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第9話 理解不能な生き物

 勉強や剣術、魔法の勉強は楽しい。算術に至っては義務教育レベルまでなので楽勝だ。

 歴史や前世には存在しなかった動植物の生態を学ぶことも面白い。

 言語に関しては必要不可欠だし、マナーも公爵家の長男なら必要なことだから学ぶことに異論はない。

 ただ…… 9歳になってから始まった、ダンスは必要か? と思う。 っていうか好きでもない女と踊りたくない。

 姉さんに、そう訴えたら、なら、好きな女の子と踊れるように習いなさいと縄で縛られて先生のもとに毎回連れて行かれるようになった。

 姉さん強い……

 狩猟の会は父さんについて喜んで出かけた。

けれど、母さんと姉さんのお茶会について行くのを、社交界デビューしていない俺は参加もオマケ的扱いなんだからと拒否したら耳引っ張って姉さんに連れて行かれた。

 姉さん……母さんの目が丸くなってるよ……。

 お茶会の会場についたら着飾った女が寄ってくる。その年で化粧必要!? 香水いる!? 姉さんも化粧と香水はつけているけど、化粧は薄めだし、香水も、隣にぴたりと座らないとわからないぐらいのもので儀礼的な意味合いが強い。

会場につけば、姉さんは俺にかまっていられなくなるから、周りの目を盗んで木の上に登って終わりまで待ったりした。

 オマケとはいえお茶会に参加するようになると、父さんから領地経営の仕事も教わるようになった。

 これがなかなか面白い。姉さんがだした案が既にいくつか採用されていて、他の領地の貴族が視察に訪れることもあるそうだ。

 俺も何かできないかと、その為には平民の暮らしを自分の目で見ることも必要だよな~と、まずは城下へと抜け出した。

 王都は王城を中心に、円を描くように町が造られている。

 王城を囲むように貴族の屋敷があり、それは外に向かうほど爵位が低くなる。騎士として独立している者の家もこのエリアに入る。それをさらに囲むように、王城や貴族に使える者の家が置かれる。

 そして、商業区域と呼ばれるエリアがあり、これもまた貴族や裕福な商人などの富裕層に向けたものは内側に。そうでないものになるほど外側にとなるように配置されている。

 次に平民の住居と兵士の住居が混在する形で囲うように配置され、その外側に行商人や、露天販売を行うための場所が置かれている。

 基本的にどこのエリアも王城以外は出入りは自由だが、身分に合わない場所に居れば目立つ。逆を言えば身なりを、そのエリアに合うようにすれば目立たないということでもある。

 なので、俺は一番地味な服を選び屋敷を抜け出し、段階的に洋服を手に入れていき、最終的に平民の服を手に入れた。平民の友人もできたし、顔なじみになった商人もできた。

 姉さんが学園に入ってからは、お茶会に耳を引っ張って連れて行かれることも、縄で縛られてダンスの練習に連れて行かれていくこともなくなって逃げやすくなった。

 領主としての仕事の勉強は増えていったが面白かった。だからといって屋敷を抜け出す頻度が減るわけではなかったが。

 そんな生活の繰り返しから、俺は、ここが乙女ゲームの世界であることを、忘れかけていた時に俺はヒロインに出逢った。

  

 攻略対象である俺がヒロインと最初に合うのは、学園ではない。

 他の攻略対象は学園に転入してくる前にヒロインが出席した王家主催の夜会で彼女を見かけたところから始まる。そして学園でゲームは本格的に始まっていく。

 しかし、俺は他の攻略対象と出会う前、王家主催の夜会が行われる前に、ヒロインと王都の商業区域側の平民と兵士の住居エリア近くで出会うのだ。

 なぜかというと、俺が、まだ学園に入っていないから。

 攻略対象である俺が学園に入る半年前からゲームはスタートする。そのため、俺が攻略対象であるルートをプレイするのであれば、前半部分は、王都での事件に巻き込まれたり、お茶会での出会いや、王都での偶然の出会いを重ねることで攻略を進めて、俺が学園に入ると同時にストーリーが一気に進むつくりになっていた。

 このゲームには逆ハーレムルートは無かった。なので、俺と出逢う為にヒロインが屋敷を抜け出すという選択をすると、俺ルートが固定される。ただし、このルートを選んだ時は脱出系のミニゲームがあるので、それで無事脱出できればの話だ。無事脱出できなければ、他の攻略対象のルートの分岐点へと向かう。

 そして、そのヒロインと俺は先ほど出会ってしまったのだ。

 今日は商業区域で情報収集をするつもりだったので、それに合わせた小奇麗な格好をしている。

 ぎりぎり商業区域である、その場所でヒロインはゲーム通りに泣いていた。

 こんなとこで貴族とわかる格好の女の子が護衛もつけずにいるだけでも危ない。ヒロインとはかかわりたくないが、仕方がないと諦めて、俺はゲーム通りに声をかけることになった。

「貴族の御嬢さんが、こんなとこに居たら危ないよ。送っていくから早く帰った方がいいよ」

「……あなたも、ベルと同じようなことを言うのね。あたしはもともと平民よ。大丈夫だわ。それに好きで貴族になったわけじゃないわ。貴族になったら仲良しの友達とも会えなくなるの? あたしが貴族になったから、ベルはもうあたしの友達じゃなくなるの?」

 そういって泣き出したんだけど……なんか違和感を感じる。

 ヒロインはマクルメール子爵家の庶子として平民の中で育つ。しかし、母親が病に侵されたことから治癒魔法の適正があることが判明する。残念ながら適正はあっても治癒魔法の勉強をしたことがないヒロインは母親を救うことができず、適正者が少ない治癒魔法を使えるということから、マクルメール子爵家に迎えられるのだ。ヒロインも治癒魔法の勉強ができて、母親を救うことはできなかったが、他の病や怪我に苦しむ人を救いたいとマクルメール子爵家に入ることを決意する。しかし、15歳まで平民として育ってきたこともあって、マナーにダンスに勉強にと学ばなくてはならないことが山積みで、それが辛くなり、息抜きにと平民の時に仲が良かった友達のベルを訪ねてみたら、危ないからさっさと帰れと怒鳴りつけられて、出会いのシーンということなんだけど……

 俺が促すまでもなく、ヒロインが全部、そのことを涙ながらにぺらぺらと話してくれました。

 おかしくない? そういう仕様なの?? そういうプログラムでもされてるの? 

 確かに、ゲームでもヒロインは攻略対象に会った時に身の上を語るけど……語るけど……

 現実問題、初対面の人間にここまでしゃべる子って気持ち悪くない?

 適当に相槌打ちながら、ヒロインを屋敷まで送っていきました。公爵・侯爵になると門に警備の兵を配置していたりするが、子爵家以下はそれもないので、堂々と門の近くまで送る。

 後姿を見送りながら、風魔法を使う。

 ヒロインの姿が門の中へと入り……

「ゲームでは逆ハールートなかったけど、現実ならできちゃうもんね~」

というヒロインの声を風魔法が運んできた。

 あー。そうだよね、悪役令嬢が転生者なんだから、ヒロインも転生者だよね。

 鳥肌が立った腕をさすりながら、今日はもう屋敷に戻ろうと心に決めた。









お読みいただきありがとうございます。

本日より、ご指摘いただいた部分や誤字脱字等を修正していきたいと思います。

ストリーが大幅に変わることはありませんが、修正のタイミングによっては読み込みエラーなどもあるかもしれませんので、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。


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