第54話 王太子
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慣れた様子で椅子に座って待つユリウス。後ろに控える侍従。
彼がここまで侍従を伴ってきたのは初めてだな。とミュリアルは自分に付き従う侍女の一人にちらりと視線を向けた。
向けられた視線を受けて意図的に弧の上がった侍女の口元。
ミュリアルは侍従に視線を向け、ユリウスに視線を戻した。
(…… なるほど?)
違和感はない。護衛を兼ねない侍従は線が細い者も多く、男性にしては低めの身長も、年若い者が就くことも珍しくない為目を引くようなことではない。
前回会った時に、煽ってみれば婚約式に無理やりでも立ち会うだろうとの言葉からミュリアルは言葉通りに煽ってユリウスに帰国を促した。
それで本当に諦めて国に戻ったらどうする? とのミュリアルの問いに「あの子の執着心はウィデントの王族特有よ。学問や芸術ではなく、ただ一人の人物に向かった執着心。私と同類」そう言って微笑んだのはミュリアルの愛する人。
二人揃って直談判にでも来たのかと思えば、挨拶と当たり障りのない話を数度交わしてすぐに暇を告げてきた。
相手が侍従を下げない為、こちらも侍女を下げずにいるから深い話などできないというのもあるが、もともとジートルのところへの訪問が目的だから予定外のことではあるのだろう。
カプレーゼ公爵より、子爵令嬢の誘拐の件は秘密裏に耳に届けられている。
「そうだ。今ここで伝えておくよ。正式な文書は公爵家にも、ウィデント国大使にも昼に届けさせたが、アマリリスとの婚約式を早めることにしたんだ。お互い、そのほうが都合がいいようだからね」
「…… 早める?」
「あぁ。カプレーゼ公爵とも話し合って、それが一番安全だろうとね」
挨拶もおざなりに去っていくユリウスの姿。 深々と一礼してユリウスを追う侍従を引き留め侍女は何かを手渡した。
どちら宛てかは、受け取ったあとの視線をみれば明らかで、まだまだ甘いと思ったのはミュリアルだけでなく手渡した侍女もなのだろう、とても可愛らしいわ。とミュリアルの元へ戻って来て感想を口にする。
「彼で大丈夫?」
「えぇ。大丈夫ですわ」
「そう? 俺としては、君が俺のものであるのなら君が王太女で国を継いでも構わないよ。
もともと、君の国はそれを望んでいたのだろう? 俺との婚約を無くして君の死亡を偽装するほどに」
口元に浮かべられた薄い笑みはどちらも歪むことはない。
「この国の後継はジートルの子を迎えれば良い。不義の子とはいえ、ジートルの血は直系王族だ。何も問題はない。君は俺以外の男の子を孕んだりしないだろう?」
「一つ訂正を。
偽装は私の主導ですよ。ミュリアルの側に早くから居たいための」
本当かな?と呟き、ミュリアルは侍女の手を取り微笑んだ。




