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第22話 イベントが本気モード ①

 夏季休暇が明ければヒロインは学園に通うようになる。それまでにディビットとのイベントはいくつかあるのだが、こなす必要もないので無視。

 お茶会のイベントは、ヒロインの評判をこれ以上下げるわけにはいかないので、もちろん欠席させた。お茶会のイベントに出たところで、接触できるのはディビットだけだからね。婚約してるんだし必要ないでしょ。

 まぁ、メリルやベイクとも会うことになるのなら参加させてもよかったんだけどね。

 そのヒロインは、もちろん毎日のように公爵家に招かれて私と楽しいお茶の時間だ。

「楽しいお茶の時間??」

「そう楽しいお茶の時間」

 にっこり笑ってみせるとヒロインは嫌な顔をした。

 きっちり仕込めば、ちゃんとした淑女になれると思うんだよね。だってヒロインなんだから。

「嫌がらせの間違いじゃなくて?」

「大切な婚約者殿に嫌がらせなんてするわけないじゃないか」

 茶葉の種類にミルクの違い。ティーセットがどこの窯のものなのか。テーブルクロスだって目ざとく見分けなければいけないし。お菓子ひとつとっても、同じこと。使われている果物がどこの領のものなのか、チーズはもちろん、サンドイッチの具材まで。

 小麦だって取れる領で特色が異なる。他にも覚えなければならないことは山とある。

「美味しければいいじゃん!!」

「言葉づかい」

 端的に返すとヒロインはふて腐れて下を向いた。

「淑女教育を、ダーベル侯爵家の長男のビスク様にお願いしてもいいんだよ?」

 私の言葉にヒロインは固まる。

 1と呼ばれるゲームの大まかな内容も教えてもらったのだ。攻略対象が王太子と側近たちであること。そして、1のヒロインの淑女教育を行ったのがダーベル侯爵家の長男のビスク。ただし、この1のゲーム『線上のガラス細工の乙女』のヒロインは今のところ確認できていない。

王太子とはもちろん結ばれていないし、他の攻略対象とされている人たちも予定通り婚約者と結婚している。もっとも、逆ハーレムエンドだと屋敷を与えられて暮らしていくみたいなので、その線は捨てきれないのだが、逆ハーレムエンドの詳しい話は断固としてしてくれなかった。というか、このゲームに関しては言葉を濁す部分が多い。まぁ、過去の話になるから、そんなに話すのが嫌なら良いかと追及はしていない。

「美味しければよろしいと思うのですが?」

 ヒロインはビスクに淑女教育をされるのは嫌らしく素直に言い直した。

「美味しいのはあたりまえ。たとえば、このお菓子にのっているクルミ。これはプラン伯爵領のものなんだけど、他にもクルミの大産地ならルービカ男爵領、スノリア伯爵領がある。もちろん、とれるクルミにも特徴はあるし、そしてそれぞれに彼らと懇意にする貴族がいる。誰を招待するかでどこのクルミを使うか考えなければいけないし、主催者の意図を察して話題に出したり、出さなかったりしなきゃならない。

公爵夫人になるならこれくらいはね、できないと舐められるよ?」

「私みたいにマナーを知らないものが公爵家に嫁いでは、公爵家が笑われてしまいます。このたびの婚約なかったことに……」

「しないから。無理だからね。今、すごい勢いで俺と君の婚約は社交界で噂になってるよ。

 メリルとベイクを落としてポイするんだろ? だったら公爵家に相応しい令嬢にならないと鼻で笑われて相手にされないからね」

「ちがう…… ディビットは庇護欲だったり加虐心をあおるような感じなんだよぉ。なにこの悪魔」

 庇護欲と加虐心の両方をあおるってどういう意味なんだか。

 すこし休憩でも入れようかと思っていると、唐突にヒロインが立ち上がる。

「どうしたヒロイン?」

「…… その呼び方辞めてください。私の名前はリリアンです! お花を摘みに行ってきます!!」

 そういって部屋を出ていくヒロイン。その後ろ姿を追いかけるようにヒロイン付きの子爵家の侍女がついて行く。

「うん。歩く姿勢は、かなり良くなったね」

 私の問いかけに古参の侍女のリタが同意する。

「さようでございますね。リリアン様の成長は著しいと思います」

 そのままリタと雑談をしていると、青い顔をしたヒロイン付きの子爵家の侍女、名前は確かサラが1人で戻ってきた。

 視線で、リタにサラに問いかけるよう促す。

「サラさん。顔色が悪いようですが…… それに、リリアン様はどちらへ?」

「―― す… すいません。お嬢様が、トイレの窓から逃走いたしました」

 すごい勢いで頭を下げるサラが気の毒になってくる。

 トイレの窓から逃走って…… 淑女教育が足りなかったかな。

 まぁ、屋敷の敷地から出る前に、誰かに捕獲されるだろうと思っていたのだが、学園が夏季休暇が明けて始まる前にある、ディビットルートの一番大きなイベントのことを思い出した。

 もし、ディビットが言っていたシナリオの強制力というものがあるのなら、誰にも捕獲されることなく街へと抜け出してしまうのではないかと……


 

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