第60話 婚約式⑤
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「我が国王太子と、ブルス国アマリリス・カプレーゼ公爵令嬢の婚約式を行う」
王家側に控えていた書記官の礼装に身を包んだ男性が読み上げた名前がアマリリスのものであることに、幼女の方じゃなかったと安堵するものが多数を占める中、王族の婚約式に立ち会ったことのある高齢の貴族家当主は違和感を感じた。
宰相閣下ではない?
宰相閣下を見れば、態とらしくコホコホと小さな咳をして喉を押さえる。
「王太子との婚約のため婚約証書は魔法契約となり、すでに内容は協議済み」
王妃教育が絡むため、王太子の婚約は魔法契約によって拘束力を持たせる。
「協議内容と相違ないことを示すため、王太子殿下とカプレーゼ公爵の署名は協議終了時に署名済みである」
婚約に伴う契約が多岐にわたる場合にとられる手法である。
婚約式は事務手続きとはいえ儀式。
その場で書類の隅々まで確認する時間をとるのも見栄えがしないため貴族家同士では互いの当主が、王家と貴族家であれば王族側の婚約する当事者と貴族家の当主が事前にサインを済ませておくのである。
会場内に居るものに確認を促すように掲げられた婚約証書は魔法契約が持つ独特の魔力を帯びていることをその場にいる貴族たちに確認させるためである。
「アマリリス・カプレーゼ公爵令嬢」
書記官の呼びかけにアマリリスが記名台の前に立ち婚約証書にサインをする。
サインがされたことを確認すると書記官は国王の元へ婚約証書を持ち、国王からサインを受け取る。
すべてのサインが成されるのを待ってナターシャ側妃が声を上げた。
「王家の婚約式に身代わりを立てるのは不敬ではないかしら」
戸惑い。
側妃が声があげたことの不快感。
勝利への道筋への興奮。
様々な感情でざわりと大きく空気が揺れたのは一瞬。
ベールで顔を隠したアマリリスの隣にカプレーゼ公爵が立つ。
「我が娘を偽物呼ばわりとは。なにか根拠でも」
射貫くような公爵の視線にナターシャ側妃は艶然と微笑む。
王妃たる器を示そうと、一歩前にでるためにドレスの裾をさばく仕草の一つから指の先まで意識されたその様に下位貴族は見入る。
「ありますわ。しっかりとした根拠と証拠が」
ナターシャ側妃の視線を受け、マグルザ伯爵とナターシャの父のプラフト前子爵が前に出る。
「プラフト前子爵からカプレーゼ公爵令嬢を賊の手から救い出したと公爵家に連絡を取ったが返事を頂けないと相談をされまして。そのような状況下であるのに王太子殿下とカプレーゼ公爵令嬢との婚約式を行うとの通知です。
プラフト前子爵はナターシャ側妃のご実父であり、カプレーゼ公爵令嬢は過去にジートル殿下の婚約者の第一候補であったことからナターシャ様にご相談させていただいたのです」
「陛下。王太子の婚約者など偽物で間に合うとカプレーゼ公爵はお考えのようですよ。そして、そのことに気がつくことなく署名なさった陛下のことも不安に思いますの。
王妃亡き後、陛下は些か…… ねぇ」
貴族家当主の同意を得るように、ナターシャ側妃は会場を見回す。
「どちらのアマリリスさんを養女にして身代わりにされたのかは存じませんけど、その方に王太子妃が務まるとも思えませんわ。
魔法契約は署名と共に魔力跡の一致も求めますもの。後から本物と入れ替えなど無理なことはご存知でしょう。そして、その拘束力も」
ナターシャ側妃が視線を向けた扉が開かれると、ベールをつけた女性が侍従を伴い入ってきた。
「陛下。お立場をシャルハム殿下にお譲りすることを提案いたしますわ」
第二王子派、王弟派の貴族たちが立っている位置を王太子派、中立派の背後へと変える。
「カプレーゼ公爵。こちらの動きを読んで偽物を立ててくださったと解釈しても良いかしら」
事前に交渉して確実に仲間に引き込めなかった不安を取り除くような展開。後ろ盾としてカプレーゼ公爵家がつくのであれば伯爵家以下の家格の者しか引き込めていない足場を固めることができ、従わないなら身代わりを立てたことの不敬を問えば良いだけのこと。
これは王位の簒奪ではない。正当で穏便な譲渡なのだから、その権利は残る。
もうすぐ王弟シャルハムの横に並び立つ自分の姿を思い浮かべるほどにナターシャ側妃は勝利を確信した。




