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第7話 隠している何か…

ディビットの部屋から出ると、廊下に待機していた侍女のエルザが安堵した表情を見せた。

「お嬢様、先ほど奥様付きの侍女より、奥様がお嬢様にお会いしたいと」

どうやら、エルザは部屋の中にいる私に声をかけるべきか迷っていたようだ。

「お母様も心配していらっしゃるのでしょう。

元気な傷一つない姿を見せれば安心するでしょうから、今からお母様の部屋へ」

エルザにそう告げ、私はお母様の部屋へと向かい、傷が残らなかったのもよかったけれど、リズが無事だったのが一番嬉しかったわ。と泣かれて困ってしまった。

なだめているうちに、夕食の時間になりお母様と一緒に食堂へと向かうとドアの前に、同じように連れだってやってきた、お父様とディビットの姿。

夕食の前にお父様に叱られたのが原因か、難しい顔をしているディビット。

お母様は、ディビットに近寄ると、そっと抱きしめました。

「ディビット、あなたも無事で本当によかったわ」

お父様がディビットと今回の件で話すまで、会うことを控えていたお母様。

涙ぐむお母様の肩にお父様は、そっと手をかけ、食堂の中へとエスコートしていきます。

その際、優しげにディビットの頭を撫でていくお父様。


 なぜ自分がお母様に心配されたのか分かっていないデイビットに、魔力暴走を起こして、近くにそれを抑えることができる大人がいないことなどで亡くなる子供が少ないながらも存在することを教えると、複雑そうな表情をして食堂へと入っていきました。

 

 夕食は事故のことには触れず、普段通りの和やかな食卓でしたが、時折みせるデイビットの不安げな顔が気にかかります。



 夕食後、部屋に戻り就寝の準備が整い、エルザを下がらせると一人の時間です。

ディビットの様子が気になるので、弟の部屋を訪ねてみようかとも思ったのですが、どうやら、その必要はないようです。

小さめのドアをノックする音に、ためらいを含んだディビットの声が続く。

「姉さん。まだ起きてる?」

「起きていますよ」

ランプの灯を大きくしてから、ドアを開けて部屋へ入るように促すと、ディビットは物珍しげに、部屋の中を見て、ソファーへと腰かけます。

視線を上に下へとさまよわせ、何かを考え込んだ後、ディビットは決心したように、私をまっすぐに見つめました。

「姉さん。俺のことは廃嫡にしてくれて構わないから、姉さんが公爵家を継ぐのではダメだろうか?」


ディビットの予想もしなかった言葉に、すぐに私も言葉が出てきません。

ディビットにとって、乙女ゲームの世界であるというのが、とても重要なことなようなので、そのことでの来訪なのだと思っていただけに、なぜ自分が廃嫡となり私が公爵家を継ぐという考えに至ったのかが謎ですが。

「理由を尋ねても?」

「父さんが…貴族は領民や王族の盾であり矛だと。逃げてはダメなんだって。でも……」

そういったままディビットは黙ってしまいます。

「確かに、戦争となれば、私たち貴族は領民や王族を守るために戦わねばなりません。前世で日本で暮らしてきた私たちにとって血が流れる戦場に赴くことは精神的にも倫理的にも辛いことも理解できます。それでも、今貴方がディビットとして生きているこの場所は、そういう所なのです。

それに、いまは他国との関係も友好的であり、大きな戦争が起こることはまずないでしょう。それに、成人した時に公爵家の嫡男という立場を捨てたとして、どこで何ができますか?」

 私の言葉に、ディビットは困ったように目をそらす。

「姉さん。俺……そこまで考えてなかった」

てっきり、廃嫡された後のことを考えてなかったという意味だと思ったのですが……

「そっか、この世界でこの立場だと戦争が起きたら行かなきゃなんだね~ じゃぁ…姉さんに押し付けるのもまずいか… でも、戦争が起こる可能性が低いなら… あーでも、盗賊団とか野盗…モンスターもいるのかな? そんな時は貴族が討伐隊として出なきゃ行けないんだろうから、やっぱり姉さんに押し付けたらダメだよなぁ」

ディビットの独り言に、こちらが首を傾げたくなります。戦争も野盗などの討伐も問題ないなら、いったい何を持って自分から廃嫡にしてくれと思ったのか。

「ディビット? なぜ廃嫡などと思ったのですか?」

「え? だって、父さんが貴族は逃げちゃダメだっていうから」

「……よく意味が分からないのですが?」

「俺、逃げないでいる自信がない」

きっぱり言い切ったディビットに頭痛がしてきました。

「あのね…ディビット……。戦場に出た時や、討伐隊として出ている時に貴方が逃げ出したりしたら公爵家の信用は地に落ちるわよ……」

 逃げてでも生き延びてくれる方が家族としては嬉しいが……

「ん? あー。大丈夫。戦場とか討伐隊とかで出てるのは逃げないよ。人や生き物を傷つけたり殺したりすることにためらいはあるけど」

「なら、なにから?」

「……必要じゃない嫌なことから…かな?」








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