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第27話 イベントが本気モード ⑥

 御者役の男一人と、ヒロインをさらった覆面姿の男は確実にいるだろう。それでまず、2人。

 家の中で待機している人間が、どれくらいかと建物の中の様子を伺うが、あまりにも静かだ。

 もしかすると誘拐にかかわった二人だけなのかもしれない。

 それならばヒロインの身の安全を考えるなら、応援が到着するのを待つよりも、今踏み込んだ方が良いだろうと、裏口のドアに手をかければ、かんぬきがかかっていないらしく、きしんだ音をたてながらもドアは開く。

 中の様子を伺いながら、半身を滑り込めせたその時 ――。

 ガキィン! と頭上で刃のぶつかり合う音。

 反射的に抜いて構えた剣にあたる力の重さに顔を顰めてしまう。

 頭上からの攻撃でなければ剣が弾き飛ばされていたかもしれない。

「なんだ。どこの賊かとおもったら、貴族の坊ちゃん達か。ここにはあんたらが欲しがるようなものなんかないぜ」

 剣を抜いた覆面姿の男の姿が、開き切ったドアから差し込む光で、よく見えるようになる。

 背後でユリウスも抜剣したのが気配でわかる。

「さっき、お前が攫っていった女性を返してもらおう」

「ふーん。確かにあの女、顔は美人だよね。でも、あんたが欲しがるほどのもんじゃないと思うぜ? それに、今、相棒がお楽しみ中」

 楽しそうな覆面姿の男の声。相棒が御者のことを指すのか、それ以外の仲間を指すのか。

 そして感じる既視感。

 声は聞いたことがない気がする。顔は隠れているが、少し猫背気味の立ち姿も記憶する人間とは一致しない。しかし…… あの剣の重み。そして、覆面から見える目。気のせいだと言ってしまえばそれまでなのだが……

「目的はなんだ?」

「あれ? てっきり怒り狂って襲い掛かってくるかと思ったのに。以外に薄情なんだね。それとも最初からどうでもよかったのかな?」

「ならば俺が相手をしよう」

 そう言ってユリウスが私の前にでる。

 一瞬、覆面から見える目に動揺が走ったように見えた。

 ユリウスが誰なのか知っている?

「まだ間に合うかもしれない」

 そういったユリウスの言葉に、私は首を振る。

「ここは私が。ユーリが彼女の元へ」

 幼い時に呼んでいた愛称で彼を促す。

「――― わかった」

 ユリウスが部屋を移動しようとすると、異変に気が付いたのか、反対側からドアが開けられる。

「なにしてんだよー。っていうかさぁ。あんなに上玉なのに、味見もしちゃダメなのかよ」

 そういいながら入ってきたのは御者を務めた男だった。男は部屋の中の光景を見ると一気に青ざめた。

「な…… なんだよ! 話と違うじゃねーか。オレは関係ねぇからな。ちょっと金もらって雇われただけだ。こんなのごめんだ!」

 そういって、逃げていく御者役の男。

「追うか?」

「リリアンを優先してくれ」

 私の言葉に頷くと、ユリウスは部屋を後にする。走る足音と一緒に、いくつかの部屋のドアを開ける音の後に、階段を上がる音が聞こえてきたからヒロインは2階に居るのだろう。

「さぁ、勝負と行こう」

 剣を構えた私に、覆面姿の男も構えを取る。

 あぁ…… 声も立ち姿も記憶にあるモノとは異なるが、剣を構えるその姿は、変えようがなかったのだろう。そのままだ。


 ガキンッと合わさる剣。

 力強く重い打ち込みに何度も剣を飛ばされた記憶がよみがえる。


 王子妃教育の一環である剣術訓練。剣術訓練とは言うが、まさか王子妃候補を騎士や兵士の中で訓練させるわけにはいかないから、おのずと剣を交える相手というのは決まっていた。


 女性で、ましてや女騎士でもない王子妃候補なのだから、力で勝てるわけがない。

 張り合うな。力で返そうとするな、力を流して防いで隙を狙え。


 王子妃教育の剣術訓練は勝つための訓練ではない。陛下や王妃、王太子、王太子妃、彼ら王族が逃げる時間を稼ぐためのもの。

 勝たなくていい。時間を稼げ。

 その教えの元に教育された剣なのだ。

「まさか……」

 覆面姿の男も、私の正体に、その可能性に気が付いたのだろう。

 零れ落ちた言葉と揺らいだ剣筋に、そのことを確信する。


「無事か!!」

 階段を走り下りる音と、ためらいなく開かれたドア。

 そちらに気を取られて、わずかに避けるのが遅れた。左腕に走った鋭い痛みと床にポタリと落ちた血痕。

「ここまでだ。その傷は貸だ。次に会う時、お互いに知らないふりだぜ」

 そう言って、覆面姿の男は…… ジートル殿下の乳兄弟であり、侍従のザックは裏口から走り出て行った。

 




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