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第10話 ガラス細工の乙女たち

 弟が私宛に残していったノート。

 自室に戻ると、人払いをして中身を確認する。

表紙を開くと、弟からの『ヒロインはビッチだった!! 俺無理!! 絶対無理!! なので逃げます。ごめんね、姉さん』という出奔理由の日本語の書置き。

 次のページをめくると、書置きの字より色あせたインクで書かれた日本語。

 インクの色具合から、かなり前に書かれたものだということがわかる。

「前世の記憶を思い出した時から書き始めたのかしら? でも……ディビットは気づいてるのかしら?」

 ノートに書かれているのは、ディビットが前世でプレイした、ここと同じ世界だといっていた乙女ゲームについて。

 攻略対象はもちろん、ヒロインについて。

 そして、私を含めた悪役令嬢役の設定や背景。

 ヒロインが攻略対象を攻略するためのルートも、バッドエンド、ノーマルエンド、ハッピーエンドの三種類で、その分岐もきちんと書かれている…… 正直不気味だ。

 どれだけこのゲームが好きだったの?

 別に男だから乙女ゲームがダメだと言わない。面白ければ男性向けだろうが女性向けだろうが子供向けだろうが、年齢制限がかかっていないものは、年齢性別を越えて楽しめるものだし。

 ただ……ここまで細かく書けるものなのかしら? 前世ではスマホのパズルゲームぐらいしかプレイしたことがない自分にはわからない。

 そして……思わずため息がこぼれる。

「記憶力を褒めるべきか……迂闊さをしかるべきか……」

 ディビットは、前世でプレイした乙女ゲームとしか私の前で言わなかったが、ノートには、乙女ゲームのタイトルも書かれていた『ガラス細工の乙女たち2』

 そう。『2』である。2ということは1がある。 

それだけならともかく、攻略対象の設定に異なる部分がある。

 第二王子のジートル殿下がディビットの残したゲームの情報だと、第一王子と同腹なのよね。

 つまり王妃様の子で側室がいないことになっている。

 そして、現実の王妃様は3年前にお亡くなりになっているのに、ゲームの中には王妃様が登場している。

 この国では、王妃が亡くなったからといって、側室が繰り上がって王妃になるということは無い。

側室は側室のままだ。それは側室は子をなすために召し上げたものであり、王妃の器があると認めたわけでは無いというシビアな理由だ。

 王妃が亡くなり、新たに王妃を迎える必要があれば、その時の状況に応じて王妃を迎えることになる。跡継ぎが健在であり、王太子として問題がないのであれば、外交政策として他国の姫を迎えることもある。といっても後継者問題を起こさないように、王族という身分故に嫁ぎ先に恵まれなかった子をなす年齢を過ぎた姫を迎えるのだが。

 

 ゲームとの違いと言えば、王妃が亡くなっていること、第二王子のジートル殿下が王妃ではなく側室の子であること。その二つだけなのだが……

「これをどう受けとるかよね。ゲームと現実の違い、ゲームに似ているだけであって、ゲームとは関係ない世界だと受け取るのは簡単だけれど…… なぜ、ここだけこんなにあからさまに異なるのかしら……」

 まぁ、現時点で私の顔や腕に傷が残っていないことも、第二王子ジートル殿下の婚約者に現時点でなっていないどころか、王太子妃確実な状態を考えれば、ここもかなりゲームからずれてはいる。

 傷に関しては、残ることなく治せたのは治癒魔法を私が使えたらからだし、王太子妃確実な現状に関しては、公爵家の長女で王子妃教育も済んでいる。政治的パワーバランスを王太子側に傾けるにも私が一番良かったというそれだけのこと。

 それだけのことなのだが……

 ふと思い出したのはディビットの魔力が暴走した時のこと。

 ゲームのシナリヲの予定調和の為に、あのタイミングで私に向かってきたのだろうと、ディビットの話を聞いた後には、そんなことを思いもしたのだが……


「王城は魔窟…… てところかしら。 まぁ、ヒロインはビッチだったってディビットが書置き残して逃げるくらいだから、ヒロインも転生者かしらね。容赦しなくていいのは楽だけれど……」

 私はディビットが残したノートをペラペラと確認する。

「ヒロインの生い立ちも、マクルメール子爵家の庶子なのもわかったけど……肝心の容姿については何も書かれていないのよね……」

 明日の王家主催の夜会にヒロインも参加する。そして悪役令嬢たる私と、ひと悶着起こし攻略対象の目に留まる。それは構わないのだが…… 問題は、明日の王宮の夜会は、王城勤めをしていない遠方の領主の令嬢子息も参加してくるため、見知らぬ令嬢がいたからと言ってヒロインとは決めつけられないことだろうか。

 それに私自身が、明日の王宮の夜会が正式な社交界デビューになる。

 15歳の時に行われる王宮の夏の夜会。それが貴族の令嬢令息の正式な社交界デビューとなる。

 それを迎えるまでは、参加ができるのはお茶会まで。各屋敷で行われる夜会などには出席しないし、招待しないのが慣例だ。

 お母様についてお茶会に顔を出したりはしたけれど、公爵家に縁のある方ばかりだし、公爵・侯爵家なら必ず通わせるが子爵・男爵家になると学園に通わない令嬢も多い。

 ノートの通りなら、ヒロインはマナーに問題があるようだけれど……。

「ゲーム通りにベールで顔を覆えば向こうから寄ってくるでしょうけど」

 そんな真似するわけにもいかない。

 それよりも、明日の夜会で、自分がデビューしてすぐなのに、一年ほど社交界や学園から姿を消すための下準備を行わなければならない。

 もっとも、ディビットが見つかり入れ替わるまでの間、どこにも公爵令嬢アマリリスが弟のディビットと一緒に姿を見せないのも妙な憶測を生むことになりかねないので、そのあたりはエルザの協力を得ようと思っている。





 

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