十八、ここからまた
バイトを上がり、バス停に向かうとなゆが待っていた。
「ずっと待ってたのか?」
「うん」
頷くなゆ。その顔は待っていたことなんて苦ではないという程、笑顔だった。
あれから数時間は経っている。
「先に帰ってれば良かったのに」
長時間も待っていて苦痛だったろうに。なにより、夜遅く、外で女の子が一人でいるという事態に不安が過る。何かあったらどうするというのか。
「ううん、今日は一緒に帰りたかったから」
「だからってこんなところで待っていることないだろ」
「だって」
もう一度、だって、と言葉を繰り返し、涙をポロポロと流し始める。
「どうした⁉」
突然のなゆの涙に驚き戸惑う。
「やっと、祐くんがぁああ!」
一度流れ始めた涙は止まることを知らない。どんどん量が増え、号泣へと変わっていく。なゆは声を上げ泣く。まるで子どもに還ったような泣きっぷりだ。
よかった、よかったと言葉を繰り返し、大泣きをする。しゃくりをあげ、手で何度も涙を拭く。拭いても拭いても止まらない涙。
泣き虫なゆは健在だ。
「泣き虫」の存在にどこか俺はほっとする。
まだまだ「泣き虫なゆ」はここにいるのだ。
俺は鞄からハンカチを取りだそうとして気づく。学校帰りでないためにハンカチを入れていない。こんな時に、今までのようになゆに手を伸ばしてやることが出来ないらしい。
バツが悪い気分を味わう。
どうすることも出来ないことが歯がゆい。なゆは今までこんな気分を味わっていたのだろうか。
仕方がないのでなゆが泣き止むまで俺はなゆの隣に腰かける。
なゆは今まで堪えていた分を全て吐き出すかのように泣き続けた。
「落ち着いたか?」
なゆの涙が止まり始めた頃を見計らって声をかける。
頭を何度も上下にコクコクと振る。声を出したくても泣いたおかげでまだ声がでないようだ。
「じゃあ、帰るか」
先に立ち上がり、なゆへと手を伸ばす。
なゆは俺の手を取る。俺はその手を引っ張りあげた。
昔のように。
ここからまた始まるのだ。