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第14話 帰宅?

「父さん! 姉さんが倒れたって!?」

 夜会翌日。昼になろうかという時分、ドタバタと激しい足音を立てながら、許可を取るでもなく、声を上げながら開かれた執務室のドア。

 アマリリスは静養という名目で、今朝早くに領地へと出発している。領地と言っても、王都から遠く離れていないので、馬車でも夕暮れ前には到着するだろう。

 信頼できる侍女長のアンと、妻のエクレルが同行している。

 

開け放たれたドアに目をやれば、息を乱したディビットの姿。

 ディビットの後ろでは涙を流して喜んでいる侍女や侍従の様子がみえる。


「とにかく…… 無事お前が戻ってきてくれて嬉しいよ。リズは無事だよ。療養のため領地に向かっている所だ。さぁ、こっちで詳しい話をしよう。―― エド。 許可があるまで誰も近づけないように」

 侍従のエドは、ちらりと窓の外に視線を走らせると、恭しく頭を下げ執務室を後にする。


「アマリリスの治療具合が皆気になるのだろう」

 表向きは、第二王子の婚約者候補筆頭という立場だから、第二王子妃の立場を手に入れたい家からしたら気になるのは仕方がない。

 掃除が済んだのを確認すると、私は涙をこらえるのをやめた。

 早朝、領地へと旅立った時には、金色の髪が流れるように背中で揺れていた。それが今、無い!! 

 ディビットの振りをしたアマリリスだと思ったが、やっぱりディビット…… ってことはないなぁ。

 娘と息子の区別ぐらい、いくら似せていても親だから出来てしまう。




  ※ ※ ※


「リズ~~ 髪は? あの美しい髪は??」

 泣きながらすがってくるお父様に、思わず私は後ずさる。

「バッサリと切りました。ディビットの振りをするのに、邪魔でしたし」

「………」

 黙ったまま髪を見つめたままのお父様。微妙に手も震えていて、怖い…… そんなショックを受けることかなぁ。ディビットの振りをする時点でわかりきっていたと思うんだけど。

「えーと。ディビットが戻ってきたときに私が必要にもなりますので、切ったところを松脂マツヤニで固めて取ってありますよ? 今はエルザに身代わりしてもらうために使ってもらっていますけど ―― とりあえず、お父様、お話できないので涙を止めていただけますか?」

「…… すまん。取り乱した。そうだな…… ディビットの振りをするということは髪を短くするということだからな……」

 涙を拭い、毅然とした態度になるお父様に安心する。

「そうですわね。でも、デイビットが長めの髪型で助かりましたわ。入れ替わりのことを考えると、これからは髪を伸ばしていかなければなりませんけど、切った髪を結って誤魔化すにしても、あまりにも短髪だと伸ばしたところで結うことができるぐらいまで伸びたか怪しいですもの」

「しかし…… 髪を短くしただけで、こうもディビットそっくりになるもんなんだな」

「まぁ、姉弟ですし、顔は二人ともお母様似ですし、髪色も同じですからね。もともと、ディビットが同年代の子よりも身長が低めで幼げな顔立ち…… というより女顔でしたから取れた方法ですけど」

「…… ディビットの前では言ってやるなよ」

「心得ておりますわ」

「ところで、エクレルはまだ怒っているかな?」

「お母様ですか? ……私には怒っていませんでしたわよ」

「まだ怒っているんだな……」

「夜会でのことをお母様にお話しするのをお忘れになったのはお父様でしょう」

「近いうちに領地に顔を出す」

「それが良いと思いますわ。さっきのでディビットが姉を心配して戻ってきたということが、出奔したという情報を手に入れていた者たちの耳にも入るでしょうし、お父様がこの時期に領地に向かわれても娘を心配してのことと探られることもないでしょう。もっとも治療具合には興味を持って探りを入れてくるのでしょうけれど。 ―― お父様、何か?」

 複雑そうな、気持ち悪そうなお父様の様子に首を傾げる。

「……いや、息子が女の話し方をしている様子に違和感がないというのも複雑な気持ちだな、と」

「以後気を付けます。どこかでボロが出ても困りますし」

「あぁ、頼む」

「父さんはできるだけ早く、領地へ姉さんの見舞いと母さんのご機嫌取りに行った方が良いよ」

 ディビットらしく言った言葉に、お父様は苦笑いする。

「王都でお前がアマリリスであることを知っているのは、陛下と王太子、王家筆頭侍医のダヤル医、執事のバーランと私だけだ。

 ずっとディビットの振りをするのも大変だろう。私の前では可愛いリズでいてくれて構わないと言いたいところだが、お前がディビットの振りをしていたということが公になれば、貴族令嬢であるアマリリス、お前は大きなダメージを受ける」

「覚悟の上ですよ、父さん」

「―― 親としては意に沿わないことはさせたくないのだがな……」

 公爵家当主として、国の要職を務めるものとしての立場と子の親という立場。

「公爵家に生まれたからこそ得られたものは多いと俺は思っているよ」

 お父様が指す言葉が、今回のことなのか、王太子妃のことなのかはわからないが……

「父さんが気に病む必要はないよ。 それと、これからちょっと街に出かけるから」

「は?」

 吃驚したお父様の顔に笑いが漏れる。

「ディビットなら街に抜け出すのは当たり前。父さんに断っているだけ成長しただろ?」

 ディビットの残したノート通り、ここがゲームの世界と元を同じくするものであるなら、ヒロインちゃんとのイベント、こなさないとねぇ~。

 ヒロインちゃん逆ハー狙いみたいだし、実際にイベントが起きるのかの確認もしたい。






  


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