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第15話 え? イベントって……

 名前が違うんだよね。ディビットのノートにはヒロインはマクルメール子爵家の庶子『マリア』と書いてあったけれど、実際は『リリアン』

 偽物か前世知識を使っての入れ替わりか? とも考えたけれど、マクルメール子爵家側に、それを受け入れるメリットもなければ、騙されるほどお人よしでもない。

 ゲームだと、自由に名前を変えられるから、それの影響なのか……

 考えることは尽きないが…… 今、目の前で繰り広げられている茶番がゲームのイベントなのだろうか?

 


 夜会翌日の昼下がり、ディビットが商業区域を歩いていると、二人のガラの悪い男が女性に絡んでいる。

 ディビットが、それを冷めた目で見ていると、ヒロインが通りかかり、女性を守ろうと男二人に立ち向かい追い払うが、さらに、衛兵につきだそうと男たちを追いかけたヒロインは転び、その姿に『勇気と無謀は違うよ。またあったね、貴族の御嬢さん』とディビットが手を差し出す。

 

 というイベントらしいのだか……

「おうおう。美人のねーちゃんよー。どうしてくれんだよ!」

「そうだそうだ! 兄貴の洋服が汚れちまったじゃねーか!」

 女性の前で勝手に転んだ男性二人組が、棒読みで女性に文句をつけている。

 あまりの棒読みでの言葉に、周りに居る人間も、彼女を助けるべきなのか悩んで動けないし、絡まれている女性も、絡まれて困っているというより、どう反応すればいいのか困っているといった様子が見受けられる。

 何かの舞台の宣伝だとしたら、あまりにも役者が大根過ぎて逆効果だろう。

 っていうか、これがイベント? そんな訳ないよね。と通り過ぎようと思ったら……

「ちょっと! あんたたち男二人で女性に対して何してんのよ!!」

 ヒロインが女性を守るように、女性と男たちの間に割り込んだ。

 …………え? これがイベントなの??

 男たちの視線が戸惑ったように建物の陰に向かう。

 そこにはこれからデートですとでもいうように気合の入った服装の青年の姿。もっとも、いまは涙をこらえるためか空を仰ぎ見ているが。

 あぁ…… 女性に声をかけるか、好感度を上げるためのやらせだったのね。

 まぁ、失敗して良かったんじゃないのかな。あまりにも大根過ぎて逆効果だったと思うし。

 そんなことを考えていたら、失敗だと感じた男たちが逃げ出し、それをヒロインが「待ちなさいよ! 衛兵につきだしてあげるんだから!」と追いかけた。

 ――― うん、追いかけた。 追いかけてるね……。

 ヒロイン、転ばないの??


 仕方ないので、私も追いかけてみたけど…… なかなかヒロイン転ばない。

 どうしようかと思っていたら、ヒロインは何かに気づいたように立ち止まり、私の姿を確認すると、二、三歩進んで、転んだ……。期待するようなヒロインの視線。

 …… え? こんなのでいいの?

「勇気と無謀は違うよ。またあったね、貴族の御嬢さん」

 にっこり笑ってヒロインに手を差し出せば、嬉しそうに手を取った。

 ヒロインが立ち上がったところで、

「…… あぁ よかったわ」

 息切れのなか絞り出したような声がかけられ、そちらを向くと、さっき大根役者に絡まれていた女性の姿。どうやら、ヒロインが男たちを追いかけたのに驚いて、追ってきたらしい。

「助けてくれてありがとう。 追いかけて行くからびっくりしちゃったわ。親御さんが悲しむような危ないことはしないでね。でも、さっきは本当に助かったわ。どうしようかとおもったから」

 そういってヒロインのスカートに付いた土ぼこりを払う。

 まぁ…… あの大根役者相手に、周りに助けを求めたら、仲間だと思われそうだもんね。

 ある意味、あの微妙な空気をものともせず、女性を助けに入ったヒロインは凄いと思うけど……色々と鈍いんだろうね。

 女性がお礼を述べて去っていく。ヒロインと私だけになったわけだけど…… これで帰っていいのかな? 女性を助けるイベントがあって、あのセリフを言って、最後には初めて会った日と同じように。マクルメール子爵家に送っていくってノートには書いてあったけど。

「あ……あの! お姉さんは、その後大丈夫ですか!?」

 ヒロインの言葉に思わず動きが止まる。


 ………… あれ?

 ノートだとお茶会で出会うまでは、ヒロインはデイビットのことを商家の息子だと思っていて、お茶会で出会ってディビットが貴族であることを初めて知る。

 で、公爵家の嫡子であることを知るのは学園にディビットが入ってからだってことだったんだけど……

 あれ? もしかして、ディビットが初めて会った日に身分明かしているのかな?

 ヒロインを見れば、答えない私に不思議そうに首を傾げていたが…… 急にあたふたとし始める。

「あ! ごめんなさい!! ちょっと勘違いです!!」

 そう言って、ぶんぶんと首を横に振る。

 ―――― いや…… それは厳しい言い訳だと思う。





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