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第25話 イベントが本気モード ④

 ヒロインが誘拐されたのは、予想していた下位商業区域ではなく、使用人街。下位商業区域であるなら誘拐犯のターゲットは不特定多数の中の条件の一致した者を誘拐したと考えることもできる。

 しかし、誘拐されたのが使用人街となると話は変わる。しかも、ヒロインは使用人ではなく貴族の令嬢だと一目でわかる服装をしていた。

 そうなると、誘拐犯の目的は情報を聞き出すためや、スパイとして使うために脅しの材料として、使用人や、その家族を狙って誘拐を企んだわけでは無いことがわかる。

 ならば、もともと身代金目当ての貴族令嬢の誘拐を企んでいたのかと考えると首をひねる部分がある。

 普通の令嬢は自分の足で出歩くことはない。馬車で目的地まで向かう。だから、いくら商業区域手前とはいえ、貴族令嬢を狙って誘拐するなら場所はここではない。

 もし貴族令嬢を狙ってのことなら商業区域で店内に手引きするものを準備して静かに行われるだろう。

 それなのに、ヒロインが使用人街で誘拐されたとなると、もともとの目的がヒロインだった場合と、誘拐犯にとっては運よく貴族令嬢が無防備にも一人で歩いていたところに出くわしたのどちらかなのだが……

 平民だって、貴族の財政状況がピンキリなのは知っている。貴族とは名ばかりの貧乏貴族が多数いることも。

 なので、馬車を使わずに供も連れずに歩いている令嬢を、いくら貴族とはいえ馬車まで使い身代金目当てに誘拐する可能性は低い。身代金目当ての誘拐犯なら、馬車を使えない供を連れて歩くこともできない貧乏貴族の令嬢とまずは思われるからだ。もっとも娼館なりどこかへ売るつもりなら、貴族の娘というだけで値は上がるだろうが、王都で誘拐した貴族の娘を王都の娼館に売るのはリスクが高い。貴族の娘というラベルを売りにするなら国内は無理だ。いくら領地が大きく栄えていても、そういった噂は領主の耳に入るし、取り締まる際の動きは王都よりも早い。それに規模の大きい場所でなければ売り手が望む金額は用意できないだろうから国内の線は高い可能性で消える。

 他国の娼館なら売り飛ばすことも可能だが、その可能性も低い。他国へ向かう道中のリスクや移動にかかるお金を考えれば、貴族の娘一人を、わざわざ売りに行くバカはいない。

 個人向けでなら一定の需要はあるかもしれないが、裕福であるからと言って商人が買うことはない。よほど、その人物に思い入れがあってなら、そういった依頼をすることもあるかもしれないが……

 それを踏まえれば、この誘拐はヒロインを狙ったものだ。

 ならば誘拐の目的は?

 目的はわからないが、ヒロイン誘拐の背後にいるのは確実に貴族だ。

 先日の王家主催の夜会で、彼女はその可憐な容姿を大勢の人間に披露した。まぁ、同時に淑女教育のダメっぷりも大いに晒してきたのだが。

 そこで、愛妾として目を付けた人間がいないとは言い切れない。

 時間をかけてマクルメール子爵に圧力をかけるなり、なんなりしてヒロインを愛妾にでもするつもりだったのがカプレーゼ公爵家のディビットの婚約者になってしまったことで執着を捨てきれない人間が動いた可能性もある。その場合はヒロインの生存率は格段に高い。

 逆にディビットの婚約者の座を狙う令嬢や、その家族が彼女を誘拐したのなら、ヒロインの生存率は低くなる。

 隠れてついてきた護衛に応援を呼んでくるように指示をすると、馬車が残していったわだちを追う。今は、まだ鮮明に見えるが、何かの要因で見えなくなる可能性もある。追える場所まで追うべきだ。

 轍に意識を向けながら走っていると、後ろから馬のいななきと足音。

「さっきの馬車を追うのか? 乗れ」

 かけられた声に視線を向けると、騎乗したユリウスが居た。

 どう答えるべきか迷う。アマリリスとしてならユリウスは知っているが、ディビットは彼とは面識はないはずだから。そして、面識のない彼が、なぜディビットを手伝おうをするのか……

 それに、ウィデント国の第三王子であるユリウスを巻き込んでいいことでもない。

 大体、彼を止めるべき侍従はどこにいるのだ。

 答えないでいると、馬上から二の腕を掴まれた。

 片手で手綱を握ったまま横へと身を乗り出し、二の腕を掴み、そのまま馬上へと引き上げようとする彼の行為に、馬が暴れる可能性を考えれば拒否することもできず、素直に馬へとまたがる。

「ご協力感謝いたします」

 感情がこもらないように気を付けて言葉にすると、背後から抱きしめるかのように手綱を握るユリウスを意識しないように、轍を見逃さないようにと、地面に残された轍に集中しようとしたのだが。

「お前は、そんな恰好で、何を始めたんだ?」

 耳元でささやかれた言葉に青ざめる。

「…… 初対面…… ですが?」

 轍を確認しながらユリウスは馬を走らせる。

「確かに、お前の弟のディビットとは面識はないな。だが、俺がアマリリスを見間違えるわけないだろ」

 ユリウスの言葉に私はなんと返せばいいのか、わからなくなってしまった。




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