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第49話 第二王子は歓喜…… しない

 学園に留学してきている、マヤナス伯爵家のユリウスが、ウィデント国の第三王子であるユリウス殿下であることは、ジートルが最初の人生を知らなくても、知っていた事柄だ。

 隠してはいるが、気づいている人間は、身分が高くなるほどに多くおり、隠しておく意味があるのかと、首を傾げるものも居たが、その程度の偽装に気づかない者など用は無い。という意味でもあるし、知った上で、知らない中で、どう接するかというふるいの役割もしているのだろうと、ジートルは考えていた。

 最初の生でも、今回の二回目の生でも、ユリウスに対して興味は持っていたが、ジートルは、積極的に近づこうとは思わなかった。

 

 つまりは、親しくない間柄なのである。

 

それなのに―― だ。

 学園での交友を理由に、ユリウスがジートルに会いに来た。

 それを知った王太子派にピリピリとした空気が走ったのはもちろんの事、第二王子派とは名ばかりの側妃派に喜びが見られたが、会いに来られた当の本人は心当たりなどなく、眉を寄せ首を傾げた。


 たとえ、自国よりも格下の国とはいえ、ウィデント国の王族が親しく訪ねてくるのであれば、それば側妃派にとってプラスなのだ。

 しかも、その相手がウィデント国の王族で、王太子としての擁立が確実視されている人物であれば尚更である。

 それに、王太子派としては、王太子が強引に進めたウィデント国側妃を母に持つゼラ姫が毒に倒れたことから、纏まったも同然の婚約の話が消えてしまった経緯がある。

 ブルス国の貴族が王太子とゼラ姫の婚約に難色を示していたことをしっていたウィデント国側との仲は、国交が冷えることはなかったが、以前とは異なる温度差であることは明らかであり、そこをジートルが埋めるとなると、いくらミュリアル殿下の王太子の地位が揺るぎ無いものと考えていても、不安が芽吹き、面白くない。


 

 ジートルは、自分の目の前に座るユリウスと、背後に控える侍従の姿を見比べ、納得したように頷いた。

「あとはユリウス殿下の侍従にしてもらう。お前たちは下がりなさい」

 その言葉に、わずかだが不満げな表情を出してしまった者が居たが、王太子派の貴族の息のかかった者が、まだ居たか。と位にしかジートルは思わなかった。

 ザックが居れば、彼とユリウスの侍従を残し、他の者は下がらせるという方法をジートルは取ったのだが、残念ながらザックは、母親のナターシャ側妃に付けている為、この場には居ない。


「まさか、愛し合っている二人の為に、僕に王位を継いでほしいと言いに来たわけではないだろう? 敵陣とも言える僕の場所に、良く乗り込んできたね」

 ユリウスではなく、後ろに控える侍従に向けて、ジートルは微笑む。

 ジートルは、兄である王太子のミュリアルと陛下が、アマリリスを王太子妃に望み、水面下で婚約式の日取りを決めていることを知っていた。

 婚約式には教会が絡む。いくら伏せていたとしても、ジートルの耳には入ってくるのだ。


「そんなに、わかりやすいですか?」

 苦笑いして、親しげに話し出したユリウスの侍従に、ジートルは苦笑いを返す。

「髪を染めて、ホクロで印象を変えたぐらいではわかるよ。長い付き合いだからね。城の人間は、ユリウス殿下を観察するのに忙しくて、君の顔を見る暇はないだろう。

 だからアマリリスだとは気が付くことはないから安心するといいよ。

 僕に会いたかったのは、ユリウス殿下ではなく、アマリリス、君と言う事で良いのかな?」

 ジートルの問いかけに、ユリウスの侍従に扮したアマリリスは頷き、礼を取る。

「このような形、格好での、ご挨拶。お許しください。

 どうしても、急ぎ、ジートル殿下にお知らせしたいことがあり、ユリウス殿下の力をお借りした次第です」

 アマリリスの言葉に、ジートルは感情の伺えない微笑みを浮かべた。

「王太子の地位を巡る争いから手を引けと言うのなら、断るよ。 

 僕には欲しいものがあるからね」

 直接的なジートルの言葉に、アマリリスの頬が一瞬引きつる。

「いえ。そのことに関しては、言いたいことも多々ありますが、お知らせしたいことは別です」

「あぁ…… そう言えば、母上が、君を誘拐する計画を立てていたようだけれど、それでなにか不都合でも生じた?」

 自分が知っていることを隠すつもりもなければ、逆に教えるようなジートルの言葉に、アマリリスとユリウスは、驚きの表情を見せた。

「なにを驚いているの? そのくらいの情報、カプレーゼ公爵なら掴んでいて当然だろう?

 気が付かれていないだなんて、オメデタイことを思っているのは母上と叔父上ぐらいだよ」

「…… 一応、アマリリスは誘拐されて、プラフト子爵家に保護されているという、そちらの筋書き通りに動いています」

 ジートルは首を傾げる。

「君は、ここに居るじゃないか」

「私に間違われて、マクルメール子爵家長女のリリアン様が誘拐されたのです。

 誘拐したのが、私ではなくリリアン様だと知れれば、間違いなくリリアン様は殺されてしまいます。

 故に、ジートル殿下のお力をお借りしたく、今回、このような方法でお目通りを願った次第です」

「―――― あぁ、リリアンは…… ディビットの婚約者だったな。確かに、母上や伯父上、それ以外の者でも殺す判断を下すだろうな」

 どさりと、椅子の背によりかかと、ジートルは深いため息を吐いた。

「リリアンの身の安全については問題ない。母上にはザックをつけてある。ザックが上手くやってくれるから不安に思うことは無い」

 あっさりと身の安全を保障したジートルの言葉を、アマリリスは嬉しく思い安堵するも、拍子抜け感が否めない。

 逆に、ジートルは不愉快そうに顔をしかめた。

 リリアンがアマリリスと間違われ誘拐された事に不快感を感じているわけでは無い。


(ザックではなく、僕が行くようにすればよかった!! 

 そうすれば、リリアンと二人きりの時間を過ごせたものを!!)


 残念ながら、第二王子である立場から、そのような願いが叶うわけないのだが……

 

「まさか…… 優しくしてくれたザックに惚れてしまうとか無いだろうな?」

 不愉快そうなジートルの顔に、アマリリスの中をよぎった不安は、ジートルの口から漏れ出た言葉によって掻き消えた。

 







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