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第48話 悪役令嬢は攻略対象に戻る

 早朝。

 開門と同時にカプレーゼ公爵家の馬車が王都へと入ったことに、余計な噂話は身を滅ぼすと、門番はその事を忘れることにした。

 通常、開門と同時に入るのは、商人や、閉門に間に合わずに門前で一夜を明かさざる得なかった者がほとんどであり、高位貴族の馬車が開門と同時に入るなど、なにかあったと言っているようなものなのだから。




「一緒に王都に戻ると言い張ったのがリリアン嬢とは言え…… うむ。マクルメール子爵には私から伝えよう」

 お父様の言葉に、私は侍女服のまま頭を下げた。

「私が付いておりながら、申し訳ございません」

「起きてしまったことは仕方がない。ただ、リリアン嬢を生きて取り戻さなければならないことはわかるな? たとえ、殺害したのが誰であろうと、間違えられたのだとしても、噂はこちらには好意的には流れない」

「わかっております。 彼女の身の安全に関しては一計がございます」

「ならば、その件に関しては、お前に任せる。

 ただ、側妃派むこうからは、未だ、お前の身を確保したとの連絡は無い。これが時機を見ての事であれば問題は無いのだがな……」

 ドアがノックされる音に、お父様は言葉を止めると、入室を許可した。

 入ってきたのは執事のバーラン。

 銀のトレイに載せることなく運ばれてきた手紙に、お父様の片眉が上がった。

「今届いたのか?」

「はい。早馬にて、遠出しているプラフト子爵より、受け取り次第、至急当家に届けよとのことづけを受けたため、不作法は承知の上で早朝に届けさせていただいた次第だと、プラフト子爵家の侍従の言葉でございます。もっとも、その者の肩と髪は夜露にて湿り気を帯びておりましたが」

 

 封蝋を開けると、お父様は中の手紙を取り出し、鼻で笑った。

「カプレーゼ公爵家も舐められたものだ。それともわざとか?」

 お父様から渡された手紙に、私も目を通す。


 ―― 自領地視察の際、不審な動きをするものが居たため誰何すいかしたところ、その者の馬車の中にカプレーゼ公爵家令嬢アマリリス様が捕らえられておりました。

 詳細は後程、ご連絡させていただきたく思います。

 取り急ぎ、アマリリス様の無事について連絡させていただきます。 ――


 短い文面であるが、丁寧な字で書かれた文字が、プラフト子爵の字であるのかは、私には判別つけられないが、滲みひとつ見られない手紙には急いで書いたことなど微塵も感じられない。


「さて、これをどうとるかだ。この手紙はリリアン嬢の無事には直結しないが、このような手落ちをシャルハム殿下が許すとも思えん。

 まぁ、これ自体が脅迫状だとでもいうのなら、手落ちではないのだろうが、シャルハム殿下は使わん手だな」

 お父様の言葉に、シャルハム殿下には数度あった事しかない私も、頷くしかない。

 シャルハム殿下なら、寝返り、逸走を抑えるために、誰の行いなのか明確な脅迫文を寄こすだろう。

 それとも、彼の指示を無視しての内容なのか…… 


 形勢が悪くなれば、プラフト子爵の姉であるナターシャ側妃に罪を押し付けることも厭わない意思が透けて見える保身に走ることが出来るように書かれた文面。

 側妃派むこうも、自分たちの動きが微塵も察知されていないとは考えていないだろうに。

 それとも、こちらが動きに気が付いていないとでも本当に思っているのだろうか?

 シャルハム殿下は別に動いている…… ということなの?


「このことに関しては、向こうの接触を待つしかあるまい。まぁ、分が悪くなったからといって、どう逃げようが、逃がすつもりはないがな」

 そう言って、バーランに指示を出し始めたお父様の姿に、話は終わりだと考え、礼を取り部屋から出ようとした私を、お父様は呼び止め近づいてきた。

「アマリリス」

 そっと大きな手が頭にのる。

「リリアン嬢には申し訳ないが、お前が無事で安心したことも事実だ」

 少しだけ微笑み、すぐにバーランへの指示に戻ったお父様に、もう一度礼を取ると、私は部屋を後にした。




 早朝だというのに、公爵家の中は慌ただしく動き出している。

 それは、公爵夫人であるお母様が帰宅した為と、ユリウスという来客。そして、口には出さないが薄々感じているだろうアマリリスが誘拐されたということに関してだ。

 実際に誘拐されたのはリリアンだが、どこで間諜が耳にするかもわからない為、その空気を否定することは無い。

 ならば、私が堂々と屋敷の中を侍女服とはいえ歩いていても、問題ないのかというと、これが問題なかった。

 なぜなら……

「ディビット様。お湯とお着替えの用意がお部屋に整っております」

「あぁ。わかった」

 屋敷に入る時点で、夜道を馬車で移動するため、襲撃があった時は相手を油断させて、側でお母様を守ることが出来るようにという触れ込みで、侍女服を着ていると言う事になっているからだ。

 女装姿? を見たうえで、誰もディビットであることを疑問に思わない事に、安心と一抹の寂しさは感じたけれど……


 

 顔と手足を清めて、着替えを済ませると、エルザを伴いユリウスに用意された部屋を訪ねた。

 エルザはアマリリスの専属侍女だが、アマリリスが誘拐されたのに一緒に居た専属侍女のエルザがかすり傷一つなく無事というのは、無事だったことは喜んでもらえるが、肩身が狭くなるのも事実の為、アマリリス不在の間は、ディビットに付くようにと、アンが采配した。


 軽いノックの後に、ユリウスの入室の許可を待ってから入ると、私の姿をみたユリウスは困ったように微笑んだ。

「仕方のない事とはいえ…… 残念だね。ドレスの方がアマリリスには似合うのに」

 そっと伸ばされた指が、襟元にかかると、わざとらしくゴホゴホとエルザが咳をした為、ユリウスは手を引っ込めると、残念だと言うように肩を竦めた。


 ソファーへと手ぶりで促され、座ると、本題を切り出す。

「ユリウス。貴方は王城に忍び込む伝手を持っているわよね?」

 私の言葉にユリウスは苦笑いした。

「いくつかある庭園の一つぐらいになら入れるけれどね。それだって、決まった日の決まった時間に忍び込ませてもらっている形だからね。あまり役には立たないよ」

 想像とは異なった答えに、私は落胆する。

「王城に忍び込んでどうするんだい?」

「ジートル殿下に会いたいのよ。アマリリスの姿で登城とじょうするわけにはいかない。かといって、成人を迎えていないディビットの姿で行くわけにもいかないから、忍び込みたかったのよ。ユリウスが持っている王城との繋がりって、王太子のミュリアル殿下でしょう?」

 情報の速さや、ミュリアル殿下を調べに来たことが留学の目的の一つだと言ったことから、彼の性格ならば、すでにミュリアル殿下と非公式ではあるが交流を持っているのだろうと考えたのだ。


「うーん。ならば、正面から行ってみるかい? 表敬訪問ってやつだね。その中に紛れ込めばいい。

 俺が学園に身分を隠して留学していることは、わかっている人間は分かっているからね。

 まぁ、なぜ、このタイミングだと勘ぐられるだろうけれど…… ネタが無いわけじゃないんだ。

 それにね、俺もやられてばかりってのは性に合わないからね。ちょっとはミュリアル殿下に反撃しとこうかな、と」

 最後の一言に、なにをするつもりなのか問いかけようとしたところで、ユリウスは聞かないでとでも言うように、私の唇の前に人差し指をたて、そして……

「ところでさ。公爵にはディビットが見つかった事伝えてあるの? 領地でディビットが大人しくしているとは思えないし、見つかった以上ディビットが、自分の名前を使わないで行動しないとは言い切れないから、公爵なら、ディビットの格好をすることを止めると思うんだけど?

 それとね、俺の前だからだったら嬉しいけれど、前の時と違って、言葉がアマリリスだよ」 

 その言葉に、思わず考え込む。

 言葉づかいについては無意識だったが、他では男言葉を使っていた…… と思う。

 ディビットの事は ―― 伝えてない…… かな?

 まぁ、今ディビットの振りをすることを止められると困るし、お母様が伝えるだろうからディビットの件については気にしない事にしよう。


 


 







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