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第12話 お父さんは心配です

 私と妻エクレルの間には二人の子供がいる。

 二人ともとても優秀だ。

 長女のアマリリスは昔から年齢の割に冷めているところがあった。

 第二王子の婚約者候補になったことを告げれば、喜ぶでもなく、仕方がないというように頷く。

 他の家の同じように候補になったことを告げられた娘は声を上げて喜んだというのにだ。

 私から見れば、第二王子の良い所だなんて信仰が厚いところと容姿ぐらいだろうが、王子妃は貴族の娘なら魅力的に見えるだろうに。

 対して嫡男のディビットは幼い時から女嫌いだった。アマリリスも、ディビットも整った容姿をしているので、異常なまでに嫌うその様子に、侍女に襲われでもしたかと勘ぐって調べてみたものの、そんな事実はなかった。一時期は姉であるアマリリスともぎこちなくなっていたが、事故の後からは以前よりも仲睦まじくなったようだ。

 そんなディビットが出奔した。

 以前から、そのような兆候がなかったと言えば嘘になる。

 なぜか、第二王子のジートル殿下とアマリリスを婚約させないように嘆願してきたこともあったし、わけのわからない要求をしてきたこともあった。おかげで、妻には浮気を疑われた。


 王家主催の夏の夜会。

陛下と王太子殿下には根回しが済んでいるが、王太子殿下は苦い顔をしていた。

アマリリスがディビットの身代わりを務めることに苦い顔をしたわけでは無く、アマリリスが一年ほどの間、身を隠すための理由に用いる手法が気に入らないからだろう。

 私も、その方法以外にないのかと確認したくらいだ。

 それにアマリリスは微笑んで当たり前のように答えた。

「それで狐が騒げば情報が得られるでしょう?」

 暗に、王妃や隣国の姫の毒殺にかかわった人間に動揺が走るだろうということなんだろうが……狐たちが騒ぎすぎて、身分を隠して留学してきている隣国の王子に余計な情報を渡さずに済むといいのだが……。まぁ、渡らないようにするのも私の仕事なのだが。

 条件が整ったらしくアマリリスが私に目配せをしてくる。

 ふむ。隣に立っている少女が噂のマクルメール子爵家の庶子か。

 アマリリスが飲み物を口に運ぶと計画通り毒殺を思わせるように血を吐いて倒れる。

 それを見た妻のエクレルが半狂乱になって娘にかけよる。 ――演技派だな。

 あ…… エクレルに今回の説明するの忘れた。


 マクルメール子爵家の令嬢、リリアンが咄嗟に治癒魔法をアマリリスにかける。

 アマリリスは、マクルメール子爵家の令嬢が治癒魔法をかけてもかけなくてもどちらでも構わないといっていた。

 彼女に対する人物評価が変わるだけで計画には支障がないけれど、彼女が治癒魔法をかける前に自分がアマリリスだと彼女が分かるようにしてくれと言っていたが、エクレルが半狂乱でアマリリスの名前を叫んでいたからこれも問題ないだろう。

 アマリリスは別室に運ばれ、マクルメール子爵と令嬢のリリアンにも同行を命じる。

 陛下のお言葉により、夜会は引き続き行われることになり、陛下と王太子殿下、第二王子殿下が中座して、アマリリスが運ばれた部屋へやってくる。

 部屋のドアが閉まると聞こえていた音楽もぴたりと聞こえなくなる。

「おそらく毒物でしょうな」

 王家筆頭侍医のダヤル医の言葉に場に重い空気が下りる。

 部屋の中にいるのは、アマリリス、マクルメール子爵と令嬢のリリアン、陛下、王太子殿下、第二王子、王家筆頭侍医のダヤル医に私の8名だ。

 もっとも、耳はそれ以上にあるのだが、わざと聞かせるために排除はしていない。

 エクレルはリリアン嬢の治癒魔法で一命を取り留めた娘を見て安心から気を失い倒れたので先に屋敷へと戻らせた。

 エクレルが事実を知った時が恐ろしい……


「喉と口の中や周りが爛れております。一命を取り留めたのは、リリアン様の咄嗟の治癒魔法のおかげでしょうな。ただ……現時点でこれ以上の回復は無理かと。リリアン様に再度治癒魔法をお願いいたしましたが、これ以上良くなることはございませんでした。幸い、アマリリス様は治癒魔法を使えますので、時間をかけてご自分で治療するしかないでしょう」

 ダヤル医の言葉に納得いかないというようにリリアン嬢が首を傾げる。

「あの、貴方が治癒魔法をかけるんじゃダメなんですか?」

 慌てて、マクルメール子爵がリリアン嬢の口を手でふさいで頭を下げる。

 一応、陛下の前だからね……子爵、淑女教育に苦労してそうだな。

「よいよい。気にするな。つい最近まで市井で暮らしていたと聞いておる。疑問も当然だろう。ダヤル、説明してやりなさい」

 陛下の言葉にダヤル医は頭を下げるとリリアン嬢に向き直る。

「治癒魔法には制限がございます。一つの傷や病を治すために治癒魔法をかけた場合、最初に治癒魔法を使った者の治療が不満足でも、次に別の者が治癒魔法をかけることができないのです。先にかけた治癒魔法が後からの治癒魔法をはじきます。不満足な治癒魔法をかけた場合、その後は、そこから自然と治るのを待つしかありません。治れば治癒魔法が消え、そこに新しく怪我や病を患っても別の者が治癒魔法をかけることができます。

 例外があるとすれば、傷や病を患った者が治癒魔法を使える場合です。その場合は、自分以外の者が治癒魔法をかけて不十分だった場合、自分で再度治癒魔法をかけることができます。その逆はできませんが」

「アマリリス嬢の治癒までにはどれくらいかかりそうだ?」

「およそ一年かと。アマリリス嬢は腕の良い治癒魔法使いとモーラン殿からも聞いてはおりますが、声も出せない状態であることを考えれば、爛れが治癒した後に、声を出す訓練なども必要でしょうから、そのくらいは必要かと」

 神妙な顔でダヤル医は語っているが、もちろん彼も仲間で、この茶番を知っている。

 アマリリスにかかれば、一瞬で治ってしまうことも、喉や口の中、口元の爛れが毒ではなくアマリリスの治癒魔法によるということも。

 治癒魔法とは人の体の怪我や病も治せるが、逆を返せば治癒魔法によって体を傷つけることもできるということ。その危険性から治癒魔法の適格者は能力が低くても国に登録、管理される。

 なので、潜りでやっている治癒魔法使いは表では口にできない仕事をやってきた人間でもある。

「……あ、じゃぁ。私が治癒魔法かけなければ……」

 落ち込んだようなリリアン嬢の言葉に、アマリリスは彼女の手を取ると首を振る。

 ダヤル医に紙とペンを借りると、書き付け、それをリリアン嬢に見せる。

『貴女が助けてくれなければ私は死んでいました。心より感謝しています』

「うぅ~ アマリリスちゃん良い子だよ~」

 ぐすぐすと泣き出したリリアン嬢にマクルメール子爵は文字通り頭を抱えていた。

 まぁ……公爵令嬢をちゃんづけはないよなぁ。

 そして娘よ。良いもの見つけたとばかりに、嬉しそうにリリアン嬢を見るのを辞めなさい。

 ジートル殿下が不審な目でお前を見ているぞ。












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