第53話 すべては……
更新再開いたします。
気がついたら数年単位で過ぎていて…… 待っていた方が万が一にもいたらごめんなさい。
色々と練り直して書き直したいけど完結させるのが先かな……と。いうことでお付き合いいただければ幸いです。
久しぶりすぎて、新システムになってたことも吃驚してます。
ふふっ……
側妃ナターシャの唇が弧を描く。表情を隠すための扇は閉じられたまま。唇に添えられた彼女の指は貴婦人というには艶やかな印象を、その知らせを持ってきた人物に抱かせた。
国王との実際の年齢差は九つだというのに、三十半ばを過ぎたと思えぬ美貌と若々しさから、王妃亡き後一気に老け込んだ国王と並び立てば親子にも見える自分の容姿の価値をナターシャが一番よく理解している。
「長く王妃が不在なのも他国に示しがつきませんもの」
国王と王妃はその国の顔。
「相応しい人物がその場所に立つべきだわ」
カプレーゼ公爵家のアマリリスを助け出すことに成功したという知らせを持ってきた王弟派の筆頭でもあるマグルザ伯爵の部下は『是』の意味を込めて深く頭を垂れると、計画実行の回答を持ち帰った。
その背中を横目で見送ると、湧き上がってくる腹立たしさを隠すことなくナターシャは口元を歪めた。
(あの母娘のいまいましいこと)
母親亡き後、父親のマクルメール子爵に娘が引き取られたことに対してはナターシャも否やはない。
ただ、それが自分の息子が、あの女の娘に気持ちを傾けているとなれば話は別である。
カプレーゼ公爵家の嫡男と婚約が整ったのも腹立たしい。
低位貴族家の庶子でありながらアレが公爵家の目に叶ったという事実も、ジートルからの好意を無碍にして公爵家を選んだのも、すべてが腹立たしい。
そんなのは…… まるで ……まるで
意識を引き戻すように、態と微かに立てられた茶器の音。
入れ立ての紅茶の香りは紅茶の一大産地でも知られる隣国ウィデントのバルサーヤ領産のものだ。
最高級品と言われるそれは、本来なら側妃の立場である自分には回ってこないもの。
(あぁ、私としたことが忘れていた。数年ほど前から時折自分の世話を焼く侍女に紛れ始めたこの女はハイフト侯爵の息がかかったものだったわ)
子爵家の出とはいえ、今は側妃だ。計画のためにも自分の周りは邪魔にならない侍女で固めていたが、念を入れて出自の確認も全員させ国王派、王太子派に関わる侍女の前での言動には気をつけていたというのに、この女はいつの間にかナターシャの側に侍っている。
ハイフト侯爵家の息がかかったものというのも掴んだ情報というよりも掴まされたものだということもナターシャは理解していた。
そこを履き違えるほど自分は父のプラスト子爵ほど愚かではないつもりだ。
所作一つを取っても高位貴族としての教育が施されているデビュタントを済ませていない地方の男爵家の出とされる女が、ハイフト侯爵の庶子だろうというのは想像難くない。
「ナターシャ様。我々も常々王妃は必要だと考えておりますの」
喉の奥で嗤う。
この女が侍女に紛れては、ナターシャの知識を、教養を、所作を計っていたのは感じ取っていた。
だから見せつけてやった。
輿入れの時には子爵令嬢止まりだった教育を自分が願う場所に見合うだけのものへと成長させることは大変だったが自分の中に燻る欲望に煽られるまま王妃にも引けをとらないだけのものをすでに身につけていたのだから。
側妃が王妃に繰り上がることはなく、代理として公務に携わることはないと説かれたが、いずれ子が生まれれば、正しき姿を見せることができるのは母親であり、側妃である己しかいない。女児が生まれれば王女にとっての一番の手本となるのは自分なのだからと説き伏せた。
実際に生まれたのは王女ではなく王子のジートルだけであったが、最高峰の教育を受けるための方便でありそこは気にすることではなかった。
王太子派とも称されるハイフト侯爵家が厳密にはそうでないこともナターシャは学んだ。
正確には、王家派。その時代に添った王になるべき人物を支持するのがハイフト侯爵家。
王家の歴史を学べば見えてくる事実だ。
本来なら側妃の立場である自分には回ってこない隣国ウィデントのバルサーヤ領産の紅茶。ハイフト侯爵の息のかかった彼の庶子であろう侍女の言葉。
(間違ったものもを正しい位置へ。シャルハム様こそ王位に相応しい。そして、今彼の隣に立てるだけのものを身につけたのは私だけ)
輝かしい自分の望む未来を描くナターシャは、その侍女が王太子の側にいる侍女と同じ人物だとはついぞ気がつくことはなかった。




