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第29話 イベントが本気モード ~ 終幕 ~

三人称で…… と思って書いてみましたが、厳密な三人称ではないかなぁ……。

 ユリウスは規則的に訪れている庭園の東屋に足を運ぶ。

 先にユリウスが来ていることもあるが、ほとんどは相手のが先に着いている。

 それは、当たり前のことのようで、多忙である相手のことを考えれば案じたくもなるが、今日に限っては、相手がユリウスよりも先に来て東屋でのんびりとお茶を飲んでいることが面白くなかった。

 男からの情報提供を受けて、弟のディビットに何かあればアマリリスが悲しむだろうと急いで馬に跨り向かってみれば――。

「狙われていたのはディビットじゃなかったし、しかも――」

 挨拶もそこそこに、ユリウスが言いかけた嫌味を、相手の男は自分の唇に人差し指を押し当てて見せることで黙るように告げる。

「ちっ。思うようにしゃべれないというのもストレスだな」

 舌打ちして呟くユリウスに、男は笑みを深めた。

「ここも完全とは言えないからね。耳を完全に排除すれば逆に怪しまれる」

 ささやく様に、近くに居るユリウスだけに告げられた言葉。

「覚えとく。俺にも必要となることだからな」

「君は君らしくあれば良いんじゃないかな?」

「ふん。思ってもいないことを」

「これでも年若い友人を、僕は心配しているんだけどね」

 男は人好きのする笑みを浮かべる。

「だったら、さっさとアレを俺に寄こせ」

「無理だねぇ。僕にとっても、必要なものだからね。今は誰も首を縦に振らないよ」

 からかうようにかけられた、ユリウスが欲しがる本人さえも首を縦には振らないと告げられた言葉に

ユリウスは苛立ちを隠せない。

「そんなことは!!」

「無いなんて言えないだろ?」

 個よりも公を優先するであろうアマリリスの姿を思い浮かべ、ユリウスは奥歯をギリッと噛みしめた。

「数年ぶりに、ゆっくりと話せただろう? 学園で交わす上辺だけの短いものとは違ってね」

 それでも君の気持ちは変わらないかい? とでも本来なら続けたいのだろう、からかいを含んだ瞳でユリウスのことを男は見る。

「変わるくらいなら、騙されているさ」

 ディビットと面識は無い。無いからこそ、男装したアマリリスをディビットだと言われれば疑う余地など、どこにもなかった。それでも、一目見て、アマリリスだと自分は分かったのだと暗に告げて、ユリウスは男に釘を刺したつもりでいた。



 ※ ※ ※ 


 公爵家の屋敷に戻れば、リリアンが誘拐されたことを聞かされていたのだろう。無事なディビットとリリアンの姿に歓声が上がった。

 その後、リリアンはマクルメール子爵が迎えに来て無事を喜んだあと、叱られながら帰っていき、それを見送ったディビットの姿をしたアマリリスは疲れたからと部屋へ籠った。


 

 ぼんやりと、ディビットの部屋の中でアマリリスは机の前の椅子に腰かける。

 彼女にとってなじみのない部屋も、ここ数日過ごすことで見慣れてきた。

 わずかだが、アマリリス個人のものも置いてある。と言っても、それは数冊の本と療養した姉を見舞いに行くときに持っていくため預かっているという名目の僅かばかりの手紙なのだが。


 今日の出来事を思い出すたびに、アマリリスはどうしたいのかわからなくなっていた。

 アマリリスがリリアンの無事を確認したすぐ後に、外が騒がしくなり、騎士団と公爵家の護衛が到着した。

 彼らもまた、轍の跡を追ってきたのだと、アマリリスが扮したディビットに説明する。

 使用人街を馬車が通ることは珍しいからこそ、他の轍に紛れ隠されることなく早くに到着できたのだ。あまりの速さに、ジートル殿下の乳兄弟であり侍従のザックが、あと少し逃げるのが遅れていたことなどアマリリスは考えたくもなかった。

 王家を巻き込むであろう騒動など、今の時期に起これば、何がどう動くかわからないだけに不安しか残らない。

 残された馬車や家の中を騎士団は調べていたが、アマリリスはザックが証拠を残すようなことは無いだろうと確信していた。

 切られた傷は、その場で治癒魔法で治したから、跡が残ることもなく消えている。

 それなのに…… とアマリリスは切られた腕に視線を向け、消えた傷のあった場所へ指を這わせた。

 血で汚れるからというアマリリスの制止も気にせず、消えた傷跡をなぞるように這うユリウスの指。

 あの時のことを思い出せば、アマリリスは、その部分が熱をもつように感じるのだ。

「どうして……」

 こぼれた言葉は、自分への問いかけなのか、それともユリウスへのものなのか……

 アマリリスは机の上に置いてある本を開く。

 挟まれているのは、ユリウスから送られた見舞いの花束から一輪だけ抜き取り、魔法を使い色鮮やかに作った押し花。

 押し花の横、ページを濡らすようにポタリと落ちたしずくにアマリリスは、慌てて本を閉じた。

「どうして……」

 繰り返される問いかけの呟き。

 それは自分へ向けたものであり、ユリウスに向けたものであるのかもしれない。








 


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