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ジュナと竜の戦士   作者: 葉月秋子


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 竜 4


「だって、あなた達は、簡単にマイダーの大軍をやっつけてしまったじゃないの」


アウド・ヤールは唇を歪めて言った。


「初戦は竜を知らぬマイダー軍が恐怖で自滅したのだ。

 竜に怯えた二万の馬達が暴走し、収拾がつかなくなった。

 二度目、三度目となるとそうはいかない。多くの国を滅ぼして来たプロの軍人達が相手だ。こちらの弱点を知ろうとやっきになっているだろう」

「弱点?」

 あの無敵に見える竜達に、弱点なんかあるのかしら?


 アウド・ヤールは空を見上げてぽつりと言った。

「私達は、あまりにも少ない」

 マイダーのミロンが率いる騎馬軍団は多くの部族の複合体。今回の遠征軍のだけであの二万の大軍。

 竜の戦士はわずか三百。

 圧倒的な、数の差。

 

 シトリアの正規軍は五万強だと聞いたが、弱体の上、トラビス将軍が戦死してからろくな武官がいないという」


「じゃ、どんな相手が苦手なの?」

 アウド・ヤールはまっすぐに見つめる少女を見返した。

「お前はシトリアの姫だ。マイダーを益するような情報を漏らす事はすまいな。

 お前の母自身が竜の弱点を知りたいと言っても?」

「誰にも、言わない。女神様に誓って」

 ジュナは真剣に言った。


 アウド・ヤールは緊張したジュナを見て、軽くうなずいた。

「短槍と丈夫な小振りの盾を装備した、歩兵の集団。

 明け方。

 気温が低く、竜の動きの一番鈍い時を狙って近づき、最初の牙と爪の攻撃を盾でかわして腹の下へもぐりこみ、下から心臓を狙う。

 ここだ」

 狼のように笑って、自分の胸骨の少し下を指す。


「胸の骨は人間と同じ。ここの鱗の間を、力一杯、上へ向かって突き上げる。

 仕損じれば、次の攻撃でずたずたに引き裂かれる。命懸けだ。

 心臓か眼を、狙うのだ。竜に向かう時は」


 ジュナは少し怖くなった。

 いまの話が、マイダーにもれてしまったら。

「あの・・・そんな事まで、私に話してしまっていいの・・・?」

「お前は私の妻だろうが」

 唇を歪めた、皮肉な笑い。

「肉食と草食の差はあるが、竜も馬も、体の構造は基本的には同じだ。頭の回る職業軍人なら、いずれ気付く」

 多数の犠牲を覚悟で歩兵の集団で囲み、槍を繰り出し、矢の雨を降らせる。怯えた馬に目隠しをして、遮二無二走らせる。

 落とし穴、火攻め、水攻め、わずか三百人の傭兵を叩き潰す方法は、いくらでもあるのだ。


 

固い表情で考え込んだジュナの横で、アウド・ヤールは大きく伸びをした。

「マイダーとシトリアが敵対しているこの状況が変わらぬ限り、心配はいらぬ。

 戦の下手なシトリアは、代わりに戦って国土を守ってくれる者が欲しい。我々は、竜を育て、増やしていくための、安全な土地が欲しい。

 今のところ、我々とシトリアの利害は完全に一致しているわけだ」

 ジュナはほっとしたように頷き返す。


「こちらの竜はわずか三百頭。傭兵としても、あまりにも小さな集団だ。

 こちらに出来るのは、竜とはどんな生き物か、何頭いるのか、敵に決して知らせぬ事。

 戦う相手の力がわからないのは、誰でも恐ろしい事だからな」

「だからシトリアの都じゃなくて、砂漠の近くに住むことにしたのね。ここなら知らない人が竜に近づいたら、すぐわかるから?」


 竜族の長は、ちょっと驚いて少女を見る。

「それもある。だが本当は、竜のためだ」

「こういう暑い所が竜は好きなのね?」

 アウド・ヤールは頷く。

「砂漠に近く日照量の多い、乾燥した場所。

 竜を育てるのにはこういう場所がいい」

「じゃ、竜って、やっぱり蜥蜴の仲間なの?」


 アウド・ヤールは不思議そうにジュナを見た。戦士でもないこんな娘と、なぜこんな話を始めたんだ?

 もともと普通の女としゃべるのは面倒で、好きではないのだ。

 だが、このジュナはどこか違った。興味津々でどんどん核心を突いてくるので、気が付くとつい、詳しく説明してやっているのだった。



「そのとおりだ。野生の竜は羊ほどの大きさもない、砂漠の蜥蜴の一種だ。

 我々の祖先は、大型の家畜を持たなかった。

 だから何百年もかけて、その蜥蜴を改良し、大きくして、乗用や使役用の竜を作り出したのだ」

「じゃ、竜って、もっといろいろいるの?」

「連れて来たのは戦闘用の肉食の乗用種と、軽種の早駆け竜だけだ。

 あと、中型、小型の乗用と、二種の大きさの使役竜がいる・・・いや、いた」


 指を折って竜の種類を数えていたジュナは、竜族の長が過去形にしたのに気づいた。

「なぜ?」

「む?」

「あなた達は、元からの傭兵ではないのでしよう?

 なぜ、この恐ろしい砂漠を越えて来たの?」


 アウド・ヤールはしばらく無言だった。

 砂漠から吹く風に黄金の髪をなぶらせ、彼方を見つめていた。


 やがて、静かに語り始めた。

「砂漠の西の、我等の故郷。

 そこではもう、竜が育たなくなった」


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