魔力が至近に近づいている事を感知した。

ーーゴォウウ!

ーーバキン!

魔力の正体は漆黒の斬撃波だった。

斬撃波は、朧の右脚を拘束するドローミを破壊し、更にその能力で、胴体を拘束するドローミは無理矢理耐久限界にまで引き上げられて砕け散った。

「ーー朧!姉さん!」

漆黒の斬撃波と共に現れたのは、漆黒の魔剣【ティルヴィング】を携えた、蒼銀のロングポニーテールの少女ーースルカ・スヴィズニルの双子の妹、ノルン・ヴェルベルグだった。

「姉さん・・・ようやく戻ってきたのね」

ノルンは、姉の姿を見て安堵した様子でスルカに言った。

「言ったでしょ?戻って来るって・・・まあ、私も二年かかるなんて思わなかったけど、絶対戻って来れるって思ってたよ。なんたって母さんの術式だからね」

「姉さん・・・」

「・・・あの・・」

朧が躊躇いがちに口を開く。

「私、状況が理解出来ないのだけど・・・?何で、スルカは生きてるの?霊体?」

(内に同じく。私も説明して欲しい)

まだ混乱する朧とアズラルがそう言った。

「ええと・・・、ちょっとややこしい話なんだけどーー」

「おっと、ノルン。その前にーー」

説明しようとしたノルンを、スルカが遮って周囲を見渡す。

包囲していたヴァルキリー達は、スルカの出現に驚き、一瞬で有利な状況を覆された事でフリーズしていたが、態勢を立て直しつつあった。

そしてクルリと槍を一回転させてから、スルカは脇に構える。

「話は後で。先ず・・・は、この戦争を終わらせないとね」

体勢を立て直したソグンが、三人と正対する。

「・・・何故?・・・お前は死んだ筈・・・!」

今まで感情が希薄の様に淡々と話していたソグンが、驚きを口にした。

「話すつもりは無いよ。返答次第では、討滅する相手なのだからね。・・・さて、一応の警告だ」

スルカが魔力を高めてルーン文字を描くと、この戦場にいる者全てに見える程の巨大なスクリーンを上空に展開した。

そのスクリーンには、スルカが映し出されている。


ーー・・・

「ーーなっ⁉︎・・・バカな⁉︎何故、あの小娘が⁉︎」

ティウダンスの艦橋の玉座の様な艦長席に、頬杖の突いて腰を掛けていたテュールは、驚愕に目を見開きながら、思わず身を乗り出していた。

テュール以外の艦橋にいる者達も同様に言葉も出ないほどに驚愕していたーー“ただ一人”を除いて。

ーー・・・


「な、何故⁉︎確かに死んだ筈!どういう事だ!ブリュンヒルデ‼︎」

ブリュンヒルデが権能を解放し、カーラ以外の部隊の半数程のヴァルキリーが“同士討ち”をしている最中、カーラは、ブリュンヒルデに言った。

しかし、ブリュンヒルデは肩をすくめて言う。

「さあ?それより、聞いておいた方が良いわよ?」

そしてーースルカの警告が始まる。


ーー・・・

「聞け‼︎・・・テュール、そしてその配下の者達よ!我が名は、スルカ・スヴィズニル。北欧の最高神・オーディンの娘である」

ルーンによって拡大されたスルカの声が、戦場に響き、全ての戦闘が一時中断されて、巨大なスクリーンに映るスルカに皆の目が集まる。

スルカが手に持つ“神槍”を掲げる。

「私は、我が母オーディンが持つ【神槍・グングニル】と同等の槍、【神姫の神槍(グングニル・ドーター)】を持つ者として、最高神の代理を務める権限が与えられている。そしてその権限により、テュール、並びにその配下の者に対して、今より警告を発する!」

「この空中都市・龍凰市とアスガルドには、同盟が結ばれている。したがって、諸君らが現在行っている軍事行動は明確な違反行為で有り、直ちに全ての軍事行動を停止し、武器を捨て投降しなければ・・・最高神への叛逆行為と断定し、“全軍”を持って討滅する」

「一分。一分後に返答を聞かせーー」

「ーーフ、ハハハハハハハ‼︎とんだ茶番だ!」

スルカの言葉が言い終わる前に、嘲る様な声が響いた。

ティウダンス上空に巨大スクリーンが投影され、玉座の様な艦長席に、頬杖を突いて座るテュールが映し出される。

「生き返った事には、多少驚きはしたが。よりにもよって小娘如きが、代理として警告とはな!時間稼ぎのつもりか?」

「・・・・・」

「私は行動で示しているのだがな。貴様ら有象無象は、我が力にただ蹂躙されるか、無様に命乞いをし、この私に頭を垂れて平伏するので有れば、“使ってやる”とな」

テュールは、自分以外の者を完全に見下した口調と目で続ける。

「貴様は叛逆と言ったが、むしろ叛逆しているのは貴様達の方だぞ?北欧の真なる最高神は、この私だ。あの女では無い。そしてーー」

テュールは、大袈裟に両手を広げた。

「我が軍勢は、無限にして無敵。幾ら貴様らが神兵やヴァルキリーを倒そうが無駄な事・・・無限に蘇り、その絶対なる忠誠心によって、我が力と威光を知らしめる。我が配下は、誰が真の最高神かを理解している。よって降伏勧告など無意味だ」

テュールは、右手を前方に突き出して言う。

「貴様らの滅びは、既に決まった・・・いや、この私が決めた決定事項だ。我が計画に狂いは無い。さあ、蹂躙再開だ!真なる最高神の力と威光の前に消え去るが良い!」

テュール軍が侵攻を再開しようとするがーー

「・・・本当に母さん達に聞いていた通りの奴ね」

スルカが呆れた様に言った。

「・・・何?」

「テュール。確かにお前の計画は、用意周到だ。1500年前のラグナロク未遂、二年前のシティ襲撃、そして今回・・・」

「1500年・・・ずっとこの日の為に、軍備を増強してきたのでしょう?予備戦力も十二分に控えてる様だしね。これも全て母さんを排除する為。凄まじい執念と執着心・・・流石は、一応の軍神だよ」

「・・・貴様・・・!」

スルカは声をワントーン落として言う。

「だから、利用される・・・」

「全て自分の計画の内・・・でも、それはこっちの言葉だ」

「・・・何だと?」

「テュール、お前は一応北欧の神格だ。状況証拠から確実にお前が糸を引いていると分かっていても、神を排除するには明確な理由が必要だ。それが例え、最高神であったとしても、理由も無く排除すれば民の反発を招きかね無い。だからこそ、誰の目から見てもわかる様な理由が必要だった」

「そうだ、故にあの女は私を排除する事は出来ん。最高神である私を排除するなど、烏滸がましいがな」

テュールが勝ち誇る様に言った。

「今までは・・・ね。でも、状況は整った」

「・・・何を言っている?」

「まだ分からない?その最高神の座への執着心から大局が見えなくなるのは分かっていた。母さんに勝つ為、北欧最高峰クラスの武器【神槍・グングニル】と同等で有る【神姫の神槍(グングニル・ドーター)】の在処をチラつかせれば、必ず自ら動くと分かっていた」

「・・・・・!」

「お前を排除する為の明確な理由”同盟勢力への軍事侵攻”。この状況を作り出す為にあえて、お前の計画を見逃していたのよ」

「・・・誘い込まれたと言うのか?・・・この私がッ‼︎」

テュールが状況を理解し、表情と声に苛立ちの色が見え始める。

「フン!だが、戦力は我が軍が遥かに勝っている。たとえ、誘い込まれようが、この戦力差は決定的だ!貴様らに勝ち目は無い!」

テュールは、勝ち誇る様に自信たっぷりに言い放った。

「まだ分からないのか、テュール?私は、さっき“北欧の最高神代理”として、降伏勧告を行った。その意味が分かる?」

「・・・どう言う、意味だ・・・?」

テュールは、本当に分からないと言った様子ーーいや、理解したく無いと言った感じだった。

「ここまで言っても分からないとは、ね。自分の計画をかなり用意周到に練っている癖に、こういう事態を予測していないなんて・・・。まあ、自分の目で見た方が嫌でも理解出来るでしょう」


ーー・・・・ティウダンス艦橋にて

「貴様!一体どう言う事だ!」

テュールが再度身を乗り出そうとした、その時ーー

ーービービー

艦橋に何かを知らせる警告音が鳴り響く。

「テュール様‼︎多数の転移術式の展開を検知!何かが、この戦域に転移して来ます!・・・10・・・40・・・100・・・300・・・更に反応増大‼︎」

「・・・な、何⁉︎」

ーー・・・


セレネ・レギオンとテュール軍双方がぶつかる最前線の真横の空域に“ルーン文字“による巨大な転移術式が多数展開し続けていた。

それを感じながら、スルカはテュールに告げる。

「さあ、滅びの時よ・・・テュール」

転移術式からは、無数の戦艦の艦首が出現して来ていた。

「今日、滅びるのはテュール、お前とその配下・・・。北欧の全軍総力を持ってして、お前を討滅する。これこそがお前を滅ぼす為の計画【神々の夜明け(ラグナロク)】!さあ・・・・真なるラグナロクの始まりよ」



ーー・・・七節【神々の夜明け(ラグナロク)】・終














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