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短編

プレイアブルな国王 とは

作者: どっすん丼


 「さーてこんばんは! どうも俺です、ポカホンタスです! 今日は! なんと――建国をね! したいと思います!」


 ヘッドホンと、スタンドマイク。飲み物も用意して、カメラも準備オッケー。画面内にコメントが流れ出したのを確認して、俺は画面の中へと微笑む。


 「さんざん話題になってたかんね! これずっと気になってたんですよ。クリア激ムズらしいっすね? 他プレイヤーに助けてもらわないと、維持すらままならない? とか?」


 『マジでむずいぞこれ』『ポカホンタスさんゲーム上手いしいけるんじゃないの』『いやこの人音ゲー雑魚じゃん。ミニゲームで詰む』『あっ(察し)』『あっ』『やば』『確かに。。。』


 「えっ……お、音ゲー要素あるんすか? これ? ま、まじでぇ?」


 慌ててパッケージを確認するが、特に音ゲーについての記述はない……が、この反応はあるんだろう。えー、聞いてない……。


 「さぁて早速クリアがね、遠ざかりましたね。亜音速で。アー……どないしょ……」


 『ポカさん終了のお知らせ』『リズムゲームっつーかコマンドだしワンチャンある』『ないでしょ』『ない』『戦闘できないなこれ』


 「戦闘の時にコマンドあるんですか……ふええ、姫プしよ……」


 『誰に守ってもらうんだよwwwwww』『コラボ先もう決まってんのwww』『あ、NPCに任せる感じ?』


 「こうなったらNPCでガチビルド組むしかないですね。へっへっへ……俺が姫になるんだよォ! 国母だ国母! デバフは任せろー」


 『バリバリ』『おっさん』『母(概念)』『ママー!』『ママー!!』『まま!!』『母さんや、半年前の打ち切り企画はまだかえ?』


 「きっもち悪いな……おっと口が滑った。企画? 知らない子ですね。今年の僕がGWに何連休ゲットできるかにかかってるんじゃないですかね……っと。タイトル画面キレーっすね~」


 初見の視聴者も多いらしく、ぽつぽつと賛同の返事が横から流れていく。すう、と息を吸い、わくわくを抑えながらコントローラーを手に取った。


 「じゃ、始めますね。まずはキャラメイクから――」




 城山速人。25歳サラリーマン。営業職で、まあ中間よりちょい上の成績の持ち主だ。コミュ力はない。仕事中は意地で乗り切っているが、オタク話以外の話題には毎秒MP減少のデバフがつく。


 趣味で、たまに実況をしている。


 ありがたいことに、投げ銭をいただいたり、有料チャンネルなんかで、ちょっぴり高価な酒とツマミを、同期よりは頻繁に購入することが出来る程度には、人気がある。

 ハンドルネームはポカホンタス。今回は、初めてプレイするタイプのゲームだった。


 「俺、街づくりゲーは、ジムシティしかしたことないんですよ、ね……おっと。え!? チュートリアルで戦争起こすの!? ま、ま、ま、待って! 心の準備がまだ出来てないっての」


 『ポカホンタスのポンコツタイムスタート』『ここから地獄』『音痴に音ゲーができるわけがないんだよなあ』『コラボカラオケ企画?そんなものはなかった』


 「あ、でも資源配分とか、兵の配置とかは普通にできるのか……。って、思ってたらなんだこれ!? 全体のターンが終わった瞬間に……? こ、これは……」


 画面には「プレイヤーの行動」というメニューの下に、ボタンのマークが書かれている。支援という欄には、〇ボタンしか書かれていないのだが、攻撃や統率という欄には四つのボタンが書かれていた。


 『キャラの特性によってボタン難易度上がるんですよね。失敗しても一応は行けますけど』『相性悪い奴ほどボタン多い』『これがめんどいからやめた』『コマンド失敗したら効果半減』


 「な、なるほどね……へへっ、見せてやるよ、この俺の反射神経をよォ!!」


 早速苦手分野だ。いや、ボタン一種類ならいけるか? いけ……いけ……いけたあ!!


 「ヨッッッッッシャオラ!!」


 『〇ボタン押しただけでは・・・』『なんか感動したわ』『逆にな』『おめでとー!』


 「いやー熱い声援、ありがとうございます。なんとかやり過ごせました……」


 経験値を得て、国が大きくなる。このゲームは序盤で与えられる土地がかなり大きい……のだが、これを耕したり、整備しなければ隣国に自然と吸収されてしまうらしい。だから、中堅の人が最も土地が小さく、食料、軍備、そしてコマンドが上手い修羅の戦争国家のみが土地を増やしていくのだ。


 「いかにこの土地を守るのか……戦争が出来ないこの俺に……」


 『いやマジでそれな』『スキルカンストしたらコマンドスキップで自動成功できるよ』『国母よええ…』


 「カンストかー。当分先になりそうですね……」


 ポチポチとボタンを押すと、チュートリアルは終了する。プレイヤーキャラが光の粒子をまき散らしながら玉座に出現し、拠点に帰還する。側近の女騎士(ゴリラ腕力にした)は傍らに控えている。


 「今日はとりあえず、騎士ガチャ回して終わりですかね。事前情報によると、ランダムで一日一回、スキル持ちの騎士を作れるんでしたっけ」


 『コ マ ン ド で な』『でもこれもコマンド制だった気が』『ポカさん大丈夫かポカるぞ』『このゲーム向いてないんじゃないか』『やめたら? このゲーム』『そやな』


 「フフフ……甘い。甘いですねみなさん。このゲーム、さすがにそこまで鬼畜ではないんですよ……!」


 『ざわ・・・』『なんだこの自信』『さっき〇ボタン一つにあんなに狼狽えていたのに・・・』『何か秘策が。。。?』


 「公式サイトによるとね、音声によるガチャもあるんですよ。ある単語を認証し、それに対応した種族とかが出るらしいんです」


 『ほう』『そんな制度が……』『【速報】ポカさん、九死に一生を得る』『よかったー』


 「ただその単語なんですけど、多ければ多いほどいいらしくて。しかも、有志の単語対応表チラ見したら、認証対象だけでも、なんか百万ぐらいリストされてましたね。しかもしかも、実は、コマンド完全成功の時の複数スキル所持騎士排出率が2%なんですけど、単語100個言って初めて並びます」


 『>>十分鬼畜<<』『いやむりwww』『デイリーでどんだけ喋るんだよwwwwwww』『wwwwwwwwwww』『【悲報】ポカさん、舌を噛み千切ってタヒぬ』


 それな、と言いながら、傍らに置いた紙を覗く。そこにはリストから書き写した適当な単語が書かれたメモが数枚並んでいる。


 「んでですね、単語をくじ引き形式で抜いて、即興でなんか演説? でもしようかと思いまして」


 『おもしろそう』『おっ、いいね』『頑なにコマンドを避けるムーブ』『ポカさん・・・』


 「コマンドは絶対しません。ということで、今日の単語を発表します」


 【彼方 勤勉 将来 平和 破滅 戦争 否 火種 憎しみ 永久】


 「なんか単語ごとにポイントがあるみたいです。今日は初日なので、まあ少な目にしたんですけど、どれも偶然高ポイント! これでssrをゲットですね?」


 『ガチ演説わろ』『平和なのかそうでないのか』『普通に難しいwww』『自ら縛りプレイをwww』『頑なにコマンドをしないwwwwww』


 「んじゃ、ま、始めますね。ここから始まる僕らの中二病こっか!」


 『ん?』『中二病???』『何言う気なんだよwww』『いやラインナップからして臭いけどwww』


 騎士作成、の項目を押すと、玉座に座っていたPCキャラクターが瞼を開く。基本的に自分に寄せて作ったが、当然左右対称の顔だし、無駄肉もない。リアルよりは幾分かイケメンだった。せっかくだから、オ、オッドアイとかにしても……よかったかな……。


 血迷いそうになりながら、光る魔法陣を見つめる。もう一つのマイクが認証されていることを確認し、メモを見ながら即興でポエム()を作っていく。


 「――【彼方】より、敵は現れた」


 『ンンンwwwwww』『そういう系wwwwwwwwwwwwwwwwwww』


 「我が肥沃なる大地、【勤勉】な国民の住まう国土は、さぞ彼らにとっては魅力的だろう。残念ながら、我が国の【将来】に【平和】はありえない、と言わざるを得ない。【破滅】の待ち受ける未来に向け、我らは方策を練らねばならないだろう……」


 言葉に詰まり、頭を回してなんとか続きを考える。あと五個……。えーっと……。


 「だが、だが――それは軍備とは全く関係はない。【戦争】によって、得られるものはなんだ? 富か? 土地か? 金か? 【否】、【否】、【否】!! 賢明な我が国民ならば分かるだろう。【戦争】によって得られるのは……次の【火種】だ! 次の【憎しみ】、次の【戦争】なのだと!! ゆえに、私はここに! 宣言する!! 我が国、ニュートリニアは! 【永久】の中立を、誓うことを――!」


 入力を終了するボタンを押すと、画面内で魔法陣が輝き始める。視聴者たちは草を生やしながら、何が召喚されるのかを楽しみにしていた。

 魔法陣に金の光が満ち、画面が一瞬ホワイトアウトする。そして次の瞬間には、そこに――。


 「私を召し抱えて下さってありがとうございます、王よ。私は墓守の騎士。これよりは御身へと仕え、王を害する者、そして死の静寂を侵す者へと、等しく眠りを与えましょう」


 画面の中の国王がこくりと頷き、目を閉じる。騎士は一礼すると、謁見の間から出ていった。

 メニュー画面を選択し、国内の様子を窺うモードにする。するとパタパタとはばたく音と共に、上空に燕が飛び上がる。この鳥の目線で、国を見渡すことで、イベントなどの発生を確認できるのだ。

 この上空からの映像のため、国家全体のロードに二秒ほどの待ち時間が発生することは、チュートリアルで分かっていた。俺は視聴者の画面をのぞき込む。


 「いやー、これカワイイっすね。声もなんか澄んでてイイ感じです」


 『おーー!これデュアルスキル?とかいうの持ってるらしい』『墓守はけっこー強い』『忠誠度下げなきゃ強キャラ』


 「忠誠度とかあるんですか、このゲーム? それ下げすぎたら暗殺……とか……?」


 『いや暗殺前にコマンド発生する』『忠誠度下がりまくると、コマンドで回避しないと駄目』『失敗したら資源半減のデスペナ』『あれ?半年巻き戻るんじゃなかったっけ』『デスペナ+巻き戻り』


 「ウッワどうするんです? 俺戦争しませんよ? 『コ、コマンドが出来ないプレイヤーなんて、国主として認めないんだからねっ!』つって、公式からアプデされたらオワタんご……」


 『×戦争しない 〇戦争できない』『公式ちゃんツンデレか?』『まあ戦争がメインのゲームだし・・・』『宣戦布告のクーリングタイムはあるけど、その逆??』『まずコマンドできねープレイヤー見たことねーわ』


 むむ、と唇を引き結んだところで、ロードが終わったらしい。燕が風を切り、空を旋回する。

 イヤホンの中から、街の喧騒が聞こえる。王城へと近づいて、さっきの騎士がどんな動きをしているのか、ステータスでも確認しようと近づくと、王国の上空に、ちょうどホログラムみたいな感じで、玉座の映像が浮かび上がっていることに気づいた。


 「ん? なんだこれ」


 見守っていると、それはどうやら、さっきの召喚時の台詞を、国中に聞こえるように吐き出しているらしかった。


 演説を聞き流しながら燕を操作する。鳥は王城へと近づき、兵舎へと止まる。

 メニューから墓守の騎士を見るとグレーに染まっており選択できない。『残り0:20』と数字が出ており、一秒ごとにそれは減っていた。

 同時に、イヤホンから先ほどの自身の演説が聞こえてくることで、閃いた。……ちなみに、蛇足ながら、ゲーム性能が無駄に高いせいで、兵舎の外から演説が聞こえてくる、という反響具合までしっかり再現されている。


 「あー、なるほど。音声召喚に使った分だけクールタイムあるのか……そして不穏なボタンマーク。これコマンドしたら短縮できるな……」


 『音声召喚ってこんなのあるんだ』『コマンドしたらwww??』


 「いや三種類あるので無理です。百歩譲って、ボタンは一個じゃないと……」


 『慎重わろ』『てか羞恥プレイすぎるwwwwww』『めちゃくちゃ格好良いじゃんwwwあのポカさんそっくりの王が演説してんのwww?』


 「いやあああこれは恥ずかしい! 恥ずかしいですね、これは!! 無駄にリアルなんですよマジで! さっき街中ざわざわしてたのに、演説の間無音なんですけど!?」


 燕を再度飛ばし、街の様子を窺う。そこでは、さっきまで野菜やらパンやら売っていた人も、郊外で田畑を弄っていた人も、全員が黙りこくり、じっと俺の演説のリバイバルを聞いていた。


 『――私はここに! 宣言する!! 我が国、ニュートリニアは! 永久の中立を、誓うことを――!』


 演説の最後の台詞を告げると、ホログラムは空に溶けるように消える。


 最後の光の粒子さえ消え切った後、その場に満ちたのは――怒声と聞きまごうほどの、喝采の声だった。


 「ウオオオオオオオオオ!!」「我らが王よ!! 国王様万歳!!」「ニュートリニア万歳!!」「国王様万歳!!」「ワアアアアア!!」「万歳!! 万歳!!」


 「えっ、えっ、えっ?」


 『なんだこれ。めちゃめちゃ反応するじゃん』『芸が細かいな』『国民の表情とかリアルすぎね?』『それな』『ん?てかなんか称号獲得してね?』


 コメントに目を逸らし、ドクドクと驚愕で跳ね上がった心臓を宥める。称号を獲得、というコメントに反応して確認してみると、確かに王城にポップアップが出ていた。

 燕を飛ばし、国王の座る玉座へと向かう。俺を二割増しでイケメンにしたアバターをつつくと、国王は瞼を開いた。メニューが展開され、『New』の文字が輝く実績欄を押す。


 称号:【平和国家】【中立国家】【カリスマ性Ⅰ】【先導者】


 「お、おお……統率力、というか、防御力が上がるパッシブ効果が……カリスマ性は、攻撃力と、忠誠度の上昇……先導者も大体同じですかね」


 『音声召喚でそんな手に入んの?』『いや待ってなんかおかしい』『やばくないこれ』『俺やってたときこんなのなかった』『なんであんなにNPC動いてんの?』『声のバリエーションあんなにあったか???』


 「え? ちょちょちょちょい! バグってことっすか!? やべー……と言いつつ、なんか周辺情勢に変化あったみたいなんで、ポチりますね」


 世界地図をクリックすると、敵対の黒色や、味方の青色、中立の黄色が散らばって、周辺国家の情勢を表している。

 記憶が確かなら、初期の隣国は黒、黄ばかりだったはずだが……。


 「なんか青色増えてますね? さっきの中立宣言、国外まで届いたのかな?」


 『いやこれ…スパイじゃね?』『多分潜入されてる』『それよりもっとやばいことある』『ぜったいおかしい』『ポカホンタスさんゲーム切った方がいい』『なんかこわいんだけど・・・』


 「そんなにヤバいバグなんすかこれ? 怖いな……ウッ、なんか背筋ブルったら尿意が……俺ちょっと、あの、トイレ行ってきますね。ホラーによわいんですマジで脅さないでおねがいしますほんと」


 『いやそれどころじゃないwwwwwwwwwww』『ちょwwwwそれマジなら墓守の騎士のクエできねえしwww』『マジで笑ってるどころじゃないのに笑ってしまった』


 トイレに向かって、部屋のドアノブを捻る。

 その瞬間――脳が理解を拒む光景が広がっていたことによって、全身がフリーズした。


 ひっ、と息を呑みそうになったが、なんとか抑え、極力音を立てずにドアノブを引っ張り、ドアをそっと閉じる。

 頭の中が突然に混乱にぶち込まれる。深呼吸して座り込むと、顔色がよっぽど青ざめていたのか、視聴者からコメントが大量に流れていた。


 『大丈夫ポカさん??』『てかさっき一瞬国王玉座から消えたくね?』『ポカさんが部屋出た瞬間だった』『やばい』『まじでやばい』『ポカさんどうした?』『ポカホンタスさん顔色悪い』


 「いや……あの……」


 ぎゅっと握ったスタンドマイクが唯一のよすがにさえ覚えて、震えている指先で、カメラを動かす。


 「あの、ほんとに……だれか……たすけて……?」


 カメラをコード限界のギリギリまで引っ張り、ドアノブを捻る。その先には、短い廊下があって、玄関が見えて――そういう間取りが、俺の家だったはずだ。


 『(絶句)』『え・・・・・・・』『なにこれ』『いやドッキリでしょ?』『なんか風吹いてね?』


 『てかなんで太陽見えてんの?』『今――夜の2時だよな』


 「あの、俺の幻覚ですよね? これ。なんかチョー綺麗な白いカーテンと、高そうなカーペットと、なんか天蓋つきのお姫様のベッドみたいなの見えるんですけど。気のせいじゃなかったら、ゲームのマイルームに似てる気がするんですけど。……十分前にテキトーに設定した、ばっかりの」


 『ポカさん今すぐ扉しめて!!!!』『なに?』『はやくしないとやばい!!!』『なんだ?』


 ちらっと見たコメントで、複数人が今すぐ扉を閉めるように言っている。それにおとなしく従って扉を閉めると、安堵のコメントが流れた。


 「え? とりあえず、あの……戻った? んですけど、何が……起こってたんです? てか今何が起こってるんですか?」


 『ポカさんが扉開けたしゅんkん玉座からおうさま消えた』『やばい』『さっきも一瞬消えたから、ポカさんとあの王様連携してる』『ポカさんがあっちに行ったら王様消えるってことは、ポカさんが王様になってるってこと』『見られたらやばい』『ポカさんもしかしたら戻れなくなるかも』


 「はああああああああ? うそでしょォ!? ほんと無理なんですけど。俺ホラーむりなんだって!! チビりそう!! たすけて!?」


 『いや俺らも訳わかんないんだけど』『ポカホンタスのドッキリ大がかりだな』『太陽もう一個用意できるんですかすごいですねぇ(白目)』『あのNPCの表情の豊かさ、個人的に気になる。なんかマジの人間みたいだった?よな』


 「ここはじごくか!? あの、つまり何!? 俺んちの扉が異世界とつながったってこと!? 何処のどこでもドアだよぶっ殺すぞマジで!! トイレ行けねぇじゃねぇか!? 消えたよ!! トイレ!!」


 『>>消えたよ トイレ<<』『ごめん笑ったwwwwwwwwwwww』『いやその通りなんだけどwwwwwwwww』『トイレないけど王族の私室はあるwなんなら異世界丸々一個あるww』


 「尿意が限界近い! 俺どうすればいい!? 異世界? とかヤバイ案件一杯あるけどまずトイレ行きたいんだけど!? ここで漏らすしかないの!? 広大な世界がそこにあるのに!?」


 『広大な世界wwwwwwwwwwww』『おとなしくペットボトルにするのが賢明かと・・・』『我慢しろよ死ぬかもしれないんだぞ』


 「ウワアアアアアアア……うわ……うそだろ……」


 閑話休題。


 菩薩のような顔でペットボトルへと用を足し、俺は項垂れて生放送を垂れ流すカメラを睨んだ。


 「あの……そんで俺は……何をすればいいんですかね……」


 『さっぱり分からん』『生放送終わるまでに解決できんのこれwww』『マジで異世界転移なのこれ?』『マジならやばくないか?今のところ中立だけど、この世界って基本毎日がファンタスティック世界大戦だぞ』


 「そもそもなんすけど、この、トイレを墓地に送ってどこでもドアを不本意に召喚した現象、俺だけに起こってんのかな……他の人いないの? 誰かSNS見てくれませんか? 俺、別窓開くの怖すぎてパソコンに一切触れられないんだけど……」


 『見た感じない』『同じく』『プレイ王ネタ言ってる場合か????』


 「マジか……このゲーム何本売れてたっけ。80万本だっけか……さすがに俺一人ってことはないだろうけど、少人数っぽいな……クッソどうなってんだマジで……」


 顎に手を当てながら、パッケージを確認する。そこには、『君だけの国を作り上げ、世界に隠された秘密を解き明かそう!』という煽り文句が書かれている。


 「世界の秘密か……」


 『ポカホンタスってもしかして頭良いのか?』『こっかじょうせいみて』『考察上手いね(現実逃避)』『これホントのホント?警察とか言った方がいいの?』『じょうせいみて!!!』『警察さんどうやって入り口のない部屋に入るの…』『国家情勢やばい!!』


 「これ以上バッドなニュースあんの? マジで泣きそう。まさか三十路にもなれないまま死んじゃうとはな……」


 くたびれたクッションが腰を支えてくれるのも、ちょっと暗くなってしまった電球も、まぎれもなく俺の部屋だというのに、扉の向こうにはファンタジーな異世界が待っている? 信じられるか、こんなの。


 コメントの指示通りに、ポップアップ通知のあったメニューを開きながら、傍らのポテトチップスを開封する。これ最後の晩餐だったりして。


 「――ア………………まじ…………?」


 『ポカホンタス終了のお知らせ』『オワタ』『マジで死ぬのこれ』『やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい』『どうすればいいんだよこんなの!!』


 「隣国の敵対国家(ブラック)があ……外交を求めてえ……使節団を国境に送り込んでいます……?」


 ちらり、と初期作成のNPCのステータスを確認する。攻撃力全振りのゴリラだ。統率のバフは俺に任せろー! とばかりに紙防御だ。

 次に、燕を飛ばして兵舎を確認する。墓守の騎士は――っあ、ダメですねえこれは――魔法攻撃特化だ。ウーン統率のバフは任せてくれー!


 「外交能力って確か支援ステに依存するんだよなあ。俺が一番高いんだよなあ」


 『おいポカホンタスまさか行く気か???』『ゲームとリンクしてたら国王死んだらお前も死ぬぞ!!!』『やばいってやめとけって!』『使節団の人数やばいもん!!一個師団ぐらいいるじゃん!行ったら帰れないでしょこれ』


 「戦争しに来てますねえこれは。俺が行ったらさぞ喜ぶだろうなあ……」


 ――だが、戦争を起こす訳にはいかない。

 こちらの戦力は3個師団のみ。唯一勝機の見える機甲師団はその内の一つで、常に別国との国境に張り付いている。この国にぶつけるには遠すぎる位置だった。更には向こうは小手調べで1個師団を投入できるほどの余裕があるのだろう。


 「戦争になったら絶対負ける。それにこれがリアルっぽい異世界なら、中立宣言の後に戦争したら、俺が生き残っても忠誠度爆下がりで暗殺だろ」


 ぱり、とポテトチップスを齧る。なんか、リアリティが全然ない。ゲームみたいだ。ていうか、実質ゲーム。


 「国王はプレイアブルだし、もう普通に行かせてるしかない。死んだら死んだときだろ。今乗り切れなかったら、これから先も乗り切れないし。……あああああミラクル起きてもっかい開いたらトイレのドア見えねーかなああああ!」


 バン、とパソコンの乗った机をたたき、突っ伏する。


 「あー……だれか……たすけて…………」


 『なんか・・・がんばれ( ´_ゝ`)』


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