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ジュナと竜の戦士   作者: 葉月秋子
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4 風の峠

4 風の峠


 ただ一本の軍道が、東の山脈を貫いている。


 シトリア・マイナをマイダーのミロンから守り抜いたこの山脈は、さほど高くはないが険しく、山頂付近のがれ場の多い斜面は常に吹きつける強い風にさらされている。岩にしがみつくように生える乏しい植物で生きていけるのは、岩羚羊と山羊だけだった。



 その、風の峠。


 アウド・ヤールは、眼下の漆黒の平原に無数に散らばる、野営の火を見つめていた。

 二万を超える、マイダーの騎馬軍団だ。

 手招きすると、斥候を買って出た土地の山羊飼いが近づき、竜から十分すぎるほど距離をとって控えた。

 無言で待ち続ける。


 東の空が次第に明るさを増し、あたりの岩の輪郭が見分けられるようになる。

「夜明けだ」

 竜族の長の言葉に、粗い山羊の毛織の外套を羽織った男は頷いた。

「風が、変わります」

 東の空にちらりと眼をやる。

「あと、半時もせずに」

挿絵(By みてみん)


 竜族の長は、砂漠を越えてはるばる従ってきた、三百頭の竜と戦士達を振り返った。

「勝利か、死か、だ!」

 誇らかに叫んだ。

「我等に戻る道はない。我が竜達よ。我等の新たな国を勝ち取るために、戦え!」

 昇り来る太陽の最初の光の矢が、長の整った美貌に降り注いだ。朝日に煌めく黄金の髪を、風が平原の方へと吹き乱す。


 風が、変わったのだ。


 山羊飼いに砂金の袋を投げたその手が、振り上げられ、降ろされる。

 真っすぐに、平原に向かって。

 三百の喉から荒々しい鷹の声のような雄叫びが上がる。


 若き太陽神にも似た輝かしい長を先頭に、竜の戦士達は馬では容易に通れぬ切り立った崖道を、飛ぶように駆け下っていった。





 息せき切ってシトリアの王宮に駆け込んだ伝令が、声を張り上げた。

 わずか三百頭の竜が、マイダーの二万の騎馬軍団を打ち負かした、と。


 伝令が次々に、竜の匂いで恐慌をきたし、暴走する軍馬、総崩れとなるマイダー軍の様子を知らせて来る。長槍と重い長剣を振り回し、鬼神のように戦う金髪の戦士達。鋭い牙と手足の巨大な爪で、凄まじい殺傷力を見せる竜達。


 夜明けと同時に野営地に奇襲をかけた竜の戦士達は、一丸となって敵軍の中央を突破し、本陣になだれ込んだ。

 アウド・ヤールが敵の総大将を討ち取り、勢いのまま、一気に中枢部を叩き潰す。

 指揮系統を失った敵軍は、見たこともない怪物にうち跨った凶暴な戦士の一団に震えあがり、恐怖に狂って暴走した軍馬の群れに踏みつぶされ、なすすべもなく崩れ去ったのだった。

挿絵(By みてみん)


 

 勝利の喜びに沸き返る人々の中、真っ青になって椅子に崩れたのは、王位継承者、姉姫ネアトリスであった。



                                   


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