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第50話 真意

「ジートル殿下は、本当に王位を欲しているのかな?」

 首を傾げながら、盗み聞きされることないように小さな声でささやかれた言葉に、私は首を傾げた。


 ユリウスがお忍びで頻繁に訪れていたという、王太子専用の庭園に、私たちは来ていた。

 ジートル殿下においとまを伝えると、

「あぁ。兄上にも会って行ってくれ。ユリウス殿下が普段訪ねてきている庭園で待つといい。

 城内からだと道がわからないだろうから、案内をつけよう。このままユリウス殿下が帰ってしまうと、あとあと面倒だからね」

 そういって案内されたのだ。

 ユリウスは椅子に座っているが、私は侍従の立場に偽装している為、ユリウスの斜め後ろに立って控えている形になる。


 確かに、王位を欲しているなら、ミュリアル殿下に会っていくようにとは言わないだろう。

 せっかくのリードが無くなってしまうことになる。

 ユリウスがミュリアル殿下と、お忍びで頻繁に会っていたことが知られているから、意味がないとでも思ったのだろうか?

 それにしては…… あとあと面倒だから、というのは腑に落ちない。

「ジートル殿下は、王太子殿下とユリウス殿下が、こちらでお会いしていたことをご存知でしたね」

「そうだね。誰にも漏れずにいることなど無理であることは承知していたが…… まさか、彼が知っているとは思わなかったね。

 どうやら、彼には良い耳目があるみたいだね」

 ユリウスの言葉に、ミュリアル殿下と会っていたことを知る人間は、かなり少数であり、それらも王太子の息のかかった者だったのだろうと思う。

「ザックでしょうか?」

「あぁ…… リリアン嬢が誘拐された時、君に怪我をさせたやつだね。顔は見たことが無いけれど…… 今も、ジートル殿下の手足となり動いているようだけれど―― うん、彼では無いね」

 ユリウスは、少し考えた後、ザックではないと否定したが、私には他に思い当たる者が居ない。

 それに、ザックであれば、そのような情報の入手も可能だと思うのだ。

「そういえば、ジートル殿下が転生者かループした記憶持ちではないか? という話があったね。

 先ほどのジートル殿下の様子なら聞けば答えてくれそうだけれど……

 ゼラと同じ、ループした記憶持ちの方だろうね」

「なぜ、そうだと?」

「別れのあいさつの言葉の後にね、彼が俺の耳元で囁いていたことは見ていただろう?」

 ユリウスの言葉に私は頷く。

 意味ありげに、私を見た後に、ジートル殿下はユリウスの耳元で何かを言っていた。

 残念ながら、聞こえなかったが……

「こんなところに居て、手札は間に合いますか? と言ったんだ」

「手札…… ですか?」

 意味が分からず、首を傾げた。

 今までは前を向いて話していたというのに、ユリウスは椅子の上で身体をずらすと、椅子の背に腕を乗せ私を見上げるように振り返る。

「君を手に入れるための手札だよ。ゼラの記憶にある俺は、それを準備するのに8年かかってしまった。―― それでも君は手に入らなかったみたいだけれどね」

 悲しげに微笑んだユリウスに、私であって、私ではないのに罪悪感と…… 不安に似た、言葉にしづらい胸の痛み。

「あぁ。もし、彼が王位を望んでいて、ミュリアル殿下にも会うように勧めたのであれば、利用しつつ、試されてるのかもしれない。

 そうでなければ…… 彼は王太子の身分に執着はしているが、王位には興味が無いのかもしれない」

 再び前を向いてしまったユリウス。

 私は今、彼の侍従に扮しているのだから、ユリウスが私の方をわざわざ向いて話すこと自体が周りには可笑しく見えることを理解しているのに、なぜか、それが今は耐えられなかった。

 

 貴方が見ているのは、本当に私?

 ユリウスはゼラ姫のようにループの記憶を持っていないというのに……

 それ以前に、自分の気持ちを言葉にしていない私に、そんなことを口にする資格はないと思うのに――


 思わずユリウスの背に伸びた指先は、彼の背に辿り着く前に姿を見せたミュリアル殿下を目にしたことで、元の位置へと戻った。




 




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