第42話 それぞれの事情 ④
ヒロインちゃん視点です
告げられた衝撃的な事実に、途惑わないとは言わないけれど、納得の部分も多かった。
アマリリスがディビットの振りをしていたというのを教えられて、一番納得がいったのはユリウスの事。
あー。彼が、小説版で書かれていた、アマリリスと良い感じだったどっかの国の王子様か。と。
うん。言われてみれば、王子と名乗っても良い容姿だよね。さすがイケメンモブ。
ちょっとBLじゃないことにはがっかりもしたけどね。
いろいろ言ってたけれど、要は、ユリウスは伴侶選びとお姉さん探しにブルス国に身分を隠して留学して来たってことだよね?
個人的には、なんかプリムラの裏設定に霞みそうになっちゃうけど、そういうことだよね?
うーん。なんだろう、この感じ? もやもやするような……
夜会以来、初めて目にしたドレス姿のアマリリスと、個人的には気に入らないがイケメンなのは認めるユリウスがいちゃついているのは目の保養だな~ でも、なんか揉めてる? とドアの隙間から覗き見しながら考える。
そこだ、おすんだユリウス!! ちょっと強引に行っちゃえ! 壁ドン壁ドン!!
机の上に追い込むのもありだよね!!
ゲーム画面越しなら堂々と見れるのに、現実だとコソコソ覗き見ないとイチャラブってみれないもんね~ アマリリスがヒロイン役の乙女ゲームが出てたら、こんな感じのシーン満載だったのかしら。
絶対買う!!
んー? あれ? なんか忘れてる気がする……
アマリリスでもユリウスでもなくて…… なんか異様に、そのことが気になって、目の前の二人のイチャラブシーンを集中して見れなくなる。
「なーんか変な感じがするんだよなぁ……」
思わず漏れた言葉の後、すごい勢いで引っ張られた。
え?
「っっう」
そのまま勢いよく、ドンと音が響くぐらいに、ドア横の壁に押し付けられたらしく、一瞬息が止まるし、背中も痛い。
なに?
しかも、なんか両手を上で拘束されてるし……
痛みに涙が滲むけれど、状況を確認しようと顔を上げると、威嚇するように顔の横にどんと手をつかれた。
今のところ私は壁ドンしてもらいたい相手はいない。こんなことする奴は誰だ!! だいたい、こんなに音を立てたら、アマリリスとユリウスにばれるじゃないかと思って顔をみてみればディビットだった。
「何をするつもりだ? 姉さんの邪魔はさせない」
?? 意味が分からん。 とりあえず、中でイチャラブしてる二人を一番邪魔したのはディビットだと思うが……
こんだけドンドンと音を立てたら、気が付くだろうし。
「意味わかんないんだけど。 それに、こんなに音立てたら二人のイチャラブが見れなくなっちゃうでしょうが」
「ユリウス様狙いとかではなく?」
「アレだけは絶対イヤ」
即答した私の言葉に、頭上で拘束していた手をディビットは放してくれた。
「なら、なにが変な感じがするんだ?」
あー。さっきの独り言聞いて、なんか妙な誤解をしたのかな? だからと言って、壁に女の子を押し付けて拘束していい理由にはならないんだけれど。
「二人の事じゃなくて、どっちかというと、あの二人に関しては、もっとイチャラブして、それを見たいくらい。だから、そっちじゃなくて…… なーんか変な感じがするんだよね。気になって二人のイチャラブを集中して見れなくなるぐらいに、なんか忘れちゃまずい事忘れてるような? うーん。前にもなんか似たようなこと疑問に感じたような―― そして、まぁ、いいかと流した気がする」
それらの違和感が、ディビットの顔を見て、繋がった気がした。
さっき質問しまくった時に、ディビットは答えてくれたじゃないか。
あの時は、さらりと聞き流してしまったけれど。
「プリムラと出逢ったのって9歳の時って言っていたよね?」
「あぁ」
「それって遅くない? 本当なら、プリムラはすでに王城に下働きとして召し上げられてるはずだと思うんだよね」
話を聞いていた時、王太子妃が決定していない理由を、プリムラがこっちに逃げてきていたことで、ゼラ姫との婚約が決定したけれどゼラ姫本人が拒否したためだと思ったけれど、きっと、それだけじゃない。
側妃ではなく王妃が亡くなっていたことを知った時だって、なんで? と疑問に思ったけれど深くは考えなかったけど、それじゃダメだったんだ。
それに、ゲームのスチルの中で王太子が特典的に出てきたとき、王太子の娘として4、5歳ぐらいの女の子が描かれていた。
3への布石なんじゃ? と友人と話した記憶もある。
ユリウスも王太子妃の仕事をアマリリスから王太子の娘が引き継いだっていっていたし。
ということは、ディビットが学園に入るころにはプリムラは子供を産んでいた。しかも、4、5歳ぐらいになる子供を。
1のゲーム期間を考えると、どう考えても時間が足らない。
てっきりディビットが転生者だったから、魔力暴走を防いで、アマリリスの顔に傷が出来なかったんだと思っていたけれど、二人とも転生者で、顔に傷が出来たが、アマリリスがそれを治したと聞いた時に気が付くべきだった。
設定では、プリムラが王太子妃に決定してから、側妃がディビットの魔力暴走を企みアマリリスに怪我を負わせる。
そして、王太子が第二王子のジートル殿下へと変更できないことから、王妃の毒殺を企て、ジートル殿下によってカップを入れ替えられて、側妃が毒に倒れるという流れだったはずだ。
プリムラのことは、本人が転生者だから逃げ出した。
けれども、本来なら逃げ出した時には既に王城に召し上げられているはず。
ゼラ姫はループした前世の記憶があって婚約を望まなかった。
ゼラ姫が王太子にプリムラのことを告げたから、王太子はプリムラを召し上げなかったのかもしれない。
アマリリスが側妃にゲームと同じように狙われて傷つけられたのは、王太子妃が決まっていなかったからだとして……
なら、なぜ王妃は助からなかった?
王妃が亡くなる前に、行方知れずになったゼラ姫。
ゼラ姫がブルス国に居るという情報は掴まされているとユリウスは言っていた。
まだ、わからないことは多いけれど、一つの考えに至った時、背筋がゾッとした。
学園で、自分が行く先行く先に姿を見せたジートル殿下。
微ヤンデレキャラだし当たり前の事なのかも。だから、ただ、気持ち悪いと思っていたけれど……
良く考えれば、微ヤンデレだからって、私の行き先がわかるハズがないのだ。
きっとこのことに気が付けたのは、1と2両方のゲームをプレイしていて、目の前にいくつもの情報をぶら下げられていた私だけだった。
もっと早くに気が付いたからと言って、何かが変わるわけでは無いのがせめてもの救いだろう…… と思いたいんだけれど。
え? なんか私の知らないヤバい事起こってたりしないよね?
もっと、早くに気が付いてれば対処できることあったとか言われないよね? ね?
王妃を助けることが出来た唯一の人物。
「ジートル殿下…… 転生者か、ループ記憶持ちだと思う」
「ずいぶんと興味深い話だね。―― でもね、覗き見は良くないよ」
そういってユリウスがドアから姿を見せた。
少し遅れて出てきたアマリリスの顔は紅く…… ん? ドレスちょっと乱れてない??




