二章ー五節[開戦前夜】
ーー現在・大訓練場
フェンリルは、零牙と冬華を前に姿勢正しく座り要件を伝える。
「ーー現在、龍凰市に北欧の軍勢が進軍しつつあります」
北欧の軍勢が進軍中と聞き、その場の者達は一様にざわめく。
「北欧の軍勢・・・。一体の何処の軍だ?」
冬華がフェンリルに聞いた。
「・・・【軍神・テュール】の軍です」
【軍神・テュール】有名な神格だ。
噂ではテュールは、最高神オーディンとは別に独自の軍を持っていると言う。
その軍勢はオーディン派の軍勢と、質はともかく同等の人数、もしくはそれ以上の戦力だと言う。
「冬華様。これより龍凰市は防衛体制に移行します。ツクヨミ様より学園の全クラスは、直ちに軍港に集合し待機する様にとの命令です。既に【月の軍団】は集結中です」
「了解した」
短く答えると、冬華は回線を開く。
「ーー全クラスに通達する。龍凰市は【軍神・テュール】の敵対的進軍に伴い、防衛体制に移行した。全クラスは準備を整え次第、移動プラットフォームから軍港に順次移動を開始し待機。追って指示を出す。では行動開始!」
冬華の指示で全クラスが一斉に移動を開始する。
クラス・イオタとデルタが、先に訓練場を後にしてこの場には、零牙達クラス・アルファとスカアハ、フェンリルが残った。
「フェンリル、テュール軍の目的は何だ?」
他のクラスが移動した後、冬華はフェンリルに聞いた。
「ハッ。恐らく・・・いえ、十中八九【神姫の神槍】でしょう」
「やはりか・・・朧が持っている事がバレたか?」
「いえ、恐らくは2年前の襲撃の結果から、推察したものでは無いかと」
「そうか・・・。フェンリル、この後はどうするんだ?」
「今後は、零牙様や冬華様と行動を共にする様にとツクヨミ様から言われております」
「分かった、ならばアルファに編入しよう。スカアハ様は?」
冬華は、胸の下で腕を組み立っているスカアハに声をかける。
「もちろん、共に行くさ。私もこれからは共に住むからな」
「分かりました。では、移動するぞ!」
『ーー了解!』
ー・・・
学園に設置された移動プラットフォームに乗り、零牙達は、龍凰市外部区画に位置する軍港に移動していた。
この巨大な軍港は、魔導戦闘艦の格納庫兼関連技術の研究開発区画になっている。
既に軍港では、慌ただしく戦闘準備をしている真っ最中であったが、零牙達の姿を確認すると皆一様に手を止めて敬礼する。
軍の構成は、主に人間と多種多様な龍種であるが他の種族も見受けられ、全員、暗い灰色に銀ラインが入った軍服か戦闘用プロテクターを身につけている。
零牙達は、冬華を先頭に敬礼を返しながら奥へと進んでいく。
学生が龍凰市の防衛に参加するのは、実戦経験を積む良い機会であるからだ。
もちろん実戦であり、ましてやこれから始まるのは戦争だ、むしろ生命を落とす危険がある。
その為、全員に渡される物が有り、そのユニットの存在から“安全な実戦”と呼ばれている。
学園用に用意された艦艇区画にクラス・アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、エプシロン、ゼータ、イータ、シータ、イオタ、カッパが、零牙達アルファを中心に整列し各クラスの前にそれぞれの教官、副教官が向かい合う様に並び、その中央に主任教官である冬華、そしてその両隣にモルガン、スカアハが並ぶ。
全クラスが集合したのを確認した冬華が口を開く。
「では、ブリーフィングを始める。・・・先に通達した通り、現在龍凰市に向けて北欧の神性、【軍神・テュール】の軍勢が進軍中だ。敵の戦略目標は、恐らくこちらで預かっている【神姫の神槍】だ。・・・敵は旗艦であるヴァルハラ級戦艦を中心に、二年前に我々が戦ったと思わしき中型艦で構成されており、現状確認出来た戦力は魔導戦闘艦が約五千隻、戦闘要員の数はそれ以上に及ぶだろう」
「戦闘艦五千隻」、その数字を聞いてざわめきが起こるが、冬華が再び話し始めると静かになる。
「現在、確認された戦力は恐らく本隊であると同時に第一陣と思われる。したがって、確認された戦力が敵の全戦力では無いと思っておけ。・・・敵の進軍速度から考え、開戦は明朝だと思われる」
「凰月先生。よろしいですか?」
「何だ?」
冬華の説明の切れ目に切り出したのは、スリットの入った魔術師のローブに仕立てた制服でグラマラスな体を包み、腰下まで届く長いエメラルドの髪と、爽やかな髪色と反対の印象を与える紅い瞳、零牙の一つ歳上だが母性的な印象の美少女。
クラス・イプシロンのリーダー、【エマ・OZ・マグナ】。
クラス・イプシロンは、主に魔術・魔導関連中心のクラスだ。
「敵軍が、夜襲を仕掛けて来る可能性は?」
「ーーそれは無いだろう」
答えたのはスカアハだった。
「奴は自己顕示欲の塊だ。自分の力を誇示する為、自身の軍を動かす時は真正面からの蹂躙を好む。・・・そもそも奴は、最も神として相応しくない神だ。自分以外の神を神として認めておらぬ。北欧に住まう者は、総じて自分に従うべきと考えているからな。絶対の忠誠を示すならば、“使ってやる”。従わなければ滅ぼす。最高神への復権を望んでいるが、全くその器では無い」
「ーースカアハ様の言う通りです」
スカアハに同意してフェンリルが口を開く。
スカアハに集まっていた視線が、フェンリルに向けられる。
「我が母・ロキから聞きましたが。テュールは、かつて最高神だった頃からそう言う考えでした。叔母上・・・オーディン様やトール様、そして母・ロキが頭角を現してからは、直ぐに神々や北欧の民は離れていきました。下級・中級は大勢いますが、上級以上の神は、盲目的に信奉する数名しか残っていません。使い捨てに出来る自軍以外の戦力が無い限り奇襲はさせないでしょう」
「という事だが・・・納得したか、エマ?」
「はい。抑止力たる影の国の女王とラグナロクの当事者である神狼の証言です。この上ない程に納得出来ます」
「他に質問はあるか?」
冬華は、全員を見渡して確認した。
「では、これより解散とする。敵軍の戦闘艦や兵装、各種情報に関しては、支給した端末内のデータベースを確認しておく様に。今季より編入した者、並びに【オリジン・メイル】を宿さぬ者、軍用【クラフティ・メイル】を受領していない者は、各クラス教官の指示に従い受領しろ。明日は早い、十分休息を取る様に。以上、解散!」
元々顕鎧とは【起源顕鎧】だけだったが、顕鎧には顕鎧でしか対抗する事が難しく対抗する為、また顕鎧による戦闘能力向上の為に、オリジンを参考に魔導科学技術の粋を集めて製作されたのがーー【魔導顕鎧】である。
それぞれを区別する為に【オリジン】と【クラフティ】と呼ばれている。
【オリジン】は生まれながら、もしくは顕鎧生命体と友好関係を築き融合するか、自身の力の一部を昇華させねばならない為、希少性が高くその者にしか扱えない。
【クラフティ】の総合性能は【オリジン】に遥かに劣るが、生産性では【クラフティ】に軍配が上がる。
言うなれば【クラフティ】は量産型、【オリジン】はワンオフと言ったところだ。
その為、世界全体で見れば圧倒的に【クラフティ】の数の方が多いだろう。
龍凰市や凰月関連に配備されている【クラフティ】には、主に重火器を主兵装とする遠距離制圧型:【AD型】、機動格闘戦を得意とする近接制圧型:【SD】、味方の回復、攻撃魔術、自律兵器による支援制圧型:【MD型】の基本型としてこの三つに分かれる。
その場には編入した者、【オリジン】を持たぬ者、合わせて十数名がその場には残った。
ーー・・・・
ーーその夜
学生達は、軍港に用意された専用宿舎に泊まる事なる。
宿舎は各クラス毎に分かれており、高級ホテル並みの設備が整えられている。
零牙達、クラス・アルファには更に専用の区画が用意されている。
他のクラスが高級ならば、零牙達の場合は超高級と言った所だ。
ちなみに零牙は他と同じで良いと言うが、冬華に「立場上、そんな訳にいくか」と言われてそれ以上は言わずに大人しく宿舎を使用する。
零牙達は、何時もの様に大量の食事を終えた後、零牙は影刃、龍護、フェンリルと共に風呂に向かった。
女性陣は、何やら女性同士の“会議”があるそうで、スカアハを連れて先に風呂に入っていた。
ー・・・
軍港宿舎・クラス・アルファ専用区画
宿舎の風呂は、巨大な大浴場で有り【北龍極】から温泉を引いている。
「ふう・・・何とも心地良い。龍脈の力が溢れる温泉は最高だな」
スカアハが湯に浸かりながら言った。
「ええ、我々【龍血】にとっては特に効能を及ぼしますからね」
スカアハの呟きに冬華が答える。
「うむ。魔力回復には絶大な効果をもたらすだろうな。・・・ところで冬華よ」
「はい?」
「私は、お前達と同じ様に零牙の婚約者だ。そしてお前は、実の姉にして婚約者。ならば、お前は私達の筆頭と言えるだろう?」
「そんなつもりは無いのですが・・・」
「見ていれば分かる。お前も“皇”の器を持っているとな。それは自然として行動に現れるものだ、全てにおいてな。だからこそお前は、私達の纏め役として相応しいのだ。まぁ要は、敬称を付けずに私の事はスカアハと呼べと言う事だ」
「・・・わ、分かりました」
高名な影の国の女王たるスカアハにそう高く評価され、珍しく照れながら冬華は答えた。
「冬華姉さん・・・」
それまで何か考える様にしていたアリシアが口を開いた。
ちなみにアリシアも冬華を“冬華姉さん”(実の姉のモルガンは今まで通り”姉さん“と読んでいる)と呼ぶ様になっていた。
「・・・どうした?」
「・・・ずっと気にはなっていたのですが。何だか聞き辛い雰囲気だったので・・・」
アリシアは、気遣う様に朧の様子を伺い、遠慮がちに口にした。
「ーー朧のトラウマか?」
「・・・はい」
「・・・・そうだな。お前達は知っておいて貰った方が良いだろう。朧の中に眠る神の槍・・・【神姫の神槍】の本来の持ち主、北欧の最高神・オーディンの娘、スルカ・スヴィズニルの事を・・・」
冬華は一拍置いて話し始める。
「スルカ・スヴィズニル。北欧の最高神・オーディンと“神龍“との間に生まれた双子の一人ーーノルン・ヴェルベルグの姉だ。二人は、【神血】と【龍血】のクォーターでな、その出自故に二人は桁違いの魔力と才能に溢れていた。二人は、生まれた時からその血や力を求める者に狙われ、特にテュールからは何度も刺客が差し向けられたと聞いている」
「ふむ、奴ならばそうであろうな。オーディンを排する為ならばーーそして何より自分以外の神を決して認めぬからな」
「そして二人は、顕装を発現させた。ノルンは、それまで誰一人として完全に適合せずに、無理矢理振るった者に破滅の呪いを撒き散らした魔剣・ティルヴィングをーー。そしてスルカは、母親のオーディンを象徴する北欧最強の武器。【神槍・グングニル】と同一の神槍を発現させた」
「それからは、毎日のように襲撃を受けたと言っていた。特にスルカへの刺客の数は、日に日に増えていったそうだ。このままでは、娘達が安心して日常生活を送れないと考えたオーディン様は、親交のあった婆さん・・・祖母のツクヨミに頼んで、学園に編入させた。テュールの魔の手から遠ざける為にな。それが、五年前だ。ーーその三年後、学園の修学旅行で北欧に行った際の事だーー」
ー・・・
ーー二年前・北欧・ユグドラシル・シティ
ユグドラシル・シティは、頂点が見えない程、天高く聳え立つ【世界樹・ユグドラシル】を中心とした巨大都市で有り、主に異能力者、神血・巨人・ヴァルキリーの血筋を引く者が生活している。
ユグドラシル・シティに、龍凰学園・異能科は修学旅行に来ていた。
その中には、腰下まで伸ばした蒼銀の長い髪を持つ凛とした雰囲気の美少女【スルカ・スヴィズニル】と双子の妹【ノルン・ヴェルベルグ】もいた。
スルカは、ロングコートを上から羽織り、その下に黒のノースリーブのインナースーツと、すらっとしたタクティカルパンツを身につけている。
一応スルカやノルン達、北欧出身者で構成されたクラス・デルタの里帰りも兼ねていた。
特にスルカとノルンは、その出自故テュールに狙われている為、帽子や認識阻害のルーンでバレない様にしていた。
一日目の半ばの事、運悪くグリフォンなどの有翼種が羽ばたいた際の突風に煽られて帽子が飛んだ際、認識阻害のルーンが通用しない種族の者が、スルカとノルンに気付き大騒ぎになった為、急遽スルカとノルンの帰郷が報道され、翌日凱旋パレードを行う事となった。
スルカとノルンは、ホテルに控え室として用意された一室にて、母・オーディンと通信していた。
「母さん。どうしてもやらないといけないの?」
スルカが空中ディスプレイに映るオーディンに抗議していた。
「仕方ないでしょう。帰って来ている事が、民たちにバレたのだから。それにもう少し手を講じるべきだったのよ。これは、自分の準備不足が招いた結果だと思って受け入れなさい」
「ええー・・・」
「姉さん、諦めましょう。母さんの言う通り、確かに私達の準備不足よ」
「・・・ぐぬぅ・・・」
その時、ブリュンヒルデが二人を呼びに来た。
「スルカ、ノルン、時間よ」
「貴女達は私の娘なのだから。皆、ひと目でも無事を確認したいのよ。とにかく、凱旋パレードを成功させて頂戴。終わったら、私の方から必要以上に騒がない様に言っておくから」
「はあ・・・分かった。約束だからね?」
「もちろん。さあ、いってらっしゃい二人共」
「「了解」」
「ブリュンヒルデ、頼むわね」
「はい」
ー・・・
パレードは、専用に装飾が施された小型魔導艇で行う。
パレードの航路は、ユグドラシルを中心に広がるあい都市部の中央を時計回りに、空中を航行する。
小型魔導艇は底部にディスプレイを投影でき、甲板上の様子を写す。
スルカとノルンは、大観衆に向けて手を振って応える。
甲板上には、教官で有るブリュンヒルデとクラス・デルタの面々も共に乗っていた。
魔導艇の周囲には、護衛のヴァルキリー達が小型魔導艇で同行する。
耳をつんざく様な歓声が、シティ全域で巻き起こる。
「スルカ様!ノルン様!お帰りなさい!」
「ブリュンヒルデ様ーー!」
「お三方ともご無事で何よりです!」
通りには、様々な種族が押し寄せる様に集まり、空中には有翼種や浮遊のルーンで飛べる者達が建物の屋上から十数メートルに設定されたフィールドで、パレード艇に歓声を送る。
パレードを見る為に外で出ている人々は、ユグドラシルシティのほぼ全人口に及んだ。
「凄いな。これだけの人が集まるなんて」
スルカとノルンの帰郷を歓迎しようと集まった大観衆を、航路から離れた遠くの屋上から見ながら、零牙はそう感心した。
「スルカとノルンはオーディン様の・・・北欧の最高神の娘だからな、当たり前だろう。・・・言うなれば、龍凰市での私とお前みたいなものだ」
胸の下で腕を組み、同じくパレードを見ている隣の冬華が答える。
零牙と冬華の近くには、クラス・アルファの面々が同じくパレードを見ていた。
この凱旋パレードを行うに当たり、龍凰学園の他のクラスに最高神・オーディン直々にパレードでの警備を頼まれた。
その為、デルタ以外の格クラスはシティ全域にクラス単位で散らばり、警備に当たっていた。
ーーそして
「・・・攻撃開始」
凱旋パレードの予定航路が半分に差し掛かった時、それは起こった。
ーードォォォォォォォン‼︎
突如、周囲の護衛艇の張り巡らせた魔導障壁の外側で爆発が起こる。
「ーー爆発⁉︎」
「ーー姉さんっ!」
ノルンが声を上げると更にーー
ーーヒュン‼︎ーーヒュン‼︎ーーヒュン‼︎
周囲から複数の火球がパレード艇に向けて放たれた。
ーードォォォォォォォン‼︎
同時に放たれた火球は、一斉に魔導障壁に阻まれ爆発して、爆風を撒き散らす。
観衆は悲鳴が上るが、幸い周囲の観衆には安全対策の為にシールドが展開されている為、被害は無い。
だがーー
「・・・昨日今日で、こんな戦力を集めるなんてね。どれだけ私とノルンが目障りなんだテュール・・・!」
そうウンザリする様に言ったスルカの視線先の上空に、転移ゲートから出現した、テュールのヴァルハラ級戦艦【ティウダンス】に似た中型の魔導戦艦が滞空していた。
ーガタン
詳細不明の中型魔導戦艦から、重厚な扉が開く様な音がして、外套でその身を覆った敵の戦闘員が多数出現した。
外套には、浮遊のルーンが織り込んであるらしく、敵の浮遊に合わせてルーン文字が浮かび上がる。
敵戦闘員が一斉に手持ちのルーン・ライフルを、パレードの一団に向けて攻撃を開始した。
「スルカ様とノルン様をお守りしろ!」
護衛のヴァルキリー部隊が飛び立ち、ルーンで障壁を形成する。
複数の属性のビームが障壁に防がれる。
ルーン・ライフルでは、効果が今一つと思ったのか敵戦艦が底部に備えられた10門の発射管を開き、対地ミサイルを斉射した。
更に、底部にニ門装備された旋回式機関砲も同時に斉射を開始した。
「ーースルカ様⁉︎」
誰よりも早く戦艦の攻撃に反応したスルカが、障壁の外に浮遊のルーンを使って飛び出す。
「ーー【神姫の神槍】‼︎」
飛び出したスルカは瞬時に神槍を顕現して、横薙ぎに大きく薙ぎ払う。
神槍の一閃は、迫るミサイル群とその後に続く機関砲の攻撃を纏めて消し飛ばした。
ーードドドドドドォォォン!
破壊されたミサイルが爆発を起こし、再び辺りに爆風を撒き散らす。
間髪入れずにスルカは神槍を向け、穂身を二又に開き、連続してビームを三発放つ。
三発のビームは爆風を貫き、二発はニ門の機関砲に着弾し、残りの一発は十連装対地ミサイルの発射管に着弾して破壊した。
「ーーノルン‼︎」
「ええ!」
スルカが鋭い声でノルンに呼び掛けると、既に姉の意図を察していたノルンは、返事をする前に飛び出していた。
「ーー【ティルヴィング】‼︎」
薙ぎ払いを放つ直前の体勢で、右手に漆黒の魔剣を顕現させる。
「ーーハアァッ!」
すかさず周囲に展開した敵を薙ぎ払う様にその場で回転斬りを放ち、破滅の斬撃波を飛ばす。
放たれた斬撃波は、周囲の敵を一様に斬り捨て、掠めた敵も、破滅の呪いの影響により“偶然、手持ちのルーン・ライフルの残弾が暴発して”致命傷を負った。
中型魔導戦艦が一斉に砲塔を向けて、スルカとノルンにビーム砲撃を放つ。
「「ハアッ‼︎」」
スルカとノルンは、互いに斬撃をクロスさせる様に一閃し、砲撃を斬り捨てた。
斬り捨てた衝撃は、ビームを放った中型艦の姿勢を崩す程だった。
「やはり、狙いは・・・。教官!」
スルカは、観衆の避難の誘導を警備隊に引き継いだブリュンヒルデに、回線を開き呼びかけた。
「教官。敵の狙いは、私とノルンです!ここでは、あの戦艦を落とせない。私達で、敵の大部分を郊外に連れて行きます!」
体勢を立て直しつつある戦艦に注意を払いながら、スルカは言った。
「ーー‼︎しかし、それでは貴女達に戦力の大半が集中する事になるのよ!」
「大丈夫です。私達が囮になれば、街の防衛は楽になる筈です!・・・と言っても、黒幕が予想通りならば、まだ戦力を投入して来るでしょうが・・・」
ブリュンヒルデは、少し考えた後に返答した。
「・・・・分かったわ。こちらは任せなさい!でも油断しないで。“奴”がどんな策を用意しているか不明よ・・・」
「了解!行くよ、ノルン!」
「ええ!」
二人は同時に上空に上がり、戦艦の側面を通り過ぎながら、ビーム砲撃と斬撃波で攻撃を仕掛けて注意を引いた。
「ほら、こっちだ!ついて来なさい!」
そして二人は、周囲の敵を牽制しつつ郊外に向けて飛び去った。
「追え!奴らを逃すな!」
ーーガコン
扉が閉まる音を残した戦艦と、一部の敵集団が二人の後を追ってその場を離脱した。
後に残ったのは、一部の敵集団と再び戦艦から出撃した“先程、ノルンに斬り捨てられた”敵集団だった。
先程、斬られたと思わしき敵が降りて来るのを確認したブリュンヒルデは確信する。
(やはり、この戦力の即時投入速度。あの戦艦には、小型、もしくは簡易化された【ヴァルハラ・ゲート】を搭載している様ね・・・)
「ブリュンヒルデ様!」
護衛のヴァルキリー部隊が、ブリュンヒルデの周りに布陣する。
ブリュンヒルデは、蒼銀に透き通り輝く、大剣にも見紛う程のミスリルの大刃を備えた4メートルの大槍【フィンブルヴェト・ランス】を右手に顕現させる。
(敵味方が入り乱れる市街戦で、“冬”の具現の一つで有るこの槍と私の“権能”を使いたくは無いが・・・。場合によっては、使う事を考えなければな・・・)
「教官!」
ブリュンヒルデが振り向くと、クラス・デルタの他の面々も各々武器を取り出して、ブリュンヒルデの指示を警戒しつつ待っていた。
ブリュンヒルデは頷くと、指示を出す。
「クラス・デルタ、並びに護衛ヴァルキリー部隊。各自、能力の無制限使用を許可する!クラス・デルタ、ヴァルキリー部隊・・・オープン・コンバット!敵を一掃せよ‼︎」
『ーーイエス・マム‼︎』
ブリュンヒルデが先陣を切り、瞬く間に敵に肉薄して大槍を振るったの皮切りに、全員が浮遊のルーンで飛び立ち、戦闘を開始した。
ーー・・・
ー同時刻
零牙達、クラス・アルファも攻撃の様子を目撃していた。
だが、状況を確認せずに動くのは危険で有る。
その為、冬華がクラス・デルタの教官で有るブリュンヒルデに連絡し、状況確認を待っている状態だった。
こうして待っている間にも、先程目撃した敵の詳細不明の中型魔導戦艦が、市内全域において十数隻出現していた。
「ーーブリュンヒルデ!応答しろ、ブリュンヒルデ!」
通信装置からは、戦闘の騒音が絶えず聞こえ、連動する様に攻防の光が遠くで瞬く。
「ーーこちら、ブリュンヒルデ」
少ししてブリュンヒルデが応答した。
「ブリュンヒルデ、状況は?」
「現在、護衛のヴァルキリー部隊共に敵と交戦中。冬華、コチラへの増援は不要だ。それよりも、スルカとノルンの救援にーー!」
「何?どう言う事だ?」
「二人は狙いが自分達だと確信し、囮になる為に郊外に向かった!」
ブリュンヒルデの言った途端に郊外でも、戦闘の光が瞬いた。
戦闘の光が瞬く場所の上空には、中型戦艦が数隻集まりつつあった。
「ーー分かった、救援は私とアルファで行く。デルタは、引き続き敵の殲滅と防衛を行え」
「ーー了解」
ブリュンヒルデとの通信を終えて直ぐに、冬華は全クラスへ回線を開く。
「ーー全クラスへ通達する。現在、ユグドラシル・シティ全域に敵対勢力の攻撃が確認されている。全クラスは、全域にて遊撃に当たれ。私の権限により、能力・顕鎧の無制限使用を許可する。ーー全クラス、オープン・コンバット!敵を殲滅しろ‼︎」
『イエス・マム‼︎』
指示を出した後、シティ全域で更に多くの戦闘の光が瞬き、様々な攻撃が乱舞する。
零牙達クラス・アルファは、近くに停めていた高速輸送艦に搭乗して、郊外に向かった。
ーー・・・
ーユグドラシル・シティ・郊外
ユグドラシル・シティの郊外は、世界樹の影響下に有る為か、神気と魔力に満ちた豊かな森が広がっており、多くの幻獣が生息している。
今は所々で起きる戦闘により、姿を隠していた。
ーードォォォォォォォン!
ーーギィン!ギィン!
スルカとノルンは、直ぐに互いをカバー出来る様に、背中合わせで大部隊と交戦していた。
既に周囲には、二人によって倒された者達が、大勢転がっていた。
「ーーハアッ!」
「ーーフッ!」
スルカが神槍の穂先を敵に向けて、長大な穂身を中心で開く。
二叉に開いた中心から、蒼銀のビームを放つ。
ビームは進む途中で五つに分かれ、更に一つ一つがその倍に分かれて敵に降り注ぎ、敵は豪雨に打たれるかの如く貫かれる。
反対側では、ノルンが漆黒の魔剣を大きく素早く三度振り抜き、破滅の斬撃波を自身より扇状に三つ放つ。
破滅の斬撃は、多くの敵を巻き込み斬り捨てる。
斬撃の間を縫う様に回避した敵は、ノルンが瞬時に距離を詰めて、一太刀で斬り捨てた。
その際、敵は“太古の戦士”らしく反応して一様に防御したが、どの方法もティルヴィングの能力を防げずに諸共に斬り捨てられる。
ある者は、ルーン・ライフルで受け止めた際に、“弾薬・内部機構が暴発”し、爆風ごと斬られた。
ある者は、手に持つ武器や身に付けた防具が、“新品同然の筈が、瞬時に劣化して強度・機能・防御力を失い“、武器は打ち合う事すら許されずに真っ二つに斬られ、防具は何の意味も成さずに諸共に斬り捨てられた。
そして後ろに下がる際には、左手をスーッと横に滑らせ、幾つもルーン魔術を組み合わせた術式を中空に描く。
描かれたルーン術式から、中型の火球が火を吹き、氷の刃が横なぶりの雨の如く放たれ、稲妻がジグザグな軌道で迸る。
反対側のスルカも同様に、右手のグングニル・ドーターで穿ち、薙ぎ払い、砲撃し、左手でノルンと同じく母・オーディン仕込みのルーン魔術を展開し別方向を攻撃する。
二人は、背中合わせで互いにカバーし合い、息の合った連携で、敵の数を圧倒的に減らして行く。
敵も古代の北欧戦士であるが故に、二人の連携を崩し、分断しようと二人の間に割り込もうとする。
小隊規模の敵が二人の直上から、ルーン・ライフルで一斉掃射する。
ーーダダダダダダ!
「それは、想定済み!」
スルカがそう言った直後、色とりどりのルーンのビームが半透明の1メートル程の菱形の障壁に阻まれ、防いだ障壁はパリンと割れ、ビームは威力を無くして消散する。
「ーー何だと⁉︎」
「ーー甘い!」
ーードォォォウ!
スルカは、自身とノルンが戦闘の合間に仕込み、ばら撒き続けてきた幾重もの“薄い”障壁によって攻撃を防がれ、動揺した小隊に向けて、神槍の穂身から誘導ビームを放つ。
誘導ビームは、戦士の本能で咄嗟に回避行動をとった敵を一人一人正確に追い縋り貫いて、撃滅した。
スルカとノルンは、戦闘の合間に透明な小さな障壁を、ばら撒いていた。
ばら撒いた障壁はスルカとノルンの周囲に何十個と漂っている。
敵が障壁に気付かなかったのは、周囲の景色に溶け込む様な透明度に加えて、さりげなくばら撒き、スルカとノルンの攻撃はすり抜けていた為、歴戦の戦士であっても気付けなかった。
二人は障壁を補充しながら下がって、背中合わせで一度様子を見る。
「・・・やっぱりね・・・」
「・・・ええ」
そう言う二人の目には、戦艦から降りて来る増援と、“先程倒した”筈の敵が、再び包囲網を引いていた。
次々に、上空の戦艦から新しい増援として現れるのに比例して、周囲に倒れた敵は霧散して消えて行く。
「・・・【ヴァルハラ・ゲート】と【エインヘリアル】。こうして相手にすると、厄介さが身の染みるわね」
「そうね。味方にすると頼もしいけれど、いざ敵にすると戦力を立て直す速度と投入速度は、この上なく面倒ね。この消耗戦を強要する戦術・・・【ヴァルハラ・ゲート】が有ればこその戦術。あの戦艦を叩かないとこのままでは・・・」
いくら二人が、北欧最強の最高神・オーディンの娘として、神の膨大な魔力を受け継いでいるとしても、その総量には限度が有る。
その身に宿す魔力総量と魔力生成量は、滅多な事では魔力切れを起こさない二人でも、ゲートを壊さない限り止むことのない“無限の英霊”達を相手にこのまま消耗戦を続ければ、いずれ限界が来る。
「ーーそれにしても。このエインヘリアル達の戦法・・・」
「ええ、戦士と言うより暗殺者の戦い方ね」
「装備も近代兵装で武装してるけど、短剣やサブマシンガンという主に取り回しがしやすい武器が多い」
敵の英霊ーー【エインヘリアル】達は常に二人を囲む様に攻めてきている。
通常、ヴァルハラに迎えられるのは戦士か魔術師が多い。
例外として指揮官や将軍を仕留めた等、非常に優れた腕を持っていなければ、暗殺者がヴァルハラに迎えられる事は無い。
それは、ロキが【ヴァルハラ・システム】を考案し、製作・導入した当時、殆どの暗殺者が陰謀と策謀の為に用いられて来た為に、北欧の神々が好まなかった。
特に暗殺者は、正面切っての戦いが得意な者は非常に少なく、いずれも奇襲や闇討ちが主な戦法の為、軍団規模の戦闘や異能力を持つ者相手に“ただの暗殺”では効果が無かったからだ。
ーー【ヴァルハラ・システム】
北欧の神・ロキが考案した、英霊戦力即応投入機構ーー通称【ヴァルハラ・システム】。
ヴァルハラ・システムは、格神に対応した英霊殿・ヴァルハラと英霊門・ヴァルハラ・ゲートがセットで機能・運用する。
まず、格神それぞれが気に入った者を見定め、死後もしくは生前に、自ら従属を申し出るか、又は神から打診を受けて了承すると英霊殿に登録されて、そこで生活する事になる。
先ずは神から供給される魔力を使い、時間をかけて存在を【英霊・エインヘリアル】へと再構成する。
再構成されたエインヘリアルは、膨大な魔力で構成された存在の為、寿命や老いは無くなり、自然には病に罹らなくなる。
言うなれば、肉体的な死は無くなる。
エインヘリアルは、登録された神の英霊殿が破壊されるか、英霊殿の所有者たる神が死なない限り、倒されたとしても、英霊殿でインターバル無しに即座に再構成される。
この再構成には魔力コストは不要で有り、一度エインヘリアルに再構成されればその者は、精神が折れぬ限り無限に復活する。
エインヘリアルに登録された際には、再構成する必要がある為、直ぐに戦力としては投入出来ないが、再構成が終わり次第、桁違いの耐久性を誇り、限定的だが無限の戦力へと変貌する。
ただし、エインヘリアル個人の強さに関しては個々人によるもので有り、英霊殿は、衣食住・娯楽共に他と大差無く、むしろエインヘリアルの中には英霊殿の方が住みやすいという者もいる。
エインヘリアル達は英霊殿で生活し、鍛錬に明け暮れながら神の命令を待つ。
そして、【英霊殿・ヴァルハラ】とセットで運用するのが、【英霊門・ヴァルハラ・ゲート】だ。
英霊門は、その名の通り巨大な両開きの門の形状をしており、主に戦艦に搭載される装備で有る。
開発当初から、戦艦に搭載する事を前提として設計されており、これを搭載した魔導戦艦が、【ヴァルハラ級魔導戦艦】で有る。
【ヴァルハラ級魔導戦艦】は、英霊門の運用を前提として設計され、デザインの共通点として必ず甲板上に英霊門が配置される。
オーディン側の【ヴァルハラ級魔導戦艦】洗練された流線型の戦艦で有り、装甲に施される装飾は控えめに性能を重視している。
【ヴァルハラ級魔導戦艦】は、上級神の乗艦として開発される為、コスト度外視で建造され、超出力の魔導炉心、各部内蔵の各種ミサイル、各副砲等の魔導兵装、装備砲数は個人によるが、ルーン魔術による集束ビームを放つ高火力の大口径主砲、堅牢な装甲と高出魔力エネルギーシールド、更にこれらの性能に加えて【英霊門・ヴァルハラ・ゲート】による兵站能力を兼ね備える為、単艦で戦場の兵站及び主力艦としての機能を十二分に賄える。
そして、今スルカとノルンの上空に布陣する中型艦は、流線型では有るが歪で有り簡易的なデザインで、武装は外付け方式を取っており、艦体から外付け武装に向かって、エネルギー供給コードが露出していた。
「やっぱり・・・この戦艦、ティウダンスをグレードダウンした量産型!」
「データベースで見た、初期型を一回り小さくしたものという事、姉さん?」
「ええ。そもそもテュールの【ヴァルハラ・システム】は、ヘルヘイムから盗んだものだと叔母様から聞いたわ。最初からシステム搭載を前提とした、本来のヴァルハラ級戦艦では無く。後から搭載する為に、独自設計したものだと、だから艦内部のキャパシティは、全て【ヴァルハラ・ゲート】の運用が優先で、内部兵装を組み込む余裕が無く、武装は後付けの設計でこちらのヴァルハラ級戦艦とは似つかないものだって言ってたわね」
スルカとノルンは次々に投入される敵のエインヘリアルを警戒しながら話す。
敵のエインヘリアル達の再集結が終わると、エインヘリアル達は、一斉に得物を構える。
一斉に向けられた得物と殺気を感じ、二人も備えた。
その時ーー
ーードドドドドドドドゥウ!
数多のエインヘリアル達を、幾つもの速射ビームが貫く。
そのすぐ後に、一隻の小型艦が上空を高速で通り過ぎる。
スルカとノルンに通信が開く。
「無事だな、二人共」
「凰月先生‼︎」
「来てくれたんですね‼︎」
「ああ、ブリュンヒルデから言われてな。これより加勢する」
「先生、敵戦艦は英霊門を積んでいます。まずは、戦艦を落とさないと!」
「了解した。散開して一気に殲滅するぞ!ーークラス・アルファ、オープン・コンバット‼︎」
『イエス・マム!』
上空を旋回する小型艦から、アルファの面々が一斉に飛び出して顕鎧を纏い、敵戦艦に向かいながらエインヘリアル達に攻撃を加えて行った。
スルカとノルンの援護をする為、零牙と朧が敵を斬り捨てながら側に降りて来た。
「零牙君、朧!」
「俺と朧が二人の援護に当たる。まあ、今は魔力が制限されている状態だから、俺がみんなの様に【魔光翼】で飛べないだけなんだがな」
側に降り立った零牙はそう言いながら、振り向き様に飛んで来たビームを【皇】で斬り払う。
朧も同様に、襲いかかって来たエインヘリアルを振り向き様に、【剣皇】で斬り捨てながら敵を見据える。
「二人が一緒なら頼もしいわ!」
そう言いながらノルンも、ティルヴィングを構える。
「そうだね、この四人ならこの程度の敵、簡単に蹴散らせる!」
スルカがグングニル・ドーターを頭上で回転させながら、敵に向けて構えた。
「行くぞ‼︎」
『了解‼︎』
零牙の号令で四人は同時に得物を振るい、斬撃波を飛ばした。
ー・・・
ーー30分後
戦場で有る森林地帯には、所々で煙が上がっていた。
小型ヴァルハラ・ゲートを備えていた中型艦は、数隻がアルファの面々に斬り刻まれ、轟沈して地上で煙を上げていた。
しかし、まだ上空には中型艦が五隻散開して布陣しており、新たに敵の増援として同型艦が十隻が転移して来て上空で陣形を整えていた。
更にそこから、また新たにエインヘリアルが次々“復活”して再び戦闘を再開した。
ーーシィィィンーーザンッ‼︎
白銀の龍鎧を身に纏った冬華が【氷皇】を鞘から抜き放ち一閃し、周囲に直衛として展開していたエインヘリアル諸共戦艦を一文字に両断する。
両断された戦艦は、周囲の空間が遅れるほどの速度で放たれた神速の居合いにより、一拍遅れて切断面から爆発を起こし、エインヘリアルを巻き込みながら爆散した。
「フン・・・。個人の強さ、戦艦の性能は問題にはならんが。この兵站能力と物量は厄介だな。“盗作”と言えど、さすがは【ヴァルハラ・システム】と言うところか」
冬華の向いた視線の先には、新たに出現した小型英霊門搭載の同型艦十隻が、陣形を組んでいた。
「増援か・・・。何処かに奴らの転移地点があるな。そこを叩かねば、増援は止まんか・・・ーーフン、【氷皇】」
戦艦の一隻が冬華に牽制のビームを放つ。
冬華は【氷皇】の能力で氷の結晶壁を瞬時に形成し、ビームを防ぐ。
次いで、十隻の戦艦の全砲塔が冬華に向けられる。
「私を狙うか・・・高脅威目標の選択は利口だな。ならば、私がお前達を終わらせよう」
十隻の戦艦の全砲塔から、数十本のビームが一斉に放たれる。
「・・・遅い」
冬華が纏う、白銀の顕鎧【銀皇龍鎧】の鎧状の翼から噴出している銀色の魔光翼が、出力増大に伴い一瞬瞬くと同時に、冬華をビームが薙ぐ。
しかしビームが飲み込んだのは、機動に伴い散らされた冬華の残像で有り、冬華は最小限の横移動でビームを躱していた。
砲撃を躱された事に気付いた艦隊が、砲塔を修正し冬華に向けて再度一斉射を行う。
だが、一斉射が放たれる直前に冬華は動いた。
再び、魔光翼が羽ばたく様に瞬く。
ーーブォォォォォォ‼︎
冬華は残像を撒き散らし、超高機動で白銀の軌跡を描きながら艦隊に肉薄する。
雨の様なビームの乱射が冬華を狙うが、どれも冬華自身ではなく、撒き散らされる残像に照準が定まっていた。
艦隊の中央に位置する旗艦の艦橋では、艦隊司令の男が迫る冬華を撃ち落とそうと、焦りながら指示を出していた。
「ええい!早く仕留めろ!たかが一人だぞ⁈」
砲撃手達がコンソールを操作して各種砲塔を適宜再照準して砲撃するが、未だに冬華自身は捉えられずにビームは虚しく残像を飲み込んだ。
「ダメです!敵の機動性が桁違い過ぎて、砲塔が追い付きません!」
「いいから撃ち落とせ!我々には、テュール様から賜った使命が有るのだぞ!たかだか余所者如きに遅れを取るなど・・・!」
艦隊から放たれるビームを、冬華は超高機動による白銀の残像で翻弄しながら、自身の間合いまで物の数秒で距離を詰めた。
そしてーー
「ーーフッ!」
一閃。艦隊最前列の三隻を纏めて両断し、その一太刀に付随して放たれた氷槍が、両端の二隻の中心部を正確に貫く。
ーーカチン
二閃。居合を放ち、振り抜いた太刀を返す様に薙いで、次列の四隻を纏めて両断し、そのまま【氷皇】を鞘に納める。
三閃。再び神速の居合を放ち、最後に残る旗艦を一刀の元に斬り捨てて、終わらせた。
ーーカチン
ーードォォォォォォォン!
冬華が【氷皇】を鞘に納めると同時に、十隻からなる艦隊は爆発し轟沈した。
ここまでで、僅か一瞬の出来事だった。
冬華は、増援として襲来した艦隊を瞬く間に殲滅した。
だがーー
「またか・・・」
先程斬り捨てた艦隊と似た魔力反応を感じて、その方向に視線を向けた先に、再び艦隊が集結しつつあった。
「やれやれ、いい加減にしつこいものだ。だがーー“一つ”はそこか」
そして、別方向からも同じ艦隊が転移して来ていた。
「誰でもいい。艦隊を送り込んでいる転移ゲートを即刻潰せ。一つは私が潰す」
『イエス・マム!』
軽く指示を飛ばし、返事を聞いた冬華は、魔光翼を羽ばたかせ、静止状態から突如急加速し、超高速の機動性で白銀の残像を残しながら、集結しつつある艦隊を強襲した。
ーー・・・
「ーーハッ!」
零牙は【皇】を振るい、横薙ぎに複数のエインヘリアルを斬り捨てた。
「!ーー朧‼︎」
零牙の呼びかけに朧は直ぐに答え、天羽々斬【剣皇】を天に向けて翳す。
「ーー【剣皇】、天剣斬雨‼︎」
【剣皇】の能力により、上空に”側にある天の皇刃“と同一の刀が無数に顕現し、今まさにスルカに一斉攻撃を仕掛けようとしたエインヘリアルの集団に降り注ぐぎ、貫き斬り裂き壊滅させる。
「助かったよ朧!ーー食らえ!」
短く礼を言ったスルカは、別方向の集団に向けて神槍の矛先を向けて穂身を開く。
ーーパチチチ・・・ゴォォォォォウ‼︎
穂身を開き、魔力を収束した神槍から巨大な蒼銀のビームがその集団を飲み込んだ。
「バカなっ⁈誇り高き我らエインヘリアルが、何故たった四人の小僧と小娘如きに遅れを取るのだ⁉︎ーー‼︎しまっ・・・」
「遅い・・・!」
そう言ったエインヘリアルの背後に、零牙が天羽々斬【皇】の能力で空間を斬り裂いて現れ、エインヘリアルを袈裟がけに斬り捨てた。
「ーーティルヴィング!」
その近くでは、ノルンが魔剣・ティルヴィングから破滅の魔力を放射して、二個小隊規模のエインヘリアル達を“一様に破滅”させて壊滅させた。
四人は、一旦背中合わせで警戒しながら集まった。
「姉さん達は、まだか?エインヘリアルは無限に復活すると聞いたが・・・これでは、幾ら倒してもキリが無い」
「多分、敵は随時新たに転移地点を構築しているんだと思う。数だけはアスガルド正規軍を上回ると言われているから」
「だが、このまま持久戦が続けば、零牙は魔力が・・・」
「ハハ、まあそうだな。一つも解けて無いから、【皇】の能力でさえ、無闇矢鱈に使えないしな」
「でも、朧の言う通りよ姉さん。このままだと私達も危ういわ」
「分かってる。今は耐えるしか・・・ねっ!」
スルカは、ばら撒いた小障壁の間を縫って自身に向けて投擲されたダガーを、払い落とした。
「・・・・?」
だが、払い落としたダガーにスルカは違和感を感じた。
そして、素早く周りを見渡すと投擲されたダガーの一本が小障壁に刺さっているのを発見した。
ダガーは、突き刺さった小障壁を見る見る内に、“侵蝕”して毒々しい色へと変えていき、小障壁は砕け散った。
(ーー‼︎まずい‼︎あれはまさか⁉︎)
すると、スルカの視界に今まさにエインヘリアルの一人が朧に向けて、同じダガーを投擲したのが写った。
「ーー朧‼︎」
スルカは、咄嗟に朧を庇う様に割り込み、ダガーを払い落とすがーー
ーーザシュ
「ーーゥッ‼︎」
時間差で投擲された数本の内の一本が、スルカの脇腹に刺さった。
「スルカ⁉︎」
「姉さん‼︎」
「ーーくそッ‼︎」
朧とノルンが駆け寄り、直ぐ様スルカに治癒を行う。
「ーー目標は、負傷した!総員、このまま畳み掛け・・・があ‼︎」
零牙は距離を詰めて、投擲したエインヘリアルを即座に斬り捨てた。
そのまま陽動する様に敵の只中を駆け巡り、仲間が負傷したにも関わらず、動揺よりも冷静に時間稼ぎの陽動という選択をとった零牙に驚いて、一瞬攻撃の手を止めたエインヘリアル達を次々と斬り捨てていく。
「スルカ、動かないで!今抜くから!」
朧は、脇腹に刺さった短剣を抜こうとするがーー
「ダメ‼︎触らないで‼︎」
「スルカ⁈」
スルカは、朧の短剣を抜こうとした朧の手を制止した。
「ダメだ・・・これはヨル兄さんの毒が、塗られている・・・」
「まさか、姉さん。これは【蝕毒】⁉︎」
「・・・【蝕毒】?一体どう言う毒なの?」
朧の問いにノルンが答える。
「【蝕毒】ーー別名・万象殺し。ヨル兄さんの権能で生成されるこの毒は、あらゆるものを侵蝕して内部構成を破壊する。魔力で生成されるから、魔力耐性が極めて高ければ防げて、即座に膨大な魔力を毒にぶつける事で中和も出来る。だけど、対処法を知らなければ数秒で全てを破壊して、対象を死に至らしめる」
「そんな・・・⁉︎でも、スルカはまだ大丈夫な様だけど?」
「まあ、私がまだ平気なのは対処法と耐性のおかげ。それと、“本物”じゃ無いから侵蝕速度が遅いからかな・・・。それに・・・他にも何か混ぜてある・・・」
「効いているようだな」
『ーー‼︎』
突如、男の声が聞こえて、朧とノルンは得物を構える。
エインヘリアル達の隊長の一人と思しき男と共に、数十のエインヘリアルの集団が三人を包囲していた。
「成る程・・・【神毒】も混ぜてあるのか・・・」
「その通りだ。神の娘ならば、この毒がどう言う物かは分かるだろう?」
「・・・【神毒】、この毒もヨル兄さんのクローンから・・・」
スルカの魔力耐性は徐々に侵蝕され、スルカの神の因子に反応して効果を発揮し始めた【神毒】がじわじわとスルカの身体を蝕んでいた。
「・・・そうか・・・この事だったのか・・・」
スルカは、何か悟った様に小さく呟いた。
「スルカ?」
「姉さん・・・」
「・・・【M】(我)・・・【A】(オーディンの娘は)・・・【Z】(友の内にて)・・・【-(ウルイド)】(新たな可能性を持って)・・・【Y】(死と再生を果たさん)・・・!」
スルカは、小さくルーン文字の術式を唱えた。
ルーン文字に精通していない朧には意味は分からなかったが、ノルンはその意味を理解し悟った。
スルカと神槍は、術式により発生した淡い光に包まれた。
「朧、これを・・・」
スルカは朧に神槍を差し出した。
「・・・スルカ?・・・何を?」
朧が差し出された神槍に戸惑っていると、スルカの身体が徐々に光の粒子となっていく。
「しばらく、お別れだから・・・」
「だから、何を言って・・・⁈」
朧は訳が分からずにいたが、少しずつ消えて行くスルカの様子に仕方ないとは言え“間違えて察してしまった”。
朧は当惑と混乱が入り混じった表情をしていた。
「そんな顔しないで・・・また会える。それまで、私の槍を預かって置いて」
「スルカ・・・?」
「またね・・・」
スルカはノルンに目配せして、光の粒子となって消えていった。
だが、消えた様に見えた光の粒子は【神槍・グングニル・ドーター】へと吸収されていた。
「スルカぁぁぁぁぁぁッ‼︎」
朧は神槍を握りしめ、悲痛な声で叫んだ。
その叫びは、周囲のエインヘリアルに斬り込んでいる零牙の耳に届いた。
その叫びが聞こえた時、エインヘリアルの一人を斬り捨てた直後だった零牙は、チラリとそちらを見た。
「ーーッ⁉︎」
朧とノルンの様子を見て、そして周囲のエインヘリアルが一斉に投擲しようとする動きを視認した零牙は、即座に【皇】で空間を斬り裂き、裂け目に入った。
「最重要目標の消滅を確認した。これより対象の確保に移る。ーー残りを始末する」
エインヘリアルの隊長格の男が、クローン・ヨルムンガンドの複合毒が塗られたダガーを構える。
他のエインヘリアル達も同じダガーを構える。
「死ぬがいい」
周囲から一斉に毒のダガーが、二人に向けて投擲された。
朧は、神槍を握り締めたまま呆然としており、得物の天羽々斬【剣皇】は直ぐ側の地面に突き刺さったままだ。
ノルンは、全方位から迫り来る冷たい殺意の塊を感じ、ティルヴィングを構えながら一瞬で考えを巡らせる。
(このままでは・・・!ティルヴィングの顕鎧解放か破滅放射を!駄目!ダガーが到達するまで約2秒。どちらも間に合わない!姉さん、何てこと押し付けるのよ!)
エインヘリアルの隊長は、勝利を確信して笑みを浮かべた。
(ーー姉さん・・・‼︎)
出来るだけ周囲にばら撒いた小障壁を集めながら、ノルンは朧を庇う様に覆い被さる。
その時ーー
ーーシィィン
突如、ノルンの側に空間の裂け目が出来た。
そして空間の裂け目より、朧とノルンの側に現れた零牙は、間髪入れずにその場で回転斬りを繰り出し、周囲の空間を斬り裂いた。
「ーー何ッ⁉︎」
全方位から迫り来るダガーは、全て天羽々斬【皇】によって斬り裂かれた裂け目に吸い込まれた。
更に零牙はなぞる様に逆回転して、周囲の空間に別の裂け目を作り出した。
そして、別の裂け目から先程吸い込まれたダガーが出現し、それぞれ投擲した当人達に襲いかかる。
まさか返されるとは思わなかったエインヘリアル達は、回避も防御も出来ずにダガーが突き刺さる。
『ーーぐぁぁぁ!』
周囲のエインヘリアルは、刺さった場所から広がるヨルムンガンドの毒によって皆一様に苦しんだ。
「凰月君!朧が!・・・・凰月君?」
零牙は回転斬りを放って刀の振り抜いた格好から微動だにしなかった。
朧とノルンの方を向いているが、その表情は窺い知れない。
「ぐう・・・まさか、放ったダガーが返ってくるとは想定外だったが、我らの勝利は揺るがぬ。同じ手は通じぬ。これで終わりだ小僧」
毒によって苦しんだエインヘリアル達は、直ぐ様万一の為に携帯していたワクチンで、事なきを得ていた。
そして態勢を立て直したエインヘリアル達は再びダガーを構えた。
だがーー
『・・・ッ‼︎』
そう彼等は、知らなかった侮っていた、勝利を確信しきっていた。
そして後に後悔する事になる、「毒で死んでおけば、一旦ヴァルハラに戻ればよかった」と。
そう・・・彼等は”黒き皇龍“の逆鱗に触れた。
零牙の内より、濃密で膨大過ぎる魔力が漏れ始め、地面に亀裂が走る。
やがて勢いよく漆黒の魔力が溢れる。
魔力は立ち昇るのではなく、“鎖で雁字搦めになった隙間”から溢れていると言った様子だった。
しかしその溢れる膨大な魔力もそうだが、エインヘリアル達はそもそも別の理由で動きが止まっていた・・・いや、動けずにいた。
今、零牙は何の動きも見せていない。
近づく事すら困難な程の膨大な魔力が溢れているが、動かずにいる今こそ、攻撃する絶好の機会の筈だった。
だが、エインヘリアル達は動けなかった。
エインヘリアル達が・・・いや、この戦場にいる襲撃者達が感じていたのは、“圧倒的な気配”、“桁違いの重圧感”、そして、およそ十四歳の少年が放っているとは思えない”殺気“。
彼等は、戦乱の時代を生きた戦士達だ、殺気ならば嫌と言うほど感じ、慣れている筈だった。
だが今、彼等が感じているのは、全くの別次元のーーこれまで感じた事のない感覚だった。
『・・・ッァ・・・ッ‼︎』
まるで心臓を巨大な龍に鷲掴みにされ、今にも握り潰されそうな錯覚。
上から巨大な龍に踏み付けられている様な、まるで深海の底にでもいるかの様な重圧。
そして、もう何度も斬り殺されている様な感覚に陥る程の鋭い殺気。
これらによって、彼等は指先すらピクリとも動けずにいた。
歴戦のエインヘリアル達は、今まさに本能的な恐怖に震え、呼吸困難になり、押し潰されそうになっていた。
戦場に、“黒き皇”の・・・“■■の皇”の宣告が響く。
『我は、■■の皇』
漏れ出る膨大な魔力が龍を形作る。
『世界に示すは龍の威光』
漆黒の魔力で象られたサイファスが、両翼を広げると共に濃密な魔力が、零牙の足元の地面を捲り上げ、零牙、朧、ノルンを中心に小規模なクレーターを形成した。
『我が統べるは、■■と■■■』
『■■の翼を纏て、我はここに顕現せん』
サイファスが両翼で零牙を包み込む。
その時ーー世界が止まった様に周囲の全てが動きを止めた。
「ーーシュバルツシルト・・・・メイル・オブ・■■■■■■■■」
サイファスが鎧となり、漆黒の魔力で朧とノルン以外を薙ぎ払いながら零牙と融合を果たす。
ーーそして、“一時的に皇の因子を覚醒させた黒き皇”が顕現する。
元々鋭角的だった鎧の全体形状は更に鋭さを増し、更に戦闘に特化した様な形状に変貌し、鎧状の両翼と尻尾もそれに伴い変貌していた。
しかし、覚醒した顕鎧の明確な姿は、顕現と同時に零牙を覆う様に発生した、空間を歪める程の極大の重力場によって、黒いシルエットとなって確認を困難にしており、フルヘルムの眼は一際紅く見える程に周囲は黒く歪んでいた。
周囲のエインヘリアル達は、相変わらず身動きも取れず、呻き声すら上げられずにいた。
それどころか、もはや身動きを取るどころか、極大の重力によって圧殺されそうになっていた。
(バカな・・・⁉︎何だこの感覚は⁈この小僧がこのまま成長すると「我々の様な者は生きる事が出来ない」という確信は⁉︎)
「ぐ・・・ぐう・・・死ね小僧‼︎」
エインヘリアルの隊長は、去来した直感の様な確信から全力を振り絞り、自分の持てる魔力を全て込めたダガーを零牙に放った。
だがーー
零牙が一瞥、いや認識した瞬間にダガーは数メートルと進まずにグニャリと周囲から重力によって押し潰され、跡形も残らずに消滅した。
「ば・・・バカ・・・な・・・あがっ」
エインヘリアルの隊長もダガーと同じ様に全方位から重力によって圧殺され、血も流さずに消滅した。
“黒き皇”がゆっくりと、羽ばたく挙動すら見せずに上昇する。
そして上昇する際に、朧とノルンを守る様に重力による強力な障壁が、ドーム状に二人を包み込んだ。
零牙が発する極大の重力場は、“零牙が味方と認識するもの“には、影響を及ばさなかった。
重力障壁は、戦場となった森林地帯各所で戦うアルファの面々にも球体状のものが張られた。
そして、ユグドラシル・シティにも極大重力の影響が及ぶ。
ユグドラシル・シティ各所で進攻していたエインヘリアル達は、同じく重力によって圧殺されそうになっていた。
敵戦艦は滞空しているが、その動きを完全に“止められていた”、まるでその方が狙いやすいという様に・・・。
零牙の周囲の上方に空間の裂け目が形成され、そこから、零牙が手に持つ天羽々斬【皇】とは別の“13本の天羽々斬”が出現した。
「【13の龍器】・・・」
その様子を見て、冬華は呟く。
出現した13本の天羽々斬は、大太刀、弓、火縄銃、大槍、一対の短刀、鎖大鎌、大斧、薙刀、火砲、両刃刀、ガトリング砲、斬馬刀、刃を備えた盾。
それら全てが、零牙の周囲を旋回した後、流れる様に零牙の背中、両翼の中央で円環を為して、まるで光輪の様に追従する。
そして、両翼から膨大な魔力で出力し続ける漆黒の魔光翼が、一瞬出力増大した様な挙動を見せると、零牙から白い波動が発せられた。
白い波動は、影響を受けている場所まで即座に伝播し、遠くのユグドラシル・シティや戦場となった森林地帯に展開する戦艦やエインヘリアル、今回の襲撃者、敵の全てを例外無く悉く“空間ごと静止させた”。
(時空静止まで・・・。これ程の能力行使、“枷”のある零牙には出来ない芸当の筈・・・。まさか、一時的に“枷”が外れているのか?零牙が外したか・・・或いは、婆さんがそう組んだのか・・・。どちらにしても、次で”終わる“)
周囲を見渡し、離れた場所にいる零牙を見ながら冬華は直感で感じた。
ーーバシュン‼︎
そしてーー零牙の背後の光輪の様に配された13本の天羽々斬が一斉に射出された。
射出された天羽々斬は、それぞれ各所に散開して静止された全てのエインヘリアル、敵戦艦、そして敵の構築した転移拠点を正確に射抜き、斬り捨て、貫き、蹂躙する。
その正確さは、まるで天羽々斬自体が”意思“を持っているかの様な動きで、その攻撃速度も尋常では無い疾さだった。
やがて、零牙の元に全てを終えた13本の天羽々斬が戻り、再び光輪の様に配された。
そして、静止した空間が元に戻った。
ーーブシャァァ‼︎ドォォォォォォォン‼︎
空間が元に戻ると同時に、エインヘリアルは血飛沫を上げ消えて行き、戦艦は爆発四散し、拠点はその機能を完全に破壊された。
こうして、“一時的に“皇の刻”を覚醒した黒き皇”が顕現してから、僅か一分と経たぬ間に襲撃者は全滅し、戦闘は終了した。
直後、意識を失った零牙の顕鎧は解除され、地面に向かって落下し始める。
零牙の顕鎧が解除された為、全ての影響が完全に無くなった。
気を失い、地面に向かって落下していた零牙は、顕鎧の能力で空間を斬り裂いて移動した冬華に抱きとめられた。
「気を失ったか・・・あれ程の能力を行使すれば、無理も無いな」
(しかし、あの顕鎧・・・。あの姿は見た事が無い。完全顕現により既に最適化を済ましている顕鎧が、最適化を再び行う事は滅多に無い。まして、今の零牙は“枷”により全能力に大幅な制限をかけられた状態だ。それはサイファスも分かっている筈・・・)
冬華は横抱きに抱えた零牙を見ながら考えた。
(あの姿は、恐らく一種の暴走状態。原因は、やはり・・・)
ゆっくりと地上に下降している冬華の視線の先には、神槍を握り締め茫然自失となった朧と、何かを考え込むノルンの姿があった。
その後、スルカの消失はオーディンの意向により、「これ以上の滞在は危険な為、そのまま龍凰市に向かった」と公表され、最高神の娘の消滅という事実は、北欧に与える影響が大きい為に伏せられた。
そして、ツクヨミからもオーディンに情報秘匿要請を出した。
その日、確かに北欧にて、天体に比べれば極小ではあるが、高密度の特異なマイクロ・ブラック・ホールが観測された事、そしてその発生源が、一人の学生であるという事実をーー。
ーー・・・
「成る程、そういう事だったのですね」
「ふむ、確かに目の前で友人の死を見るのは堪えるだろう。ましてや、それが自分を庇っての事ならばトラウマにもなろう」
「だが、今日の模擬戦で忘れろとは言わんが、少しは払拭出来たと私は思うが、違うか?朧?」
その時の事を思い出して沈んだ表情を見せる朧の頭を優しく撫でながら、冬華は言った。
「冬華姉さん・・・。ええ!まだ本調子とは行かないけど、皆と一緒に戦えると思う。神槍を私に託したスルカに報いる為にも、二度と大切な人を失わない為に私は力を振るう!」
「フ、その意気だ」
「もちろん、私達もサポートするわ朧」
「私達は、共に零牙の婚約者だからね。支え合うのは、当然の事だよ」
「皆・・・ありがとう」
決意を新たにする朧を見た後、スカアハはアリシアを見つめていた。
(しかし、初めて会った時は驚いたな・・・まるで“本人”ではないかという感覚すら覚える程に、かの騎士王の“一人”と瓜二つでないか。子孫というだけあるという事か?)
そこまで考えてスカアハは、自分を見つめる視線を感じた。
そちらにスカアハが向くと、モルガンがこちらを見ていた。
(ーーーーーーーーーーー)
そして、モルガンはスカアハに思念で“ある事実“を伝えた。
その事実にスカアハは驚愕した。
(ーーなっ⁉︎そうか、そういう事か・・・了解した)
冬華が隣の気配を感じ取り、口を開いた。
「さて、“会議“は終わったからな。そろそろ呼ぶとしよう。ーー『シルヴァ・ジ・カイゼル』」
冬華は一瞬で、白銀の皇龍鎧を纏うと、鎧を纏った左手で側の空間を軽く手刀で斬り裂いて、腕を突っ込んで、”腕を引き寄せた“。
ー・・・
隣の浴場は男湯になっており、たった今、零牙が龍護、影刃、フェンリルと共に浴場に入って来た。
「しかし、本当に久々だな・・・この四人で風呂に入るのは」
「ハハ、そうですね。零牙さんは普段、姫様達と入りますからね」
「ああ、俺が早めに入っても、察知して皆で包囲して来るから、こうやって四人で入る事は滅多にないからな」
「ですがお立場上、それは当然の事ですからね。零牙様には、姫様達と仲を深めて頂かなければなりませんから」
「ハハ、分かってるよ。でも友である皆とも、こうして親睦を深めるのも重要な事だと思うけどな・・・そうだ、フェンリル。俺が背中を流そうか?」
「・・・では、お言葉に甘えさせていただきます。ーー!」
「「ーー!」」
「?どうした三人共?ーーえ?」
三人の視線は零牙の背後に集中しており、零牙も何事かと思い、後ろを振り返る。
零牙の直ぐ後ろには、空間の裂け目が開いていた。
そして、裂け目から白銀の鎧を纏った左腕が現れて、零牙の腕を掴む。
「ーーえ?ちょ、姉さん⁈」
三人が見守る中、零牙は有無を言わせぬ力で裂け目に引っ張られていった。
「まあ、分かってはいたな・・・」
「ああ、そうだな・・・」
「ハハ、“会議”と言っても、姫様達は直ぐ終わらせるからな」
“いつものパターン”を予想していた三人はそう口々に呟き、浴槽に向かった。
ー・・・
「うわ‼︎ーーんぐ⁉︎」
ーーバシャーーン
ーームニュン
裂け目に引っ張られた零牙は水飛沫を上げながら、一瞬で鎧を解除した冬華に豊満な胸に抱きしめられた。
「ぶはぁ!ね、姉さん⁈一体何を⁉︎」
「何、会議が終わったのでな。お前を呼ぼうと思って引き寄せたまでだ」
「いや、俺は今から三人と風呂だったんだが・・・?」
「なら、丁度いい。いつものスキンシップと行くか」
零牙の背後から、刹那、アンジェ、アイナス、織火、朧、アリシア、モルガン、そしてスカアハが、零牙を完全に包囲して迫って来ていた。
「ようやくだ・・・。1,500年、お前に触れるのを夢見たものだ・・・」
と感慨深くスカアハが言った。
零牙は冬華にしっかりと抱きしめられているので、もはや逃げ場は無い。
「せ、せめて、前だけは・・・前だけは自分で洗うからぁぁぁ!」
浴場に零牙の叫びがこだました。
ー・・・五節【開戦前夜】・終




