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第5話 乙女ゲームと言われても

お父様は、私の無事を確認して一通り喜んだあと、倒れたお母様をお見舞いした後に、王城への仕事へと戻っていった。

ディビットのことは、謝りもせずに部屋にこもってしまったことを怒っていましたが、同じくらい心配もしていたので、会って話をしようとしていたが、それは私が引き受けた。

城からの使者が青い顔をしながら早く仕事へと戻るように訴えていたからだ。

なので、急いで体や髪の毛にこびりついた自分の血を綺麗に洗い流し、新しいドレスへと身支度を整えて、やってきた弟の部屋の前。

そう、魔力暴走を起こし、姉の私に傷を負わせた後、私を中傷するような意味不明なことを叫んだあと部屋へと一目散に逃げて行った、弟、ディビットの部屋の前です。

魔力暴走、不可抗力によって起きた事故で負った怪我ですので、それに関しては私は怒っていません。

治癒魔法で怪我は治りますし、治癒魔法を実践できて、良かったと思ってますし。

ただ、謝りも心配もせず、私を中傷するような意味不明な言葉を叫んで部屋に逃げたことはムカつきましたが。

そのディビットの部屋の中からドタドタと走る音が聞こえます。

部屋の中でいったい何をしているんでしょうか…

侍女のエルザが私の来訪を告げると静まり返る部屋の中。

静かになったということは聞こえたということなんでしょうけど、弟の返事は聞こえません。

かわりに、空気の入れ替えにと開け放たれた廊下の窓から、弟の部屋の窓が開く音が聞こえます。

お父様の書斎、両親の部屋、私と弟の部屋の窓には夜間の防犯のために各部屋音色が異なる鈴が取り付けられていて、開け閉めすると鳴る仕組みになっているのです。

その鈴の音の後に、ドサッと地面にものが落ちる音。

少し場所を移動して、別の窓から確認してみると、ディビットの部屋の真下あたりの芝の上に、鞄が落とされています。

ディビットは、窓から逃走して家出でもするつもりなんでしょうか?

7歳の少年が家出した末路なんて容易に想像がつくのですが…。

家庭教師も両親も褒めてらっしゃいましたし、私もディビットは優秀だと思ってたのですが…。

単なる世間知らずなのか、自己評価が高いのか…何も考えていないのか。

しかし、いつまでたってもディビットの姿は現れません。

部屋の中から入室を認める声もありません。

……ふむ。

「エルザ。ディビットは私に怪我を負わせたことで混乱しているようです。ディビットと二人で話した方がディビットも落ち着くでしょうから、ここで待っていて」

エルザに廊下での待機を命じると、私はディビットの部屋へと入り、話し声が漏れたりしないようにピッタリとドアを閉める。

ディビットは窓の前の床に体育座りをしていた……

うん。なんとなく、さっきの私を中傷するような意味不明な言葉と、私と同じような年齢に沿わない優秀さをみせていることから、まぁ…ディビットも前世もちなのかな? と気が付いてはいたのですけど……

まぁ…前世があってもなくてもどちらでもかまわないけれど、この子、こんなんで公爵家が継げるのかが不安だわ。

「ディビット。床に直接座るだなんて、行儀がなっていませんよ。座りたいのなら、ソファーか椅子に座りなさい。お父様も心配していましたよ。魔力暴走は不可抗力での事故なんですから、私の怪我も治癒魔法で治りました。だからそんなに落ち込まないで、お父様がお帰りになられたら元気な顔を見せてあげてくださいね」

私の言葉に、弟はゆっくりと顔を上げ、信じられないものを見るような顔で私を見ます。

なんか…腹が立ちますわね。

ディビットは私が傷を負った場所に目を凝らすと、

「傷跡が…無い。頬も腕も!」

そういって、私の頬や腕を触ります。

弟のすることですし、中身はともかく外見は、私は、まだ8歳。弟は7歳ですので触ることを咎めたりはいたしません。

それで安心するなら一番でしょうし。

「あ! あと一番酷かった足は!?」

ただ、そういって私のドレスのスカートを捲りあげて足を見ようとしたので拳骨で沈めました。

「い…痛い。でも姉さんに傷跡が残らないでよかった…」

そういって泣いて喜ぶディビットに、そんなに心配してくれていたのかと嬉しくなったのですが…

「これで悪役令嬢となった姉に虐められなくて済む~」

と喜び泣きするディビットに、もう一度拳骨を落としました。

えぇ。魔力暴走、不可抗力によって起きた事故で負った怪我、それに関しては私は怒っていませんが、その後のディビットの言動にはかなりムカついていましたので。

きっちりとお説教いたします。




 ※ ※ ※


不可抗力とはいえ怪我をさせたのに謝りもせずに逃げたことに関して一通りお説教して、実行に移せなかったが、家出を企んだ浅はかな行動に対してもお説教。

お説教の中で、私も前世があることを伝えると話を脱線しようとしたので叱りつけ、お説教を終わらせるとちょっとすっきりしました。



その後、ディビットが話してくれたのは、ここが乙女ゲームの世界だということでした。

「……この世界が乙女ゲームで、私は第二王子とディビットのルートの悪役令嬢役ですか?」

弟の説明をまとめると、前世でプレイした乙女ゲームの世界に酷似しており、ディビットは魔力暴走で姉に傷を負わせ、その傷が消えないことから虐げられてきた攻略対象ということだそうです。

まぁ…私もですが、ディビットも見目麗しい両親から生まれただけあって容姿は良い部類にはいります。中身は残念さが漂いますが、これから立派な攻略対象へと成長するのかもしれません。

「でも、今回の事故での傷跡はきれいに消えましたし、これから傷を負うことがあっても綺麗に消えますから、ディビットが私に虐げられることはないと思いますよ? 公爵家を継がせていいのか不安にはなりますが…」

「公爵家を継ぐことに関しては俺も不安だけどさぁ。それよりもシナリオの強制力とか! 色々なことを不安だと感じない? だってシナリオ通りだと断罪されて修道院送りだよ!? まぁ… 本当なら姉さんはもう第二王子の婚約者になってるはずだから、まだなってないこと考えると、ざまぁ展開のとか、似てるだけで別物とかの可能性もあるけど」

「あら。私、第二王子の婚約者候補の有力候補ですわよ? すでに王子妃教育も受けていますけど」

 私の言葉にディビットはこの世の終わりのような顔をしました。



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