第59話 婚約式④
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↑こちらはアマリリスだけが前回の記憶を持っていた場合の話
良かったら合わせてお読みください。
あぁ。兄上の一番上の子供は、こんな顔だったな。
とジートルは思う。
名前は変われどリア以外の記憶は曖昧な部分も多い。
自分が生きた時間を全て記憶することなどできないのだから、それは当然のこと。
ディビッドがエスコートしてきた幼女は王家の色を纏っていたが、カプレーゼ公爵家にも王家の血が幾度となく入っているので他の貴族家も母上も、カプレーゼ公爵家の血筋だと考えているのだろう。
チラリと表情を伺いみた母上に至っては、アマリリスのかわりに、この幼女…… あぁ、前と名前が変わらぬのならロベリアだったか。
母上が国王陛下を睨む様から、彼女をカプレーゼ公爵家の娘として婚約を結ばせるつもりだと勘違いしているのがわかる。
冷静に考えれば、今王太子妃として迎えるには年が離れすぎていて意味がないというのに。
なぜ、前回気が付かなかったのか。
気が付かなかったのではなく、気にしなかったのか。
よく見れば、幼女ロベリアの顔はユリウスに似ていた。
前回、ウィデント国の国王になったユリウスの顔は何度も目にする機会があったのに誰もその可能性を示唆することはなかった。
それは托卵という戯言も出ないほどに平民の王太子妃プリムラは、結婚を祝う夜会以降一切外へ出ることなく王太子と侍女しか出入りできない後宮の奥に閉じ籠もり、外部との接触は王太子が同乗した馬車の窓から平民へ顔見せる場があるときだけだったため結びつけようがなかったこともあるが、王族に伝わる血族魔法が使えることが証明となったからだ。
前回、王太子妃の子は、容姿はととのっていたが、誰一人彼女の美貌を受け継がなかった。
それは王太子の血が濃いからだろう。平民の血は王族の血に敵わないのだと、一部の貴族には好評だった。
政務をこなせず、閉じこもる王太子妃を横に、王家の色を受け継ぎ利発に育っていく王女王子。
兄上が最初に望んだのは、ユリウスの姉のゼラ姫だった事を思い出す。
それは思い違いなどではなく、兄上から直接、初めてゼラ姫と会った時に、そう紹介されたからだ。
王太子妃が母親で無いと疑う者はいなかった。
誰も母親が違うなどとは考えなかったのだ。
腹違いとはいえ、顔立ちはゼラ姫とユリウスは似ているのだろう。
前回の罪深さに今頃気づく。
兄上に…… 王太子に前回の記憶が無いことは会話から察していた。
真実の愛と持て囃され、踊らさせられた前回の王太子妃。
平民から持て囃され、貴族から疎まれた平民出身の王太子妃プリムラ。
彼女が何を考え、感じ、この王宮に居たのか……
平民が熱狂し、下位貴族が持ち上げ、中位貴族は距離を保ち、高位貴族は眉を寄せた真実の愛の物語の裏で報われなかったのはアマリリスだけではなく、プリムラもだったのだろう。
前回、アマリリスは気づいていたのだろうか。
年齢差からゼラ姫とアマリリスの交流は、どちらかが希望しなければ得られなかっただろう。
しかし、アマリリスのことだ。
ユリウスに似た容姿をみれば、腹違いとはいえ姉のゼラ姫の可能性は思いついたのではないか。
そうか。
……そうか。
王太子という地位は意味をなさないのか。
前回、王太子妃となった平民の女の姿は無い。
行方は知らないが、なにか一つタイミングがズレて兄上とは出逢わなかったのだろうと考えた。
王太子だから真実の愛を手に入れたのだと思い、王太子になろうと思った。
リアを王太子妃に迎え、真実の愛として結ばれる可能性を夢みた。
違うじゃないか。
王太子だったから兄上は真実の愛を隠さねばならなかったのだ。




