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第13話 第二王子 ジートル殿下

 やはり彼女は輝いていた。

 会場の中、彼女の姿は、探すまでもなく目に留まり僕を引き付ける。


「あれだけマナーがなってなければ誰でも目に留まると思います」


 毒に倒れたアマリリスを助ける優しさ。


「アマリリス様だったからよかったですけど、あれ、他の高位貴族の方だったら、暗殺未遂の共犯で切り捨てられても文句言えない状態でしたけど……マクルメール子爵家って、そこそこお金はありますけど、中立派の弱小貴族ですし」


「……………」

「どうかしましたか殿下?」

「ザック。お前は乳兄弟だからと言って遠慮がなさすぎないか!! 不敬罪にするぞ!! 大体、なんで僕が考えていることがわかるんだ!!」

「殿下、全部口にしていますよ。侍従や侍女はいていないものだとお思いなんでしょうけど、誰の目と耳がついているかわかりませんので気を付けてくださいね」

「そんなことは十分わかっている!! 神殿に向かう、誰もついてくるな! 特にザックお前は!!」

「そんなことできるわけないでしょう。ご希望通り、私は同行しませんけど、衛兵は同行させますからね」

「わかっている!!」

「本当にわかってるんですか~? 誰に誰の目と耳がついているかわからないですよ~」

 間延びしたザックの声を後ろに、僕は急いで部屋を出た。


 馬車の支度をさせ、日課である神殿へ向かう。

 神殿に到着すれば、神殿長だなんだとうるさいのが寄ってくるが軽くあしらって祈りの間に入る。

 神殿はどうやら第二王子派に属するつもりらしい。

 第二王子派などとは言っているが、ようは側妃派だ。

 安定を望むなら第一王子派に付くだろう。野心を持てば側妃派に転がる。

 現に、自分が一度送った一生の中で、神殿は終始第一王子を王太子に押していたのだから。

 僕の信仰心が篤いことから、僕が王太子になり、いずれ国を継ぐのなら優遇されると神殿側は欲を出したのだろう。

「偉大なる神よ。神の御心に感謝いたします」

 僕は祈りを捧げる。前の生で、こんなに神に対して真剣に祈ったことなどなかった。

 神が僕に与えてくれた二度目の生。

 こんどこそ僕は、彼女を…… 『リア』を手に入れる。

 一度目の生ではリアを手に入れることはできなかった。リアはエリオットと結ばれた。

 なぜ、リアは僕を選んでくれなかったのだろう。

 予定通り僕は婚約者のアマリリスと結婚した。正直、アマリリスのことは重く感じていたが仕方がなかった。リアはエリオットを選んだのだから。

 彼女は僕と二人の時はベールも手袋も外す。酷いというような傷跡ではない。

 男なら、戦場でついたか訓練でついたかと興味も持たれない程度の傷跡だ。

 それでも、その傷跡が貴族の女性にとって自分の価値を半減させるものだということも知っている。

 その傷跡を僕にだけ見せるアマリリスに責められているように感じるのは僕が真実を知っているからだ。

 弟の魔力暴走によってついた傷だが、それは側妃である母上が、僕とアマリリスの婚約を確かにするために仕組んだものだった。

 当時、アマリリス嬢にはウィデント国の第三王子への婚約話が内々に進んでいた。

 母上は、僕を王太子にすることを諦めておらず、その足掛かりとして、公爵家の後ろ盾が欲しくてアマリリスを狙った。

顔に傷跡の残った令嬢を迎える家など限られてくるし、母上の狙い通り、ウィデント国の第三王子との縁談は立ち消えた。

 僕がアマリリスに優しい言葉をかければアマリリスが僕の婚約者になることを強引に願い出るだろうという母上の読み通り、アマリリスは強引に僕の婚約者へとなった。

 通常なら、アマリリスを僕の婚約者にしたことぐらいで、僕が王太子になることはない。

 王太子である第一王子の兄は、王妃の子であるし、学問、魔法、剣術、政治的手腕、どれをとっても優秀な人物だからだ。

 ただ…… 王太子妃が平民あがりの女性だった。

 貴族の庶子として市井で暮らしてきたというものではなく、貴族の血が混じっていない、生粋の平民。

 侯爵家の養子となり教養やマナーなど体裁を整え、知らなければ誰もが高位貴族の令嬢だと思うぐらいに変貌を遂げていたが…… 

 それでも元平民の女性を王妃に迎えることに抵抗を覚える貴族も多かった。

 そこを母上は狙った。

 僕を王太子にして、第一王子には、その補佐をさせればいいと。

 それでも兄上が王太子であることが揺るがないと知ると、母上は王妃様を毒殺しようとした。


 昼下がりのお茶会。侍女や王妃様の目を盗むように、母上は王妃様のカップに何かを落とした。

 それを見ていたのは僕だけ。

 僕を導くかのように、急に窓の外が暗くなり雷鳴がとどろいた。

 母上の視線も王妃様も侍女の視線も窓の外へと向かったまま。

 ――― 僕は王妃様と母上のカップをすり替えた。


 毒に倒れ帰らぬ人となった母上。最後に僕を見たのは、親の愛情? それとも僕がすり替えたのに気付いたから? 

 泣いて事情を話す僕を王妃様は優しく抱きしめてくれた。貴方も私の子よと僕を守ってくれた。


 ……そう、そんな人を僕は、二度目の生では見殺しにした。

 気づかないふり、見ないふりをする人間なんて沢山いる。僕もそれと同じことをしただけ。

 お茶会にはわざと参加しなかった。居たらきっと、また同じことをしてしまうから。

 兄上が前の生と同じように、平民の少女を王太子妃に迎えていたら、僕は、お茶会に参加して、カップをまた入れ替えていたかもしれない。

 でも、兄上は、今度は平民の少女を王太子妃にはしなかった。それどころか婚約者さえ決まっていない。

 今回、ウィデント国との縁談は持ち上がらなかったが、母上は同じようにアマリリスを狙った。しかし、顔や腕に傷跡が残ることはなかった。今回の毒物騒ぎで、口の周りも爛れたが、それも綺麗に治るみたいだ。


 これは、きっと神のお導き。

 王太子であった兄上は、愛する平民の少女を王太子妃に迎えることができた。

 神様 神様。 感謝します。

 こんどこそ『リア』を僕は手に入れます。

 王太子になんて興味はないけれど、『リア』が手に入るのなら……





 




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