第57話 婚約式②
ブルス国王家の婚約式では、立ち会う貴族家当主または準ずる者と神官が会場後方の入り口から名を読み上げられることなく入る。
入場は到着順とされており、名を読み上げられないのも事務手続きであり公式には社交の場ではないということからである。
それを示すように、会場には飲み物の類も用意されはいない。
決められた時刻になれば後方の扉は閉ざされ、婚約を行う貴族家と王家が同時に会場前方の左右の扉から入る決まりになっている。
それは他国の王族との婚約時も同じであり、建前的には婚約に上下はなく対等であることを示すとも、入場に使われる入り口には、万が一お腹の中で子が育っていいた場合に、托卵が無いように父子鑑定の魔道具が設置されているとも噂されている。
その噂に信憑性をもたせるのが、公爵家の婚約にのみ会場が貸し出され、更に婿入りのときには貸し出されることがないことである。
王家と貴族家の入場の際は、婚姻を結ぶ貴族家の爵位が立ち会う貴族家よりも低い場合もある為、婚約式に限って頭を下げることなく王家を迎えても良いとされてはいるが、結ばれる婚約に対して異議がない限り、頭を下げて迎えるのが通例である。
ただし形式上「面を上げよ」という言葉がかかることはないため入場が終わったタイミングを見計らって身を起こす。
自然と会場の位置取りは、その場の爵位が上の者が前方に後方向けて爵位が下がるため、高位貴族が身を起こした動きを感じ取り顔を上げていくのではあるが……
扉から入場してきた王家、公爵家の顔ぶれに会場の空気が揺れた。
王家側には国王をはじめとして、王太子に第二王子。王弟までは、立ち会う大半の貴族家たちが想定していた顔ぶれであったが、公式の場に同席することのできないナターシャ側妃の姿があったことに王太子派、中立派とされる高位貴族の眉が寄った。
カプレーゼ公爵家側は、アマリリス公爵令嬢がベールで顔を隠したまま公爵にエスコートされてきたのは想定の範囲内。
その彼女の後ろに嫡男のディビッドの姿があったことには、通常未成年扱いとなる親族は婚約式を含め公式行事には当人でない限り、結婚式は別として出席はできないものであるから戸惑う部分があるものの、ディビッドが嫡男であること、成人間近である事を考えれば場をざわつかせる程のことではない。
問題はディビッドがエスコートする幼女である。
その場に立ち会う者たちの頭のなかでは、カプレーゼ公爵家に連なる血筋の年端もいかない令嬢が居たか記憶を辿るもの多数。
その場に居た者たちの大半の気持ちは、多少の言い回しや単語の違いはあっても「その幼女どこから連れてきた」である。
その中で第二王子ジートルだけは呆けたように幼女を見たあと、慌てて表情を作り直した。




