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布袋から錦三まで

作者: 朝宮ひとみ

・あえてタイトルと出だしで知っている人にはわかるようにしました。

・作者の最寄り駅ではありません。

・作者は飲めないので錦三の描写はできませんでした。

・むしろ名古屋以外の終電ていつごろまであるの?

 あなたの身近な場所に、大仏はおわすだろうか。

 あなたは、その大仏をじっと観察したことはあるだろうか。




 錦三きんさんのとある居酒屋に、若い坊主がいた。居酒屋で酒を飲んでいるのだし、成人しているふうに見えるが、それほど人生経験を積んでいるようには見えない。ほかの客が政治やスポーツのようなきわどいはなしや、女がどうとかどこの店がどうとかいう狭い意味での風俗の話を振っても、ただにこにこと微笑んでいる。

(注:錦三は名古屋市内の歓楽街『にしき三丁目』のこと)


 真面目だか生臭だかわからないが、そんな坊主がひと月以上もほぼ毎日通って来るらしいものだから、常連客は次第にその坊主が気になり始めた。


 ある日、カウンター席で坊主の隣に座った男が、坊主にどこから来たのかと聞いた。言いにくければぼかしてもいいから、と男が言うと、坊主は北から来ましたとこたえた。北海道だの東北だの北陸だのと周りがちゃかしたせいか、坊主は驚いた顔を見せ、


「『ほての』から来ました」


と言った。『ほての』なんて知らないと、周りの常連客たちは笑った。一人が、手にしたスマートフォンでさっとインターネット検索をすると、名前を関した施設がいくつか出てきた。それも、場所が似たようなところに固まっていることに気付いた人がおり、住所を見た。


「『ほてい』のことかな。」


 坊主は客らの顔とその手元のスマートフォンを見比べて、たいそう関心も感心もした様子でほうほう、と言いながら頷いている。坊さんだから機械に疎いのだろうと誰も気にしていなかったが、


「ああ、そうでした。今は、布袋と、いうのでした。うっかりしました。」


と坊主が言ったので、少し離れた席にいたある男は、それが妙に心に引っかかった。




 このあたりの電車は東京などと違って、日付を過ぎるくらいには終電がないこともある。ちょうど、その布袋の駅から来たという客がいて、終電を逃す前にと言って店を出ていった。

 おまえさんも行かなくていいのかい?と誰かが尋ねるが、坊主はいつものにこにこ顔で首を二回横に振った。

 酒を飲んでいるのだからまさか車を運転して帰るわけではないだろう。そう思った店主が、


「今日はタクシー混んでるからねえ、一時間はかかるっちゅーから、ちょいと早めに言ってくれな。」


声をかけた。聞いていた男は、坊主と同乗して布袋まで行けば、心の引っかかりの理由はわかるだろうと考え、坊主が声をかけるのを待った。




 結局、坊主と男がタクシーに乗ったのは、もう夜中というより早朝のほうが近いかという時間だった。空の色が微妙に変わっていくくらいに、名鉄犬山線布袋駅のロータリーで坊主は車を降り、男は少し離れたところで降りた。

 男が注意深く坊主をつけていくと、線路に沿って道ではない場所を北上していった。その上、坊主の体はどんどん大きくなり、それにつれて透明になっていった。男は見上げるのと前を見るのを繰り返しながら走って、左手側に大仏を見た。


 男は大仏の足元に向かって走った。そして、男は柵の前で息をつきながら、巨大な透明な何かがすうっと大仏と重なっていくのを見た。


「ひみつに、しておいてくださいね」


 息を整え、布袋駅に向かおうと大仏を背にした男は、あの坊主の声を聴いたような気がして背筋が凍るのであった。

布袋駅周辺には大仏のほかに、うまい和菓子屋とかお菓子屋があるのと、駅前の通りに名前通りの布袋様がいっぱいなので、お好きな方にはお勧めです。大口屋のさんきらはいいぞ。足ははやいが。


布袋の隣の石仏いしぼとけ駅近辺にも、石仏せきぶついっぱい置けばいいのにとか思う人どれくらいいるんでしょうかね。

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