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ロード・オブ・ロード〜零白の皇〜  作者: スメラギ・零
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二章ー三節[影の月、神の大狼]

約6世紀初頭・影の国にて。


影の国ーー

西欧地域の広大な位相領域、“影の領域”に存在する強大な魔導軍事国家。

主に欧州全域の秩序を維持する抑止力の役目を担っており、欧州を乱す怪物や不穏分子の監視と討滅。それは神も例外では無く、たとえ欧州の神と言えど、気紛れや欲望で欧州を脅かすならば軍を派遣する。

軍は主に、ケルトの英雄や西欧出身、魔獣で構成されており、ケルトの英雄やそれに見合う働きや影の国が求める能力を持つと評価された、現代に生きる西欧の者達が死した後、もしくは存命時でも可能で、影の国で転生して第二の人生を歩む事が出来る。

そして、影の国を治めるのは、二人の女王姉妹。


影の国は、常夜の世界で朝はないが、”影“という暗いイメージの言葉とは裏腹に、満天の星と満月が輝く。

そして満月をバックに一人の女性が滞空している。

光に照らされて輝く、美しい長い黒銀の髪を靡かせ、非常に整った顔立ちに、穏やかだが切れ長の瞳、輝く様な白い肌、衣服の上からでもわかる抜群のスタイルをタイトスカートの様な着物風の戦闘服と、オーバニーのブーツを履き、その上から黒地に銀のラインが入り、家紋が刺繍された陣羽織を肩に羽織った、絶世の美女。

ーー【凰月ツクヨミ】

凰月一族の当主で有り、極東における“月の女神”であるが、本人は自分は神では無く、あくまでも龍種であると思っている。

ツクヨミの眼下には、影の領域の3分の一以上を占める広さを誇る、軍事大国“影の国”が広がっている。

欧州風の様式だが、SFチックな住居や、立ち並ぶビル群。

そして、強大な軍事力を誇る影の国らしく国の所々に防衛兵器や駐屯地、魔導戦艦が駐留していた。

伝承にある様な恐ろしさは無く、高度に発達した未来都市といった様相だ。

ツクヨミは静かに摩天楼の一つに降り立つ。

本来なら影の国を覆うドーム状の強力な結界により、影の国の入国ゲートを通らない密入国者や、侵入者は結界により即座に感知もしくは結界の機能で排除されるが、ツクヨミはゲートを通らずに侵入したにもかかわらずに、結界の機能は全く発動しなかった。

屋上から見据えるのは、影の国の中央に位置する“影の王城”。

王城を確認すると、ツクヨミは空間に溶け込む様にして姿が消えて移動した。

さっきまで見据えていた王城の尖塔の先に突如ツクヨミが、光学迷彩をゆっくり解除するかの様に姿を現す。

ツクヨミは、尖塔の上で目を閉じて“目的の場所“の位置を把握すると、再び溶け込む様にして移動する。



ー影の王城・謁見の間

謁見の間の二つの玉座の内、ひとつに座する女王は報告を受けていた。

濃紺の髪色に少しウェーブがかったロングストレート、赤い瞳に整った顔、スタイルのいい身体を黒地に紫のアクセント、金色の装飾が付いた身体にフィットする軍服と、スリットの入ったロングスカートに身を包んだ美女。

彼女の名は【オイフェ・アルヴァ】

この影の国を治める女王の一人で妹の方だ。

「そうか・・・ブリテンは滅びたか」

「はい。駆けつけたものの、既に終わった後でした」

「分かった。御苦労、下がりなさい」

「はっ」

オイフェが呟く。

「また一つ国が消えたな・・・」

「仕方ないさ。栄枯盛衰はこの時代の常だ」

そう言うオイフェに答えたのは、オイフェの側に控える身体にフィットする黒の軍服に逆立った黒髪の男性。

名は、【クー・フーリン・アルヴァ】かつてのケルトの英雄で有り、オイフェの夫でこの国でオイフェの護衛兼将軍を担っている。

「それはそうだが。ブリテンには期待していたのだがな・・・。あの国もこの国と同じ、“双子の女王”だったからな」

「第二の抑止力としてか・・・まぁ、ウチだけじゃ欧州全域の監視は、隅々まで行き届かない事もあるからーー」

「何者だ‼︎」

そう言った直後、突然衛兵が声を上げる。

声上げた衛兵が見ている方向を見ると、

その豊満な胸の下で腕を組み、謁見の間の大扉にもたれかかっているツクヨミの姿があった。

(どう言う事だ⁉︎・・・侵入者の報告は無かった。

この国のゲートを通らずに侵入するのは、まず有り得ない!一体どうやって、幾重にも張り巡らせている結界や警戒網を抜けてきた⁈)

「・・・ふふ」

周りの衛兵に武器を向けられているのに平然と玉座に向けて歩き出すツクヨミを見て、クー・フーリンは考えを巡らせた。

「そこで止まれ‼︎」

誰一人としてツクヨミの侵入に気付けなかった動揺から、回復して、衛兵がツクヨミに武器を向け取り囲む。

(衛兵達では、彼女は止められぬな・・・)

オイフェも侵入に気付け無かった事には驚いたが、それ以上に、【龍血(ドラゴン・ブラッド)】としての本能で察していた。衛兵程度では、ツクヨミの足止めにすらならないと。

「武器を下ろしなさい」

「しかし!オイフェ様!」

「女王の命だ。武器を下ろせ。それにお前たちでは、彼女は止められないだろうよ」

「・・・・」

将軍のクー・フーリンにもそう言われて、衛兵は武器を下ろし囲みを解いた。

「さて、衛兵は下がらせた。名乗って貰えるのだろうか?」

大半の皇族であれば断り無く侵入されれば、「無礼者」などと言って激怒する所を、聡明なオイフェはあえて平然として聞いた。

「ええ、もちろん。・・・私の名は凰月ツクヨミ。はじめまして、オイフェ女王」

「ツクヨミ・・・極東の月の女神か?」

「ええ、一応極東で神格として認知されているわね」

横に控えるクー・フーリンはツクヨミの観察と力を探っていた。

(やばいな・・・。この女神、普通の神格とは別次元に格が違う。・・・それにこの感じ、神じゃなく龍の気配だ)

「して、極東の女神が何故この国に?」

「単刀直入に言わせて貰うと、この欧州でオーディンと並び、最強と謳われるもう一人の女王。・・・スカアハ女王と手合わせさせて貰いたいの」

「姉上と?」

周りの者がざわめく。

「スカアハ様に挑む⁉︎」

「バカな‼︎例え女神と言えど無謀な・・・」

もう一人の影の国の女王、【スカアハ・アルヴァ】

欧州に置いて、畏怖の念と共にその名を知らぬ者はいない。

圧倒的な魔力、ルーン魔術他多数の魔術、あらゆる武器に精通し、多種多様な戦闘技術に裏打ちされた神々をも凌駕するその戦闘能力で、最強の名を欲しいがままにする女戦士。

ここにいる者達からすれば、いきなり来て、神々すら軽くあしらえる戦闘能力を持つスカアハに挑むなど、愚かな行為に見えるだろう。

だがツクヨミは、周りざわめきを意にも介さず、静かな笑みをたたえている。

周りのざわめきとは対照的に、オイフェとクー・フーリンは、複雑な表情をしていた。

二人共、ツクヨミの底知れなさを感じとっていたからだ。

クー・フーリンが、周りの衛兵に黙る様に右手を上げて制する。

少しの沈黙の後に、オイフェが返答しようと口を開いた。

その時ーー

「何やら、面白い事になっているな」

凛とした女性の声が響く。

空席となっていたオイフェの隣の玉座の前に、ルーン魔術の転移により、声の主が現れる。

腰下まである濃紺のロングストレートと赤い瞳、透き通る様な白い肌と整った顔立ち、抜群のプロポーションを背中が大きく空き、肩が露出した、紫色のアクセントと金色の装飾が付いた、ノースリーブの黒い軍服とホットパンツ、黒のグローブとニーハイブーツに身を包んだ美女。

彼女こそ、もう一人の影の国の女王、【スカアハ・アルヴァ】

「姉上・・・!」

「姐さん!」

スカアハは少し不満そうに話し出す。

「オイフェ。お前、さては断ろうとしただろう?」

「いえ、そんな事は・・・ただ彼女の目的が不明なので・・・」

「ああ、確かに私も分からぬな。だが、今はそんな事はどうでもいい」

スカアハは歩き出しながら言う。

「彼女は私に挑んできているのだ。ここ最近、欧州の神々もすっかり大人しくなり、退屈していた所だ」

「それは、姐さんが片っ端から挑んで叩きのめすから・・・」

「黙れ、クー・フーリン」

クー・フーリンの呟きに、スカアハは即座に反応した。

スカアハはツクヨミと相対する。

「それに、極東の女神がどの程度の物か試してみる価値はあろう?」

「ええ、貴女の期待に添えると思うわ」

「・・・という事だ。全員、場を開けろ!」

スカアハの言葉に、全員が謁見の間の壁際に寄った。

「さて、始めよう」

スカアハは、一本の槍を召喚した。

「【ゲイ・ボルグ】」

その槍は一般的な槍だったが、スカアハが手に持ち、そう言った瞬間にごく一般的だった槍は、流麗ながらも禍々しい印象を持つ、槍頭と柄の継ぎ目付近に二対の柄の方向に向いた鋭い棘を持つ、スカサハの背丈を越える黒紫の槍【ゲイ・ボルグ】へと変化する。

【ゲイ・ボルグ】ーー

スカアハがクー・フーリンに与え、以後クー・フーリンが最強の切り札として振るった、多様な能力を有する強力無比な魔槍とも言われる槍だ。

クー・フーリンに与えた為、スカアハが使う事に疑問が残るが、ツクヨミは言及せずに自身の得物を呼ぶ。

「“抜刀”・・・【月凰】」

ツクヨミの前に、石打ちが長刀になっている7メートル程の黒い十文字槍、神威顕装【月凰】が召喚された。

スカアハは右手、ツクヨミは左手で持ち、お互いに脇で構える。

「では、行くぞ!極東の女神よ!」

「ふふ、お手柔らかに」

その直後、スカアハとツクヨミは同時に動く。

ーーギィィィン‼︎

お互いに放った刺突がぶつかり合い、謁見の間に衝撃波が奔る。

そして、その場で激しい攻撃の応酬になる。

ギン!ギン!と武器同士が斬り結ぶ音が辺りに響く。

だ、普通の応酬の様に攻撃と防御が目まぐるしく入れ替わるものでは無く。

スカアハとツクヨミは攻撃と防御を同時に行いながら斬り結ぶ。

(・・・姐さんに挑むだけはあるな。・・・だが、あの女神の技・・・槍術というよりも剣術だな。手数的には、“今”はあの女神の方が上か・・・)

スカアハが再び刺突を放つ。

ツクヨミは放たれる刺突を、今度は受け流す。

逸された槍の切っ先から、刺突により生じた空圧が謁見の間の壁を貫き、王城の外まで通じる大穴が開通した。

ツクヨミが開通した大穴を通り、外に飛び出す。

「フッ、確かに手狭だな」

スカアハもツクヨミを追い、外に飛び出す。

ーードォォォォォォォン‼︎

スカアハが外に出た直後、影の王城を揺らす程の衝撃波が襲う。

「・・・姉上。外に出て、更に力を上げた様ね。衛兵!」

「はっ」

「影の国全域に警告と場合によっては国民の避難を行う様に通達して。それと・・・手出し無用とも伝えなさい。手を出せば、確実に死ぬとも」

「はっ」

オイフェの指示を聞いた衛兵は、直ぐに謁見の間からルーンで転移した。

オイフェは手元を操作して、外の様子を大きく空中に投影した。

王城の外は、強固な材質と術による防護が施されているにも関わらず、城の装甲壁や城壁は、先程襲った衝撃波によりヒビが入り、施された術式や、城を覆う結界もズタズタになっていた。

「これは、更に荒れるな」

クー・フーリンの呟きに、その場の誰もが同意し、天災級以上の被害が予想された。


ー・・・


ーー影の国、中央区・駐屯地内。

いつもの様に、兵士達が各々の仕事に従事していた。

魔導機器や兵装を整備する者、訓練に勤しむ者、敷地内を巡回する者等。

だが、その日はいつもと違った。

ドォォォォォォォン‼︎

突如として、影の国に全域に響き渡る程の轟音と共に、全てを吹き飛ばす程の凄まじい衝撃波が全域に伝播する。

予想だにしない衝撃波に、その場にいる者は、軒並み吹き飛ばされた。

「なんだ‼︎敵襲か⁉︎」

体勢を立て直した兵士が、辺りを見廻しながら言った。

すると、通信が入る。

『司令部より、全軍に通達。現在スカアハ様が交戦中である。

だが、敵襲では無い。繰り返す・・・敵襲では無い』

「スカアハ様が戦っているのに敵襲じゃない⁈どういう事だ⁈」

『現在スカアハ様は、極東から来た女神と手合わせの最中である。よって手出しは無用だ。全軍、戦闘の余波に備え、市民の避難と結界の維持を務めよ!』

指示を聞いた兵士達は、すぐさま行動に移した。


ー・・・

ーー影の国・上空

上空では、衝撃波を伴う戦闘が繰り広げられていた。

スカアハは、空中に実体を持つルーン文字を展開してそれを足場にし、一方のツクヨミは“浮遊”していた。

スカアハが突きを放ちながら突撃する。

ツクヨミは、スカアハの突撃を右に受け流すと同時に【月凰】の長刀で斬りつける。

攻撃が当たる刹那、スカアハは流された【ゲイ・ボルグ】を手放して、下方に自由落下して躱す。

少し落下したスカアハは、落下する際に展開したルーン文字を足場に上に跳躍し、同じく自由落下で落ちてきた【ゲイ・ボルグ】を掴み、上昇しながらツクヨミを斬り上げる。

ツクヨミはそれを迎え撃つ様に振り下ろして斬撃を放つ。

ぶつかり合った斬撃は再び、衝撃波を辺りに撒き散らした。

そのまま更にその場で斬り結ぶ。

スカアハが突きを放ち、ツクヨミは最小限の体捌きで突きを躱し、身体を左に回転して、右薙で斬りつける。

スカアハは素早く槍を引き戻しながら、上体を低く屈めて躱しながら、ツクヨミの行動を対抗する様に、右回りに回転して、左薙で斬りつける。

お互いに、突き、斬り上げ、袈裟斬り、右薙、左薙と、長物のリーチを活かした防御と回避を含んだ攻撃で、ギィンギィンと何合も斬り結ぶ。

1合、斬り結ぶ毎に打ち合った攻撃は衝撃波を放ち、周囲を揺らす。

徐々に天候が変わりつつあり、出来たばかりの雲を消し飛ばす。

ーーピシ

10合程至近距離で斬り結んだ時、突然スカアハが距離を取り、後方に展開したルーン文字の上に着地した。

スカアハは、チラリと右手の魔槍を見やる。

「・・・・フッ!」

一瞬で何かを確認すると、魔槍に濃密な魔力を宿らせ、ツクヨミにサイドスローで投擲する。

空気を斬り裂きながら、稲妻の様な軌道で迫る魔槍を、ツクヨミは難なく斬り払う。

ーーバキン

すると斬り払われた魔槍は砕け散り、【ゲイ・ボルグ】へと姿が変化していた武器が、元の姿に戻って消滅した。

(・・・これは)

「武器を捨てたわけでは無いようね」

「無論だ。さすがにお主相手に素手で勝てるなどとは思っておらぬさ。ただ、少し手数が足りぬと思ってな。・・・だから」

スカアハが両手に槍を呼び出す。

その槍も、【ゲイ・ボルグ】へと姿を変える。

「ここからは、更に力を上げさせてもらおう!」

スカアハの姿がフッと掻き消える。

神速の移動で、距離を詰めたスカアハは、身体を回転して、二槍による円を描く様な、高速の薙ぎ払いで斬りつける。

ツクヨミはその攻撃を、後方ヘ滑る様に瞬時に下がりながら回避する。

スカアハは再び神速で距離を詰めて、二槍による高速の連続突きを放つ。

同時に八連撃もの突きを放っている様に見える程、高速で繰り出される突きをツクヨミは、体捌きと、受け流しで防御し、時折織り交ぜられる薙ぎ払いも難なく対応した。

スカアハは神速で距離を取ると同時に、ツクヨミの周囲四方向にルーン文字を展開、そこから、鋭く尖った氷柱、炎槍の雨、風の刃、迸る雷が発生する。

四方向より遅い来る、四属性による攻撃。

それをツクヨミは、左側からの氷柱を横に回避しながら両断し、背後からの炎槍の雨を、振り向き【月凰】を回転させて弾き、右側からの風の刃を斬り払い、前方からの雷を体捌きだけで躱すと、反時計回りに防いだ。

攻撃をすべてたやすく防いだツクヨミに、間髪入れずにスカアハが弾丸の様に、右手の【ゲイ・ボルグ】で突きを放ちながら突撃する。

ーーギィン!

ツクヨミは【月凰】で絡めとる様に突きを防ぎ、防がれたスカアハとそのまま迫り合いながら、戦いの場を影の国の外に移していく。

不思議と、オイフェ達が危惧した被害は無かった。


ー・・・影の領域・影の大雪原

ーードォウン!ドォン!ドン!

雪原を低く浮遊して、滑る様に高速移動するツクヨミを、スカアハは追いかけながらルーン文字を間断なく幾つも空中に展開して、攻撃する。

雨あられと降り注ぐ、ルーン魔術の雨をツクヨミをまるで、剣舞を舞うが如く躱していく。

躱されたルーン魔術の攻撃は、雪原を穿ち巻き上げ、爪跡を残して行く。

「・・・!」

ーーゴォォォウ!

突如、ツクヨミの足元の雪原に赤く輝く巨大なルーン文字が展開され、そこから巨大な炎柱が立ち昇り、ツクヨミを呑み込んだ。

スカアハは展開したルーン文字の一つで立ち止まり、様子を見る。

だが、すぐに背後の気配に気がつき、背後を向きながら嘆息する。

「・・・さすがに、今のは避けられぬと思ったのだが」

そこには、無傷のツクヨミが穏やかな微笑をたたえながら、滞空していた。

「ふふ、あれくらい避けられない様では女神は名乗れないものよ」

「いや、そうではないだろう。お主はここまで、術や魔力、そして“権能”すら使っていない。全くといって言い程に、実力の片鱗すら出していないだろう?」

「・・・そうね」

ツクヨミは肩を竦めながら答える。

「何故だ?私相手では本気になれないと?」

「いいえ、ただ・・・すぐに終わるからよ」

そう言うツクヨミにここまでの戦闘で、他の者とは違う何かを感じていたスカアハは、特に怒りもせずにむしろ一層戦意を高揚させた。

「フ・・・そうか。ならばその力、私の全霊を持って引き出させてもらおうか!」

スカアハは両手の【ゲイ・ボルグ】に濃密な魔力を宿らせる。

ーードシュン!

スカアハは、両手の【ゲイ・ボルグ】をそれぞれ別方向に投擲する。

上空に投擲された、右手の【ゲイ・ボルグ】は上空でツクヨミに槍先を向け直した後、無数に枝分かれしてツクヨミに襲いかかる。

左手の【ゲイ・ボルグ】はツクヨミに向けて投擲され、影の国・上空で投擲した時と同じく、稲妻の様な軌道と速度でツクヨミに襲いかかる。

無数に枝分かれした【ゲイ・ボルグ】が面にも見える程の槍の豪雨と化して雪と共に降り注ぐ。

回避が困難な槍の雨の中を、ツクヨミは華麗な舞を踊るかの如く、隙間を縫う様に、時には【月凰】で両断しながら躱していく。

降り注ぐ【ゲイ・ボルグ】は雪原に大きなクレーターを残して行く。

槍の雨に晒されているツクヨミを、もう一つの【ゲイ・ボルグ】が隙を狙う様に襲いかかるが、それすらもツクヨミは【ゲイ・ボルグ】の雨を躱しながら、【月凰】で斬り払い、最小限の動きで躱していく。

稲妻の様に襲う【ゲイ・ボルグ】は躱され、払われても自動で立て直し、何度もツクヨミを別方向からタイミングを変えて襲いかかった。

何度もツクヨミに斬り払われた【ゲイ・ボルグ】が耐久限界を迎えて砕け散る。

(なるほど・・・やはり)

砕け散る【ゲイ・ボルグ】を見たツクヨミの姿が空間に溶け込む様に消えた。

瞬く間に枝分かれした【ゲイ・ボルグ】の大元の側に現れたツクヨミは、【月凰】を一閃し、容易く【ゲイ・ボルグ】を斬り捨て砕いた。

「全く・・・容易く砕いてくれる」

ツクヨミがスカアハの前方に舞い降りる。

「珍しいわね・・・王威顕装でありながら、神威顕装に匹敵する顕装。いえ、流石は欧州最強の名を欲しいがままにする影の国の女王ね・・・・・・それでこそあの子に相応しい。」

最後の方はスカアハに聞こえなかった。

一拍置いてツクヨミが口を開く。

「その顕装、【ゲイ・ボルグ】と言う概念が顕装になった物ね」

「ーー‼︎まさか・・・私の顕装の本質を見抜かれるとはな。普通なら、【ゲイ・ボルグ】を顕装化した物と思われるのが常だが」

「貴女の顕装は、手に持った武器・・・たとえ槍以外でも、【ゲイ・ボルグ】に昇華させる物。昇華した武器は【ゲイ・ボルグ】と同様の能力、同等の性能を発揮出来るけど、耐久度がある様ね。・・・それにしても珍しい。概念を顕装化出来るのは、極めて稀だけど・・・真の強者の証とも言える物よ。素晴らしいわ」

顕装には、英威、獣威、王威、神威、龍威と分かれており、基本的に英威≒獣威<王威<<神≒龍と言う順に強大な力を有する物になる。一応、天魔と言う区分もあるが、単体での顕装が極めて少ない為、語られる事が少ない。

ただし、あくまで基本的な強さの順に過ぎないので、英威や獣威でも、王威を凌駕する顕装は多く存在する。

そして、概念の顕装化はかなり特殊かつ珍しい物で、概念と言う抽象的な物を顕装とする為に、極めて強大な力になり易く。

たとえ英威顕装として分類される物でも、神威顕装に匹敵する顕装になる程の物で、たとえ神ですら、星の数ほどある顕装の中で概念を顕装としている者は、現状確認された者で10人いるかいないかと言う程の希少性である。

「私も気づいたのは、【ゲイ・ボルグ】をクー・フーリンに授けた暫く後の事だ。あいつに授けた後、同等の槍が無くてな。影の国の技術を持ってしても、匹敵する槍は作り出せなかった。そうして様々な武器を試していたら、ある時、武器を【ゲイ・ボルグ】へと昇華出来てしまってな。気が付けば、【ゲイ・ボルグ】と言う概念を顕装としていたよ。だが、好都合だ。

【ゲイ・ボルグ】を超える槍は見つからなかったからな」

「・・・そうでしょうね」

(あれは、超魔導兵装の一つだから)

再び、スカアハが両手に武器を召喚し、【ゲイ・ボルグ】へと昇華させる。

「さて、そろそろお主の力を見せて貰おうか」

スカアハが濃密で強大な魔力を解放する。

スカアハが更に力を上げた事で、影の領域が呼応して、しんしんと降る雪が吹雪に変わる。

「そうね・・・貴女の全力に敬意を表して、少し力を上げましょうか」

神々すら恐れるスカアハの全力の魔力を見ても、ツクヨミは動じる事なくそう言うと、力を“少し”上げる。

「・・・な、に⁉︎」

ツクヨミから、スカアハの強大で濃密な魔力すら遙かに超越する魔力が膨れ上がる。

その魔力の圧力に周囲の空間は歪み、まるで呼応している様に見えた。

「・・・これは、この魔力は‼︎」

(これが“少しだと”⁈あきらかに私が今まで相対した神々を凌駕し・・・いや、欧州の最高神クラスすら比べ物にならないぞ!)

欧州の神々を軽く超える、空恐ろしい程に強大な魔力に、これまで神々すら超える戦闘能力で、数えきれぬ程の強大な魔獣や悪神等を悉く撃ち倒して来たスカアハですら、ツクヨミの力に驚愕した。

「さあ・・・見せて貰おうかしら?影の国の女王の限界を」

「ーー‼︎」

スカアハは直感と本能で、瞬時に両手の【ゲイ・ボルグ】を交差させた防御態勢をとり、自分を覆う様にルーンの障壁を展開した。

その直後、ツクヨミが薙ぎ払う様に神速の斬撃を放つ。

しかし、放たれた斬撃は直接刃を当てるものではなく、“剣圧”を放つ斬撃だ。

ーーバキィィン!

「くぅ・・・⁉︎」

ーードゴォ!!

放たれた剣圧は、神の一撃すら防ぐ、スカアハのルーン障壁を容易く破り、交差した二本の【ゲイ・ボルグ】を砕き、スカアハは影の王城の上空まで、吹き飛ばされる。

その剣圧は、スカアハを飛ばすだけで無く、雪原を影の国の城壁まで抉り、王城までの上空の雪雲を消し飛ばし、大気を激しく震わせる。

斬撃を放った後、ツクヨミは空間に溶け込む様に消える。

だが、環境を変える程の桁違いの一撃を食らっても、スカアハに殆どダメージが無かった。

吹き飛ばされる衝撃はあったものの、強固な障壁と、二本の砕かれた【ゲイ・ボルグ】が剣圧を防いだのか、あるいはそういう風に”ツクヨミが加減したのか“。

「ーーくっ!まさか私が得物を振るう所を微かにしか捉えられんとはな!しかも私の防御をいとも容易く破るとは!・・・ーー‼︎」

スカアハは直感で追撃を察し、即座に両手に武器を取り出し昇華させ、【ゲイ・ボルグ】を生成した。

すると、既にツクヨミはスカアハの上方で【月凰】を振り上げていた。

「ーー馬鹿な⁉︎速すぎる!」

ツクヨミが【月凰】を振り下ろし、再び剣圧が放たれる。

剣圧は、咄嗟に防御した【ゲイ・ボルグ】を又も砕き、スカアハを王城に叩きつけた。



ーー・・・

影の王城・謁見の間

投影スクリーンで、ツクヨミとスカアハの手合わせを見守っていたオイフェ達は、少し力を上げたツクヨミの力に驚きを隠せなかった。

「スカアハ様が圧倒された⁈」

「まさか・・・こんな事が」

見ていた者達が口々に驚きを口にする。

オイフェとクー・フーリンは驚いていたものの、ツクヨミの底知れなさを感じていた二人は、何処か納得も出来た。

「しかしこれは、姐さんの攻撃による被害が可愛く見えるな」

「ええ、そうね。あの姉上が防御に徹するなんて・・・」

「なあ、オイフェ。まさかとは思うが、国の上空での戦闘で被害が無かったのは、あの女神が防いでいたからじゃないか?まあ、もちろん姐さんも考慮してただろうが、どうもそんな気がしてな」

「私も同意見よ。彼女ならそうしながら姉上と戦うのも容易くしてしまう、そんな気がーー‼︎まさか、ここまで飛ばされて⁈」

オイフェが、王城の上空にスカアハの存在を感じて上を見上げたその時ーー

ーードォォォォォォォン!

王城を凄まじい衝撃が襲い、激しく震動する。

そして、謁見の間の天井を突き破り、女性が落ちて来る。

その女性・スカアハは空中で体勢を立て直して着地する。

「姉上⁉︎」

スカアハは片膝をついて、周囲を見渡す。

「オイフェか・・・フ、まさか謁見の間まで戻されるとはな」

天井に出来た穴から、ツクヨミがゆっくりと舞い降りて来る。

ツクヨミが謁見の間に降り立つと、スカアハは立ち上がり、両手に武器を召喚し【ゲイ・ボルグ】に昇華させる。

「はは、久方振りだ。ここまでの高揚感を感じたのは・・・感謝するぞ!極東の女神よ!」

スカアハは【ゲイ・ボルグ】を突きつけ言い放つ。

「本気で戦える相手を待っていた‼︎まだまだ付き合って貰うぞ‼︎」

「ええ、もちろん」

「では行くぞ‼︎」

スカアハが地面を蹴って飛び出そうとした。

その時ーー

パラリ・・・

一枚の紙が、スカアハの前に降ってきた。

「・・・え?」

手に取り、紙に写った者を見た瞬間、スカアハの動きが止まり、惚けた様な声を上げる。

スカアハは紙を手にして顔を紅潮させ、ジッと食い入る様に見つめていた。

【ゲイ・ボルグ】は一本、足元に落としていた。

「姉上?」

「姐さん?」

スカアハに、オイフェとクー・フーリンが声をかけるがスカアハは返事をせずに、ジッと見つめたままだ。

クー・フーリンはふとツクヨミの様子を確認する。

(ん?・・・気のせいか?一瞬、ニヤっとした様な・・・)

そうして様子を観察していると、ツクヨミが何か探す様に自分の服を探る。

「あら?ごめんなさい。降りて来る際に落としてしまった見たいね」

「お主の物なのか、この写真は⁈ここに写った男は⁈」

その言葉に他の者が声を掛けても反応しなかったスカアハが顔を紅潮させ、興奮した様子でツクヨミに聞いた。

「ええ、そうよ。気になる?」

「あー・・・いや・・・その・・・。コホン、この男はお主の夫なのか?」

「男?姉上、一体何を?」

いつの間にかツクヨミは得物をしまっていた。

「いいえ、夫ではないわよ。その子は私の可愛い孫よ」

「孫!そうか‼︎そうなのか!」

スカアハは嬉しそうに声を弾ませた。

その様子で、スカアハの反応を疑問に思っていたここにいる全員が納得した。

「なあ、オイフェ。これって、姐さん写ってる奴に惚れたって事か?会ってもないのに?」

クー・フーリンがオイフェに耳打ちした。

「ええ、どうもそう見たいね。驚きだわ、姉上があんなに嬉しそうに見つめているなんて・・・」

ツクヨミがスカアハの様子で察して、口を開く。

「もしかして・・・私の孫に一目惚れした?」

「・・・・・・うむ。はっ⁈いや!・・それはその様な事は・・・」

写真を夢中になって見つめていたスカアハは肯定したが、一応の否定をした。

「あらそう?実は今、孫である零牙の婚約者達を探している所なのだけど」

「れ、零牙と言う名前なのか・・・この子は・・・良い名だ。!何だと⁉︎」

写真の少年の名前を知り、再び写真に視線を落としたスカアハだったが、直ぐに弾かれる様に顔を上げた。

「それは本当か!」

「ええ、もし貴女が良ければだけど?」

「ああ、話しを聞かせてくれ!」

「なら、ゆっくり話せる場所はないかしら?」

「では、応接間に行こう!」

そう言って、スカアハは【ゲイ・ボルグ】をしまい、ツクヨミを伴い、謁見の間を出て行く。

「姉上⁉︎」

オイフェが呼び止めるが、二人は止まらずに出て行った。

オイフェは唖然とするが、直ぐに追いかけようと立ち上がる。

「皆は、ここで待機。いいわね?」

「り、了解です」

「あなた、付いてきて」

「お、応」

オイフェはクー・フーリンを伴い、追いかけるべく謁見の間を急いで出て行った。

「・・・・・・頭が追いつかない」

誰かが呟いたその言葉に、この場の者達は頷いた。



ー・・・・

ーー影の王城・応接間

応接間の内装は主に欧州の調度品と装飾で作られており、中央の長テーブルに、四人が顔を合わせていた。

片方から椅子に右から、クー・フーリン、オイフェ、スカアハの順に、そして反対側にはオイフェに対面する様にツクヨミが掛けて脚を組み、出されたお茶を優雅に飲んでいた。

ちなみに、スカアハは写真を手放さずに、今も時折見ている。

ーーズズ

「・・・欧州のお茶も美味しいわね」

ツクヨミはカップを置いて続ける。

「さて、まず話しをする前に一つ聞いておきたい事があるの。スカアハさん・・・貴女、処女?」

「なっ⁉︎」

「おいおい、いきなり何を聞いてんですか!アンタは⁉︎」

スカアハとクー・フーリンは驚いていたが、オイフェは冷静に理由を聞く。

「それは、姉上が婚約者になるのに何か関係があるのですか?」

「ええ、極めて重要な事よ。だから、聞いているのよ。貴女の伝承は有名だから。でも伝承というのは書き手、語り手次第でいくらでも変える事が出来る。私が貴女の伝承で気になったのは、貴女には子供がいるという言い伝え。だからこそ、直接貴女に確認しようと聞いたのだけど・・・。その反応と、周囲の様子から察するに・・・処女ね?」

「うむ、処女です・・・」

スカアハは恥ずかしそうに答えた。

「あら、どうして恥ずかしがるの?私はむしろ嬉しいのだけど?」

「え?」

「私が、零牙の婚約者に求める条件は三つあるの。その前に一つ聞かせて、何故今まで婚姻せずに?貴女なら引く手数多でしょう」

それにはオイフェが答えた。

「それは、両親から言いつけられていた事で、結婚するなら、自分を倒せる相手を選べと。私は、見ての通りに隣にいるクー・フーリンとの決闘で負けたので、彼を夫としたのですが。今まで、この欧州に置いて、姉上を超える男が居なかったのです。姉上も数多の英雄や男神に求婚されたのですが、見向きもしなかったので・・・」

「仕方ないだろう。私にもタイプがあるのだ。だが・・・この子には、何か私の心とこの龍血の身に響くものを感じたのだ」

「ふふ、当然よ!零牙は自慢の孫よ?そこらの英雄や男神など比べ物にならないわ」

ツクヨミは上機嫌にそう語る。

「さて、話しを戻しましょう。スカアハさん・・・零牙の婚約者になるという事でいいのね?」

「ああ、是非宜しく頼む」

「分かったわ。今この時より、スカアハ・アルヴァを我が孫、凰月零牙の【皇妃(エンプレス)】の一人と認めましょう」

ツクヨミがそう述べた瞬間に、術式がスカアハに流れ込み、スカアハの存在全てに”リンク“と”加護“が、深く深く奥底に根付き、刻み込まれた。

「これは一体?」

「その二つは、零牙の【皇妃(エンプレス)】になる者に与える私が作り上げた術式。“リンク“はいずれ生まれる零牙の存在と状況を感じ取れるもの。”加護“は、同じく【皇妃(エンプレス)】と零牙以外からの”邪な接触“と”あらゆる心体操作能力“の一切を無効、凶悪な反撃を行うものよ」

「ちょっと待って下さい!今、「いずれ生まれる」と言いましたか?では、零牙はまだ?」

「え?ああごめんなさい。先に言わないといけなかったわ」

スカアハが聞くと、ツクヨミは忘れてたという表情をして答えた。

「零牙が生まれるのは、今より1500年後になるわ」

「1500年⁉︎では、この写真は?」

スカアハは驚き、写真に視線を落とす。

「その写真は未来視で見た、零牙の姿を転写した物。その写真に写っているのは、16歳の零牙よ」

「何故、1500年も後に生まれる。零牙の婚約者を探しているのですか?それに、私に付与された二つの術式は、零牙がいないと機能しないのでは?」

「“リンク”の方はそうね。それは零牙と、貴女や他の【皇妃(エンプレス)】達を繋ぐ物。でも加護の方は既に機能しているわ。もう貴女には、零牙以外の者は何人たりとも、その心体に干渉する事は不可能よ。そんな事したら、“加護”が働いて・・・まあ、規模にもよるけど、最低でも精神あるいは肉体へのダメージ、でも基本は死ぬわね」

「恐ろしい術式、・・・いや“加護”ですね」

クー・フーリンが言った。

「ええ、我ながらそう思うわ。でも、必要な事なのよ」

「では、今探しているのは?」

オイフェが、一番の疑問を聞く。

「そうね・・・世界の為でも有るけど、一番は可愛い我が孫の為。零牙は生まれついての【真なる皇でその存在は、”真の意味での不滅“となる。ならばこそ、”永劫に続く使命“を背負うあの子を、側で支える”皇妃“達が必要なのよ。だからこそ、私は三つの条件の下に【皇妃(エンプレス)】を探し、あの子の“基本的戦闘能力”を極限に高める計画を準備しているのよ」


(何とも、先の長い計画だ・・・。まだ生まれていない孫の事を思い、準備しているとは。だからか・・・。この方の強さは、ただ強いだけではない。愛情こそがこの方の源!)

スカアハは、愛情に満ちた表情で語るツクヨミの強さの源の一端を垣間見た気がした。

手元の写真を見て、スカアハは思う。

(そうか・・・何故私が零牙を見て、これほどまでに心が、魂が、この血潮が震えるのか分かった。忘れていた。いや、何処かでこの時を待っていたのかもしれぬな。いつだったか・・・巫女に予言された。私の運命。・・・零牙の【皇妃(エンプレス)】。これこそが、私が永きに渡り、無意識に待ち望んでいた運命か・・・)

まだ、スカアハが影の国の女王、そして英雄と呼ばれる前、オイフェと共に領地の神殿で神託を受けた。

『スカアハ様、並びにオイフェ様。いずれ貴女方二人は影を統べる双子の王となりましょう。オイフェ様は、その時に英雄と結ばれるでしょう。しかし、スカアハ様。貴女様の運命はその遙か先、月との邂逅の後にあります』

「ツクヨミ様。このスカアハ、喜んで零牙の【皇妃(エンプレス)】となりましょう。たとえ、零牙の生まれる時がまだであろうとも、待ち続けましょう」

スカアハの言葉にツクヨミに嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ。・・・ふふ、これで零牙の【皇妃(エンプレス)】は想定した人数に達したわ」

「え?」

「あのツクヨミ様?ちなみに想定の人数とは、何人なのですか?」

少し唖然としたスカアハに変わり、オイフェが訊ねる。

「予定では、“13人”を考えているわ。でも、それ以上、増えても大歓迎よ」

「13人・・・。すげえハーレムですね」

「ええそうよ。ああ、そうだわ!零牙の【皇妃(エンプレス)】としての三つの条件について話しておくわね。まず一つ目、処女で有る事。これは私も安心したわ、問題なし。二つ目、私が認める戦闘能力。これについても・・・欧州最強たる貴女には心配する事もなかったわね。そして、三つ目の条件は・・・、“龍の顕鎧”と“天羽々斬”を得ること」

「待って下さい。天羽々斬・・・確か、ツクヨミ様の国の神刀ですよね?それと龍の顕鎧。私はどちらも持っていないのですが?」

驚くスカアハに対し、ツクヨミは変わらずに答える。

「もちろん分かっているわ。三つ目の条件については、私が【皇妃(エンプレス)】として認めた後にね。貴女の場合は、今から手に入れて貰うのよ」

「今から⁈ですが、そう簡単に、龍族が顕鎧になってくれるとは思えませんが・・・」

「大丈夫。既に用意は出来ているわ。じゃあ行きましょうか」

ツクヨミは立ち上がる。

「え?今からですか?一体何処へ?」

スカアハも立ち上がりながら聞く。

「貴女が宿すのは、13皇龍の一体・・・影皇龍よ」

「な⁉︎」

「ああ、それと。スカアハさんを零牙の嫁に貰うからには、影の国と正式に、我が龍凰市・・・いえ、今知られている名だと、“高天原”と言った方がいいかしら?とにかく、魔導技術やその他技術の提供をさせて貰うわ」

「それは、こちらにとってまさしく断る理由が有りませんが・・・」

「詳しい話しは戻ってからするわ。・・・さて、スカアハさん、飛ぶわよ?」

そう言うと、ツクヨミとスカアハの姿が揺らめいて、溶け込む様に消えた。

「やっぱ、空間魔術を使えるのか!結界や探知に引っかからないのは道理だな」

しかし、オイフェはクー・フーリン以上に驚いていた、間近で見て理解したのだ。

「いえ、違うわ・・・!これは魔術なんて物じゃない。これは“権能”よ!」

疑問だった。何故、ツクヨミが王城に辿り着くまで、謁見の間で認識するまで、誰も気付けなかったのか。

空間を移動していたからだ。

空間を移動すれば、“表”に張られている結界や警戒網など、意味をなさなくなる。

その為、空間そのものに干渉する術を持たなければ、存在を感知、認識も出来ない、限りなく完璧なステルスだ。

「そりゃ、強いはずだ。空間に干渉する権能なんて、主神クラスでも、知っているだけでもごく僅かだしな」

「ええ、そうね・・・。訪問はいきなりだったけど、今日は喜ぶべき日になるのでしょうね」


後に、凰月の魔導技術を提供された影の国は、その軍事力、国力、を更に強大な物にした。

それ程までに、凰月の魔導技術は数世紀先の遥かに進んだ物だった。


ー・・・

ー影の領域・影の龍殿

影の領域に存在する山脈と山脈の間に建てられた龍の意匠をあつらえた神殿で、スカアハやオイフェが生まれる前から存在しているが、今まで神殿の中に入った者はいない。

ずっと神殿の入り口は固く閉ざされ、無理矢理開けようとすると、侵入者撃退用の術式トラップが起動するが、撃退用とはいえ、その威力は並みの者なら消し飛ぶ程の威力のトラップが襲う。

その為、内部がどうなっているのか、何があるのかも、分かっていない。

だが、影の国の軍内部や民の間では、「強大な武器が眠っている」、「宝物の山がある」等、色々な噂や予想が飛び勝手いるが、術式とどんな手段を持ってしても開ける事が出来ない入り口の所為で、確かめた者はいない。

だがその噂の中に、影の国に伝わる龍の伝承から、「あの神殿は、伝承の龍が眠る場所なのではないか?」と予想を立てる者がいた。

「へえ、真実を言い当てた者がいるのね」

ツクヨミは、スカアハから龍殿に対するこの国の噂を聞いて感心した。

「という事は、影皇龍は此処に?」

「ええ、居るわよ」

ツクヨミはスカアハを伴い、大扉の前に立ち、手で触れる。

すると、大扉に魔法陣が浮かび上がり、ガコンというロックが外れる音が複数響く。

ーーゴゴゴゴ

重い音を響かせながら、何世紀も誰にも開けられなかった大扉が開いていく。

「魔術による施錠!しかし、何故ツクヨミ様はトラップを発動させずに開けられるのです?」

「元々此処は、計画の為に“あの子が皇を冠した時”に建てた場所よ」

ツクヨミとスカアハは龍殿内部に入る。

最奥部までは、一本道の大理石の様な素材で構成された、巨大な廊下が続いている。

廊下は、何世紀も経っているにも関わらず、経年劣化がなく、今まさに、建てられた様に新品同然だった。

「ゆっくり見るのは後にして、まずは彼女を起こさないとね」

スカアハでさえ入った事のなかった龍殿内部を、興味深く眺めていたスカアハに声を掛けて、ツクヨミはスカアハと共に、溶け込む様に空間跳躍した。


ー影の龍殿・深奥部

深奥部は、天窓から光が差し込む巨大なドーム状の大広間になっており、中央には、龍の装飾がついたベッドの様な巨大な玉座があり、そこに龍が眠っていた。

全長10メートル程しなやかな身体、体色は黒と紫、頭部はすらっとして細長く長い濃紺の鬣、後ろに伸びる二対の角を戴き、鞭の様に長い尻尾の先には槍の様な鋭い刃を持ち、身体を覆う程の大きな翼持つ、黒紫のドラゴン。

ーー影皇龍・ルーラー

彼女こそ影の国において、太古より伝承に語られる龍で有り、欧州に存在する龍族の中で最も強大にして最強のドラゴンにして、影の領域の女王。

そう、まるでスカアハをドラゴンにしたかの様な姿と雰囲気だった。

ツクヨミはスカアハは台座のすぐ前に出現する。

「これは⁉︎これが、影皇龍・・・」

(この感じ、不思議だ。まるで、初めて見た気がしない。・・・いやそれどころか、私は彼女を知っている?)

「ルーラー」

ツクヨミが影皇龍に呼びかける。

するとーー

『・・・・この声は』

ルーラーはゆっくりと起き上がり、伸びをする様に翼や尻尾を最大限、広げ、伸ばす。

『んーっ・・・んっ』

そうして伸びをした後に姿勢を正す。

「申し訳ありません。ツクヨミ様。なにぶん久方振りに目覚めたもので」

「構わないわ。むしろ、待たせてしまったのは、私の方だもの。・・・時が来たわ、ルーラー」

ルーラーはツクヨミの隣のスカアハを見る。

「やはり、お前になったのだなスカアハ。・・・・・・ふむ、ツクヨミ様の認める戦闘能力に達したか・・・」

「私を知っているのか?いや、私も初めて会った気がしないが・・・」

『何、“血族”的には親類、従姉妹に当たるからな。だからこそお前とオイフェは、影の国の正統な後継者なのだ。元々、影の領域は“我らの先祖が創り出した場所だ”』

「さて、時間も惜しい。早く完全顕現に至って貰いたいから、始めるわよ。準備はいい?二人共?」

『いつでも』

「私もです」

ツクヨミは少し離れて、準備をする。

ツクヨミから魔力が溢れ、右手を二人の頭上に向けて掲げる。

空中に、巨大な魔法陣が出現する。

その魔法陣は、龍が羽のある翼を広げた様な紋様が一対鏡合わせで描かれ、構成されていた。

魔法陣がゆっくりと降りて来て、スカアハとルーラーが通過する。

ルーラーを通過して行く時、その身体が鎧状に進化して行く。

やがて魔法陣が地面につき、ルーラーの身体は完全に顕鎧生命体に進化した。

「この魔法陣は宿鎧者にする為の!」

「ええ、でもこれは私が専用に作成した物よ。さあ、リラックスして」

魔法陣が一層輝き、ルーラーの身体が高密度の魔力粒子となり、スカアハに吸い込まれて行く。

魔力粒子となった鎧の身体が、スカアハに全て吸い込まれた後、そこに残ったのは可視化する程、強く輝くルーラーの魂。

そして、ルーラーの魂もスカアハに近づき、“融合”して行く。

スカアハの姿に一瞬、黒と紫の龍の顕鎧が重なって見え、融合が完了し、スカアハは宿鎧者となった。

魔法陣もスカアハの内へと吸収された。

「どう?宿鎧者になった気分は?」

スカアハの周囲には“融合”した事により、欧州最強と謳われる二人の魔力が合わさり、桁違いに膨れ上がった魔力が渦巻いていた。

しかし、ツクヨミはその魔力を感じても、驚く事はなく。

「ふむ・・・良い感じだけど、まだ洗練しないといけないわね」

「自分でもかなり力が上がったと思うのですが・・・?」

スカアハの内よりルーラーが話す。

(確かに、私達が融合した事により総合能力は増大した。だがそれでも、ツクヨミ様の足元にも及ばないぞスカアハ)

「いや、確かにツクヨミ様には及ばないと分かっているが・・・なるほど、やはりそこまでなのか」

「いずれは、私を超えて貰わないと困るわ。貴女達は【皇妃(エンプレス)】なのだから」

「して、これからどうするのですか?」

「まずは、王城に戻りましょう。技術提供やその他諸々の話しを詰めて。それから、私がみっちり貴女に稽古をつけるわ。顕鎧の最適化も行わないとね」

それから、直ぐにツクヨミはスカアハを連れ、空間を跳躍して王城に戻った。


ーー・・・


ー約15世紀後・現在より、16年前


ー龍凰市・外壁上

その日、凰月の関係者にとって非常に重要であり、記念すべき歓喜の日だった。

だが龍凰市近郊海域、及び空域全域には防衛ラインが敷かれ、厳戒態勢の下、多くの種族が防衛に当たっていた。

その中には、スカアハの姿もあった。

龍凰市の外壁にて、龍凰市の中心部へと意識を向けて、夫の誕生を待ち侘びながらスカアハは地平線を眺めていた。

「スカアハ様」

防衛に当たる凰月の擁する神軍【月の軍団(セレネ・レギオン)】の一師団に所属する男性が声をかけてくる。

「貴女様は、【皇妃(エンプレス)】であらせられます。防衛は我らに任せ、スカアハ様は零牙様のお側に」

「そうしたいのは山々だが、敵が攻めて来るのだろう?今は影も形も見当たらないが・・・」

「はい、ツクヨミ様は常々仰られていました。“零牙様が生まれる日に、必ず大規模な軍勢が攻めてくる”と」

「ああ、その事は前から私も聞いている。ツクヨミ様の言う事だ、確実に来る。だからこそ、皆もこうしているのだろう?本当ならば、零牙の誕生を間近で待ちたいというのに」

「分かりました。では、私は持ち場に戻ります」

男性が去った後、スカアハの右側に控えていた美しい毛並みの青い巨鳥が声をかけてくる。

「しかし、驚きました。これほど強大な力を持った龍族が一堂に集うなど、世界でも稀でしょう」

この龍凰市の防衛に集った者達の中には、“神”や“王”を冠する龍、そしてその配下の龍族も多数参加している。

「“皇”達はやはりいないのですね」

スカアハの左側に控える西洋龍の黒い巨龍が聞く。

「ああ、“皇”を冠する龍族は皆、内に宿り、“自ら形を変えた”。・・・私も一人宿しているからな・・・・・・来たか」

敵の存在を感じ、最前線にいる龍王の一体が皆に知らせる様に咆哮を上げる。

洋上、上空に転移魔法陣が多数展開して、魔導戦艦からなる大規模な軍勢が、龍凰市を囲む様に埋め尽くすほど出現した。

「ほう、“本能と直感”に突き動かされたにしては戦力を整えて来たな」

程なくして、焦る様に敵の攻勢が始まった。

しかし、最前線には強大なドラゴンが多数待ち構えており迎撃、否ーー”殲滅“が開始される。

ードォォォォォォォン!

”神“や”王“を冠するドラゴンや強者達の攻撃が大気を震わせ、巨大な水柱が上げ、空間を振動させ、敵を薙ぎ払い、敵戦闘員、戦闘機械を一掃する。

「さて、行くぞ二人共」

「「はっ!」」

スカアハは防壁の端から倒れる様に、降下する。

巨龍と巨鳥もそれに続く。

次の瞬間、スカアハの両手には二本の槍が握られていた。

スカアハは空間を蹴る様に空中を駆け、最前線へ向かう。

「零牙の産声を生で聴きたいからな。早々に片付けさせて貰おう‼︎」

槍を投擲し、敵群に“無数に枝分かれした槍”が降り注いだ。


ー・・・

ー現在

ー龍凰学園・大訓練場

黒い影の渦が収まり、黒い軍服の美女が姿を現す。

「スカアハ様・・・」

ブリュンヒルデが、その女性の名を呟く。

「ブリュンヒルデか、久方振りだな。学園の教官となったとは聞いていたが。フ・・・様になっているじゃないか。それに、お前はーー」

ノルンが礼を取る。

「ノルン・ヴェルベルグです。欧州最強にして、麗しき影の国の女王陛下にお目にかかれて光栄です」

「“ヴェルベルグ”・・・禍を引き起こす者。オーディンが実子に与える自分の呼び名の一つ。・・・オーディンの子だという証だな」

「スカアハ様は、何故此処に?」

ブリュンヒルデが聞くと、スカアハは零牙を見てフッと笑みを浮かべる。

「冬華。聞いているな」

「ええ、朝に祖母から。しかし、本当に模擬刀ではなく?」

「無論だ。そうでなければ、意味が無い」

「分かりました。・・・零牙!」

「姉さん。あの女性は?影の国の女王が何故?」

手合わせする事は、零牙も察していた。

だが、何故自分を指名したのかは分からなかった。

いや、薄々勘付いていたが、まさかなという思いが強く片隅に追いやっていた。

「話しは後だ。準備しろ」

「・・・分かった」


ー・・・

ー数分後

零牙は、スカアハと対峙していた。

「ようやく、この時が来た・・・」

「あの、手合わせするのは、願ってもなく光栄な事ですが・・・何故、俺を?」

「何、我がお・・・んん!いやとにかく、零牙!お前の力、確かめさせて貰うぞ!」

スカアハが少し慌てる素振りを見せるが、直ぐに元に戻った。

「ねえ、これって・・・」

「多分、そうだよね」

クラス席ではスカアハの様子を見て、婚約者達が話していた。

訓練場の二階席には、何処から聞きつけたのか、他のクラスが自分達の訓練を中止して、集まって来ていた。

クラス・イオタもその中のひとつだった。

「あれが、影の国の女王・・・」

「伝承で書いてあった通りの凄い美人だな」

そう感想を述べたのは、クラス・イオタ・副リーダーの【関羽雲蘭(かんううんらん)】と、イオタ・リーダーの【久尾修也(くおしゅうや)】。

「ふむ、間に合ったな。・・・始まるぞ」

そう言ったのは、黒髪の細いロングポニーテールの女性。

クラス・イオタ教官“代理”、【黄幽龍(ファンイウロン)】。

冬華と同い年の女性で、切れ長の金色の瞳で整った顔立ちに、豊満なボディラインが分かる大きくスリットの入った黒いチャイナドレスを着ていた。


「さて、フレスヴェルグ!ニーズヘッグ!・・・来い!」

スカアハの両側の地面に二つの召喚魔法陣が展開して。

禍々しい黒い巨龍と美しい青い巨鳥が出現する。

「あね・・・教官。あの二体は、母上が言っていた?」

ノルンがブリュンヒルデに聞く。

「ええ、フレスヴェルグとニーズヘッグ。ユグドラシルの外層で度々争っていた者達です。エスカレートしてユグドラシルを破損させた為、オーディン様がスカアハ様に依頼し、あの方に制圧され使い魔として契約を結ばれたそうです。しかし、三対一で・・・?」

ブリュンヒルデの言葉にスカアハは答える。

「違うぞ、ブリュンヒルデ。厳密には、“三対三”だ。それに、この二人はこのまま戦うわけじゃ無い」

フレスヴェルグとニーズヘッグが召喚されても、未だに残っている魔法陣が一層輝きを増した。

「オリジン・ゲイボルグ」

魔法陣が二体の身体を通過しながら、上昇する。

そして、魔法陣が通過する時、その身体を二本の槍へと姿を変えていく。

フレスヴェルグは、槍頭と柄の継ぎ目に大きな鳥の大翼状の刃がつき、石突きに細長い尾羽が備わった青い流麗な槍、【ゲイボルグ・フレスヴェルグ】へと変化した。

ニーズヘッグは、同じく継ぎ目に龍の翼状の刃がつき、槍頭には鋭い返しが二対ついた赤黒い刃を持った黒い禍々しい槍、【ゲイボルグ・ニーズヘッグ】へと変化した。

「二体をゲイボルグに変化させた⁉︎スカアハ様の顕装は武器を変える物の筈!」

ブリュンヒルデや他の皆は驚愕していたが、零牙やサイファスはその光景に見覚えがあった。

「あれは・・・。そうか、婆さんの・・・」

(成る程。あの術式を取り込んで、顕装を進化させたか。しかも、ゲイボルグへと変化させるとは・・・さすがは影の国の女王)

サイファスがそう分析する。

零牙は、左手を横へ突き出す。

「来れ。・・・其は、始原の一振り、全てを裂断せし。皇たる龍刃!」

横へ突き出した左手のすぐ側の空間が裂け、刀の柄が迫り出す。

零牙は逆手で引き抜き、身体の前で反転させ、順手に持ち直して、振り抜く。

「抜刀・・・天羽々斬【(スメラギ)】‼︎」

零牙は、完全詠唱で【(スメラギ)】を召喚したが、【(スメラギ)】の能力、【空間切断】を相手に向けて、使うつもりは無く。

防御に使うつもりだった。

スカアハを見据えながら、零牙は思う。

(ゲイボルグ・・・。考えが正しければ、変化した二槍は恐らく・・・)

準備の整ったスカアハと零牙を見て、冬華が手を上げる。

振り下ろす。

「・・・始め!」

先に動いたのは、スカアハだった。

「行くぞ、零牙!お前の力、見せてみろ!」

スカアハの身体を黒い霧状の“影”が覆うと、スカアハが地面を蹴り、突進すると同時に、霧散する様にその姿が消える。

瞬時に霧状の影が零牙の前方に集い、スカアハが出現する。

スカアハは既に、右手のニーズヘッグで刺突を繰り出していた。

スカアハが消えてから刺突までが、恐ろしい程の速度で行われ、並の者ならば、反応出来ずにゲイボルグの攻撃性能も相まって、この刺突で十分過ぎる程に終わる。

「ーーッ!」

零牙は瞬時に反応し、繰り出された突きを体捌きで躱す。

スカアハは瞬時に、繰り出した刺突を薙ぎ払いに変えて零牙に斬りつける。

ーギィン!

零牙は薙ぎ払いを【(スメラギ)】で受け止めるが、既にスカアハは、左手のフレスヴェルグで再び、刺突を放っていた。

自身に迫るフレスヴェルグの切っ先を、横目で確認した零牙は、即座に後方に飛び退いて躱す。

「フッ・・・」

スカアハが霧の影になり消える。

飛び退いた零牙は、スカアハの動きを“感じ”とり、後ろを振り向きながら斬り払う。

ーギィン!

(スメラギ)】とフレスヴェルグの軌跡が交差し、衝撃波が走る。

「ほう、反応するか。では、上げるぞ?」

そう言うと、再びスカアハは霧影になり、別方向から攻撃を仕掛ける。

ーギィン!

零牙の右側から現れ、ニーズヘッグによる薙ぎ払い。

ーキン!ッーーー!

零牙の上方に現れ、フレスヴェルグによる垂直の刺突。

ーブォン!

零牙の左側から現れ、フレスヴェルグによる斬り上げ。

ーブォン!ブォン!ーギィン‼︎

零牙の正面から現れ、フレスヴェルグとニーズヘッグのニ槍による連続斬り。

矢継ぎ早に全方向から仕掛けられる攻撃を、薙ぎ払いを斬り払いで迎え撃ち、刺突を受け流し、斬り上げを体捌きで躱し、連続斬りを一撃を躱し、一撃を防ぐ。

目にも留まらぬ速度で繰り出される攻撃を、零牙は辛うじて“感知”して、対応していた。

(この動き!婆さんの、高速移動に似ている!)

スカアハが消えて、零牙の正面の離れた所に出現する。

「さすがだ。では、行くぞ。次は我が槍の力も使い、手数を増やすぞ」

スカアハは右手のニーズヘッグに魔力を滾らせる。

ニーズヘッグが黒く禍々しいドラゴンの為か、魔力色はスカアハの魔力色、“黒紫”に加え、禍々しい黒が輪郭に帯びていた。

ーブォン!

スカアハがその場で、ニーズヘッグで一薙する。

槍の形をした攻性魔力がジグザグ軌道で零牙に迫る。

(気を付けろ、零牙。ゲイボルグの特性は・・・)

(ああ、”破裂“だ!)

ニーズヘッグより放たれた攻撃は、数メートルの距離に迫ると同時に、数十の鋭い刃の様な龍鱗に分散して、零牙に攻撃を仕掛ける。

零牙は、自在に空中を動き回り迫る刃の雨を躱しながら、【(スメラギ)】で斬り落として行く。

ーキン、キン、キン、キン、キン、キン・・・・・

最後の龍鱗を落とした直後ー

「ーーッ‼︎」

スカアハが寸前にまで迫っており、フレスヴェルグで斬り上げる。

ーギィン!

辛うじて【(スメラギ)】で防御した零牙は、空中に斬り上げられる。

空中に斬り上げた零牙に向けて、スカアハはフレスヴェルグをサイドスローで投擲した。

空中の零牙は、高速で襲いかかって来たフレスヴェルグを、身体を回転しながら【(スメラギ)】で受け流す。

間髪入れずにスカアハが、受け流したフレスヴェルグが飛んでいった方向に、入れ替わる様に現れてニーズヘッグで薙ぎ払う。

ーギィン!

零牙はその攻撃を防ぐが、既にスカアハは攻撃を放つと同時に消えていた。

防いだ零牙の背後にスカアハが現れて、再び薙ぎ払う。

ーギィン!

零牙は身体を回転させて、背後に向き直りながら再び防ぐ。

その後も、スカアハはニーズヘッグで薙ぎ払うと同時に、別方向に霧影で高速移動して零牙に全方向より目まぐるしく攻撃を仕掛ける。

スカアハの斬り上げによって、空中戦に移行した二人、零牙も高速で行われる連続攻撃に対応して防ぎきっていたが、誰が観ても完全にスカアハが優勢だった。

その様子を観覧席から観ていた修也が口を開く。

「なんて強さだよ・・・。あの零牙が防戦一方になるなんて・・・」

「このぐらいは出来て当然だろう。何せ欧州の神々は、彼女を恐れ大人しくなったと聞いた事がある。それにあの余裕。彼女は、まだ実力の半分も出していないだろう」

と幽龍が言った。

冬華とブリュンヒルデも戦闘を観ながら話していた。

「さすがは、スカアハ様ですね。どんな状況にも即座に対応出来る、凰月君を圧倒するとは・・・」

「対応出来ると言っても、今の零牙にも限界がある。だが、彼女のこの攻勢・・・。このまま行けば、“一つ”は外れるか」

ーギィン!

ーギィン!

ーギィン!

零牙は全方向より攻撃を放つと同時に高速移動をして、仕掛けられるスカアハの攻撃を防戦一方ではあるが、辛うじて防ぎきっていた。

全方向より攻撃を仕掛けているスカアハだが、ニーズヘッグだけを手に攻撃している。

フレスヴェルグは、投擲されてからスカアハの手に戻らずに自らの意思で、空中を自在に飛び廻り、スカアハの攻撃と入れ替わる様に、零牙に襲いかかっていた。

スカアハと自在に飛び廻るフレスヴェルグの連携は、更に加速し、零牙は次第に反応し切れなくなり、防御を弾かれ始めるが、零牙の内に宿るサイファスは、無意識だが、零牙が”今の限界“以上に力を高めようとしているのを感じていた。

ーギチ、ギチ、ジャラ!

(これは!そろそろか)

(・・・くッ!【(スメラギ)】で移動する事もままならない。このままでは・・・‼︎)

スカアハとフレスヴェルグが、同時に仕掛けて来た。

先にフレスヴェルグが高速で零牙に突撃した。

零牙は、再びフレスヴェルグの突撃を【(スメラギ)】で回転して受け流すと、回転の勢いそのままにスカアハを斬撃で迎え撃つ。

「ーーッ⁈」

だが、それを読んでいたスカアハは寸前で、零牙の背後へ移動していた。

ーブォン

(スメラギ)】の刃が空を斬る。

スカアハが移動した事を瞬間的に感知し、視認した零牙も、咄嗟に躱された斬撃で、回避する為に空間を斬り裂き、移動しようとする。

しかし、既にスカアハはニーズヘッグで薙ぎ払い、受け流されたフレスヴェルグが、反転して高速で向かって来ていた。

零牙はスカアハの方に向き、防御しようとする。

しかし、フレスヴェルグも同時に迫っていた為、“現段階の零牙”では、両方を防ぎ切る事は困難だった。

しかし、咄嗟に顕鎧(けんがい)を纏おうにも遅すぎた。

だからこそ零牙は対応しようとして、“現段階の自分の力”を超える力を無意識に出そうとしていた。

ニーズヘッグとフレスヴェルグの切っ先が寸前にまで迫ったその時ー


ーーバキン!


“鎖”が砕ける音が、大訓練場にいる者全てに聞こえた。

その直後ー

ーゴォォォォウ!

「・・・・ッ‼︎」

零牙から、膨大な魔力が堰を切った様に溢れ出し立ち昇る。

その余波は、スカアハを弾き飛ばし地面に着地させ、フレスヴェルグを後方に大きく吹き飛ばし、上方の壁に突き立てた。

膨大な魔力の解放が収まった後、零牙のいた場所には、零牙は居なかった。

「・・・!来たか・・・」

姉だからこそ、早く感じた冬華が呟いた直後ーー

ズゥンと一気に、その場の圧力が“常に見透かされている感覚”と共に増した。

その場の全員が上から押さえつけられる様なプレッシャーを感じた。

そしてー


ーガキン


ドーム型の天井付近の側壁に、空間から【(スメラギ)】の刃が突き出され壁に突き立てられている。

(スメラギ)】の刃だけが突き出ている空間の裂け目が横へ動き、左手で逆手に持った【(スメラギ)】を壁に突き立て、支えにして側壁に張り付いている零牙が姿を見せた。

表情は前髪で隠れており、窺い知れないが、“睥睨されている様な”プレッシャーが強くなる。

そして、顔を上げ、スカアハを見据える零牙の銀灰色の瞳は、輝きを放っていた。

「久しぶりに見たわね。あの瞳・・・」

「ああ。やっぱ慣れねぇなぁ・・・この感覚は」

観覧席で観ていた、テミスとレアが言った。

「な、なんか・・・零牙の力、増して無いか?」

「ええ、私もそう感じるわ」

修也と雲蘭の言葉に、幽龍が口を開く。

「当然だろう。何せ、“枷”で能力の大半を制限された状態だったのだ。たとえ、“一つ”外れただけだろうと、抑え込まれた力はその分膨れ上がり、より強大な力になる物だ」

「“一つ”?零牙は、幾つも“枷”をつけられているんですか?」

「ん?ああ、そうか。まだ、知られていない事だったな」

零牙の“枷”については、学園では既知の事だが、複数付けられているのは知られていなかった。

零牙について、知っている様な幽龍の様子に、修也と雲蘭はヒソヒソと話す。

「なあ、やっぱり教官ってさ、零牙の婚約者なんじゃ無いか?零牙について詳しいし」

「でも、“月”を持っていないから、何とも・・・」

一方、複数の枷についてたった今、冬華から聞かされたブリュンヒルデは、驚愕した。

「何て、強大な魔力・・・たった一つ外れただけで、ここまで・・・」

「元々、零牙は生まれ持った魔力が膨大だったからな。“枷”で抑え込まれた分、何倍にも成長する。そういう風に”枷“を作ったと婆さんに聞いている」

(とは言え、この魔力・・・“極大龍穴”の力も混ざっているな。やはり、この地の魔力は凰月、特に零牙や私に適合している様に思える。元からなのか・・・あるいは、婆さんがそう仕向けているのか・・・)

スカアハは自分に向けられる、先程とは桁違いの戦意に高揚していた。

(“一つ”外しただけで、この感覚、プレッシャー、そして魔力、1500年も待った甲斐があると言う物だ。先の完全に制限された状態でも、手は抜いたとは言え、私の攻撃を対応し切った。ツクヨミ様の言った通り、零牙は戦う度に強くなる。戦闘において、天性の才を持っている。・・・多くの戦士を育てたが、零牙の才はそれを遙かに越えるものだ!)

スカアハが、クルリとニーズヘッグを回して構えた瞬間ーー

「ーーッ‼︎」

零牙は後ろ手に空間を斬り裂き、スカアハの背後に移動した。

その動作は、今までよりも遙かに速い動作だった。

零牙が、スカアハに袈裟斬りを放つ。

一瞬、素早い動作に虚を突かれたが、スカアハは背後へ一瞬で移動した零牙に直ぐに反応して、振り向きざまの薙ぎ払いで迎え撃とうとする。

ーーギィン!

だが、スカアハの迎撃より先に、周囲に滞空していたフレスヴェルグが飛来して、零牙の強襲を防いだ。

スカアハは薙ぎ払いを刺突に変える。

零牙はそれを後方にステップして、寸前で躱し、空間を切り裂き移動する。

そして即座に、スカアハの側面から現れて斬りかかる。

スカアハも反応して、斬り払いで迎撃する。

ーーギィン!

お互いの攻撃を弾き合った所へ、フレスヴェルグが死角より飛来して突撃するが、死角からの攻撃に零牙は“視認する事もなく把握して”、即座に空間を切り裂き移動し、フレスヴェルグの切っ先は地面に突き刺さった。

再び、別方向から零牙が現れて、スカアハへ攻撃を仕掛ける。

先程のスカアハの様に、今度は零牙が目まぐるしく移動して、全方向から仕掛けていた。

「そうだ!もっとだ!もっと、お前の力を見せてくれ!零牙!」

スカアハは、心底嬉しそうにしながら零牙の全方位からの連続攻撃を防ぎ、同時に反撃する。

フレスヴェルグも自在に飛び回る。

フレスヴェルグが零牙の攻撃を防いだ時は、スカアハが即座に反撃を行い、スカアハが零牙の攻撃を防いだ時には、素早くフレスヴェルグが飛来して攻撃を仕掛ける。

ーーギィン!

ニーズヘッグとフレスヴェルグと言う【ゲイボルグ】、そして天羽々斬【(スメラギ)】がぶつかり合い、激しい衝撃波が放たれる。

零牙とスカアハは、互いに後方に飛び退き距離を取った。

「・・・・」

「ふふ、見事だ。一つ外れただけで、ここまで戦闘能力が上がるとは。だが、まだ力の一端。お前の“本来の戦闘スタイル”では無いはずだ。故に、お前の“枷”を更に外す為に、私も“同等の得物”を出そう」

そう言うと、スカアハはニーズヘッグを手放した。

そのままニーズヘッグはスカアハの側で滞空し、フレスヴェルグも飛来して、同じく滞空する。

(やはり、そうなのか・・・・。ーー!この気配は・・・)

冬華が考え、大訓練場に近づく気配を察知したとき、スカアハは右手を前に翳した。

そして、零牙の持つ【(スメラギ)】と“同等の得物”を喚ぶ為、完全詠唱を始める。

「来たれ。其は、抑止の・・・」

ーージャララララ!

スカアハが詠唱を始め、周囲の霧影が右手に集束し始めた時、突如、零牙とスカアハの間を一本の“鎖”が遮った。

「・・・これは⁉︎」

「この鎖・・・まさか・・・⁉︎」

スカアハは詠唱をやめ、零牙は訓練場の入り口を見た。

「・・・・そこまでです」

鎖の持ち主の声が響く。

その人物、否、“獣”が入り口から入って来た瞬間、猛烈な冷気が訓練場を包む。

その冷気は、冬華の天羽々斬【氷皇(ひょうおう)】が放つ冷気と同等クラスの物だが、冷気の発生源たる張本人は、あくまでこの場を収める為に最小限度で放っているに過ぎない。

その為、訓練場全体が冷気に包まれていても、何処も凍りついていなかった。

「・・・やはりお前だったのか。あの防衛戦で神気を感じ、まさかとは思ったが・・・」

スカアハは手を下ろしながら言った。

3メートル程の体躯“、蒼白銀の毛並みは美しく輝き、神気と冷気をたたえ、その相貌は凛々しくすらっとして、勇ましさと誇り高さを感じさせる“大いなる神獣”

「・・・久しいな、フェンリル」

「ええ、お久しぶりです。スカアハ様」

その“獣”ーーフェンリルは、スカアハに答える。

「フェンリル・・・どうして此処に?」

フェンリルは姿勢を正して座り、零牙と冬華に頭を下げる。

「お久しぶりです。零牙様、冬華様。私は、緊急の要件を伝えに来ました」

「緊急?・・・何事だ?」

「・・・ハッ!現在、この龍凰市に向け北欧の軍勢が進軍しつつあります」


ーー三節・終








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