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―私のおにいちゃん―

前世でのディビットの妹視点のお話になります。


いじめに関する記載があります。

そういったものを目にするのも嫌だと拒否感ある方、苦手な方は読まなくても本編には差しさわりがありませんので、次話へとお進みください。

前世のディビットが作中で危険な行為をしておりますが、フィクションですので真似などは絶対にしないでください。

 私のお兄ちゃんはバカだ。

それだけ言うと、お兄ちゃんの友達はそんなことないだろう。と否定するだろう。

でも、私のお兄ちゃんは勉強のできるバカだ。と言えば苦笑いしながら納得するとおもう。

良く、自慢のお兄ちゃんだねって、言われた。

勉強もできて、運動神経もよくて、顔はイケメンって程ではないけど、勉強と運動ができるための補正効果のせいなのか、身内以外には、そこそこのイケメンに見えるらしい。

そんな勉強のできるお兄ちゃんは、嫌なことから逃げる癖があった。

 お祖父ちゃんの葬儀の時は、お別れしたくない。もっとずっと一緒にいるんだ! と日が暮れるまで、お祖父ちゃんの家の木に逃げ上って、お腹がすいたと木から降りてきたところを親戚一同に捕獲されていた。

勉強は得意なくせに、宿題から逃げまくり、小学校の時に親が学校に呼び出されたことは両手じゃ足りない。お兄ちゃん曰く、授業で分かったんだから、宿題する必要は無いじゃないかってことらしいんだけど、そういうことじゃないと担任に叱られたと愚痴っていた。

夏休みの宿題は、夏休みが終わってから、両親に見張られて泣きながら片づけていた。

そんな兄が反面教師になって、私は毎日の宿題は帰ってきたらすぐに片づけ、夏休みの宿題も日記と自由研究以外は最初の1週間で終わらす癖がついた。

 私は、お兄ちゃんみたいに勉強はできない。頑張って中の上ぐらいの成績で、運動に至っては、どんくさいってぐらいにできなくて、クラスでは目立たない部類の立場だったけど、それでも仲のいい友達がいて、楽しい小学校生活だった。

 それが変わったのは5年生に上がった時。お兄ちゃんが中学2年生の時だった。

クラスの女子のリーダー格の女の子から虐められるようになった。

理由は、私みたいな子が、お兄ちゃんの妹だってのが生意気だって。

そんな理不尽としか言いようのない理由で始まった虐め。

仲の良かった子は遠巻きになった。

私と仲良くしたら次は自分かもしれないって思えば助けの手が伸ばせなかったのだろう。

そんな辛い毎日の中、ある日学校から帰るとお兄ちゃんが足を骨折していた。

なんでも、サッカー部の練習中にゴールポストから飛び降りて骨折したらしい。

足を骨折したお兄ちゃんは、私に明日から学校を休んでお兄ちゃんの世話をしてくれと言ってきた。

その言葉に、両親は呆れた顔をするばかりで、学校を休んで自分の世話をしろというお兄ちゃんを止めることはなく、お兄ちゃんを甘やかさないようにねと苦笑いするだけだった。

 堂々と、学校に行かなくて済むのは嬉しいけれど……

お父さんがポンと私の頭に手をのせて「頑張ったな。ここからはお父さんたちに任せろ」って言ってくれた言葉で、お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、全部知っているんだって…… 恥ずかしいとか、悲しいとか、嬉しいとか色々な気持ちが混ざり合って涙が止まらなくなった。

その後、お兄ちゃんはお母さんに拳骨をもらっていた。

お兄ちゃんは、私を学校から逃がすためにワザと危ない真似をして骨折したらしい。

そのせいで、お兄ちゃんの部活の先生とか、校長先生、教頭先生、学年主任の先生やクラス担任の先生が大変な思いをしたらしく、両親は、お菓子を持って学校に謝罪と説明に行ったらしい。

足が治って学校に行けるようになったら、先生方に謝りに行きなさいよ。というお母さんの言葉に、お兄ちゃんはへらへらしていた。

私のためにお兄ちゃんは骨折したから、私も謝りに行った方がいい? という私の言葉に、両親もお兄ちゃんも、その必要は無いよ、と頭を優しくなでてくれた。

 お兄ちゃんの部屋には、ゲームもなければ漫画もない。漫画の雑誌は読むみたいだけれど、お小遣い節約のために仲のいい友達と順番に買っているみたいで、読み終わると友達のところに渡しに行くし、自分が順番で購入したものは、一巡して戻ってきた後リビングに放置して、お母さんが資源ごみの日に出すというサイクルが出来上がっていて残っていない。

 部屋にテレビはあるけれど、平日の昼間にお兄ちゃんが好むような番組がやっているはずもない。

 退屈だから、しりとりしようと言い出したお兄ちゃんに、私は従姉妹のお姉ちゃんにもらったゲームを持ってきた。

 思えば、お姉ちゃんがゲームを譲ってくれたのは、私が虐められてすぐの頃に偶然帰り道であった時だった。

 お姉ちゃんは、私を家まで送ってくれた後、紙袋をもって再び訪ねてきた。 

「今年大学受験だから、封印しようと思ってたけど、それだと封印解いてやっちゃいそうな自分がいるから、これあげるよ~ 楽しいよ~ 嫌なことあっても、忘れちゃうぐらいにね。渡しても大丈夫なゲームがあんまりなかったのが残念だけどね~」

そう言って置いていった紙袋の中身は、ポータブルのゲーム機と何本かのゲームソフト。

 お姉ちゃんがくれたゲームは、今まで私がやったことのあるゲームとは違うものでドキドキして面白かった。

 だからお兄ちゃんにも薦めてみた。



 お兄ちゃんが骨折をしてから1か月。本来なら、もっと早くから学校に通えたようなのだけど、明日からは松葉杖をついて学校に通うというので私も学校に行かなきゃならない。

 はっきり言って恐怖以外ない。


 お兄ちゃんの学校の送り迎えは、お母さんが仕事の時間を調整してやるらしい。

 小学校についてクラスに入ると仲の良かった子たちが寄ってきて、何もできなくてごめんねと泣いて謝ってきた。そのことが嬉しくて、私も泣いてしまった。

 そして、クラスの雰囲気が、ちょっと違うことに気が付く。

私を虐めていた女子のリーダ格の女の子が居なくなっていた。

昨日、他県の学校に転校していったそうだ。

その子の周りに居た取り巻きの女の子たちも、みんなバラバラで話すことなく静かに席に座っている。

時折、私の様子を窺うような視線を感じる。

そのうちの一人が、休み時間に寄って来ると、今までごめんね。と謝ってきた。他の子もつられるようにやってきて同じように頭を下げる。

謝るために、私を見ていたのかと、ほっとした。






お兄ちゃんの遺影は、笑顔だ。

夏に行った最後の家族旅行の時の写真

勉強のできるバカ。フェミニストの皮を被った女嫌いのお兄ちゃん。

お兄ちゃんが女嫌いだと知ったのは高校を全寮制の男子校に決めた時だった。

身内の女性は大丈夫と知って安堵はしたが。女よりも男が好きなわけじゃないぞ、と力説するお兄ちゃんに大笑いした。


 高校二年の冬。お兄ちゃんは学校で倒れた。

学校から連絡を受けて、病院に駆けつけると、お兄ちゃんはへらへら笑っていて、安心したのに……

お兄ちゃんが元気な姿で退院することはなかった。

「病気からも逃げて切って欲しかったよ……」

 私の言葉に、お母さんがズズッと鼻を鳴らす。

「一緒に……酒、飲みたかったな」

 涙まじりの、お父さんの声。

「きっと天国から自分のお葬式見て、びっくりしてるわよ。最後まで、あの子の勘違い解けなかったもの。勉強はできる癖に、バカで思い込みが激しくて……どんな子をお嫁さんに連れてくるのか楽しみにしてたのよ」

嗚咽を堪えながらの、お母さんの言葉に涙が止まらない。

「あなたが小学校5年生のときに、異変に一番最初に気が付いたのはお兄ちゃんだったのよ。それから従姉妹に学校帰りのあなたを偵察させたり、私たちに相談したり」

「そうだな。虐めなんかする奴の親は、叩けば埃が出るもんだとかいってなぁ」

「そうね。正面切って戦って、解決する虐めなら、学校が即座に気づいて対策取ってるって。それができてないんだから正攻法じゃだめだって力説してきたわね。……お兄ちゃんって逃げ癖があったでしょ? あと、女嫌い。それってね、お兄ちゃんが小学校3年の時にあった虐めが原因なのよ。

 虐められていたのは、お兄ちゃんのクラスの女の子でね、たぶんお兄ちゃんの初恋だったんじゃないかしら? お兄ちゃんは正義感の強い子だったからね、先生に相談したり、その女の子を庇ったりしたみたいよ。でもね、いじめの原因がお兄ちゃんを好きな女の子の嫉妬だったみたいでね、今度は先生にもお兄ちゃんにも見つからないように表面上は仲良くして隠れて虐めるようになったみたい。

 冬の学校のプールに呼び出されて虐められてるところをお兄ちゃんの友達が見かけてね、お兄ちゃんに教えてくれて、止めに入ったみたい。その時、お兄ちゃん勢い余って冬のプールに落ちちゃってね~

 友達に先生を呼びに行くように頼んでいたのと、プールの水位が半分ぐらいだったから大事にはならなかったけど、お兄ちゃん肺炎おこして寝込んだのよ。その間にね、虐められていた女の子は、お父さんの仕事の都合で海外に転校していったの。向こうのご両親も、学校でのことは気が付いていて先生にも相談したりしていたみたい。でも改善されないってことで、ならばと社内で希望を募っていた海外勤務に立候補して決まったらしいの。その女の子もね、出発までの間に毎日病院にお見舞いに来てくれたし、お兄ちゃんに感謝の手紙を書いたり、海外の転校先からも手紙を送ってくれたんだけどね」

 そういってお母さんは苦笑いする。

「悲しいことに、虐めで自殺する子供のニュースは無くならないでしょ。それもあってか、お兄ちゃんが学校に行ったら、誰もその子の話題に触れなかったこともあるのか、女の子が亡くなったと思い込んでいてね。

 熱が出てる時にお見舞いに来てくれたのは夢枕に立ってくれた。

 女の子からの手紙は、自分が気にやまないようにと向こうの両親が代筆してくれていると勘違いしてね。そう思っていても、返事は出していたみたいだけれど……

 生きてるから! 失礼だからその勘違いをやめなさい! って叱ったこともあるし、向こうのご両親にお願いして写真送ってもらったりもしたんだけど、合成とかCGとか言って納得しなかったわ。

それ以来、お兄ちゃん、正面切って戦うだけが正義じゃない! 逃げることも正義だ! なんてこと言い出してね~。

その子も葬儀に来てくれていたのよ。幼馴染の子から、連絡もらったみたいでね…… 自分が今立っていられるのは、お兄ちゃんのおかげだって泣いてたわ。守ろうとしてくれた人がいたから、それが勇気になって救いになったって」












 



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