第34話 合流
馬車の中には、アン、ヒロイン、私、そしてユリウスの4人になった。
もともと4人乗りの馬車なので問題は無いのだけれど……
確かに、身分的に一番高いのはユリウスで、次が私。だからといって、なぜ、ユリウスと私が隣り合って座らなきゃならないのだろう。
『国に帰るつもりだったけど、馬車が故障して動かないから、一緒に乗せてくれないかな』といってユリウスは私たちの馬車に乗り込んできた。
見たところ、ユリウスの馬車は故障などしていないし、取り残される形となる御者と侍従は泣きそうな顔だし…… 明らかにユリウスの強引なまでの力技なのは見て分かった。
それに、この馬車はカプレーゼ公爵家の領地に向かうもので、ユリウスの国であるウィデント国に向かうものではない。そもそも逆方向だ。
ヒロインはなぜかニヤニヤしながらアンとコソコソ話しているし、アンも時折こちらを確認しては頷いている。
何の話をしているかなんて考えたくない……。
それにだ、ユリウスと同じ空間に居るというのは、居心地が悪い……。
簡単に諦められるのなら好きになったりはしなかっただろう。
『そうだな。王太子妃の内定も俺が取り消してやるよ』一緒に居ると繰り返し、あの時の言葉を思い出してしまう。
馬車に乗った時から感じる、突き刺さるようなユリウスからの視線に耐えられなくなり、少しだけ彼の方を見て…… 後悔した。
慈しむような眼差しに、思わず顔が赤くなり、私は俯いてしまう。
そして、恥ずかしさと、嬉しさと、言いようのない怖さを感じた。
帰国の途に就く馬車に乗っていたのだから、ブルス国の現状も、私が王太子と正式な婚約を結ぶことになったことも知っているだろう。
だからこそ、私が領地へと向かっていることも。
それでも、私がユリウスを諦めきれないように、彼もまた私のことを諦めていないのだと。
はっきりと、好きだと言葉を交わしたことなどない。私はユリウスほど想いを感じさせる言葉を言ったつもりもない。それでも、ユリウスは私の気持ちを確信しているんだと――。
目頭が熱くなる。涙がこぼれ出しそうな感覚に、流してはいけないと私はぎゅっと目を強く閉じた。
ヒロインは私をディビットだと思っているから、どこかユリウスと私のことを楽しんでいる雰囲気がみれるが、領地に着けば、ヒロインに自分がアマリリスであることを話さなくてはいけない。アンはもともと私がアマリリスだと知っている。
ここで泣いてしまえば、いずれ、心配をかけてしまう。
それにユリウスが乗り込んできたときから解けずにいる疑問。
なぜ、ユリウスは領地に向かう私の馬車へ同乗したのだろうかと。
途中で私を連れて逃げるつもりなのだろうか? 最悪の事態を招くであろう考えに心の片隅で、そうであったならと喜びを感じている自分に、あきらめが悪いと嗤う。
どうせ手を伸ばされても、その手を取ることは無いくせにと。




