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第19話 ヒロインちゃん困惑する

 帰りは言葉通りに、公爵家の馬車で送ってもらった。

さすが公爵家の馬車だよね。椅子はフカフカだし、ピカピカしてるし、いい匂いするし、振動もない気がするよ……

 御者もイケメンだよ。どこで見つけてくるの? でも、うちの、おじいちゃん御者だって負けてないぞ! 孫を思い出すって言って頭撫でてくれるし。

 ―― なんかちがう? まぁ良いや。

 馬車の中から楽しそうにこちらを見ているディビットに、さっさと帰ってくれという意味を込めて手を振り返したら、いつの間にか隣に来ていた淑女教育の家庭教師に「カーテシー」と注意された。

 仕方ないので、途惑った表情の侍従の人に手伝ってもらい、もう一度馬車に乗り込んで、カーテンを閉めて降りようとしたら、デイビットが笑いをこらえようと頑張っていた。

 なんで? カーテン閉めて出てこいって意味じゃないの?

 どうしたものかと思っていると、ディビットが私の手を取って、馬車から降りるのを手伝ってくれる。

 そのまま一緒に降りると、いきなり跪いて、私の手の甲にキスを落とした。

 は? なぜ? いや、挨拶なのは漫画とかで見たことあるからわかるけど、これ私に必要??

 ディビットが馬車に再び乗り込むと、呆然とする私を残して、馬車は帰って行く。

 家庭教師に馬車を見送った後は引きずるように屋敷へと連れて行かれるが、なぜか屋敷の中が騒がしい。大掃除? 年末でもないのに??

 そのまま執務室と連れて行かれると、子爵が私を待っていたとでもいうように立ち上がって近寄ってくる。家庭教師は、私を執務室に入れると出て行ってしまったので、子爵と二人きり。

 困惑を隠せないといった子爵の顔に、私も首を傾げる。

「カプレーゼ公爵家のディビット君とはいつ知り合ったんだい? 親しかったのかい?」

「数日前に知り合って、今日で会うのが2回目です…… ちゃんと話したのも今日が初めてかな」

「2回目? 今日はいったいどんな話を?」

「えーと。…… いろいろ?」

 いきなり公爵家の馬車で送ってもらってきたから、子爵もびっくりしているのかな?

 でも、どんな話と聞かれても…… 乙女ゲームの話しをしてたなんてことは言えないし、ゲームを知ってる転生者だって言われた後からは、自分が築いた黒歴史に悶え苦しんで、聞かれるままに話した記憶はあるけど、何聞かれて話したかなんて覚えてないし…… いや、まぁ。悪役令嬢たちについて熱弁ふるった記憶はしっかりあるんだけどね。つい熱くなってしまった。

 それにしても、こっちがヒロインぶってあれこれしていたのを、乙女ゲームの内容を知ってる、攻略対象者に転生した人間に見られてて、私が転生者だと知られたんだよ~ なにこの精神攻撃。

 ヒロインに転生してシナリオ通りに動くのと、攻略対象に転生してシナリオ通りに動くのだったら、絶対、絶対、ヒロインのが恥ずかしいじゃん!! 他にゲームのこと知っている転生者がいるなんて思わないじゃん!! しってたらシナリオ通りに動かなかったよ。恥ずかしい!!

「それでだね…… リリアン。あー…… そのだね……」

 なんだろう? 子爵ずいぶん歯切れ悪いな??

「こんなことを娘に聞くのもだね…… うん、あれなんだけどね……」

「なんでしょう?」

「そのだね…… 既成事実的なことが、あったりしたのかなぁなんて。いや、変な意味ではなくてだね、娘を心配する父親としてね」

 ―――― 子爵の言葉の意味を理解して一気に顔が赤くなるのが自分でもわかる。

「ないないないないない。一切ない!!」

 叫んだ私の様子に、子爵は安心したように息を吐き出す。

 聞かれたことは恥ずかしかったけど、心配されたことはちょっと嬉しい。今度からはお父さんって呼んでみようかな。それともパパ? 

「それなら、私も喜んで、ディビット君のところへリリアンを送り出す準備ができるよ。こんなに早くリリアンの婚約が決まるとは思わなかったけれど、カプレーゼ公爵は人柄も良いし、ディビット君に望まれての婚約だ。幸せになりなさい」

「 ―― え? ごめん、意味が分かんないんだけど……」

「意味が分からないって、リリアンが帰ってくる少し前に、カプレーゼ公爵家からディビット君とリリアンの婚約を正式に申し込まれたんだよ。知らなかったのかい? 無理矢理に既成事実でも作られて、リリアンの合意は無かったとか言われたら、断固抗議して断るつもりだったのだが、そうじゃないみたいでよかったよ」

「………… え? あのディビットと?」

「おや? もう呼び捨てを許されるほどに仲がいいんだね」

「は? いや? え? そうじゃなくて!! 断って欲しいです!!」

「無理だよ。公爵家からの内々での打診ならともかく、正式な申し込みだ。断ることは通常できないよ。それに、望まれての婚約だ。娘に幸せになってもらいたい父親としては断る理由もないからね」

「望まれて??」

「いや、だってねぇ。リリアンの淑女としてのマナーは地を這うレベルだからね。このままだと婚約なんて夢のまた夢みたいな状況だったからね。それを知って公爵家に迎えたいと言ってくれているんだ。ディビット君のリリアンへの想いがそれだけ強いということだろう?」

 いや…… 普通のね、中身がアレじゃないディビットなら喜んだよ? こんなエンドもあるんだね~ぐらいでさ。


 急に前世のおばあちゃんの言葉を思い出した。

『口は災いの元っていうんだからね~。気を付けるんだよ? 特にお前は深く考えもせずに言葉にする癖があるからねぇ~』

 うん。おばあちゃん、今身に染みてる。


 前世のお母さんは呆れながら言ってくれた。

『楽しいのはわかるけど、ほどほどにして現実みなさいよ?』

 ほどほどにしとけばヒロイン転生なんてしなかったかな、お母さん。


 前世のお父さんはため息を吐いて言った。

『現実にこんな男いないぞ?』

 今が現実なら、こんな男がいたよ、お父さん。


 弟のくせに彼女持ちの奴は言いやがった。

『ねえちゃん。二次元とは結婚できないんだからさ、ちゃんとした生身の人間見つけた方が良いと思うぞ?』

 弟よ…… ねえちゃん、外見は二次元と結婚できるみたいだよ? あれ? でも、私も同次元にいるから二次元じゃないのか??

 






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